私は『スコグル』。北欧の大神に仕える者なれば。
「ここがあの『神仏殺し』のハウスね」
病室の前。名札には『咲崎カナタ』と書かれている。
その少年、神仏殺しを足止めすることこそが私の使命。
人類を滅ぼすための作戦。いや作戦と言い難いようなただの行動、その一つ。
――人類が持つ『神殺しシリーズ』を破壊するタイミングは今しかないのだ。あの『
現在人類の生存圏はおよそ二割、それ以外は神の領域だ。そんな事、子供ですら知っている。しかし、数年前までは違った。
元々の生存圏は一割以下、それも日本列島のみであった。それを
そんな男がいないこの格好の状況を、神仏殺しに潰されてはかなわない。
神仏殺しが動いたが最後、全ての悪意が連鎖的に瓦解する。彼はそう言う星の下に生まれてきた人間なのだ。
故に、彼をこれから起きる戦いに引き合わせること自体が劇物だ。どれだけの戦力、時間をかけようとちゃぶ台返しで全てが台無しにになる。
北欧の大神すらも打ち破って見せるだろう。
アイヌ神謡の太陽神。アレが良い例だ。
あれは既に詰んでいた事件だった。
あのまま太陽が沈めば、アイヌ神謡における世界創成『開闢』の真逆が発生して世界が消えてなくなっていた。そして意図的に二つに別れた太陽神の力は微弱であり、学校内のシステムも何故かダウンしていたことによって発見及び殺害は困難。そもそも発見できたとしても太陽神の権能で、自分を太陽として相手に公転運動を強制させることで接近自体をさせない。もしも突破の方法があるとするならば、あの場に太陽に連なる概念二つが存在しなければならなかった。
それでも彼は最も最善の形で収束させたのだ。あの神自身の心を救いながら、運命を手繰り寄せて。
そんな存在をどうするのか。
殺そうと思えば、特段殺せない訳でもない。倒すことだって容易であり、勝利は確実、封印もおそらくできる。でも、そこにたどり着くまでにどれだけの逆転があっても何らおかしくはない。たったそれだけのことでご破産となった神、人間を北欧の大神は知っている。
ならば、彼を他の事件のパーツとして組み込めば良い。
彼は人間だ。神を殺そうがそれは紛れもない事実。そして、人間の体は一つだけ、ましてや神仏殺しの能力は分身のような使い勝手の良いものではない。だからこそこの学校から、この戦いから引き離せれば私の勝利だ。
故に、一つの事件を引き起こした。この学校から離れた異能学校にて、一計を講じさせてもらった。最悪、大勢が死ぬような悲惨なものだ。ここで彼が死んでしまう可能性もある。
解決してもいい。解決できなくたって構わない。どちらにしても私の勝利は揺るがない。
しかし、どうしてだろうか。そんな予想すらも軽々と超えていく気がするのだ。その予感のせいか、私の作戦程度で足止めができるとは最後まで思えなかった。だが、それならそれで結構。そんな勇士をヴァルハラに迎え入れることこそが私本来の使命であるのだから。
「――助けてほしいんだっ」
1
国営異能者養成学校にはアードの創設者がいる。そんな情報を運良く入手できたのが始まりだった。
『アード』
それは人類史の裏で活躍する『異能』の組織。
幹部の命を遂行し、神を滅する特殊機関。
――と言うことになっている。
アードは元々後援会だ。たった一人の男に救われた人々が、勝手に形成した互助会的な組織。
助けられた者が、次の者を助ける。結果的に最初の男の理念が引き継がれ巨大化していった。それこそが創設話。この話自体別に隠されているわけではない、しかし今となっては知る者は限定される話でもある。それがここ数年の話である。
今となっては犯罪組織だが、どこまで行ってもその目的は神に対する純粋な殺意だ。
――ここにいる男、『災害』アルランダーは凡そこの時代に似つかわしくない『狡賢い』が似合う男であった。
誰よりも承認欲求が高く、誰よりも自己中心的な男だ。自らの危機には誰よりも助けを求め、他人の危機は知らぬ顔。だが自分がそうであるが故、誰よりも他人の嘆きには敏感だった。
だからこそ、こんな崇高な男がいるにも拘わらず、世界は未だ救われないのがただ気に食わなかった。意味のない希望を与える男がただ気持ち悪かった。それは本人なりの優しさだったのかは今となってはわからないが、それが彼の本音であった。
アードを潰す。内部からでも切り崩せば容易いか。
後を追うくだらない正義感を振り回すこの組織を潰せば、最初の男が現れると考えた。
そうして言ってやるのだ。「お前の理念はくだらなかった」と。「所詮他人を助けようと、大本の危機が無くならなければこの世界は変わらない。お前にそれができないのなら、そんな理想捨てちまえ」。それこそくだらない考えだが、彼は本気で考えていた。
つまるところアルランダーにとってこの世界は気持ち悪いのだ。ありもしない希望を振りまく奴が。それを無条件で信じて笑って立ち向かうこの世界が。
「中二病先輩、気を付けてください。アードの『災害』です」
「些細承知」*1
「フンッ。成程、同輩か?」
一触即発の雰囲気だった。
水晶前夜祭一日目が終わり、日も落ちた。
校舎内廊下の暗がりの中で、彼らは敵対していた。
アルランダーはその腰から吊るす刀を抜き、構えた。
一方で山田は軽く拳を構えただけ。
「……警察に捕まったと聞いていますが?」
「あの腐れ野郎共から逃げるのは中々大変だったさ。それもかなりね」
顔を顰めたあたり本当に苦労したのだと思わせる。
「では、殺そうかご同輩。生憎邪魔すぎる」
ここでアードの人間に見つかるのはあまりに悪手。
「――させん」*2
「ならば口だけではないことを祈るよ」
最初のアクションは雹であった。校舎の窓を突き破り降り注ぐ。
気温は七月であるのだから当然降るはずがない。雲すらない夜空。しかし、それが礫のような大きさで山田の頭上を正確に狙う。
異能、であることは間違いない。冷却系か、あるいは天候の操作か。
「……フ」
山田はどこからか取り出したライオットシールドを構え、己とスパイの少女を守る。
あしらうように防ぎきる。山田の経験した場数は相当。ならばどうって事は無い。
「――!」
今度は波。それは津波であった。
廊下の天井すれすれの高さの濁水が押し寄せる。
一瞬の思考に間が空いたものの、装備してあるワイヤーフックによる回避。窓を突き破る形で一度上の階に避難する。
「水、でしたよね。水道管が破裂した程度では説明できないレベルでした」
この量の水は一体どこから湧いて出たのだろうか。
まず、天候の操作の線は消えた。ならば冷却系かと聞かれるとそれも違う。
ならば水を操る能力にしてみたら、今度は雹が説明できない。
「逃げるなよ。逃がさないけど」
地面が揺れる感覚。
それは地震であった。震度ししてみれば二程度。しかし、どんどんと強くなる。三、四と上がる。たまらず地面に手をついてしまう。
だが、アルランダーは何でもないように山田達に向かって歩いていく。
「超局所的地震。さて次は何がいい? 火災、台風、落雷。好きなものを選ばせてあげようか」
余裕にそう言った。
「……成程、なんの捻りもないな」*3
「名前でわからなかったら畏怖の対象にならないだろう?」
「同意だ」*4
「ふむ。ああ、そうだ、交通事故にでもするか」
――ゴウンッ!
瞬間、壁を突き破って現れたのは無人の軽トラックであった。
フロントは潰れ、あと数歩下がっていなければ山田達は轢かれていた。
「ここは三階ですよ!? 無法にもほどがある」
「たまたまだろう。たまたま無人の軽トラックが吹き飛んでここに刺さった。そうだろう?」
「んな訳」
ないに決まっている。と言おうとしたところで、アルランダーはその手に持った刀で切り付けてきた。
当然山田達は回避する。
置き土産とばかりにある物を置いて。
「ならば、夜明けでも見るがいい」*5
「――閃光弾ッ!?」
その直径八センチ状の玉はスタングレネード。それを山田は袖口から取り出し投げつけた。それによってアルランダーの視界を奪うには十分。
けれどそこで形成逆転、はしなかった。
戦況は変わらず後手も後手。山田からの攻撃らしい攻撃は仕掛けられなかった。
「攻撃をしてこない。舐めているのか?」
だとしたら、それはあまりに傲慢だ。敵を前にして未だに手加減をしている。
実際のところ、山田としてはこの微妙な悪寒が足を引っ張るのだ。このまま転じていれば、それが敗因と呼べるほどに。
だからこそ、彼は攻撃に転じてられなかった。
「……私の異能は『災害』だ」
その異能、『災害』は名前の通り災害を起こすものだ。規模は違えど地震、津波、悪天候と大抵の物は再現できる。人的、自然的問わずにだ。
だが、その本質は違う。
「災害は害である。当然の話だが、人に害を加えるものだ。つまりは、人に対して必ず有利を取れる異能。それが是だ」
その本質は、
「覚えぐらいはあるか? 災害は恐るべきものであると。……それを前にして受け身、回避。そのすべての行動に一瞬遅れが発生する。いいや、してしまう」
アルランダーの異能はそんな、自分ですら知覚できないトラウマの類を誘発する。
こと、一瞬の判断が命取りになる異能者同士の戦い。
それが致命的だった。
「お前では私には勝てない。所詮は人間、お前程度では不可能であると」
「――それがどうした?」
最後に、その薙ぎ払いは地割れを引き起こした。
「……フン。馬鹿な中二病が」
命乞いでもすれば見逃していたのかもしれないが。とそこまで考えて思考を打ち切った。
しかし砂煙の向こう側から声が一つ。
「――しかして、定めは訪れない」*6
「……ほう? 存外頑丈、いや、異能か」
傷一つ付いていなかった。
特段、予想外ではなかった。先ほどからダメージらしきものはなく、何かしらの異能によるものだと簡単に想像がついた。
しかし、この学校に通う生徒がこの程度でやられていれば拍子抜けも良いところ。あくまでもその予想通りの結果だと高を括る。
「その程度か?」
……馬鹿な中二病? それはお前の方だと山田は嘲笑う。
その裏の恐れを隠すために。
「……自己紹介をしようか」*7
彼は優しい。いつだって、他者を憂いでいる。
傷つける事が恐ろしい。だってそれは関係を作るよりも簡単だから。
『だが案ずるな、山田副会長。この伊賀仁が、皆が共にいるのだから』
その恐れを飲み込んで、今日も中二病という外骨格を纏うのだ。最高にカッコいい、生徒会長に自慢できる自分と言う外骨格を。
いざ、その砂煙を払いながら一歩を踏み出すのだ。
「我は難問議題が一つ『
それは領土を減らされたがゆえにより顕著となった難問。ゴミが減ることはなく、それに付随するリサイクルが追いつく事は無い。
あるのはただ消費されて終わりの非生産的な世界。しかしそれでは、この狭い世界を回せない。――彼が君臨するまでは。
つまりは資源問題を解決した最強の一角。触れたあらゆる力場、物質を分解し蓄積、出力を繰り返す無限機関。
一人であらゆる物の解体と製造をこなすその様はまさしく、人間万能工場。
彼こそ生徒会副会長に相応しい、どうしようもない最強の一人であった。
「――推して参る」*9
なんかランキング乗ってて驚きました。これマジぃ? 夢?