カリュブディスを討伐してから数日……。
俺は終わらない修復地獄から抜け出せないでいた。
現在、我が国では商業エリアの建築ラッシュ、リザードマン方面への街道作り、ドワルゴンへの直通トンネルなど。
どこも人手不足で修復に回せる人員が足りていないのだ。
並列存在もフル活用で、それぞれ分担で作業をこなしていた。
城は俺が担当、街の修繕はスラぼう、ブルムンド方面の街道整備はスラきちが担当している。
「せっかく綺麗に石垣を並べたんだがな……ハァ」
ゴレムスが座った形の跡が付いた三の丸を眺めて、俺は溜息がこぼれた。
一度目の次元門で破壊された庭と、二度目は変身が解けて城の石垣に乱暴に置いたせいだ。
「こう考えると、ティアが城を作れと言ったのも正解だったな」
重要施設である議事堂が壊されたら困るので、帝国に備える形として離れた場所に小さい平城を作った。
ティアに議事堂とは国の重役が会議するための場であり、王が寝泊まりする所ではないと怒られたからだ。
他にも国の威信や、防衛関連、外交の使節団を迎える場合の場所など何でも議事堂で済ませるべきではないと言われてしまった。
俺とリムルも議事堂で十分だと思ってたクチなので、この世界に合わせる配慮が足りなかったようだ。
軍事施設なら城なんて作らずに各地で基地を別途で作ればいいと思ってたからな。
議事堂が国の柱であり心臓部なので、逆に壊されてもいいような目立つ城を用意することに皆が同意する。
契約書や重要書類、資料、金、木の板に書かれたものが保管されてるので、ダミーの城は役に立つはずだ。
リムルの執務室が議事堂から城に移ることで、器物破損の損害を減らせるとリグルドが大喜びで賛成していた。
作ることは決定していたが皆が忙しく、俺が趣味も兼ねて平城をコツコツ築城していたんだ。
たまにモール族、トレント、ミルドが楽しそうに手伝ってくれていた。
日本の城だが、リムルが物凄く気に入ってくれている。
悟は日本文化が好きだからな、自分の部屋をさっさと天守閣に作って今もそこで進化中だ。
場所は中央都市リムルの北東、ヴェルドラの封印洞窟の真下辺りだな。
シュナ、シオン、ランガ、ハクロウは日本の城が好きなのか暇さえあれば出来上がりを見に来ていた。
修復作業を黙々とこなしていると日課のように親子が訪ねてくる。
俺は今、チベットスナギツネの顔をしているんだろうな……。
「いや~助かりますぞ、リヴェル様達は大活躍ですな! ミリム様、シオン殿、ランガ殿が交互に街を壊したあとにコレですからな……参りましたよ。修復作業に時間が取られて本業の仕事が進まず、経費がかさむ一方でして……わはははは」
「ドワルゴンから修復資材を買い込んでも収支は黒字のままだから大丈夫……すみません、なんでもないです」
リグルドが無用な出費ですよね? と良い笑顔で圧をかけてくる。
「警備隊の仕事も瓦礫の撤去が主な仕事でしたからね。ゴレ……カリュブディスが壊した庭園、門、近衛の詰め所の修繕を早めにお願いしますよ、リヴェル様。城は国の顔なのですから。それに街の損害の多くはミリム様なのです。担当のリムル様とリヴェル様にはしっかりと見ていていただかないと困ります!」
目に濃いクマをつくったリグルドが笑い。
息子も寝不足なのか同じくやつれた顔をして、俺にクドクドと説教をしてくる。
ゴレムスがリグルにペコペコ謝っていたが、悪いのは全部俺だしな。
「うん、ごめんね。全部俺がやっとくから寝ようかリグルド。睡眠不足でイライラしてるんだよ」
「いえいえ、イライラなどしておりません。ええ、例え修繕したばかりのところを目の前で壊されても……私は一切怒ってなどいませんよ。ははは」
俺は血管が浮き出たリグルドに、無言でラリホーの杖を取り出して振った。
「あっ! 父さんを寝かせちゃダメじゃないですか! リムル様が寝込んでいますので予算を決める者がいませんよ!」
「はいはい、お前も徹夜続きで疲れてるし、煩いからついでに寝ような」
俺は息子の方にも杖を振ってうんざりする。
リムルが進化中で寝ているために、毎日のように二人から詰められるのは理不尽すぎやしませんかね?
「あらあら、よいのですか? 重役のお二人を寝かせてしまって」
「芋……トレイニーも森に帰らなくていいのか? 大森林もカリュブディスの攻撃でかなりの火災被害が出ているはずだぞ?」
あとコルヌが落ちたせいで、大森林にも小さいクレーターができてるからな。
「優秀な妹達がおりますので、私はリヴェル様のお手伝いをしますわ」
そう言ってしゃがみ込み、俺を抱きしめて嬉しそうに笑う芋は邪魔でしかない。
リグルドとリグルは死んだように眠っているので、近くで作業をしているゴブリン達に預ける。
「妹に仕事押し付けて逃げてきたらあとが怖いぞ? それに抱き着くなよ、作業の邪魔だ。手伝うなら庭の修復してくれよトレイニー」
「つれない方……この程度の庭なら私にお任せですわ!」
ゴレムスが寝ころんで陥没した場所が元に戻るが、なぜか大地から草花が咲き誇る。
「こらこらこら! 均すのは地面だけでいいの! なんで草や花まで生やすんだよ!」
せめて芝生にしてくれよ……あーもう滅茶苦茶だよ。
トレイニーの悲鳴をバックミュージックに、地面の草花を魔法で焼き払って除去していく。
「ほら、大学芋やるから泣くなよ。あっちの庭園なら好きに生やしていいから」
「酷いですわ! モグモグ……美味しぃれふけど! 草花も生きているんですよ!」
口に芋を詰め込んだまま、文句を言って庭園に歩いて行くトレイニー。
石畳の道を作るためにカットした石のタイルを並べていく。
「近衛の詰め所って外に出さずに中に入れた方がいいな。リムルが城に常駐しないからリグルやベニマルが外でいいと言ってたせいでゴレムスに壊されたし」
「そもそも近衛兵ってゴブタ隊、ゴブエモン隊、ガビル隊だろ? 城に常駐してるほどうちは暇じゃないから外に作ったんだよ」
数日は魔素切れで寝込んでいたベニマルが、俺の独り言を拾いながら気だるげに答える。
「まだ本調子じゃない感じだな? 軍に被害も出てないし、ベニマルは休んでたらいいのに。今は人手不足で兼任ばっかだけど、そのうち近衛兵は正式に作るよ」
「いや、もう動けるから大丈夫だ。この力も試してみたいからな」
そう言って刀に紅蓮を宿らせて、一振りするだけで物凄い熱風が顔に当たる。
万象一切灰燼と為せとか言ってくれねーかな?
「今まで炎操作でも刀に炎を宿らせたりはできなかったもんな」
「いや、リムル様の属性剣や……あの野郎の拳に纏う炎を見て使えるようにはなっていた。流石に加護を得た今ではお遊び程度の炎だったがな」
「へーそうなんだ。はい、魔法の聖水。万全じゃないんだからほどほどにな」
「わーってるよ。お前も補修頑張れよ」
手を軽く振って去っていくベニマルを見送りながら、修繕の終わった門を設置する。
近衛兵の詰め所の瓦礫を撤去してっと……やっぱり見栄えも悪いし城の中に作ろう。
だけど魔王じゃなく勇者になってしまったリムルに、ジュラの森に住む魔物が訪ねてきてくれるんだろうか?
ジュラに住む魔物達がリムルの配下に加わる過程で、様々な種族から近衛兵を取り立てる予定だったんだが……うーむ。
俺が難しい顔で悩んでいるとゴブリンやリザードマン達が怯えだした。
「どうしたんだ? なんで怯えてるんだ?」
「いい気味っすよ! でも、元はと言えばリヴェル様が悪いんっすからね」
「フン……あいつらにもいい薬だろう」
丁度、資材のタイルの追加を運んできたゴブタとゴブエモンがしかめっ面で言う。
何のことかわからずに二人に尋ねると、俺はリザードマンとゴブリンの一部から舐められていたらしい。
リムルの金魚の糞とか、旨く取り入ったずる賢い兄貴だとか、評価は散々だ。
「あー竜に変身してビビっちゃったのか……悩んでいる姿も制裁されると思ったのか?」
「オイラからしっかり言い聞かせておくっすよ! 今までリヴェル様が馬鹿にされても我慢してたっすけど、これからはビシッと言ってやるっす!」
「実力を隠して、陰で支える姿には感銘を受けていましたが……やはり俺もリヴェル様を侮る奴らを見るのは気分がいいものではありませんよ」
ベニマルとシオンには面白いから最後まで隠すつもりだけど、他の配下は放置してたな。
「それはすまなかったな、ゴブタ、ゴブエモン」
ほんとっすよ! と怒るゴブタと苦笑いのゴブエモン。
「オーク達は今まで俺に変な態度で接してこなかったんだがな? だから他の配下まで気にしてなかったわ」
「オークロードのゲルドさんにリヴェル様は友達になって最期を看取ったっすから! オーク達は一族の罪も許されて感謝と尊敬しかリヴェル様には持ってないっすよ!」
「それにリザードマンとゴブリンは新しく入ってきた奴が多いですからね」
こういう時に魔素が漏れない体質が憎いな……下手に漏らすと魔物が生まれて大惨事になっちゃうんだよね。
「俺も舐められないようには注意するよ」
ゴブタは怯えた者達の所に、ゴブエモンは残りの資材を取りに戻った。
『ドーモ、ハンゾウです。すみませんリヴェル様、街に魔人が紛れ込んでいたので確保したんですが……』
『ドーモ、リヴェルです。ん? また魔人? カリオンの次だからフレイかクレイマンじゃないかな? 所属は聞けた?』
またもハンゾウが魔人を見つけたらしい。
『いえ、商人として街に入ってきたんです。商売もせずに何かを探っている様子でしたので、話を聞こうと尋問をしたところ、急に逃げ出しちゃいまして……相手に魔法を使われそうになったので気絶させちゃいました』
『仕方ないよ、色の表示は赤だったの?』
『いえ、中立の黄色です』
『わかった、すぐに行くよ』
商人ならフレイの配下って線が濃厚だな? ハーピィさんかな? セイレーンさんかな? 楽しみだなぁ~。
『父上、帰ってきたよ!』
『お帰りベル、危なくなかったか? ミリム達も帰ってきてるの?』
『うん、モンスターもいなかったから平気。ねーねも皆も一緒に帰ってきたよ』
ハヤテ、ピリノ、ミリム、カバル、ギド、エレン、ベル、フューズさんは竜の都に行っていた。
冒険者組は共同で遠征任務の討伐以来のレクチャーも兼ねて、カバル達に依頼を出した。
ターゲットは死霊系の討ち漏らしたドラクエモンスターがいないか、枯れていた川辺を捜索してもらう事だ。
フューズさんはペルペ爺の村でギルドを作りたい要望がでたらしく、ヘルメス君が俺にノウハウが欲しいとアドバイスを求めてきたので、家で遊んでるフューズさんを向かわせたって訳。
『ちょっとパパは仕事で手が離せないから、おやつはゴブイチのところかシュナに作ってもらってくれるかな?』
『うん、わかった! おしごと頑張ってね父上』
俺はゴブタに少し持ち場を離れると告げて、ハンゾウの所へ向かう。
「あっ! ここにいたんですか閣下。いきなり次元門で魔王の領地に放り込むなんて酷いじゃないですか!」
「酷いのはブルムンドでジーギスさんに何日も代理をさせてるフューズさんでしょ? もう激おこだから送るよ?」
俺は問答無用で次元門にフューズさんを放り込んでブルムンドへ送った。
少しは休ませろ! 閣下には人の心はないのかっーー! と叫んでいたが10日も休んでたんだからキリキリ働こうね。
「リヴェル様~こっちです」
ハンゾウが商業エリアの警備隊詰め所前で手を振っていた。
俺は中に入ると、まだ気絶から目を覚ましていない女性が寝ていた。
「なんだよハーピィさんじゃないじゃん! 鬼太郎の嫁さんかよ……」
「鬼太郎? 知り合い何ですかリヴェル様?」
「あークレイマンの配下だよハンゾウ。お前達のせいで俺が修復作業が忙しくてベルと遊べないんだぞ! この! この!」
俺は寝ているミュウランの額に腹いせに肉と書く。
そういやどういう経緯で警備隊に加わったんだっけミュウランは?
「う~ん……ハッ!?」
「おっ! 起きたかミュウラン? 悪いが色々喋ってもらうぞ?」
「子供? 違う……この子も鬼人だわ。えっ! なぜ私の名前を!?」
「ククク……我の解析鑑定の前では全てが丸裸よ。でもスリーサイズは冥ちゃんが教えてくれないんだがね」
警戒して辺りを見回していたミュウランだが、ハンゾウと目が合うと、逃げるのは不可能と判断したのか項垂れる。
「貴方はクレイマンの配下だそうですけど、カリュブディスをけしかけるという事は敵対行動です。今ここで殺されても文句は言えませんよ?」
「もう私の素性は完全にバレてるのね……。クレイマン様がカリュブディスの研究をしている事は知っていましたが、私が潜入してるところに投入するとは思えません! それに……」
「そうか? 配下を使い捨てにするクレイマンらしいけどな?」
「そんな事をするわけがないでしょ!!」
物凄い剣幕で怒るミュウランに違和感を覚えた俺は、心臓がちゃんとあるのか確認して見る。
すると本物の心臓がちゃんとそこにあった。
これはユウキ君がいない影響か? セシリアが封印されていたせいかもな。
「だが実際カリュブディスを復活させて、俺達の街に被害を出したじゃないか。実にクレイマンらしい作戦だったぞ? リムルと分断されてる間に最大戦力で本拠地を落とすなんて実に嫌らしい奴だ……」
魔王計画を潰したリムルを殺す事が目的じゃないなら、勢力拡大の阻止が狙いか?
それにカリュブディスの進行中に合わせてミュウランが破壊工作をしていないのは変だな? 本当に知らされていなかったのか?
「うぐっ……ミリム様がやっと街から離れたと思ったら、カリュブディスが暴れるし、大天使は現れるしでなんなの! この異常な街は! きっとカリュブディスをぶつけるしか方法がなかったんだわ! うぅ~~私がどれだけ恐怖で足がすくみながらも何日もチャンスを待ったと思ってるんですか! ミリム様や小さい女の子まで私が覗いたら手を振ってくるし……もうやだぁ~この魔境」
涙目で床をバンバンと叩くミュウランを見る限り、演技とは思えないな。
「竜眼持ちの娘二人に遠見の魔法で覗くからだろ? 魔力に敏感なんだから望遠鏡とかで覗かないと手を振って、ここですとアピールしてるようなもんだぞ」
俺の言葉に完全に泣き崩れたミュウランは、竜人が二人なんて聞いてませんよぅクレイマン様~と泣きじゃくる。
竜魔人より、超時空要塞サイズの俺の方がやばいと思うんだが……見てなかったのかな?
「あと、大天使じゃなくて始原の七天使な? ちなみに原初もいるぞ」
ミュウランは泡を吹いて気絶した。
「もう! 何やってるんですかリヴェル様! 情報を引き出さないといけないのに」
「すまん、ミュウランを揶揄うのが面白くてつい」
ハンゾウが容赦なくミュウランにビンタしていると、ティアが入ってきた。
「リヴェル様! セシリア様の魂の修復が完了したんだって! 急いできてよ!」
「ちょ!? 痛いです! 起きましたから、止めてください! ああぁっ!!? ティア様!!」
両頬を赤く晴らし、額に肉と書かれたミュウランが急いでティアに抱き着く。
だが、それを見たティアが、短く噴き出したあとに大笑いする。
「ブフォ! アハハハハハ!! 苦しい……なにさ、アンタその顔!! うふふ、あはははは」
「笑うなんて酷いですよぉ~! 私が必死にティア様を探していたのに!!」
笑いを必死に噛み殺し、目じりの涙を拭きながらごめん、ごめんと謝る。
ティアは続けてミュウランの頬に手を当て回復魔法を唱える。
「この悪鬼に捕まって酷い目にあわされていませんか!? 私がどれだけ心配したと! それに無事でよかったです、ティア様!」
「誰が悪鬼羅刹だこの野郎! 肉の上に駄を足してやろうか!」
「えーっとね、悪いんだけどさ……アタイ、昔の記憶しかないのよ。貴方の事を覚えてないの、ごめんね?」
一瞬何を言われたのか理解できないミュウランが、小さくポツリと呟く。
「……エッ?」
部屋の中に沈黙が訪れ、罰が悪そうにティアが答える。
「アタイ一度死んじゃってさぁ、壊れた魂だけになったの。その魂を修復してくれたのがここにいるリヴェル様。肉体も与えてもらって、生前の記憶が戻ってるのが今のアタイってわけよ。わかるかな?」
「ティア様が死んで生き返ったけど、記憶が生前っていうのがわからないです……」
「あーつまりだな、カザリームがティアを生み出した時は死体からデスマンを作ったんだよ。で、ティアは戦闘で肉体を失って魂だけになっていたんだが、心核はギリギリで残ってたけど外側の魂がボロボロだったんだ。それを俺が修復したら生前の生きていた時の記憶が戻って、クレイマンの所にいた時の記憶は綺麗さっぱり消えちゃってるって事」
ミュウランは説明を聞いたあとに驚愕し、キッと俺を睨む。
「私達の思い出まで消すなんてあんまりじゃないですか!」
「知らんがな」
「リヴェル様……言い方。まーアタイも今の状況が酷いとは思わないから、ごめんよ」
「こんな事、クレイマン様にどう伝えれば……」
俺は泣いてるミュウランに魂を修復しなかったら、ティアがこの世から消えていた事。
記憶を失っても別人になったわけじゃないんだから、お前の思い出を教えたらいいじゃないかと説得する。
「リヴェル様って女の涙に弱すぎないかい? 悪い女に騙されなきゃいいけどねぇ……あっ! 早くセシリア様のところにいくよ!」
慌てて俺の手を引っ張って行くティアに、待ったの声が掛かる。
「待ってください、ティア様! カザリーム様もここにいるはずなんです! お探ししないと!」
「アンタもなのかい……カザリームじゃなくてセ・シ・リ・ア様だよ! あと名前」
「えっ?」
「あなたの名前を教えてって言ってるの!」
「あっ! ふふふ、ミュウランです」
何かを思い出したかのように、笑顔になるミュウラン。
「何がおかしいのさ……ミュウランは悪いけどここで少し待ってて、流石に姫様の所には連れていけないよ」
「わかりました……お待ちしております」
ハンゾウは俺の顔を見てくるのでコクリと俺は頷いた。
「さあ、キリキリ吐くんだ」
「えええぇー!! 他に何をですかぁ~!」
急に糸でミュウランを縛ったドSの甥っ子を慌てて止める。
「違うよ!! もうミュウランは大丈夫って意味でしょ! やめてよハンゾウ!」
ハクロウや、ソウエイは更生施設に出張でいないし、ベニマルも調子悪いからなぁ~。
ミュウランがハンゾウは嫌だと激しく首を横に振るので、誰かと交代させないと……簡単に制圧できる力は欲しいよな。
「もう! 早くしてよね! リヴェル様!」
「わかってるよ! あっ……」
やばい魔王様と目が合ってしまった。
「ククク……我が見逃してやってたというのに、あっさり捕まるとは情けない奴め。確か、クレイマンのところにいたミュウミュウだったか?」
「なにこの既視感のあるやり取りは!? 確か娘って……親子!? えっ!? ミリム様! 私はミュウランです!!」
「ミリム、しばらくの間ミュウランの面倒見てくれる? 終わったらドーナツ揚げてあげるから」
「なに!? ワタシに全て任せておくのだ父上!」
ドーナツと聞いてやってきたコルヌとレインが、いそいそとテーブル席に座ってトランプを遊び始めた。
私達も監視をするから、ご褒美のドーナツが欲しいなとチラチラと俺を見てくる。
突然の父上発言と、未知の遭遇に理解が追い付かないミュウランは頭がパンクした。
「いやあああああぁぁーーー! こんな化け物の巣窟に私を置いて行かないでティア様ーーー!!」
ミュウランの心地よい絶叫を聞きながら、俺達は詰め所の外に出る。
路地裏で次元門を開くと、地下室の研究室にでた。
「遅いぞリヴェル! すまんなティア、助かったぞ」
「えへへ、早くリア様のお顔がみたいですからね!」
「へいへい、悪うございましたよ。で? 結局ザオリクでの復活は無理だし、呪術でホムンクルスに乗り移るでいいのか?」
少し間があったが、嫌と返事が返る。
「呪術だと魂の劣化を防げない、代償もそれなりにある。元のハイエルフの体には戻れんがお前のソウルノアで復活することにする」
そりゃ早く肉体が欲しいよな……なんせ元の姿だし。
「まあ、ハイエルフは進化だからお前の努力次第でってのもあると思うけどね。一応は理論値はクリアしたけど、ザオリクがないと五分五分ってとこだ。失敗は覚悟してくれよ? ティア、この容姿であってるか?」
俺が取り出したカプセルの中を開けて、ティアが楽しげに言う。
「へー凄いね。水鏡の映像からここまで再現するなんて流石はリヴェル様。でも、この胸は大きすぎじゃない? えい! この!」
「やめなさいティア! 姿の確認だけでよい!」
「俺がどんなに盛っても魂の同調が始まれば、元に戻るんだからいじってねーよ」
「そういえば、そうだったね……あはは。うん、バッチリ! 完璧に私の知ってる姫様だよ!」
俺はサマタマをソウルノアにセットしてスイッチを入れる。
「あとは魔素を注いで完了っと! サリオンに素材を貰いに行かないと全部使い切っちまったな……ヤレヤレだぜ」
だが機械が変な音を立てて、ガタガタと激しく球体の装置が動いて悲鳴を上げる。
「なんだ!? 冥ちゃん! 何が起きたんだ?」
安全装置が作動してないってことは、どこでエラーを吐いたんだ!?
「ちょっとリヴェル! 姫様は大丈夫なんでしょうね!!」
《報告。素体の魂の器の限界値を超える容量の魂ですので、ソウル・ノアの調整装置が壊れそうです。マスター》
「ああーやっぱりホムンクルスの肉体に強大なリアの魂があわせてくれないのか……シルっちの髪を使って因子は完璧にクリアしてたんだけどな?」
「ちょっと!? 本当に大丈夫なんでしょうね! 姫様にもしもの事があったらアタイは許さないよ!」
俺は道具からルビーの涙を取り出してホムンクルスの胸の中心、胸骨の辺りに埋め込む。
「大丈夫だってティア! 失敗と判断した場合は自動でオーバーロードを引き起こして、機械が壊れて止まる仕組みだから! エルフと親和性も高いし、これで魂の容量不足も解消されるでしょ……どう? 冥ちゃん」
《肯定。一定水準の基準をクリア、安定しています。的確な判断ですねマスター。これなら適合性も高く、魂に負荷もありません》
カプセルの光が収まり、中が開くとブワッと煙が上がる。
「成功……したのか? ティア、私の見た目はどうですか?」
「うわあああぁーーーん! リア様~~!」
「わっぷ!? こら! もう、ふふ。変わらないわね……ティア。ちょっと!! 胸を揉まないで頂戴!?」
「リア様おめでとうございますぅ~! えっ! 胸のサイズが変わっていないだとぉ!? 憎い、何ですかこの脂肪の塊は!!」
おっふ……おじさんもユリユリは大好物ですよ。
ティアがリアに飛びついて抱き合ったあと、百合を始めたので静かに見守る。
結局、胸には小さいルビーが埋まった状態でハイエルフには成れたようだ。
それに肌もダークエルフじゃないな? リーフの方だ、カザリームにされた時にはガイアの影響の前だったのかもな。
「鏡を出してください、リヴェル!」
「あいよ、姫様」
「セシルかリアと呼びなさい! 私はもう姫ではないのですから」
俺が鏡を出すと嬉しそうに身体を見回すが、スーツ姿が気に入らないのか不機嫌になる。
「なんですか? この服は? 他の物を用意しなさいリヴェル」
「えっ!? あなたの普段着じゃないですか……痛っ! 嘘じゃないのに」
俺はシュナやドルドが作った服を並べて出していく。
「リア様、リヴェルが作った服も可愛いですよ?」
「そうなの? じゃ―早くよこしなさいリヴェル」
「いや、服選びならあとにしてくれよ、ミュウランが壊れちゃうよ? カザリームとして早く会ってあげてくれよ」
「……」
「……ん?」
「……誰?」
リアの沈黙のあとの答えに、ミュウランの絶叫が地下まで鳴り響いた気がした。