「あはははっ」
少年は笑う。目の前に転がる少女を指さして。
「おまえ、マジかよっマジかよ」
目尻に皺ができるほど、嗤う。少女のやろうとしていたことを。
「おまえ、マジで死のうとしていたのか!?」
少女の傍には大量の薬の入った瓶。一部は蓋が外され、中身が散乱していた。
「どんだけ生真面目なんだよ」
少年はひとしきり笑ったのち、少女の傍を見渡す。
そこには表面が黒く滲んだ紙切れが落ちていた。
「なになに?」
少年はそれをひょいと拾い上げ、触れる。
紙の裏面は濡れ、表の文字が滲んでいた。
最初にペンを置いた箇所が、点のようになっていた。
「……これは
表面へひっくり返し、少年の視界に映ったものは”夜は怖い”という一文だった。それ以外にも本人の苦しみ、悲しみ、他者への期待を打ち砕く言葉、本人/他人への罵詈雑言など、心の内が記されている。
しかし紙きれの一端に他の文とは異なる内容がひとつだけ、赤い文字で書かれていた。
「”夜になるとあの人が訪れる”」
少年は声に出して、赤い文字を指でなぞる。すると、なぞった指先がチクリと痛んだ。ガラスの破片に触れてしまったときのような、あの痛み。
「な、なんだ……これ」
少年の指先から血が一滴、紙の文字に垂れた。その瞬間、赤い文字が光を放つ。
紙切れから赤い文字だけが剥がれ落ち、宙へ舞い上がった。
「う、うう」
少年の少し後ろに転がる少女が微かな声を発する。死んでいなかった、と安堵の息を漏らしたのも束の間。不思議な現象は収まる気配がない。
紙きれの同然の物が自体が怪しい光を放つ。それに呼応するかのように、部屋の隅々に散らばっていた紙片がそれに向かって舞う。
少年が少女の元へ少しずつ後退したその間に、紙切れは二枚の紙に仕上がっていた。
「うう、ん……あれ、私は? どうして、まだ現世にいるの?」
少女の声のする方を向く。不安と焦燥が入り混じった表情で周囲を見まわしたのちに、怖気づく少年と目が合う。
「おまえ、いき」
少女が声を発する前に、言葉を被せようとするが、
「■■■くん? どうして生きているの?」
少女の言葉の前に、うまくはいかなかった。
「なんでって、そりゃあ――」
少年は少女の肩に手を伸ばすが、すり抜ける。少年は声を虚を突かれたような顔をして固まる。その反面、少女は眉ひとつ変えず真剣な眼差しで口にする。
「ねえ、どうしてシ■■くんが生きているの?」
少年の存在を否定するような言い方。だが、少年は何も言い返さない。
「黙ってても分からな――っつう!」
少女が少年の肩を掴み、揺さぶる。互いに触れた瞬間、少女は右手で頭を抑えた。眉間に皺を寄せ、しばらく動きを止めていた。
「おまっおまえ、大丈夫かよ」
少年は少女の心配をするが、当の本人は少しずつ身体を後ろへ後ろへずらす。
「うるっさい。少し、黙ってて」
傍で騒ぐ少年を前に少女はきつく言い聞かせる。
その様相に少年は静かに頷いた。