「イ、イリヤスフィール」
「その様子だと、覚えてくれているみたいね」
「イリヤ」
そこら辺にしておけ。久郎は、匙を落としたまま血の気を引かせたセイバーを冷やかに見つめるイリヤを嗜める。
「むー、分かってるわよ。今更過ぎたことを責めるような、はしたない真似はしないし。約束通り、この対談が終わるまでは、バーサーカーを嗾けることもしないわ」
セイバーに対して棘のある自己紹介を終えたイリヤは、すぐに自分の席に座り写真の付いた
何故、イリヤが潔く身を引いたのか。その理由は、このレストランに来るまでの緊張感溢れるドライブの間に、イリヤは、久郎と話し合い。霊地の管理者とその地に居を構える当主との会合に、同席するのなら遠坂と衛宮が会合の終了を宣言するまで、聖杯戦争に準ずる戦闘行為の禁止を条件に参加することを承諾したからだ。
無論イリヤは、最初聖杯戦争間のマスター同士の同盟か何らかの取引が主体かと思っていたのだが、土地の利用に関しての確認をしに行くだけだということを聞き。久郎が暢気に凛の招集に応えて会合に行くこと自体、理解が出来なかった。聖杯戦争が始まった以上、どういった理由であれ目の前の敵を
激しく加速と急カーブを繰り返す運転のさ中、久郎はイリヤに自分がランサーに襲われて半ば強制的に聖杯戦争に参加していることを伝え、自分の目的は勝ち残る事ではなく、生き残ることであって今回の会合に参加するのは聖杯戦争が終了した後も参加する前と同じ生活をする為に必要な事だということを説明した。
イリヤの様に世間体を気にしない程の名門となると、魔術師が住居を構えるためには土地の利用する際の管理者とのいざこざを気にせずに権力で黙らせそれでも叶わないのなら戦力で打って出てしまう。
それで、冬木の管理が出来るのであれば問題は無いのだが、魔術師が保有する魔術回路の本数はその地の霊脈との相性に左右される場合があり、魔術師の血脈がその土地の地脈に馴染まなければその末路は遅かれ早かれ悲惨なものと成る。
各々の霊地を魔術協会より管理を賜った魔術師というのは一族総出で、それ相応の責任と義務を負ってその土地を外来の魔術師から守る役目を負う。
久郎は、そういった魔術師同士の小難しい
「悪かったなセイバー。遠坂の召喚状を確認した後に、イリヤと色々話し合ってやっと、会合の間は何もしないって取り付けられたんだ」
ああ、後。俺もライダーを仕向けたりはしないぞ。そう付け加えられた言葉が、自分に向けられていることに最初、セイバーは気付けなかった
「…………!? あ、……いえ。前回、
久郎に気を遣われたセイバーは、彼が嘗て一度も肩を並べることも、お互いの背中を預けることもしないまま、すれ違った考えを持ったまま契約した衛宮切嗣の後継であることに驚きを隠せなかった。
第四次聖杯戦争時のマスターとサーヴァントであった、セイバーと衛宮切嗣の関係はアイリスフィール曰く、己の理想と現実のジレンマ故に、人々に戦いという名の悲劇に神聖性を生み出す『英霊』の存在そのものに嫌悪する夫と誇りを持って人である前に騎士として戦い、剣を握るセイバーとの相性は想像以上に壊滅的なものだった。
また、セイバーの己の技量から『勝利の可能性を紡ぎ出す考え』と、切嗣の敵に『負けないように可能性を潰す考え方』の二つの意見が、両者の関係をより険悪なものとしていた。
それの決定打が、誇り高い騎士であったランサーとの一騎打ちをしていたセイバーの戦闘に、切嗣が介入し、彼らの騎士道を度外視した卑劣でありながらも、確実で効率的な手段を用いて脱落させたことだった。
セイバーは、敵に呪詛怨念を掛けながら悪霊と化したランサーが消滅するのを目の当たりにし、切嗣の策に嵌まり虫の息で殺してくれと懇願するランサーのマスターを自身の宝剣で以て
『これほどまで血生臭い手段を用いてまで聖杯に縋る貴様の願いはなんだ!?』
アイリスフィールは言った。彼は人類全てを救うために聖杯を求めている。
セイバーとて、生前は一国を治める王として冷酷な選択を迫まれたことはあった。綺麗事だけで問題を片づけることが不可能だということも分かっていた。
だが、その時の切嗣の戦局は、人の営みから外れた行き過ぎた冷徹な修羅そのものであるとしか思えない。
『悪行で以て成される善行など、在りはしない』
本来、万軍の代行として呼ばれた
騎士として決着を付けることを望んでいた、ランサーとの戦いに横槍を入れたことを含め咎めながらセイバーは切嗣を問い詰め続ける。
それでもなおセイバーを無視して、切嗣は彼女の言葉に答えることは無く。二人の関係はより深く溝を広げ、分厚い壁をその間に築き上げる。
ただの
切嗣は、彼女の顔を見ずに呆れたように咥えていた煙草を口から離して紫煙を吐き、セイバーにしっかり説明をするべきだと諭すアイリスフィールにのみ、その意識を向けて彼自身の披歴と血と硝煙に塗れた体験を交えて騎士王の考えを真っ向から嘲笑った。
人々の醜く争い合う戦場を見て来た切嗣の言い分は、その争いを正当化する『英雄』の存在が敗北した者の苦悩や絶望を掻き消しているという。戦いそのものに激しい憎しみを感じているといったもの。
『人間の本質は石器時代から一歩も前に進んじゃいない』
そうセイバーに視線を合わせようとも、直接語りかけることもせずに、殴り捨てるように言い放った。
騎士では世界を救えない。最小限の犠牲でもって、己の手を汚して、その先に救いがあるのならこの世の全ての悪を背負うことになろうとも構わない。切嗣は、御すべきサーヴァントと令呪を通した契約の
その冷徹下劣危険外道の爆弾悪漢魔術師殺しの養子である久郎が自分の名を呼び、朗らかに笑いかけながら謝罪する姿に、セイバーは感動を覚えた。学園内で霊体化させているライダーを連れていたところから、サーヴァントとのコミュニケーションをある程度行う人物であることは、分かっていた。だがしかし、こうも一般的な良識ある人柄であることを知ると非常に遣る瀬無くなった。
セイバーはこの会合を始める前に、マスターである凛に絶対に気を抜かずに、いつ背中を刺されるか分からない相手と話し合うぐらいの気持ちで参加するように伝えたことを後悔してしまう。
思えば、親が罪人だからと言って、その子供が親と同じように罪を犯す道理などなく、同じように、聖人の子供だからとて、善行を行うと裏付けることなど出来ない。そんなことは、故郷を掛けて身内同士で争うこととなった
セイバーは、メニュー表を覗き込むイリヤに注文が確定したかどうかを聞く姿を見て、嘗て、アインツベルンの森で
「サラダバーと、季節の根菜グラッセを添えたラム肉のソテーをミディアムレアで一つ。……遠坂は、何か追加で注文するものはあるか?」
「いいえ、衛宮くん。私達はこの店に来てすぐに注文は済ませているから平気よ。……それより、料理が来るまでちょっとお互いのことについて、キチンと確認を済ませましょう」
セイバーにイリヤの苦言について謝罪を済ませた久郎は、店員を呼び止めて、イリヤと自分の注文を済ませた。
久郎を見る凛は、予想以上に好ましくない状況に冷や汗を垂らした。先程、自分のサーヴァントに謝罪した久郎を見た凛は、悪意の感じられないその所作故に厄介な相手だと考えを改める。実質、セイバーが彼の謝罪を受け入れてしまった時点で、この会合が霊地の管理者とその利用者の関係でなく、本来気兼ねるべき
バーサーカーとライダー、この二体を敵に回したら、セイバー一人では勝負にならない。バーサーカーの正体は、イリヤが自信満々に名乗り上げたお陰でその真名は判明していた。ギリシャ神話の大英雄、半神ヘラクレス、その最後は自身の得物でもある、弓矢に塗るヒュドラの毒によるもの。
そして、その弱点を突く方法は大きく分けて二つ、自分でヒュドラの毒そのものを使うか、ヘラクレスの武装を逆に利用するかの方法が上げられる。
しかし、これらの方法は事実上不可能に近い。神代の時代ならいざしらず、ヒュドラほどの竜種ないし幻想種の殆んどは、自分の存在を確立させるために世界の裏側に当たる魔界にその住処を移しているため、自然とその種から採取される素材も、希少な物となる。
二つ目の方法も、肝心のヘラクレスが弓矢の使えない理性の飛んだ
厳しい状況であった。収獲といえば、久郎の呼び出したセイバーと同等なステータスを持つサーヴァントのクラスがライダーということが判明したぐらいで、肝心の真名は判らず仕舞い。
「? いや、俺はただ遠坂が何に対してそこまで警戒しているのかが分からないんだが」
そんな、薄氷の上に立たされているように神経を張っている凛のことなど露知らず、久郎は先日より連続して攻撃的な姿勢を崩さないセイバー陣営に対する疑問をぶつけた。
「この状況からどうしてそう、いけしゃあしゃあと惚けられるのかしら。単純に、マスターとサーヴァントの二組を相手取かもしれない、こっちの身にも成りなさいっての!」
小さなの声であったが、凛の怒りのボルテージが上昇しているということが伝わり、久郎は苦笑いをしながら来店時に置かれたお冷のグラスを口に傾ける。
と、久郎の隣の席に座る、メニュー表の他の料理の写真を見ていたイリヤが、開いたメニュー表で笑っている口元を覆い隠して凛を流し目に見た後、小馬鹿にするように目を細める。
「リンだって同じようなものじゃない。セイバーをずうっと現界させて、対談の席に座らせているんだから」
「それは!」
反論か何か言いかける凛を制して、イリヤは続ける。
「物理保護の
「……悪かったはわね。貴方達の父親である、かの悪名高き魔術師殺しの話は、実際目の当たりにしている
本人を前にして言うことじゃない。久郎は、イリヤに遊ばれている同級生の赤裸々な発言に若干心を傷めるも、当時のセイバーの心情を察して仕方のないことだと、諦める。偶然とはいえ、父親の矛盾した行動と理想の板挟みを知ってしまった者の一人として、ここは黙っているのが吉だと反論も否定もしないでおく。
この会合が終わったら、凛が魔術協会に久郎のことを報告する前に事情を話すか何らかの口止めをする必要があることを含めため息を漏らした。
「安心しろよ、遠坂。俺は確かに
「全然安心出来ないフォローをありがとう衛宮くん。それって理由があれば、誰でも殺すっていう風に聞こえるんだけど?」
「そりゃ、まあ。……俺だって自己防衛ぐらいは認めて欲しいからな。後々で話が違うと言われたら此方も困るし」
そして、久郎に名を呼ばれ余韻に浸っていたセイバーが、このままでは互いに
「……リン。なんでしたら、あなた方のみで対談するためにイリヤスフィールと我々サーヴァントを別の席へと外せば宜しいのではないですか?」
「あら、いいわね。この対談はそもそも、あくまでリンとクロウが話し合うためのものだし、過去に因縁のある私たちが一緒だと、両者が意識せずとも牽制になっちゃうもの。霊体化しているサーヴァントも外せば、二人も円滑に話し合えるから、そうすべきね。
じゃあクロウ、少し席を外すけど出来るだけ早くお話しを済ませてね。付いてきなさい、バーサーカー」
イリヤは、久郎が自分を置いて行って、凛と二人きりなる状況が面白くないのが気に入らなかったため、こうして同じ場所で二人の対談が終わるのを待つ分には不満はないようだ。
といっても、久郎もこういった話は出来るだけ早めに済ませて、普通に食事を楽しみたいと考えていたのでセイバーの提案は渡りに船であった。
「はいはい、話の進み具合に依るけど、俺も出来るだけ急ぐから大人しくしてくれよ。ライダーも今は、遠坂よりも外への警戒をしてくれ」
義兄妹二人が話を進める傍らで、遠坂の屋敷での『衛宮』の名に対し嫌悪にも似た警戒をしていたセイバーの代わり様に凛が慌てる。
「ちょっと、セイバー!?」
「リン、これは私の直感なのですが、
そう言い。店員に分かれて席を取ると告げて、セイバーはイリヤと霊体化しているライダー、バーサーカーを連れて少し離れた二人掛けのテーブルへ移動する。
セイバーが、何かあればすぐさま駆けつけられる場所を選んで座ったところから完全に警戒は解いた訳ではないようだ。しかし、彼女の難敵に向ける厳しい視線が、見違えるほど柔らかく久方振りの親類に出会ったかのような朗らかさが垣間見えるのが気に掛かった。
そんなセイバーの変わりように、凛は自分と同じようにその変わりように驚いている久郎に矛先を向ける。
「衛宮くん、貴方……セイバーに何をしたの?」
そう聞いた後、凛は自分の愚問に意味が無いことに気付く。セイバーの保有する対魔力スキルはランクにして最高のAクラス。暗示による意識操作。より高度な大儀式、儀礼呪法どころか、物理的攻撃以外の魔術による一切の影響を受けないといっても過言ではない。絶対命令権の令呪の一画すら対抗しうるセイバーの対魔力の前に、現代の魔術師では逆立ちしても彼女の精神に干渉することは適わないのだから。
「え? イリヤのキツイ言葉を掛けて来たことについて、代わりに謝ったくらいだけど……」
案の定、久郎も彼女の態度の軟化に驚きを隠せず、特に何もしていないことを凛に伝える。互いに、聖杯戦争のマスターとして、サーヴァントの力量を見極める透視能力を聖杯より賜っているため、三騎士の中でも、取り分け高いセイバーの
「ごめんなさい、今のは忘れて頂戴」
凛は、自分が思った以上に久郎に対し緊張していることを認め、失言を取り消すよう頼み。今回の本題へと趣旨を進めることにする。
「まあ。私も今回の会合にアンタたちがやってくるとは、思わなかったし……。他のマスターを連れて来たのは予想外だったけど、其れなりの礼節を持って挨拶をしてくれたことは事実だから、そっちが妙なことをしなれば、私も何もしないからそのつもりで居なさいよ」
「あ、ぁああ。分かった、それじゃあ早速。今回、俺を会合という形で正式に呼びつけたのは土地の利用についての確認と言った所か?」
久郎は簡易的な認識阻害の結界を張りながら猫被りを捨てて、辛辣に睨む凛に少々粟立てながら対談へと取り掛かるように促す。
「そうねぇ、衛宮くん。まずは、この霊地冬木の管理人である遠坂に何の連絡も無しに三年間も、のうのうと工房を構えていたことについてオハナシしましょうか」
「あ、それについてなんだけどさ」
最初のライダーを召喚した時と
「あ? しらばっくれようとしても無駄よ」
更に続けて、凛は久郎に追い打ちを掛ける。
「これまで未払いの上納金と、許可無しで入居したこと、滞在についての
金に憑りついた亡者が金品を置いて裸足で逃げ出して行くような剣幕に晒されながらも久郎は、凛が落ち着くまで余計な口を挟まずに沈黙を通し、適当な相槌を打ちながら頃合いを見計らい続けた。
その説明の長さに改めて思うのが、今代の遠坂は時計塔内で見かける他家の魔術師の御曹司達とは異なる、人間臭さであった。本来、魔術師というのはその同属に対し積極的に関わることは避けるものだ。
頭首となれば、ある程度一般社会に表向きの顔として一通りの処世術を身に付けるが、今の彼女の言葉には、裏がなく、ただ親切に説明をしていたのだ。嘘偽りなく、正しい話の内容を聞く久郎は相手を魔術師と知って、善意を向けてくる凛の口を挟むのは不躾であると。
凛の懇切丁寧な魔術師としての礼節や管理者への挨拶義務などの説明が一区切りつくまで喋らせておくことにした。
「―――だから衛宮くんは、魔術師として居続けるためには何を措いても
「ああ、遠坂。勿論其処ら辺はきちんと理解しているし、何より『衛宮久郎』はこの冬木の地で工房を構える許可を遠坂を通さずに既に得ている」
「どういうこと? 魔術師がこの冬木に居着くためには、魔術協会から地脈の管理を一任された遠坂の許可が必須のなのよ。そんなの」
有り得ない。と続けようとした凛に、久郎はイリヤの運転に寿命を削られながらもバーサーカーを迎えにアインツベルンの森で減速した車内の中で賢者の石を使って急遽作り上げた、三年前に作成した居住許可書類と遠坂家頭首に宛てた手紙の複製を出す。
「だから、その霊地の管理を任せる魔術協会で直接許可を取って仕舞えば問題ないってことだろ?」
「……見させて貰うわ」
凛は、慎重に用紙と羊皮紙を受け取り、調べ始める。
一応、久郎の言い分には筋が通っていた。
「確かに、遠坂家が所属する。ロンドンを中心とした
「そうだろうな」
偽物ではない。
少なくとも、凛の目には差し出された羊皮紙が確かに冬木への居住を認証したモノだった。
それもそのはず、物理的にそれらはオリジナルと寸分違わず全く同じものなのだから当然である。
久郎にしてみれば、当時書き残したモノと全く同じ羊皮紙を複製したものでも十分であった。要は、凛にそれが本物であると認めさせればいいのだから。
しかし、二人共だからこそ、納得が行かなかった。
凛は、この手の書類の類は過去のを含めて自分の目で一枚残らず確認し、遠坂邸の中にある工房内で
久郎は、納得してない凛の様子に煩わしさを覚える。この用紙と契約書と共に送った粗品を所持している可能性がある凛が、この手紙を見ていない筈がない。遠坂邸に送り付けたそれらを見ていないことと、今の状況が一致しない。
「なあ、遠坂」
「何よ」
難しい顔をしたまま呻り続ける凛に、久郎が思い切ってその矛盾を解消すべくその根本を突いた。
「何を触媒に、セイバーを召喚したんだ?」
「今、この場とその触媒がどういった関係性があるのよ」
「その手紙に書かれている、同封したある英雄に所縁のある聖遺物の『レプリカ』に心当たりがある。……って言ったらどうする」
疑問符の浮かばないその言葉に、凛は焦燥した。セイバーが言っていた。あの鞘は、自分の聖剣を収めるための宝具と瓜二つであったと。
触媒について、
前者は、通常の聖遺物と同様に正規のサーヴァント召喚に該当される。後者の場合は、実在しない以上その英雄に関する内容や類似したものを代替として、無理矢理召喚する方法だ。この方法を使えば狙った英雄に近い人物が選ばれる可能性はあるが、非正規である以上何らかの
いずれにしても、通常の
今回のように、
即ち。
普通なら、円卓の欠片などといった本物の聖遺物で召喚したと捉えるべき答えを。久郎は一発で、凛の使用した聖遺物である聖剣の鞘、
それ自体、有り得ないことだ。
衛宮久郎が送ってきたその品が、セイバーを呼ぶのに使用した
「じゃあ、あの
「その反応からして、物品だけは遠坂邸に届いていたみたいだな。問題は、俺が冬木に住むのに何ら問題がないことの証である契約書がないことだな」
「ちょっと待って。衛宮くんは五年前に、魔術師の巣窟と名高い時計塔に留学して。たった二年でそこを離れて、わざわざ日本に帰ってきたってこと? よく無事に潜り込めたというか、帰ってこれたというか」
当時中学生の久郎が、日本を離れイギリスにどうやって時計塔に入り込んだのか気になった凛は、確認を含めて再度確認をする。
「俺の主治医がそこの卒業生で、紹介状を書いてくれたんだ。もちろん、入国時はパスポートも顔も偽造と変装を合わせて、序でにそのまま入学していたからこの顔を知っている人は、数えるほどしかいないぞ」
その徹底ぶりに、凛は舌を巻いて話の続きを聞く。
「本当は、成人するまでヨーロッパを中心にいる予定だったんだけど、大ポカやらかして封印指定を受けられかけて、当時名が売れてきた武闘派の執行者派閥に身を寄せて免れたんだ。で、三年前に予定を大幅に短縮して冬木に戻ってきたって訳だな」
久郎の語るその執行者を中心に構成された武闘派閥とは、どちらかといえば、久郎が自分のために作ったようなものと表すのが正しい。
誰一人として、本当の人間のいない、衛宮久郎が自分の魔法を用いて作成した。アインツベルンとは別方式の
人の手によって生出された不安定な魔術回路の人形とは異なる、正真正銘の人型。生命としての寿命を持たず、肉体的な死を迎えても即座に再生するその
完全な肉体であるが故に、その身には固定化された一点特化使用が常の魔術回路しか宿らず、精神が芽生えた時点で発現したその個体特有の起源属性しか魔術を扱うことができないが、製造後即時に一流の魔術師が生涯をかけて辿り着く技量を持ち合わせている。
物質化した魂が生み出す魔力を核にその存在を確立させた、人造の神秘と言えばいいのだろう。
当然、組織すら自作するとは考えられない凛は、漠然と危険な橋を渡っている程度の認識で、聞き流した。
「………色々と突っ込みたいけど、話が拗れそうだから取り敢えず詳しく聞かないで、続きを進めるわよ。衛宮くんは、その時に間違いなく私の家に……この二枚と同じ遠坂の屋敷に許可証と口添えのある手紙をあの触媒と同じ便に乗せて冬木の地に帰ってきた。ここまではいいわね?」
「あぁ。当然、時計塔では顔を出せなかったから、手続きやらは俺の所属している派閥の連中に頼んで、直接日本に戻った後、新しい家が見つかるまで暫くは、紹介状を書いてくれた主治医のところで厄介になっていたけどな」
「その派閥、どれくらい信用できる?」
「俺が死ねと命じれば本当に死ぬくらいは信用できる奴らだったな。……互いに信頼し合ってるって意味だから変な誤解をするなよ」
より正確には、久郎の命令には基本的に逆らうことはない。という一方通行な使い魔とその主と同等の絶対的格差がある関係であるため、信頼も裏切りの可能性すらあり得ないだろう。
「そう。となると、配達で何らかのトラブルがあったか。その手紙が
言い切った久郎に凛は、ますます頭を痛める。久郎が触媒に
完全に、こちら側の落ち度となっている。しかし凛は、自分の管理能力を疑っているつもりはなく、件の書類が届いた覚えもない。
「なあ、遠坂」
「なに?」
「平日に荷物が届いた場合、その荷物は配達業者が荷物を預かるのか?」
「馬鹿なこと言わないで、普通の一般家庭ならともかく。私の家は地主としても魔術師としても、それなりのものを扱うのよ。魔術に使う曰く付きの宝石や、時計塔から送られてくる父さんが遺産代わりに残してくれた魔術理論の特許収入、不動産から届く書類、他人の目にはできるだけ晒さないようにしなきゃいけないものがごまんとあるから、私が学校に行っている間の荷物は保護者代理人の兄弟子に……」
はたと。凛の動きが止まり、学園中の男子生徒を虜にしたその整った面貌を一瞬にして夜叉のように怒りを表して眼光は、認識阻害の結界を越えて視野内の一般人に悪寒を感じさせた。
時間にして三秒もなかった激怒であったが、凛はすぐに取り繕うと、聖母のような完璧な笑みを向けてその口から
「あの似非神父……コロス」
と、顔と呟いた言葉が全く以って合っていない死刑宣告を吐いた。
久郎が自作した愉快なホムンクルス達
全身硬化炭素な仲間思いのおにーさん
伸縮貫通爪持ちの美人麗人おねーさん
影収納攻撃百目百口共食いしょうねん
指鳴らし着火マンな美人好きいけめん
狙撃飼い犬の躾完璧仕事人間なびじょ
擬態万歳嫉妬満載超重量級かるわざし
元人間眼帯魔眼持ち二刀流りあじゅう
悪食喰種純粋系食事戦士おっとりくん
液体秘書系母性的虎馬満点おかーさん
金目地獄耳特定完全記憶能力みじんこ
その他色々な一点特化型の方々でしたー。
※本編に出てくる可能性は皆無です。ご注意ください
次回は、ランサー陣営を中心にやってみたいと思います。