真剣で川神弟に恋しなさい!   作:名枕(ナマクラ)

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<前回での十夜の戦果>
・【KOS】が終了した。
・【夏休み前半】の予定が埋まってしまった。
・【川神百代】と戦った。
  ⇒手も足も出ずに【敗北】した。
  ⇒【川神百代】の好感度が上がった。
  ⇒【九鬼揚羽】の好感度が上がった。  ▽


・現在の友達数:1人
  + 風間ファミリー(9人+1体)




第二十四話 「――そんなのわかるわけないじゃない!!」

 KOSが終わった次の日の夜……もっと言えば川神百代の暴走を止めるべく川神十夜が無謀な挑戦をした日の夜の事。

 その被害者とも言えなくはない直江大和は自室にて、百代と十夜の姉妹である川神一子に電話をかけていた。

 

 理由としては、今日暴走していた百代の状態について聞くためである。

 

 一応百代と別れた時、大和にはもう普段通りに戻っていたように見えたが、もしかしたら再び同じように、あるいは別の形で百代の不満が噴き出てはいないか気になったのだ。

 しかし姉を慕う一子にわざわざ今日の顛末、つまりは憧れの姉の醜態について話すというのは気が引けた。そして何より話してしまったら自分の飼い主としての威厳がなくなってしまうような気もした。なので大和はその事をあまり話に出すことなく細心の注意を払いながら会話を誘導していったのだった。

 

「ところで姉さんの様子はどんな感じ?」

『お姉様? 別にいつも通りよ? なんかじいちゃんやルー師範代にこってり絞られてたけど、何があったのかしら?』

「ははは……」

『それと十夜が寝込んでるんだけど、何か知ってたりしない?』

「まあ……色々とあったんじゃないかな」

 

 何があったのか実際に見ていた大和だが、十夜にも男の意地的な物があるだろうと言葉を濁しておいた。話してもいいのなら十夜が話すだろうし自分がわざわざ話す必要もないだろうという判断であった。決して飼い犬に己の醜態について話したくないわけではない。

 

『あ! お姉様といえば! さっきお姉様とじいちゃんから言われたんだけど、アタシね、明日お姉様と試合することになったの!』

「え!? ワン子が姉さんと試合!? ……勝負になるのか?」

『失礼ね! ……まあそう思われてもおかしくないし、事実そうなんだけど、別に勝つのが目的じゃないわよ。今までのアタシの修行の成果を見せるっていう面が強いって師範代も言ってたわ』

 

 大和がそういうのも決しておかしなことではない。一子の武術の腕が低いわけではないが、武神・川神百代という存在は絶対的な強さの象徴とも言える。

 

「それにしても明日いきなり決闘とか急な話だよな」

『本当はもう少し時間を空けるつもりだったみたいなんだけど、お姉様とじいちゃんが8月に入ったら山籠もりするらしいの。その関係で明日になったみたい』

 

 一子の話から推測すると、本来であればここまで急な話ではなかったようだが、しかし今日の一件によって山籠もりが決定し、その関係で予定が繰り上がってしまったらしい。その一件に被害者とはいえ関わっていた大和としては何やら複雑な気分になってしまう。

 

「それにしてもKOSも終わったばっかなのになぁ……というかワン子お前身体の方は大丈夫なのか?」

『ん? 調子はいい方よ?』

「いや、ケガの話なんだが……」

『明日のためにケガしないように修行も控えめにしてるから大丈夫よ!』

「いやそうじゃなくてだな……」

 

 一子はKOSにて二日目の夜まで勝ち残っていたが、しかし最後に敵のサイコクッキーの自爆に巻き込まれて脱落した。故に大ケガをしていてもおかしくはないのだが、しかし一子は特に目立ったような外傷はなくピンピンしていたし、今の声の調子を聞いても特にやせ我慢をしているとかでもなさそうだ。なにより一子にとってそんな事よりも百代と戦える事の方が重要なようで、内心の喜びが普通に声に出てしまっていた。

 

『ふふふ……楽しみだわぁ……』

「そんなに喜ぶ事か?」

『喜ぶわよ! だってお姉様と戦えるって評価されたのよ!』

 

 川神院での正式な決闘として、武神・川神百代と戦う。その事実はつまり、川神一子の実力が川神百代と戦えるレベルまで到達したと川神院に判断されたと解釈する事が出来る。

 

「ならファミリー全員で見に行くか」

『あ、それなんだけど、今回のは川神院としての正式な決闘だから関係者以外は見に来ちゃいけないの』

「あ、そうなのか?」

『古いしきたりなんだって。お姉様もぼやいてたわ』

 

 ワン子の話に興味の湧いていた大和としては、肩透かしを食らった気分になった。しかし川神院の決まりであるのなら仕方ないと諦めかけたその時、一子が何かを思い出したように口を開いた。

 

『あ、でもサポーターとしてなら一人なら確か見れたと思うわ。大和が見たいならアタシのサポーターとして見てもいいけど』

「でも俺がサポーターでいいのか?」

『アタシは大和ならいいわよ』

「……じゃあ頼むわ」

『りょうかーい! じゃあじいちゃんに言っておくわね!』

「頼む。……というか何か嬉しそうだな。もしかして不安だったとか?」

『えへへ……まあ夢へ一歩近づくと思うと、ちょっと緊張しちゃって……』

 

 一子が緊張するのも仕方のない事である。自身の憧れる武神との正式な決闘がついに行われるのだ。己の力がどこまで通用するのか、目標の相手と直に比べる事になるのだ。緊張しないわけがない。

 

「まあ、頑張れよ」

『うん! アタシはただ、持てる力をすべてお姉様にぶつけるだけよ!』

 

 

…………

 

………………

 

……………………

 

 

 一子との電話を終えて、大和はポツリと呟いた。

 

「……ワン子も頑張ってるんだよなぁ」

 

 KOSを縁に総理と色々話した影響もあって、大和は昔抱いた夢を思い出していた。

 

 それは、将来日本という国を背負って立つ総理大臣となり、この国を変えるという、絵空事のような子供のころの夢。

 いつしか夢への情熱は冷めていき、この国の将来へ希望を抱けなくなり、己の限界を勝手に決めて、遥かな高みを目指そうとしなくなった。

 

 しかしここ最近、大和はその情熱を取り戻しつつあった。

 

「……もう一回、やってみるかな」

 

 そう決意しながら、大和が法律関係の本を手にしたその時、部屋の扉が荒々しく開けられた。

 

 

「――悪い子はいねぇぇがぁぁぁぁッ!!」

 

 

「うおぉッ!? クッキー!? どうしたんだ!?」

 

 突如として現れたのは荒ぶるクッキー第二形態であった。

 

「どうしたもこうしたもあるか! 今日いつものように第一形態で秘密基地の整備にいけば、部屋が荒れ果てて、汚物が巻き散らかっていた! どういう事だ!?」

「お、汚物……? なんだよ汚物って?」

「濁さずに言えば、吐瀉物だ」

「吐瀉物……?」

 

 ……そういえば、と大和は今日の秘密基地での一件について思い出す。

 廃ビルの前で十夜が百代の容赦ない腹パンを食らっていたが、殴られた十夜はというと、脂汗を流して倒れて痙攣していたものの、しかし腹の中の物がリバースはしていなかった。しかし、吐かなかった=威力が低かったというわけではない。

 

(もしかして基地内でも腹パン食らって既に吐いてたからリバースしなかったって事か……?)

 

 ある意味恐ろしい結論に至った大和は、その結論に驚愕しながらも、クッキーの話に耳を傾ける。

 

「部屋を荒らすのも戻すのも百歩譲って良しとしよう。だがそれを片付けようとせずにそのまま放置するとはどういう事だ! 怒りのあまり片付けを終えた後に思わず第二形態になってしまったぞ!」

「あ、ちゃんと処理はしてきたのか」

「当然だ。私を誰だと思っている?」

 

 さすがは天下の九鬼財閥によって製作されたご奉仕ロボットと言った所か。まさにお仕えロボの鑑である。

 

「だがそれとこれとは話が別だ! 一体誰があそこまでしておいて放置していたのだ! 知っているのなら答えろ大和!」

「えーっとだな……」

 

 

 大和は十夜の男の意地を優先するか、真実を伝えるか迷いながらも、しかし意識は明日の百代と一子の決闘に向いていたのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ―川神院―

 

 KOSが終わり、姉貴が揚羽さんと爺ちゃんと山籠もりをする事が決まった次の日の事。

 川神院では一つの決闘が行われようとしていた。

 

「西方、川神百代」

「応」

「東方、川神一子」

「はい!」

 

 

 そう、姉貴とワン子による、武道家としての正式な決闘である。

 

 

 KOSも終わり、ワン子のケガも大したことがなかったので、姉貴と爺ちゃんが揚羽さんと山籠もりを行う前に急ぎ執り行う事になった今回の決闘。今回の決闘は川神院における正式な試合であるので、ギャラリーは川神院の救護班とワン子のサポーターとして特別に許可された大和のみである。

 俺は川神院の門下生ではないので、正式に見る事は出来ないが、そこは勝手知ったる川神院、見つかりにくい場所から決闘を覗き込んでいる。十中八九、姉貴にも爺ちゃんにも俺が隠れて見ているのに気付いているが、おそらく黙認されている状態だ。

 

 今回の決闘、ワン子にはこれまでの武術の成果を見せてもらうと言っているらしい。それは事実ではあるのだろうが、しかし……

 

 

 

 

 

 ――この決闘の真意を、俺は知っている。

 

 

 

 

 

「いざ、尋常に勝負!」

 

 爺ちゃんの掛け声によってその試合は始まりを告げた。

 

「行きます!」

「来い!」

 

 先手はワン子が素手で姉貴に対して果敢に攻める。しかしそのどの攻撃も姉貴には当たらない。かすりすらしない。

 姉貴はワン子の動き、技、リーチなどを完全に見切って、あえてすべての攻撃を紙一重でかわしている。

そして最適のタイミングで反撃を入れる。

 姉貴の一撃を食らえばそれだけで立つのもキツイくらいのダメージを負ってしまう。

 

「げほっ……ごほっ……!」

「素手では話にならんな。薙刀を使え」

「は……はい!」

 

 そして薙刀を装備したワン子は再び攻めるが、やはり姉貴はそのすべてを悉く余裕をもってかわし続ける。

 

 

 ワン子の最後の大技、大車輪もその切っ先を見切られ、紙一重で避けられ、そのまま反撃の一撃を食らい、そのままワン子は立ち上がることができなくなった。

 

 

「そこまで! 勝者、川神百代!」

 

 

 立会人である爺ちゃんの判定により、姉貴とワン子の試合が終了した。

 

 しかし、勝負といいながらも、これは勝負にすらなっていない。それだけ姉貴とワン子との間には実力の差が存在する。

 姉貴の一撃を食らって倒れたワン子に救護班が駆け寄っていくが、ワン子はその手を借りる事なく何とか自力で立ち上がった。しかし薙刀を杖代わりにしてふら付きながらも何とか立っているのが精一杯なのが見て取れた。

 

「ワン子……」

 

 そんなワン子に声をかけた姉貴は、少しの間何かに悩むように目を閉じ、しかし何かを決意したように目を開くと、はっきりと告げた。

 

 

 

 

 

「お前には、武の才能がない」

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 いきなりの宣告に、ワン子は疑問の声を洩らす以外に何の反応できなかった。姉貴の声は聞こえたのだろう。姉貴が言った事も聞き取れたのだろう。しかし、姉貴の言葉の意味が理解できないのだろう。

 そんなワン子の状態に気付きながら、それでも姉貴は言葉を続けた。

 

「別に才能が全くないわけではない。目指すものが川神院の師範代でなければ十分すぎるほどのものだ。だが、師範代になるにはそれが足りない」

 

 川神院の師範代は、努力だけでなれるものではない。スポーツに例えるなら、オリンピックで金メダルを取るくらいの実力が必要になってくる。その実力を手にするには並外れた努力と、並外れた才能が必須と言えるだろう。

 

「お前は強くなった。この十年弱で見違えるほどに。心からそう思う。だが、師範代になるのなら、そろそろ私に攻撃を防御させるくらいの事は出来ないといけない」

 

 そこまで言った姉貴は言葉が詰まったかのように口を閉ざし、苦渋の表情を浮かべながら、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前じゃ、師範代にはなれない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉貴は、ワン子に師範代になれないと宣告した。

 

 それは姉としての感情を全く排した、川神院次期総代候補である武道家・川神百代としての言葉であった。

ただ、その言葉をワン子に伝える事を一人の姉として苦悩していたのを俺は知っている。

 姉としての姉貴はワン子に師範代になってほしいが、しかしワン子が師範代になれる可能性を武道家としての姉貴は否定する。

 姉貴としてもそれを伝える事に、何の感情もないなんて事はない。

 

「一子や、儂もモモと同意見なんじゃ」

「え……?」

 

 あまりのショックに呆けているワン子に、姉貴に続けて爺ちゃんもその意見に賛同した。まるで追い打ちをかけるかのように。

 

「お前の努力の才能は誰にも否定できん。それは本物の才能じゃ。故にここまでの強さを身に着ける事が出来た。それは認めよう。じゃが、その強さはあくまで努力によるもので武の才能によるものは少ない。そして、そこからさらに伸びるには、お前の才能では厳しすぎる」

 

 それは武道の総本山とまで謳われる川神院の頂点に立つ人物としての宣告。その宣告が持つ意味はあまりにも重い。その重すぎる言葉が、先程の武神の言葉と共にワン子へと深く突き刺さる。今のワン子の心境は察する事は出来ても、その想像を遥かに超えた威力を持ってワン子を苛んでいるに違いない。

 

「…………」

「今ならまだ他の道も選ぶことができる。これはお前の事を思っての事なんだ。わかってくれるな?」

 

 姉貴と爺ちゃんの言葉を聞いて俯いてしまったワン子に対して、姉貴は優しく言い聞かせるように問い掛けた。

 

「――……わけ……じゃない……」

「……ワン子?」

 

 

 

 

 

 

 

「――そんなのわかるわけないじゃない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ワン子の心からの叫びであった。

 

 

「今までずっと夢見てきて! 目指して来て! 厳しい修行にも耐えてきて! それで才能がないから目指すのをやめろなんて……そんな事納得できるわけないじゃない!!」

 

 今まで師範代になるという夢のために生活のほとんどを鍛錬に注ぎ込んできていた。文字通り血反吐を吐きながらも厳しい川神院の修行に耐え、それ以上の自己鍛錬を己に課し、それを実行してきた。その努力を愛する姉貴自身に否定されたのだ。

 

 そんなものワン子の立場からすれば納得できるわけがない。

 

「だが、お前じゃ……」

「百代、一子の気持ちも汲んであげよウ。悔いを残していたら、他の道も模索できなイ」

「ルー師範代……」

「ワタシは、まだまだ努力によって一子は伸びる気がすル。けど、師範代を目指してそれが叶わずに絶望してしまった人をワタシは何人も見てきタ。だから百代の心配する気持ちもわかル」

「アタシはそうなったとしても後悔なんてしません! だって、それはアタシが選んだ道だから!」

「一子自身がここまで言っているんダ。もう一度機会を上げてもいいんじゃないカ?」

「……いいでしょう。他の道を模索するためには、納得も必要でしょう」

 

 ルー師範代の言葉とワン子の覚悟に、姉貴は目を瞑りながらも承諾した。

 

「ワン子、お前に武の才があるかどうか、改めて試験する」

 

 そして出された試練は、8月末に毎年行われている『川神武闘会』で優勝し、優勝者に与えられる姉貴とのエキシビションマッチで、姉貴に対して一撃当てる事。

 

 一月ほどしかないこの期間でワン子が姉貴に一撃を当てるのは正直に言えば途轍もなく厳しい条件だ。

 

 しかし、それでもワン子はその条件に乗った。さらに言えば、川神院への甘えと消すために川神武闘会までの間は川神院を離れると決意した。

 

 それだけ、師範代になりたいという思いが強いのだ。

 

 決して越える事が出来ないと宣告されても、その壁を乗り越えようと足掻き続ける。

 

 

 それを口だけではなく実際にできるワン子を見て俺は、その姿が眩しく感じた。

 

 

 

 




<今回での十夜の戦果>
・【川神一子】に【試験】が行われる事を知った  ▽


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  + 風間ファミリー(9人+1体)


い、今起こった事をありのままに話すぜ?
『今回の十夜の戦績を書こうと思ったら、書くことがなかった。』
な、何を言ってるのかわからねーかもしれ(ry

……うん、マジなんです。戦績を書こうと思ったら書くことがなくてビックリしてしまいました……
書く事ないなら番外話として扱おうかとも思ったのですが、話の流れ的にネタとも番外とも言えないお話でしたので断念しました
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