今回は8.5割以上のオリジナルストーリーです。(今回
閲覧の際はご注意ください
「ったく、こうも外れが続くとなあ……」
久郎達が会合で互いの状況について確認が終わったのと同時刻。遠坂邸に程近い、付近の森に聳え立つ築七十年を迎える西洋式の屋敷に自身の保有スキルであるルーン魔術を使用した結界を貼り構えているランサーが一人、古い館の屋根の上で肘を膝に乗せて頬杖を突きながら不機嫌に、昨晩戦ったサーヴァントに対して愚痴を零していた。
其処は嘗て、第三次聖杯戦争に外来のマスターとして参戦した魔術師の拠点。遠坂と同じ源流を持つ第二魔法の使い手である宝石爺の系譜であるフィンランドの双子姉妹の魔術師が建てた別名、エーデルフェルトの双子館。聖杯の降臨に相応しい霊格の高い遠坂と冬木教会のそれぞれの地に聳え立つ片割れの一つである。
当時、双子の姉妹は共に日本の地へ根源への足掛かりとなる聖杯を求め推参した。互いに、同じ聖遺物を触媒に、それぞれ異なる側面を持つ英霊を
しかし、終盤に差し掛かる前に敗退することとなる。彼女らは互いにも、敵としてその家訓を当て嵌めていたのだ。
元々、当主の椅子を賭けて長年争い続けていたためか彼女らの連携は、戦いの序盤から互いの仲が悪いという理由で別々の土地に同じ別荘を建てて、最初から無いものとなっていたのだから無いものも同然。
結果、第三次でエーデルフェルトの双子は、戦況が進むに連れて互いに姉妹を如何に出し抜き勝利を掴み取るとこに腐心し、漁夫の利を狙った御三家の遠坂に出し抜かれ、姉妹は呆気無く聖杯戦争から脱落して片割れが死亡。残された双子館の処遇を生き残りは、一族の汚点の象徴であるそれに対して所有権を主張する筈もなく、帰国早々に魔術協会と聖堂教会に譲渡し、以来日本嫌いとなったエーデルフェルト一門は子孫代々に日本の土を踏むことを許さなかったそうな……
ランサー達がいるこの館は、魔術協会が所有している側の片割れであり。遠坂の敷地には劣るものの拠点としては十分な地脈が通っており、ランサーはここで召喚されたのだ。
彼は、クランの猛犬の異名を持つアルスターの光の御子、太陽神を父に持つ半神の大英雄クー・フーリン。その身は、嘗て疫病に侵された祖国へと侵略しに来た敵軍を相手に三日三晩休むことなく戦いに投じてなお勝利するほどの逸話を持ち。魔女にして
前半の伝承通り彼は、戦いに生きる戦士然とした当時の騎士道に通じる
聖杯の呼び掛けに応えたランサーを待っていたのは、彼と同様に英雄としての資質を持つ二十代前半の女の
そんなランサーの機嫌を損ねている原因は、自分以外のサーヴァントの半数が彼の望む死を賭した戦いを望む彼の参戦理由と大きく外れたモノであったからだ。
勿論、残りの半数はランサーの戦意を滾らせる豪傑揃いの英霊であり、力比べに様子見として刃を交えたその力量は申し分ない。
最初に、見えない剣を構えて真っ直ぐな太刀筋を向けてきた女騎士セイバー。
目撃者を消そうとした時に、召喚者である主人を守るために奮闘するライダー。
敷地の森の中を偵察していたとき居合わせ、偶然戦うこととなったバーサーカー。
「またあいつ等と、
この三人は全員、ランサーとの死闘に値する実力と誇りをを兼ね備えていたサーヴァントであった。
対して、彼らと戦った後に出会った残り三騎のサーヴァントは、なまじに格こそ英雄と呼ばれるのに相応しい実力を持っているだけに口惜しい。なぜなら彼らの戦い方は彼の意向とは反するモノであり、それぞれの
柳洞寺の地脈を生かした都心の方面に魂食いの魔術を用いて神殿クラス工房を構えるキャスター。
陣地作成スキルを十全に振る舞い、予め設定した固定砲台魔方陣の弾幕を張ってランサーを追い払った。本人は神殿の奥から出ることなく遠見と幻影を応用した影と骨で構成された使い魔を戦場に送り出すという戦法を取っており、典型的な魔術師の英霊としての猛威を奮っていたが、こういった輩はランサーの願い(戦い)とは趣が異なる。
寺の入り口で足止めを食らったため、奥に入ることは出来なかったがもし、あの魔力砲を潜り抜けた場合更にえげつない程の罠が待ち構えていることだろう。同格の魔術技能を持つランサーが勝利を狙うとなるとその先はキャスターとの魔術戦が待ち受けていることなど容易に予想できた。
互いに化かし合い、相手の戦略を何十手先まで先読みするそれは力と力がぶつかり合う単純なものでなく、より卑劣に冷酷に相手の裏をかく、壮大な頭脳戦……。しかし、そういった手合いはランサーが望む戦いとは趣向から大きく外れていたため気乗りせず、また彼のマスターもキャスターを倒すのは、他陣営との消耗後に叩くという方針を決めて放置することとなり保留とした。
だが思えばキャスターの陣営はクラス属性を生かして戦いに真面目に投じようとしている分、幾らかマシであったとランサーは深くため息を吐く。
残りの二騎の内、同じ三大騎士の一角を担う
特にアーチャーの契約主である間桐の御曹司は、ランサーの期待を大きく裏切らせた。戦う覚悟も魔術師としての心得もなっていない、唯の素人同然の魔術回路も持たない知識だけ併せ持つ人間であったのだ。遭遇した時に自らサーヴァントのクラス名を高らかに声を上げながら攻めてきた時は、潔い相手と思ったが少しでもアーチャーが不利な戦局に陥ると掌を返すように癇癪を起してアーチャーを罵り、更に『偽臣の書』を通じてサーヴァントの魔力を搾取し我が物顔で使い魔である怪蟲をただ突っ込ませるよう命令するだけの魔術を行使する姿はランサーを更に苛立たせた。
アレではまともな魔術回路を持ち合わせていたとしても、戦うサーヴァントの足を引っ張り令呪を無駄に消費するのが落ちであると、ランサーはアーチャーに対し同情する。
闘いそのものは、無粋なマスターの横槍が入りつつもランサーを喜ばせた。アーチャーは弓兵ながらも二刀の剣を構え、七騎中最速と名高いサーヴァントであるランサー相手に白兵戦を持ちかけて打ち合い果たす。幾許か劣る筋力を補う技量は、ランサーが舌を巻く程であった。その剣技は一流の剣士には至らずとも間合いで劣るアーチャーが三十手以上粘る剣の舞は、ランサーの闘志に火を付ける。しかし、アーチャーが振るう剣には英雄としての誇り、
自分を卑下に扱っているその捩子曲がった性格が滲み出ていた。
何より解せないのが、魔術師でもないただの人間に抗う事無く飄々とした顔で従っている点である。
戦法の幼いマスターに的確な助言を与えるサーヴァントに対し一切耳を貸さないマスター。裏切らないのか裏切れないのか、何らかのルール違反スレスレの方法で契約したであろうマスターに従いに戦う姿は歪ながらもアーチャーの意向をまるっきり無視している訳でもない様子で、余計にランサー陣営を混乱させる。
とにかく、主従共にランサー陣営は自滅を待つことにした程酷い有様だったことには変わりなかった。
極め付けは、先日ランサーと彼のマスターを狙った現代の武器としてメジャーな銃を使って狙撃を行ったサーヴァントの存在である。
魔力も込められていなかったその銃弾はランサーが生前より自身の保有するスキル、矢避けの加護によって標的であったランサーの脳天より大きく外れ近くの地面にのめり込む様に着弾した。
仮に当たったとしても、エーテル体であるサーヴァントの霊核には致命傷を与えない純粋な物理攻撃にランサーは、誘われているのかと狙撃場所であるかと思われるビルの屋上を目指してマスターの前に弾除け代わりに立ちつつ反撃に向かう。
その場所にいたサーヴァントは、驚くことに目元を赤い包帯で包み隠し黒いコートを羽織った白髪の男であった。目を隠した顔から覗く肌には張りがあり、老獪な皺は無く。狙撃銃を持つ手にも鍛えたが故の無骨さはあれど老いは感じられない。
彼は、マスターとともに臨戦態勢を構えているランサーを見た後、足元に転がっていたスプレー缶のようなもの打ち抜いた。瞬間膨大な音響と煙にランサー主従は目と耳をやられる。狙い撃ちにされるとマスターを抱えて物陰へと身を隠して身を守るように覆い被さりながら相手のサーヴァントの気配を手繰ろうとすると幽霊のように忽然と消え失せてしまった。
現界を解いて霊体化したわけでもなく、煙や霞のようにランサーたちの前から居なくなったのだ。
サーヴァント特有の気配を手繰ることも、ランサーのルーン魔術の探索にも引っ掛からないため、深追いを諦めたランサーの機嫌は更に悪くなった。一体何をしたかったのか逃げるくらいなら討ち取り召したかったと、正体不明のサーヴァントの去った跡を
「ランサー、出て来て下さい。不味いことになりました」
時折風に流される千切れ雲が浮かぶ星空を見ながら屋根を椅子代わりにしているランサーに屋敷の中から若い女性の呼び声が響く。ランサーは一瞬だけ霊体化し屋根をすり抜けて古めかしい様式の館内を見渡して令呪より繋がる経路を伝って自身のマスターの元へ向かう。
「何かあったかバゼット?」
壁を通り抜けた先に、結界の起点である館の中心に胡坐を掻いた男性用のスーツを着る短い
魔術協会より派遣された封印指定執行者にして、神代より様々な神々に仕え、その
ランサーはそんな有様に見慣れたのか気にする様子もなく、バゼットの傍らに現界する。
「都合の悪い情報と、芳しくない情報。どちらから聞きたいですか?」
使い魔との感覚共有を
「じゃあ、都合の悪いっつー方を先に頼むわ」
「分かりました。先ず教会の方へ先日までに召喚されたサーヴァントの情報公開を要請した使い魔が拒否の返事を添えて返されてきました」
「監督役の……言峰? だっけか、あいつはなんて言っているんだ?」
バゼットに召喚されて数時間経たない内に顔合わせと登録に立ち会った背の高い大柄な神父を思い出しながらランサーは床のルーンの刻印をなぞる。
「一つの陣営にのみ他陣営の情報を提示することは適用されないと」
まあ、当然だなとランサーは肩を竦める。魔術師同士の戦いに何ら
聖杯戦争を見届けるための監督役は、魔術師同士の繋がりを持たない敵対組織である聖堂教会の者を選定することによって余計な諍いを避けている。
そのためいくら過去の仕事での顔見知りとはいえ、別組織としてそれぞれの役柄を与えられて大儀式に参加している以上、それを無視して一つの陣営のみ優遇したことが明るみになれば他陣営からの苦情と禍根が残りかねない。それ故の撥ね付けであろう。
「そんで、もう一つは?」
「……円蔵山に神殿を築いているキャスター陣営に送達させた
言い難そうに言い淀んだそれを聞いたランサーは驚きよりも疑問が浮かび上がった。使い魔越しに今回の聖杯戦争に参加している
しかし、使い魔の発する信号弾に何ら反応を示さずに神殿に近付こうとした途端、魔力弾の嵐に使い魔は塵となった。
無論前々から親しい間柄だという訳でもなく、同じ僻地で仕事を行う者同士で軽く顔合わせをした過程で、その魔術師が扱う系統故か自己意識が高く他人の意見を軽視する傾向があれど、要点は掻い摘む程の心意気はあった。
こちらの集めた情報を載せて送り付けた使い魔を確かめもせずに、悉く破壊するような無駄な警戒をするような慎重さとは無縁の楽観主義であったと思っていたのだが様子がどうもおかしい。
聖杯戦争に参加するマスター同士という点では形の上では敵対するものの、この二人の役目は万能の願望機である聖杯そのものの回収である筈だ。
手柄を独り占めする算段であるなら、まあ使い魔を破壊する道理は分からない訳でもない。しかし、いずれランサー陣営を排除するのなら一度手を組む振りをして残り二体となった瞬間に騙し討ちを仕掛ける方が効率的である。
バゼットは、キャスター陣営がそれを実行しない理由が分からない……
兎に角、交渉を行えないのは冬木に地の利が薄いバゼットにとって芳しくない。詮索手段の尽きたランサー陣営がアサシンらしきサーヴァントの正体を知るのにはキャスターの助力が必須だと考えていたのだ。
キャスター程の魔術師の英霊であるのなら
マスター殺しと名高いアサシンについて何もわかっていないランサー陣営は、その正体とマスターの居所についての取っ掛かりが欲しいのだ。
「仕方ねえな。俺たちがアサシンと遭遇してその実力をマスターの目である程度測れただけでもめっけもんだ」
思考がどんどん沈む中、ランサーの陽気な声にバゼットは気を取り直して立ち上がるとスーツを整えて仰々しく硬化のルーンが刻まれたグローブを嵌める。
「前向きに考えるのは構いません。しかし過信は禁物です」
「おっ! 今日は外に出るのか?」
部屋の壁に立て掛けられた金属質なポール型に肩紐の付いたバゼットの切り札である礼装を入れてある収納具持つマスターにランサーは嬉々として歩み寄る。
「あなたのお気に入りであるステータスが規格外であるサーヴァントを保有する遠坂とアインツベルン、それに衛宮に尾けた別の使い魔が合流して市街地の大衆食堂に三組の陣営が集まっている。これがもし同盟ないし、手を組むということになった場合私たちだけでは少々心許無い。協会から派遣されたもう一人の助力が得られない以上、他の陣営と協力してアサシンを排除する他有りません」
そう、バゼットが焦っていたのは彼らが聖杯戦争の序盤から徒党を組むような動きが見られたからなのだ。屋敷の外を目指すマスターをランサーは霊体化し付き従う。
『当ては有るのかい。マスター?』
「無いという訳ではありませんが、有ると言い切るには複雑な縁だと表すのが妥当でしょう」
双子館を出たバゼットは、屋敷の庭を通り過ぎ鬱蒼とした森に掛けられている結界の一部を解きながら慎重に抜けて敷地の外を目指す。
『それってどういう関係を持って……危ねえ!!」
物理、方向誤認、人払いと次々に潜り、視覚を惑わす結界を抜けたその時ランサーが頭上に現界して自らの宝具であり武装でもある愛槍を構えて森を遠く越えた丘から放たれた武具の空気を裂く風切り音を叩き落としマスターを守る。顔横を通り過ぎた飛来物は、湿気っていた森の土を吹き飛ばし砂利の雨を巻き起こした。
標的を仕留め損ねて森の地面を抉った飛来物は、矢の形をした強剛な刀剣の数々。間違いなくアーチャーの仕業であろう。
「無事かいマスター!」
「問題ありませんがここは場所が悪い。一旦、拠点へ……っ!?」
屋敷へと向かおうとしたバゼットは、歩みを止めてしまう。なんら脈絡なく放たれた筈のアーチャーの矢は双子館へ戻る道を刃の付いた鉄の柵で覆い付くし退路を塞いでいたのだ。
戻ろうとするのを躊躇した彼女をアーチャーは逃がさない。
第二撃、第三波、第四射、第五弾、第六砲、第七発。次々と鉄で出来た矢がバゼット目掛け射出を続ける。矢避けの加護を持つランサーではなく容易く照準通りに狙うことのできるマスターを狙うアーチャーにランサー陣営は、一度引き離された。
バゼットは肩に掛けていた礼装を荷物だと言わんばかりに地べたに放ると木々の間を縫うように飛び込み、懐より取り出した小石を手に持ち、結界に使用されたルーンと見比べる。
数個取り出した石を右手に握りしめ、残りをまた懐に仕舞うとバゼットは目的の地脈に沿って強引にルーンが刻印された石を殴り込める。その数、大きさに反した着弾音から察するに三つ。
それぞれ『
「
彼女の詠唱と共に三つのルーン石が連鎖反応を起こし激しい発光と爆撃を森の中に生み出しアーチャーの視界を阻んだ。
それは、原初のルーンを使用したランサーの魔術に現代より語り継がれるルーンの大家フラガの魔術が無理矢理組み込まれ意図的の起こした魔術の
神代クラスの魔術に上乗せすることは出来なくとも暴走は容易いもの。
咄嗟の思い付きであったが、アーチャーの矢による攻撃が止んだところから目的は達成した。バゼットは、契約の経路を通じた念話でランサーに指示を出す。
『ランサー、予定を変更します。直ちにアーチャーの排除に向かってください。矢の放たれた方向から位置は特定できましたよね? 私は一度この場を遣り過ごすので後程合流しましょう』
茂みの奥に息を潜めたマスターの指示を聞いたランサーは、最短距離を突っ切るために霊体化をしてアーチャーが立つ丘を目指しながら思い切った自身のマスターの行動力とこの暗闇の中自分たち目掛けて射撃を放つアーチャーの評価を改める。
「やれやれ。俺も大概だが、マスターもお前さんも相当無茶をしやがるな」
森を覆う爆煙を払うために矢を番えたアーチャーが放とうとする矢道上にランサーは現界した。その距離およそ十七m、ランサーは意地悪く挑発するように笑いながらアーチャーのマスターを探す。
「私のマスターを探しているのなら無駄なことだ。この場にはいない」
黒い大きな和弓を持ったアーチャーは、右手に持った剣を霧散させて左右に気配を手繰るランサーに無駄なことだと左へと歩き始める。
「ようやくあの坊主と手を切ったってことか?」
「いや違うな」
アーチャーは不意に止まると、ランサーの質問に受け答え続ける。
「今回は、流石に巻き込みかねないのでね。悪いがランサー、君はここで倒させて貰う」
「漸く弓兵らしく戦うかと思ったら今度は戯言か」
ランサーは静かに、そして落胆と口惜しさを交えると魔槍を構えて怒りに豹変した顔をアーチャーに向け眼光を刺す。
「ほざくなよアーチャー! この場で果てるのは貴様だ!!」
その怒りを受け流すようにアーチャーは笑う。
しかし、それはランサーに向けたモノではなくここで消えるであろう自分に対してのものだった。アーチャーの保有する魔力は限界に近く、慎二が時折人を襲って集めてくる血液では到底間に合わない。
だがアーチャーの鋼色の瞳には後悔も未練もなくただ満足に埋められた穏やかな眼差しであった、ある意味、彼の願いは叶っていたのだから。
アーチャーが聖杯戦争の召喚に応じた目的は、とある人物の抹殺であったのだが
彼が知り得るその場所には、他の誰かが居て。彼が知る賑やかな屋敷は、驚くほどに何もなく小奇麗に掃除が行き届いていてまるで誰かを待っているかのように時が止まっているかのように何もなかった。
アーチャーの知る
故に現界し続ける理由もなく、仮初めのマスターである慎二の意識を落とした後、間桐の屋敷に無事に送り付けて死に場所を霊体化したまま彷徨っていると偶々近くにいたランサー陣営を襲ったのだ。理由なんぞ特にない、極論だが今彼と戦う必要もなく自身の生み出す剣を突き刺し自害するのも吝かではない。ただ、このまま戦いもせずに消えてしまえば慎二は納得しないだろう。出来るだけ派手に相手に印象付け、それを語らずには要られなくなる程の見せ場を出し惜しみなく戦って生き残ったという称号に納得すれば御の字だとそう考えていた。
ランサーの後ろに民家の類がないことを確認したアーチャーは目を閉じ、残り少ない魔力を練ってこの場相応しい一本の剣を生み出す。
「
生涯を通して綴られた詠唱は、なんら問題なく流れるように語り呟かれた。
「!? どういうことだアーチャー。何故貴様がその剣を
吠えるランサーの視線の先には、アーチャーが生み出した魔剣がその形をより刺突に特化したモノに形を変えその手に握られる。
その手に持つは、ケルトの逸話に語り継がれるアルスターの赤枝騎士団に縁有る、無限に伸びる刀身に依って三つの山を切り裂き。かの騎士王が持つ
ランサー、クー・フーリンに剣の道を教えた師にして戦場をかけた盟友が所有する剣を持っていることに彼は怒り、同時に驚いていた。
アーチャーは答えずに、不敵に笑うと魔剣の柄を弦に当てて大きく引く。その刀身は、対象をより切り裂き易くするために捻じれ、原型を変えることで一つの兵器として完成する。
「
その剣が放たれたとき、ランサーは自分の死を覚悟しただろう。その矢が真名を開放するとき、アーチャーは自分の体が消えるであろうことを理解しただろう。
しかし、彼らは誰一人として血を流さずに消えもしなかった
小さな衝撃が三つ、アーチャーの身体に撃ち込まれ、狙ったかのように人体の急所をすべて突いたその狙撃は完璧であった。
左側頭部に一つ、
心臓付近肺に一つ、
肝臓付近鳩尾に一つ、
殺傷能力のないそれを言い表すのなら。感覚としては、見えない拳に殴られたようなものだった。思わぬ衝撃にアーチャーはバランスを崩し倒れる時、一瞬にして切り落とされた
ランサーは、何が起きたのか一瞬理解出来ずに槍を持った己の身体と倒れ伏すアーチャーの傍に落ちている剣を見て漸く自分が助かったことを理解し膝を付く。ランサーの知るカラドボルグに比べて多少形の歪められたその剣は、生前共に戦った師にして戦友であるフェルグスの剣。ランサーは、ある戦の中でゲッシュを契わしたことでこの剣を振るうアルスターの剣士に一度負けることを義務付けられているため際どいところであったのだ。
「……どういうことだ。それは」
その流血のない独特の痛みにアーチャーは身に覚えがあった。それも気掛かりであったが、彼が呟くその疑問は撃たれた後に頭に直接送り届けられた念話に内容に対してのものである。
その声の聞こえた先に手を伸ばすアーチャーであったが、魔力の枯渇によって武装の一つである赤い聖骸布の消失に悪態を吐く。
本来、マスターとの魔力供給がなくともある程度現世に留まることが出来る単独行動スキルを持つ
残されたランサーは、マスターにアサシンが付近を狙っていることを伝えて慎重に屋敷に戻るように伝えるとアーチャーの動揺に疑問を抱きながらも、霊体化してルーン魔術の結界が緩んだエーデルフェルトの双子館へと急ぎ戻って行った。
霊体化したままアーチャーは新都を一望にできる高層ビル屋上に立ち再契約の望めるマスター候補を探す。
キャスター程でなくとも、千里眼のスキルを持つアーチャーにとって、これ程見晴らしが良ければ神秘の塊にして異物であるサーヴァントを捕捉するのは容易い。間桐の屋敷に戻らずに別のマスターを選ぶのは、先ほど狙撃手に告げられた目的の達成に関する……否、寧ろ核心を突く内容であったからだ。
彼、ないし彼女の目的を知るため、新たに確認することの増えたアーチャーは狙撃された時に呟かれた悪魔の囁きを繰り返す。それは、アーチャーにとって何よりも魅力的な情報であり、許容できない事柄であった。
その声は、抑揚の富んだ笑いを堪えて口元を歪ませているような詰まった声で契約のラインが切れたアーチャーの脳内に囁いた。
『英雄エミヤの抹消を果たしたくないか?
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マスター:魔術協会所属の魔術師?
クラス:キャスター
属性:中立・悪
パラメータ
筋力:E
耐久:D
敏捷:C
魔力:A+
幸運:B
宝具:C
クラス別能力
陣地作成:A
道具作成:A
保有スキル
高速神言:A
宝具
マスター:??
クラス:アサシン
属性:混沌・善
パラメータ
筋力:D
耐久:D
敏捷:A
魔力:B(A++)
幸運:E
宝具:E~?
クラス別能力
気配遮断:D
保有スキル
■■:E~EX
魔術:A++
単独行動:C
宝具
■■■■■■■:EX
バゼットさんの口調に違和感があればどうぞ、ご指摘ください。
自分も合っている自信がありません。間違っていたら修正しますのでよろしくお願いします……orz
やっと、七騎全てのステータスを載せることが出来ました(しれっ)
後、赤弓さんの詠唱も!!