短編小説群   作:ふじこれ

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最近の悪夢ver1.1


無題 1

「あはははっ」

 

 少年は笑う。目の前に転がる少女を指さして。

 

「おまえ、マジかよっマジかよ」

 

 目尻に皺ができるほど、嗤う。少女のやろうとしていたことを。

 

「おまえ、マジで死のうとしていたのか!?」

 

 少女の傍には大量の薬の入った瓶。一部は蓋が外され、中身が散乱していた。

 

「どんだけ生真面目なんだよ」

 

 少年はひとしきり笑ったのち、少女の傍を見渡す。

 そこには表面が黒く滲んだ紙切れが落ちていた。

 

「なになに?」

 

 少年はそれをひょいと拾い上げ、触れる。

 

 紙の裏面は濡れ、表の文字が滲んでいた。

 最初にペンを置いた箇所が、点のようになっていた。

 

「……これは酷(むご)いな」

 

 表面へひっくり返し、少年の視界に映ったものは”夜は怖い”という一文だった。それ以外にも本人の苦しみ、悲しみ、他者への期待を打ち砕く言葉、本人/他人への罵詈雑言など、心の内が記されている。

 

 しかし紙きれの一端に他の文とは異なる内容がひとつだけ、赤い文字で書かれていた。

 

「”夜になるとあの人が訪れる”」

 

 少年は声に出して、赤い文字を指でなぞる。すると、なぞった指先がチクリと痛んだ。ガラスの破片に触れてしまったときのような、あの痛み。

 

「な、なんだ……これ」

 

 少年の指先から血が一滴、紙の文字に垂れた。その瞬間、赤い文字が光を放つ。

 紙切れから赤い文字だけが剥がれ落ち、宙へ舞い上がった。

 

「う、うう」

 

 少年の少し後ろに転がる少女が微かな声を発する。死んでいなかった、と安堵の息を漏らしたのも束の間。不思議な現象は収まる気配がない。

 

 紙きれの同然の物が自体が怪しい光を放つ。それに呼応するかのように、部屋の隅々に散らばっていた紙片がそれに向かって舞う。

 

 少年が少女の元へ少しずつ後退したその間に、紙切れは二枚の紙に仕上がっていた。

 

「うう、ん……あれ、私は? どうして、まだ現世にいるの?」

 

 少女の声のする方を向く。不安と焦燥が入り混じった表情で周囲を見まわしたのちに、怖気づく少年と目が合う。

 

「おまえ、いき」

 

 少女が声を発する前に、言葉を被せようとするが、

 

「■■■くん? どうして生きているの?」

 

 少女の言葉の前に、うまくはいかなかった。

 

「なんでって、そりゃあ――」

 

 少年は少女の肩に手を伸ばすが、すり抜ける。少年は声を虚を突かれたような顔をして固まる。その反面、少女は眉ひとつ変えず真剣な眼差しで口にする。

 

「ねえ、どうしてシ■■くんが生きているの?」

 

 少年の存在を否定するような言い方。だが、少年は何も言い返さない。

 

「黙ってても分からな――っつう!」

 

 少女が少年の肩を掴み、揺さぶる。互いに触れた瞬間、少女は右手で頭を抑えた。眉間に皺を寄せ、しばらく動きを止めていた。

 

「おまっおまえ、大丈夫かよ」

 

 少年は少女の心配をするが、当の本人は少しずつ身体を後ろへ後ろへずらす。

 

「うるっさい。少し、黙ってて」

 

 傍で騒ぐ少年を前に少女はきつく言い聞かせる。

 その様相に少年は静かに頷いた。

 

 

 

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