リアルがガチでやばい状況なので(意味深)
大変長らくお待たせしました(土下座)
感想で、原作との矛盾を指摘されていた部分(ライダーの自傷行為)と描写が甘かったりした部位に修正を加えました。
鈍重な更新、真に申し訳ない(恥)
バーサーカーとそのマスターであるイリヤスフィールを退けた久郎は、戦闘によって汚れた服と疲弊した肉体と魔術回路を休ませる為に、未遠川の岸辺でもう一度横になりながらライダーに辺りを警戒して貰って、自分は目を赤く光らせ、洋館である現衛宮邸を透視して帰宅しても安全かどうかの確認をする。
――――目を凝らす。
久郎が保有する十を超える蛇の目の力の一つであり、端的に言えば千里眼と称するのが一番近い。自身の望んだ場所や人を見つけることが出来、たまに幽霊や姿を隠した妖物を見抜く浄眼の役割も果たす。
能力の特性上、他者に干渉する程の力は無いが、死角からの攻撃や、敵の行動を知るときなどの透視や遠見による性能の情報収集は頗る高い。
もっとも、今夜(……というよりもう日付が変わっているため昨晩が正しいが)の場合はその高性能過ぎる目の所為で、学園でランサーを偶然見つけてしまい、目を付けられることになったのだが、久郎はそのことについては後悔しても無駄なことなので考えないことにした。
「……遠坂は、
既に誰も居なくなったガラスの工房の床には、無理矢理抉じ開けられたような跡はなく、透視を終えた久郎は赤から元の黒い瞳の色に戻し、枯れ草と水飛沫で湿気った地面の上に仰向けに寝転んでいた上半身を起こし自らのサーヴァントを呼ぶ。
「一度撤退した住居に、また戻るのですか?」
久郎の隣に立っているライダーが、久郎の行動に疑問を抱き冬木市内に潜伏するのなら隠密に徹するべきだと助言を出す。彼女の疑問は尤もなものである。敵のマスターに居場所を知られている以上、その場を再利用することは再び襲われることを意味する。
とはいえ、ライダー自身の本来の戦闘スタイルは生前の「形なき島」において二人の姉達を目当てに上陸し忍び込む若者達を返り討ちにするというもの……陣地作成スキルを持つ
しかし、自身のステータスの低さを魔術で補うキャスターと違い、ライダーには英霊の戦闘行動を束縛するほどの魔術を収めてはいない。神代を生きた者として彼女の宝具の派生である結界系統の魔術を中心に基礎の魔術等を嗜み程度には知識はあるが、今回の戦争には情報収集くらいにしか役立たないだろう。
それはライダー自身の戦い方が、自分の存在を敵に故意に知らしめ、女神から怪物へと姿を変えた自分を狙いに、愚かにも釣り合うことのない腕試しをしに来た唯の人間との戦い……否、強者が弱者を喰らう『蹂躙』であることで成立する戦法であることを示している。
久郎と共に、ランサー、バーサーカーと対峙し、互いの得物を交えた結果。敵のサーヴァントは自分と同等かそれ以上の英霊であることは間違いない。マスターとの感覚共有でステータスのみ判明しているセイバーも同様であり、他陣営が互いに争い疲弊しきったところを宝具で追撃するといった。漁夫の利を狙うのなら自分にも勝機はある。しかし、現状では敵に居場所を知られていることはデメリットにしかならない。万が一、結託されて二体以上で攻められた場合ライダー一人ではマスターを守りながら捌き切れるかどうかわからない。もっとも、あの規格外なバーサーカーとの白兵戦を可能とする久郎を圧倒する英霊など、数えられる程であろうが。
当然、ライダーに自信が無いわけではない。相性の良いマスターから送られる魔力供給によって生前の全盛期とほぼ変わりのない程力が漲っているこの状況で臆することは何もない。が、しかしそれを加えても他の英霊が規格外過ぎることを考慮すると悠長に居を構えて敵に居場所を知られているのはやはり芳しくない。
慢心は身を滅ぼすことを自らの生涯を以ってして学んだ彼女の経験そのものを込められた警告の意味合いも含まれていたのだろう。それ故の助言なのだ。
だが、久郎は―――。
「あぁ。よりにもよって遠坂……敵のマスターが俺を敵視している以上、居場所を知られているのは痛いが、あそこは俺が持っている住居の中で一番強い霊脈を持っているから、工房を構えるのならあの洋館が一番なんだよな」
ライダーの提案に対して、絶対の自信を持って答える。
ライダーを召喚する前にランサーによって結界が破壊された前例があるがアレは、久郎自身の魔力と霊脈から吸い上げた供給魔力だけで結界を発動させていたことが原因であった。
そもそもカード型の魔法礼装は起動させること自体、本来ならば膨大な魔力を必要とされる『魔法』クラスの代物である。そのため、久郎は日常的にカードの魔力供給を行い、礼装そのものに魔力を蓄えさせて命令を詠唱し備蓄した分だけの魔力を消費させる。
それだけでも、並の魔術師には生涯を掛けても到達できない奇跡を起こせるのだが、魔力不足によって効果範囲の規模が狭まっているのが現状である。
本来、その魔力不足を補うのが、人とそれに近い精神の形を持つ者達の魂を圧縮し物質界に繋ぎ止めた高エネルギー体……『賢者の石』。
衛宮久郎の「魔法」は、
無限に広がる平行世界へと繋ぐ穴を開け、そこから魔力を集めるゼル爺の『宝石剣』と、魂という魔力の根源そのものを肉体の枷から外し存在を確定し物理的干渉を行うことを可能とする久郎の『賢者の石』。魔力供給においてこの二つは、永久機関的性質を持つ。
しかし、膨大な魔力を有するそれは『素材』の件もあって同時に異形の者達を引き寄せる。
それ故に、各三つの魔術協会と聖堂教会から追われたこともあり、久郎は賢者の石の使用を控えて切り札としていたのだ。
即ち、今の彼の状態は、無限に銃器の弾と
「……マスターの命令であるのなら私はそれに従うのみです」
「安心しろ、ライダー。慢心なんかする積りはないさ、自分の実力は誰よりも理解している」
納得はしていないが、先ほどの自分でも相手取るのに躊躇してしまうほどのバーサーカー相手に互角以上に死闘を尽くした久郎の真っ直ぐな言葉に、ライダーは再び警告をすることなく忠実にマスターの後ろに付き従い、自らの主の背中を見守る事とした。
「さてと。結構、家から離れちゃったな」
「待ってください。マスター」
遠坂が洋館に必要以上の干渉を施していないことを確認し、既に日付けを超えたであろう夜空を見上げた久郎は、洋館の方角に頭を向けると懐から鳥の絵柄の描かれた礼装を出そうとするが、釘剣を手に持ったライダーに遮られる。
「今夜は、度重なる戦闘に疲労も相当溜まっている筈。これ以上の魔術の行使は貴方の負担となるでしょう」
ですからと、ライダーは釘剣の切っ先を自らの首に添えた。
「ライダー?」
その凶器を以ってして自傷を行おうとしている彼女の様子に久郎は理解が追いつかずに疑問の声を上げる。
「っ、……く」
「……!?」
息の詰まったようなライダーの呻きと釘剣が彼女の肌と肉を貫いた鈍い音が同時に久郎の耳に届いた。目を開いて驚くマスターの表情にライダーは気付くことなく彼女は、自らの首に突き刺した釘剣を引き抜き動脈から深夜の寒冷と暗闇の中であろうとも判る赤く生暖かい液体を彼岸花を思わせるほどの勢いで噴き出したのだ。
飛び散った血飛沫が久郎の頬に数滴掛かる。
「おい!? 何を」
やっているんだよ。馬鹿!? と自分のサーヴァントの行き成りの奇行に、久郎は怒鳴り散らして首に掛けた賢者の石を掴みライダーの傷口の治癒を行おうとする。しかし、それは彼女から流れ出た血液の大半が久郎の
陣が完成し眩しい程の余剰魔力によって漏れる光から力強い蹄の音と猛禽類よりも遥かに大きな翼の羽ばたきが飛び出し久郎の目前を通り過ぎ空へと翔ける。
通り過ぎた閃光を追って空を見上げたその先には―――。
「……あれは、まさか!?」
「あの仔は生前、私がかの地に追いやられ、その後も我が身が化生に堕ちたその時まで共に苦楽を過ごして来た相棒です」
荒い鼻息を鳴らし、物理的に不可能な飛行によるそれは周りの空気が神秘の奇跡により矛盾した気流を生み出していた。どこまでも白く尊く純粋なこの世の物ならざる幻想による想像上の気高い獣。
神秘の薄まった現代では、その存在の大半が世界の裏側に存在する魔界に移住し、人の目には姿を映さなくなった神話上のモノ。
天高く翔ける天馬―――その名をペガサス。
本来、どれほど成長しても魔獣クラスに属する幻想種であるが、久郎の視界に納めれている個体はライダーと共に神代を生きた永らえ、長く語り継がれ続けられた神秘を備えており。その大きさもさることながら、その身に宿る魔力は既に幻獣の域に達している。おそらく守りに関しては最強の幻想種と名高い竜種にも届くであろうかと思われる程の神秘を有しているのを肌で感じる。
「………どうして迂闊に宝具を出したんだ?」
その、神々しさと自身の持つ賢者の石と同等の魔力を放つ幻獣に久郎は見とれながらも、すぐに頭を冷やしライダーを攻めるように睨んだ。
宝具の開帳は、その規模と種類にもよるがマスターの魔力を少なからず浪費する上に、真名を明かす危険性を孕む。この場を敵の陣営に見られている可能性を考慮すると、彼女の行動はけして褒められたモノではない。しかし……。
「いいえ。この子は私の宝具ではなく、武装の一部でしかありません」
旋回し、地に降りたペガサスはライダーの傍に甘える子猫のように顔を擦り付ける。ペガサスを撫でるライダーは誇らしげに語る。
曰く、彼女の宝具は自身を背に乗せ駆ける獣の力を最大限に引き出す黄金の手綱であるとのこと。
更にライダーもやってみたことはないが、その気になれば騎乗が可能な獣であればどのような動物であろうと使用は理論上可能であるという。
ペガサスの召喚に使われる魔力も、戦闘であるならいざ知らず。ただ飛び回るだけなら消費される量も微々たるものらしい。事実、久郎も令呪から繋がる契約のラインから吸われる魔力も大した量ではなかったのは久郎自身が一番良くわかっている。
「……取り敢えず、そのペガサスが宝具じゃないのは分かった。だけど」
ライダーの説明を聞き、納得した様子を見せた久郎は自分の頬に掛かって召喚の陣を描くのに使われなったライダーの血を拭った時についた血に染まった手の甲を見る。
「召喚の度に毎回、それをするのか?」
怒気を含んだその声に対し彼の表情は、何かを堪えて、今にも泣きだしそうな幼子を思わせるほど崩れそうなほど悲しげに歪みかけていた。
「いいえ。この度は、マスターの酷使した魔術回路の起動を避けるために私自身が保有する魔力を使い召喚の陣を刻むのに一定量の魔力を含む液体が好ましいので……この方法を取りました。普段のマスターから供給される魔力の量でなら自傷を行う事無くあの仔を召喚できます。……あの、マスター?」
『それ』とは、陣を形作るのに必要となる血液を流出させる自傷行為のことを指しているのだろうとライダーは肯定の意を示して言葉を紡げば紡ぐほど顔を深く俯かせる久郎の様子に罪悪感を覚えた。ペガサスから離れて恐る恐る俯いたマスターの方に近づく。
「……分かったよ、ライダー。俺なんかを気遣ってくれて、ありがとう」
「恐縮です」
「でも、今度からは何をするのか俺に一言伝えてから、納得のいく説明を加えてくれ。正直心臓に悪い」
「申し訳ありません。マスター」
互いに、相手を思いやるが故に相手を傷付け合っていた。そう表現するのが適切であろう。よりにもよって衛宮久郎は、自分のサーヴァントが傷付くことを無意識に恐れていたのだ。
久郎は、聖杯戦争に参加するマスターとして矛盾している自らの思考に驚いていた。命を救われたとはいえ、たった数時間の関わりであったのにこうも感情移入するとは、自分がいかに魔術師として向いていないことを自覚させた。
しかし、十年ぶりに世界の在り方故にその成り立ちが異なれど同類との邂逅に打ち震えていたのだ。例え過去の存在であろうと矢張りライダーがあの『メデューサ』と呼ばれる存在であったことが久郎の同族意識を刺激している。
いずれ消え失せるサーヴァントを身内として見る。それは、万能の釜である聖杯を求めた歴代のマスター達から見れば失笑される感傷として捉えられることだろう。
それでも構わなかった。家族を三度失った久郎にとってライダーの存在は孤独に対する特効薬であり。また、劇薬であった。
「よしっ。じゃあ、ライダー。俺は魔術を嗜む者として神代のペガサスの召喚陣に興味があるからもう一度見せてくれ。それで御相子だ。……丁度いい場所があるし、そこに描いてくれ」
ライダーに今まで見たことのない太古の召喚陣に興味が移ったように明るく振る舞う久郎であったがその心情は非常に危ういものであった。
家族が、仲間が目の前で傷付いてしまった。その原因が、己が敵のサーヴァントとの激戦を繰り返したことによる魔術回路の酷使しそれを気遣ったライダーの善意。その優しさに久郎は嘗て自身を擁護し散って逝った保護者達の姿を重ねて、知らず知らずの内にライダーに対する警戒を緩め寧ろ、親密に感じるようになり信頼を寄せていた。
この甘い性格は、今に始まったことではない。魔術の師であった
根源に渇望し、人の身を捨てることを是とする
「―――マスター。書き終わりました」
「ああ……」
ライダーが釘剣で陣を描くのに左程時間は掛からなかった。時間にして五分前後といたところだろう。ペガサスの毛並や翼の羽毛を堪能する間もなく、久郎は、ライダーの足元に刻まれた幾何学模様を暗記するために心地よく柔らかい天馬の体から名残惜しそうに離れた。
―――目に焼き付ける。
赤く染まった久郎の双眸に映った魔眼の視界に召喚陣の全容を映し終わること僅か二秒。
自信の体験した知識、内容、心情、状況、情報、環境、感情、情勢、全てを記憶に焼き付けて『記録』する目に焼き付ける能力。
それは、その能力の所有者を疑似的な瞬間完全記憶能力者にする記録の魔眼。
嘗て、久郎自身がもっとも愛し、そしてもっとも恐れた能力の一つ。
しかし、この魔眼のお蔭で衛宮久郎は、切嗣の魔術指導の基礎を通常年単位で習得するところを僅か数か月で学び尽くし、切嗣の人生そのものと言っても過言ではない暗殺や、銃の扱い、偽造パスポートの作り方や裏の人間同士の繋がりについても実質一年以内にすべてマスターしてしまったのだ。
当然これらの習得には他にも、対象の思考や記憶を読み取る目を盗む能力や、子供の体には負担の掛かる体術には体を不死身に作り変える目を醒ます能力といった他の能力を組み合わせることで出来た裏技のようなものであった。
目に焼き付けた陣の模様がしっかり記録されたことを確認すると久郎は、手を合わせて地面に翳しライダーの釘剣によって刻まれた陣の溝を錬金術の基礎である変化の魔術で均し元の状態に戻した。
「もうよろしいのですか?」
「ああ、もう覚えたから大丈夫だ。じゃあ早速、送らせて貰おうかな。この冬木の空へ寄り道しながら、俺の家まで」
余りの素早い行動に、ライダーは疑問を浮かべるも、落ち着き払った久郎の様子を見て見栄ではなく本当に覚えたのだと察し、ライダーは先にペガサスに騎乗して久郎を前座に着かせて振り落とされないようしっかり抱きしめながら衛宮の洋館まで空を翔けたのだった。
「―――驚いたよ。まさかあれ程の幻想種をこの、目で……見られる。とは……思わな、かったから……」
ライダーの
湯浴みをし、体の疲れを癒した久郎は、日課となっていた朝食の仕込みをしないまま寝室に飛び込みベッドにもぐりこむとライダーを呼びペガサスに乗せて貰ったことのお礼を言い敵のサーヴァントが近づいてこない以上霊体化しているように頼み、直ぐに眠りについたのだった。
「……今の私はマスターに守られる。サーヴァントのような有様ですね」
安らかに寝息を立てる久郎の傍らに、ライダーが霊体から実体を持って現界し、自身の現状を見て半ば愚痴のようにその言葉を零した。
とはいえ、ライダーは衛宮久郎に不満があるわけではない。パスから流れる魔力の質も量も相性がよく一級品であり、魔術師としての戦闘の腕も相当なものであり。むしろ、上々以上に極上過ぎるという我が儘な願いであるのは彼女自身が一番理解していた。
詠唱も無く。ただ母親を呼ぶ、その声に応え召喚に応じたライダー。自身のマスターを初めて見たそのときから、親近感を覚えていた。触媒が見当たらなかったあの状況から察するにこの少年そのものが触媒となって自分を呼んだことは、自ずと理解できた。
決定的であったのは、蛇の言葉を喋ることのできるその特異な能力とセイバーとそのマスターから逃れる際に使用した魔眼、そして並の魔術師では一生涯掛けても関わらないであろうと思われる高度な礼装の数々であった。
神秘溢れる神代の時代ですら、ライダーの身に宿った異能は周りの社会から疎まれ、恐れられて小さな孤島に追放されて力に振り回され、それを抑えきれずに化け物と化した自分の一生の最後は無残なものであった。
そんな、一生をこの少年も送ることになるのであろうか?
この屋敷には、マスター以外の人が生活している形跡は見られない。
聖杯戦争が終わり自分が座に帰った後、彼は、この大きな屋敷で最後まで人としての幸せを知ることが出来るのか?
それとも、自身と同じくその逸脱した能力故に社会から抹殺されて、心を壊され怪物に転じ愛するものを手にかけ
る。そんな少年の未来をライダーは幻視した。
「そんなことは、させません」
余計なお節介かも知れない。もしかしたら、彼は幸せを既に掴んでいて自分はそれを知りたいだけなのかもしれない。
それで構わない、どうせ聖杯に願う願望など持ち合わせていない身。最後まで、このマスターに付き従えられるのなら…………。
「……えへへ。、 さん」
良い夢を見ているのだろう。無防備に目を閉じながらも口元を釣り上げて笑みを零しながら寝言を言う。子供特有の幼さを残すその寝顔にライダーは愛着以上の感情で久郎の顎を押し上げ、自然に出てきた唾を飲み込む。
それは、血液を糧とする吸血鬼である死徒とは異なるものの嗜好品として吸血を営む吸血種としての衝動。
半ば肌蹴た寝間着から覗く首筋に見惚れ、普段は口内に隠れる犬歯がその欲する行為に適した長さまで伸びる。
「………………、一口だけ、一口だけですよマスター。……失礼し――――――――」
「う、ん……眠い」
夜が明け、天気の良い青空が広がり太陽の光が部屋の窓から差し込み始める。
壁に掛かっている時計を見ると時刻は、七時半を過ぎていた。目覚ましを使う必要のない習慣を送っているが今日は『日曜日』、焦ることなど何もない。夢見が悪く魘されたのか寝汗がシーツに染み込み掛布団の中は暑苦しく群れていた。手を合わせ水分と布団に付いた雑菌を分解してベッドから起き上がる。
『マスター、お目覚めになりましたか』
「おはよう。ライダー」
『一日中、寝ていたので心配しました』
「そうかー。一日中……寝て?」
ライダーの言葉に寝ぼけ眼に扉に手を付きながら応えていた久郎が開けようとする姿勢のまま固まる。油を差し損ねたブリキ人形のように振り返る。自分の机を見て、いつも置いてある魔眼殺しの眼鏡が無いことを思い出した。ランサーに襲われたガラスガーデンの工房で失くしたままであったのだ。
「………………
代用で自らの投影魔術で間に合わせの魔眼殺しを掛けると久郎は、あくまで冷静に今の状況を確認する。
階段を下り、一階の居間にあるテレビに移される日時を確認し今が月曜日の七時四十六分であることを知って霊体化しているライダーに話しかける。
『そ、そう、なりますね』
「そっか、今日学校か。―――寝過ぎたせいか眠気が収まならないな。仕方ない」
どこか歯切れの悪いライダーであったが久郎は気にすることなく寝間着のまま顔も洗わずに台所に入った。
冷蔵庫にあった自作の果汁ジュースを飲み込むと久郎は、再び自室へと戻り制服に着替えるとそのまま
「
魔術回路を起動させ、鏡の中に魔力を送り込むと鏡に映った
衛宮久郎(クロウ)が二人になった。
「じゃあ、いつものように頼むな。……後それから―――」
手慣れた手つきでクロウを取り出した久郎は、多くを語らずに命令し目を赤くして互いの額を合わせる。
―――目を掛ける。
自分の気持ちや体験した出来事を伝える魔眼で、久郎は使い魔やカード型礼装に命令を送るのによく使っているのだ。
「……はい、わかりました」
クロウは、受け取った内容を吟味し久郎の机の脇に置かれている鞄を掴むと再び鏡の中に入り込み、「行ってきます」と声を掛け鏡を揺らがせ、消えて行った。
『………………………………………』
目の前の光景を見たライダーは霊体化したまま絶句し、もし彼女を見る者がいたらバイザーで目元を全て覆い隠していてもその顔が驚愕に染まっていると分かるほど大きな反応を見れただろう。
「ライダー、もう一眠りするから十二時になったら起こしてくれ」
パスを通じてライダーの感情が伝わってくるが久郎は制服を脱ぎ、もう一度寝間着を身に着け、頭まで布団を被り眠りについた。
朝の登校時間、今日の穂群原学園は甲乙付けがたい緊張感に
校門に赤いコートを着た遠坂凛は、自分のサーヴァントであるセイバーと共に一昨日の一件で同級生衛宮久郎に詳しく話を聞こうと、いつもより一時間早く学校に付き登校してくる生徒を一人一人じっくりと目的の人物を見落とさないよう、見張っていたのだ。
しかし、相変わらず凛はきつい視線を光らせ校門を通る学園生を睨み付ける。
その視線に、登校してきた生徒たちは彼女の鋭い視線に萎縮してしまい、雑談に講じていた集団や朝の部活動の生徒など個人団体問わず全員が目を合わせないよう口を噤み早歩きで各々の昇降口を目指した。
そんな、彼らの様子を気にかけることなく遠坂凛は目的の人物がいつまで経っても現れないことに更に苛立ちを募らせる。
「…………遅い」
時刻は八時十分、予鈴が鳴り響きいつまで経っても現れない久郎を恨めし気に愚痴を零した。自分の後ろに立つセイバーに視線を送るとセイバーがかぶりを振り自分以外のサーヴァントが、この近辺に居ないことを知らせる。
「あいつ、まさかもう敗退した訳じゃないわよね?」
その言葉に、不満と追及以外の感情が知らず知らずの内に込められていたのは本人にも気付いていなかった。
同時刻、この時間帯には滅多に使用されない為、人気のない一階の男子トイレの洗面台の鏡が怪しく水面のように揺れていた。
「えっ! 今日、衛宮くん出席されているんですか?」
「そうよ。珍しく今日は、予鈴ギリギリに来ていたみたいだけどね~」
昼休み、月曜の四時間目が二年C組担任の藤村先生であったことが幸いし、凛は早速確認するため件のマスター衛宮久郎のことを問うてみると、案の定彼は出席していたようだ。
後ろの席に座っていたセイバーが立ち上がり、先に廊下へと出る。
「そうですか。態々引き留めてすみませんでした」
「うふふふふ、いいのよ。遠坂さんって質問とかあまりしてこないからね。……ああそれと」
「はい?」
「頑張ってね!!」
授業では、プリントの誤植、誤字や誤訳の指摘ばかりの凛に頼られて嬉しい藤村大河は、徐に親指を立てて凛に激励を送った。
行き成り、接点のなかった男子生徒の出席を気にする女子生徒という状況を勝手に誇大解釈したその純粋に楽しそうな教師の様子見た凛は……。
「ええ、全力でもって行かせてもらいますので」
あくまで、完璧な優等生としての笑顔で以って答えたのだった。
同じく昼休み、二年C組の教室で穂群原学園生徒会長こと柳洞一成は、同級生と共に自分の肉っ気のない茶色い弁当に箸を突いていた。家柄というか寺の子として肉の類をおかずが入ることのない昼食に不満を漏らしているのだ。
勿論、日本では寺の関係者が肉食を断つことが義務付けられていたのは明治五年までのことであり、現在では各寺の僧尼も一般人と左程変わらない生活送ることができる。
しかし、柳洞寺の住人である彼の両親は寺の住職兼管理人を代々務めており、所謂古いタイプの日本人であり。継がれている古き習慣に趣を置いておりその中の仏教において生物の殺生を禁忌とする戒律から生まれた『菩薩戒』。即ち肉食を断つ習慣を始めとしたあらゆる風習を現代に渡って守り続けているのだ。
そのため息子の一成もまた育ち盛りの学生の身でありながら近年より、注目されつつある老人が健康である秘訣のような素食……
「休みを挟んでいるとはいえ二日続けて、衛宮が弁当を忘れるとはな」
いつもなら、お互いのおかずを交換して動物性タンパク質を補給するクラスが居ないため、一成は気を紛らわせるために口を動かす。
「朝の寝坊のダメージがこんなところにまで及ぶとは、衛宮も中々抜けているところもあるんだな」
「まあ、皆勤賞を目指している衛宮には、遅刻の一つが命とりであろう……それにしても、今日は何やら教室の外が騒がしいな」
二年C組の廊下に人だかりが出来ていた。それは、この学園のミス・パーフェクト遠坂凛が昼飯片手に誰かを待つかのように壁に背を預け、両手を組み、右人差し指が忙しなく肘を叩いていたのだった。
時間も押してきたのか。ついに、凛は二年C組の扉付近に集まっている生徒たちに声を掛ける。
「……っ、すみません。ちょっとよろしいですか?」
そのほとんどが委縮する中、一人興が乗った後藤劾以は廊下へと踏み出す。
「これはこれは、遠坂の。拙者でよければ……して如何様な用件で御座ろうか?」
「ええ、実はここのクラスにいる衛宮くんに御用がありまして」
「衛宮に、だと? ……ああ! 藤村女史の言付であれば
毎回映画や、劇、漫画、アニメの気に入ったキャラクターの口調を真似る彼のアイデンティティーが一瞬崩れそうになったが、あの衛宮が遠坂に気に入られる要素が無いことで踏みとどまり、彼女の言葉を冷静に分析し角を立てないように答えた。
「いいえ。私の
『……』
その爆弾発言に後藤少年だけでなく、教室内と廊下にいた生徒全員が絶句しており沈黙が支配していた。
「あの、どうかしましたか?」
「……あ、! ああ失礼した。この日の時間帯に教室に居らないのなら、間桐妹と共におる筈であるので一年の教室へ向かうことを薦める」
「有難う御座いました。それでは」
二年C組のクラスメイト全員とその廊下に偶然居合わせた生徒に盛大なる誤解を与えたまま凛は、颯爽にこの場を後にした。
「ちょっと衛宮くん。よろしいですか?」
一年の教室前に付くと凛の目的の人物はすぐに見つかった。紫の髪を持つ気の弱そうな後輩と廊下で親しげに話し合っており、その悠長な態度が更に凛を苛立たせる。
「遠坂……ああ構わないぞ。じゃあ。桜、今夜の夕飯を楽しみにしているぞ」
「あっ、せんぱ」
桜が不満げに何か言い掛ける。が、凛はクロウの手を思い切り鷲掴みにしながら屋上へと向かう。
「さてと、衛宮くん自分がどういう状況なのか分かっているのかしら?」
二人が屋上に上がり、出口を塞ぐように立った凛は猫かぶりをやめ、人払いの魔術を使った後左手を構え魔力を通して刻印を輝かせる。
「状況……と申しますと?」
「? 聖杯戦争に参加しているマスターなら霊体化させたサーヴァントを連れて歩くのが常識でしょうが」
雰囲気の変わったクロウの様子に違和感を覚えるも、凛は死にたくなければ自分のサーヴァントを出せと脅しに掛かる。
「失礼ながら申しますが、私はマスターではありません」
「!?…… そう、あくまで一般人を気取るんだ。ならここで降りなさい!」
白を切るような態度を崩さないクロウを見た凛は、指先に魔力を糧に作られた黒い呪いの塊……「ガンド」の散弾をクロウに浴びせた。
「ご無事ですか。リン」
「? 、!?」
しかし、そのガンドは、クロウの体に命中したのにも拘らずその魔弾はノーモションで光の反射のように撃ち返されたのだ。屋上の端に隠れていたセイバーが凛の前に滑り込み、対魔力スキルを発動させ無効化する。
「やれやれ、いきなり攻撃してくるとは酷いじゃないですか。普通の攻撃が効かないとはいえ、驚きますよ」
自分のガンドを弾き返された凛は、自分がどれほどの規格外な相手をしてきたのか思い知る。無抵抗であったとはいえ、明らかに本人とは異なる口調を持った、それは衛宮久郎の姿を借りた別の存在であることはすぐに理解できた。
故に凛は尋ねる。
「アンタは一体
「おや? 無謀の割に良い感をしていますね。まあ敢えて私の身分を明かすなら……
衛宮久郎の姿を借りた別の存在はセイバー陣営の主従から浴びせられる敵意を受け流し、悪戯の成功した子供ような笑みを向けるのだった。
衛宮邸、対敵対者不審者及び英霊用要塞化兼、計略地計画★ 始動せよ!!(楽しい)
あ、若干オリジナル入っているのは毎回の事なのでお気になさらず。
記憶チート、体験再現チートが発覚しました(棒)
少しずつですが頑張って行きますのでこれからも「偽・錬鉄の魔法使い」宜しくお願いします(礼)