学園異能大超人 モブキャラ視点   作:l:pさあびす

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執行 神仏殺し/六月二五日

 

 『異能』

 

 それはある日突如として現れた、人類の進化の形。

 当然、現れ始めてからはその神秘さ故に、差別的なこともありはした。

 しかし、同時に神からの侵攻を受けてそれどころではなくなった。

 瞬く間に侵略される領土を前に人類は異能者に希望を託した。最後の希望だと崇めたてた。

 

 ……それはすでに三十年以上前のこと。腐った連中は首をそろえて死に絶えた、高尚な魂を持つ彼らは理想の中で死に絶えた。

 残された我らは、ありもしない未来のために今日を駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

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 この冴えないモブキャラは誰か。

 はいそうです俺、広井かのんです。

 例の模擬試合から早三日。今日もモブとしては満点だと思う。

 

 夕方、コンビニの帰り道の少し大き目な廃工場。そこでラノベ一巻の終わり際みたいな現場に出くわした。

 主人公くんとヒロインちゃん、明らかに神っぽい人がバチバチに睨み合っていた。もうそこまで行ったんだ。

 確かにこの廃工場、いつかは舞台になりそうだなぁとは考えていたが本当になるとは。この李白の目をもってしてもなんとやらだ。

 

 さすがに堂々と見てる訳にもいかなかったので窓からのぞき見。

 これこそモブキャラ奥義が一つ。『影薄くて気が付かなかった。……えっとなんかごめんね』の威力は。

 別に悲しくなんてないんだからねっ。

 

 廃工場の中を改めて観察してみると、主人公くんの後ろにはヒロインちゃんと見たことがない新顔の幼い女の子。対するは、半裸の神だと思われる男。

 まさか主人公くんロリコン属性まで持っているのか? 恐ろしい子。

 そして何故かボロボロになっている主人公くん。擦り傷、かすり傷、血がそこら中から流れている。医療知識が無いからわからないが、おそらく左腕も骨折しているだろう。

 

「この子は渡せないよ。僕はやっぱりこっちのほうが性に合うみたいだ」

「ならば認めよう。汝が我の敵であると。確固たる敵であると」

 

 ほう、なんか最終局面って感じだ。

 

「やめて、カナタ! あんたじゃ敵わない。死んじゃうのよ!? アレは神、それも相当格が高い神!」

「大丈夫だよ、契。勝つ勝たないじゃないんだ。もう後は殺すだけ。僕の持つ異能は、そういう風にできている」

 

 ナチュラルに名前呼び合ってるし、好感度上げ早いな。もうそんな仲かよ。

 人たらし適正が高すぎる。

 やっぱり主人公だよ彼。

 

「九つの血盟を超えて僕は君のため、君を殺そう。アイヌ神謡が太陽神『トカプチュプ』」

「……成程、名の通った神ではないと自負していたが。半身から聞いたか?」

「いいや。単なる推測だよ、正解だったみたいだけどね」

 

 神の名前看破したのか。そりゃすごい。

 神話学がカリキュラムに組み込まれているほどには学校では必須知識だけど、マイナーどころもあって看破には結局専門の学者を呼んでるぐらいだ。主人公くんの知識はかなりあるんじゃないか?

 そもそもアイヌ神謡って、民族神話の中だと一番表記ゆれが酷かったような気がするし。すごいな。

 

「じゃあ始めよう」

「では終わらそう」

「「くそったれの聖戦を」」

 

 開戦の合図は特になかった。

 しかし、まったくの同時に二人は動き出した。

 

 神は手のひらサイズの火球を飛ばした。

 あのサイズだとしても神が生み出したものだ。

 ここら一帯が吹き飛んでもおかしくない。

 とっさに身を屈め、防御の姿勢をとった。

 

 しかし待てど暮らせど衝撃はない。

 いや、あった。

 予想よりもずっと軽い衝撃が。

 

 その着弾地点は軽く抉られているだけだった。

 なんだか明らかに威力がない。キレも悪いし、下手すれば模擬試合の時のヒロインちゃんのほうが強そうなぐらいだ。いくらマイナーな神話の神でも、神は神だ。強さに差して関係はない。

 故にここまであからさまに弱いのは滅多にない。それこそ、教本用ビデオで見た『戦いに不向きであった』と神話自体に記述された神よりも弱い。

 

 当然それを躱した主人公くん。

 ボロ雑巾のような状態だからか、その体は重そうだ。

 

 まさか、あの神はわざと負けようとしている……?

 それにしては表情が本気そのものだ。

 だとすると、新顔ちゃんかヒロインちゃんの仕業と見た。

 

 結局、呆気なく主人公くんに近づかれた神。

 初めて主人公くんの異能を見る訳だから少しワクワクする気持ちもある。

 

「トカプチュプカムイ。俺を敵と認めてくれてありがとう」

「来い。これが最後だ」

「ああ」

 

 決着はあまりに早かった。

 最後に神が繰り出したアッパーをすれすれに躱し、その右手は体にそっと触れた。

 

「よい。許す」

 

 そして一言。吠えるように、祈るようにたった一言。

 

 

 

「――神仏殺し、執行ォ!」

 

 

 

 その言葉は、明確な衝撃を生み出した訳ではなかった。

 特段、神を殺せるほどの何かがあった訳ではなかった。

 しかし、変化はあった。ポロポロと神の外郭が崩れていく。体の中から漏れ出した光の粒子が空気中に溶けていく。

 つまり神は死んだのだ。今この瞬間、人類に牙を剥いたアイヌ神謡の太陽神トカプチュプは神殺しの一撃を以て没したのだ。

 緩やかに、軽やかに。それはまるで恐ろしき死ではなく、元居た場所に帰るための支度のように。

 

「――さて、負けか」

「……ああ、勝ちだ」

 

 主人公くんは全身ボロボロ。神のほうはほとんど無傷。

 これじゃあどっちが勝者かわからないほどだ。

 そして神は、散歩に行くようにゆっくりと歩き出した。

 

 主人公くんの横通り過ぎ。

 ヒロインちゃんの横を通り過ぎ。

 新顔ちゃんの横を通り過ぎ。

 

 夕暮れの、太陽に向かって歩く。

 

「半身、先にいく」

 

 ――それを最後に姿が消え失せた。

 振り向きざまにその神は笑っていた。まるで憑き物が落ちたようなスッキリとした笑いだった。

 ……当たり前だが神にもそれぞれの感情があるんだな。

 

 

 

 余韻があった。

 神にしては弱かったが長い長い、あまりに長い余韻があった。

 しかし、それを打ち切るようにして。

 

「さて、そろそろいいかな」

 

 声を上げたのは新顔ちゃん。

 

 あの神の死を皮切りに新顔ちゃんの存在が少しずつ強くなっているような?

 なんだろうか、確証は持てないが威圧的な何かが増えている感じがする。

 先生呼んできたほうがいいか? でも二人がいるし……。

 

()()()()()()が死んだ。当然、わたしもその影響を受ける」

「どういう事だい?」

「半身とは権能を分割した間柄。片方が死ねば、当然行き場を失った権能は回帰する」

 

 権能が分割された神格なんて、俺の知識には無いから真偽はわからないが、本人が言うならそうなんだろう。

 

「ごめんね二人とも。それとありがとう。わたしはもう、満足だよ」

 

 まさか新顔ちゃんは死のうとしてるのか?

 

「そんなっ、そんなことを言わないで! まだやりたいことが残っているでしょう? まだ見たいものがあるでしょう? なのに!」

「いいのよ。わたしの役目は終わったの。半身を止める、ただそれだけのためにわざわざ民謡の中から出てきたのだから」

「だったら、あたしの権能でッ」

「駄目よ」

「いやだ。嫌に決まってるっ!」

「神は敵でなければならない。だってそうじゃないとあなたのやってきたことが、偉業でなくなってしまうから」

「そんなの先人が決めたルール。あたしは殺人者と蔑まれてもなんとも思わないから!」

「例外は例外でなければならない。その例外もこれで最後。そう思いなさい」

 

 まるで母親のように諭した新顔ちゃん。

 確かに、神の威厳がある。人を導き、手放す神としての威厳が。

 

「カナタくん。もう、わたしの名前、分かったかな?」

「……その覚悟確かに受け取った。アイヌ神謡が太陽神『ペケレチュプ』……君を、送ろう」

 

 手を差し出して、手を差し出される。

 奇しくも握手でその処刑は行われた。

 

「神仏殺し、…………執行」

「ダメぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 少女の悲痛な叫びは届かなかった。

 いいや届いていた。

 けれど、その悲鳴を聞き入れてしまえば最後、絶対の境界が揺らいでしまう。

 故に殺すのだ。神を殺すのだ。人類の敵を殺すのだ。

 

「どうか、あなた達の行く末が、少しでも善きものであります様に――」

 

 ――apunno paye yan(さようなら)

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!?」

 

 ヒロインちゃんの絶叫。

 相当あの神に入れ込んでいたらしい。もしくは身内が死ぬことに何らかのトラウマでもあるのだろうか。

 もちろん、俺も今のを見て思わないことがない訳じゃない。ただ、この反応は少し度が過ぎている気がする。

 

 

 

 

 

 ……………………………………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 暫く経って、どうやらヒロインちゃんも落ち着いてきたらしい。

 大体、十分強。あの取り乱しようにしてはかなり復帰は早いほうだろう。

 

 ゆっくりと起き上がり、近くで黄昏ている主人公くんの近くに近寄る。

 

「あんたそれでよかったの?」

「彼女の覚悟、分からなかった訳じゃないだろう?」

「だったらあんた、……何で泣いてんのよ」

「まだ心までは殺しに慣れていないだけだよ。……あー、あれだ、怖すぎて泣いてるんだ」

「下手くそね」

 

 それは完全にヒロインちゃんと同意見だわ。嘘下手過ぎる。

 

「――そんなもの、慣れたらダメよ。もう、こんな悲しいだけの結末だけは忘れちゃダメなんだから」

「……殺したこと、恨んでないのかい?」

「恨む。一生恨む。けど、恨んだところで私の異能はタイムリープじゃない。だから良いの、そう納得したから」

 

 強いなヒロインちゃん。主人公くんもそうだけど、この世界の住人はみんな心が強い。俺とは比べ物にならないぐらいには。

 

「決めた。あたしはこの力を鍛える」

「へぇ」

「あたしの力には冥界に関するものもある。この力が十全に使えるようになれば、こんな悲しみをもう作らずに済む」

「……殺すことしか能がない僕だけど、力を貸させてくれないかい?」

「もうとっくにその運命は決まっていたわ。理由なんてどうでもいいから、着いてきなさい」

 

 あ~青春の音ォ~。心が浄化されるわ。

 一時は二人の関係がどうなるかわからなかったけど、胸をなでおろせそうだ。

 これでヒロインちゃんも、名実ともにヒロインになったな。

 

 物語の一部始終を見れなかったのは残念だが、俺はモブ。

 出しゃばらないのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……トカプチュプカムイ或いはペケレチュプカムイはアイヌ神謡における太陽のカムイ、太陽神のことを指す。基本的にその二つの名前はただの表記ブレや翻訳による差異だと思われていたが、まさか男神と女神で本当に二人いたとはな」

 

 ……!?

 

 いや、誰だよ。思わず二度見しちゃった。

 びっくりした。マジで気が付いたら隣にいた。正確に言えば、隣の柱に背中を預けてカッコつけてる。

 驚きすぎて心臓が止まる所だった。

 

「――それは神に対する絶対殺害権。たった九つの条件をクリアすれば行使できる奇跡」

 

 その男は大袈裟に腕を広げながら笑った。

 

「それが、『神仏殺し』。異名の由来にもなった異能。……くく。ああ、素晴らしい、素晴らしいぞ!」

 

 ヤッベェこの人、絶対物語の裏で暗躍する敵ポジの人だ。高笑いしながら賞賛するとか、絶対そうだよ。

 てかすぐ傍に一般人いるけどいいのか……? 普通、ビルの上から見下ろして言うセリフじゃないのそれ?

 

 ……あれ、本当に気が付いてない? 嘘でしょ。

 

「神は裁き、復讐するは人にあり。ああ、楽しみだ。神をこの世から抹消するその時が」

 

 思想犯かぁ〜。……そういうタイプの敵キャラだし、多分神に親族殺されたとかだな。

 放置もアレだし警察でも呼んでおくか? いやでもな。

 

「まずは世界に私の名を刻もうか、この『災害』アルランダーとな。フハハハハ!」

 

 あーあ、なんか名前まで言っちゃったよこの人。

 どうしよ、テロリストっぽいし……見逃すのもちょっと。

 

 

 

 

 

 

 

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「――は?」

「はいはい。じゃあ後は署で話し聞くから」

「待て、私は『アード』の人間だ。その意味分からぬ訳ではあるまい」

「ああ、その組織? この前大規模な警察内部の摘発があってね、今絶賛指名手配中」

「マジかよ」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 ――tips

 

 アイヌ神謡の太陽神『トカプチュプカムイ』、『ペケレチュプカムイ』

 

 アイヌ民族にて口承で伝わってきた文芸にて登場する太陽神。

 しかし民間神謡の域を出ず、高位の存在であったが信仰はさほど集まらなかったとされている。

 さらに二人に分裂したことにより、権能が分割され弱体化した。それは学校の検索網に引っかからないほどに。

 

 片割れと別神話の太陽神が敵にいた為、勝機は限りなく低かった。しかし、彼は戦いという食物連鎖の中で没した。

 それはカムイとして、アイヌ神謡に伝わる動物と人の上に立つ存在としての矜持を以て受け入れたのだ。

 

「いつの日か、子供が親から巣立つように、我々神からも人類は巣立つのだ。故に太陽は人々を明るく照らす為に空へと昇った」と、幼い狼の神様が語りました。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、まだ終わらんが?

 主人公くんたち帰ったし警察呼ぼうとしたら、偶然通りかかった刑事さんに現行犯で敵キャラさん捕まった。

 当然抵抗していたが完封されてた。あれだけ大見え切って弱いんかい。

 

「『アード』構成員検挙のご協力感謝します、広井二位階」

「あー、いえ。一市民としてやるべきことを、うんぬんかんぬん……」

 

 この世界の警察は、はっきり言ってバケモンぞろいだ。

 キロ狙撃手、超人空手家、ウチの卒業生、弾丸を見切る刑事etc……。それが統率のとれた動きで襲ってくるのだ。恐ろしすぎる。

 とは言え、それは人間相手に限定される。神相手の場合は基本的にその場対応のみ。それ以外は国所属の異能者が駆り立てられる。なんでも管轄が違うかららしい。

 

「……、」

「? 何か?」

「いや、今何かの事件が起きたような……?」

 

 後日判明したが、ちょうどその時間帯に三キロ先の公園で殺人事件があったらしい。……なにそれ怖っ。

 




【悲報】暗躍系敵キャラさん、イキってたら逮捕される【残当】
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