霊使い創作小説    作:砂漠のデスラクーダ

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【未界域探索編:咆哮の巨獣を討て ― 四霊の共鳴】②

「あっぶねぇ……なんとか、逃げ切ったな……」

 

ヒータの肩が小刻みに上下している。荒い呼吸。震える手。炎をまとわせた掌は、今やすっかり冷え切っていた。アウスがその手をそっと包み込む。

 

「……もう大丈夫。ここは、魔力の流れが乱れてる。ビッグフットも、すぐには追ってこられないはず」

 

その言葉を聞いたヒータは、小さく頷いたが――視線の先にいたツチノコの一体が、ぴくりと動いたのを見て表情を曇らせる。

 

「……あのとき、ツチノコがいなきゃ、あたし……いや、私たち、きっと……」

 

ツチノコの傷は深い。柔らかな鱗に残る焼け焦げた痕と裂けた肉。それを心配そうに囲むジャッカロープたちの姿は、どこか人間よりも人間らしい優しさを持っていた。

 

その時だった。静寂の中、ウィンの声が小さく響いた。

 

「……ねえ、アウス、前に言ってたよね。精霊術師の最終奥義、《大霊術-「一輪」》って」

 

アウスが小さく目を見開く。エリアがその言葉に反応し、ゆっくりと顔を上げる。

 

「それは……あくまで、伝承上の話だよ。四人の精霊術師が完全な共鳴状態に達し、ひとつの輪として魔力を束ねたときだけ発動できる――」

 

「だけど、その伝承……《一輪》の詠唱、あたし覚えてるよ」

 

そう言ったのはヒータだった。険しい表情のまま、彼女は立ち上がる。全身はまだ傷だらけで、何より心が折れかけているはずなのに――その瞳には、かすかな光があった。

 

「協会の図書室で見た。アウスが写してたページを、こっそり読んでた。なあんか、難しい言葉だったけどさ……“四つの流れがひとつの環を為す時、世界の理は一に還る”って……」

 

「……あたしも、少しなら覚えてるよ」ウィンが続く。「あの輪の図、好きだった。手を取り合うって、あったかい感じがしたから」

 

アウスは驚いたようにウィンとヒータを見つめ――そして、小さく笑った。

 

「……まさか。君たち、本当に読んでたのか」

 

エリアは静かに、しかし強く頷いた。

 

「《一輪》……私たち四人が、それぞれの属性と心を共鳴させられれば……」

 

「使えるかもしれない、ってこと……?」

 

「可能性がある限り、試す価値はある」

 

アウスの言葉に、全員の視線が集まる。ツチノコたちもまた、じっとこちらを見つめていた。まるで、言葉は通じなくとも、彼らも《一輪》の希望を感じ取っているようだった。

 

やがて、ジャッカロープが一匹、洞窟の外を見張っていた仲間のもとへ駆け寄る。そして、角を振って何かを伝えるような仕草を見せた。

 

「……どうやら、ビッグフットは森の北へ移動してる。今なら……回復と準備ができる」

 

アウスが目を細めて呟いた。

 

ヒータは拳を握りしめる。「絶対に、あのUMAに勝つ。ツチノコたちが命かけて助けてくれたのに、負けたままでなんて終われない……!」

 

「そのためには、《一輪》を成功させなきゃね」

 

ウィンがにこりと笑う。エリアもまた、無言で手を差し出した。ウィンがその手を握る。

 

アウスとヒータも、同じように手を取り合った。

 

「魔力をひとつに――四つの精霊術、共鳴させて」

 

「――環を、為す」

 

まるで、古の詠唱の一節をなぞるように、四人の心がひとつに重なっていく。

 

その輪の中心で、ツチノコとジャッカロープたちが、まるで結界を張るかのようにぐるりと四人を囲む。

 

洞窟の奥、わずかな光が漏れた場所に――《一輪》の魔法陣が、淡く浮かび上がった。

 

洞窟の中にかすかに残る魔力の残滓。

地脈が交差するこの場所は、わずかだが魔力の循環が行われている。

 

4人の霊使いたちは、ツチノコやジャッカロープたちに見守られながら、静かに瞑想に入っていた。

 

「魔力の流れを……自分の中だけじゃなくて、周りと繋げて……」

 

ヒータは自身の胸元に手を当てる。脈動する火の精霊の魔力。それが暴れず、仲間と共鳴するように、深く深呼吸を繰り返した。

 

その隣では、アウスが大地の波動に意識を沈めている。足元の石と苔に触れ、そこに眠る“動かざる意思”に魔力を通わせる。

 

「……共鳴には、互いの魔力だけじゃ足りない。“意志”がいる。だからこそ、《一輪》は難しいの」

 

アウスの言葉に、ヒータが目を開ける。

 

「意志……ね。じゃあ、私は信じるよ。アウスのこと。ウィンのこと。エリアのこと。もちろん、ツチノコたちのことも!」

 

「……わたしも」ウィンがにこりと笑って応える。「みんなとなら、輪になれる気がする」

 

エリアもまた、静かに頷いた。「心の距離は……魔力の距離と同じ。だからこそ、こうして繋がり合うことが……鍵になる」

 

4人は向かい合うように座り、それぞれの手を取り合った。

 

空気が震える。地面から立ち上る魔力の波が、四人の間に浮かぶ一点に集束し始める。

 

ジャッカロープの一体が、そっと前に出て角を掲げた。先端から放たれる金色の光が、空間に浮かぶ《一輪》の円環に触れる。

 

「これは……精霊の媒介?」

 

アウスが目を見開く。ツチノコたちは何も言わない。ただ、静かにうなずくように身体を揺らし、四人を囲む輪の中に魔力を送り続けていた。

 

《大霊術-「一輪」》。

四つの異なる属性魔力――火、風、水、地――それぞれが反発せず、溶け合うことによって初めて成立する“究極の調和魔術”。

 

だがそれはただ力を合わせるだけでは実現しない。魔力の質、流れ、意志、それらが完全に一致しなければ、円環は成立しない。

 

「……さっきの戦いで、思い知った。私の炎は、怒りばかりだった」

 

ヒータの声が低く響く。「でも今は、違うよ。ツチノコたちが、命を懸けて守ってくれた。だから……私は“守りたい”って気持ちで、もう一度戦いたい」

 

「私もだよ」

 

ウィンが言った。「ビッグフット、すごく怖かった。でも、逃げてばかりじゃダメって思った。だって、エリアが……あんなに体張って、私を守ってくれたから」

 

エリアの視線が、そっとウィンに向けられる。

「……あなたが、信じてくれた。その気持ちに……今、応えたい」

 

アウスはその言葉を聞いて、ほんのわずか、目を細めて微笑んだ。

 

「ならば、私たち四人の魔力を、この輪に流そう。完全な共鳴を……ここで成し遂げる」

 

そして――

 

四人の手をつなぐ輪の中心、淡く浮かんでいた魔法陣が、光を放ちはじめた。

 

火が、風が、水が、地が――四方から渦を巻き、中央の一点に吸い込まれていく。

 

その瞬間、ツチノコたちが一斉に身を伏せ、ジャッカロープたちの角が再び閃光を放つ。

 

《一輪》の魔法陣が――完成した。

 

「……成功、した……の?」

 

「ううん、これは……“準備が整った”だけ。発動には、標的を決めて、撃ち込むタイミングが必要」

 

アウスが立ち上がる。その表情は凛として、まるで戦場に立つ将のようだった。

 

「……だから、行こう。ビッグフットは、あの時と同じようにはいかない」

 

「だけど今度は、あたしたちの力が、ひとつになってる!」

ヒータが叫ぶように立ち上がる。拳を握るその手に、もはや震えはなかった。

 

「絶対、勝って……この未界域を突破してみせる!」

 

「ええ。ツチノコたちの力も借りて――《一輪》を、叩き込む!」

 

ウィンがにこりと笑い、エリアが最後に、短く言った。

 

「……行こう。今度こそ、終わらせるために」

 

――未界域の霧が再び揺れる。

 

精霊術師たちの“輪”は完成した。あとは、この魔術を“勝利”に導くだけ。

 

次こそ、《大霊術-「一輪」》を放つ、その瞬間だ――!

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