本来は前話の最後に入れようと思ってたお話。
川神学園1年C組に所属している黛由紀江という少女がいる。
顔、容姿は文句なしに美人と言い切れるモノであるし、剣の腕は既に“壁”を超えて勉学の成績も学年上位に名を載せる程の文武両道、炊事掃除洗濯とどこに嫁に出しても恥ずかしくないと言える程に家事万能、さらに礼儀正しく謙虚な性格と、言葉にすれば有り得ないほどの高スペックを持っている彼女だが、唯一欠けているのが他人とのコミュニケーション能力であった。
彼女が笑おうとすると、顔の表情筋が固まり、まるで睨んでいるかのような獰猛な笑みになり、その笑顔を向けられた相手は恐怖を覚えてしまう程である。
故に、黛由紀江は友達が少ない。
もう一度言おう。
黛由紀江は 友 達 が 少 な い
地元では家名と剣の腕で畏れられ、友達も出来ずに一人で寂しかったために、友達を作ろうと決心し、単身生まれ故郷を出て川神の地に来たというのに、約一ヶ月半経った今でも風間ファミリー以外の友達は未だに一人も出来ていなかった。
しかし彼女はへこみはすれども諦めたりはしない。今日も友達を作る為に全力を尽くすのだ。夢の友達100人を作る為に!
「きょ、今日こそ友達を作るべく話しかけましょう」
「そうだぜまゆっち。何かを欲するならまず動かないとな」
登校後、お手洗いから教室に戻りながら、しかし今の由紀江はいつも以上に活力に満ちていた。
「でも今日の私は一味違います。今日は何だか話しかけられる気がするんです」
「マジかよまゆっち! その自信は一体どこから来るってんだ!?」
「それはですね、今朝、私のお湯飲みに茶柱が立っていたんです!」
「茶柱だけでそこまで上向きになれる……まゆっち、ええ子やな……」
なお、この会話は由紀江と松風によるものであり、今彼女達がいる場所は廊下であるので、周りにいる生徒たちからは凄く不気味に見えて避けられいるのだが、その事実に由紀江は気付かない。
「今日こそ大和田さんとお友達に……」
そう呟きながら教室に戻った由紀江の視線の先にあった光景とは……
自身のお友達である川神十夜と自身のお友達候補である大和田伊予が仲良くお話をしている姿であった。
「…………………………え?」
この時、由紀江の脳内に様々な思考が流れた。
――私と同じで友達少ないんじゃなかったんですか……?
――なんで私より先に大和田さんと仲良くなっているんですか……?
――そんなに楽しそうに何の話をしているんですか……?
――私も混ざりたい
――羨ましい
――目を付けてたのに先を越された
――仲良くなったなんて聞いてない
所謂“嫉妬”と言うヤツである。
だからといって十夜をどうこうしようなんて事は思わない。だって友達だもの。
しかしそうした事で、既に抱いてしまった“嫉妬”という感情の行き場がなくなってしまい、その結果、由紀江の頭の中がグチャグチャになって思考能力が著しく低下してしまっていた。
「あ、まゆっち」
そこで原因である十夜に声をかけられたせいで、ただでさえ処理容量ギリギリだった頭がさらにオーバーヒートしそうなほど由紀江は混乱していた。
「(こ、このまま黙ってたらもしかしなくとも失礼……!?)」
「(何でもいいから返事をするんだ! まゆっちー!!)」
その混乱しきった頭で、由紀江は何とか言葉をひねり出した。
「――この泥棒猫……!」
……何故そのセリフが出たのかは由紀江自身にもわからなかったが、その時間違いなく教室内の時間は止まった。
「…………はっ!?」
そしていち早くその硬直と先程までの混乱から解放された由紀江は、今時分の言った事を思い返し、顔色が変わっていき、そして……
「し、失礼しましたーーッ!!」
脱兎の如く逃げていった。
由紀江が教室から逃げ出してからも、しばらくの間は教室内の時間はなかなか動き出さないのであった。
その時、十夜はこう考えていた。
「(え? え? 何で俺、松風……というかまゆっちに泥棒猫って言われたの? ネタ? ネタフリなのか? 「お母様っ!」とか言った方がよかったのか?)」
その時、伊予はこう考えていた。
「(黛さんから泥棒猫って言われた……ってことはやっぱり黛さんと川神君は付き合ってる? でも川神君は違うって言ってたし……もしかして黛さん川神君のこと……?)」
色々な誤解が生まれながらも、今日も川神学園は平和であった。
<黛由紀江の本日の戦果>
・【川神十夜】に【困惑】させた
・【大和田伊予】に【誤解】を与えた
・【クラスメイト】の【思い込み】が深まった ▽
現在の友達数:0人+風間ファミリー