うんこたろう   作:三流FLASH職人

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第四十三話 手術とクーデター

 海賊マフィアの一員のジンは、チリ沖で自分たちの海賊船に漁船で乗り付けて来た人質の身元引受人、コタロウ・ハクウンとその助手を見て、内心で毒づいていた。

(コイツがあの女の上司かい……フン、お優しいこったな)

 

 船長以下の仲間たちが身代金の確認や二人の身体検査をして、問題なしとして船倉に紳士的に案内するのを見て、ますます嫌悪感を露わにする。

(クソッ、大金に加えて自ら助けに来るとか……正気かよ)

 

 (ジン)は元々日本人だった。ロクデナシがお決まりのヤクザコースへ進んだが、抗争の最中に彼は敵対勢力の人質となってしまった事があった。

 もちろん一介のチンピラに組の上層部が譲歩などするはずもない、彼は見捨てられ、殺される寸前まで行った。

 見苦しく命乞いをして、ヨゴレ仕事をする者としてなんとか生かされ、そのままずるずると海外で海賊の手下をやらされている。

 この絶海の孤島で麻薬の栽培や、オレオレ詐欺&闇バイトの斡旋をしても、アガリは上の組織に全部吸い上げられて、自分たち下っぱはこき使われるだけの毎日だ。

 

 ろくでもねぇ、クズ同然の日々。

 

 だからこそ、あの女やこの男には無性に腹を立てていた。俺の時は誰も助けてくれなかったのに、あの女には大金や雇い主の命まで賭けて守る価値があるっていうのか、と。

 

 彼には野望があった。いつかこの海賊団を乗っ取って、関連するヤクザやマフィアと手を切り、自分達だけで利益を独占して面白おかしく暮らしたい。

 そしてその為に、自分と同じ下っ端たちをひそかに説得していた。いつかクーデターを起こして、俺達が独立した(ワル)になってやろう、と。

 

 日本のヤクザの幹部であるボスと、ヨーロッパマフィアの使いである船長(キャプテン)。この二人さえ何とか出来れば、きっと自分たちの時代が来る。だがヘタを打てばもちろん殺されるだけだ。だから今までは慎重に、ひたすら従順なふりをして機会を伺って来た。

 

 そして今回、またとないチャンスの到来に、その野望に身を焦がしていたのだった。

 

  ◇        ◇        ◇

 

 暮れなずむ島の桟橋。そこに幾人かの悪党と一緒に、私、門田菊(かどたきく)は立って、水平線にからこちらに近づいて来る船をずっと見ていた。

 

(白雲さん……それにコーウンさん、どうか無事でいて!)

 

 そう、あの船には私を助ける為に乗り込んだ二人がいるはずだった。でも、二人が暴行を受けていない保証なんてどこにもない。

 体の大きな白雲さんは相手からも警戒されるだろうし、逆に華奢なコーウンさんが悪党に絡まれて、つい手を出しちゃうのもありそうな事だ。

 もしそうなったら二人の命が危ない、なんせ相手はピストルを持ってるし、人を殺す事などなんとも思ってない海賊なんだから。

 

 やがて船が桟橋に付ける。迎えの海賊がロープで船を固定し、そして……あのジンとか言う男を先頭に下船して来る……。

 

 その真ん中に、いた。

「白雲さん、コー……ラッキーさん!」

「菊門ちゃん! よかった、無事でよかった、本当に」

 

 男二人に拘束されている私が、思わず身を乗り出して二人に声をかける。白雲さんは心底よかったという顔で声をかけてくれた。ああ、懐かしい、あの人の声だ。思わず目頭が熱くなる。

 コーウンさん(偽名:ラッキー)は言葉を発せず、ウインクして右手親指を立てる。どういういきさつで彼がここにいるのかは知らないけど、少なくとも私を助ける為に駆け付けてくれたのは間違いないだろう。頼もしさと申し訳なさで胸がいっぱいだ。

 

「感動の再会は後だ! まずは約束通りボスを診てもらうぜ!」

 ケッ! と嫌悪感を露わにした後、ジンがそう吐き捨てるように言う。私にしてみればとても怖い態度だけど、あの二人は意にも介さず「はい、心得ております」とさらりと流す。

 うーん、この状況でも不敵だなぁ。さすがというか……

 

 

 アジトに戻り、早速ボスの男の診察に入る。ほんの数分の触診で、白雲さんが深刻な表情でボスに告げる。

「予想はしていましたが、虫垂炎ですね、いわゆる盲腸です」

「盲腸か……で、どうすりゃいい?」

「薬で炎症を抑えるか、手術するかのどちらかですね。ただ、薬では再発の危険性があります」

「手術なら?」

「100%直りますよ」

 

 ボスはふむ、とアゴをひねって考えた後、ふふんと笑みを見せて白雲さんに返す。

「んじゃ頼まぁ。どうせ俺みたいなのは下手に病院も行けねぇからな、まさに渡りに船って奴だぜ」

「かしこまりました、では早速準備にかかりましょう。ラッキー、そして菊門ちゃんも手伝ってください、この部屋の消毒にかかります」

 

 やっぱ手術する事になった。うん、これでボスが私達によりいい印象を持ってくれれば、みんなが無事に帰れる可能性はぐっと上がる。さぁ、頑張らなくっちゃ!

 

 でも、私はその時、海賊たちの中の一人が、にたり、と口角を釣り上げて笑うのに、気付くはずもなかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 部屋の消毒に続いて、エアークッション式の簡易手術台や術式トレイ、ロボットカメラやモニター付き操作台、それらをすっぽりと覆うビニールテント式の手術室などが設置され、ほどなくアジトの一角は手術室に早変わりした。

 

 ボスの人に麻酔を打ち、効いて来たのを確認して、いよいよ手術に入る。

 

 まぁ、さすがというか、手際は完璧だった。お腹に小さな穴を3つあけ、そのうちの1つからカメラを挿入して切除する虫垂の位置を確認し、残り二つの穴から切除アームを差し込んで、いともあっさりと切除して体外に取り出す。

 あとは空けた穴をささっと縫合して、ものの50分もかからずに全ての手術を終えた。

 

「終わりました、切った腸がつながるまで2日といった所でしょう、それまではご安静に」

「ああ……今は下の毛とか剃らねぇんだな。お子ちゃまにならなくて助かったぜ」

 ボスの下品なジョークに、周囲からも笑いが起こる。

 

 どうやら上手く行きそうだ。何しろこの手術室は外からも丸見えなので、海賊たちは自分のボスの手術をしっかりと目の当たりにし、白雲さんのその実力に感心しきりだった。少なくとも彼が刑事やエージェントの偽装だなんていう疑惑は完全になくなっていたみたい。

 

「ワンダフル! ミスターウンコタロウ、よくぞボスを救ってくれた」

 白人の船長さんがテントから出て来た白雲さんに握手を求める。

 

 そして、その船長さんの頭の後ろに、()()が押しあてられた。

船長(キャプテン)。いや、リマッツ・レイトン、大人しくしてもらおうか!」

 

 彼の後ろで拳銃を構えて不敵に笑うのは……あのジンだった――

 

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