真剣で川神弟に恋しなさい!   作:名枕(ナマクラ)

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<前回での十夜の戦果>
・【クッキー】との親交を深めた
・【黛由紀江】と【大和田伊予】を引き合わせた
  ⇒【黛由紀江】と【大和田伊予】の好感度が上がった ▽


・現在の友達数:1人
  + 風間ファミリー(9人+1体)



第十四話 「――知らなかったのか?」

 誰もが求めて止まない日がやってきた。

 

 

 

 そう、それは 休 日 !

 

 

 

 仕事もなく、学業もなく、何の予定もなく、自分の思うがままに過ごす事の出来る素晴らしい日である。

 

「ああ、久しぶりに何の予定もない、本当に自由な時間だ!」

 

 そして俺も今日明日、学校は休みでバイトの予定もなく、ファミリーで集まる予定もない。正確には今日はまゆっちと大和田さんを引き合わせたので、今は既に夜なのだが、そこはいいとしよう。引き篭もりにとって夜は十分起きてる時間だしな。

 故に嬉々として小声で叫ぶ。

 

「だったら引き篭もるしかないじゃないか!」

 

 俺にはファミリー以外に遊びに誘えるような友達もいないしな!

 

「……自分で言ってて悲しくなってきた」

 

 誰もいない所での自虐ネタはダメだ。ダメージがでかすぎる上に虚しさが半端ない。

 

「と、ともかく! 最近ネトゲしてなかったし、久しぶりにやりまくるか」

 

 ということで特に遊びに行く相手のいない寂しい俺は、今日明日の予定をネットゲームに費やす事に決めたのだった。…………こ、心が痛いよぅ……

 

 大和田さん? 女子と二人で遊びに行くとかデートじゃね? 男女の垣根を越えた友情になってるならまだしも、流石にその段階にはまだ早いと思うんだ。異性としてデートに誘うにしてもだ。……まゆっちも入れて三人でっていう手を思い浮かんだけど、思いついたの今だからもう遅い。というか今の俺は既に引き篭もりモードに入っている。

 

 なので俺は迷うことなくPCの電源を入れて、マイク付きヘッドホンを装着してネトゲの世界に入り込んでいったのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 そして俺はポリゴンによって形取られた仮想の身体を得て、仮想世界の大地に降り立った。

 

 久しぶりのネットゲームの雰囲気に自然と気分が高揚する。ああ、今俺は引き篭もっているんだなぁという何とも言えない感動が身体を駆け巡る。…………どう考えてもダメ人間の思考です、ありがとうございました。

 

「さて、何しようかなー」

 

 ネトゲをするとは決めていたものの、それで特に何をしようかとは決めてなかった俺はそう呟きながら、誰か一緒に遊ぶ奴がいないかフレンドリストを確かめていると、視界の端に見知った顔を見つけたので、近付いて声をかける事にした。

 

「シャークじゃん。よーっす」

「トーヤじゃねーか! 久しぶりだな!」

 

 彼の名前は【シャーク】。ネトゲの世界では英雄と名高いトッププレイヤーである。その人気は、シャークに憧れて同じプレイスタイルにする人やシャークの成りすましが後を絶たない程である。

 

 ちなみにネトゲを始めたばかりの俺に色々と教えてくれたのも彼である。それにしては馴れ馴れしい? 別に知らない仲じゃないんだから構わないだろ。

 

 普段ならここで難易度の高いクエストにでも行かないかと誘う所なんだが、シャークのパーティに見慣れないアバターが3人ほどいたので、とりあえず紹介してもらおうと思ったところで、逆にその内の一人である女性キャラが口を開いた。

 

「何コイツ? フカヒレの知り合い?」

「カニテメェ! こっちではシャークだっつってんだろ!」

「うるせぇフカヒレ! それならボクのこともちゃんとキャラネームで呼べよ!」

「うるさいなー。てか何でカニとかじゃなくてデスマスクなんて呼びにくい名前にしたんだよ! ……ていうか何かこの名前見覚えあるんだけど気のせい?」

 

 俺が口を挟む間もなく、シャークと女性キャラがケンカを始めてしまった。このケンカの感じだと互いに素性が割れていて気兼ねのない関係のように見えた。とりあえずそのケンカを黙って見ているのもアレなので、残りの二人に声をかけてみる事にした。

 

「あー……もしかしてリア友?」

 

 というかシャークがフカヒレなんて呼ばれてるところ見たことないし、それ以外ないよな。つかシャークのリアルでのあだ名ってフカヒレなのか……

 

「ああ、俺達はフカヒレ……じゃなくてシャークのリアルでの友達……うん、一応友達でな」

 

 やはりシャークのリアルでの友達か……って、一応なのか? 何で一瞬考えたんだ?

 

「今回はコイツのやってるネトゲを皆でやろうって事になって今日始めたんだ。まあケンカしてるカニ……デスマスクはその前からやり始めたみたいだけど」

「そうそう。で、まずは経験者であるフカ……シャークに色々と教えてもらいながら進めるって事になったわけよ」

「ボクはフカヒレなんかの施しは受けないよ。ボクのレベルが上がるまで寄生するだけだもんね!」

「寄生プレイ公言されるとかシャーク扱いヒドクね?」

 

 こんな発言されるって、シャークは一体リアルではどんな扱いを受けているのか……ケンカの様子を見てる限りはイジメられてるわけじゃなさそうだが……

 

「つかよ、昨日散々俺にピンチ助けられたのに、施し受けないなんて言っても説得力ないぜ?」

「それで俺達に泣き付いてきて、ついでに巻き込んだ奴の言うセリフじゃないよな」

 

 あー……泣きついたのか。……もしかしたら彼女は小学生くらいの子どもなのかもしれないな。で、他のお三方はその保護者というか世話してるお兄さん的な人とか……うーむ。

 

「な、泣いてない! 泣いてないもんね! あとフカヒレはドヤ顔やめろ! お前もそんな哀れみの目で見んな!」

 

 おっと、しまった。視線に出てしまってたか。ならこれからは生温かい目で見ることにしよう。

 

「ま、そんなわけで俺はコイツらのレベル上げに付き合ってやってるわけだ」

 

 なるほどね。お守りと考えればアレだけど、雰囲気としては楽しげな感じだ。…………ふむ、このメンバーでパーティ組むのも何か面白そうだな。

 

「それなら俺も手伝おうか? レベル上げ」

「え……?」

「いいのか? アンタにメリットはあまりなさそうだけど」

「構わないよ。まあ暇だし。あ、俺はトーヤって言うんだ。よろしく」

「ああ、俺はレオンだ。こちらこそよろしく」

「で、オレは下僕二号。長いから二号でいいぜ」

「レオンに下僕……下僕二号?」

 

 予想外なアバター名に思わず聞き返してしまった。何故そんな名前をつけているのだろうか。というか一号は? 二号がいるなら一号もいるはずだろ。

 

「ボクの下僕さ! わざわざ自分でそう名乗るなんて、シュショウな奴だよ」

「お前が勝手に設定しただけだろうが」

「イタッ!? 何だよ一号の分際で! 一人だけ微妙に捻った名前にしやがって! レオの場合普通にレオで良かったじゃん!」

「だからお前はネットマナーをちゃんと守りなさい。あと地味に俺のリアル情報も流すんじゃねーよ」

 

 ……ただ話を聞いてるだけなのにどんどん相手の個人情報が手に入ってくるという不思議。まあ知ってどうこうしようとも思わないし、どうも出来ないんだけど。

 

「まっ、一号はアメリカに独り修行に行ったってことで。で、騒いでるコイツは……カニって呼んでやってくれ」

「デスマスクだっつってんだろ! って痛い痛い! やめろよレオ!」

「はいはい、少し落ち着こうぜ子蟹ちゃん」

「ははは」

「クソゥ……ここが街中じゃなかったら今の内にレオのアバターをキルしてやるのに……!」

「あれ? いつの間にかトーヤが着いてくる流れになってる? ……このままじゃゲーム内での俺の威厳が……!?」

「そんなわけなんでよろしくシャーク」

「え? あ、ああ! こちらこそよろしく頼むぜ、トーヤ!」

 

 

 

 ……こうして【シャーク】【レオン】【デスマスク】【下僕二号】の四人とパーティを組むことになった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「いやー、今日は助かったぜトーヤ!」

「こっちも楽しかったし、色々と面白かったし、いい時間だったぜ」

「俺達初心者組も操作に慣れたし、結構無理なレベリングも出来たし、感謝しかないな……さすがに徹夜はキツかったけどな」

 

 結局、俺は鮫パーティ(仮)のレベル上げに徹夜で付き合ってしまった。まあ死屍累々とした……じゃなかった、和気藹々とした雰囲気を楽しめたのでよしとしよう。

 

「お前、なかなか見所あんじゃん! 特別にボクの下僕三号にしてやんよ!」

「お断りします」

「ンだとテメー! 即答すんな! ちょっとは悩めよ!」

「ないわー、カニマスクの下僕とかないわー、悩む必要もないわー」

「完全に舐められてるぞ、カニ」

「うっせー! つか誰がカニマスクだ! テメーしばくぞコラァ!」

「お断りします」

「災難だな~トーヤ。何ならカニの相手変わってやろうか?」

「お断りしません」

「ははは、そうかそうか。……え? ちょ? ここ『お断りします』って言う場面じゃねーの?」

「喰らえやフカヒレー!」

「え? 何でそこでこっちくんのお前? ……ま、だけどな、ゲーム世界でこの俺に勝とうだなんて十年早いぜ! カニよぉ!」

 

 こうして鮫と蟹による海の幸同士の戦いが始まった。

 

 その原因の一端を担った俺は当然のようにその戦いをそのまま放置して、一人暇してるレオンと話をする事にした。

 

「どうよ、カニマスクの怒りの矛先を変えたこの俺の手際」

「まるでリアルでのじゃれ合いを見ているかのよう……たった一晩で俺達のこのノリに着いて来れるとは……トーヤ、恐ろしい子!」

「ハッハッハッ。そう褒めるなよ」

「別に褒めてないっての。それにしても、ついつい徹夜しちまったな……目がチカチカする」

「レオンは修行が足りないな。俺はまだまだいけるぞ」

「そんな修行なんぞしたくないわ! 俺も二号に便乗してればよかったかな……いや楽しかったけど」

 

 そんな風にレオンと二人で特に意味もない会話を楽しんでいると、何かをやり遂げたようにカニマスクが戻ってきて、俺達の会話に入ってきた。

 

「てかスバルの奴、途中で落ちやがって……とんだコンジョーナシですよ」

「だからリアル情報を……てかアイツの場合事情があるから仕方ないだろ」

「ケッ! ……まあ確かに陸上が大事なのはわかるけどさ」

「ああ、またこの甲殻類は……」

 

 カニマスク(デスマスク)の言うスバルこと二号は途中で落ちてしまった。明日……というか今日の朝から用事があるのだそうだ。それでも幼馴染だというカニマスクに付き合ってネトゲをしたのを見ると、世話好きというか、良い人だなぁと感じてしまう。しかし唯一のヒーラーがいなくなったのはいなくなったのはきつかった。……女子もいるのにパーティ唯一のヒーラーが男というのもおかしい気がする。

 

 ……しかし、『大学生(っぽい?)』、『スバル』、『陸上』……このキーワードで何か思い浮かびそうな……何だったか……?

 

 あ、陸上の選手にそんな名前の人がいたような…………まあ流石に別人だろうな、うん。

 

「そういえばシャークは?」

 

 ここは街の中だから攻撃不能エリアだし、攻撃出来てもまだシャークの方が圧倒的にレベルが上だからカニマスクじゃ倒せないはずなんだが……

 

「フカヒレならあそこでヘタレてるよ。ボクの華麗なる口撃コンボが火を噴いたのさ」

「やめてよおねえちゃん! そこは入れる方の穴じゃなくて出す方の穴だよぉ!」

「わざわざフカヒレスイッチ入れたのか……鬼かお前は」

 

 シャークは棒立ちの状態で泣き声のようなものだけが聞こえてくる。ここがリアルならへたり込んで子どもの様に泣き喚いているのだろう。何かそれっぽいものを幻視できたし。…………全国の英雄シャーク信者には見せられない光景だな。

 

「つかもう朝だし、そろそろ俺らも落ちるか」

「そうだねー、ボクも朝デッドしとかないと。オラ起きろフカヒレ!」

「……ハッ!? 俺は一体……?」

「トーヤはどうするんだ?」

 

 レオンの問い掛けに少し考えてから答える。

 

「俺はもう少しいるよ」

「そうか。んじゃ、また何かあったら呼んでくれ」

「おう、またな」

 

 そうしてログアウトしていく三人と別れたのだった。

 

 

「……さて、残ると言ったものの、俺はどうするかね」

 

 

 一人になって、何をするか悩む。この時間帯だと、リアルが忙しかったり寝始めたりするヤツが多くて、朝から来てそうなヤツがいないんだよなぁ。俺も一回落ちるのもアリだが……うーむ。

 

「あら、誰かと思ったらトーヤじゃない」

 

 そんな風に悩んでいると、俺を呼ぶアダルトな女性の声が聞こえてきた。

 

 振り向くとそこいたのは高身長でグラマーなスタイルを持つ大人な女性【ミュー】さんであった。

 

「あ、ミューさんチーッス」

「今日は早いのね」

「久しぶりに時間が出来たんで徹夜してたんですよ」

「そうなの。でもあんまり無理しちゃダメよ?」

「それはもちろん」

 

 しかしいつも感じるけど、ミューさんの大人っぽいグラマーな外見とその口調は確かに一致しているはずなのに、何か違和感がある。しかしその違和感が何なのかはわからない。まさかネカマって事はないだろうしなぁ……

 

「つかミューさんこそこの時間から来てるってちょっと珍しいっすね」

 

 いつもミューさんがいる時間は大体平日休日問わず昼から夕方辺りだと記憶してる。朝からいるのは珍しい…………その時間帯がメインってほぼ確実にニートのように思えるが……まあそこは触れないでおこう。もしかしたら基本夜に仕事なのかもしれないし。…………そのニートらしきミューさんと知り合いである俺もニートではないのか、という疑問はなしの方向でお願いしたい。

 

「今日はちょっと昼過ぎから予定が入ってるの。だからいつもより早く入ってきたのだけど、いつも組んでる人たちが皆いなくて困ってるのよね」

「あ、それなら俺とパーティ組みません?」

「あら、私はいいけど、いいの? せっかくの休みなんでしょ?」

「一人で狩りやるより知り合いと一緒の方が楽しいんで問題ないっす」

「そう。ならお願いするわ」

「じゃ、何します? クエでも狩りでも付き合いますよ」

「ありがとう。実はちょっと欲しい素材があるんだけど、それを集めるの手伝ってもらえるかしら?」

「いいですとも!」

「おねーさん嬉しいわ。これはご褒美よ」

 

 そう言ってミューさんは投げキッスをしてくれる。

 

「あざーっす!」

 

 たとえゲームの世界だろうと美女からの好意は嬉しいものである。…………リアルが男とかだったらアレだけど、そんな事は考えない。考えないったら考えない。

 

「ふふ、可愛いわね…………半ズボン、似合うかしら?」

「はい?」

「何でもないわ。それじゃ、早速行きましょうか」

 

 

 

 ……こうして【ミュー】さんと二人楽しい時間を過ごした。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ミューさんと別れた後に、フレンドからボス攻略クエストのお誘いが来たので、当然のように参加を希望した。

 

 時間ギリギリではあったが集合場所に間に合った俺は、その人の輪にさりげなく加わる。

 

 そしてその輪の中心にシャークがいるのを見つけた。どうやら今回ボス攻略を取り仕切るのはシャークのようだ。

 

「それじゃ改めて、今回のボス攻略で一応リーダーを勤めさせてもらうシャークだ。職業は、気持ち的にナイトやってまーす」

「気持ち的にじゃねーだろ!」

 

 シャークのボケと誰かのツッコミによって一部のメンバー達に笑いが起こる。

 

「まあ冗談はここら辺にしといて、今回討伐するボスについての情報を再確認しようと思う。まずボスの名前だが――」

 

 シャークがリーダーらしく情報の確認に入った。俺としては既に知っている情報だったりするのであまりキチンと聞く気はないので、ボーっとしていると、後ろから聞き覚えのある声の主が俺に話しかけてきた。

 

「久しぶりだな、トーヤ」

「ん? ああ、久しぶりだな。でっていう」

「俺は“でっていう”ではない! 俺の名前は――」

 

 コイツは“でっていう”。本当のアバター名はまた違ったと思うが、俺は“でっていう”と呼んでいる。

 

 コイツとの付き合いも結構長く、シャークの元で色々と教えてもらっている時に偶然遭遇したことから、今も縁が続いている。

 ……あと、根拠は勘以外ないのだが、実はコイツリア充なんじゃないかと疑ってたりする。リア充かはともかく何か隠してると思うんだけど……まあその辺りは無理に詮索しないのがマナーだな。

 

「――……で、次はボス相手にどう立ち回るかってことなんだが――」

 

 リーダーであるシャークが立派にリーダーとして熱弁しているのだが、俺とでっていうはそれを聞く素振りすら見せずに他愛のない話をしていた。

 

 

「――お二人ともお久しぶりですね」

 

「ん? 誰かと思えばM豚じゃないか」

「お前も来てたのか、このM豚は」

「ああん……!」

 

 そんな俺達に話しかけてきた彼女の名前は【M豚】。……別に虐められてるとか自虐とかでなく、気軽に罵られてる気分を味わえるようにこのような名前にしたのだそうだ。……あれ、これは自虐って言うのか?……ま、まあつまり、彼女は生粋のMなわけである。

 

 なので俺は彼女の要望に応えるべく、彼女との会話の際には語尾に「このM豚は」と付けるようにしている。しかしM豚との会話で罵っていると、不思議とゾクゾクして気分が昂揚してくるのだが、これは一体……まあそれに関しては一旦置いとくとしよう。

 

 なお、M豚は敵の攻撃を引き付ける壁役のスペシャリストである。

 

 正確に言えば戦闘においてそれ以外の事をしない。一切の攻撃をしないし、一切の防御もしない。ただ、相手からのあらゆる攻撃を受け入れるだけなのだ。……一時期は回復したら怒られたこともあったが、回復時についでに罵ったり、回復すると攻撃を受ける時間が長くなることを説明したりする事によってその点は改善された。

 

 ちなみに本人的に一番快感を得られるのは、フレンドリーファイアとその後の一方的な罵り、だそうだ。…………理解できない。

 

「今回もM豚は当然のように壁役なのか」

「そうですよ……あぁ、考えただけで興奮してきた……ハァハァ」

「想像だけでってどんだけMなんだよ、このM豚は」

「あぁ! 言葉責め! 気持ちいい、でも感じちゃう! ハァハァ……!」

「“でも”の使い方が明らかにおかしいだろ。やはり生粋の変態だな、このM豚は。ハァハァ……」

 

 いつものように罵りながらのコミュニケーションを取ってハァハァ言っていると、何故か仕切り役であったシャークがこちらに声をかけてきた。

 

「おいおいトーヤ、あんまりM豚さんを虐めるなよ。可哀そうだろ」

「え、ああ、うん……」

「M豚さんも何かあったら俺に言ってくれ」

「……え? あ、はぁ……」

「じゃあ続けるぞ!」

 

 言うだけ言ってシャークが再び仕切りに集中し始めたのを確認して、俺達は思わず溜め息を吐いてしまった。

 

「……はぁ」

「……恒例のコミュニケーションだったんだけどなぁ」

 

 せっかく気分が昂揚してたのに萎えてしまった。

 

「……止めたのは正解だと思うがな。だがシャークは常識に囚われすぎているように見える。観察力が足りていない」

「前半はともかく広範は俺もでっていうの言う通りだと思う」

「“でっていう”と呼ぶな! 俺の名前は――」

「いいじゃねぇか、別にこれくらい。単なるあだ名だよ」

「私もいいあだ名だと思いますよ、でっていうさん」

「だから“でっていう”と呼ぶんじゃない! というかM豚はただ責められたいだけだろう!」

「見破られた!?」

「いや、バレバレだし、このM豚は」

「あぁ……!」

「……いつも思うのだが、いちいちその語尾付けていたら無限ループで終わりがないだろうに」

「終わりがないのが『終わり』」

「それは違うぞ!」

 

 そんな感じで俺達は他愛のない会話を重ねていたが、そろそろリーダーであるシャークによる仕切りも終わるようだ。

 

「――という感じで皆よろしく頼むな!」

「あ、説明終わったみたいですね」

「だな。じゃ、俺達もそろそろ混じるか、でっていう」

「だから“でっていう”と呼ぶなと言っているだろう! 俺の名前は――」

 

 でっていうの抗議を聞き流しながら、俺達はシャークの声に耳を傾ける。

 

 

「そんじゃ皆、行くぞー!」

 

 

「「「おー!」」」

 

 

 

 

 ――さあ! 俺達の戦いはこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――貴方は一体何をしているのです? 川神十夜」

 

 

 

 

 

 ――その一言が、俺を現実《リアル》へと引き戻した。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「――貴方は一体何をしているのです? 川神十夜」

「――ッ!?」

 

 背後から声が聞こえてきたのに驚いて咄嗟に振り返るとそこにいたのは、箱根山中で見覚えのある紅髪眼帯美人の軍人、マルギッテさんであった。

 

「ま、マルギッテ、さん……?」

 

 な、何故ドイツにいるはずのマルギッテさんが、川神院の、それも俺の部屋にこうしているのか!? つかすぐ後ろに立たれても気付かない俺の危機管理能力ェ……

 

 あまりの出来事に、俺の頭の中は大根覧……じゃない、大混乱である。

 

「あ、あの……ど、どうしてここに? と、というか、どうして日本に?」

「今日はお嬢様のお住まいになっている島津寮とこれから転入する川神学園、そして川神院への挨拶のためにきました。その過程でお嬢様にお前を気にかけて欲しいと言われたので早速様子を見に来たわけですが……」

 

 そこで敢えて言葉を区切ったマルギッテさんの眼光が、さらに鋭くなった。

 

「――改めて問います。貴方は一体何をしていたのですか?」

 

 その虚言や嘘を許さない彼女の高圧的な言葉に、俺は抗う事など出来るわけがなく、気付けば搾り出すように答えていた。

 

「ね、ネトゲ……」

「いつから?」

「き、昨日から……」

 

 ちなみに今は昼過ぎから夕方前の間……少し早い気もするが、おやつ時というヤツである。……ああ、そういえば今日一回も飯食ってないわ。道理で腹も減るわけだ。

 

「…………」

 

 何故だろう、沈黙がツライ、というかイタイ。……というか今気のせいか、ピキッという音が聞こえたような……主にマルギッテさんの額辺りから。

 

 何だろう……凄まじく嫌な予感がする……!

 

「……いいでしょう。この私直々にその性根を鍛えなおしてやろう」

「えッ!? な、何で!?」

「先程言ったでしょう。お嬢様に頼まれたと。そのようなだらしのない生活を送る貴方を放っておく事は、お嬢様の頼みから逸脱する事だと判断したまでです」

 

 ば、馬鹿な……! 有り得ない……! せっかくの自堕落生活がこんな形で終止符を打たれるだと……!

 

「それでは準備運動がてらランニングをしましょう。まずは軽く10キロから」

 

 まずは!? しかも10キロ!? それは準備運動と言えるのか……!?

 

 

「距離の方は、貴方の様子を見ながら決めるとしましょう」

 

 

 …………え? 距離?

 

 

「きょ、距離は? え? え? じゃ、じゃあ10キロっていうのは一体……?」

「当然、重りの重量に決まっている」

 

 なん……だと……!? い、いや待て。これは孔明の罠だ! ……いやいや違うだろ、少し混乱しすぎだ。落ち着け!

 …………少なくとも重りだけならまだ希望はある。走る距離が短くすむ可能性も十分に……!

 

「まあ少なくとも10キロは走るでしょうが、問題はないでしょう」

 

 

 ――どう考えても明らかにハードトレーニングです。どうもありがとうございます。

 

 

 というか徹夜明けで飯も食べてない引き篭もりなのにそんなハードな事やらされたら死んでしまう!

 

「こ、こんな所にいられるか! 俺は逃げるぞ!」

 

 

 そんな捨て台詞を吐きながら俺は部屋から逃げ出した――

 

 

 

 

 

 

 

「――知らなかったのか?  猟  犬  か  ら  は  逃  げ  ら  れ  な  い  !」

 

 

 

 

 

 

 

 ――と同時に首根っこを掴まれ、そのまま捕えられた。

 

 

 ……Oh……オワタ

 

 

 

 

 

◆ オマケ ◆

 

 

「あれ? トーヤが動かなくなった?」

「またか」

「今回は『喝撃』じゃなかったね」

「珍しい事もあるものだな」

「あれ、こっちも『ビクッ!』ってなるよな」

「残念……あれ、結構気持ちいいのに……」

「「「それはお前だけだ!」」」

「……まあ今回はフィールドとか戦闘中とかじゃなくて良かったと思うべきだろう」

「だよなー。前なんてボス戦で長時間かけてもうすぐ倒せるかもって時に『喝撃』きたからなー……」

「そ、それは……」

「羨ましいシチュエーション……!」

「「「それはお前だけだ!」」」

 




<今回での十夜の戦果>
・【シャーク】と親交を深めた
・【レオン】【下僕二号】【デスマスク】と【フレンド登録】し合った
・【ミュー】と交友を深めた
・【M豚】【ヨッシー】と親交を深めた
・【マルギッテ・エーベルバッハ】に鍛錬を強要された。少し仲が深まった
  ⇒【マルギッテ・エーベルバッハ】の好感度が上がった
  ⇒体力その他諸々が上がった ▽


・現在の友達数:1人
  + 風間ファミリー(9人+1体)




今回の話、戦果の数は今までで最多なのにそのほとんどがネトゲ関連という……w
そして唯一のリアルでの戦果はマルさん関連のみという悲惨な結果にw

ちなみにネトゲで登場したキャラは全てタカヒロ作品キャラです。一部、きちんとキャラを正しく書けているのか怪しいキャラもいますが、どのキャラが誰なのかわかりましたでしょうか?
一部キャラのアバター名を考えてくださった兵隊様に感謝の言葉を述べさせていただきます。ありがとうございました。

誤字脱字や意見がありましたら、遠慮なくお申し付けください。

あと余談ですが、『喝撃』の正体は言うまでもなく鉄心による喝。
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