霊使い創作小説    作:砂漠のデスラクーダ

1 / 16
【未界域探索編 ― 絆の共鳴と魔獣の咆哮】《導入》

黎明の静けさが精霊術師協会の塔を包んでいた。薄闇の中、風が高層の塔を吹き抜け、掲げられた旗がゆっくりとはためく。

 

「……未界域、ね」

 

アウスは木製の手すりに手を添え、塔のバルコニーから視線を落とした。霊力の流れが乱れている。遠い地で、大地の脈動が不穏に揺れていた。

 

「出たな、嫌な任務って顔してるぞ、アウス」

 

肩越しに声をかけたのはヒータだった。炎のように赤く揺れる髪が、朝日を受けて一層鮮やかに燃えている。

 

「嫌じゃない。ただ……気がかりなだけ」

 

アウスはそう言って小さく眉をひそめる。

 

精霊術師協会から下された特別任務。それは「未界域」と呼ばれる領域の調査だった。魔力の乱流が絶え間なく渦巻き、物理法則すら歪むとされる禁域。過去にも何度か調査隊が派遣されたが、帰還者は数えるほどしかいない。

 

「何か、嫌な予感がするんだ」

 

アウスの言葉に、ヒータは小さくため息をついた。

 

「ま、そういう時こそ、あたしらの出番ってことだろ? 共鳴訓練の成果、見せてやろうぜ」

 

彼女の言葉に、アウスはほんの少しだけ口元を緩めた。

 

その頃、塔の図書室ではウィンとエリアが任務概要書を読み込んでいた。ウィンは表情を曇らせ、エリアの横でそわそわと動いている。

 

「ねえ、エリア……未界域って、本当に大丈夫かな。ここ、“高濃度魔力生命体との接触例あり”って書いてあるよ」

 

エリアは静かに頷いた。

 

「未界域には、私たちの常識が通じない。けれど、その中で起きていることを解き明かすのが、私たちの役目」

 

その横顔はどこか頼りがいがあるようで、ウィンはふっと安堵の息をついた。

 

「……うん。エリアがいるなら、大丈夫な気がする」

 

 

数日後、4人は未界域の入り口に立っていた。

 

周囲には濃い霧が漂い、空間そのものが脈動するような圧迫感がある。

 

「この感じ……魔力が逆流してる?」

 

アウスが眉をひそめる。ヒータは肩を回して気を引き締めた。

 

「とにかく、油断せずに行こう。共鳴が乱れたら、すぐに戻る判断を」

 

エリアが指示を飛ばし、4人は慎重に未界域へと足を踏み入れた。

 

しかし、最初の数歩で異変は起こった。

 

「霧が……濃くなってきた?」

 

ウィンがあたりを見回す。次の瞬間、強烈な魔力のうねりとともに濃霧が爆発的に渦巻き、視界が完全に閉ざされた。

 

「ウィン!? エリア!? 返事して!」

 

アウスが叫ぶも、その声は濃霧にかき消される。わずかに残る気配を辿ろうとするも、霧の中では精霊とのリンクすら曖昧だ。

 

「くそっ、分断された……!」

 

ヒータは即座に魔力を凝縮し、周囲の霧を焼こうとするが、すぐにアウスがそれを制した。

 

「待って、ヒータ。ここで無闇に力を使ったら、どこに飛ばされるかわからない」

 

「じゃあどうするんだよ!」

 

「少しずつ進んで、再合流の可能性を探るしかない……」

 

 

一方その頃、ウィンとエリアは別の場所に転送されていた。

 

「エリア……大丈夫?」

 

「問題ない。だが、魔力の感知が困難だ。おそらく、空間そのものが歪んでいる」

 

2人は周囲を警戒しながら、森の中を慎重に進む。しかし、突如として草陰から黒い影が飛び出してきた。

 

「なにっ……!」

 

それは、鋭い牙と爪を持ち、異常に伸びた四肢で這い回るUMA――未界域の“ワーウルフ”だった。

 

「くるよ、エリア!」

 

ウィンは素早く風の精霊を呼び出し、斬撃のような突風を放つ。エリアも即座に氷の結界を形成し、敵の動きを封じる。

 

「ウィン、挟み込む!」

 

「了解っ!」

 

風と氷、ふたつの精霊術が絡み合い、ワーウルフを押し返す。しかし、敵の数は一体だけではなかった。

 

「……群れ!? こんなの、聞いてない……!」

 

だがそのとき――ウィンの叫びに呼応するように、彼女とエリアの魔力が共鳴しはじめる。臨界点を超える寸前の不安定な共鳴。しかし、それは希望の光でもあった。

 

エリアは静かに言った。

 

「信じて、ウィン。私たちならできる」

 

微かな笑み。風が吹き抜け、未界域の霧を切り裂くようにして、2人の戦いはさらに加速していく――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。