9月10日。銀座のカフェバー『
「門田菊ちゃん、21歳の誕生日おめでとーっ!」
「「おーめーでーとーっ!!」」
私、
「うん、みなさん、本当にありがとうね」
ちょっと鼻をすすりながらそう返す。なんせ私の人生で誕生日に限らず何かの記念日を祝われる事なんて全くなかったから。
家ではあのDV親父が酒びたりで、学校でも貧相で不幸体質な私には、友達も恋人も無縁だったから。
……まぁ、それでも号泣しないのは、ここにいる全員が主催の
私が初めて白雲さんと出会った去年の12月も、こんな感じで睦さんの誕生パーティをやった帰りだったそうだ。あの時は女性しかいなかったけど、今回は流石に男性の姿もちらほら見かける、下剤混入未遂犯の下原さん、刑事の鐘巻さん、コーウンさんのスパーリングパートナーだった皆さん、そして霊妖払い師の表川さんなんかもいたりする。
もちろんこのカフェバーのオーナーさんも、白雲さんに
うんこミュニティ恐るべし……なんて思うと感激より面白さの方が勝っちゃって、涙よりも笑顔のほうが表に出ちゃうあたり、私も随分染まって来たなぁ。
相変わらず美男美女ばっかりだけど、その中に私が混じっているのにもようやく慣れて来たのもある。見た目は別次元の生物だけど、『思いは一つ、快便で毎日を健康に、人生を幸せに』な面々の集まりだと思うと、委縮する必要なんて無いんだよね。
「ね、そういえば菊ちゃんって、コーウンさんとはどーなったの?」
「あ、それそれ。今度会ったら絶対聞こうと思ってたんだ」
その睦さんの言葉に、周りの美女さん達が興味津々でわらわらと集まって来た。
そう、私はかつてこの日本でタイトルマッチをしたタイ人ボクサー、フンサイ・ギャラクシアン選手(あだ名:コーウンさん)に見初められ、現地の祝勝会で
みなさん彼氏持ちもいれば既婚者もいるんだけど、やっぱ女子会に近い会合となれば話題はそっちに行っちゃうかな。
「実は、向こうから『しばらく保留にしてくれ』って言われてるのよね」
「え、えええーっ!?」
「向こうからプロポーズされたんでしょ? ひっどーい」
「あ、いえいえ。あの場から逃げ出したの私だし、コーウンさんに非は無いですよ」
そう。あれからコーウンさんとはずっとメールのやりとりしてるんだけど、さすがにボクシング世界王者ともなるとスキャンダル、こと恋愛関係にはいろいろと気を遣うみたい。
あの場の私へのプロポーズも、あくまで寄って来る上流階級の女性を躱す為の方便という事でサブロさんが収めたそうだ。
加えて一か月後の10月に初防衛戦が控えているので、私との事はその後でという事になっている。
正直私は、まだ答えは出せないでいた。あれから9カ月が過ぎ、少しは私も美人に……とまではいかなくても、肌や髪の
それでもまだまだ世界チャンピオンと釣り合う女になれたかと言うと……やっぱまだ、ねー。
「そういえば……ずっと疑問なんですけど、白雲さんって誰か彼女いるんですか?」
前から気になっていたことを皆に聞いてみる。なんせあのイケメン長身に加えてお金持ち、人脈やコネもあちこちに持ってるのだから、内縁の妻くらいいても不思議じゃないけど……未だに私は見た事が無い。
「あー、うん」
「ま……アレじゃねー」
美女の皆さんが目を泳がせながら言葉を濁す。まぁ確かにうんこ研究家っていう肩書や日々の活動に付き合うのはしんどいだろうけど、それさえ乗り越えれば勝ち組人生になりそうなのに、なんで誰もアタックしないんだろう?
「えーっと……私はアプローチしたんだけどねぇ」
「あ、私も。二人きりの時に下着で迫ってみた……んだけど」
「なんかもう不能なんじゃないかって思うくらい女性に興味示さないのよね」
「いくら医者だからって、私の体見ての第一声が『うん、日々の快便でだいぶ安産型の骨盤になって来たね』じゃぁねぇ」
なんか衝撃の事実が次々と明かされて行くんですけど!
皆の話を聞くに、白雲さんは人体って奴をどうしても生理科学的に見る、典型的なマッド(うんこ的に)ドクターみたいで、性欲的に女性のカラダを捕らえる意識が希薄なんだとか。
人間を『うんこ製造機』として見続け過ぎた弊害なのかなぁ。
その白雲さん。しばらくは男性陣に交じって楽しくやってたかと思うと、隣のグループのお酒の席での喧嘩に割り込んで、さっそく快便での仲裁相談に入っている。しかもあれどうみてもヤ〇ザさん達だし……ホント、物怖じしない人だなぁ。
まぁものの5分もしないうちにその〇クザさん達も陥落してるんですけどね。
と、その時だった。
ピンポーンピンポーン
ピュイッ・ピュイッ
ピピピピピピ……
その店内のあちこちからアラームや警告音みたいなのが鳴り響く。あ、私の携帯からも振動とアラート音がする、どうしたんだろう?
「え、地震?」
「津波警報やって」
「しばらく沿岸に近づかんといて、やて」
確かに。私のスマホもその画面に『地震速報』の文字が躍っている。
――番組の途中ですが、ここで臨時ニュースです――
店内のTVがバラエティー番組から、ニューススタジオへと切り替わり、アナウンサーが深刻な顔で速報を読み上げる。
――ついさっき、日本時間の午後7時過ぎ。南半球、南米のチリ沖で大地震が発生した模様です――
――日本沿岸にも津波の到達が予想されます。沿岸いお住まいの皆様は直ちに避難の準備をして下さい――
――津波到達時刻はまだ未定ですが、詳細がわかるまで決して沿岸には近づかないように――
背筋の凍るそのニュースに、思わず固まる私たち一同。
鐘巻さんとマトリの乾さんは即座に荷物をまとめ、宴席を後にする。
「失礼する、忙しくなりそうだ」
「みなさんも、早めの対策をお願いしますね」
そう言って自分たちの職場へと向かう二人。さすがの公務員の行動の速さに感心していると、いつのまにか後ろにいた白雲さんに。ぽん、と肩を叩かれる。
「菊門ちゃん、私達も準備をしよう。出来るならすぐにでも飛ぶよ、チリに!」
その提案を聞き、その意味を考え、頭の中でそれを理解して……出て来たのは驚きの絶叫だった。
「え……ええええええーっ!? チリって……地球の裏側ですよーっ!??」