月曜日は決まって同じ夢を見る。名前も知らない少女が現れて、世界の終わる日を告げるそんな夢。あと、火水木金土日も同じような夢を見てる。

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はじめに

 月曜日は決まって同じ夢を見る。

 

 舞台は月の上。地面に這う数多の兎と夜空に浮かぶ青い地球。暫く兎と戯れて居れば、一人の女性が隣にやって来る。

 太陽光に反射して綺麗に煌めく金髪に、それとは真反対の真っ暗闇のような黒い目。年齢は知らないけれど、クラスメイトにいてもおかしくない程の若々しさだ。

 隣にやって来た彼女はなんてことはないような雰囲気で同じ言葉を告げる。

 

「来るべき、2023年5月1日。月は墜ちます。地球に墜ちます。世界に墜ちます、貴方に墜ちます。それが終わりです。世界の、貴方の……そして、私の」

 

 何も変わらない無表情で暫くこちらの顔を見て、僕が撫でている兎を横から撫でながら彼女は言葉を続ける。

 

「止めたければ、私を殺しなさい。期限迄に。終わり迄に。世界から私を見つけ出して、私を殺してみせなさい。それが、たった一つだけ。貴方の取れる、世界を救うたった一つの手段」

 

 そして最後、彼女は立ち上がり別れを告げる。「それでは現実で会いましょう」と。最近は「本当に探してます?世界滅びますよ?」という言葉だったりはするが。目覚めるのはいつもその後だった。

 

 

 

 火曜日も決まって同じ夢を見る。

 

 辺り一面火の海の地獄のような場所だった。誰かの悲鳴と何かの燃える音がずっと続いて、意味のある音を何一つ認識できない。そんな状況でも、いつだって彼女の声ははっきりと鮮明に聞こえていた。

 

「2023年5月2日に世界は火の海に包まれる。陸も海も全てを燃やし尽くす滅びの火。生命なんて何一つ残らない終わりの火。勿論、君だって死ぬ。私も同じだがね」

 

 周りの炎と見紛うような赤い髪をした少女だった。目は蒼く、ダウナー系とでも言うのだろうか。そういった雰囲気があって、恐らく自分より少し歳上だ。

 燃え盛る火の海で彼女は言葉を続ける。

 

「世界を守りたければ私を殺すと良い。それで全ては解決する。地球は燃えないし、君も死なない。まっ、私の行く末は変わらないが……それでは待ってるよ、君のことを。私を殺してくれるその日をね」

 

 その言葉を最後まで聞くと目が覚める。最近この夢を見ると、最初の彼女の表情が少し悲しそうな表情をしている気がするのだが、多分気のせいだろう。

 

 

 

 水曜日だって決まって同じ夢を見ている。

 

 陽の光がギリギリ届いているような深い海の中だった。見知らない魚が泳ぎ、いくつも建物が沈んでいる。遠くを見れば日本の観光名所がちらりと視界に入った。

 

「世界は沈むよ。2023年5月3日に。全てが海の底に沈んで、地球は完全に青い星になる。そしたら人間は誰も生きられないだろうね」 

 

 深海のような深い海の色をした少女だった。場違いな黄色い帽子と赤いランドセルは彼女が小学生であることを物語っていて、恐らく背丈からして高学年であることが分かる。

 

「だから、2023年5月3日までに私を殺して?そしたらきっと、陸は守られる。そしたら皆は生きられる」

 

 少しだけ辛そうにそう言って、無理矢理表情を繕って少女は続ける。

 

「だからちゃんと殺しに来てね、お兄ちゃん」

 

 そんな言葉を聞いて目が覚める。だから、水曜日の朝はちょっと嫌いだった。

 

 

 

 勿論、木曜日も決まって同じ夢を見る訳で。

 

 どこもかしこも植物が生えているような大自然の中だった。いくつも建物が自然の力に巻き込まれて崩壊しているか、取り込まれている。最早、ここが日本のどこだったかを当てられる人間はいないだろう。日本かどうかすら分からないけど。

 

「どうだ後輩、これが2023年5月4日の世界だ。全てが植物に巻き込まれて、文明なんて何一つ残らない。自然の偉大さを忘れた人間には十分な末路じゃないか?」

 

「どうでしょうね。自然の偉大さを、大事さを知ってる人間だって結構いると思いますけど。先輩だってその一人でしょう?」

 

 先輩は緑髪で目の色はちょっと黄色が入った緑だ。いろいろ面倒くさがりで、髪も服もボサボサである。けど、植物に対しては真摯で、真面目で、ちゃんと手間暇かけて育てている人だ。

 

「それはそうだが……大多数が忘れてしまっているようでは駄目なんだよ。まあ、お前はこの結果が嫌なんだろうが……知っての通り、止める方法はただ一つ。私を殺すことだけだ」

 

「できると思います?」

 

「さあな。人生なんて、先のことも他人のことも分からないことばかりだ。ただ一つ、言えることがあれば──」

 

「あれば?」

 

「──期待しているぜ、後輩」

 

 そこでいつも目が覚める。ちなみにこの夢は先輩と普通に会話できるのでちょっと便利だ。

 

 

 

 金曜日。見るのは決まって同じ夢。

 

 招待されるは不思議な街。地面も建物も生物さえも全てが金でできた黄金の街。普通の人間である自分が少し場違いに感じてしまうような場所だ。

 しばらく歩いて街を観光をしていれば、彼女が後ろからやって来る。

 

「素敵な街でしょう?全てが黄金の綺麗な場所。静かで、美しくて、永遠に残る。待っててね、2023年5月5日に世界全てがこうなるから」

 

 黄金の髪に黄金の目。黄金の服を着た、なんというか見ていて凄い眩しい人だった。身長も自分より一回り大きいので、余計に眩しさを感じてしまう。

 

「もし嫌だったら私を殺してね。死にたくはないけれど、貴方になら殺されても良いから……ふふっ、それじゃあ早く会いに来てね?どちらにしても、私待ってるから!」

 

 早口でそう告げられて、僕は目が覚める。最近は「こちらから会いに行くから住所を教えてくれない?」という内容に変わっているが、教えたことは一度もない。

 

 

 

 土曜日ぐらいは休ませて欲しいが決まって同じ夢を見る。

 

 全てが崩壊してしまったような場所だった。いくつもの建物が崩れ、遠くでは火災が起き、どこかかしこからも悲鳴が聞こえて、手に持つ携帯電話はどこにも繋がらない。

 

「2023年5月6日に大地震が起きる。日本だけじゃない。世界全域に全てを滅ぼす為にそれが起きる。何度も何度も何度もね」

 

 薄い茶髪をした同年代の少女だった。こんな状況だというのに本に目を向けていて、こちらに一別もしない。静かで冷たい声で、言葉を続ける。

 

「止めたければ私を殺せば良い。そうすればこんな悲劇は起きやしない。けど、私だって簡単に死ぬつもりはないから……それは理解しておいてね」

 

 彼女がようやくこちらに目線を向けた時には目覚めてしまう。だから、彼女の顔をきちんと見たことは一度もなかった。

 

 

 

 日曜日は休み!休みったら休み!だけど、決まって同じ夢を見てしまう。

 

 どうしようもない程に暑い日常の中だった。太陽がいつもより大きくて、太陽光もいつもより眩しい。人の往来はとっくになくなっている。

 

「ふふっ、滅びちゃうよ。太陽に飲み込まれて世界は滅びちゃうよ」

 

 明るいオレンジ色の髪をした子供だった。こんな暑いのに着物を着ていて、それでいて汗の一つもかいていない。夢だからだろうか。

 

「2023年5月7日、それがタイムリミット。それまで私を殺せば地球はこうはならないかもね~。」

 

 それを僕に告げれば、後はお役御免とでも言うかのように彼女はどこかへと走り出す。そして、途中で振り返っていつものように口を開くのだ。

 

「それじゃあ、かくれんぼといこっか。ちゃんと探してね、お兄ちゃん♡」

 

 そのタイミングで目が覚めて、涼しい部屋の中に僕はいつも感謝する。

 

 

 

 

 さて、これが僕の一週間の夢のルーティーン。毎週毎朝見せられる、だいたい同じ内容の夢。そんな夢に対して僕が思うことはたった一つだけ。

 

「こういうヒロインっぽい娘ってだいたい一人だけじゃないの!?」

 

 

 


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