春になったら桜が咲いて
梅雨はみんな憂鬱そうな顔を並べて
夏はプールではしゃいで海で花火をして
秋はドングリを探しながら歩いて
冬は校庭で雪合戦をする
そんな青春が少しまぶしい
青春は生徒たちのためにある。私にできるのは、その手伝いだけ。
先生にできることは、生徒を見守って、手伝って。大人にできるのは責任を取ることだけ。
そして、進むべき道を決めるのは生徒自身。
そのためにここに居る。
なんだ、わかっていたんじゃないか。初めから本当のことなんて。
本当に言いたい言葉は交わせないけれど、そうやって、伝わることはたくさんある。
だから、平気だ。
ふと、黒服の纏う雰囲気がやわらいだ気がした。
「もういいですか、先生」
「……ひとつだけ教えてほしい」
「……サービスしておきましょう」
「あなたはどうして私のことを陥れたり、利用したりしなかったの。殺したり……奪ったりしなかったの。」
見上げる黒服は少しの沈黙ののち、空を見上げて言った。
「空が、青かったから」
……なら仕方ない。そう思った。
「黒服、これからも敵で居よう。」
「……クックック……光栄です、先生。」
またその笑いが聞けてよかった。
私は起き上がろうとして、そして、ふと変な体制で止まった。
「あー……黒服。」
「まだ何か?」
「立てない……腰痛い……疲れちゃった上に……装備重すぎた……み、身動きが」
私は初めて黒服のすごく、呆れたって顔を見た。なんだかうれしかったが本当に立ち上がれなかった。なんせヒート系肌着とかそういうものをたくさん着込んだのだ。
黒服はふと立膝をつくと私をぐいと雪の上から起こした。
「ああ、ありがとう。これでなんとか……。」
ふと、私たちは互いにいつかのように触れあってしまったことに気づいた。いつかよく、そうしたように。謎に気まずくなって、黙り込みそうになる。あわてて取り繕うが、取り繕えていなかった。
「なんでだろ……あなたの手はどうして暖かいのかな……」
言い始めたら止まらない想いがまたもや出てきそうになった。聞いてほしいことが、言ってほしいことが、私にはたくさんあった。
黒服はふと、不思議な行動に出た。私を立ち上がらせたのだ。彼は私に付着した雪をあらかたはらってくれると、それから私の手を取って、自分の方に引き寄せる。
「先生、私はあなたの敵です。」
彼は私の手にキスをした。
「ですから、いつでも罠をしかけておきます。」
カッと、顔が赤くなったのを黒服が見ていないことを祈ったのだけれど、その緊張は次第に瓦解していって、あとには照れと困惑だけが残った。
「また……また、罠に掛かっちゃう……かもよ」
「その時はその時です」
「……そっか。うん、それでいいかな……今は」
「クックック……」
それから彼が行ってしまう時間になるまで、私たちはふわふわと、小さな雪が降るなか、ふたりでシャーレの屋上からキヴォトスの街を見ていた。
黒服の手はとても暖かかった。
また季節が巡っても、この夜のことを私は決して忘れないだろう。