学園異能大超人 モブキャラ視点   作:l:pさあびす

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主人公のいない平和な物語 Ⅱ/七月一日、三日

 

 広井かのん。

 私、伊賀仁の友の名だ。

 初等部から付き合いがある私と彼は所謂幼馴染と言う関係にあるのではないだろうか。

 生徒会長になってからというもの、何故か会う機会が激減したがそれでも大切な友だということに違いはない。

 

 私の周りには常に誰かがいた。

 それはクラスメイト、後輩、先輩、生徒会のメンバー、先生。

 だが皆が色眼鏡をかけてみるのだ。あの『伊賀仁』であると。

 

 私は皆が思っているほど、すごい人間ではない。

 異能もお世辞にも強いとは言えず、到底誰かの役に立てるような人間ではない。

 しかし、そんな私を奮い立たせた最初の原点は彼なのだ。理由は些細な事だったのだろう。ただ、彼の自信に満ち溢れた背中は、私には酷く輝いて見えた。

 

 ……私は、私含め五人いる生徒会の中で唯一『難問議題』ではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 私を支持してくれた皆のため、常に神殺しとしての模範であり続ける。それが私からできる友への恩返しでもあるのだ。こんなすごい奴がお前の背中を見て、立ち上がったのだと。

 

 それが私の責務であり、使命だ。それに殉じて神を穿つための道でもある。

 勇気を信じ、命を繋げ、希望を作るのだ。

 この胸にはまだ、あの日の誓いが燃えているのだから。

 

『頑張って』

『自分を信じなさい』

『負けないで』

『君ならできるさ』

『勝利を』

 

 それを裏切ってしまえば先達に、かのんに合わせる顔がないというもの。

 

 私は信じ続ける。

 この胸にある正義の証を。

 神を打ち倒すその日を。

 人の可能性を。

 

 そしていつの日にか。かのん、君が何をしたいのか知らないが、それを手伝えるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

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 ――七月一日の場合。

 

 

 

 掲示板の張り出しに気を失いかけたその帰宅途中、顔見知りにあった。強制連行でおしゃれなカフェへ。

 以上、状況説明終了。

 

「かのんちゃんは何にする? 私はねぇこれ」

 

 テラス席。目の前には『あらあら』が口癖そうな女性が、やたらとニコニコしていた。

 しまいには、俺の世話まで焼いてくる始末。

 

「あのね、おかあさんかな? キャラ間違えてますよ」

「あら、酷いわぁ」

 

 このおっとり系ポンコツお姉さんキャラの正体は、従妹である。

 もう一度言おう、()()()()()

 年下なのだ、この子は。そりゃあバブみは感じられない。感じちゃいけない。犯罪だから。

 

 中等部二年、広井あずさ。

 そのビジュアルと優しい性格で中等部の人気者、らしい。中等部に知り合いなんていないから実際の所は知らないが。

 微妙に距離感が分からないから接しづらいし、なんかメインキャラみたいな雰囲気があるのも相まって、あまり会ってはこなかった人物でもある。

 それがたまたま、街中でばったり会ったのもだから向こうが目を輝かせながらこの店に引っ張ってきたのだ。

 

「あ、すいません。これとこれ、あとこのパンケーキとコーヒー二つお願いしますぅ」

「え、あの、俺も食べるの? これ」

「え!? 私とのデートは嫌だった……?」

 

 そんな捨てられた子犬のような目をしないでくれ。

 

「あーわかった、わかったから」

「やったわぁ」

 

 こう言うのは先に折れた方が勝ちだ。だって俺が悪いみたいな空気は流れないからな。被害者面だけはやめてくれ、俺に効く。

 

「……で、なんか用があったのか?」

「うーん、特にこれと言ったことはないんだけどね」

 

 まあ、だろうな。

 それからは、お互いに近況報告まがいの事を話した。やれ学校の成績がどうだの、男子からの視線がどうだの、父親からの心配の電話が絶えないだの、途中から明らかに一方的な話に切り替わっていたがきっとそれは気のせいだ。

 更に彼女は到着した食べ物飲み物に舌鼓をうちながら話に花を咲かせる。一方的に。まさしく世話焼き母さんのマシンガントーク。将来は肝っ玉母ちゃんか?

 

「そういえば、知ってるかしらぁ?」

「今度はなんだよ」

「最近噂になってる話なんだけど、『神殺しシリーズ』っていう都市伝説があってね。中等部ですごく話題なのよぉ」

 

 初耳。

 当然友達なんて少ない俺にそんな情報が出回ってくる訳がない。

 つまりここで初めて知ることになった。

 

 なんでもそれは、神を殺すために開発された兵器であり、各神話毎にそれぞれ用意されている。

 右腕が疼くと男子生徒の間で人気らしく、それを一目見ようとする人が後を絶えないらしい。立ち入り禁止区画まで入り込んだ奴もいるとか。

 他にも、そんなすごい兵器が実在するなら自分が使って世界を救うんだ、という夢見がちな少年あるあるも加速しているとかなんとか。

 

 ……うん。

 この手の話ってやっぱり。

 主人公くん、今すぐ退院してぇぇぇぇ!!

 ヘッドバンキング並みの勢いで頭を抱えた。完全にこれ、二巻が始まる流れだろ。友人ポジから話聞いて、その神殺しシリーズを巡って話が展開される流れだ間違いない。アニメで腐るほど見た。

 

 とは言え、彼は入院中。俺にはどうしようもない。

 いきなり初対面の奴が病室に入ってきて、『君がいないと世界が滅ぶ』とか言ってきたらどうする? ナースコールして、頭の病気見てもらうに決まってる。

 

 暫くすると、だんだんと話す内容もなくなり。俗に言う『そろそろいい時間だし……』が訪れる。

 

「誘ったの私だし、お金は出すわぁ。ここってJBC使えたわよねぇ?」

 

 その手に輝くブラックカード。

 ああ、そうだったわ。こいつお嬢様系でもあったわ。

 こいつの親の結婚相手である父はIT企業の社長らしい。実際に会ったことなんてないが、集計先が狭くなってしまったでお馴染み長者番付でもトップ層らしい。勿論、親戚とは言え金が入ってくることなんてなく、俺にはあまり関係はない。とにかく、こいつはお嬢様属性まで併せ持つ強キャラ。きっと次のヒロインとかなんだろう。……身内から、って考えると複雑な気分だ。

 

「ああ、ここは俺が出すよ」

「そんな、悪いわよぉ」

「あいにく、年下に出させるほど落ちぶれちゃないさ。多分」

 

 まあ所詮はカフェだ。

 俺も公務員で給料が少なからず出ている身、これぐらいは男気を見せられるとも。

 

「たっっっかぁ!?」

 

 嘘だろ。パンケーキとコーヒーで万札が飛ぶのか!? 開いた口が塞がらない。

 

 

 

 

 

 

 

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 ――七月三日の場合。

 

 

 

 結局、開催されてしまった。

 水晶前夜祭絶賛開催中。

 本祭に遠く及ばないとも出店などが軒を連ね、横断幕が出場者を応援している。

 

 まあ、俺は出場しないんですけどね。

 とは言え、あのまま部屋に引きこもってるのも何だか怖いしで、重たい体を引きずって出てきた訳だ。

 青い空が肌に沁みるぜ。

 

 水晶前夜祭。

 本祭の目玉イベントである武芸大会に出場する者を決める為の大会だ。例年の本祭は、各学年と一部の生徒が出場していた微妙に盛り上がらないイベントだったが、今年は一味違う。なんでも他異能校生徒が来るらしい。従妹から聞いた。

 それにしても生徒交流は、横の繋がりが薄いこの学校にしては珍しいことだ。と言うのも他の異能学校は基本私立だ。国営なんてここぐらいなものだろう。他にも難問議題を始めたした『最強』を囲っていたりと、周りからの評価も良くはないことも原因の一つか。

 そりゃあ前夜祭に力だって入れる。てか入れざるおえない。だって結果が散々なら国から睨まれる。世知辛い世界だ。

 

 まあ俺は出ないがな。

 てか、会場にすら入れないだろう。

 そもそも席は予約制だ。そうしなければ、人気のある対戦カードの会場がキャパオーバーなんてことになりかねない。

 

 おそらく、あずさが言っていた『神殺しシリーズ』が今回の話の主軸だ。

 それをめぐって一動乱ってのが俺の予想だ。

 ならばどうやって入院中の主人公くんを引っ張りだすのか、それが今回の問題だ。

 

 主人公くんには悪いが、ゆっくりと療養されては困る。

 この物語が安楽椅子探偵ならば特に気にしなかったが、残念学園異能ものだ。

 ベットで寝てたらついうっかり世界が滅んでしまった、では笑い話にもならない。

 

 そこで俺は考えた。

 主人公くんが動かざるおえない状況を作ればよいのだ。今更であるが主人公くんは主人公である。ヒロインちゃんの件を鑑みても、それはまぎれもない事実だ。

 そんな男にクリティカルな存在を俺は一つしか知らない。

 

 ――駆け込み系ヒロイン。これだ!

 

 しかしそんな都合のいい存在がいるのだろうか。

 いや、いない。いたとしても今から見つけ出すのは至難の業だろう。

 

 ……ところで、前夜祭には知る人ぞ知る面白出店が存在する。

 その名も性転換の館。

 名前で八割方察しがつくとは思うけど、客の性別を変えて楽しむ例のあれだ。

 主人公が美少女に、ヒロインがイケメンに変わる、ラノベの息抜き日常回とかで出てくる系のやつ。

 

 それが何故か水晶前夜祭、本祭の出店として毎年出ている。かく言う俺も毎年それで遊んでいる。あと、本当の性転換ではなく骨格を弄るだけだから変装らしい、よくわからんが。

 前までは「ラノベだし、こんなわけのわからない出店ぐらいあるか」と納得していたのだが、今ならわかる。

 今日、この日のためだったのだと。

 

 居ないなら作ればいいのだ。そんな都合のいい女を。

 つまり俺を女にして、主人公に突貫する。

 

 

 そう! 俺が、俺自身がヒロインになることだ!

 

 

 頭がおかしくなったか? と思われた事だろうが残念、おかしくなったのだ。

 こんな作戦しか思い浮かばない俺は正気ではない。これが免罪符となり、俺の心を守るのだ。

 

 世界を守るため、俺はモブキャラを辞めるぞ!

 死んだ方がマシという話はあるが、まあいいのだ。

 生きていればそれが笑い話になる瞬間が来る、はずだ。多分、きっと、おそらく。

 

 駆け込み系ヒロイン、かのんちゃん爆誕の時!

 

 

 

 

 

 

 

    3

 

 

 

 

 

 

 

「会長が、いなくなった……やと?」

「まず、その『なん……だと』みたいなの辞めろ」

 

 夕暮れの生徒会室。そこに三人は集まっていた。椅子に座った平と善本、猫原は頭を悩ませていた。

 

「こんな時に副会長は何してるンだよ?」

「チャットだと……これかにゃ~」

 

『連絡( ..)φ。現在!(^^)!、ある少女を共に行動中( `ー´)ノ。独断専行ごめんね( ;∀;)』

 

「いや読みづらっ!」

「でも、こっちは連絡がつくからまだマシ。会長の方は全然……にゃん」

 

 大量の不在着信と応答してほしいと懇願のメッセージが。途中から何故か大量の謝罪。

 

「メンヘラかよ! どんだけ連絡入れまくってンだ。一秒毎に入れるなよ怖いから」

「いや、嫌われたかなって」

「素!?」

 

 スマホを耳元から離した平も現状に同意した。

 

「確かに会長、連絡出ぇへんな」

「事前連絡なしの失踪はしたことなかった……。まさか誘拐?」

「誰が?」

「わからん」

「ウチもわからへん」

「?」

「?」

「「うん、わかんない」」

「バカばっか」

 

 こめかみを抑えた猫原。

 この「ね」と「ぬ」の区別もつきそうにない馬鹿二人に対して呆れていた。

 緊張感がなさすぎる。これも会長の人徳がなせる技なのだろうか。しかし、なぜだろうか猫原自身にも彼ならば『大丈夫だろう』という根拠もない自信がある。

 

「もう調べた自室以外で会長の行きそうなところは?」

「あの人真面目過ぎて生徒会室か教室にしかいなかったし……」

「あー……」

 

 言われてみると、生徒会室に住んでいるのではないかとばかりに記憶には残っていた。

 

「その内会長は戻ってくると信じるにしても、一番の問題は前夜祭開催中って事や」

「じゃあ中止かァ?」

「今回の前夜祭は会長肝いりだったし……」

 

 今回の水晶祭は他異能校との交流が予定されている。

 そのため、それにふさわしい人選で臨みたいと会長は考えていた。

 ここで中止にしてしまえば、最悪水晶祭に影響が出かねない。

 

「……会長を信じて待つしかない、か。最悪は副会長を生贄に捧げよう、等価交換的な感じで」

「それやね」

「しょうがないにゃあ。とりあえず、会長探しと並行して開催の方向で」

「「異議なし」」

 

 

 

 

 

 

 

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 誰がどう見ても美少女な俺。

 これならばヒロインとして十分だろう。

 

「敵将、主人公くん! いざ突撃ィィィ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ってもういるんかいぃ!?」

 

 もうすでに主人公くんの病室には見たことのない女の子がいた。なんでやねん。

 めっちゃそれっぽい話してるし、突撃しようにもできない。

 俺の一時間と三千円を返せ。いや、もうこの際いいから。いっそこんな惨めな俺を笑ってくれ。

 その気になっていた俺がバカみたいだ。

 

 その日、看護師から声をかけられるまで、病室の前で四つん這いになりながら涙を流した。




誤字報告してくださった皆様ありがとうございます。一応は更新する前に読み直しているんですけど、やっぱり気が付かないものですね
なんか主人公がいない弊害で群像劇みたいになっちゃった。やっべぇ書ける気がしない。

頭狂った奴による頭狂った作戦の始まり。そして頓挫。
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