未界域、咆哮の森。
霧を裂くようにして再会を果たした四人。木々の奥から迫る異音に、誰もが言葉を飲み込んだ。
――ドォン……ドォン……
重く、地を揺るがす足音。それは紛れもなく、巨大な存在の接近を告げていた。
「……来るよ」
ウィンが呟く。風が震え、樹々がざわつく。
咆哮の森を統べる存在――未界域のビッグフット。
森の奥から姿を現したそれは、圧倒的な威容だった。全身を覆う黒鉄色の毛並み。紅蓮のように燃える眼光。背丈は樹木よりも高く、腕の一振りだけで数本の巨木をなぎ倒す力を持つ。
「……ヤバいって、アレ……」
ヒータが引きつった声でつぶやく。だが、その表情に怯えはない。逆に、魔力が沸騰していくような熱を帯びていた。
「やるしかないわね」
アウスが静かに頷く。ウィンとエリアも構えを取った。
四人は、力を合わせてこの怪物に挑む。
だが――
初撃はウィンの風刃とエリアの水鎖による連携。ヒータが陽動し、アウスが地を隆起させて足場を制限する。
一見すれば、連携は巧みだった。
だが。
「効いてない……っ!?」
ビッグフットの分厚い体毛と筋肉は、精霊術の直撃をもろともせず、あらゆる攻撃を弾き返した。さらにその咆哮は魔力すら乱し、術式の詠唱を阻害する波動を含んでいた。
「ヒータ、下がって!」
アウスが叫ぶが、遅い。
ビッグフットの巨腕がヒータを薙ぎ払う。
「ぐっ……ああああッ!!」
彼女の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。その衝撃に、誰もが声を失った。
「ヒータッ!!」
アウスが駆け寄る。だがビッグフットは追撃を緩めず、次なる標的をウィンへと定めた。
「くっ……エリア!」
「援護する。風を合わせて!」
風と水の術が交差し、一瞬だけ怪物の動きを鈍らせる。その隙にヒータを救出。
「……無理だよ、このままじゃ……!」
ウィンが呟く。誰もが同じ思いだった。
連携も、魔力の共鳴も、未熟なままでは到底敵わない――
逃げ場はない。霧が視界を奪い、空間が歪む未界域では転移術も使えない。
「……こんなところで……終わりたく、ない……っ」
アウスが震える声で叫ぶ。その横で、ヒータが懸命に立ち上がる。
「まだ……まだやれるっ……アウスと……あたしは……」
「無理しないで」
アウスが手を取った。その手は震えていた。だが、そこに魔力の共鳴の光が微かに灯る。
ビッグフットが咆哮する。
樹々がなぎ倒され、空間が歪む。衝撃波でエリアが吹き飛ばされる。
「エリアァァッ!!」
ウィンが駆け寄ろうとするも、踏み出すことができない。
恐怖――
それが全身を貫いていた。
その時だった。
「……キューンッ!!」
咆哮に割り込むように、軽やかな鳴き声。
現れたのは――ジャッカロープ。
その背には、ツチノコ。
さらにその後ろから、未界域で遭遇したUMAたち――光を帯びた幻獣たちが現れた。
「お前たち……!」
アウスが呟く。
ツチノコが魔力の波を発する。それは明確な援護の意思だった。
「援護してくれるの……? ありがと……ッ!」
ウィンが涙声で叫び、風を巻き起こす。
ツチノコとジャッカロープが正面に立ち、ビッグフットの咆哮に抗うように鳴き声を上げる。その姿に、再び四人は立ち上がった。
「今は退く。準備が必要だ」
エリアが判断を下す。
ビッグフットが腕を振り上げる。しかしその攻撃を、ツチノコが小さな身体で受け止めた。
「やめてッ!!」
ヒータが火柱を立て、視界を遮る。その隙に四人は森の奥へと走り出す。
無我夢中で走り抜け、魔力の歪みが少ない領域へと退避する。森の奥、静寂の水辺。
「……ツチノコ、大丈夫かな」
ヒータが呟く。
「きっと無事だよ。また……助けに行く」
ウィンの声は震えていたが、確かだった。
「今は……力を整えないと」
エリアが冷静に言う。だがその指先は微かに震えていた。
アウスはそっとヒータの手を握る。ヒータも応えるように握り返す。