青春は生徒たちのために   作:金ミ槌本Serif

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(4) 慟哭

「カンナ、待ってくれ!」

「……先生、まさかシャーレからここへ?」

現場でヴァルキューレ警察学校の尾刃カンナを見つけ、公安局が指揮を執っているのか、と思いながら駆け寄る。建物周辺は物々しい雰囲気で機動隊員たちが周囲を包囲していた、現場周辺は封鎖され、頭上をヘリが旋回しておりクロノス報道部の生徒たちも中継を始めている。なんてことだ、これじゃあ中に居る『あの子』を刺激するだけじゃないか……! 私は頭を掻きむしりそうになるのを必死にこらえる。

「要請を受けて来た。カンナ、状況の説明をしてくれるかな。詳しい話は後にしよう、あの子が傷つく前に説得しないと」

カンナはいったん無線をオフにし、私に耳打ちする

「……わかりました。初めから説明します。1時間3分前、付近で地元チンピラ同士の抗争が発生しました。ただのチンピラの抗争なら良かったのですが、地元で抗争している暴力組織の敵対者同士で戦闘はエスカレート、ヴァルキューレ警察学校により鎮圧が試みられましたが、一部が追い詰められ建物に立て籠りました。あの3階建てのビルです。何度も説得を試みているのですが1名が依然としてネゴシエイターの交渉に応じようとしません。建物は以前から暴力組織の拠点となっており大量の爆発物が設置されていたようです。立てこもっている……生徒は、錯乱しているのかヘイローを自壊させるとだけ主張しています。いまはゴタゴタがあって、SRT特殊学園の力も仰げませんので、突入のタイミングを模索しているところです」

「わかった。私が行く。」

「先生、そんな」

「大丈夫。カンナ、彼女が発砲しても誰にも手を出させないで。絶対に。スナイパーにもだ。」

唖然とする彼女にすまないと一言謝り、私は建物に向かって歩き出した。

「道を開けてくれないか。」

言うと、ヴァルキューレ警察学校の機動隊員たちは波が引くように私の前から退いていく。私はビルに歩いていく。彼女と話したいことが、まだ、話さなければならないことがたくさんあった。そのビルの二階から彼女は私を見下ろしていた。酷い顔だった。一回から見上げている私も同じくらい酷い顔をしていたと思うけれど、今はそんなことはどうでもよかった。

 ボロボロになって泥がついている靴を履き、ヘルメットを引きずって、硝煙の臭いも新しい銃を持ち、お世辞にもきちんと手入れされているとは思えない制服姿で、よほど青春を謳歌する年頃とは程遠い姿で彼女は私を見下ろし、表情に絶望を浮かべた。一縷の望みが絶えた、そんな笑みを浮かべ、彼女は建物の中に駆け去っていった。

 

『心って、一度ぐちゃぐちゃになったら戻らないんだよ』

 

「まって——、」

そう言ったとたん、誰かに強い力で後ろに引っ張られた、それからアロナに守られた感覚、バリアの中でもんどりうつ。それからとんでもない轟音と熱と振動、そして光が伝わってきて癖で目をかばう——。

 煙が凄まじく、酸素が薄くなりせき込んだ、建物を爆破させたのか!

 ヴァルキューレの機動隊員たちが私の前で私を守ろうとしてくれたが、しかし私は前も見ずに駆けだしていた、しかし誰かにまた首根っこをつかまれる。

「先生ッ! 今はだめです! 冷静になってください!」

カンナだった、カンナが間一髪私を建物から引きはがしてくれたのだろう、しかし私は完全に冷静さを欠いていた

「居るんだ、生徒があの中に居るんだ、離してくれ、あの子がまだ中に居るんだ!!」

バシン、と思いり頬を叩かれた。強い痛みに我に返る、カンナは私を装甲車の影に引きずっていき、ダンと装甲車に寄りかからせる、

「先生、落ち着いてください!」

「……ぁ、ご、ごめん……」

フラフラする、また足元が無くなりそうになるを私は必死にこらえる。まだ来させてはいけない、まだ『恐怖』に侵食されるわけにはいかない、まだ、

 まだ負けるわけにはいかない。頭の冷静な部分を総動員させて薄い空気を吸い込む。

「すみません、はたいたりして……レスキューがいます、救助活動と放水を開始しています、我々がどうにかするので先生は避難してください、大体、先生じゃ何もできません、」

「……そんなことはできないよ、自分だけ逃げるなんて」

「先生! いい加減にしてください!」

「それはできないんだよ、カンナ……ごめん」

カンナには悪いことをしてしまった。緩んだ腕から抜け出して私は瓦礫に走る、レスキューも機動隊の間もすり抜けて駆け抜けて、燃え盛るボロボロのその建物の残骸の中、ちょうど姿を見せたあの子を見つけた。こみあげてくるものを感じた。涙ではない。慟哭に近い制御できない何か。私は彼女の足の上にまだ覆いかぶさっているがれきを素手で退けようとして、レスキューの生徒たちに押し戻される、無茶ですとか何とか言われても私にはもう何も聞こえなかった

「がんばれ! 先生が来たから、先生がいるから! 絶対助けるから、だから」

彼女が目を開けた、彼女は横目だったが、一瞬確かに私を見た、彼女の消えそうなほほえみを私も確かに見た

 

「……先生……どうして……助けて……なかっ……の……?」

 

 彼女は気絶してしまった。私は抵抗するのをやめた。力が抜けた。頭を殴られたような衝撃を受けた。

 生徒たちが私を瓦礫の山から引き戻そうとしたり、耳元でしっかりしてくださいとか何か言っていたが何を言われたのかはもうよく覚えていない。

 ふと血がにじむ手を見て、そして私は気づいたら叫んでいた。

「ア゛アァアアアアアァアアッ!!!」

 スーツの膝が破れていたかった。自分の慟哭だけが、心と耳をつんざいている。

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