学園異能大超人 モブキャラ視点   作:l:pさあびす

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執行 神仏殺し/裏

 

 ――六月二三日の場合。

 

 

 

 『アード』

 

 それは人類史の裏で活躍する『異能』の組織。

 幹部の命を遂行し、神を滅する特殊機関。

 今では犯罪組織として扱われているが、その崇高な理念は今でも生きている。

 

 そんな組織に貢献すること。それが私にとって夢だった。

 ここ最近の任務は失敗続きだったけれど、この国営異能者養成学校での任務は失敗で終わらせるわけにはいかない。

 

 その日はいつも通りの日々だった。

 いつも通り一般学生の皮を演じ、来る指令を今か今かと待ち侘びるひどく凡庸な日々。

 特に変更がなければ事を起こす予定である、学校一大イベントである水晶祭、その時に行う計画の下準備はほとんど完成している。

 特殊な電磁パルスにより学校を一時的とはいえ機能不全に陥らせ、とある物を盗み出す計画。

 

 その開催まで、後ひと月。

 もう、ここまで来たら待つのみである。

 しかし、それは談話室で起こった。

 

「えっと、何買うんだっけ。……『愛すと誓った(アイスと? 違った)』っけ」

「! その言葉はまさか!?」

 

 その言葉を使うのは幹部のみ。それが聞き間違い出ないのなら。

 それが指し示すのはただ一つ。

 ならば確認するしかない。

 

「……先輩、あなたは知っていますか?」

「え? ああ、そりゃ(ゴリゴリ君おいしいって事ぐらい)知っているよ」

「それが誰なのか」

「(なんかがっつくなこの子。まさかアイス好きなのかな? じゃあ) 同士よ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、体が勝手に傅いていた。

 憧れ、と言ってしまえばそれまでだが、私を構成する栄誉を与えてくれた存在だ。

 それが、今目の前にいる。

 

「(え? なに急に。とりあえず)頭を上げてくれ、周りが見ているだろう」

「は、はい!」

 

 幹部は噂に違わず崇高な人物であった。

 周りに人なんて居ない。彼はあくまでも対等に私と会話がしたいのだと気が付いた時には目頭が熱くなっていた。

 

 顔を上げ、その幹部を向据える。彼は、酷く凡庸な人物であった。

 特筆するような特徴はなく、威厳のいの字もない。まさしく完璧な擬態。

 すると彼は言った。

 

「(後輩としゃべったことないんだよな~。あ、ちょうどいいところにチェス盤あるじゃん)俺は広井かのん。……チェスはできるかい?」

「も、もちろんです!」

 

 これは報告を聞きに来たのだと瞬時に気が付いた。

 この作戦はアードでも肝いりの作戦。そのためわざわざ幹部自ら出向いたのだろう。

 なんという周到さ。いや、その臆病さがあったからこの組織は今も戦えているに違いない。

 

「ポーンは所定の位置に設置しました」

「ああ、ありがとう。お世辞にもチェスはあまり知らなくてね。教えてくれると助かる」

 

 なんということか。私は今、天国に居るような心地だ。

 幹部が私に頼ってる、信頼してくれている。

 ならば答えるしかあるまい。

 

「ナイトはこの場所に、ビショップはここに。キングはここです」

 

 ナイトは学生。ビショップは警備。キングが狙いの物である。

 当然、これは報告であってチェスではない。一見すると適当に置かれた駒達、その一つ一つがこれから行う作戦概要である。

 

「……では始めようか」

 

 始める? 何を……。は、まさか私の情報だけで、当日の作戦を組み立てなおしたのか!?

 確かに、この作戦は、学校の地図と当日の警備スケジュールのみで組まれたものだ。確かにこの場で修正できるところは修正した方がいい。

 なんという英知。さすがは幹部だ。

 

「こういうのはポーンから動かすのが定石」

「はい。間違いないです」

 

 ポーンは爆弾を指す。

 起爆後、の事を考えているのだろうか。

 

「ではルークだ」

 

 確かに、そこは私たちの弱点にあたる。当日作戦にあたるメンバーの欠点だ。

 そこを攻撃されると作戦が一気に瓦解する可能性がある。

 

「なら、飛車はどうする」

 

 ――飛車!?

 飛車なんてそもそもチェスには無い。

 だが、あの幹部が言ったのだ。深い意味があるに決まってる。

 おそらくは別組織の可能性、乱入者、神。可能性はいくらでもある。

 

「成程、銀閣はそう動くのか」

 

 ――銀閣!? え、銀閣!?

 も、もう私にはついていけてない。なんという頭の回転。もはや、チェスの駒数では到底表し切れないほどの情報が出そろっているというのか?

 

 するとおもむろに彼はテーブルの下からスマートフォンを取り出した。

 

「ごめんね。どうやら、(チェスじゃなくて将棋講座見て)思い違いをしていたようだ」

 

 思い、違い? まさか私の情報に間違いが!?

 ほかのスパイに連絡を取りながら、私の情報の正当性を確かめてたのか。

 あ、謝らなければ。また私は期待を裏切ってしまったのでは――。

 

「よし、今(サイト)変えたから。」

 

 ――、

 今、変えた? 作戦を?

 まさか私のために?

 

「……いやー、(チェスのルールを覚えきるの)遅すぎたね。恥ずかしい話だよ」

 

 作戦の実行は水晶祭。それを彼は『遅い』と言った。

 ならば。

 

「じゃあ、この後(ルール覚えるの)ひと頑張りするから。……かっこよく『チェックメイト』って言いたいからね」

「――!」

 

 幹部がチェックを取るといった。その意味が分からぬほどの阿呆じゃない。

 遅いという言葉を組み合わせればおのずと答えが見えてくる。

 この後、つまり明日明後日には作戦を実行するということだ。大胆な作戦の前倒し。それが幹部の導き出した結論だった。

 

 早急すぎるが致し方ない。

 どちらにしても準備はすでに終わっていたのだ。どこに不都合がある。

 ついにアードの汚名を払拭する時が来た。

 

「その慧眼、感服いたしました。この命に代えてもその任務遂行いたします」

 

 そんな重要な任務を私に与えた。彼は私に期待しているのだ。

 失敗続きだった私にチャンスをくれた。その事実だけがたまらなくうれしい。

 

「えぇ、そんな褒めなくてもいいよ。照れちゃうから? ……てか任務?」

「それでは準備がありますので、先に失礼いたします」

 

 ならば早くその準備を終えなければ。

 おそらくこのチェス盤の最終盤面はこの先の未来図だろう。私の浅知恵ではわからないがきっとそうに違いない。

 そうでなければあんな素人の積み木遊びのような盤面にならないのだから。

 

「あれ、そうなの? じゃあね。で任務?」

 

 ああ、早く、早く。報われる時が来ないかな。

 

 

 

 

 

 

 

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 ――六月二四日の場合。

 

 

 

 ところで、この学校は滅茶苦茶デカい。

 どうもあなたのモブキャラ、広井かのんです。

 主人公くんとヒロインちゃんの模擬試合の次の日、俺は学校の廊下を歩いていた。

 

 第四スタジアムなんであるぐらいだから相当デカい。多分東京ドーム六つ分ぐらい。東京ドームの実寸知らないから適当だけど。

 初等部、中等部、高等部と大学が併設されているからそりゃでかい。

 その癖、移動教室がやたらめったらあるんだからよく迷う。めっちゃ迷う。俺が若干方向音痴だからってのもあるけどさ。

 

 そんな学校には、入学した新入生でも知ってる場所がある。

 生徒会室である。

 一般高等部生徒用玄関、入ってすぐ目の前にその部屋はある。

 

 生徒会。

 そう聞いて何を思い浮かべるだろうか。

 アニメなどでは個性的な面々が円卓会議しているものだと想像するだろうが、現実を思い出して欲しい。大抵は面倒事押し付けられた奴か、無駄に責任感ある奴しかいなかったのではないか。そもそも生徒会にそこまで権限が無いってのもある。

 

「ようこそ、生徒会へ。我々は歓迎しよう」

 

 しかし、この異能者養成学校は例外だ。

 何故か教師以上の特権が認められている。理由は諸説あるが、生徒のうちから未来を背負って立つとかなんとか。

 故に、この生徒会に所属しているのはエリートばかり。間違っても俺みたいなモブキャラが寄り付く場所ではない。

 

「かのん、突然の呼び出しすまなかった」

「いや、別に暇だったし……?」

 

 生徒会長、伊賀仁(いがじん)と俺は幼馴染。昔馴染みの類だ。とは言え、生徒会とかいうメインキャラと化したため最近は会っていなかったが。

 その付き合いは初等部まで遡る。まだ俺がモブとして生きると決めていなかった頃である。

 俺の数少ない友達。本当に数少ない友達だ。

 

 改めて、生徒会室を見回す。

 教室の端っこ手を振ってくる少女と、壁にもたれかかっている少年がいた。

 何故か見覚えがある。

 

「はろはろにゃんにゃん」

「……フッ。運命の時……」

 

 あの猫耳に語尾の「にゃ」。それにいつも試合で「覚醒の時は、近い……」とかやってる中二病くん。

 えーと。……流石にね。

 流石に違うでしょ。生徒会が個性的なのはアニメの中だけだし。うん、きっと彼らも用があって呼ばれているに違いない。

 

「ん? ああ、紹介しよう。猫原(ねこはら)会計、山田(やまだ)副会長だ」

 

 ……、

 

「お前ら生徒会かよぉ!?」

「にゃ?」

あ、いえ、なんでもないです。はい、なんでも……

 

 ……まあ、一旦それは置いておこうか。別に生徒会だからなんだという話ではあるし。

 

「で、仁ちゃん。何の用でせうか?」

「ここに来て貰った理由は、頼み事だ。――今、この学舎にスパイが潜り込んでいる。より正確に言えば『アード』が神をこの学校に来るよう手引きししているらしい」

「手引き」

「理由はわからないが早急に決定した作戦なのだろう。不審な動きが目に見えてわかったらしい。それがこうして生徒会まで情報が出回ってきたんだ」

 

 

「そのスパイを見つけ出すとまでは言わない。あくまでこの噂話のような話の真偽だけでも確かめたいんだ」

 

 

 なるほど、このプロモブリストならではの頼み事だ。

 確かに俺ならばあまり目立たずに情報収集できるだろう。

 生徒会の連中よりかは、だけど。

 

 あの仁ちゃんからの頼み。

 これを引き受けてしまえばモブ生活が遠のいてしまうのではないかと少し恐ろしい気持ちがある。

 ただ、友人からの頼みを無下に断るのも良心の呵責が……。

 

「ほんま、堪忍な。ウチらもこのガッコの大切な情報漏らされて、えらくイラついとるんや。あ、ウチの名前は善本良太郎(よしもとりょうたろう)、書記や。ほなよろしゅう」

「あ、はいよろしくお願いします」

「とは言え、ウチらが動いてもトカゲの尻尾切りか逃げられるのがオチやし、自由に動ける人材が欲しいんや」

 

 長身糸目関西弁ってお前がスパイだろ。スパイ要素しかないんだけどこの書記。大切な所で裏切ってくるタイプでしょ。

 ニィっと笑った書記さん。やっぱり裏切りそう。『報酬はコレや』とか言って銃突きつけて裏切りそうなんだけど。

 

「もちろん報酬は弾むで」

 

 この人は味方。決定、解散、閉廷!

 

「当然、生徒会のメンバーからも少ないが戦力は出す。だから、どうか頼む」

 

 ……、

 まあ、真偽確かめるだけなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よォ、オレが平一(たいらはじめ)。庶務だ。よろしくなァ?」

 

 ……ち、チンピラだぁ。

 ギザ歯、尖った長い舌、吊り目、明らかにナイフ舐めてそうな性格。

 何でこんなんが庶務やってんだ。敵サイドの人間だろ絶対。

 

「でだ。早速本題から行く。何でもいい。手がかりでも持ってないか?」

「うーん、手がかり手がかり」

「まあ、そりゃあある訳ねェよな」

 

 そう言って乱雑に切られた髪を掻く。

 なんか乱雑に切られてるように見えるだけで髪質キレイだな。制服も着崩してないし、育ちの良さが滲み出てる。

 さては良い所の坊ちゃんか?

 

「とりあえず、辺りに聞き込みでもするかァ? ただオレが動くとなァ……」

 

 ……スパイキャラの敵でしょ? じゃあアレだ。

 

「多分しゅじ……咲崎くんが知ってると思うけど」

 

 彼は主人公だ。知っていない、と言うよりも関わっていない訳がない。

 仮に関わっていなくとも、取り越し苦労になるだけ。

 適当に探すよりはまだ意味がある。

 

「あァ? 咲崎? オイまさかとは思うが咲崎カナタのことか?」

「え、うんはい」

「なんで知ってるって、いやまさか」

「いや、適当に――」

 

 すると平はぶつぶつと考え出した。

 

「……待てよ『神仏殺し』はここ最近活動がめっきりなかった。――筋は通る。それが裏で繋がってたらどうだ。あァクソ、こんな頭脳労働は俺の仕事じゃねェってのによ」

 

 何を、何して、何なった?

 なんか勝手に納得したんだけど? どゆこと?

 

「クソ猫呼んでくるから、テメェはテメェで聞き込みを頼む」

「え、あ、はい」

 

 ??????

 

「――まさか、まさかだ。まさか『神仏殺し』は神殺しを辞めるためにアードとつるんでる? ……情報が足りねェなオイ」

 

 結局、特に得る情報もなかった俺は早々に切り上げて自分の寮へと帰った。

 その数時間後、深夜。学校中枢のシステムが物理的に破壊された。

 

 

 

 

 

 

 

    3

 

 

 

 

 

 

 

 ――六月二五日の場合。

 

 

 

 咲崎カナタにとってそれは偶然だった。

 神に狙われる記憶喪失の少女を守るために契と行動している最中のことであった。

 襲ってきた神から身を隠すために入った地下空間。そこで契とあの少女を見失ってしまった事が目下の問題だった。

 

 この広大な地下空間『地下隧道神殿』は地震の軽減や、もしもの時のための逃げ道として作られている。一度逸れれば合流が困難までに広いのが難点である。

 しかし、裏を返せば敵に見つかる可能性も限りなく低い、はずだった。

 

「あー、わりィな。そのガキ、こっちに渡せや」

 

 男がいた。

 粗雑そうな見た目のカナタと同じ制服を着た男が。

 手持ち無沙汰なようで、手に持ったナイフを振っている。

 

「ありゃ? アテが外れたか? ちッ、じゃあアレは猫原の方か」

「……何者か聞いても?」

「その反応……じゃあ間違いねェな?」

 

 一人で勝手に納得した男はカナタに険しい表情を向けた。

 

「俺が誰だろうが関係ねェ。とりあえず、いっぺんぶちのめされろや」

 

 そうすると彼は近場においてあるコンテナにナイフを投げた。

 するとナイフは爆発し、コンテナから埃が立ち込める。

 

 否、それは埃ではなかった。

 白い粉。

 それが空気中に舞い上がる。

 

「安心しろただの小麦粉だ。……昔に比べて安くなったよなァ、一キロ数十円ってところだ」

「それが?」

「……()()()()()()()()()()()()()()() 簡単に言うと密閉空間で粉に引火すると起きる現象なンだけどよォ。ちょうどよく風もないし、もしかすると、もしかするかもなァ?」

「――ッ」

 

 カナタの脳裏に嫌な予感が走る。いや、それは現実に起ころうとしていた。

 制服のズボンにあるポケットから男はジッポを取り出した。

 慣れた手つきで蓋を開け、火花を起こす。

 

「よォ三下、サービスだ。一回ぐらいは味わっていけよ」

 

 瞬間、爆発が起きた。

 

 ――――ドゴオンッ!

 つんざくような音に衝撃。

 ただそれだけでカナタの体は吹き飛ぶ。

 

「へェ、今ので立ち上がれンのか」

 

 案外にもすんなりカナタは立ち上がった。

 その体には擦り傷、かすり傷が目立つ。

 

「(ここは地下隧道。換気扇によって風が吹いていない訳がない。つまり彼の異能は空気をコントロールする力?)」

「なァに考えてんだよォ、カナタくゥン? そんな暇ねェって事ぐらいわからねェのか?」

「(――なら)」

 

 カナタは駆け出した。

 柱に身を隠すように移動し、それを追うように男も歩く。

 

「お仲間に助けでも求めてんのかァ?」

 

 安い挑発。

 しかしカナタは聞きもせず、目的の物を見るため走る。

 

「(大気を操る力なら、僕の呼吸に必要な酸素をいじらないとは思えない。ならば、知っている、この異能を)」

 

 どちらにしても、地下マップで確認したアレを見ればすべてがわかること。

 そして。

 

「……()()()()()()()()()()()()

「は?」

「異能だったら換気扇をわざわざ止める必要はない。そして、明らかにコンテナの内容量よりも多い小麦粉。……逆だったんだ、全てが」

 

 異能による大気のコントロール。それであればわざわざ換気扇を止めるのはおかしい。確かにそこまで異能が強くない可能性もあるが、おそらくは違う。

 そもそも粉塵爆発を行ってなお、空気中に未だ小麦粉が漂っているのはおかしい。大半が燃えたのなら、補充が必要だ。

 しかしそんなものはどこにもない。先ほどのコンテナだって一つしか置かれていなかった。

 

「――小麦粉を作り出す異能。あってるだろうか」

 

 ならば、その場で作っている可能性があってもおかしくない。

 男はその表情を歪めた。それは自身の異能を看破された故の苦虫を嚙み潰したような表情と言うよりも、予想を超えてきた事に対する笑顔に近い。

 

「大っ正っ解! ギャハハハ! 花丸あげても良いくらいだぜ? オマエ。……まァもっと正確に言えば、塩と砂糖も作れるが、やっぱ小麦粉に限るわ。それが一番カッコいいんでなァ」

「……この学校に小麦粉をこの短時間でこの量を生産できる人物なんてただ一人しか知らない。――『難問議題(なんもんぎだい)』」

「オマエ、頭の回転ははえーみてェだな」

 

「そうだ、この『難問議題』が一つ『糧喰(かてぐ)らい』。それでもまだ続けんのかよ? 三下」

 

 それは生存域を失った人類に課せられた無理難問。

 人同士の争いを除いた四つからなるそれを解決した異能者たちを人は敬意を表してその名前を与えた。

 ――難問議題、と。

 そのうちの一つこそ、食糧問題。それを容易く解決した正真正銘の現代の最強格。

 それがこうして敵として立ちはだかった。

 

「難問議題は生徒会の人間。その生徒会の人間がなぜ、あの子を狙う!?」

「……あ? オマエ、()()()()()()()()()

「なんのことだ?」

「は、ギャハハハハ! これは傑作だ。最高だぜお前、最高に――哀れだな」

 

 一瞬笑顔を崩した難問議題は、すぐにその表情を戻してカナタに手元のリモコンを見せつける。

 

「この機械。あー、空気循環っえと、くうえ? まあいい。空気中の流れから濃度変化まで弄れる優れモンでよォ。クソイケスカねぇ書記の力作だ。と言っても、やれンのは密閉だけじゃなく――」

「――目くらましか!?」

「ある程度なら方向性だって持たせられるンだぜ?」

 

 目の前の景色は真っ白。

 小麦粉は風に流れるようにカナタの視界を埋め尽くした。

 一瞬だけの目くらまし、しかしその一瞬で十分。

 

「――がぁッ!?」

 

 ドロップキック。

 カナタの体がくの字に曲がり、腹部に直撃する。

 何とか、体制を立て直しカナタは戦闘態勢を取り直す。

 

「この機械、粉塵爆発からも身を守れるのはいいが、リモコンってのがいけ好かねェ」

「じゃあ、捨てたらどうだい?」

「はッ」と小ばかにしたような嘲笑。「さて、そろそろかァ? そろそろ小麦粉が十分なほどに集まったか?」

 

 痛む体を動かすカナタ。とりあえず、この難問議題を倒さなければ話が始まらない。

 

「ギャハハハ!! 頑張れ頑張れ。早くしねェと大気中に散布した小麦粉一つ一つが、億の力が、お前の命を刈り取るぞ?」

「億とは大きくでたな」

「だってよォ。流れに乗った小麦粉はお前の肺に入り込み、オマエを殺す。神にはなんの役にも立たねェが、カス相手には十分だろ? なァ!」

 

 それが本当ならば、持久戦は不利。

 時間をかければかけるほど、彼の術中にはまる。

 おそらく、先ほどから喋ってばかりいたのも、時間稼ぎの意味があったのだろう。

 

「――だが、それはオレの美学に反する」

 

 

 

「アニメを見てよォ。このカッコよさを知っちまったンだわ。俺の異能でもカッコいいことができるってさァ。さて改めて聞くか。――なァ、粉塵爆発って知ってっかァ?」

 

 

 

 ――再びの衝撃。

 

 今度こそ、身構える隙も無いほどに早く体が吹き飛んだ。

 今度は左腕の骨が折れただろうか。

 だが、カナタはその痛みを無視する。体が、もう引くべきだと、逃げるべきだと警告する。それを無視して、精一杯の虚勢を張る。

 

「彼、本当に国家所属の異能者か? やってることが爆弾魔のそれだよ。――ただ頭は残念みたいだ」

 

 ぽつ、ぽつ、と。

 けたたましいアラートと同時に、何かが滴る。

 

「あァ、水? ――ッ! チッ、そうか消火栓」

「ああ、助かったよ。わざわざ柱付近で爆発を起こしてくれて」

 

 当然、この地下隧道にも消化設備は設置されている。

 天井のスプリンクラー、柱に植える形で消火栓。

 センサーで起動する放水装置。

 柱付近で爆発を起こしたものだから、センサーに反応したスプリンクラーが雨のように水を振りまく。

 

 カナタは難問議題を誘導していた。

 柱付近に少しづつ寄るように。

 

「だが、水ごときじゃあ俺は倒せねぇ!」

「確かに意味はない。けれど、今視界を覆う小麦粉は消え、君は動揺した。それで十分。神殺しにとっては十二分」

 

 もうすでに。

 もうすでにカナタは敵の懐。難問議題は防御も反撃も間に合わない。

 

「――あァ、しくったわ」

「僕にお前を倒す理由はない。――でも一発殴らせろ」

 

 固く握られた右拳が顔面に炸裂した。

 

 




主人公が裏でやらかしてたこと一覧

・『アード』の幹部と勘違いされる
・本来なら水晶祭で使われるはずだった爆弾使用を早める
・学校のシステムがダウンしたことによって全く関係ない神が学校に忍び込む
・主人公くんがボコボコにされる間接的な要因を生み出す

うーん、この無意識の悪意
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