未界域は静かに息を吹き返していた。
黒く濁っていた大地は土の匂いを取り戻し、遠くには新しい精霊たちの気配が芽吹いている。
ジャッカロープたちも姿を現し、彼女たちの周囲に静かに集まっていた。
「こんなに……綺麗な空だったんだね」
エリアがそう言って、目を細める。
「ビッグフットの暴走が、ずっとこの空を閉ざしてたのか……」
ヒータが肩を落とし、拳を軽く握る。けれどその拳には、悔しさではなく、確かな実感がこもっていた。
「未界域って……壊れてたんじゃない。壊れそうだったのを、誰かが必死に支えてたんだ」
アウスの言葉に、ウィンがうんうんと力強く頷く。
「ツチノコたちも、ジャッカロープも……みんな、未界域の“精霊”だったんだよ。ずっと守ってたんだ、自分たちの世界を」
霊使いの四人は視線を交わす。
言葉にしなくても、感じ合えていた。
たった今、自分たちも“未界域”というこの不思議な大地の輪に加わったのだと。
太陽が、未界域の空を柔らかく染め始める。
精霊術師協会からの一時的な転送ゲートが、草原の端に現れる。
ツチノコたちは、その前に列を成すように立っていた。
「そっか……ここで、お別れなんだね」
ウィンの言葉に、ツチノコは「キュ」とひと鳴きしてから、小さく頷いた。
それは、さよならではなく、「またね」に近い温もりがあった。
エリアがそっと前に出る。そして、ツチノコに手を差し出す。
「……ありがとう。貴方がいなければ、《一輪》は完成しなかった」
その言葉に、アウスも、ヒータも、ウィンもそれぞれの想いを重ねる。
「……絶対、また会いに来るからさ! 元気でいなよ!」
ウィンの大きな声に、ツチノコたちは一斉に頷くように飛び跳ねた。
霊使いたちは、ゆっくりとゲートの方へと歩き出す。
未界域――かつては異常魔力が渦巻く危険地帯とされたこの地は、
いまや確かに“ひとつの命の輪”として、生まれ変わりつつあった。
ゲートを抜けた先、見慣れた世界の光景が広がっていた。
けれど、彼女たちの心には、もう元いた場所には戻れないほどの変化があった。
ウィンが嬉しそうに言う。
「ねえ、今度みんなでピクニックとかしようよ! お弁当持って、魔法なしのやつ!」
ヒータが笑って返す。
「アンタ、ちゃんと食材忘れないでよ?前回の訓練みたいにならないでさ」
アウスとエリアも思わず微笑み合う。
この笑顔の中に、《大霊術-「一輪」》を成した“輪”の力が、確かに残っていた。
「今度こそ、“ただの4人”として行こう。戦うためじゃなくて、繋がるために」
アウスのその言葉に、誰もが何も言わず、けれど深く頷いた。
輪は閉じた――だが、それは終わりではない。
これはきっと、“始まりの輪”。
未界域の風は、彼女たちの背を優しく押していた。