大罪司教『傲慢』を担当する少年が送る日々を淡々と描いた物。

短編で終わるかもしれないし、少しづつ続けていくかもしれない。

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被害者の女性目線から始めます。便利だよね、レグルスって。


狂人讃歌

 

 日が沈みかける頃、私は村の市場から帰路についていた。お使いを頼まれ、少し足を延ばして買い物を済ませた帰り道だった。

 その道の途中、風に乗ってどこか不穏な気配を感じ取ったが、気のせいだろうと思っていた。

 

 だが、村が見えてきた瞬間、その思いはすぐに打ち消される。

 視界に入ってきたのは、煙の立ち上る村の中心と、瓦礫の山が広がる風景だった。

 

「....なによ、これ」

 

 慌てて駆け足で家に向かうと、家の前に異様な姿が見えた。

 目の前には、見慣れない男性が一人、何の気配もなく立っている。

 

 その姿を見た瞬間、心臓が激しく跳ね上がる。

 中背中腰で、いかにも平凡な顔立ちのした、白髪の男。

 だがその男から放たれる威圧感は、まるでこの空間全てを支配しているかのように感じられた。

 

 

「――いやぁ、運命的な出会いって、本当にあるんだろうねぇ」

 

 それはあまりにも自然に、まるでそれが朝の挨拶のように言われた。

 

「どうも、僕の名前はレグルス・コルニアス。今日から僕は君の夫で、君は僕の妻。何か質問とかある?」

 

 目の前の男――レグルスは、あくまで当然のようにそう告げた。

 自分が一体何をされたのか、どうしてそんなことを言われているのか、何一つ理解が追いつかない。

 

「ちょっと待って....あなた、今会ったばかりでしょ? 何を言って....」

 

 私は震える声でなんとか言葉を絞り出した。

 けれどその瞬間、彼の目つきが険しいものとなり、次の瞬間には――

 

「――あのさぁ、君、僕は質問があるかどうかを聞いたよね? それなのに逆に僕に質問してくるとか、君って疑問形には疑問形で返すタイプの人? それとも単に僕を無視しただけなのかな? それでさぁ....まぁ....わかるよ?うん、わかる、わかるさ。どうせ君の疑問は、唐突すぎるとか、理解が追いつかないとか、なんで僕が勝手に決めつけてるんだとか、そういうことが言いたいんでしょ?  でもさ、そういうの、考えが遅れてるって言うんじゃないかな?」

 

 私が言葉を挟む間もなく、男の言葉は止まらない。

 

「そもそも、僕が君を妻にすると決めたことに、君が口を出す余地って本当にあるのかなって思わない? だって、考えてみてよ。僕が選んだ。僕が欲しいと思った。僕が、君を“妻”と定義した。それだけの条件が揃ってて、君がわざわざ拒否する理由があるかい? あるなら是非とも教えて欲しいんだけど、実際の所無いんだよね?」

 

 彼の声は決して怒鳴り声ではない。

 むしろ丁寧ですらある。だがその中身は酷く一方的で、逃げ場のない論理だった。

 

「それにね、僕のこと知らないのに“そんな勝手に”だとか言われるの、まるで僕が悪者かのように決めつけられているかのようで不愉快なんだけど。まずさぁ、僕という人がどういう人なのか、そういうのは僕と付き合ってから判断してくれない? 僕がどういう人間か。僕がどれだけ君を幸せにできるか。なにより、僕がどれだけ“誠実”かってこと、君は知らない訳でしょ? まだ僕を知らないのにそういう言葉を僕に吐けるのって、君の中であまりにも他者への尊重が欠如していると思うんだ」

 

 笑顔を浮かべながら、彼は一歩こちらに踏み出す。

 本能が警鐘を鳴らしているのに、体が動かない。私はただ、膝からがっくりと崩れ込むだけであった。

 

「僕はね、浮気なんてしない。嘘もつかない。絶対に君を裏切らない。言ったことは守るし、守れない約束は最初からしない。そういう男って、こんな今どき希少種だと思わない?ねぇ?」

 

 言葉の圧が強すぎる。

 しかもそれを、理性的に、まるで善良な人間のふりをして言ってくるのだから、逃げ場がない。

 

「なのにそれを拒絶するのかい君は?  他者がどれだけ理性的で正しくて誠実かを理解しようともせずに、君は僕を拒むのかい? それってさ、おかしくない? おかしいよね?  僕の“選ぶ権利”を明確に踏みにじってるよね? それって僕という一個人の権利を否定するって事だよね?」

 

 彼の声がほんの少しだけ低くなる。

 その分、重たく、冷たく、刺さってくる。

 

「僕はね、欲しいものを奪ってるんじゃない。受け取っているんだよ。僕の世界に必要なもの、僕の幸福に必要な構成要素。自分が少しでも幸せになる為に降って来たぼた餅を受け取るのは、人として当然の権利だ。恋ってさ、時に唐突な物だよね。君は偶々僕の目に留まり、偶々僕に選ばれた。これはもはや“運命”。だから僕は君を“僕の妻”として受け取る権利がある。 それが、当然の流れってやつじゃないのかな?」

 

 唖然として、私は何も言い返せなかった。

 言葉が届かない。理解してくれる気など、最初からない。

 

彼は、初めから結論だけを持っていて、それ以外を一切受け付けていない。

 

「じゃ、改めて。僕の妻として、よろしくね?」

 

 私は、唇が震えるのを抑えられなかった。

 そして彼が一歩踏み出したその瞬間――

 

「――うん、退屈だ。非常に退屈で、それでいてつまらない」

 

どこからともなく、澄んだ少年の声が、空間を裂くように響いた。

そして、気づけば音もなく現れていた紺碧の髪の少年。

その瞳は、すべてを見透かしたように冷ややかで、同時に、どこかこの惨劇を楽しんでいるような視線を宿していた。

 

「君が選んで、君が望んで、君が手に入れる。それだけで“完結”させようとする物語なんて、つまらない、つまらない。あまりにもつまらない。

 ――それって、舞台の上で役者が一人で拍手してるようなもので、僕は見ててとても哀れに感じるんだよね」

 

 少年がきっぱりと彼の言葉に言い返す。....いや、これは言い返していると言えるのだろうか? 

 

 だが、それを聞いて、白髪の男は、ゆっくりと少年の方へ振り向く。

 

「....あのさぁ、突然来たかと思えば、急に流れも無視して口を挟んで、それで吐いた言葉が“つまらない”だって? ――まぁ、分かるよ? 頭のおかしい君にとっては、“他人の勝手な決定”というものが気に食わないんだろうね。 “本人の意思を無視するな”とか? うんうん、立場的に“傲慢”を背負ってる君が、いかにも言いそうな戯言だよ」

 

 一歩、白髪の男が少年へ近づく。

 その足音は重くないのに、まるで空気を揺らすようだった。

 

「でもさ、考えてみなよ? 僕が彼女を選んだ。彼女が僕に出会った。それって偶然でも運命でもない、ただの“現実”だよね? 現実に起きてるんだよ? それを否定するって、それって君のただの現実逃避で、君のただの妄想なんじゃないかい? 君のそれってさ、自分の存在意義と矛盾してないかい? 君って確か綺麗事は嫌いなんだよね? そんな主張をする君がさ、現実から目を逸らして、それで僕の“選択”を“否定”するって、自分の中で既に矛盾していることにきづかないのかな?」

 

 白髪の男は微笑んでいた。でも、目は笑っていない。

 

「君が思ってるより以上に、この世界は残酷で、現実的で、シンプルなんだよ。誰が誰を選ぶか? 誰が何を望むか? それはね、“力”と“意志”だよ。 理屈とか感情とかは後付けなんだよ。僕が望んで、僕が選んで、僕が得ようとしてる。それを誰が否定できるというんだい?誰が“だめ”と言えるんだい? そこにどんな根拠があるというんだい?」

 

 彼の語りは止まらない。

 彼の言葉が他者に向けられているからこそ、改めて確認する事が出来る。彼は、間違くい無く、捲し立てる言葉で人を飲み込もうとする人なのだ。

 

「第一さ、考えてみてよ。僕がこの女の子を選んで妻にしたって、それって誰にも迷惑かけてない訳でしょ?  君に何か損害があるの? ないよね? 僕はただ、僕の人生を僕の意志で進めてるだけ。それのどこに“間違い”があるって言うんだい? どこを見て“つまらない”って言えるのかな?  そもそも、君にとっての面白い物語ってなに? それって誰が定義してくれたの? それさ、君のただの主観でしょ?  君の言うそれって結局、君のいつものお得意な“自分が気に入らないから否定する”っていう、いちばん幼稚な思考だよね? ....いや、分かるよ? 君の年頃じゃまだまだ精神的に未発達で、そういう考えになる時期があるってのもさ。僕だって小さい頃は完璧な人間とは言えなかったし、そう言えるほどの傲慢さも今の僕には無い。他人に未熟な時期がある事くらい、僕にはわかるし、分かるからこそ寛容な眼で見る訳。他人を寛容に見れるからこそ、この世界は生きやすくなるし、それが巡り巡って自分にも帰ってくる。winwinな関係だ。....だけどね? それでも自分がそういう時期かもしれない、そういう行動によって人を傷つけているかもしれないという自覚くらいは持つべきだと思うんだよね。それすらも持たずに、ただ相手の寛容にすがってるだけじゃ、それはもうただの“自分勝手”、“傲慢”。それじゃ人としての成長は見込めないし、一生他人に迷惑をかけ続ける存在になる。それが膨張し、君の様な人が多数派になればこの世界は僕にとって理想の世界からほど遠くなってしまう――それは流石に、いくら無欲で寛容な僕でも許せないなぁ」

 

そして、レグルスは口元を吊り上げるようにして、最後にこう締めた。

 

「改めて言うけどさ、僕が欲しいと思ったら、それは僕のもの。僕が愛すると決めたら、それは僕の妻。僕は人としてそれを貰う権利があるし、主張する権利もある。――自分の夢を護る為に戦う。それがこの世界を生きる上での“常識”だろう? 違う? 違わないよね? だったら――この話、もう終わってるんじゃない?」

 

 

しん、と空気が止まった。

あまりにも勢いが強すぎて、誰も言葉を挟めなていない。

 

 

 それはきっと現れた少年にとっても――

 

 

「....はぁ、終わった? ふうん、なるほどね。それが今回の君の言い分ね」

 

 

 

――淡々と。あくまで静かに。

紺碧の髪をした少年は、まるで誰の言葉にも感情を乱されなかったかのように、静かに口を開いた。

 

「じゃあ、順を追って訂正するよ。まず、“これは現実だから正しい”という理屈。“起きてしまったことは受け入れろ”という類の思考だね。それはね、事実の追認であって、正しさの証明にはならない。事故が起きてしまったなら悲劇になるけど、故意に人を殺したなら犯罪だ。結果は同じであっても、それに至る過程の“正しさ”がまるで違う」

 

彼の言葉に熱はない。でも、論は鋭い。

 

「次に、“力と意志”が全てという主張。うん、確かにそれは“世界”の理ではある。ただ、それを口にする人間が“支配の正当化”に使った瞬間、それは堕ちる。力を使えば何でも支配できるという理屈は、力を持った者が自己の欲望を肯定する方便に過ぎない。」

 

淡々と、ひとつずつ崩していく。

 

「さらに、“誰にも迷惑をかけていない”という主張。これはもう視野が狭いとしか言いようがない。君のすぐ側にいる彼女の意思を無視し、行動を縛ろうとしている時点で、君はその娘の人生を侵害している。人生の自由というものは、他人の自由とぶつかった瞬間に“調整”が必要となる。それを無視した自由の主張はただの“暴走する自由”だ」

 

そして、決定打を打つように、彼は首を傾げて言った。

 

「最後に、“僕が選んだから妻”....それ、君が勝手に“命名”しただけであって、“関係”とは言えない。君がどれだけ強く、正しく、欲しく思っても。“夫婦”という関係は、君の欲望だけでは成立しない。相手の合意があって、はじめて成立するんだ。君のは、“関係”じゃない。“自己完結した欲望のラベル貼り”に過ぎない。

物語というのはね、他の登場人物との衝突や合意によって関係が構築されている。君のは“ただの独演会”。誰にも観られず、誰にも語られない、ただ“君が喋ってるだけ”の、空虚な台本なんだよ」

 

 

 

 ――沈黙。

 

 ただそれだけが今のこの空間を支配していた。

 

 だが、長すぎたそれを、もう一人である彼が許さなかった。

 

 

「ふ、ふふ、はは、っはあ!? なるほどなるほど、君、やっぱり面白いね! 理屈は立派、語彙も豊富、口も回る。でもさ、そこまで堂々と“人の選択”を否定するなんて、それこそ傲慢の極みじゃない? ねぇ、どうなのかな? それ?」

 

男の声は笑っていた。でも、背筋が凍るような“熱”がそこにはあった。

 

「君の言い方ってさ、実に巧妙なんだよ。まるで他人のために語ってるふりをして、その実、自分の正しさだけを延々押し付けてる。彼女の意思を守れ? それは関係ではない? はは、それって“君が認識している関係”でしかないんじゃないの? ねぇ、それっぽい言葉と理屈を並び建てれば、君は何でも自分の都合に収まると思ってる? 思ってるんだよね? 思ってるでしょ?」

 

空気がピリつく。男は言葉を重ねる。声は高くない。でも熱量が異常だ。

 

「常識的に考えてみて? 君みたいに、他人の行動にいちいち“演出”とか“物語性”とか求めてたら、何も決断できない事くらい分かるよね? 誰かを好きになる、選ぶ、その行動一つ一つに“正しい意味づけ”が要るって? 違うでしょ!? 誰にだって、“欲しい”と思った瞬間がある。そこに理由なんて要らない。“欲しい”って、それ自体が理由なんだよ。それが愛、愛というものなんだよ!!」

 

私は震えていた。

目の前で叫んでいる狂人の言葉が、鋼鉄より重く、火よりも熱く耳に圧し掛かる。

 

でも、それ以上に冷たかったのは――

 

「....欲望を理由にするなら、“犯罪者”もまた自分の正義を叫ぶだろうね」

 

狂人の言葉に返した少年の声は、とても静かなものだった。その上、まるでそこに立っているのが人形か録音機かと錯覚するほどに、淡々としている。

 

「誰かを傷つけた者が、“好きだったから”と叫ぶ。誰かを壊した者が、“手に入れたかっただけだ”と嘆く。でもそれは、“理由”にはならない。君が語っているのはそれこそただの、“私的な解釈”というものに過ぎない」

 

 淡々と、淡々とひたすら言葉を並べ立てる。白髪の男は既に、我慢の限界だと言わんばかりに顔を真っ赤に赤らめさせていた。

 

 だが、今の私にそれを笑う余裕は無い。

 

「それにね、レグルス・コルニアス。君の話には、一つだけ決定的な欠落があるんだ」

 

その瞬間、私は息を呑んだ。

何がそんなに息を吞む事があったのかはわからない。でも、これから語られる何かが、決して優しいものではないと直感した。

 

 

「――君の世界には、“他人”がいない。君が見ているのは、君だけだ。君の都合、君の欲望、君の満足。君が語る“常識”とは、君に都合のいい“型”に他人を押し込めるための枠組みに過ぎない。それを“当然の権利”と呼ぶのは、あまりにも滑稽で、あまりにも――醜い」

 

「君は欲しいと叫んだ。それはとてもいい。でも、君が手を伸ばした途端、他者が否定した。そういう“ズレ”が生まれたとき、君はそこで自分を調整しようとはせず、ただ自分の現実を拡張しようとした。“君の妻”という名札を他人に貼ることで、“君のもの”にしようとした」

 

 ――瞬間、少年の声に、ほんの微かに、“色”が混じる。

それは、静かな激情。抑制された歓喜。理性の仮面の奥で、震えている何か。そして、それがダム水のように溢れるのもまた、すぐの話であった。

 

「でもね、僕はそれを“否定”するためにここにいる。演出を壊すためにではなく、“整える”ために。君の物語を否定することで、もっと美しい劇を演じるために。彼女を守るとか、君を止めるとか、そんな陳腐な言葉は使わない」

 

 彼は笑った。淡く、小さく、そして――ひどく、冷たく

 

「だって、それは“素材”なんだ。彼女は僕の舞台にとって必要な装置....役者に適切な指導をするのは、演出家の仕事でしょ?」

 

 ――“素材”

 その言葉に、私は心の底から戦慄した。今、この場に立つ二人のどちらも、私を“人間”として見ていない。

 一人は“妻”という所有物として、

 もう一人は“役者”という構成要素として。

 

 そして、どちらも――それが当然だと思っている。

 

 

「……はっ、呆れるね。君、何を気取ってるわけ? なんなのその喋り方。どこまでが真面目で、どこまでが演出?

ねえ、“演出”って、自分の中だけでやる分には勝手だけど、それを他人に押し付け始めた瞬間、それってただの君の名の通り傲慢だよね? 君、傲慢の大罪司教としては、あまりにも“そのまんま”過ぎて、ちょっと笑えないんだけど。」

 

 

 レグルスの口元は笑っていた。

 でもその声には、明らかな焦りが見えていた。

 

 

「それにさぁ、君確か“素材”って言ったよね? 彼女は君にとっての“舞台装置”? それ、冗談のつもりで言ってるの? それとも、マジ? どっちにしたって、あり得ないよね。だってさ、君が正義の物差しを基準に道徳を語るつもりなら、せめて他人を同じ人として見るのが、まずは最低限のマナーじゃないの?」

 

 ――悪くない返し。でも、どこか必死。まるで、それはようやく見つけた一本の蜘蛛の糸に必死にぶら下がるよう。

 

「僕はね、最初から言ってるんだ。欲しいから手に入れる。それが僕の“信念”で、僕の“責任”で、尚且つ僕の“選択”なんだ。これって間違ってる? 間違ってないよね? だって、正しいかどうかって、他人がどうこう言う話じゃないから。正義だの悪だの、そんな事をほざいて良いのは幼稚園児までだよ。僕は僕にとって“正しい”ことをした。なのに君は勝手に他者の選択を“間違い”って断じている。それってもはや傲慢以前に、支離滅裂だと思うんだけど?」

 

 

 

 私は男の言葉に気付けば頭がじりじりと痛くなっていた。

 でも、そのすぐ隣で、もう一人の“狂人”は静かに呼吸する。

 

 

 

「....支離滅裂? まあ、たしかにそう見えるかもね。」

 

 彼は、一瞬だけ笑った。

 口元だけが歪んだ。でも、目は、虚ろな魚の眼のようだった。

 

 

「ねぇ、君の世界の中では、“彼女”はただの“妻”だった。それはとても都合がいい。とても効率的だ。でも、じゃあ、もし“君の目に映る妻”が、ただの“役者”だったら?」

 

 ――その言葉に、私の心が再び凍り付く。

 “素材”、“役者”。人を、それも今日初めて会った見ず知らずの私を、彼はいきなりそう断じたのだ。

 

 

「演出家としての僕はね、“壊れた役者”は嫌いじゃない。いや、むしろ壊れるからこそ、その役者は役者たりえるんだ。そしてそれは“舞台の上で壊れるべきタイミング”があるから。間違ったタイミングで、間違った動きをして勝手に崩れる舞台装置は――とても、目障りで、僕の望む演技じゃない。だから、君が創ろうとしている舞台は、僕が“壊す”。壊して、きれいに並べて、もう一度構築する。だって、君がぐちゃぐちゃに潰した小道具なんて、もはや使い物にならないからね」

 

 

 

 ――気づけば、私の震えは既に首元まで上がっていた。

 彼の声は相変わらず穏やかで、淡々と、でもその中には――明らかに“異常な”熱がある。

 

 

 

「正しさをね、定義するのは簡単なんだ。君が言うように、“自由”とか“選択”とか“責任”とか、そういう綺麗な言葉を並べればいい。でもね、正しさはそれだけじゃ成立しない。“物語”がなければ、意味がない。他者を無視して語る正義なんて、ただの自慰行為だ」

 

 

 

 

「――だからさ、レグルス・コルニアス。君の正義は、既に“死んでいる”って言ってるんだ。それとも、元から無いと言った方が良いのかな? 君の理屈じゃ、誰一人として感動しないし、泣かないし、笑わない。それは、“死んだ脚本”もとい、“成立しない物語”だ。――だったら、もう僕が直すしかないよね?」

 

 その声は、変わらず優しい。

 だがその内容は狂気でしかなく、それを聞かされている私の背筋は、もう何度も粟立っていた。

 

 私はもう、何をすればいいかなんて考えられなかった。

 ただ、一つだけわかるのは――

 

 この二人の間にいるのは、

 私という名の、言葉のナイフに晒された無力な命でしかないということだった。

 




お互いの相手への感情


強欲 → 傲慢 よく眼の前に現れては稚拙な理論で自分の権利にケチを付けてくる、世界の演出家気取りな頭おかしいクソガキ。そろそろ本気で躾けてやりたい。

傲慢 → 強欲 よく自分の眼の前に現れては屁理屈で自分の権利を主張してくるあたおかの人。その癖自分の思い通りの役者にならない上に、脚本家としても演出家としても失格。この人の存在価値ってなんなの?


傲慢担当の名前は次に決めようと思います....

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