寒空の空気が肌を突き刺すある日、鬼塚夏美は思いつく。Liella!のメンバーで闇鍋をすれば良い絵が撮影出来るのではないかと。そして、その動画でマニーを一儲け出来るのではないかと。
 突拍子もない思いつきから始まった動画撮影を通して彼女は、自分の本当の思いと向き合うことになるのだった。

※この作品はアニメ二期が放送されていた時期に書いた作品です。

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 ※この作品はアニメ二期が放送されていた時期に書いた作品です。その点、ご了承ください。また、感想及び評価をいただけると大変、励みになります。読了後、"この作品の感想を書く"、"この作品を評価する"から感想と評価、よろしくお願いいたします!

 


鬼塚夏美「Liella!で闇鍋ですの!」

 あれはもう1年以上前のこと。あの日、私は初めてLTubeに動画を投稿したんですの。

 

 動画の撮影をして、編集をして、完成した動画を何度も見返して、高まる期待と高揚感は風船のように膨らんでいきましたの。ですが、その風船は破裂してしまった。

 

 動画の伸びは思っていたより芳しくなく、私の想定を大きく下回っていましたの。けれども、私は動画投稿を辞めることはなかった、マニーのために......。

 

「どうしてCEOは動画投稿を始めたんっすか?」

 

 まだ、私がLiella!に加入する前。きな子が私に聞いてきましたの。

 

 私は何をやっても1番にはなれなかった。なにも得ることは出来なかった。でも、マニーは違いますの。働いた者には等しく与えられ、目に見えた勲章になる。

 

 中学生の私はマニーを稼ぐためだけにLTuberになったんですの。

 

 ※

 

「オニナッツー‼︎ 日々のあれこれエトセトラ、あなたの心のオニサプリ! 鬼塚夏美ですのー‼︎ 今回はLiella! のメンバーで、かのん先輩のご自宅におじゃましていますの〜!」

 

 三脚に立てたスマートフォンのカメラに向かって、レモン色の髪の少女、鬼塚夏美は奇怪な動きを披露する。

 

 時刻は20時を過ぎていて、閉店したカフェの店内は9人の少女の貸し切り状態となっていた。

 

「今日はLiella! のメンバーで闇鍋パーティーをしていきますの!」

「ちょっとまちなさい! 夕食の風景を撮るとは聞いていたけど、闇鍋をするなんて聞いてないったら聞いていないんだけど⁉︎」

 

 突拍子もない夏美の発言に、机を両手で叩きながら立ち上がったのは顔が整った美形の少女。

 

「そりゃそうですの。だって説明していませんので。あらかじめ説明したら、すみれ先輩が止めに入ると予想はついていたんですの!」

「見抜けなかった……だから夏美ちゃん、各々好きな食べ物を持ち寄って、って抽象的なことを」

 

 飄々と野次をかわす夏美を見つめながら、ショートカットのクールな少女はオレンジ色の瞳を細める。

 

「でも、まだ間に合うはずよ! 私たちが持ってきた食材をダークマターに変えられる前に、早く食い止めないと!」

「それならもう遅いっす......。動画を撮り始める前に夏美ちゃんが回収して、厨房の方へ持って行ったところを、きな子は確認済みっすから」

 

 意気消沈といった様子で、既に諦めた表情を桜小路きな子は見せていた。

 

「なんてこと、こうなることが分かってたら、別の食材を持ってきたっていうのに……」

「それじゃあ面白味にかけますの! あ、ちなみに私はまだ皆さんが持ち寄った食材を見ていませんの。ちゃんと、その辺には気をつけて運びましたの。オニナッツにヤラセはあり得ませんの!」

「相変わらず夏美は、ふざけてるのか真面目なのか分からねェヤツだな」

 

 夏美とは1番離れた席に座る赤髪の少女は眉間にしわを寄せ、鋭い目つきで見つめながら、そう言い放った。

 

「メイ! オニナッツはいつでも大真面目ですの。ささ、すみれ先輩は早く席に座ってくださいですの。満を辞して、闇鍋の登場ですのー!」

 

 夏美はカメラを手に持って厨房の奥を撮ろうとポジションを変える。そして、そのレンズが収めたのは両手に土鍋を持つ、メガネをかけた少女だった。

 

「ありあ⁉︎」

「あはは……どうも〜、いつも姉がお世話になっております〜」

 

 この場所を提供している、渋谷家の次女、渋谷ありあ、は眉毛の下がった困り顔でカメラに向かって、お辞儀をした。

 

「なんで、ありあが⁉︎」

 

 オーバリアクションを連発させているのは渋谷ありあの姉、渋谷かのん。オニナッツの企みに自分の妹が関わっていることに驚きの表情を隠さないでいた。

 

「鍋の動画を撮るって夏美さんが言うから、言われた通りに作ったけど、これホントに全部入れてもよかったんですか?」

「問題ありませんの! ありあさん、ありがとうございましたの」

「いえいえ、じゃあ私はこの辺で……皆さん、どうか気をつけてください」

 

 アリアが去り際に放った一言が、この場にいた6人の表情を一気に曇らせた。

 

「これが闇鍋、というものですか? 私、闇鍋は聞くのも食べるのも初めてなので、とても楽しみです! なんだか甘い不思議な香りがしますね!」

「ククも初めてデス! 皆さんどうしてそんなにテンションが低いのデスか?」

 

 手で仰ぐようにして蓋の下の鍋の中身に心を躍らせたり、ニコニコと笑顔を振り撒いたり、そんな二人の姿を見て、二つのお団子を頭に乗せている少女は憐れみの目を向けた。

 

「恋ちゃん、クゥクゥちゃん……こんなに楽しそうに。今のうちに楽しんでおくんだよ」

 

 カメラを固定して席に着いた夏美。一つのテーブルに椅子を持ち寄り、かなり無理のあるスペースで9人は鍋を囲んだ。

 

「じゃあ、そろそろ開封といきますの! ご開封〜!」

 

 そして、濡れたタオル越しに夏美は小さな手を使って、土鍋の蓋を開ける。白い湯気が一帯に広がり、その熱は席に座っていても伝わってくる。寒い冬に暖かい鍋。こんなにベストマッチな組み合わせは他にない、闇鍋でなければ。そんな思いを6人は共通して抱いていた。

 

「それじゃあルールの説明をしますの! 初めの人からそれぞれ時計回りに鍋の中から一つ具をとって皿に乗せる。とるときは鍋の中を見てはいけませんの。皿に乗せた具は絶対に食べきらなければダメですの。オーケーですの?」

「ルールは理解しましたが、自分でとったものを食べきるのは普通のことなのではありませんか? 残したりしたら食べ物がもったいないです」

「そうですの! 恋先輩はいいことを言うですの。自分でとった物を食べるのは当たり前! 全部食べてカメラに表情を収めるんですの!」

 

 ウキウキの3人を除いて憂鬱そうな6人も覚悟を固める。それから声を揃えて、いただきます、と宣言した。

 

「それジャあ、さっそく食べてイキましょう! 誰から食べマスか?」

「そりゃあ、もちろん言い出しっぺの夏美からに決まってるったら決まってるわ」

 

 すみれの発言に同調するように、各々の視線は夏美に収束した。

 

「分かりましたの。それじゃあ早速っと」

 

 菜箸を手に鍋の中を夏美は盲目に模索する。そして、箸が捕らえたその物体をお皿の上へと移動させた。

 

「まだ、見ていませんの。それでは、いただきますの……」

 

 箸に挟まれたその物体を夏美は恐る恐る口に運んだ。

 

「ナッツー! アツい、アツすぎますの!」

 

 カメラに向かって大げさな身振り手振りをする夏美は口の中を手で覆い隠しながら、空気を抜くように冷ましていく。

 

「ぶよぶよしててドロドロな、これは――」

 

 口の中のものを飲み込んで、カメラの前で尺を充分に使い溜める。

 

「たこ焼きですのー! まあ、大体誰が持ってきたのかは想像がつきますが、オニナッツこれはいい引きをしたんじゃありませんの? そもそもの鍋の味がアレですが......。たこ焼き、美味しかったんですの!」

 

 両手を伸ばして万歳のポーズで夏美はカメラに笑顔を振りまいた。

 

「夏美のヤツ、どれだけカメラ目線なんだよ。アレじゃ近過ぎてカメラに見切れてるだろ」

「同感」

 

 夏美の対面に並んで座るメイと四季は二人して呆れた視線を夏美に送っていた。

 

「アハハ、喜んでくれて何よりだよ。たこ焼きとドーナツポップで迷ったんだけど、たこ焼きにしてよかったみたいだね!」

「ドーナツポップって確か、あの某有名ドーナツ店の丸いヤツですの? カップにいっぱい入っている」

「そうだよ! アレってほんとに最高だよね! ただですら円形のドーナツが球体になってるんだよ! これぞ丸! ドーナツは以外と丸いところが多くてね、外側の丸に空洞の丸、横から見ても――」

「長くなりそうなので次の人に移りますの」

 

 丸について熱く語る千砂都をよそに夏美は進行していく。

 

「時計回りで私の隣は、クゥクゥ先輩ですの!」

「ククの番デスね。皆さん物怖じしているようなので、ここはククにどーんと任せるのデスよ!」

「大丈夫? クゥクゥちゃん。闇鍋のことちゃんと理解してる?」

「かのんは何を心配しているのデスか? 皆さんが持ってきた食材を一つの鍋に入れて調理する。それだけのことデショう」

 

 夏美から菜箸を受け取って、それを可可(クゥクゥ)は鍋の中に差し込んだ。そしてニコニコと肩を弾ませながら、一つの具を選抜した。

 

「ククはこの大きな具にしマス! それでは、いただきマスよ〜」

 

 一口では食べきれないそれを可可(クゥクゥ)は一口かぶりつく。すると、衝撃を受けた表情を見せ、箸に挟まれたその物体を皿の上へと落としてしまうのだった。

 

「なんデスか、コレは⁉︎ どうして、鍋の中にメロンが入っているのデス⁉︎ 表面は塩っぱくて中は甘くて、温かくてブニブニしていて、キモチワルイデス!」

「あー、それ私が持ってきたやつね」

「すみれ⁉︎ どういうつもりなんデスか! 鍋にメロンを入れるなど言語道断! コレがグソクムシのやり方なんデスね‼︎」

「なによそれ! 闇鍋するなんて聞いてないんだから、仕方がないいったら仕方がないでしょ!」

 

 隣同士に座る可可(クゥクゥ)と、すみれは向かい合って争い始めた。そんな光景にカメラを向け、夏美は静かに画角を整える。

 

「まあまあ、2人とも落ち着いて」

「だってメロンデスよ。鍋にメロンが入ってたんデス! 完全に騙されマシた。甘いものを持ってきてるグソクムシが潜んでいるナンて」

「だから、知らなかったんだから仕方がないでしょ。デザートにと思って買ってきたのよ!」

「だめだこりゃ。とりあえず、クゥクゥちゃんが甘い物を持ってきてないってのは分かったけど」

 

 かのんが仲裁に入るが、その言葉は2人には届かなかった。そんな光景を見て夏美は更に進行する。

 

「はいはい、それでは次の人に移りますの。次はすみれ先輩ですの!」

「くっ……等々来たわね」

「等々と言うほど時間は経っていませんの」

「うるさいわね!」

「ウルサイのはアナタの方デス! グソクムシは黙って、早く食べるのデス」

「あーもー! 食べてやるったら食べてやるわよ!」

 

 すみれは菜箸を手に取り勢いよく鍋の中から具を取り出した。そして、臆する暇もなくそれを口の中へと運んだ。

 

「って、これ! 骨じゃない⁉︎ 」

 

 すみれは致し方なく、口の中のそれを皿の上へと戻して反応する。皿の上には5cmほどの骨が一本置かれていた。

 

「誰よ、骨なんて持ってきたのは! 闇鍋じゃなかったら大問題よ。そもそも、食べ物じゃないじゃない!」

 

 そう言われるが8人はそれぞれ、不思議そうに見つめている。すると一人の少女が思い出した、と言わんばかりに表情を明るくさせた。

 

「もしかしたら、それはククが持ってきた、名古屋の指先かもしれマセん。特にジューシーでホロホロなヤツを持ってきたノデ、鍋の中で肉が落ち、分裂してしまったのかと」

 

「「 指先ッ⁉︎」」

 

 衝撃的な発言に一同声を揃えて復唱する。

 

「なんでそんなものが⁉︎ ってクゥクゥ先輩! そんなものカメラに写せませんの! カニバリズムですの! しかも、名古屋の、って何ですの、そのこだわりは。コレを見た名古屋の方々に大バッシングを受けてしまいますのー!」

 

 そんなはずはない、と誰よりも反応したのは夏美だった。

 

「あんた、そんなものどうやって手に入れたのよ!」

「どうやってって、オトリヨセデス! そんなことも知らないのデスか?」

「知らないわよ! そんなブツ、どこのブラックサイトで取り寄せるのよ」

 

 話が噛み合わない、と可可(クゥクゥ)は首を傾げた。そんな姿を見て、恋は2人の間に割って入る。

 

「あの〜、もしかしてなのですが、手羽先? ではないでしょうか?」

「っ! それデス! 流石、レンレン〜」

「って! それじゃあ意味が全然、違うじゃない」

 

 それだ!、と恋に甘い瞳を送る可可に、すみれは鋭いツッコミを放った。

 そんな様子を動画に収めつつ、夏美は一息呼吸を置いて額の汗を拭う。

 

「まあ、それなら一安心ですの。じゃあ、気を取り直して次の人に移りますの!」

「いや、まだ私なにも食べてないんだけど……」

 

 溢すように、すみれがそう発言するが、夏美はあえて拾わずに次の人に菜箸を持つよう促した。

 

「私の番だね! 私は誰が、どんな食べ物を持ってきていても受け入れる心積りだよ!」

「流石、千砂都先輩っす〜」

「えへへ、任せて!」

 

 スクールアイドル部の部長として、寛大な心を見せつける千砂都は堂々と菜箸を鍋に入れて具を取り出した。

 

「箸で挟んだ感じ、これは麺だね。じゃあ行くよ。いただきます」

 

 箸に挟まれた、麺を口に含む。

 

 卵とクリームによる本来のクリーミーな味わいのパスタに、スープがよく沁みたジュワジュワのコッペパンが絡まっている。

 パンの食感を失ったコッペパンから塩っぱくて甘いミスマッチなスープが口の中に広がってくる感覚は不快以外の何者でもなかった。

 

「あ、これは! きな子が持ってきたカルボナーラパンっす! 千砂都先輩、大丈夫っすか?」

「う、うん。大丈夫だよ……」

 

 歯を食いしばり、千砂都は煌めきのある笑顔を作る。そんな千砂都の笑顔を見て、きな子は表情を輝かせた。

 

「もしかして、意外と美味しかったっすか?」

「ううん、全く美味しくはないよ」

「ひ〜、ごめんなさいっす」

 

 きな子の発言にコンマ1秒の隙もなく無機質に返答する千砂都。それに対して、きな子は怯えるように立ち上がって頭を下げて謝罪した。

 

「こんなとこカメラには写せませんの。それじゃあ次、折り返しですの」

 

 謝罪する、きな子に向けられていたカメラのレンズを夏美は手で押さえて、ジトっとした目で、そう言う。

 

「お、おう。ついに来ちまったな......」

 

 千砂都から菜箸を受け取って、メイは一度、口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。それから、静かに具を取り出して皿へと移す。

 

「い、いただきます」

 

 誰よりも物静かに、メイは恐る恐る、それを口にする。一噛み、ニ噛み、と咀嚼するうちに、その表情は平常のものへと変わっていった。

 

「これは、鶏肉か? でも、プルプルしていて不思議な食感もある。なんなんだこれは?」

 

 首を傾げるメイを、隣に座っている四季はジッ、と見つめる。そして、ゆっくりと口を開いて、冷静な雰囲気で話し始めた。

 

「なるほど。それはすっぽん。食用の亀。それと、精力増強が見込まれる」

 

 メイの疑問に対して、四季は冷静に解説する。それを聞いたメイは一度、皿と箸を整えて机の上へ置き、勢いよく立ち上がる。

 

「なんてもん食わせてんだっ! 食べ物を持ち寄るって話で、すっぽんだと? しかも……そ、その精力がって……ふざけてんのかッ‼︎」

 

 顔を赤くしたメイが立ち上がった勢いのまま、四季に向かって無遠慮に言った。それを受けた四季は、気にする素振りも見せず、ゆっくりと首を横に振る。

 

「勘違いしないで。すっぽんはゲテモノではない。美味しい。それと、それを持って来たのは私じゃない」

 

 四季の弁解を聞いて、メイはハっ、と我に返った。そして、辺りを見渡して、申し訳なさそうに手を挙げる恋の姿を目に入れ驚愕し、震え始める。

 

「すみません。昔、一度父に食べさせていただいたことがあって、とても美味しかったので、つい」

 

 弱々しく説明する恋を前に、やってしまった......、と震えるメイが飛びついた。

 

「ち、違うんだ恋先輩! 私はそんなつもりで言ったんじゃ――」

「本当にすみませんでした……」

「違うんだッー‼︎」

 

 メイの悲痛の叫びに夏美は哀れみの視線を送る。

 

「メイが恋先輩を泣かせましたの」

「違うって言ってるだろッ⁉︎ これは誤解なんだ!」

 

 必死な表情でメイは弁明を繰り返す。そんなメイを、他のメンバーたちは暖かい目で見守った。

 

「さ、次に移りますの」

「次は私」

 

 菜箸を手にとって、四季は流れるような動きで具を選出する。

 

「いただきます」

 

 そして、間を開けることなく口へと運んだ。

 

「モチモチした食感の中にドロッとしたカスタードクリームとバナナが包まれて、チョコレートの味もする。これは、クレープ?」

 

 明らかに鍋に入れるべきではない食材に対して、表情を一切崩さず四季は分析する。そんな姿を見て申し訳なさそうに手を挙げたのは、誤解が解けて一命を取り留めたばかりのメイであった。

 

「あー、私が持ってきたヤツだ。有名店のクレープで生地に子猫の焼き目が付いてるはずなんだけど......その様子だと、溶けて消えちまったみたいだな」

 

 平常を装いつつも、やや肩を落とすメイを見て、四季は皿の上のクレープを箸で動かした。

 

「大丈夫、子猫はここにいる」

 

 生地と生地が重なり見えなくなっていた焼き目をメイに見せるように皿を突き出した。

 

「おお! お前、こんなところに隠れてたのか!」

「メイ、カワイイ」

「ッ⁉︎ う、うるせッー‼︎」

 

 顔を真っ赤にしたメイは、再び声を張り上げた。

 

「犬も食わねぇー、ですの。さっさ、と次に移りますの」

 

 戯れ合うメイと四季を横目に、呆れ気味な夏美によって菜箸は即座に、かのん、へと渡される。

 

「え〜、なんか私の時だけ回ってくるの投げやりじゃない?」

「そんなことはないですの。かのん先輩、はやく鍋の具をとってくださいの」

「ほんとかな〜、やっぱりテキトーな気がするんだけど」

 

 ブツブツと文句をこぼしながら、かのんは鍋の具を取り出した。

 

「あはは、私はこの小さなヤツにしとこうかな」

 

 そう言って豆粒サイズの具を、器用に3個ほど箸に挟んで皿の上へと移す。そして、顔を引きずらせながら口へと運んだ。

 

「い、いただきます」

 

 それを口に入れ何度か咀嚼するが、かのんは不思議そうな表情をしている。

 

「なんだろうこれ、噛んだときにプチッと弾けるような食感がして、それから食べたことのない旨味が口の中に広がってくる」

 

 疑問に思いながらも、何度もかのんは咀嚼する。そして、思ったよりも悪い味ではなかったのか、少し表情に光が差し込まれた。

 

「うん、何だかわからないけど意外と美味しいかも。誰が持ってきたの?」

 

 かのんが機嫌良く全体に語りかけるとスッ、と四季が手を挙げる。一斉に視線が集まって、その食材の正体に期待が寄せられた。

 

「それは、蜂の子。蜂の幼虫とサナギの煮付けを、私は持ってきた。見た目はアレだけど、意外と美味しい」

「へ?」

 

 四季の解説を受けて、かのんは初めて自分の皿の上を目視する。すると、そこには煮付けられて、やや醤油色になった、白くて背を丸めた幼虫が入っていた。

 

「ギャァァァ‼︎ ヤダヤダヤダ! なんてもの持ってきてるの四季ちゃん!」

「大丈夫。蜂の子はゲテモノではない。一部の地域では日常的にこれを食している」

「イヤイヤイヤ! コレとかほとんど蜂の形、できあがっちゃってるけど⁉︎」

「問題はない」

「問題あるよ〜!」

 

 自分が口にしたものの悍ましさに声を張り上げるかのん。闇鍋の洗礼を受けたかのんを、メンバーは哀れみながら、自分じゃなくてよかった......、と見守っていた。

 

「同情はしますが、はやく食べてくださいの。さあ」

「夏美ちゃ〜ん、お願い許して〜」

 

 夏美に対し、泣いて懇願する、かのん。

 

「う、う〜ん。でも、ルールはルール。諦めてくださいの」

「夏美ちゃ〜ん」

 

 夏美に見放され泣きながら、かのんは蜂の子を完食するのだった。

 

「ふう、残りは2人ですの」

「はい、ようやく私の番が回ってきたのですね」

「大丈夫、恋ちゃん?」

 

 何度か凄惨な出来事が起きたのにも関わらず、まだ目を輝かせている恋に千砂都が問いかける。

 

「はい! 皆さんを見ていて闇鍋について、よく分かりました。どうやら、私が想像していたよりも数段ハードな食べ物のようですね。ですが葉月恋、結衣ヶ丘の生徒会長として正面から受けて立ちます!」

 

 千砂都に心配されながらも、恋は勇敢に菜箸を鍋に突っ込んだ。そして、質量のある具を皿に取る。

 

「重いです。これは覚悟して挑んだ方がいいかもしれませんね。それでは、いただきます」

 

 恋は箸に挟まれた食材を、果敢に噛み付いた。

 

「これは......お肉ですね。何のお肉でしょうか? 少し固くて、この独特な癖……なんでしょう?」

「それは私が持ってきた、ゆいがおーのステーキですの」

 

「「ゆいがおー⁉︎」」

 

 それを口にした恋を含め、他のメンバーも声を揃えて驚愕する。それもそのはず、夏美が宣言した食材は本来あり得るはずのないものだから。

 

「ちょっと待ちなさい! ゆいがおーって、あのゆいがおーよね。そんなの、あり得ないったら、あり得ないわ!」

「そんなことはありませんの! これはオニナッツがわざわざ、アフリカの沼地まで出向いて捕獲しに行った一級品ですの! あの白い鱗と虹色のヒダを処理するのが、どれだけ大変か、すみれ先輩は分かりますの?」

「アレ、鱗だったんだ……」

 

 ニタリと小悪魔のような表情で夏美は熱弁した。呆れた表情で聞いていたすみれは、そういうことか、とため息をこぼす。

 

「はいはい、だいたいゆいがおーは結衣ヶ丘の守り神でしょ。流石にブラックジョークがすぎるわよ」

「ニャハ! 結衣ヶ丘の守り神、ゆいがおーと銘打って鹿肉のジビエを販売して一儲け!、と思ったのですが……さすがにコレはウケませんの」

 

 冷静になった夏美が店じまいと言わんばかりに、脱力した両手をブランブランと振って降参する。鍋の具の正体も判明して、これで一安心と場の空気が和やかになる、1人を除いて。

 

「う、うう……ゆいがおー、すみません。私は結衣ヶ丘の生徒会長、失格です」

「あーあ、夏美が恋先輩、泣ーかした」

「なっ! デジャブですの……」

 

 メイに煽られるかたちで夏美は恋に猛弁明をする羽目になるのだった。

 

 弁明タイムも終わり、夏美は進行に復帰する。

 

「ふう、ようやく理解していただけましたの……」

 

 右手で額を拭う動きをしながら夏美は、LTuberとしての表情を取り戻した。

 

「さあ、ラスト! 大トリですの!」

「そんな、トリだなんて緊張するっすよ〜」

 

 菜箸を受け取った、きな子が、口をへの字にして弱音を吐いた。

 

「ドーン、とキメてくださいの!」

「じゃ、じゃあ、いくっすよ」

 

 菜箸で鍋の中をかき混ぜて、きな子は具を皿へと乗せる。そして、一度深呼吸をして口へと運んだ。

 

「これはーー⁉︎ 」

 

 きな子へと視線を集める一同は、ゆっくりと口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。

 

「......分離した手羽先の残骸っす」

「ギャラクシー⁉︎」

 

 間の抜けた、きな子の発言を聞いて一番最初に反応したのは不思議なポーズをとった、すみれだった。すみれに流されるように他のメンバーも肩をすかされるように、ずっこける。

 

「ま、まあ、今まで被ることなく回っていたのが奇跡のようなものですし、気を取り直して、もう一回、取ってくださいですの。今のところは後で編集でカットしますので」

「え〜、また食べるんすっか⁉︎ きな子だけ不公平っすよ〜」

「このまま、かのん先輩が用意したカフェオレケーキが登場しないようでは動画として成立しないので仕方がありませんの。早く取るですの!」

 

 跳ね避けようと両手の平を向ける、きな子へ菜箸を押しつけながら夏美は催促する。

 そんな夏美を、他のLiella!のメンバーは冷たい目で見つめていた。数秒して、その集まる視線に気が付いた夏美は同時に、ある失言にも気づく。

 

「どうして、夏美ちゃんは私が準備したカフェオレケーキのことを知ってるの? 鍋の材料は見てないって言ってたよね?」

「そ、それは……」

 

 言い逃れ出来ない状態の夏美は、額から大粒の汗をダラダラと流した。そして、口八丁に言いくるめる算段をつけようと努力するが、他のメンバーがそんなことをする暇を与えてはくれなかった。

 

「よくよく考えてみれば、夏美ちゃんの食べた、たこ焼きが1番まともだった気がする。次点で手羽先」

 

 一連の流れを振り返り、冷静な分析を四季が話す。

 

「確かに、そんな気はするな。たこ焼きは丸いから鍋の中見なくても橋で見つけやすそうだし、トップバッターなら選びたい放題だ」

「まさか、予め具の内容を把握して1番まともな具を選んでたんっすか⁉︎」

「完全なる不正」

「サイテーだな」

 

 同学年からの大バッシングを受けて、流石の夏美もタジタジになる。そして、そんな干からびた夏美に更なる追い討ちがかかった。

 

「言い逃れは出来ないわよ。罰として残りの鍋、全部1人で完食してもらうわ!」

 

 無慈悲にも、すみれから夏美へと、死刑宣告が送られた。それだけは嫌だ、と他の2年生に対して必死な顔で首を横に振るが、救いの手を差し伸べられることはなかった。

 

「さあ、早く食べなさい!」

 

 夏美の目の前に悍ましい鍋が置かれる。そして、すみれは箸を夏美の手に持たせ、逃げ場を無くすようにカメラを夏美の正面へと移動させた。

 

「ナ、ナッツ〜‼︎」

 

 そんな悲鳴がカフェの店内に響き渡る。

 

 かくして、夏美の思いつきで始まった闇鍋パーティーは、夏美の自爆、というオチで締め括られたのであった。

 

 ※

 

 ミスマッチな食材に、Liella! のメンバーの反応で一稼ぎ、と思っていましたが、まさかこんなかたちになってしまうとは......爪が甘かったですの。

 

 スクールアイドル部の部室にて他のメンバーが集合するまでの間、この前撮影した動画の編集作業に私は勤しむ。

 何度も見返して手を加え、最高のかたちへと編集する。その際、何度も目にした闇鍋を前にした最後の自分の表情があまりにも酷すぎて、なんだか可笑しくなってきた。

 

「なに笑ってるんすっか?」

「なっ! きな子、居ましたの。ビックリするので急に話しかけるのはやめてくださいの」

「ごめんなさいっす」

 

 気がつけば背後に、きな子がいて、編集したての動画に目を落としていた。

 

「あ、この前、撮影した動画っすか⁉︎ これ見て、笑ってたんすね!」

「別に笑ってなんかいませんの」

「え〜、笑ってたっすよぉ」

 

 食い下がる、きな子をよそに、編集した動画を保存してパソコンを閉る。

 

「あのときは皆、散々な目にあったっすけど、楽しかったっすね!」

 

 そんなことを、きな子は無邪気に発言した。

 

「夏美ちゃんも楽しかったっすよね?」

 

 楽しかった、そう言われてみれば、確かにそうなのかもしれませんの。いや、あの時だけじゃない。Liella! の動画を撮り始めてから、私の中で少し変わった、と感じることがありますの。

 

 それは、何かを得るためだけに始めたLTubeだったはずが、最近はマニーを稼ぐ以外にも、楽しいと思える瞬間が増えた気がするということ。

 

 案外、何も得られなくたって皆と一緒に何か一つのことをする、そんな生産性のないことに、高い価値があるのかもしれない、新たに芽生えたそんな考え。

 

「あんな不味い鍋を一人で完食させられて、楽しいわけがありませんの!」

「え〜、でも笑ってるっすよぉ」

 

 動画投稿に、マニーを稼ぐ以外の意味を見出すことになるなんて、あの頃の私は考えてもみなかった。でも、だからこそ今は、一緒にいて、ただ楽しいと思えるメンバーと、1番になりたい。強く、そう思いますの。

 

「さあ、くだらないこと言ってないで先輩たちが来る前に、練習の準備を済ませますの!」

「お! やる気っすね〜」

「当たり前ですの! ラブライブの決勝に向けて猛特訓ですの‼︎」

 

 このメンバーで1番になった、その先に、今でも考え付かないような素晴らしいなにかが、待っているのかもしれない。そんな期待を感じながら、一歩前に踏み出した。


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