人間誰しも黒歴史は存在する。
当然この広井かのんにも存在する訳だ。
であれば、過去行っていた主人公ごっこだってそうだ。
「俺は負けない。この身が朽ちようとも。誰かの盾であるのならば本望であると」
イタイ感じのセリフ。うん、恥ずかしい。
「だから笑うのだ。どんな逆境も、苦しみも、悲しみも。笑って明日を迎えれば、どんな結末にも味があるというもの!」
不撓不屈系の主人公。かなり恥ずかしい。
「敢えて言おう。――助けにきた。誰が何と言おうと、必ず助ける。例え世界の全てと戦ってでも」
うああああああああ!? 恥ずかし過ぎる。ちょっと勘弁してくれよもう。
そうだ、これは誰でも作ってしまう黒歴史の一つだ。あまり気にしない方針で行こう。
やっぱ無理。恥ずかしいわコレ。一生悶えて苦しみそう。忘れたい。
……。
その日、私達は確かにその背中に憧れた。
ちっぽけなな少年のその背中に。
皆が助けられた。こんな終わった世界で未だに立ちあがろうとする背中に。
恥ずかしい話だ。我々大人が先に諦めていてどうすると言うのだ。己よりも幼いこの子がまだ諦めていない。それが分かれば十二分。立ち上がる理由には十分すぎる。
だからこそ『アード』が生まれたのだ。
そんな少年を助けるために。
神を殺し、平和な世界を取り戻すために。
そして、いつの日か彼に「ありがとう」を伝えるために。
立ち上がれ、まだこの世界は、人類は終わってないぞ。
1
『神殺しシリーズ』
それは最近中等部を中心に話題となっている。その名前から察するにおそらくは武器のカテゴリに属するものだろう。
国営異能者養成学校が現在保有しているとされているが、学校側、国側が公表した訳でもなく実態はただの噂、都市伝説の類に過ぎない。
だが、そう思わない者もいる。
「それってさぁ、マジであるモンなのさ?」
と少女は仲間に向かって問う。
広井かのんが未だ病院の前で泣き崩れている時の出来事だった。
昼過ぎのファミリーレストラン、ラウンダー南店に彼ら彼女らはいた。店内は昼過ぎと言うこともあってか人は疎ら。
茶髪のロングを靡かせ、夏らしいセーラー服の改造コーデをした少女が
夏の暑さに真っ向から喧嘩を売るミニスカメイド服に、黒髪を肩口ほどで切りそろえた少女が
「太刀川様、依頼主曰く『ある』のだから『ある』のでしょうね」
「おい、下っ端。次コーラな」
「へいへい」
机に脚を乗せ、どこかの学校の学ランを着崩している男が
先ほどから全員分のドリンクバーの走りに使われている冴えない少年、
男女二人ずつの計四人の私兵。所謂、傭兵集団『月光ライダーズ』の今回の任務自体は、そもそも予定になかったものだ。
リーダーがその日持ち帰ってきた「アードに雇われた」という言葉。それ自体は何ら珍しいものでなかった。
けれどその時期と内容が、この集団を裏から制御してきた下っ端Aこと木戸からすれば顔面蒼白一歩手前の依頼であった。
木戸は転生者だ。それも未来の知識、俗に言う原作知識を持ったそんな存在である。
前世では好んで読んだラノベの世界に入れたことを当初は喜んでいたが、よくよく思い返せば世界はもう終わりかけだったことに気が付いた。
それでもチートなんてものがあればよかったが、残念なことにその手の物はなく、代わりにあるのは原作知識という宛になるのかならないのかわからない物。
彼には碌な能力が備わっていなかった。
記憶の劣化を防ぐ異能。
普段使いには適した便利な能力だが、あまりにも地味すぎた。それこそ、本当に傭兵なんてできるのかと疑うほどには。
生まれからしてアングラであった彼には道はない。ならば、とその原作知識を活かしてこの傭兵集団に潜り込んだ。全ては生き残る事と、原作を間近で見るためである。
彼からしてみれば、本来こんな筋書きは存在しない。
そもそも彼が所属する傭兵集団が登場するのは本来ここから二巻先、つまり四巻が初出であるはずだった。
それがこうして二巻の出来事に首を突っ込んでいる。そもそも、原作において二巻の前夜祭ではこんな事件は起こっていない。
本来の筋書きでは本祭の武芸大会参加者の選出がベースとなって話が進んでいる。敵から狙われるヒロインが前夜祭で勝てるように裏から支える主人公、というラブコメチックな内容だと記憶している。
間違ってもアードと言う組織や『神殺しシリーズ』をめぐったストーリーではなかったはずだ。
それは記憶の劣化を防ぐ能力で間違いはないと言える。
「下っ端、次カルピス」
「おい!? またかよ!」
そんな考えても埒が明かなそうな事を考えつつ、状況の整理を続ける。
もはや決定的までに狂った物語。
木戸は内心かなり焦っていた。
もしかしたら、が発生してもおかしくない状態。それで死んでしまっては元も子もない。しかしリーダーが依頼を持ってきた以上、下っ端の木戸には拒否る権限はないのだ。
「涙間様、木戸様がかわいそうではないですか」
「うっせ。いいんだよこいつは」
「そういいのいいの~。私、ぶどうの炭酸ね」
そもそもの話だ。そもそも『神殺しシリーズ』はすでに破壊されている。原作一巻、ヒロイン天津契の手によって。
ストーリーの内容としては、犬猿の仲とでも評すべき主人公とヒロインの間にある女の子がやってくる。学校内に爆弾が仕掛けられているという情報を信じ、地下に潜入した二人。そのまま
その後の巻では、後始末を中心にした話もある。
「わかったよわかった。行けばいいんだろ」
「話が分かるじゃない」
そこで。
ふとした疑問がわいた。雇い主であるアードからも実働部隊が来ていることに対してであった。仲間が多いことに喜ぶことだろうが向こうは巨大な異能者養成学校、それも『最強』だなんて称号を持つ奴もいるような場所。はっきり言って隠密行動した方がいいのではないだろうかと木戸は考えた。
「……ああ、それはオレも思った。だがな、先方が言ったのは『決行済み』だぜ? 大方隠密に失敗して痺れを切らしたんだろうな。やけっぱちに巻き込まれたわけだ」
「では、お金だけもらって逃げる、ということでよろしいでしょうか?」
「まあな。前払いの金はもらった、最低限で見切りをつけてずらかる」
「まあ? 相手は学生だし行けるでしょ」
怖いぐらいの楽観思考の太刀川に木戸は顔を顰めた。
その胸の内は『だから八巻で死ぬんだよ』で埋め尽くされていた。
本人はそんな毒に気が付かず、ハンバーグ定食でテンションが上がっていた。
しかし、ここまで大袈裟な作戦であればかなりの被害が予想される。
勝算はあるのか。
「先方曰く『ある』。オレの見解は『ある寄りのない』」
「碌な結果には、ならないと?」
「だろうな。でも今は仕事を選んでる場合じゃない」
つまりは学校占領作戦。
「とはいえ、オレたちに割り振られた仕事自体はそう中心に迫ることじゃない」
涙間が言っていたことが本当であるのならば、適当なところで逃げだしてもそこまで酷いことにはならなそうだ、と安堵する木戸。
「今回の敵で最も強いのは『難問議題』だ。とは言えこいつらはまだいい」
実際、難問議題は能力が割れている。それも詳細に。
人類の難問を攻略したような奴らであるのだ、その能力はすでに知っている。それはアングラな人間だけではなく、一般人だって軽く調べれば出てくる情報だ。
その能力が割れていれば対策のしようがある。それは木戸も完全に同意見だった。
難問議題はまだマシなほうだ。
原作知識には彼らの負け越した話だってあった。まったくの同じ状況ではないが、まったく知らない状態に比べればはるかにマシだ。
問題はモブ。それも予想だにしない斜めから殴られた状況である。
国営異能者養成学校にはエリートも多い。
原作でも目立った活躍をした生徒に、まったくの関係のないが能力だけやたらと強いモブ。
そんな存在が犇めいている。
ふむ、どうしたものかと頭をひねる木戸。
「――ならさぁ、私たちで取っちゃわない? それ」
太刀川が何気なしにそう言った。
「だって、そんな奴らの足止めするぐらいなら私たちでそれ押さえちゃえば全部解決じゃん」
「あ、おい太刀川? 嘘だよな? 冗談だよな?」
「? 私はつまらない冗談言わないけど? てか肩掴むな」
いつの間に肩をつかんでいた手を放し、木戸は恐る恐る涙間の方を向く。
真剣な表情で考え込んでいた。
「……、」
この場合。彼は乗ってくる。自分の利になることであれば平気で
「確かに。で、押さえたそれを売るか」
「あー、終わったぁ……」
「私の直観は最強って訳よ」
「かしこまりました」
手を顔に当て、溜息一つ。
だが、そんな状況に心が躍る木戸でもあった。
心のどこかで原作知識があるから大丈夫か、と楽観視をしていた。
……それに主人公である咲崎カナタがいる。彼がいればどれだけ悲惨なことになっても、悲劇にはならない。それが大きな精神的支柱であるのも事実であった。
もっとも彼最大の誤算は、主人公が療養中な上に別件で学内から消え去っており、さらに『北欧の大神』という予想もできない場所からの手が伸びている事だろうか。
ようやっと、役者が出揃いました。
関わっている者一覧
・主人公
・『災害』
・北欧の大神
・生徒会(会長、副会長は別行動)
・アード(直下の実働部隊、雇われ傭兵)
ここら辺の勢力がいる事。主人公と生徒会以外は「神殺しシリーズ」という有るのか無いのかよく分からない武器を狙っていると覚えておけば大丈夫だと思います。
主人公くんが居なくなった結果がこの群像劇もどき。そして全てを救う主人公が居ないってことは何が起きても不思議じゃないって事。