うんこたろう   作:三流FLASH職人

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第二十六話 その男、霊能者につき

 3月。まだまだ肌寒い季節だが、そろそろ春の気配が漂う東京。

 

 その一角のラーメン屋で私、門田 菊と白雲虎太郎(うんこたろう)は少し遅めの昼食を取っていた。今日は朝から白雲さんの某大学での特別講義があり、それがさっき終わったばかりだった。

「にしても……大学での講義ってよく行くんですか?」

「うん、よく招かれるよ。まぁ私みたいな研究をしてる医者はそういないだろうから」

 ラーメンをすすりながらそんな話をする。いつものごとく講義内容はウンコのお話なんだけど、大学生には意外とウケがいいみたいで、集まったみんなは興味深そうに彼の話を聞いていた……私は大学なんか無縁だったけど、みんなよくあんな話に食いつくなぁ、とは思う。

 

「ま、論文なんかのネタにはなるんだろうね。自分をアピールするには人のしない話をするのが一番だから」

 なるほど。大学生にもなった相手に真面目にウンコウンコ言ってるのはまぁこの人くらいだろうけど、その意外性が案外個性を出せるのかもしれない。

 

 ……しかし、食事中にこんな話をするのもすっかり慣れてしまったなぁ。ってういうか他にお客もいるのにこれはよくない、NGワードが出る前に話題を変えようと、店の片隅にあるTVに目をやる。

 

「あ! 舞鶴(ぶかく) ツルネさん出てますよ、ほら今評判の霊能者。なんでも陰陽師の末裔とか」

 画面に映ってたのは、最近何かと話題の美人巫女さんだ。悪霊や妖怪の類を祓うスーパー霊媒師として有名で、正月からこっち各地の幽霊スポットを渡り歩いて除霊をしているのがよくTVで取り上げられていた。

 

 が、白雲さんはそんな画面を見てふん、と鼻で笑う。

「馬鹿馬鹿しい、霊や妖怪なんてこの世に居るわけ無いよ。あんなのは人体科学が発展していない時代の迷信、その名残さ」

「あー、信じないタイプの人ですか? ツルネさんには政治家の人まで救われたって聞きますけど」

 まぁ医者なんだから、霊とか魂とか信じる方がおかしいのは分かるけど。

 

「あんなものにビクビクするくらいなら、う〇こによる健康管理をしているほうがずっと健全だよ!」

(ちょ! 食べ物屋でそれはアウトですって!)

 小声でたしなめつつ慌てて周囲を見回す。幸いというか店の隅っこの方に座っていたお陰で、他の人に聞かれずに済んだようだ……やれやれ。

 

 と、私のすぐ後ろのトイレのドアががちゃりと開く音がした。

「聞き捨てならんな……霊は存在するのだよ、君」

 その男の人が険しい表情で、私と白雲さんのテーブルにずい、と身を乗り出して、重々しい声でそう主張してきた……なにこの人?

 

「いいかね? 人体科学などはしょせん霊を信じない学者が逃げ口上の為に組み立てた理論だ! 人の意志が脳の電気信号のやり取りだ? 人魂はそんな単純な問題じゃない!」

 鋭い目で白雲さんにそう詰め寄る男の人。年の頃は白雲さんと同じくらいか、背は高くないけど鋭い目つきに整った顔立ちが、なかなかのイケメンっぷりを発揮している。

 

「ふっ、今やAIでも人に近しい意志が生み出されている時代だよ。それでも脳の電気信号により生み出される思考や意思を信じられないと?」

「機械に魂は存在せん! 輪廻転生を繰り返す人の魂に代わりなどありえんよ、それを機械で実現しようなどお笑い草だ」

 

 ありゃりゃ、なんかタイプの違うイケメン同士が論争を始めちゃったんですけど。

 

「君はトイレから出て来たけど、どうも快便とは程遠いようだね。ウンコが奇麗に排泄されていないから、霊などというものを信じてしまうんだ」

「俺の腹痛は霊障によるものだ、霊が取り付くと丹田に影響を及ぼす、それが霊障となって人体に様々な影響をもたらす!」

「病は気から、というのを知らないと見える。ありもしないものを信じているから腹痛を起こすのですよ。そんなものは忘れて快便で健康に生きなさい」

「あるからこそ腹が痛くなるのだ! 霊の存在は人の紡いだ歴史だ、医者のようだが解明されている科学だけでヒトを語るとは……ご立派な白衣が泣くぞ」

 

 えーっと……いい歳したイケメンふたりが『ウンコ』と『幽霊』で論議している光景って、ものすごくシュールなんですけど。

 

 ……ほら、周囲の客も店員さんもドン引きしてるじゃないですか。

 

「ちょっと白雲さん! お店の人が睨んでますから、もうそのへんで……」

「あんなぁ表川(おもてがわ)はん! 公衆の面前で何もめてはるんな!」

 え? と言葉を止める。私と同時に反対側から霊能イケメンに声をかけたのは、サングラスに帽子を被っている女性だった。フォーマルな服装をびしっ、と決めたその様は、いかにもデキるレディーと言った感じで、あのイケメンさんとはいかにもお似合いそうだ。

 

「だまれツルツル! 今この男に霊の真実を説いているのだ、邪魔するな」

「ツルツル言わんで! ツルネやけんなぁ……って、しもた」

 

 途端に慌てて口を塞ぐ謎の美女。って、ツルネって、どっかで……?

 

 しん、と静まった店内に、思い出したようにTVの音声が入って来た。そういえば今話題の巫女さん、舞鶴(ぶかく) ツルネさんの特集やってたんだ。

 

 え? ツルネ、って確か、今しがた……?

 

 画面に映る巫女さんと、目の前にいる洋装美人を交互に見る。あ、あれ、なんか、似すぎてない? いやもう完全にこれは!

 

「うわわわわ! ひょっとしなくても、()()ツルネさんですかぁっ!?」

 

 私の絶叫に、店内が一斉にざわついた。

 

「やば! すんまへんお勘定!! ほら行くわよ表側はん!」

「ま、待てっ! このヤブ医者に霊の存在を説いて聞かせねばならんのだっ!」

「望むところです! 河岸を変えるとしますか、店主、お会計ッ!」

 

 ツルネさんが謎の霊能イケメンを、謎の霊能イケメンが白雲さん(うんこたろう)を引きずって店から出ていく。

 

 私は店の人たちに後ろ髪を引かれる思いで、その後に続くのであった……。

 

 

 

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