霊使い創作小説    作:砂漠のデスラクーダ

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【幻界迷宮編 ― 鏡像の檻と心の迷宮】序章 迷宮の呼び声

精霊術師協会の最高会議室。高天井から吊るされた魔力結晶の燈火が、深夜の闇を淡く照らしていた。そこに呼び出されたのは、ウィン、エリア、ヒータ、アウス――精霊を従える四人の術師たちだった。

 

「未界域とは違う……これは“内”から来る危機よ」

 

 アウスが提示された資料をめくりながら呟いた。霊術によって描かれた立体地図、その中心には黒く脈動する魔力の渦《幻界》が記されていた。

 

「自我に干渉する異空間……入った人間の“心”を映し出すだって? そいつ、ただの罠ってことじゃないの」

 

 ヒータが腕を組み、眉をしかめる。

 

 幻界。それは数日前、古代遺跡の調査中に発見された精神干渉型の異空間。構造は不明、深層領域に入った者はほぼ例外なく意識を喪失。内部から帰還した術者は、錯乱状態で「自分に殺される」と呻きながら魔力崩壊を起こしていた。

 

「自己の深層意識が、空間に“実体化”する……確かに面倒そうだね」

 

 ウィンは小さく肩をすくめながら、無邪気な表情の裏で指先を小刻みに震わせていた。

 

(もし、あたしの“怖い気持ち”が形になったら……)

 

 彼女たちの任務は、幻界の構造と危険度を探る初期探索。だが、ただの調査では済まないのは明白だった。

 

「どうして、私たちが選ばれたの?」

 

 エリアが静かに口を開く。感情をあまり外に出さない彼女の瞳が、一瞬だけ揺れた。

 

「おそらく……心が強いだけではダメだからだよ」

 

 アウスが答える。

 

「“揺らぎ”を持っている者じゃないと、幻界は反応すらしない。だから、私たちは選ばれた。恐怖も、葛藤も、迷いも……抱えたまま、それでも前に進める者として」

 

 ヒータが鼻を鳴らす。

 

「面白くなってきたじゃない。上等、相手があたしの心の中身だろうと、ブチ抜いてみせるわ」

 

 そして四人は、それぞれの思いを胸に、遺跡の最深部へと進んだ――。

 

 

 光が歪む。空間が揺れる。

 

 幻界への突入は、まるで“落下”のようだった。重力すら方向を失い、上下も時間も概念も崩壊する。ただただ、ひたすらに“心”の底へと沈んでいく感覚。

 

「……みんなっ……どこに……」

 

 ウィンの声は、霧の中へ消えた。

 

 一瞬の眩暈。次の瞬間、彼女は一面の草原に立っていた。風が吹く、鳥が鳴く、どこか懐かしい場所。

 

 だが、そこには誰もいなかった。いつもそばにいたエリアも、ヒータも、アウスも。

 

「ひとりぼっち、だ……」

 

 口にした瞬間、背後から“誰か”の足音が聞こえる。

 

「だって、ウィンは足手まといだもん」

 

 その声は、彼女自身だった。

 

 

 エリアが目を覚ましたのは、静寂の水中空間だった。音もなく、感情もなく、無数の鏡面に囲まれた水晶のような場所。

 

「ここは……」

 

 鏡の中の“自分”がこちらを見ていた。

 

「感情など、無意味。観察と分析だけで充分」

 

 冷たく言い放つ鏡像に、エリアの指先がわずかに震えた。

 

 

 ヒータの目の前には、燃え上がる過去の記憶が広がっていた。仲間を庇って傷ついた日の光景。誰かのために“怒った”日の記憶。

 

「……あたしは……誰かがいないと……」

 

 その隣に立つ“ヒータ”が笑う。

 

「そう。あたしは弱いから、誰かにすがっていた」

 

 その言葉に、ヒータは拳を握りしめた。

 

 

 アウスの足元には、果てしない図書館のような空間が広がっていた。無数の知識、魔術理論、精霊契約の記録。

 

「知識こそが力。感情はノイズ」

 

 鏡の前に立つもう一人のアウスが、静かに本を閉じる。

 

「心なんて、足を引っ張るだけだ」

 

 だが本当のアウスは、心のどこかで“叫びたい感情”を抱えていた。

 

(あたしは、仲間と――)

 

 こうして四人は、それぞれの“心の迷宮”へと封じられる。

 

 そこで彼女たちが見るものは、誰よりも忌み嫌う“自分自身”だった。

 

 ここから、四つの物語が始まる。

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