感想いつもありがとうございます、励みになります。
しっかり目を通させて貰っています。
素人の為、矛盾や間違い多々あろうかと思います。
雰囲気で見て頂ければとおもいます。
申し訳ありません。
それではお楽しみください。
直哉が特別一級呪術師を拝命してから数年が経ち、父直毘人の代名詞であった最速の術師の称号を欲しいままにしていた頃、直哉も御三家の術師でなければ高専へ通う年齢になろうとしていた。
御三家の術師は通常であれば自らの家で呪術を磨くため高専には通わず、故に呪術師の階級には高専認定とは別のものを指す特別という文字が入る。
しかしその御三家である五条悟は、家から出て高専の東京校へ現在も通っている。
五条悟が高専へ入る前に五条家で行われた五条悟の元服の儀は記憶に新しい。
五条悟が家を出て高専へ通うと言い出したときは五条家と対立したのかというような噂が立った。
その後の元服の儀だ。
まぁおそらくは元服の儀を執り行うことで、高専への入学は対立ではなく一人の大人としての選択、という形を取りたかったのだろう。
直哉も来賓として招かれていたが、その時見た五条悟の強さは更に化け物じみていたことをよく覚えている。
当の本人は不承不承という面持ちではあったが。
対立とまでは言わずとも家にはうんざりしているのだろう、というのが直哉の見立てだった。
しかしその能力を目の当たりにし、同じ呪術師としてこんな素晴らしい仲間がいるのかと頼もしく思ったものだ。
それと同時に将来目の前の存在に任せきりにならないように、逆に頼って貰えるようにもっと強くならねばならないと強く思った。
弱きことより重い罪は、強さを知らないこと。
強い者がいたとしても自分が強くならなくていい理由にはならないのだ。
滞りなく元服が終わり、直哉は顔見知りになった五条家の使用人と茶菓子を食べながら話をしていた。
その使用人の手は前見た時よりも赤切れや乾燥から来るひび割れがずっと少なくなっており、部屋には、禪院家の女中にも贈った最高級ハンドクリームの微かな香りが漂っていた。
穏やかな時間だ、五条家も随分と寛げる場所になったものだと思ったその時だった。
「おい、ウチのに手を出してんじゃねえぞ…ったく。……お前も行くんだろ?高専」
「悟クン、どうやろ……考えたこともなかったわ」
自分にとっては呪いを祓う事が生きる全てで、それは何処に居ても関係はなくて、家から出るなんてことは正直考えたこと無かった。
「あん?意外だな、お前ならてっきり……まぁ俺はゴメンだねこんなとこにずっといるなんてさ」
「気が滅入るっての」
やっぱり見立ては間違いではなかったか、と直哉はぼんやり思った。
「お、美味そうじゃんコレ貰い〜」
家から出る。
特にそんなことを思った事もなかったが、今まで自分は御三家、もっと言えば禪院家の昔ながらの考えに染まることがないよう生きてきた。
今までその選択肢を考えてなかったのもおかしな話だろう。
言いたい事だけ言って退出する五条悟を見送った後、何故か不機嫌そうな顔になっていた五条家の使用人に笑いかけ、新しい菓子を勧めながら、直哉は少し検討してもいいかもしれないと考えるのだった。
直哉が炳の筆頭としてメキメキと実力を伸ばし続ける中で、呪術界では御三家に対してその家の象徴を指してある呼び方が定着していた。
五条家はもちろん呪術界のバランスを変えたあの【五条悟の五条家】
次に加茂家は突出してはないが万能型の術式である【赤血の加茂家】
そして禪院家は、最速の術師禪院直哉擁する炳を中心とした極めて高い総合力が持ち前の
【実力の禪院家】
と呼ばれるようになっていた。
五条悟という呪術界最強の規格外の怪物がいるがそれ以外は突出したところがある訳ではない五条悟のワンマンチームである五条家と、禪院直哉率いる炳を始めとした屈強呪術師集団となった禪院家はある意味では互角だとも語られるようになった。
今の呪術界を牽引するのは禪院家であった。
その陰で加茂家は五条家、禪院家よりも後を行く状況であり密かに【数合わせの加茂家】と揶揄されているのであった。
実力の禪院家、そう呼ばれているのは伊達ではなく禪院家には日々呪霊や呪詛師の討伐と言った依頼が舞い込む。
術師もそうでない男衆も女中もバタバタと駆け回っている。
そんな状況を見て自らも任務への準備をしながら、炳屈指の実力者である禪院甚壱はここにはいない一族の少年のことを思い出していた。
才を持って産まれた現当主の息子。
それだけの印象だった。
小さい頃から離で暮らし、飯も別、付添いの術師も付いて何から何まで特別待遇。
次期当主、誰がどう見てもその役割を期待されているのは分かった。
自分が心の中で描いていた当主になることの未来像はすぐに叶わぬものだと気付いた。
だが早々諦めることが出来るものではなかった、だから辛く当たることもあった。
ただその少年は強かった。
術師としてはもちろん、あえて言葉にするなら【人として】前だけを見て走っていた。
時に俯くことがあってもその歩みだけは常に呪いへ向いていた。
それによって自分が酷く愚かな存在に思えて、いつからか避けるようになってしまっていた。
目を背けるように身体を鍛え、術式を鍛えた。
それでも追いつける気が何故かしなかった。
それに飽き足らず、術師ではないから戦えるワケのない女中をぞんざいに扱い、憂さ晴らしをしていたのだ。
しかしそんなどうしようもない己にも少年は兄として頼ってくれようとした、共に稽古を行い汗をかき、呪いに対する百折不撓の信念を見た。
こんなどうしようもない自分を兄のように慕ってくれた。
少年の作ろうとする新しい禪院家の形を見せられた。
自分が下に見ていた女中達は己とは違う戦場で戦う戦友なのだと気付いた。
自分達の衣食住を整えてくれているこの女中達を己が呪いを祓うことで食わせてやるのだと、任務にも誇りと使命感を一層持つようになった。
自分が向き合うことを放棄した弟を救ってくれた。
猿だと扱われ、その上簡単に手出しすることが出来ない実力があるからさらに疎まれることになった弟甚爾。
物心が着く頃にはあらゆるものから引き離され、不遇な扱いを受けていると知っていたのに、禪院家という大きな流れに逆らおうとせずその存在を忘れようとした弟を少年は1人の人間として扱ってくれた。
きっと自分はその埒外の強さにみっともなく嫉妬していたのだ。
だからこそ、その強さを知ろうとしなかった。
甚爾が家を出る時、禪院家に対して何もしなかったのは少年のお陰だろうかそれとも気まぐれだったのだろうか。
おそらくはどちらも。
本人は隠しているつもりだろうが、たまに会っては飯に行っているようだ。
それに対して何かを思う資格は自分には無い。
それでも、その交流に気付いていないフリはこれからも続けていく。
自分が捨ててしまったものを少年は悉く拾って大事にしてくれた。
たまに揶揄ったりすればからからと笑う少年、強さにひたむきな少年、どこまでも真っ直ぐな少年、甚壱はそんな少年のことが何より愛おしく思うようになった。
日本中に向けてその少年のことを自慢したかった。
しかしそんなことをしても少年は喜ばないだろう。
返しきれない恩がある。
果たさねばならぬ義理がある。
自分が自慢なんてわざわざしなくても禪院家が、その中心にいる少年が1番だと知らしめるため、今も戦っている一族の戦友たちのため、今はただひたすら積み上げるのだ。
強さを知った。
だからもう道を違えることはない。
いつかありがとうと少年に胸を張って言えるように。
任務の帰りには、いつも頑張っている仲間達に何か差し入れでも買って帰るとしよう。
(炳の連中に、灯、躯倶留隊の奴らと女中にも。全く…任務帰りはいつも荷物が多くてかなわんな)
誇りと使命感を胸に禪院甚壱は屋敷を後にした。
「帰ったでーええ子にしとったか2人とも」
「お土産の金平糖やでー」
「直哉!」
「直哉様!!」
直哉が屋敷の一室を訪ねるといつも通りの明るい声が迎えてくれた。
「直哉様、おかえりなさいませ」
「いつもすみません、しかしこんなに2人を甘やかしては…」
「ええねん、2人とも頑張っとるみたいやし「ちょっとお姉ちゃん何で呼び捨てなのよ」お土産も依頼主に貰っただけの「別にいいだろ呼び方くらい!」だから…」
「2人とも黙りなさい!!」
「いつも言っているでしょう!直哉様のお言葉には常に正座をして拝聴しなさいと!!」
「まぁまぁ、そんな大袈裟な」
母親の一喝が入り、喧嘩になりかけていた2人は途端に背筋をピンと伸ばして口を紡ぐ。
いつものよくある光景で、直哉が大切にしているものだった。
「子どもは喧しいくらいがちょうどええねん」
そうやって直哉は2人の頭を撫でた。
「しかし直哉様…」
そこまで言って扇の妻は思い出した。
まだ2人の物心が着く前の話。
直哉は任務の後にはどれだけ疲れていても真希と真依の2人に会うことを欠かしはしなかった。
周りを頼るように言われてもやはり負い目があり一人で抱えがちだった扇の妻にとっては、直哉が気にかけてくれていることはこの上ない喜びであった。
この日も直哉が2人の顔を見に来た時、いつもなら寝ている2人は何故か中々寝付かず、永遠と泣いていた。
扇の妻はこんなはずではなかったと、必死に泣き止ませようとしたが泣き止ませようとすればするほど2人は泣いてしまう。
敬愛する存在に迷惑をかけてしまう、そう思い2人に対して邪な気持ちを抱きかけたその時だった。
直哉は2人をそっと抱え
「この2人は、本当にええ子や。こうやって俺に世話をさせてくれんねん」
「世話を焼かせてくれんねん、お兄ちゃん想いのええ子や」
そう言って、ゆっくりしてたらええしばらく散歩してくるわ、と言い残し直哉は2人を大事そうに抱え部屋を出たのであった。
ポカンとしていた扇の妻だったが、2人が生まれてからの心労や子育てによる休まらない日々は思った以上に身体を痛めつけており、ほとんど気絶するようにへたりこんでしまったのだった。
「ん……はっ!…」
「寝ていたの…?時間は!?」
扇の妻が飛び起きるように目を覚まし、部屋の時計を見ると数時間が経過していた。
久しぶりにゆっくり寝れたような気がする。
身体の不調も少し良くなっていた。
しかし次の瞬間、背筋に氷柱を入れられたような悪寒が走った。
任務で心身ともに疲れ果てているであろう御方に子を任せっきりにして自分が眠りこけるなどと!!!
自らに対して燃えるような怒りを抱き、情けなさが込み上げてしまう。
「とにかく直哉様を探さなければ…!」
そう思い立ち上がりかけた瞬間、襖が開いて顔を出したのは敬愛する唯一無二の存在と、抱き抱えられ気持ちよさそうに寝息を立てる愛娘だった。
「手が塞がっとるもんで、足で開けてもうたわごめんちゃい」
そのはにかんだ表情を見た瞬間涙が出そうになってしまう。
あぁこの人こそが私の敬愛する主なのだ、私の心の中で燦然と輝きを放つ存在なのだ。
許されるのならば世界中に向けて叫びたい、この人の素晴らしさを。
「すまんなぁ、2人の寝顔があまりにも可愛いもんでつい寄り道してしもうたわ」
「明日は任務の予定がないねん、今日はこのまま俺が2人と休むからゆっくり寝たらええ」
そうやって直哉は自分の部屋に踵を返そうとする。
眠りこけていた自分が言える話ではないが、流石にこれ以上は甘える訳にはいかなかった。
「そんな…!これ以上甘えるわけには行きません!」
「甘えちゃうねん」
そう言う直哉の瞳は有無を言わせないものがあった。
「2人は一族の宝になるんや、俺らは皆で支え合わなあかん」
「甘えちゃうねん、支え合っとるだけや。たまには俺にもお兄ちゃんさせてや」
そうやってまた微笑むから扇の妻はもう何も言えない。
(あぁ…本当に私はどれだけの幸福の中で生かされているのだろう)
その日扇の妻は2人の泣き声で起こされることのない朝を迎えた。
身体の不調は完全に消え去っていた。
2人の頭を撫でる直哉を見て、この人はこういう人だったのだと思い出す。
金平糖を頬張る2人を見て
(産んでよかった…)
目の前の幸福な世界に目を細めた。
双子として産まれた2人に一般的な術師としての才能が無いことが分かったのは少し前のこと。
姉の真希は呪力が一般人程度しかなく、呪いの姿も見ることができない。
妹の真依も姉ほどではないが、術師としてやっていくには呪力量が少なく、術式も強力とは言えず、呪力量の少なさととことん相性が悪いものだった。
しかし直哉は全く悲観はしていなかった。
真依は年齢に見合わない早熟さを見せ、母親譲りの気配り上手で女中として既に戦力になりつつある。
このまま母親の元で色々と経験していけば禪院家を裏で支える素晴らしい人材になるだろう。
そして真希は性格的に女中に向いてはいないが、その分術師に向いていた。
そして真希には天性の肉体がある。
天与呪縛のフィジカルギフテッド
術師の家系に生まれながら一般人程度の微弱な呪力しか持たない代わりに、逸脱した身体能力を得ている。
甚爾に及ぶべくもないが、片鱗を感じさせるものであり鍛え上げれば将来的には一級術師に届く程の才能を感じさせる。
禪院家から輩出される術式を持たない一級術師、呪術界に小さくない良き変化をもたらしてくれるだろう。
2人とも必ず呪いを世界から祓うための役に立ってくれるはずだ。
2人が産まれた時に感じた直感はやはり間違いではなかった。
だからこそ、自分もこのままではいられない。
環境を変え更に成長する機会を得るべきだと思った。
直哉は何故か呼んでもいないのに側に仕えている紅蘭に
「…高専に行くことにするわ」
「その前に皆で写真でも撮らへんか」
そう伝えるのであった。
直哉は数々の呪いに対する縛りを持っていますが更に、鍛錬を続けることへの縛り、永遠に呪いと戦い続ける縛り等を自らに課しています。
故に呪いを相手にする際の直哉は手がつけられません。