うんこたろう   作:三流FLASH職人

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第四十四話 ジンの誤算

「な、なんの真似だ、ジン!」

 船長に拳銃を突きつけたジンに、周囲の海賊たちが怒りの声を飛ばす。が、海賊たちの何人かは、すかさずジンの周囲に集まり、彼をガードするかのように身構える。

 

「くっ……根回しまで、してやがったのかっ」

「ジンてめぇ、どうやら本気みてぇだな!」

 銃を突きつけられた船長が事態の深刻さを悟り、手術を終えたばかりのボスがジンを睨み据えて言葉を吐く。

 

 ドガッ!

 

 ジンは銃の底で船長の側頭部を殴って倒し、すかさず銃口をボスに向ける。殴られた船長は身を起そうとするも、他の者に頭を踏まれ、地べたに押さえつけられてしまう。

 

「やっとこの時が来たぜ! ボス、いや川谷(かわや)さんよぉ。それと船長(レイトン)、アンタもだ! 今まで散々人をこき使ってくれた礼をさせてもらうぜ!!」

 

 周囲がの空気がぴりっ、と張り詰める。ジンに従っているのは6名、いずれも若く身なりも貧相な、いかにも下っ端(チンピラ)の雰囲気が漂う連中だ。だがそれだけに、自分の立場の悪さに対する怒りのエネルギーをビリビリと感じさせる。

 

「何考えてんだキサマ! お前は組の飼い犬だってことを忘れたんじゃねぇだろうな!」

「その飼い犬から抜け出すためにやってんだよ、今日から俺がボスだ!」

 

 怒号と恫喝(どうかつ)の飛ばし合いは続く。会話から察するに、ジンたちは今の状況、つまり本国の組やマフィアに利益(アガリ)を吸い上げられている状況に嫌気が差し、この海賊団を乗っ取って独立するのが狙いらしい。

 

「麻薬、詐欺、そして誘拐。ここのコネクションを俺が全部、牛耳らせてもらう」

「お前……消されるぞ」

「ああ結構だね。どうせ今だって死んでるみたいなもんだ、ならその前にせいぜい楽しませてもらうぜ!」

 

「ほう……で、どう動くつもりだ?」

 地べたに踏みつけられ、銃を向けられている船長がジンを睨み上げてそう吐く。ジンはその哀れな姿に口角をニヤリと吊り上げて、言葉を続ける。

 

「そうだな、まずはせっかく人質が増えたんだ。ならもっともっと絞らせてもらうとするかな」

「馬鹿な! もう身代金は得ているんだぞ、これ以上を望めはサツや軍が動く!」

 ボス側の海賊の指摘に、ジンはふふんと笑って、一歩踏み出す……人質の医者、その()()()()()に向かって。

 

「ひとり見せしめに殺せば、あっちだって下手な動きは出来ないだろうよ。こっちが本気だって分からせてやればなぁ」

 チャキッ、とその小男の額に銃口を突きつけるジン。

 

「お前、死ね。お気の毒だがなぁ」

 

 ――パンッ――

 

 銃が火を噴き、撃たれた男が後方に弾け飛んで転がる。ジンは銃の煙をふっ、と吹き散らすと、ニヒルな表情を作って周囲に向けて宣言する。

 

「これが俺のやり方だ! ついて来るやつは優遇してやる、だが逆らう奴は皆、こうなるんだぜ!」

 してやったり、の表情で演説するジン。そんな彼を周囲の海賊たち、そして人質の白雲虎太郎や、門田菊は……。

 

 見て、いなかった。

 

 彼らが目で追っていたのは、今しがた撃たれたはずの小男がその体をひょいと起こし、音もなくススッと歩いて、自慢げに演説するジンのすぐ横、至近距離まで迫って涼しい笑顔を見せている様だった……。

 

ตกใจหมดเลย(トックジャイモッルーイ)ทำไมยิง(タムマイイン)ฉันจู่ๆ(チャンジュージュー)(ビックリしたぞ、もう! なんでいきなり撃つんだよ!)」

「うをようぇわぁぁあっ!!?」

 

 いきなり耳元でささやかれて、オーバーアクションで奇声を上げて驚くジン。

 無理もない、今しがた殺し(ハジい)たと思っていた優男の医者が、目の前で平気な笑顔を見せているんだから。

 

 思わず後ずさりしたジンはそのままぺたんと尻もちをつく。実はその助手の男が靴の先を軽く踏んでいたせいなのだが、それを理解しているのはこの場で二人だけだった……()()()

 

โอเค(オーケー)ไหมครับ(マイクラップ)(大丈夫ですか)?」

 助手の男がすまし顔でジンに手を差し出す。しばしあっけにとられたジンはそのまま手を取ると、猛然と立ち上がると同時に怒りの表情で、銃を握った右手で彼に殴りかかる。

 

 ココンッ。

 

 と思ったら、またジンはそのままその場にへたりこんだ。コトン、と銃を落とし、焦点の合わない目でふらふらと頭を揺らしたと思ったら、そのままべちゃっとうつ伏せに倒れる。

 

 一同沈黙。状況を理解しているのは、やはり()()()()()()()だった。

 

  ◇        ◇        ◇

 

(うわー、さすがというか……さすが)

 私、門田菊は目の前の、まるで寸劇のような流れのKO劇を見て、思わず心の中でうなっていた。

 最初、コーウンさんに銃を撃った時には流石に驚いたが、彼はちゃんとその瞬間に頭を下げ、銃撃を躱わしたと同時にいかにも撃たれたかのように後方に吹っ飛んで行った。

 私も一瞬、それが演技だとは気づかずにぞっとしたが、涼しい顔で立ち上がる彼を見てほっと胸をなでおろした。

 

 何しろ彼は、世界ボクシングフライ級チャンピオン、フンサイ・ギャラクシアンその人なんだから。

 銃を発射する瞬間を見切るなんて、彼ならやっぱり簡単(わけない)よねぇ、私でも「撃つ」って瞬間は分かったくらいだし。

 

 あのジンにしてみれば、人質の価値のありそうな女の私や、体の大きい白雲さんに比べて、痩せ型のコーウンさんはあまり価値がなく、かつ見せしめに手ごろな相手と侮ったんだろう。

 

 実際は完全に手玉に取られていたんだけどね……あの天涯チートのパンチを何度もかわしたコーウンさんに、あんな拳銃を持った手での殴りかかりが通用するわけがない。

 逆にコーウンさんの放った、まるでネコパンチのような左右のフックが、ジンのアゴ先をコンコンと叩いて、それで全てがおしまいになった。

 

 

「えーっと……叛逆(クーデター)してみたはいいけど、頭に血が上り過ぎて貧血を起こしたみたいですねぇ」

 白雲さんが倒れたジンの頭元にやってきて、いかにもしらじらしく、そんな事を言う。

 

「ぷっ……痛ててて」

 ボスがそれを真に受けて思わず吹き出し、手術後の傷口が痛んで思わずうめく。盲腸の手術後に笑いは禁物だ。

 

 周囲はしらけ切った空気に包まれていた。ジン側についたチンピラ共は、自分たちの新しいボスのあまりの不甲斐なさに「ええー?」と言った表情で呆れて立ち尽くすしかなかった。

 

「お前ら……コイツについていって、明日があると思うか?」

 船長の言葉に、思わず顔を見合わせるチンピラ達。

 

「……オ、オレは別に、そんなんじゃありませんぜ」

「俺も。スキを見てコイツをふんじばるつもりだったんでさぁ」

「こんな奴に従うワケねぇでしょうが」

 

 周囲のチンピラ達が我も我もと、ジン(ダウン状態)から離れていく。うわー、見事な変わり身だわこりゃ。

 でもまぁマフィアなんだし、裏切り行為は死刑なんだろうから、彼らが必死なのも分かるけどね。

 

「オイ! そいつをこっちに寄越せ」

「鉄の掟に逆らった奴には、制裁をしなきゃあな」

 船長側の海賊たちが白雲さんに詰め寄るも、彼はそのままジンをお姫様抱っこして、笑顔で首を振った。

 

「彼は貧血ですので、治療を優先させて頂きます。じゃ、ラッキーに菊ちゃん、手伝って♪」

「OK」

「は、はいっ!」

 

 そう言ってジンを抱き抱えたまま部屋を出て行こうとする白雲さん。私とコーウンさんもそれに続くが、当然のごとく海賊たちがそれを許すはずもなく……。

 

「治療なんぞ必用ねぇ!」

「そうだ、そいつにはメスより鉛弾をくれてやる!」

 いきり立つ面々。それに対し白雲さんは、相変わらずの笑顔のまま――

 

 目だけを、スゥッと濁らせて、こう言い放った。

 

「撃たれたのは私の助手です。()()()()()は私につけさせて頂きます」

 

 一瞬、室内の温度が下がった気がした。まるで死んだ魚の目のような、無慈悲で光の無い目をした白雲さんのその一言に、誰もが、ごくりと唾をのみ込んで立ち尽くすだけだった。

 

「皆さんももうお休みください。彼の身柄は明日の日の出に、東の海岸で引き渡させていただきます」

 

 それだけを告げて、白雲さんとコーウンさん、そして私はその部屋を出て行った。

 

  ◇        ◇        ◇

 

 翌朝。朝日が水平線から持ち上がる頃、私たち三人とジン、そして海賊のみなさん(さすがにボスは欠席)は、あのモアイ像の居並ぶ海岸に立って、対峙して――

 

『快便体操第一~、はい、まずは深呼吸から。お腹に目一杯空気を吸い込んで~♪』

 

 全員仲良く(?)、快便体操(いつものやつ)を踊っていた。

 

 

 

 

 その直後、私たちの想像をはるかに超える出来事が起こるなんて、想像も出来ずに――

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

※タイ語指導、土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)様。

 いつもありがとうございます。

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