うんこたろう   作:三流FLASH職人

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第三十二話 事実は創作より奇なり?

 あの除霊騒動から一か月。

 

 白雲ビル三階のエアロビクス教室にて。今日のノルマを終えた私、門田菊(かどたきく)は、白雲さんや睦さん、その他の練習生たち。そして新たに入会した霊妖祓い師の表川無念(おもてがわむねん)さんと舞鶴(ぶかく)ツルネさんも一緒に、隅っこにあるTVに集まって注目していた。

 

 そう、あの皇ky……やんごとなき御方の住まいのお城の地下で行われた除霊のTV報道番組が、まもなく始まるのだ。

 

「ふ、いよいよ快便がオカルトを凌駕する事が、広く世に知らしめられるという訳だな」

「あんなキタナい話を全国放送で流せるわけ無いだろ!」

 

 白雲さんと表川さんは相変わらずの丁々発止(バチバチ)だ。表川さんはあれ以来、霊障による腹痛が収まって、その後の除霊にもいい影響が出たらしくて、ならばとツルネさんんに引っ張ってこられて無理矢理入会させられた、というわけだ。

 

 

「にしても、あの後は本当にびっくりしましたよ」

「あはは、菊ちゃんはそう言う話、信じるんやなぁ」

 あの洞窟の帰り道、私はツルネさんに思わぬ真相を聞かされていた。なんと私たちを同行させたのは、彼らの占いで出た結果に従ったかららしい。

 彼らは厄介な除霊を請け負う時、先だって自分たちで良い方法や方針を占って、それに従って行動するんだとか。

 んで出たのが、あの日ラーメン屋で出会う人物、つまり私たちに除霊に同行させよと言うモノだったとか……。

 

 にわかには信じられない話だったけど、白雲さん(うんこたろう)を同行させた先に出た悪霊が、かの()()()()()()戦国の英雄、杉上信謙(すぎうえしんけん)だったのだから否定のしようもない。

 事実白雲さんの活躍で事態は収まった(腹痛も収まった)んだし、そんな恩恵の代償があの()()()()()()()だとしたら、なかなかに因果を感じるなぁ、なんて思う。

 

 ま、私はこの件でツルネさんと仲良くなれたんだし、完璧排便超人の白雲さんの思わぬ弱点も知れたんだから、いい経験になったんだけどね♪

 

「あ、始まったわよ」

 インストラクターの睦さんの言葉に全員が画面に注目する。とはいえあれから私たちにはTV出演のオファーも無かったし、そもそもTVじゃ除霊の中心人物がツルネさんになってるんだから、それなりのヤラセはあるんだろうけどね。

 

 ――舞鶴(ぶかく)ツルネの除霊・現代に蘇えりし英雄との対峙――

 

 画面にテロップと共に映像が映る。そこは確かにあの洞窟を模した青い世界で、ちょっと形は違うけどあの祭壇もちゃんとある。

 だた、画面にいるのは巫女の衣装、といっても手には神楽鈴、首には数珠玉、頭には烏帽子を被った、相当に気合の入った衣装を纏うツルネさんだけだ。

 部外者のうんこ研究家コンビはもちろんの事、表川さんすら姿を見せない。まぁ毎回こんな感じで、ツルネさんを除霊アイドルに仕立てたいだけの番組ではあるんだけどね。

 

 しゃらーんっ!

 

 神楽鈴(神事に使う手持ちの鈴の束)を打ち鳴らして、ツルネさんが舞を披露し始める。気合の入った巫女の衣装で神々しく踊るその様は、さすがに神聖なイメージを抱かせ……抱かせて……あれ?

 

「お! 快便体操第三だねぇ。ちょっとアレンジしてるみたいだけど」

「あ、早速バレてもうた。さすが白雲はんやなぁ」

 やっぱり。リズムも違うし、衣装や鈴の音、そして横笛や(つづみ)の演奏で分かりにくいけど、ここにいるメンツなら見たらそれが白雲さん考案の快便体操のそれだと分かってしまう。

「あまり脚色が過ぎると、あの悪霊が復活せんとも限らんからな」

 表川さんが仏頂面でそう解説を入れる。TV番組に反応して悪霊が復活する事まで心配してるあたり、さすがの本職さんと言うか……。

 

 と、祭壇の前にぼうっと青い光が灯り、それが毘沙羅天(びしゃらてん)の形を成していく。もちろんCGなんだろうけど、なかなかに良く出来ている。

『迷いし御霊(みたま)よ、汝、何ゆえ現世(うつよ)に降臨されたもうや』

 TVの中で歌うように霊に問いかけるツルネさんに対し、その悪霊さんが表情を固定したまま口だけをパクパクさせて言葉を発する……なにこの人形チックなCG。

 

――我は……戦国の英雄、杉上信謙(すぎうえしんけん)なるぞ――

 え、初っ端から、しかも自分から名乗っちゃったよ……いいんですかコレ?

 

 対してツルネさんは懐から折りたたんだ和紙を取り出し、それをふわさ、と広げて長い帯状にすると、その先端をつまんで頭の上でくるくると回す。それに引っ張られるかのように和紙が螺旋を描きつつ、彼女の周囲に舞い踊る。

「うわ、キレー」

「カッコイイわぁ」

 TVを見てたメンバーから歓声が上がる。確かに、和紙を取り出した胸元は羨ましい谷間を覗かせているし、手にした和紙の帯もまるで新体操のリボンのように美しく舞っている。

 

 ちなみに会員の一人、いつかの下剤騒動の時の下原君は、TVじゃなくて手持ちのタブレットで動画サイトの生中継(コメントあり)を見ている。彼曰くこっちもなかなかのバズりぷりだそうだ。

 

『真に義と忠を重んじる英傑、貴方様の望みのままに好みを捧げますれば、どうか神と成りて天にましますよう』

――我は毘沙羅天の権化なるぞ、女人に捧げられるものなど――

 

 あー確かに。史実でも杉上信謙さんって生涯独身だったみたいだし、いかにツルネさんの艶やかな色仕掛けでも通用しないかー。

 

――ならば、我に、正しき神酒を捧げよ。さすれば――

 ……お酒でいいんだ。さすがだなぁ。

「かしこまって御座います、最高のお神酒をお捧げいたしましょう」

 

―――――――――――――――――――

 

 ぱりん。

 

 出された杯は、飲まれる事も無く打ち捨てられ、地面に叩きつけられて粉々になった。

『我に捧げる神酒に何の恵も無きとは……呆れたものよ。この酒には魂が、心が籠っておらぬ』

 

 その言葉と同時、洞窟の周囲を無数の鬼火が取り囲んだ。全周から照らし出され、その場に立ち尽くすツルネさん。

 

――今一度、問う。女人よ、我に()()()()()を――

 

『やってみせましょう、ご無礼不調法を、お許したもれ』

 そう言って懐から何かの包みを取り出し、それをさらさらと口に放り込む。

『干し飯か、うむ、良きかな』

 どうも乾燥させた米らしい、それをむぐむぐと咀嚼したツルネさんは、足元にあるお盆の徳利を手に取ると……その中に口の中のものを吐き出して入れた。

 

 

「ほほう、口噛み酒ですか」

「ああ、番組の制作陣が『視聴者サービスだ』とか言ってな」

「ホンマたまらんかったわ」

 白雲さんの感想に、表川さんとツルネさんがTVを見て溜め息まじりにそう続く。なんでも古来からのお酒の作り方の一つだそうだけど、確かにアレはちょっとやる方にしたらドン引きかもしれないなぁ。

 

 

 『どうぞ、お納めください』

 うやうやしくその徳利を手渡すツルネさん。受け取った霊はそれに口を付けると、豪快に上に掲げてごっきゅごっきゅと飲み始めた……いや温泉上がりのコーヒー牛乳じゃないんだからさぁ。

 

――神託の巫女よ、大儀であったぞ。我は神と成り、民の安寧を見守ろう――

 

 そう言ってあっさりと消えていく悪霊さん……それでいいのかヲイ。

 

―――――――――――――――――――――

 

 エンディングが流れ出し、各人がそろそろ解散しようと動き出した時、今だタブレットを見ている下原君が驚いた声を出した。

「うっわ、番組サイトが炎上してるよ」

 

「え、どれどれ?」

 みんなが興味を引かれて集まって来る。私や白雲さん、表川さんやツルネさんも何事かと画面を覗き込む……。

 

〝不潔よ、こんな汚い映像を流すなんて信じられない〟

〝戦国武将に対する軽蔑です、侮辱です!〟

〝一度口に入れたものを戻すなんてアリエナーイ〟

〝汚いわ、汚物よ、この番組終了させなきゃ!!〟

 

 炎上コメントのアイコンは全て女性のそれっぽかった……どうやらツルネさんの美人度やお色気が気に入らない、いわゆるルッキズム否定の女性の方々が暴れているらしい……けど。

 

「「「……汚い???」」」

 

 そこにいる全員が同時に、同じ意見を共有した。そして……

 

「だはははははっ! アレで汚いとかないわー」

「事実はTV番組より()なり、ってヤツやなぁ、あははははウケるー」

「現実の映像を見せてあげたいねぇ」

「それだけは止めてくれえぇぇぇぇ……」

 

 一同の大爆笑が、夜のジムに景気よくこだました。ま、ここのメンバーや、真相を知ってる私たち四人にしたらねぇ……。

 

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