霊使い創作小説    作:砂漠のデスラクーダ

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【幻界迷宮編 ― 鏡像の檻と心の迷宮】凍てついた感情の檻―エリアの迷宮

目を覚ますと、そこは白銀の世界だった。風もなく、音もなく、ただ雪が降り続けている。エリアは静かに身を起こすと、自分の周囲に無数の氷柱が立ち並んでいることに気づいた。

 

まるで迷宮のように入り組んだ氷の林。

 

その一つひとつには、過去の情景が閉じ込められていた。初めて涙を飲み込んだ日。誰にも心を開けなかった日々。すべてが、氷の中で静かに眠っている。

 

エリアは歩き出す。冷たい空気に包まれながら、その一歩ごとに胸の奥が締め付けられる。視界の端で、誰かの影が動いた。振り返ると、そこに立っていたのは──もう一人の自分。

 

 

 

「どうして、感情を隠すの?」

 

鏡像のエリアは問いかける。表情のない瞳の奥に、強い責めが宿っていた。

 

「私たちは、ずっと寂しかった。誰にも本当の気持ちを見せられない。笑いたいときに笑えず、泣きたいときに泣けない。そんな自分を、いつまで守り続けるの?」

 

エリアは言葉を返せなかった。鏡像の言葉は、あまりにも真実だったから。

 

「あなたは傷つくのが怖いだけ。だから感情を封じて、冷たく装ってきたのよ」

 

冷気が激しさを増す。鏡像は氷剣を取り出すと、空間を切り裂くように振るう。

 

エリアは瞬時に魔力を集中させ、水の盾を展開するが、鏡像の攻撃は感情に訴えかけるように、鋭く突き刺さってくる。

 

「……それでも、私は……」

 

心が揺れる。膝が震える。だが、その奥にあった微かな熱が、ふとした瞬間に浮かび上がる。

 

 

 

雪の中、ひとつの氷柱に手を伸ばす。そこに映るのは、ウィンと出会った日の記憶だった。

 

無邪気に笑いながら話しかけてくるウィンに、戸惑いながらも返事をした自分。

 

「……本当は、嬉しかったんだ」

 

ぽつりと、言葉が漏れる。氷柱が静かに溶ける。感情を封じた記憶が、わずかに融けていく。

 

「私は、もう逃げない」

 

決意の言葉とともに、エリアは再び立ち上がる。鏡像が再び剣を振りかざすが、その軌道を読み、反撃の魔法を放つ。

 

「氷よ、水へと還れ……!」

 

氷の剣が砕け、周囲の氷柱が一斉に音を立てて崩れ出す。迷宮が、心の壁が、崩壊を始める。

 

 

 

そのときだった。

 

空間が揺れ、巨大な水泡が天から降るように出現する。その中心から現れたのは、滑らかな水の体に鋭い顎を持つ、水棲獣──《ジゴバイト》だった。

 

『……キミの心が流れを変えた』

 

低く響く声が、心に届く。

 

『閉ざされた川も、動き出せば海に至る。キミは、感情という名の水流を受け入れた。ならば我が力、契りとして貸そう』

 

ジゴバイトは静かにうなずき、エリアの背後に並ぶように寄り添った。

 

エリアは鏡像を見据える。そして──水の魔力と共鳴した新たな力が、その身に宿る。

 

「私は、心を凍らせない。これからは──伝えるために、力を使う」

 

ジゴバイトの魔力が解放され、巨大な水の龍が鏡像を飲み込んでゆく。

 

最後に、鏡像はかすかに笑った気がした。「……そう、それでいい」

 

氷の世界が崩壊する。あたたかな水音と共に、迷宮は光へと還っていった。

 

 

 

エリアは静かに目を開く。周囲は元の遺跡──幻界の中央広間だった。だが、すでに他の仲間の姿は見えない。

 

「……まだ、みんなも戦っている」

 

エリアは立ち上がる。胸には、ジゴバイトの魔力の流れと共に、新たな自分が息づいていた。

 

そして、仲間のもとへと──心を、言葉を、そして力を伝えるために歩き出す。

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