「俺の、一時間と、三千円……。特に……三千円……ウゥッ」
心理的に大ダメージを負ったその帰り道。もう日も落ち、時間帯は夜。
ヒロイン作成計画とか要らない心配した俺がバカだった。
もう、何もしたくない。何かしたらまた出鼻挫かれそう。ミジンコになって消え去りたい。一生涯の恥。
自害するか。……やっぱ無理だわ。死にたくない。
でもまあ、よかった。主人公くんがストーリーに合流するだろうし、とりあえずはひと安心だ。
きっと主人公くんが何とかしてくれる。世界は救われたのだ。やったね。
そして、あの女の子がキーパーソンな訳ね。新ヒロインちゃんとでもしようか。
青髪でヘッドフォンがトレードマークの女の子だ。でも、悲しいかな。青髪の法則で多分負けヒロイン。
それにしても平和。あまりに平和だ。心が透き通るような心地だ。
「あ、出店。……まあ、明日行けばいいか。」
最悪四日間を乗り越えれば勝手に能力が解除されるし、あの出店自体他クラスのやつが運営している。別に前夜祭が過ぎても元に戻してもらえるからそこまで焦る必要はない。
それに、この美少女ボデーを楽しめるのは今だけだ。モブにはできない自己顕示欲を満たせる時なのだ。
とはいえ、もう夜だし帰るに限る。そう言ったことは明日好きなだけできる。
暫く歩けば、自分の家が見えてくる。
この学校のほとんどの生徒は学生寮に入っている。例外にもれず俺もそうだ。
何の変哲もないただのアパート四階の一室。エレベーターで上がった一番奥の角部屋だ。
だからこそ、普通の部屋で間違ってもこんな光景は見られない。
家の前。正確に言えば寮の部屋の扉に背中を預けながら座り込んでいる人がいた。
黒いコートにフードを深く被った人物。
それに合致する人物を俺は知っていた。
あれは確かこの前通報した人……?
えーと、ある、ある、あるら? そうだ、アルバイターさんだ。
そのアルバイターさんがなんで俺の部屋の前に? てか。
「うお!? きったねぇ!」
血っぽいものに砂埃、衣服もボロボロだ。辛うじてコートは原型を留めているがその中の服は穴だらけ。
見た感じ、呼吸も薄い。気絶しているのだろうか。
「(うーわ、どうするか)」
こんなものが扉の前にあったら邪魔すぎる。まるで俺に関係があるみたいじゃないか。
蹴っ飛ばして部屋に入るか? 隣人が気づいたら警察か救急車呼んでくれるでとは冷静に考えればわかる。
とはいえ、こいつがここにいるってことは逃げ出してるんだよな、警察から。
警察から脱走って、よっぽどだ。何かしないといけない事でもあるのか?
いやでも、うーん。
……。
……………………。
………………………………………………………………。
「あーもう。わかったよ、やりゃいいんだろ」
服が汚れるがしょうがない。一度家に入れる。手当が終わったら警察を呼ぶ。これが最大限の譲歩だ。
こんな傷だらけの訳アリを放置するほど人間腐っちゃいない。途中まで見捨てかけたけど。
……普通、これ女の子が倒れてるパターンじゃない? とかなんとか愚痴が漏れてしまう。
しかし一般生徒の家に包帯なんてものはなく、服を脱がして、絆創膏を貼り付けまくると言う雑な手当になってしまった訳だが。
携帯を取り出して、110番。ダイヤルかけて電話をしようとしたとき。
――ピピッ。
おそらくはアルバイターさんのコートに入っている無線機からだった。
『――「災害」。貴様、どこをほっつき歩いている』
男の声だった。
誰? アルバイターさんの知り合いか?
『まあいい。こちら実働部隊は順調に学校占領を開始している。とはいえ、難問議題がいつ出てきてもおかしくはない。数の利はあれど、早めに合流を頼む』
占領。
占領!?
どこを!?
学校を!?
『――以上通信終了』
え、ナニコレ、ラノベ!?テンプレ展開じゃないの学校占領ってイベント。
やべぇ、それに参加してるテロリストがウチにいるってことでしょ?
あばばばばばばばばばばば。
「おい、女」
「――ぎびゃああえああ!?」
いつの間にか起きていたアルバイターさん。
驚きすぎて悲鳴が出る。
「お前、広井かのんの知り合いか?」
「え、あ、はい?」
いえ、本人です。てか別人だと思ってる?
あ、いや俺の見た目女だったわ。
そもそもなんで俺の名前を――まさか。警察呼んだのを恨まれている?
あれか、俺死ぬのか、殺されるのか。
「丁度いい」
何が丁度いいんだよ!?
「後、『神殺しシリーズ』を知っているか?」
「ま、まあそれは、はい」
「それの、場所は?」
「流石にそこまでは」
え、何これは。
「……まあ、いい。そいつの、場所に、案内しろ。――ッつつ」
横腹を抑え、痛みをかばうアルバイターさん。
それ目の前です。ソレ目の前にいるよ。これバレたら殺される。間違いない。
変身使っても良いけど、この学校占領中で絶対目立つから論外だ。
これでそいつらまで来たら収集付かなくなる。
「でなければ、殺す」
そもそも。
居場所とか知らねぇえええええええよ。
だって本人だもん。知る以前の問題だろ!?
「……はい、案内します」
どこへ!?
1
国営異能者養成学校、高等部がある校舎の一階廊下。
夜間の学校に非常灯以外の明かりはなく、扉も施錠されているため、学生がいることはまずない。
間違っても、武装を重ねた集団がいるような場所ではないことは確かだ。
アード直下の武装部隊、その人数およそ一二人。
それを真っ先に見つけたのは、見回りの教師ではなく生徒であった。
「あれ? 自分らナニモンなん?」
「――学生か!」
兵士の一人がその手に持ったサブマシンガンを構えた。
今回の任務での人殺しは最低限とされている。また現場を知らない幹部の我儘と兵士の間では文句が出ているが仕方ない。
故に本来ならば発見次第殺害したいのだが、これもその命令に従った結果だ。
「手を上げ投降しろ」
「それ、本気で言うとりますん?」
「――ではしょうがない!」
待っていた、というように笑いながら引き金を引いた。
スパパンッ。
薬莢が床に落ち、軽い音が廊下に響く。
ただ崩れ落ちたのは学生ではなく、男の方であった。
「――は?」
学生の手に持ったのは銃。いつの間にか短機関銃の類が握られていた。
「あれ、学生が殺しやらんと思ったクチ? じゃあ、認識甘いんとちゃいますの? こちとら殺し屋、神殺し屋やってますん。今更なんよ」
確かに、武装集団は油断していた。
対異能の装備、銃、人数、。古臭いとはいえ異能者を相手取る無能力者の戦い方の鉄板だ。その上秘密兵器まである。
そもそも、上層部から殺しは控えろと命令されている以上どうしようもない。この状況はどうしようもないとしか納得できない。
「……ウチ、イラついとるんや。会長は消えるし、虫けら共が学校うろついてる。――ああ、
銃を指さし、頭を掻きながら糸目を歪ませ笑う学生。
ニタニタと、相手の神経を逆なでする。
「ええと、『フロア06。ラベル7からラベル11に変更』」
廊下の床が開く。
中から出てきたのは一メートルほどの長さに砲身が八個付いた銃。つまりは。
「ラベル11、ガトリングガンとでも言うやつやな。カッティングソリューション技法っていう掠っただけで相手を捻じ切る弾丸のおまけ付や」
一瞬で血の気が引いた。
「ほな、皆殺しと行こうか」
「うわあああああああああああああああ!?」
そんな絶叫が響く。
引き金を引いて、銃口から火花が散る。
一人、また一人と体をハチの巣にされる。体が捻じれ、四肢が千切れる。腕が飛ぶ、足が飛ぶ、頭が飛ぶ。
『神殺しシリーズ』奪取のための作戦? 数多に張り巡らせた策略? それのための装備?
これはもう、そういう話ではないのだ。
つまり、ここにいる兵士たちは死んで時間を稼ぐ。ただの肉壁としてそもそも作戦に組み込まれていた。これはそういう話なのだ。
「あれま、随分と簡単に死ぬんやね。てっきりウチら異能者用の装備でもあったんかと思ったんやけど……ああ、すんません。今使ってるの銃だったわ、ハハハ」
しかし。
秘密兵器を託された兵士にはそうは思えなかった。
ただ死んで終わり、ただ消費して終わりでは話にならない。
故に。
「やめろ桑島! それは――」
『お前を殺して任務遂行』
「おお、すごいすごい。ソレ、『
『天蓋装甲』
二メートル強程度のパワードスーツ。
文字通りの物、元々は宇宙探査用で開発されていたパワードスーツだ。一部異能を逆算して作られたそれは大気圏突破、突入の衝撃すら受け流し、精密な動作を可能とする科学の粋。
神の侵攻後、宇宙なんて考えている場合じゃなくなってからは民間に払い下げとなった。ただ、その後相次ぐ犯罪行為への使用、違法改造の横行ですぐさま所持そのものが違法となった代物だ。
裏の中古市場でも見ることもなくなったソレは、現状骨董品のレアもの。だが、その性能までもが骨董品と言う訳でもない。
『もちろん、改造してあるに決まってるだろうがっ!』
天蓋装甲の胸部ハッチ、肩ラック、脚部装甲が開きソレが展開された。
銃器、ミサイル、殺人マイクロレーザー、火炎放射器、冷凍光線、紫外線照射装置、対異能反射装甲。と挙げだせばキリがない。
本来ならば、宇宙での作業用品やアームがしまわれていた箇所だったのだろうが、今では人殺しの兵器。宇宙を夢見た人々の結晶は人殺しの道具になり下がった。
「ただァ、天下の『難問議題』相手にそれは舐めプってやつちゃいますの?」
『死ねェい!!』
ズガガガガガッッ!!
学生を殺す一斉射撃。ガトリングガン程度では到底反撃もできない飽和攻撃。
教室、廊下の壁が一瞬で跡形もなくなる。
砂埃が舞う。けれど。
『……な、ぜ?』
「それは悪手でしょ」
無傷で学生は立っていた。なんてことはないように。
だが、異能はそれすらも可能にしてしまう。そして、そんな桁外れで馬鹿な能力を持つ集団を男は知っていた。
――難問議題。
「そうそう、『プラシーボ効果』って知ってます? 思い込みの力とか言われてるアレ」
『自分の回復能力を高める? まさか「
「あららバレちゃった。別に隠してなんかないけど」
学生は、善本は軽く拍手をした。
体には傷一つ、それこそ砂埃一つ着いていないことを見せびらかすように。
『体のロールバック……。まさかプラシーボ如きで自分を不老不死にしたのか!?』
「いやいや違いますよ。誰も『自分に』だなんて一言たりともいいってへんやろ?」
『――じゃあ一体』
「『砕けろ 鏡花水月』って事ですよ。ねぇ?」
その一言で、すべてが巻き戻った。
男が天蓋装甲を装備した最初の状態。壁に穴は弾痕一つ残っていなく、男の視界にある残弾表示は満タンだ。
つまり、まるですべてが幻だったようで。
「ただでは死なせん。『難問議題』が一つ、『逆転現象』が情報吐くまで直して殺して直す。すまんが、これが自白剤代わりや」
そこからは絶望が待っていた。この世界の存在意義すら疑うような、そんな逆転が。
「水晶前夜祭は最後まで開催する。それがウチの使命や」
2
高等部校舎地下。地下隧道神殿の奥。
そこにいたのは木戸をはじめとした『月光ライダーズ』の面々だった。
到着早々、アードからの依頼から逃げ出し、学校内部に木戸の知識を使って潜入していた。
「本当にこの先なのさ?」
「間違いはない……とは思うけどよ」
木戸が訝しむのも無理はない。
実際、ここら辺は本編でも詳細に書かれた訳ではなかった。アニメでも同様だ。
そんな頼りない知識をフル動員して何とかここまでたどり着いたのであった。
「あやふやすぎだ下っ端」
「ですね下っ端様」
「下っ端下っ端」
「みんな寄ってたかって酷くない!?」
わいわい、と敵地に潜入しているとは到底思えない調子で進む四人。
「――あァ? ここは託児所でも始めたンか? クソガキばっかじゃねぇか」
不意に男の声が聞こえる。
チンピラ。否、その男を木戸は知っていた。
「……『難問議題』の平一ッ」
平一。
難問議題『糧喰らい』の称号を持つ現代の最強だ。
ここにいること自体は想定していた。しかし、その想定はほかの難問議題の中で最悪に近い。それも別動隊が狙われる可能性の中で貧乏くじを引いた形で。
四人いる難問議題、その弱点や行動パターンはすでに仲間に共有している。だが、その中でもとりわけ平の扱いは難しかった。
彼の問題点。それはほかの難問議題とは違い原作において、負けたことがないのだ。
その戦闘スタイルは中、遠距離では無類の強さを誇る質量攻撃を主軸においている。その上、近づいても自爆覚悟の粉塵爆発、やたらと強い徒手空拳、ナイフ、拳銃等手札が多い。そんな作中無敗を誇る平。
その彼の能力『糧』はあらゆる粉末食材を作る能力だ。とは言え、本人の美学で戦闘中は小麦粉に限定しているが。
その小麦粉による視界阻害、呼吸妨害、極めつけには粉塵爆発という広範囲攻撃だ。美学を無視すればその幅は、数えるのが馬鹿らしくなるほど増える。
つまり一番の問題は、木戸の原作知識でもカバーしきれない事である。
「なァ、粉塵爆発って知ってっかァ?」
「――ッ!!」
――瞬間。
ひどい話だった。
わずかそれだけで、壊滅的な破壊があった。
「とりあえず一人」
「涙間!」
吹き飛んで行ったのは涙間。粉塵爆発によって、言葉すら発せずに視界の外に消えていった。
「――早ッ」
「二人」
続いて太刀川が急接近した平に蹴飛ばされて柱にぶつかる。
「で、三人」
制服の下から取り出されたテーザーガンが代喜の意識を刈り取った。
一瞬の出来事だった。
一瞬の出来事で月光ライダーズが壊滅した。
もっと言えば、軽く戦闘不能になってるだけだ。少し時間があれば立ち上がるだが、その前にとどめを刺されるだろう。
「は、はは。マジかよ」
「相手が学生じゃねェから手加減しなくていいのは助かるなァ」
悪魔が笑ってる。木戸にはそうとしか思えなかった。
原作知識がある。それでここまで何とか乗り越えてきた。だからこそ今回も大丈夫だろうと頭のどこかで高を括っていた。
けれどそんなもので推し量れるほど最強は、『難問議題』は甘くなかった。
「心配すンな。オレはあの裏切り面と違って無駄な人殺しはしねェ主義だ」
「ひ」
小さく悲鳴が木戸の口から洩れる。
腰が抜けてしまいそうだが、根性で押しとどまる。
「さァ、オマエらの情報吐いたら逃がしてやるよ。それとも愉快なオブジェになるか、どっちが好みだァ?」
「あ、あう」
じりじりと近づく平。粉塵爆発で爆死するか、情報を渡すか。
だが、相手はあの平だ。正直情報出しても殺される可能性は高い。
そこでふと、仲間の姿が目に入る。
ピクリ、と動いたのが見えた気がした。
状況をうかがってるのか、はたまた動くために藻掻いているのか。
けれどそんな希望とも呼べない状況。
木戸の頭にはいつ逃げるのかでいっぱいだった。
こんな時、肝心な時に原作知識は何も助けちゃくれない。
「……クソが。大クソ野郎が!」
でも良いのか、逃げても。別にここで逃げ出しても涙間から狙われることはない。せいぜい小言を言われるぐらいだ。
しかし、平の弱点を知るのは木戸だけ。
そもそもここで仲間を見殺しにしても逃げ切れる保証はない。
ここで逃げて命をつなぐか。ここで平を殺して命を繋げるか。
二つに一つ。
だったら。
平に拳銃を構えて、吠える。
「差し引きゼロだ!」
碌な能力を持っていなかったとしても、あの三人は違う。瞬殺されたとはいえ、プロの傭兵集団だ。
すでに能力と知っている手札は伝えてある。先ほどは不意打ちだったが、真正面からならば勝算はある。
そいつらが立て直す時間さえ稼げれば木戸の勝ち。
震える体を叩き、走る。
拳銃で牽制をしつつ走って近寄る。
「ハラくくれよ俺。まだ逃げてくれるなよ俺の足ィいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
対して。
きわめて冷静に、平には木戸の思考が分かっていた。ただのおとり。時間稼ぎの自爆特攻。相手にする意味はない。
ただその光景には覚えがあった。好きな作品のキャラにもこんなのがいたっけな、と。頭で負けと思っても、心が動いちまうそんなありふれた奴。
ならば、自分を捻じ曲げるわけにはいかない。
「いいなァ、オマエ」
そこにほんの少しだけやきもちを焼いて。
平は最大限の譲歩をした。
他の雑魚から目を離して、目の前の奴を見る。
「いい目だ。でもなァ」
必死に頭の原作知識を広げる。
平の弱点、それは能力自体に直接的な攻撃力が無いこと。生成は断続的に行われる事。
そんなことはわかっている。もっと、この状況で使えそうな何かを探す。
凡そ遠、中、近、そのいずれも弱点のない平。
彼の視界にちらりと吹き飛ばされたある少女が映る。
確か、同じ巻で。
原作八巻。月下祭暗躍編。
そこにおいて、平の能力が破られたことがあった。結果的には隠し持っていた拳銃を眉間に当てたことで勝利を拾っていたが、アレが神相手だったら負けていたであろう事件。
彼の弱点は予想外の状況に弱いことがあげられる。『災害』アルランダーとの対決中、その能力で盤面返しを食らった時が顕著だった。崩壊する足場に焦って、行動が一瞬止まっていた。
この地下隧道神殿にそんな都合の良いものを探す。
どうする?
柱の消火栓? そこまで彼を誘導できるとは思えない。
床? 床を貫通できるほどの爆発なんてそれこそない。
平置きされた壊れたコンテナ? ――あるいは。
「残念。オマエ程度の雑魚じゃあ、届かないッ!」
「知ってんだよ! そんなことぐらいっ」
結果は一方的な蹂躙の始まりだった。
気合入れてたら日を跨いじゃいました。ちなみに、善本君の能力は鏡花水月ではないです。どちらかと言うと月島さんに近いです。
次回、頑張る木戸くん。