うんこたろう   作:三流FLASH職人

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第三十一話 英雄と、ヒーローと。

 現世に悪霊として蘇り、真名(マナ)を告げられて肉を得、悪神となった戦国の英雄、杉上信謙(すぎうえしんけん)が今――

 

 ――排便と寄生虫(サナダムシ)の排泄を経て、その天にも昇る心地に、魂を肉からふわりと分離させ、元の霊体へと具現化し直して、ユルんだ表情で私たちに向き直る。

 

『よき……かな。見事である、重畳であるぞ、うんこたろうとやら』

 本体の上に浮かび上がった生き霊(?)が、心底満足そうにそう告げる。

 

(えっと……ツルネさん、除霊できたんですかね?)

(まだ分からへん、またあの体に戻るかもしれへんし、それに……)

 

 声をひそめて話す私とツルネさん。そもそもここに来た目的が、あの杉上の霊を祓う事なのだ。まさかのウンコでそれが出来たのかは、まだ分からないらしい。

(霊を成仏させるには、その未練を断ち切らなアカン……あの武将の未練って、なんなんや、厠で死んだコトなんか?)

 

 で、その霊と向き合っている白雲さん。さっきまでは肉体と対峙していたから平気だったみたいだけど、幽体離脱みたいな今の状態にまた幽霊嫌いが再発したのか、「ひいぃぃぃ」と腰砕けで後ずさりしている。

 

『うーむ、難儀な奴じゃのう』

 今までと打って変わった弱腰の白雲さんに、杉上の霊が困り顔でそう嘆く。うん、それは大いに認めます。

 

『仕方ない、戻るとするか』

 そう言って霊体がまた下の肉体に戻って同化する――!?

 

「ちょ、ちょっと白雲さーんっ!」

「アホかーい! せっかく除霊できかけとったのに」

「んぎゃあぁぁ! ま、また体が支配されてしまった……尻くらい拭かせろぉ!」

 

『これでよいか、うんこたろうとやら』

「あ、はい。よかったよかった、やはり霊などいるはずもありませんからね♪」

 

「「「よくねーよ!!!」」」

 そこで喜んでどうするんですか!

 せっかく霊体にまで戻したのに、また肉を持った悪神になっちゃったよ……その体から伝わる得体のしれない圧みたいなものがビンビン来てるのに、白雲さん平気なの?

 

「寄生虫は体を弱らせ、他の病を引き込みやすい体質にしてしまいます。無事に出せてよかったですねぇ」

『うむ、礼を申すぞ、見事であった』

「いえいえいえ、医者として、そしてうんこ研究家として当然のことをしたまでです」

 なんか全然気にしていない様子で、朗らかに杉上と話す白雲さん。うーん、霊なんか信じてないから、その霊が発する力にも気づけないのかな?

 

 と、杉上が手にしていた刀を、すらりと鞘に納める。そしてしばらく瞑目すると、いからせた肩を落として穏やかに話し始めた。

『にしても……糞儒学(くそじゅがく)などと、よく学ぶ気になったものよ』

 いいぞいいぞ、もっと言ってやって!

 

『糞に関わるなど誰しも嫌がるものであろう、貴殿はそれを自らの正道と成すのか?』

「ええ、勿論ですよ。それが私の使命だと思っています」

『……何故だ?』

 いくぶん真剣になってそう聞く杉上に、、白雲さんはふっ、と笑ってこう返した。

 

「今、あなたが()()()()()()をしているからですよ♪」

 

 ああ、そうだよね。この人はそういうヒトなんだ。自分のやった事で誰かが救われ、幸せになっていく。それこそがこの白雲 虎太郎という人物の行動理念なんだ。

 

 ……その方法がウンコ、っていうだけで。

 

『誰かの幸を願うが故に、糞に手を突っ込むと言うのか、貴殿は!』

「ははは、ウンコは世界人類の誰もが出すものです。いくら忌み嫌おうと生きている以上、切っても切れない存在なのですよ」

 そこで一度言葉を切り、杉上さんに、悪神になろうとしている戦国武将に、そして毘沙羅天を守護神とする人物に向かって、はっきりとこう告げた――

 

「だから私は、それから逃げません。なぜならそれに向かい合う事で、人は必ず幸せになれるのですから!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

『……我は毘沙羅天の天命を受け、現世(うつよ)の乱るるを正すべく世に戻った。』

 

 そういやそんな事を言ってた。確かにこの杉上信謙って武将はとにかく真面目な人で、真に厚く義に尽くす大人物だったって歴史で学んだ記憶がある。

 だから現代の世間の腐敗を正すって、さっき確かに言ってた……。

 

『だが、貴殿のような英傑がおるならば、もう我など必要ないかも知れぬな』

「あはは、別にヒーローになるつもりはありませんよ、やりたいことをやってるだけです」

『心の欲するに従えども、(のり)を超えず、か。それどころか他に幸を振り撒くとはな……しかも、誰もが忌み嫌う行いを持って、とは』

 

 

『――見事なり、〝うんこたろう〟よ!』

 

 

 今までにないほど爽やかに、晴れ晴れとした声と顔で、歴史の英雄は白雲さん(うんこたろう)をそう評価すると――

 

 ふ、と魂を体から分離させ、再度霊体になると、そのままゆっくりと上に上がって行き……

 

 ――貴殿こそ現世(うつよ)の、『ひぃろぉ』也《なり》!――

 

 そう言葉を残して、そのまま幻のように、すぅっ、と消えていった。

 

 

 そして、残された彼の肉体が、まるで風に吹かれる砂の城のように、さらさらきらきらと粒になって、空気の中に溶け込んでいった……彼の出したウンコも、サナダムシも――

 

 少しの間の後、出口の無い青い世界だった洞窟から、元の大きな門がある場所へと、いつのまにか戻っていた。

 

 

 

「あ……元に戻った、やりましたよ、帰れるんだぁ~!」

 へなへなとその場に座り込む私、門田菊。ホントになんて経験したんだろうか、私たちは。

 

 

 

 ……ちなみにですが、現世のヒーロー白雲さんは、また幽霊に戻って消えた杉上さんと、崩れ去った肉体を見てまた「ひいぃぃぃぃぃ!」と怯え切っているし。

 

 

 国家の命を受けてここに来た日本最高クラスの霊妖祓い師、表川さんはというと……

「しくしくしくしく……スッキリしているのが余計に悔しいっ」

 人前での脱糞ショーを演じてしまったバツの悪さから、私たちに背を向けて体育座りしてさめざめと泣いていた。

 

 

 

 お二人とも、お疲れ様でした(笑)。

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