偽・錬鉄の魔法使い   作:syuu

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遅れて申し訳ございません(土下座)

ああぁぁぁああああああ!!!!!!!!!!!!!(絶叫)

時間が足りない。リアルでもネットでもどちらに傾こうと時間が足りない(涙)

料理したい、お金ほしい、仲直りのしたい、新しい服ほしい、掃除したい、新しい本買いたい、遊びたい(欲求爆発)

喰種とエルフェンの二次も書きたいし、なろうの方でオリジナルのに挑戦したい、zeroの方も進んでないし、偽・のも執筆が遅い!!!!!!(苦悩混沌)

誰……か時間を……下さいお願い……します(寝不足御免寝)





あとがきの内容は別に無視してかまいません。作者の気が狂っただけです。By久郎


16欺瞞の正体

「駄目よ、リン。お兄ちゃんは私と一緒に戦うんだから」

 

久郎を誘う凛の提案に反応するように、腕を絡ませたイリヤは有無を言わさず冷たくあしらうと、明らかに不機嫌を露わに凛を睨み付ける。

 

「ちょっと、イリヤスフィール! アンタ何勝手にこっちの話に入り込んで来るのよ!!」

 

今まで沈黙を貫いていたバーサーカー陣営がいきなり会話に入り込んで来たことに、凛は驚くよりも先に自分の提案を遮られたことに激昂する。命を張って聖杯戦争に参戦してきた彼女だが、明らかな戦力不足による不利を打開する機会を握り潰され掛けているのだ、気合で負けじとイリヤの封殺を試みをするうちに声を荒げるのも致し方ない。

 

「別にいいでしょう? リンより先に私が最初にお兄ちゃんと会っていたんだもの、突然沸いてきたような泥棒猫に横取りされたら堪んないじゃない」

 

そう凛に凄まれようともイリヤは、構う事無く今までの義兄との時間を奪われた分の鬱憤を熨斗と一緒に返す。

 

先ほどの言峰神父による悪事であろうと目算できてしまったストレスと、ライダー、バーサーカーの二陣営を相手取る可能性のプレッシャーが重なって、神経質となっている凛がイリヤに喧嘩を売られてそのまま引き下がる筈もなく、怯まずにイリヤに投げ掛けられた発言の内容に噛みついた。

 

「行き成りやってきたのはアンタもそう変わらないでしょうが!! ていうか誰が泥棒猫だ!」

 

「何よ。事実じゃない!! どうせ表向きには猫を被って、最初の時に使っていた似合わない、あの不気味な丁寧口調で何人もの男をその毒牙の餌食にしているんでしょう?」

 

「うっさいわね! 毒牙とか言うな。向こうが勝手に寄ってくるだけで、私は世間一般の高校生として、そして魔術師兼、遠坂家頭首として振舞っているだけよ!!」

 

女は三人寄れば姦しいとは言うが、実際にはセイバーを置いて女のマスター二人の劣悪な口戦が繰り広げられていた。売り言葉とその倍以上に返ってくる買い言葉。言葉のキャッチボールにしては聊か物騒な言葉のラリーが往復する度に二人の口調が荒れて行き、険悪なものと化して行く。立ち上がった二人は唖然となった久郎と御代わりし続けるセイバーを余所に、言い合う毎に詰め将棋のように顔を前へと突出し、一歩も引かず相手を睨みながら威嚇し合う。正に一触即発、怒鳴り合う凛とイリヤの魔力(ストレス)が可燃性のガスのように充満し細やかな火花(きっかけ)で爆発しそうな様子だ。

例え、取っ組み合いの喧嘩に成ろうとも施術者である凛と久郎の二人が解かない限り、結界の効果は持続するが、サーヴァント同士を戦わせたり、魔術の打ち合いをして、物理的な被害を出すようなことをすれば、今張っている結界では誤魔化し切れなくなる。

 

久郎は激情に駆られて無意識のうちに魔力を高める二人を諌めようとする。

 

「お、落ち着けよ二人とも。いくら認識阻害の結界が張られているからって大騒ぎをすれば誤魔化しきれ」

 

「「お兄ちゃん(衛宮くん)は黙ってて!!」」

 

凛とイリヤは睨み合ったまま視線を逸らすことなく説得に入ってきた久郎に怒鳴り逆に彼の口を噤ませた。

ギスギスとした女同士の言い争いに、仲介の油を差そうとした久郎であったが、返って二人の闘争心を加熱、炎上させてしまったようだ。

 

ようやく土地利用と工房設置についての誤解が解けたさっきまでの、空気が全く変わってしまったことに久郎は頭を痛めた。

何故、二人とも敵同士とはいえ此処まで互いに嫌悪感を隠さずに赤裸々と暴言を吐き合うのか。久郎は、何とかして二人の頭を冷やす気の利いた言葉をひねり出そうと深呼吸をすると本当に空気の匂いが変わっていることに気が付いた。

それは主に、自分の真横で腕を絡めて相席している凛を小五月蠅い害虫のように追い払おうとしている義妹のイリヤスフィールから漂う果実とアルコール(ワイン)の匂いである。

 

そして久郎は、会合をスムーズに進めるためにと、因縁の無いように席を外して貰ったイリヤとセイバーが座っていたテーブルを改めて見る。すると、セイバーが積み上げた皿の山の谷間にワインのボトルが少なくとも二本空となって転がされているのを見付けた。

 

「……」

 

あまりといえばあまりの原因に言葉を失う。まさかと思い、再度自分たちが座っているテーブルにも一本別の銘柄ではあったがワインのボトルが置かれており、少なくともイリヤは三本のワインを開けたということが判明した。

今まで大人しく見守るだけであったイリヤが急に凛に対して好戦的に……基、嫌悪の言葉を投げ掛け始めたのかがやっとわかった。

 

わかったが、これは頂けない。

 

「……イリヤ」

 

状況を察した久郎の厭きれた呼び声にイリヤは、やけに血色の良い顔を向ける。

 

「何よ、まだリンとの話が付いていないのよ!?」

 

思えば彼女の頬は、凛との怒鳴り合いを行う前から既に血の巡りが通常以上に行き渡っており、食事前の人形のような白い肌は紅く染まっていた。

 

自らの失態を突かれて激昂している凛の気恥ずかしさからくる赤面とは異なる、ある物質の摂取によって人体がそれの解毒を行う際に発生する酵素によって六段階に症状が分かれる……酒酔い状態に陥っていた。

 

呂律は未だはっきりしているが、先程確認したワインボトルの残骸から察するに何時(いつ)理性が飛ぶかわからない状況で、セイバー陣営との聖杯戦争の施策がご破算になるのは久郎も望んではいない。

久郎との敵対を恐れている凛の様子から、イリヤと久郎は正確にはまだ同盟も何もない義兄弟関係でしかないことを凛は知らないし、想像もできないのだろう。

互いに殺し合う関係にある筈のマスター同士がサーヴァントを互いに霊体化させて、同じ車に乗ってやって来たことと、久郎と戦うのは自分だと言い張ったイリヤの発言から、ライダーとバーサーカーの二陣営が手を組んでいると、憶測を立てるは自然な流れであろう。

 

案の定、凛は久郎達との二対一のような不利な戦況となるのを避けようと、必死になりアルコールで舌が緩んでいるイリヤから情報を抜き出そうとせずに、協定の内容を進めようと躍起になっている。

 

「いいこと、イリヤスフィール。私は今、正式に会合へと招待した衛宮くんと話しているの! 余計な口出しは止めて頂戴!!」

 

「招待? ハッ。脅迫の間違いでしょう? 前マスターの情報を予め調べなかった自分の迂闊さを悔いなさい。私はキリツグの実子で、お兄ちゃんは養子。互いに家督を争わない関係で且つ、家族としての繋がりを持っているんだから互いに聖杯を求めて競い合い、協力するのも、どちらを選ぼうとなんら不自然は無いでしょう」

 

冷やに笑うイリヤ。明らかに凛の神経を逆なでるような言葉を選びながら後先考えずに口にするのは淑女として不適切な言動であるがそれに気づく様子はない。

 

久郎自身、このまま話が進まずに酔っ払ったイリヤの発言で突拍子のない方向に行くことを危惧し、魔眼殺しの眼鏡を静かに外す。

そのまま立ち上がった久郎は、イリヤと目線を合わせるように前屈みとなり、両手で血色良く赤く染まっているイリヤの両頬を両手で優しく包み込み且つ、顔が動かないようにしっかり固定した。

 

突然の行動に、イリヤは鼻先がぶつかりそうな程に近い距離に慌てることとなる。

 

「ち、ちょっとお兄ちゃん」

 

「いいから、俺の目を見ろ」

 

 

そしてゆっくりと丁度セイバーと凛には、久郎の顔が――否、赤く染まる瞳が見えない位置にまで半回転するように足を運ぶと、魔眼をイリヤだけに見せた。

 

―――目を合わせる

 

石化の下位に当たる停止の魔眼がイリヤの意識と体の全てを硬直させ動きを封じる。通常の魔術師が保有する量を大きく上回る魔力を有しているイリヤであれば簡単に抵抗(レジスト)してしまう程度に調整されたの眼力であったが、酒に酔って魔術師としては聊か感情的になっていることもあり、何より自分と同じ赤色に輝いた久郎の瞳に魅せられ何の抵抗もせずに魔眼の力を受け入れていた。

 

義妹が抵抗することなく、あっさりと魔眼を受け入れた状況に危機感が足りないと思う反面、久郎がサーヴァントを嗾けたりしないと信頼している。そんなイリヤの心情の変化に久郎は軽く笑みを見せた。

しかし直ぐにその笑みを振り払うと、そのままイリヤの硬直が解ける前に誘眠暗示を掛けて、崩れるように意識を失うイリヤを抱き寄せて、椅子に座らせた。

 

「……全く、日本じゃ飲酒は二十歳からだっていうのに……遠坂は、気化したアルコールに中てられただけだからそこまで酔っていないよな? 取りあえず、これでも飲んで落ち着け」

 

久郎の魔眼が発する魔力に反応したセイバーを無視して久郎は赤く染まった目を元の黒に戻すと、背もたれに寄り掛からせたイリヤが熟睡しているかを確認して、軽く愚痴をこぼした久郎は凛に溶けかけた氷の入ったグラスを押し付けて、再び魔眼殺しを掛け直す。

 

「あ、ありがとう……って、え? もしかしてこれってお酒!? ……というか衛宮くん、その子に一体何をしたの?」

 

葡萄酒(ワイン)に酔っていて油断した所に簡単な暗示を掛けて眠らせただけだ。一時間もしないうちに目を覚ます」

 

「そ、そう」

 

状況がいまいちの見込めていない凛に久郎は目の能力については一切触れずに、最後に掛けた暗示のことだけ告げた。続いて疑わしくこちらの様子を窺うセイバーの視線にまたも曖昧な笑顔を向けて謝罪する。

 

「立て続けに、余計な警戒をさせて悪いなセイバー、ここへ運転して来たのはイリヤだったから帰りのために飲酒はしないとばかり思っていてさ」

 

「いえ、イリヤスフィールが酒瓶を注文しているのをただ静観していた私にも責はあります」

 

魔力の反応について納得したセイバーは再び山盛りとなった皿の料理に匙を突き刺し食事を再開する。

 

 

そうして、一息つけた久郎は落ち着きを取り戻した凛に先ほどの答えを紡ぎだす。

 

 

「さて遠坂、互に手を組むことについてだが、俺は―――」

 

 

 

 

 

 

微睡みの中、高級感溢れる柔らかい座席から伝わる車のエンジン音と急カーブに差し掛かった際に生じる遠心力によって添えつけられたシートベルトの締め付けが、イリヤの寝息を阻害し肺を圧迫した。

 

「あっ、起きたかイリヤ」

 

すぐ横から、イリヤが起きたことに気付いた声が、籠った洞窟から出したように頭の中に響く。

どうやら自分はいつの間にやら眠っていたのだろう。助手席から、目を擦りながら右手の運転席を見る。

 

「ん、んん……。リズ?」

 

まだ完全に覚醒していないイリヤの視界はぼやけ、思考も纏まらない。ただ茫然と目を開けるとその先には、白い頭をした人影が映っていた。

寝惚けながら回らない頭で導き出した目の前の人物を予想する。

アインツベルンの城(ドイツ)から同行してきた御付きメイドの二人の内、教育と身の回りの世話役を任された『セラ』だとしたらこんな悠長な声を出さずに、勝手に行動したことについて糾弾してきて長い説教が始まる筈だ。

よって、もう一人の護衛役と遊び相手を務めている髪が短い方のメイドの『リーゼリット』を呼んだのだが……。

 

「よく眠っていたな、お姫様」

 

しかし、その声は女性型の人形(ホムンクルス)から発せられるモノより低い若い男の声であった。

一瞬、身形のいい黒スーツを着こなした男が誰なのか見当も付かなかったイリヤだが、その男が身に纏っている雰囲気と見覚えのある眼鏡とその奥にある横顔の顔立ちから、すぐにその人物の正体を見抜いた。

 

「えっ……お兄ちゃん!? どうしたの、その恰好。それにこの車は?」

 

それは、意識を失う前とは対照的なまでに激変した容姿であった。肌と髪は雪が染め抜きをしたように白く、瞳の色は、紅玉(ルビー)のように赤くなり、まるで自分たちと同じホムンクルスの色合いを無理矢理付け替えて、一般的な服装とは言えない上流階級を思わせるイリヤの服装と釣り合うようにスーツを着こなしていた。

 

「まあ落ち着けってイリヤ。軽い幻惑の一種さ」

 

そう言うが早いは、水に溶ける砂糖のように久郎の容姿が、アインツベルン製のホムンクルス特有の配色から日本人らしい色合いに戻り、スーツも昼間の帰宅途中であった放課後から最初に着ていた薄茶色の学生服に戻っていた。

 

「へぇ、これだけ近くにいるのに術の痕跡も礼装の魔力も感じられないってことは、お兄ちゃんも私と同じ魔眼所持者(ノウブルカラー)?」

 

簡単な魅了や暗示程度ではあるが、イリヤもまた一流の魔術師として魔眼を保有している。そのお蔭で、久郎の解いた幻惑が一般的な魔術回路を通して魔術刻印によって構築される術式と異なることが分かったのだろう。

 

「毛色がちょっと違うが概ねそんな感じだな。因みにイリヤ専用に丈が調整されたこの車は、俺が既定の形に魔術で錬成したものだ。アインツベルの森に着き次第、後で直してやるよ」

 

通常では一度、魔眼によるものと知られている場合の有無によって対象に掛かるその効能が変化するのだが、久郎の能力(目を欺く)によって発現する魔眼は通常のものとは大きく異なるため、適当にはぐらかして車についての説明を被せて多くは語らずに車の説明に移った。

 

「いいわよ別に、車ならまだいっぱい持っているし。(コレ)はお兄ちゃんに上げるね」

 

イリヤは、魔眼についての追及を行わずに、運転席に残ったセル状のマス目を見て一蹴すると、大きく伸びをしながら普段以上に硬くなった体を解し始めて、まるで邪魔な置物を手渡すような調子で車を譲ると言い出した。

 

「この機種(マシーン)、出すとこに出せば、二千万は下らない年代物だけどいいのか?」

 

寝癖の後始末に取り掛かったイリヤに貰える物は貰うが本当に構わないのかと、久郎は念を押すようにイリヤに確認を取る。

 

「構わないわ、森の中にある駐車倉庫の中で一番手前にあって出し易かったから選んだだけのものだし、『お気に入り』のと違って出来ることが少なかったから本当に移動用のだもの」

 

それより、と続いてイリヤは寝癖を整え終わったのか両手を膝に背筋を伸ばして体を解し、運転を続ける久郎を見る。

 

「どうして私達(ホムンクルス)みたいな色合いと正装(スーツ)姿をしているの?」

 

いつの間にやら久郎の姿は、穂群原学園の制服から黒い正装(スーツ)と日本人らしい色彩を抜いた白髪に赤目の容姿に戻っていた。

イリヤとしては、まるで本当の兄弟のような錯覚とアハト翁が鋳造する従者たちのようでありながら表情を宿す顔に違和感を覚える微妙な気持ちとなるので今まで通りの切嗣と同じ黒い髪目であって欲しかったのだ。

 

「ああそれは……おっと」

 

説明をしようとした久郎だが、前方に停車を求める赤い誘導棒の明かりに会話を中断して車を減速させてエンジンは切らずに運転席側の窓を開き、防寒用のベストを羽織った警察官が腰を低くしながら覗いてきた。白い髪をした久郎とイリヤに驚きながらも日本語で大丈夫なのかと話し掛けて一、二分ほど免許証を取り出した久郎と遣り取りを始めてしばらくした後、軽く会釈をしながら通るように誘導棒を振った。

 

「何あれ?」

 

「ただの検問さ」

 

白髪紅眼の姿から黒く戻してアクセルを踏んだ久郎は、アインツベルンの森を目指し新都を抜けて郊外へと走らせながら警察との遣り取りを語る。

 

「聖杯戦争絡みの不可解な事件や事故が立て続けにあったんだ、警察も治安の悪化を危惧して深夜には職務質問や検問に力を入れ始める……もっとも、今回の場合イリヤが行きに見せたカーチェイスの影響だろうな」

 

急遽イリヤと血縁関係者であると誤認するような擬態の能力。目を欺く力については触れずに軽くため息を吐く。

 

久郎は日本の道路交通法は地域ごとの差は大したことはないものの、取り締まりが厳しいと愚痴を零すが、イリヤの母親譲りの速度狂(スピードジャンキー)について咎める様子はない。むしろ、今度は警察(うるさいの)が機能していない国で走ればいいとジョークを混ぜ込む程であり迷惑であったというような気持ちは一切感じられない。寿命は縮まったが。

 

「ふーん……。そういえば、リンとの話し合いは結局どうなったの?」

 

本人が気にしていない様子であることを確認したイリヤは、自分の意識が無くなる前の協定について聞きたくなった。

 

「別に大した内容じゃないさ」

 

 

 

 

 

 

「で、さっきの返事だが、俺は遠坂とは組めない」

 

「まあ、予想はしていたけど、随分とはっきり断るわね」

 

「遠坂には悪いが、俺は元々ランサーに襲われて半ば事故のような状態でライダーを召喚した。だから、俺は聖杯には執着が薄い。言ってしまえば、積極的に誰かと戦う気が無いんだ」

 

凛に同盟を持ち掛けられた久郎は、いっそ清々しい程に断りを入れる。久郎自身、イリヤとはまだ具体的な同盟を結んだわけではないものの、今回の聖杯の器候補の可能性が一番高いイリヤを身の内に引き入れる予定であったためライダーとバーサーカー両陣営を協力関係のあるものとしてセイバー陣営と話を進め始めた。そして久郎は、イリヤに話したように自分の聖杯戦争に対する意気込み度合いの低さを伝え終えた。

 

この時点で、凛の視点で此の間会ったランサーが話していた魔術師が衛宮久郎本人であったことが判明した。元々サーヴァントとの戦闘痕が残っていた衛宮の洋館と、その中に大胆にしかし巧妙に隠された魔術師の工房にいた久郎とライダーを確認した時点で状況証拠は整っていたので、これは予測が確定になっただけに過ぎない。それより戴けないのは後半の聖杯戦争に関わる積りがない、正確には誰とも戦うつもりがないという発言の方だ。

 

「それは、その子にも話してあるの?」

 

久郎の隣で静かに寝息を立てている白い小悪魔……イリヤを警戒するように見る凛。視線こそイリヤに向いているが彼女の言葉には、久郎が都合の良いようにイリヤを騙しているのではという疑念が込められていた。

 

「無論だ。このレストランに来るまでの間、ずっと車の中で死に掛けていたわけじゃない……多少驚かれはしたが、無抵抗に殺されるつもりがなく、敵が俺を攻撃して来たのならそれ相応の措置と処理を執らせて貰う旨を伝えた後には納得して貰った」

 

「可笑しな話ね。そうまでして戦いたくないのならそれこそ冬木教会に保護を求めればいいじゃない」

 

「それこそ無理な相談だ。代行者――しかも聖堂教会所属の監督役が務めている時点でその選択肢は消えている」

 

「?」

 

意味が分からない。そう言いたそうな凛。

その態度で、久郎は納得するように頷く。凛が久郎の言葉の意味が分からないことで、凛と魔術協会との繋がり具合(パイプ)が左程深くないことが窺えたのだった。

 

「ああ、そうか。遠坂は俺が時計塔に留学したことは知っているけど、俺が時計塔から日本に帰ってきた理由は知らなかったな」

 

「何よ、随分と勿体ぶるじゃない。確かに中学生三年の秋だなんて中途半端な時期に帰国してきたとは思ったけど、イギリスと日本では、ましてや魔術に所縁ある人の集う学び舎が、一般のものと同じカリキュラムを取っているとは流石に思ってはいないけど」

 

「いや、そんな留学が絡まるような複雑なものじゃなくて話自体は簡単なものさ。さっき封印指定され掛けたって話がさ、いつ浮上するのか分からないってだけさ」

 

「ああ、さっき言ってた封印指定の話ね――」

 

そのあまりに軽い言い様に、思わず凛はそのまま話を流そうとしてしまい掛けた。

 

「……って、ちょっと。衛宮くん本気(マジ)!?」

 

「マジマジ。今所属している武闘派組織も所詮、頭脳に当たる上層部あっての実働部隊である執行者の集まりであって権力抗争(パワーゲーム)次第で権威も権力も吹き飛んじまう規模だ」

 

少なくとも魔術協会本部のあるイギリスに在住し続けるのは危険だと思って、魔術関連を含めて裏の事情にソコソコ繋がりが有りながらも独立性に富んだ組織が複数存在する日本は、久郎にとって都合がよかったのだろう……。何より、実質的に彼の主治医であり、時計塔の紹介状を書いて貰った第二の師からも、少しでも住み慣れた土地に住んでいた方が自衛し易いだろうと名高い人形師である『赤』の助言も彼が冬木に身を潜める後押しとなった。

 

「? でもそれと、聖堂教会が派遣してきた監督役とどう関係するというの?」

 

魔術協会が久郎を捕まえに封印執行を行うというのはまだ分かるが、あくまで久郎の言い分は監督役を務めているのが聖堂協会所属の代行者であるということであった筈だ。

 

「だからさ、遠坂」

 

困り気に頬を掻きながら久郎は笑いながら言った。

 

「俺が封印指定される切っ掛けになった事件……基、実験がさ、聖堂教会の教義に触れるどころか土足で踏みつけるぐらいの禁忌物らしくて……冗談抜きで状況次第で下手すれば両教会(協会)の上辺の休戦協定すら反故する可能性すらあるんだ」

 

「……ちょっと待って、つまり衛宮くんがこの冬木にいることが教会側に知れたら、聖堂教会と魔術協会の二つがぶつかり合うってこと? 管理者である遠坂(わたし)を差し置いてそんなこと」

 

ありえない、と続く凛の言葉を久郎が遮る。

 

「あー、違う違う。正確には魔術協会と聖堂教会が手を組んで共同に共戦して俺を狩りに来るって話」

 

ある意味、両組織での争いを避けるということでは『休戦協定の反故』は守られている。しかし久郎が言った『休戦協定の反故』とは、一人の魔術師の研究成果を巡って二つの勢力がぶつかり合うという意味ではなく、一人の魔術師のために敵対し合っていた二大組織が手を取り『共戦協定の成立』させるということを表していた。

 

「………どういうこと? 衛宮くんあなたさっき、執行者の派閥に入ったことで封印指定を逃れているって言っていたわよね。そこまで重視……いえ、危険視されるほどの使い手だとすると、ただ名が売れ始めた組織に保護された程度で見逃される筈がないわ」

 

話が噛み合わない、内容の齟齬に凛は慎重に言葉を選ぶ。

 

自分を捕まえるために裏組織の二大勢力が互いの利益と教義を捨ててまで捕獲しようと動くと豪語するクラスメイトに凛は会合時に(いだ)いていた暗殺や襲撃などを考慮した警戒とは別種の危機感を持った。個人単位で引き起こす事件などとは比べ物にならない、言ってみれば国や軍といった戦力と同等の力を持つ組織を巻き込みかねない戦争に達する事変を連想したのだった。

久郎の様子から、言葉通りの冗談抜きでの虚勢や妄言の可能性は疑っていないし、先程までの遣り取りから久郎が嘘を吐くならもっと意味のある内容にするだろう。しかし、七人の魔術師同士の殺し合いから一個人を捕まえるだけに動くには明らかな過剰戦力(オーバーキル)に現実味が感じられないのも事実なのだ。

 

「保護? 何を言っていいるんだ遠坂」

 

久郎の話に付いて行けなくなり掛けている凛に久郎は、彼女が間違った方向に封印指定の話を解していることを察し、その点を正そうと指摘する。

 

「組織に入って身を寄せたってだけで、俺は奴らの仲間になったわけじゃない……。今だって互いの顔も合わせず(・・・・・・・)、せいぜい連絡を取り合って互いに情報交換をして互いの生存を確認しているぐらいにしか関わらないぞ」

 

「……!? まさか衛宮くん、あなた」

 

顔も見せていない。その強調された言葉に、久郎の過去の行動に潜む違和感を覚えた凛は一つの可能性に辿り着いた。

 

「ああそうだ、遠坂。俺は……時計塔に登録した(・・・・・・・・)時の名前の俺は、封印執行時にその組織の手によって殺された死人ってことになっているんだ」

 

凛の驚愕した表情と流れる思考を盗み見た久郎は、あっさりと驚愕的事実を曝け出した。

 

衛宮久郎は時計塔に留学する際、自分の容姿を偽ったままイギリスに居住していた。そう言っていた。

 

組織に身を寄せた――名門の集う派閥や権威の強い家柄に取り入るのような形ではなくではなく、また組織の一員になったとも言っていない。

身を寄せた――その曖昧な表現に、凛は魔術師らしく非情に考えた。

考えること自体は、魔術師としての教育の基礎として理解はできている。初代の魔術師はその知識を学んだ人からなるものだが、魔術を扱う魔術師の子供は、人の世から外れた魔術師としてその生を受ける。人として生きるのを止めて、人の道を外れることで魔術師は魔術師として生き、魔導の道を進むことができる。その障害を乗り切るためなら魔術師は何でもする覚悟を決めなければならない。そう、――――魔術を、『』へと、根源へと至るために昇華させるのなら魔術師は自分の研究を次世代へと受け継がせるために何が何でも生き残らなければならない。例え、自分を一度殺してでも……。

考えてみれば、簡単なことだ。誰も本当の顔を知らなけば、死体の偽装くらい容易い筈だ。

 

凛は改めて、魔術師同士の命の遣り取りの経験の無さ故に久郎の行動力に恐れ戦いた。十年前の第四次聖杯戦争によって父を亡くし、兄弟子である綺礼の師事の下、魔術の鍛錬を行ってきた。手を抜くような脆弱な態度で魔術を学んでなどいない。凛は、魔術師としての基礎を早々に収めた後に遠坂家伝来の宝石魔術の研究と自己鍛錬に明け暮れていた。

だが逆に言ってしまえば凛は、それ以上のことはしていないということ。遠坂凛の圧倒的に足りていないのは、他者との命の遣り取りであった。あえて経験があるとすれば綺礼が魔術とともに教えてきた実戦並みの八極拳の稽古ぐらいだった。

 

 

 

実質、久郎自身が封印指定から逃れたのは不死性を持たせる能力の限界まで殺され続けられる可能性を危惧しての行動であって、自分の魔術の保護などは二の次であったのだが、凛がそのことをしるは大分後のことになるだろう。

 

「ということは、衛宮くんは偽名も使ってイギリスに行っていた……ってことか」

 

「時計塔で登録した俺の名前は小桜(こざくら)衛宮切嗣(父さん)に引き取られる前の、俺の本名だよ」

 

勿論、最初は衛宮の名前で魔術協会に登録する予定であったが、それは主治医の人形師に止められた。二代前の衛宮矩賢(のりたか)の代……つまり、わずか四代で根源への足掛かりとなる理論を構築した偉業は封印指定の烙印を押され、その息子(きりつぐ)は魔術師の天敵である魔術師殺しとして大成したのだ。祖父、養父と悪い意味で有名すぎる家名のまま巣窟と名高い時計塔に潜り込むのは無謀であった。

今思えば、苗字のみで登録したのは本当に幸運であった。日本からの留学生が皆無であって同じ名前の者がいなかったために重複のような問題が無く過ごすことができ、憶え慣れていた名で呼ばれる分には反応に違和感がないのも大きなメリットだった。

 

「人形師『赤』の弟子未満『小桜』の死体を用意した後、衛宮久郎で時計塔に登録するのにも結構大変だったんだぞ。偽の戸籍に、偽の経歴、全てを揃えて」

 

そう懐かしむように久郎は過去の思い出を語りだした。

 

「この魔術協会の冬木滞在の証明書も偽物ってこと?」

 

「いや、それは本物。あくまで嘘は魔術協会に登録する時に都合の悪くなる部分だけ改竄しただけで、その他の書類は全部本物だぞ」

 

つまり、本物の書類を作るために嘘の経歴で組織に加入したということになるのだが、何が本物で偽物なのかは当人の判断と行ったところだろう。

 

「で、そんな重要機密を私に暴露した理由は? 聖杯戦争中だろうと冬木教会と聖堂教会との繋がり断たれているわけじゃない。寧ろ市街地のサーヴァント戦の隠蔽工作に人員をいつでも補給できる様にしているくらいよ。私がその気になれば、魔術協会に直接報告することだって可能よ」

 

「有り得ないからだ」

 

「は?」

 

「だから、遠坂が俺を魔術協会に売ることは有り得ないって言ったんだ」

 

「その根拠は、自信は一体どこから湧いてくるのかしら。私は霊地冬木の管理者としてこの土地を守る義務を負っているのよ。こんな戦争の火種そのもののような魔術師をいつまでも置いておける訳が」

 

「だからこそだよ、遠坂。俺の存在を両組織(きょうかい)が確認した場合、冬木の住民のことなんかお構いなしに奴らは、ここを焼野原にするぞ」

 

何ら躊躇無く出たその言葉に凛は息を飲んだ。それは言外に冬木市民全員を人質に取っているということ。通常の管理人(セカンドオーナー)であれば、霊地の地中に蔓延る霊脈の無事さえ確認出来れば躊躇無く魔術協会に報告しただろう。しかし、後見人である言峰綺礼の鍛錬方針から魔術師として他者を切り捨てる覚悟に関して知識として有しているだけの凛は、本物の貴族の生き残りとされる理想の父の姿しか見ていない凛には、数千数万の一般人を犠牲にしてまで魔術の研究を続けることなど、彼女自身がそれを許さない。

 

「まあ、そんな訳だからさ。遠坂にしてみれば神秘の秘匿の延長上に衛宮久郎だけ(・・)明かして貰いたいんだ。封印指定の魔術師小桜の存在なんて知らない」

 

そうしてくれるよな。その余裕溢れる姿勢に凛は、自分が久郎の張った情報という罠に嵌ってしまったことに気付いた。

そもそも、衛宮久郎は自分が封印指定を受けられ掛けた魔術師であることは本人から聞き及んでいたことだ。そして彼は、自分が能動的に戦うつもりがないとそして、教会の保護も受けたくないという矛盾にも似たことを言っていた。凛がその理由を聞かざるを得ない状況に知らず知らずの内に追い込まれていたのだ。

 

本来、他者を蹴落として最後の一組になるまでの魔術儀式の一人に選ばれた魔術師が戦いを放棄しているのにも関わらず、戦場から立ち去らないどっちつかずの状態でいる。その違和感を敢えて付かせることで凛の逃げ道を完全に塞いでいた。

 

 

「え、ええ……そうね。その方が互いのためだもの」

 

これで遠坂凛は、衛宮久郎から逃げられない。

 

手を引く機会ならあった。久郎が教会に行きたがらない理由など放置して、同盟が組めないのなら次善策で攻めればよかったのだ。しかし、もう間に合わない……。久郎の言う通り、凛と結んだ協定の内容は教会と協会が敷いた暗黙のルールとされている『神秘の秘匿』の延長上のようなものであった。違うのは、その規模と危険性のみ。

もちろん、久郎の言っていたことが全て真実である証拠はないし、実際鼻で笑ってしまうほどの大法螺であると断ずるのが自然だ。調べるのにだって、それなりのリスクが伴う。だからこそ、ここは一旦相手の言葉に乗って後日調査するしかない。兄弟子のいる冬木教会へ!

 

そう覚悟を決めた凛に久郎は、話を戻すぞと仕切り直しの一声をかけた。

 

 

 

「出来るだけ穏便にこの聖杯戦争を終わらせるってのが俺の目的だ。そういう意味じゃ、遠坂の同盟自体は悪い話じゃないけど、そこまで肩入れする間柄でもないのも事実だ」

 

「分かったわ、当面の間は互いの攻撃的接触は避けるってことね」

 

チャンスが巡ってきたと凛は、即ライダーとバーサーカー陣営との戦闘を避けるために口を開いた。正直な話、これ以上久郎のペースのまま話が進むとなると、相手の要望に対して拒むことができなくなる。

そして、凛は矢継ぎ早にこれからの行動について提案と確定を出した。

 

 学校生活内ではこれまで通りに、魔術関連の行動、仕掛け、言動、全てを禁止し、別陣営による襲撃の場合は各個で対応すること。

 学内に施されている術式については明日の夜、ライダー(とバーサーカー)陣営が処理することとし、その時間に限りセイバー陣営はライダー陣営に対して一切の干渉を禁じる。使い魔による偵察、地脈探索(ダウジング)や他陣営との情報交換を含める観察行為に類するもの全て対象となるが、後日(日の出後を目安に)であればそれらの行為は許容される。

 

以上これらの規約を守る限り、久郎と凛は互いを積極的に害することはないこととした。

 

「残りの問題は、学校内にいるもう一人のマスター候補の調査についてなんだけど」

 

「間桐と桜のことか?」

 

「間桐? ああ慎二のことね。心配しなくてもあの二人は罷り間違ってもマスターに選ばれるようなことはありえないから安心して」

 

「え……っと?」

 

その自信溢れる否、寧ろ無関心な態度とその言葉に実際に慎二がアーチャーのサーヴァントを従えて襲撃してきたことを知っている久郎は混乱のあまり、言葉に詰まった。

 

「間桐の家系は元々、この土地の魔術師ではない外来の血筋なの。それで土地の霊脈に合わなかった間桐の魔術回路は代を重ねるごとに減って慎二の代で潰えた。だからあいつは魔術師じゃないし、同時にマスターにも成れないし、桜は養子だから当然間桐の魔術も使えない」

 

「……じゃあもう一人って誰のことだ」

 

終に過去の御三家同士の事情に触れてまで解説し出した凛に、慎二がサーヴァントを従えていたことを伝えるとまた話がずれると思い久郎は一先ず、自分も知らないもう一人についての情報に主眼を置いた。

 

 

「衛宮くんのクラスメイト、柳洞(りゅうどう)一成(いっせい)生徒会長よ」

 

「一成がマスターだと!? それこそありえない」

 

「こっちだって当てずっぽうで言っている訳じゃないわ……。この冬木の地で一番強い龍脈を持っているのは円蔵山であることは知ってる?」

 

「ああ、切嗣(父さん)から聞いたことがある。あそこは日本じゃ上から数えたほうが早いぐらいの高位な土地らしいことは教えられて……」

 

というより、久郎は前の武家屋敷のような衛宮邸に住み着いたころからあの山には、薬草や山菜目当てでよく登っていた。山の中のことなら柳洞寺に住んでいる人より知っており、自然霊以外の霊的存在を拒絶する自然の結界のお蔭で雑念や怨霊のような存在が居ないのも当時の彼の目にあった疾患に良い環境であったのでよく訪れていた。

 

「そこに魔術師(キャスター)のサーヴァントが工房……いえ、あれはもう神殿と言っていいぐらいの拠点を作って、新都の住民から魔力を強奪しているの」

 

魔術師(キャスター)、七つのクラスのサーヴァントの中で暗殺者(アサシン)に次いで最弱の英霊。主に知略や謀殺に長けた魔術を使った籠城戦を得意とするクラスの英霊だ。そのサーヴァントが魂食いを行っている情報に久郎は聞き耳を立てる。

 

「確かなのか?」

 

「ええ、セイバーを召喚した次の日にはガス漏れ事故として処理されている現場から霊脈筋を辿ってみたんだけどもうさんざんよ」

 

その日の夜に強襲した凛とセイバーは、あの土地特有の結界の所為で参道以外の侵入経路はセイバーの動きを阻害されるために、正面からの凱旋を余儀なくされた。

しかし参道はキャスターの仕掛けた固定魔法陣が容赦なく襲って侵入を許さない状況であった。セイバークラスの対魔力も魔術による高度な術的効果を対象にされたものであって、純粋な魔力の塊から生じる物理的なダメージからは守ってくれない。

つまり、最低でも三日以上キャスターは魂食いを繰り返し、力を蓄えているということ。その間が長引けば長引き程にキャスターの神殿は攻略難易度を上げていく。

 

「それは厄介だな」

 

「当面の問題は、キャスターに絞るというのが私の方針よ」

 

「なるほどな。だけど、いくら柳洞寺を行き来しているからといって一成がマスターだと考えるのは無理があるんじゃないか?」

 

「だからあくまで候補よ、候補。マスターじゃなくても何か情報……、もしくはその情報を隠した痕跡が見つかれば御の字でしょう」

 

「……わかった。先ずは俺の方で探りを入れてみるから、授業が終わった放課後に今度はイリヤも交えて話し合おう」

 

正攻法でキャスターに敵わないとなれば、そのマスターの方から攻める彼女の切り替えの早さに、久郎は凛に対する警戒心を上げることとし、最後に一成の件に自分も噛むことを伝えてこの話し合いを終えた。

 

 

 

 

 

 

暖房の効いた車内でイリヤは久郎と凛の同盟以下共戦以上の微妙な関係に、いまいち腑に落ちない点があった。

 

「ねえ、お兄ちゃん。どうして態々凛に本当のことを話したの? その気になれば煙に巻くくらいのことはできたと思うんだけど」

 

「それができるのが一番手っ取り早かったんだが、ああいった芯がしっかりした人間臭い奴(お人よし)には、包み隠さないことの方が物事は上手く運ぶことの方が多い」

 

それに久郎にしてみれば、凛は魔術師としての腕前が一流なだけ、人としての性分が歪んでいない分、生半可な脅しだと対抗意識を上げて予想できない行動をされる方がよっぽど怖かった。

 

人間は複数で行動する分には集団心理が働き、ある程度の法則が出来上がって対処がし易くなるものだが、個人となると行動パターンの個体差が激しく前例が全く役に立たないことが多い。

特に凛のような、基礎をしっかり学び独学で一流に手が届く天才型は癖が強く、こちら側の思い通りに動くことの方が稀である。互いに信頼関係が成立できない以上、敵でも味方でもない位置に置いておくのが一番対処しやすいものだ。

 

「まあ、遠坂もこっちが話したことを鵜呑みにはしないだろうから、深く関わらない程度にしておけば……」

 

問題無いさ。と、続いてイリヤにアインツベルンの森までもう少しだと伝えようとしたとき、進行方向の車道に立つ二つの影が見えた。久郎が、とっさに急ブレーキを掛けた高級車(ベンツ)は、融けかけた雪に滑り甲高いスリップ音を響かせながら斜めに車体をずらし、棒立ちに立っていた二つの人影の十五メートル手前に停車した。

その人影は、両方とも久郎にとってとても見覚えのある人物の物だった。一人は、大きく日本人にしては浅黒い肌と白い髪が特徴的であったアーチャーのサーヴァント。目立つ赤い外套を着ていない黒いカーボン製の装甲のみの姿が気になったがもう一人の人物の姿に久郎はそんな疑問を彼方へと追いやり言葉を失った。

 

ショートカットに切り揃えられた茶髪に、同年代の中では幼げな顔立ちをした大人しそうな眼差し。

そして、コートとマフラーの下に着衣している穂群原学園生指定の制服に右手に持った買い物帰りであろうと思われるビニール袋を下げた、どこか昭和の女子高生思わせるその姿は、三枝(さえぐさ)由紀香。

 

―――目を盗む

 

その姿を確認した久郎は先ず、幻術によるまやかしである可能性を危惧し、窓から目を赤く光らせ三枝らしき人物の思考を盗み見る……。結果、彼女は何も感じておらず、何も考えていないことが分かった。

 

結果は最悪の状態であった。

暗示によって意識を奪われそして何より、アーチャーと擬似的な経路の繋がりがあることが分かったのだ。

 

 

「この外道め。(sword)!!」

 

「ちょっとお兄ちゃん!?」

 

車外に現界していたライダーとバーサーカーを置いて久郎は、剣を持って車を飛び出し三枝の首元(・・・・・)に刀身を添え叫んだ。

 

「「動くな!!」」

 

そしてアーチャーもまた、迫り来る久郎の首に投影した夫婦剣の莫耶を突き立てんと構え……戦況は二人の叫びとともに膠着状態に陥った。




ええ、皆さん。自分は衛宮士郎(エミヤシロウ)が大好きです。
正義バカなところも、家事大好き主夫根性なところも、お人好しバカなところも、天然なところも大好きです。

偽物な感情に苦悩し、人らしくあろうとするどこか壊れた行動理念も好きです。
この世全ての悪に皮を被られようと有りだと思います。

どのシロウも大好きです。
外道神父に引き取られ、父親に似たり、父を深く理解しようとしたり、逆に更正させようとしたり、悪の道に落ちたり、金ぴかを手懐けたり、特別扱いをされる自分に苦悩したり、
凛と仲良くなって、原作より早く師弟関係なったり、
間桐家に引き取られて、桜を守るために色々やっちまったり、

どのシロウでも大好きです。

英雄エミヤも同じくらい大好きです。かっこいいです。
どのエミヤでも大好きです。
執事(バトラー)でも、主夫でも、料理長(コック)でも、掃除夫(クリーナー)でも、大好きです。
赤弓だろうと、白弓(アーチャーリリィ)だろうと、青弓だろうと、雪弓だろうと、宝石弓だろうと、鞘弓だろうと、黒弓だろうと、蟲弓だろうと、無名だろうと、大好きです。

セイバーとして召喚されようが、キャスターとして知略を張り巡らそうが、セイヴァーとして世界を救おうが、バーサーカーとして狂おうが関係ありません

実際にいようがいまいが関係無いです。衛宮士郎という存在は、平行世界の中であらゆる可能性に満ちているんですから!!!

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