新木場にある椿小隊の拠点、そこに一泊する事となった千束とたきな。
「おぉ〜!」
その中で千束はある物を見て目を光らせた。
「これがパスポート…!」
それは紺色のパスポート、十八歳以下の日本国籍を持つ者が使える5年用パスポートであった。
「ビザなしで行ける場所が最も多い世界最強の旅券よ。ブラックマーケットでも日本の旅券って高値で取引されることが多いくらいだし」
彼女は他にも赤色の成人後の10年用パスポートも用意されていた。
「で、こっちがアメリカのパスポート。これがオランダ、南アフリカ、ロシア、中国…」
「色々と持っているんですね」
そこで他にもそれぞれ別の名前が入った他の国々のパスポートを見る。
「憧れなんだよな〜」
「パスポートが?」
「ほら、リコリスって国籍がないからこう言うの作れんのよ」
日本のパスポートを見て千束は彼女が羨ましがった理由を隣で見ていた小塚原が聞いたので、あぁと漏らして納得をした。
「しかし、日本以外ですと中国人風の名前なんですね」
オランダのパスポートを見ながらたきなが言うと、浅美は頷く。
「ロンドンに中華街があるくらいだからね。思った以上にヨーロッパに中国人って暮らしてても違和感が持たれなかったりするのよ」
「そうなんですか?」
「そうです。19世紀末から20世紀初頭にかけて
たきなの隣で三条が説明を入れると、聞いていた千束問わず他の隊員もへぇと相槌を打っていた。
「ロンドンで食ったチャーハンは不味かったなぁ…」
すると草生津はふとそこでイギリスの嫌な過去を思い出した。
「中華料理を不味く作れるの多分、イギリス人だけですよ…」
嫌な記憶だったと言う雰囲気で納谷がげんなりした様子を見せる。
「マジでイギリス料理って不味いんだ」
「酷いですよ。週の半分デリバリーピザ、もう半分冷凍食品でしたから」
軽く悲惨な食生活を聞かされ、絶句するたきな。
「ってか、なんでこんな大量にパスポート持ってんの?」
「仕事で姿くらますためには必要なのよ。アナログな地域とかだとすぐに撒けたりするから」
「あぁ〜、なるほど」
よく分からないが、海外で工作活動をした上で必要な事であると言うのは理解できた。
「オランダなんて、また珍しいパスポートを…」
「それはEU圏内で動きやすくするためにね。向こうって国境通過の時にパスポートの確認とかないしさ」
「おぉ〜、そら便利だ」
他にもそうした多くの中国人がいるような国を中心にパスポートを持ち合わせていた。
「良いねぇ〜、海外行ってみたいな〜」
「うちに来るかい?」
「う〜ん、やめとく。まだ日本に居たいし」
さらっと引き抜きを断ると、彼女はテレビの前に座る。
「テレビゲームは?映画とかは置いてないの?」
「生憎、そんな娯楽品はウチにはござぁせんよ」
「ケッ、つまんねぇの」
最低限の生活品しか用意されていない拠点に悪態を吐くと、小塚原は答える。
「元々すぐ逃げ出せるように荷物は少なくしているんです」
「逃げ出す事前提で動いているのかよ…ここ日本だから安心しなさいって」
「すみません。仲ば癖みたいなものなんで…」
彼女は千束に答えると、千束は持ってきたトートバックを取り出す。
「ったく、持ってきて正解だったわ」
「お、ガイ・ハード?」
「他にもエリミネーターとか持ってきたよ〜」
洋画の入ったDVDを取り出してその内容にわちゃわちゃし始める彼女達。
「んじゃあ、飯でも作りますか」
「じゃあ私が…」
浅美が言うと、早速たきなが立ち上がった。
「ああ大丈夫大丈夫。お客さんが台所に立っちゃダメよ〜」
「え?しかし、千束の家では…」
彼女はそこでなぜだと困惑すると、
「あ〜、なんか色々ある〜」
そこで冷蔵庫を開けて中身を漁る千束。
「人ん家の冷蔵庫を勝手に開けるな!」
「あだっ」
そこですぐに浅美は千束の頭を叩くと、たきなに言う。
「ま、こう言う常識があるから。客さんに台所に立ってもらうってのも、礼儀に欠けるってもんよ」
「最初だけですけどね」
三条もそこで立ってたきなの隣に立つ。
「八人分の夕食と夜食です。どうせですし手伝ってもらえませんか?」
「わかりました」
「やった〜、たきなのご飯だ〜」
「そっちが楽しみなんかい」
浅美がそうツッコミを入れた時、彼女の持っていた携帯に通知が入った。
「悪い、ちょっと出てく」
「お、どしたの?」
「YO・BI・DA・SI。すぐ戻ってくる」
彼女はそういうと玄関から簡単に外に出た。
「…」
施設の真横を通る道路には一台の
「やあ、悪いね」
車にはいつもの連絡員が乗り込んでいた。浅美専属の連絡員となりかけている彼は陽気に挨拶をすると、車のドアを閉じて浅美は窓の外を見る。
「連絡は聞いている。真島が入国した可能性があると」
「ええ、顔も見たからほぼ確実でしょうね」
浅美は言うと、隣で連絡員は言う。
「ふむ…少々厄介なことになったな」
彼はそこで持っていた紙の書類を持つ。そこには一人の男の写真と、その経歴が記されていた。
「真島は一〇年前の旧電波塔事件のテロリストの一人だ。あの状況で生き残っていたのは予想外だったな」
「…」
その時、彼女の表情は硬いものとなり、その理由をすぐに連絡員は察した。
「おっと、君もあの時に活躍をしたんだったな」
その事件の際、リコリスのエースとなっていた錦木千束と共に事件を解決した英雄として彼女も名を連ねていた。
「紫雲イナグ君?」
「…私は所詮お飾りです。メインは千束ですよ」
名前を言われ、彼女は倉庫を見上げる。
「君の生まれはリコリスの中でも特殊だ。故に入った時に改名をした」
「ええ、貴方がたがつけた名前ですよ」
窓辺に肘を立ててため息を吐く彼女に連絡員は伝える。
「すでに真島の入国の一件は上層部とスポンサーに伝えてある」
彼はそこで運転手に目配せをすると、運転手は手元の装置のスイッチを入れた。これで軍用の強力なジャミング装置が付近に展開される。
「面倒なテロリストが入国したとあれば上層部も動くだろう」
「もう動きますか?」
「ああ、君たちに次に行って欲しい指令もいくつか届いている」
彼はそう言い、いくつかの書類を浅美に渡す。
「仕事の依頼だ」
「了解」
そこで彼女は書類を受け取ると車を降りた。その直後、車は走り出すと東京の夜景の中に消えていった。
浅美が車に乗り込んだ様子を上空からドローンを使ってクルミが見ていた。彼女は浅美を筆頭に椿小隊の情報を得るために、個人的な目的で追跡を行っていた。
「ナンバーは…」
クルミはそこでドローンからの映像を解析する。
「…防衛省所有の公用車だな」
プレートナンバーと車種をすぐに解析に回してそれがどこの所属なのかを把握する。
「ん?待て、おかしいぞ?」
その瞬間、ドローンのカメラが白黒になって途切れて墜落をした。
「ジャミング!?」
復旧をしようにも強力なジャミングはあらゆる電子機器を使用不能にした。
「ダメか…」
何も音更がなくなってしまったドローンを前にため息を吐く。
「でもなんで防衛省の車に乗ったんだ?」
そこで彼女は首を傾げた。
そんなクルミの疑問もいざ知らず、浅美は拠点に帰ってきた。
「ただいま〜」
「おかえり〜」
拠点では千束とたきなが早速風呂に入ってパジャマ姿に着替えていた。
「もう風呂入ったんだ」
「今みんな入ってってるよ」
この拠点は現在、八人がソファを囲んでおり、上映会の準備を進めていた。
「今日の夜は?」
「そうめんと握り飯」
「おぉ」
冷やしたそうめんと豆乳を使ったスープ。そこに豚バラを載せたそうめんが丼に入れられていた。
「夜食は?」
「握り飯を」
「わ〜い、ご飯だご飯〜」
千束はそこで今日の夕食を楽しみにしてソファに座る。
「じゃあ、いただききま〜す」
「「「「「「「いただきま〜す」」」」」」」
全員が手を合わせて一斉に食べ始める。
「しかし、一日に六食ですか…」
食べている間、たきなは台所に立っていた時に聞いた椿小隊の食事事情に苦笑していた。
「食べられる時に食べとかないと、色々と辛かったからね」
朝昼晩の間に二回、夜食一回の一日六回の食事をとる椿小隊。常に工作活動に従事していた彼女達はまともな食事を摂るために少量を複数回に分けて摂っていた。
「正直、日本だから三食にしてもいいんだけどね」
「歩いて五分でコンビニがある環境まじ最高っすよ」
草生津は言うと、ささっとそうめんを啜る。
「夜食のおにぎりって具は何?」
「ご自由にどうぞ。あっ、隊長にはわかめおにぎりを作ってあるので」
「ヤッタゼ」
部屋に八人と言うのは流石に大所帯であり、椿小隊と千束達は少々窮屈になって食べていた。
「しかし驚きました。まさか三条さんも京都出身だったとは…」
「私の頃と変わってなくて懐かしいです」
たきなと三条は隣で座って先ほど知った事実を口にする。
「あら、知らなかったの?」
「はい。三条さんはなぜ椿小隊に?」
「昔から毒を収集するのはが趣味でして、施設抜け出して毒キノコを採取してたらここに飛ばされただけです」
「うわっ、こりゃあ変態だぜ」
「すごいですね。毒ですか…」
千束は三条の所業に苦笑いをした。するとそこから雪崩を打つように小塚原達も言う。
「ちなみに私は持ってた銃をロングバレルに改造して飛ばされた」
「現場の偵察で一般人の退避を完了させる前に作戦をやっちまった」
「私は上官のパソコンをハッキングしましたからね」
「部屋に工作機械置いてガンガンに音鳴らし続けてたら司令官がノイローゼなった」
それを聞いた千束は一言。
「そんでもないことしてんなお前ら」
「凄まじい規則違反ですね」
たきなもそう言い、椿小隊が厄介者の掃き溜めと言う点では間違っていないのでは?と言う疑問が出てきてしまった。
「まあ私の場合、毒が使えるのでコンパウンドクロスボウを使っていたんです」
「クロスボウって電車に持ち込んでも何も言われないしね」
浅美が言うと、たきなは首を傾げて答えた。
「今年からクロスボウの所持は禁止されましたよ?」
「え?」
「え?」
その事実に困惑する浅美達にパパッと携帯で調べた千束が見せる。
「ほらこれ」
そこには三月に改正された銃刀法と、それに関するクロスボウの扱い方の変更についてだった。
「秋からはクロスボウの所持は違法になります」
「電車にも持ち込めなくなるよ〜」
千束は言うと、三条は開いた口が塞がらなかった。
Do you want a happy end?
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No