サイト消滅後、提唱者のジャージレッド氏と連絡を取りましたところ「シェアワールドの設定は有効であり、それを踏まえてもらえば他サイトへの投稿は構わない」との返事を頂きました。
シェアワールドの設定アーカイブ
https://web.archive.org/web/20070127115940/http://www.keddy.ne.jp/~jersey-r/toukoukitei_tebiki.htm
当時数多くの投稿があった「妖精さんの本だな」の中でも、かなり異色な作品となっていた拙作ですが、楽しんでいただければと思う次第です。
以下、シェアワールドのアウトラインとなる設定文です。
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200X年、突如として人間が妖精と呼ばれる羽を持った小人に変化してしまうという事件が発生する。
その事件は一件では済まず世界各地で観測され、日本でも世界で4例目となる妖精化事件が発生し、その後も続々と被害者が出たことにより社会問題化することになった。そして被害者達からの聞き取りによって、被害者の肉体が異世界にいる妖精と魔法によって交換されている事が判明する。(相互換身用召喚魔法というらしい)
その目的が妖精達を侵略するナニカと戦える存在を呼び出すことで、人間以外ではナニカと戦えなかったこと。わざわざ肉体交換という方法をとっている理由が人間を魂ごと呼び出すことが出来なかったので、魂の器として召喚する妖精自身の体を送り出す必要があったこと。そして鍵となるのが夢の中で会った妖精に自分の名前を教えることで肉体交換に同意した事になってしまうことが判明する。
これらが分かってからは、あらゆるメディアや教育現場にて妖精と夢の中で出会っても名前を教えないよう宣伝が組まれ、世界的には被害者が減ることに。
しかし訪問販売や電話勧誘であってもついつい話を長々聞いてしまう事が多いNOと言えない日本人。
妖精側も巧妙に好奇心や同情を誘う話術を年々身につけた事から、ついついポロッと会話の中で自分の名前を教えてしまう被害者が続出。そんなわけで日本は事件発生から数年後には妖精人口が最も多い国になってしまう。
これは、そんな日本にて妖精の召喚を受けちゃった、とある人物の物語である。
「相変わらずファンレターをきちんと読むんですねえ」
「せっかく書いてくれたのに読まないなんて、やっぱり悪いじゃないですか」
私は届いたファンレターを読みながらそう応えます。
例の告白騒動でしばらく多かったラブレターも、記者会見で「今は誰とも付き合う気がない」と宣言したら収まってきました。
まあ、まったく無いわけじゃないんですけどね。
真面目なファンレターは私にとってやる気の源ですから、出来る限り読まないと。
自分でお返事するのは滅多に出来ませんけどね。
「これはよしと。次の手紙をお願いします」
前の手紙を定型のお返事の方に入れると、次の手紙を開けて貰います。
『拝啓、秋葉皐月様。
私はあなたのレースを見るまで妖精になった人に偏見を持っていました。
妖精の誘惑を振り切れなかった心弱い人だと。
ですが、あなたの事をネットで見ました。
そして妖精になって、どんな苦労を乗り越えて騎手を続けてきたのかを知りました。
あなたの出た数々のレース、どれもとても不思議な感動を見せてくれます。
そんなあなたにお願いがあります。
ぜひ、世界最高のレースである凱旋門賞に出てもらえませんか?
あなたとコスモスウィンドなら、きっと外国馬に負けないレースを見せてくれると思うのです。
世界の場で私たちに感動を見せてください!』
うわああああ、ネットで私のことを扱ってるページがあるなんて思っても見ませんでした。
こうやって応援してくれる人たち同士が繋がっているってのは嬉しいです。
でも、凱旋門賞かあ・・・
妖精の私じゃいろいろ問題がありすぎて残念ながら無理ですね。
「小谷さん、お返事書きたいので便箋用意して貰って良いですか?」
「はい、用意してありますよ」
さすが小谷さん、用意が良いです。
『私のレースをネットで知ったとのこと、とても嬉しく思います。
できることなら私も海外遠征してみたいのですが、妖精の私は海外へ行くことがかないません。あなたの願いに応えてあげる事が出来なくてごめんなさい。
でも私は私ができる精一杯のレースを日本で続けていこうと思います。
日本でも国際レースのジャパンカップがあります。
そこで私は外国からの馬達を全力で迎え撃ちたいと思っています。
秋葉皐月』
「これでよし。小谷さん、封をお願いします」
「ええ、わかりました。さあ、明日から札幌へ移動です。もう休みましょうか」
「はい!」
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「北海道ってやっぱり広いですね。」
「そうですね。」
私と小谷さんは特急の窓の外を流れていく景色を長めながらつぶやきました。
函館開催を終えた私達は、次の開催地札幌に向かっています。
函館から札幌までは特急で3時間強。
移動距離にして300キロあまりです。
札幌では去年に引き続きコスモスウィンドの札幌記念出走があるし、今年デビューする新馬を何頭か任せて貰えるので楽しみ。
早く着かないかなあ。
「待ち遠しそうですね」
「ええ、だってホホエミミセテ達と出会ったところですから」
ホホエミミセテ、イシノシズク、ブラディーメアリー
この三頭と出会えたことで、私は自分の力を信じる事が出来ました。
今年もきっと良い事があると信じます。
やがて特急は札幌駅に到着。
私たちはホームに降り立ちました。
さて、お迎えが来ているはずですが・・・
「お~い、こっちこっち!」
あ、柳谷さんだ。
「お待たせしました。」
「いや、たいして待ってないけどな。それより体調は?」
「今すぐレースでも私は平気です!」
「お、言ったな。それじゃ自分もコスモスウィンド達を完璧に仕上げないとな!」
「ええ、よろしくお願いします」
さあ、札幌開催の開幕です。
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「久しぶりだね、ミストウィンド♪札幌ではよろしくね」
厩舎についた私は週末の新馬戦に出るミストウィンドに声をかけました。
ミストウィンドはコスモスウィンドとシャロンウィンドの半弟になります。
コスモスウィンドに似た芦毛の馬体。
厩舎に入ってきてから何度か調教はつけていたけれど、春の乗りこみはシャロンウィンドのこともあって充分とはいえません。
けれどコスモスウィンドとシャロンウィンドの弟として、無様なレースをさせるわけにはいきません。
「こいつの調子なら新馬戦は良い結果になる。秋葉の新しい翼になってくれるといいな」
「そうですね」
ブラッディメアリー以来、新しい翼とは出会えてませんし。
「さ、頼むぞ!」
「はい!」
ミストウィンドの背に乗った私は軽くだく足を踏ませながらウッドチップコースに入ります。
軽く走らせて足の状態をチェックしたらいよいよ本格的に走り込みを開始します。
芦毛の馬体はコスモスウィンドに似ているけど、脚の感じはシャロンウィンドの追い脚によく似ています。
追い込みの方が良いかもしれないですね。
「決めた!君は追い込みで行くよ!」
戦法が決まれば後は走り込むのみです。
私はレースを意識してミストウィンドを合わせ馬の後から追わせ、直線で前に出していきます。
気性的にもあっているのでしょうか。ミストウィンドも一気に脚を伸ばすのを好みます。
追い込みでもいいけど差しでも充分いけるかも。
どっちにしてもレース展開に合わせていけそうな馬ですね。
調教を終えてクールダウンさせたミストウィンを、私は厩舎まで連れ帰ります。
「どうだ?」
「すごく良いです!この子の脚ならシャロンウィンドと同じように追い込みのレースが向いてるでしょうね」
「タイム的にも安定してるし、秋葉の判断に任せるよ」
「はい!」
次は札幌記念を控えたコスモスウィンドです。
「お待たせ、コスモスウィンド」
(久しぶりだな)
「宝塚記念の後、充分に休んだ?」
(ああ、ばっちりだ。故郷に戻って2週間ほど休ませて貰ったからな)
「それじゃ、秋に向けてまた頑張ろうか!」
コスモスウィンドに多くの調教は必要ありません。
お互い元々持っている力を知り尽くしているので、焦らずに合わせ馬とペースを合わせて追い切りを済ませます。
やっぱりコスモスウィンドは良い馬です。
こうして背に乗って揺られていると先日の手紙の事を思い出しました。
海外遠征、できることならコスモスウィンドだけにでもさせて上げられないかなあ・・・
柘植さんにでも騎乗を頼めれば無理ではないんだけど、コスモスウィンドが納得してくれないかな?
(皐月、なにをボーッとしている?)
「あ、ごめん。ちょっと考え事をしていてね」
(なにをだい?)
「うん、昨日ファンの人から手紙が来てね、海外遠征しないのかって。
でも私が乗っているんじゃ、外国に行くのが無理だからね。
それでコスモスウィンドさえよければ、海外遠征してみる気はないのかなって思って」
(僕は普段はともかく、レースでは君以外に背中を許す気はない。それがあのロードグリーンに乗る柘植であってもだ)
「そっか・・・」
(それに妹との約束もある。皐月の翼として尽くすことをな。だからすぐ駆けつけられないようなところに離れる気はない)
「・・・ありがと、コスモスウィンド」
(さあ、放牧でなまった体もほぐれてきたし、少しとばすぞ!)
「わ!待って~!」
油断してた私はちょっとのけぞってしまいます。
感傷に浸ってるような暇はなさそうです。
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あっという間の1週間。いよいよ札幌での私のレースが始まります。
『とま~れ~』
よし!出番です!
柳谷さんにミストウィンドに乗せてもらった私は、左手で手綱を持って背中に右手を置いて様子を見ます。
うん、ドキドキした感じもないし、かなり落ち着いていますね。
良いレースが出来そうです。
馬場入場をして軽く返し馬をしながらスタンドの方に目を向けると、満員のお客さん達から声援がよく聞こえます。
期待に応えられると良いなと思いながら待機場に向かわせると松川さんが話しかけてきました。
「相変わらず人気だな」
「そうですね。でも、これも真剣に相手にしてくれるみんながいてこそです」
「ま、秋葉と走っていると楽しいからな」
「楽しい、ですか?」
「ああ、秋葉の乗る馬はどれも気持ちよさそうに走る。それを見てると俺も勝負だけじゃなく、馬を思いっきり走らせてやりたくなるんだ。
その結果が勝っても負けても納得出来る。だから秋葉が出てくるのは俺も楽しみなんだよ」
「なるほど」
自分たちの走りが他の騎手にも影響を与えているとは思いませんでした。
でも、それが良いレースに繋がるなら自分は思いっきり馬達を走らせてあげるだけです!
やがてゲートインが始まりいよいよレース開始です。
【バシャーン!!!】
一斉に馬が飛び出す中、流れに合わせてミストウィンドは出て行きます。
新馬戦は1200mなので先行馬もかなり脚を残すでしょうからダッシュするタイミングを逃さないのが大事です。
コーナーにさしかかって前の馬たちがばらけて来るのに合わせミストウィンドを隙間に入れていきます。
そしてコーナー出口で前が大きく開きます。
「いくよ!」
矢のようにダッシュするミストウィンド。
前を行く馬達を次々に捉えていきます。
ですが一頭だけ、近づく速度がスローモーションのように見える馬がいます。
松川さんの乗るアケミカヅチ号です。
先行馬特有の粘り脚をうまく活かしてるなあ。
でも、ここで諦めるほど物わかりはよくないですよ。
「諦めるのはまだだよ、あなたの本当の力はこんなもんじゃない!」
手綱を振るうとさらに加速していくミストウィンド。
近づくアケミカヅチ。
でも、僅かに届かないままゴールラインがやってきます。
「う~・・・届かなかったかあ・・・」
私はミストウィンドの背を撫でて労いながらアケミカヅチの方に近づかせます。
「おめでとうです」
「ああ、ありがとう」
私は計量所にミストウィンドを向かわせながら、今のレースを振り返っていました。
ちょっとミストウィンドには1200mじゃ短かったかなあ?
もう少し早めに前に出してあげればよかったかも。
「ごめんね。初勝利は次の機会にお預けになっちゃった」
(でも楽しかったよ)
「え?」
(レースって、こんなにワクワク出来るものなんだね。これからもこんな楽しさを味わいたいよ。よろしくね)
バサッ!
私たちの背に生えた翼。
雨上がりに吹くような涼やかな風を感じます。
ああ、久しぶりに感じる初めて心が繋がった感覚。
私の新しい翼・・・
「ありがとう、ミストウィンド。次はもっと良いレースにするから、またよろしくね」
(こちらこそ)
計量所ではビックリされましたが、私の新しい翼をみんなが祝福してくれます。
レースに勝てなかったのは悔しいけれど、きっと次は勝って見せます!
コスモスウィンドの札幌記念。
去年妖精になって初めて取れた重賞レースということもあって感慨深いです。
パドックの回りの人混みを見回すと去年よりも人が多くてすごいことになっています。
やがて始まる馬場入場。
スタンド側もすごいですね。
少しだけ羽を大きくしてスタンドに向かって手と羽を振ります。
歓声を受けながら返し馬をして待機場に向かいます。
「馬場はどう?」
(特に荒れてもいないし走りやすい)
「それじゃ積極的に行こうか」
(ああ。そうしてみよう)
このレースで一番注意しないといけないのは上り調子の3歳馬。
去年のコスモスウィンドもそうでしたけど、秋へのステップレースとしては良い位置にあるから選んでくる馬も多いんですよね。
今年のダービーで2着と良いレースを見せたスティールハートがいますし油断出来ません。
古馬勢も強敵揃いですしね。
やがてゲートインが始まり、コスモスウィンドも4枠7番に入ります。
【バシャーン!!!】
一斉に飛び出す馬達。
コスモスウィンドも出遅れずに飛び出します。
今回は逃げ馬のメイルシュトロームがいますので先頭はとりあえず譲っておきます。
ただし自分たちのペースを保つために、楽には逃げさせません。
逃げるメイルシュトロームにプレッシャーをかけるように少しずつ差を詰めていきます。
それに馬体を合わせるようにスティールハートがを横並びで追走してきます。
チラッと後ろを確認するとあまり後ろの集団も離れていません。
少しスローペース気味みたい。
そろそろ行きますか。
1000mを過ぎた付近でペースを上げてメイルシュトロームを捉え、そのまま先頭に立ってレースペースを引っ張っていきます。
そのまま3コーナーから最終コーナーに飛び込んでいきますが、後ろに付けたスティールハートは遅れる様子を見せません。
これは最後の直線での地力勝負になるな。
「いくよ!」
(ああ!)
私が手綱を振るった途端に一気に加速していくコスモスウィンド。
合わせるようにスティールハートがやってきます。
グイグイと脚を伸ばしていくコスモスウィンド。
せり上がってくるスティールハート。
後方から差し馬たちも一気に差を詰めてきます。
でもコスモスウィンドは持ち前の粘り脚を活かしてゴールまで差を詰める事を許しません。
せり上がってくるスティールハートを首差で抑えてゴールに駆け込みます。
『勝ったのはコスモスウィンド!余裕さえ見せつけるような見事な勝利でした!』
「よくやったね、コスモスウィンド。秋に向けて良いスタートが切れたよ!」
(ああ、こんなところでは負けてられないからな)
短期放牧後の初戦でこの調子なら秋も活躍が期待出来ます。
私は観客席に向かって手を振りながら計量所へとコスモスウィンドを向かわせました。
ミストウィンドという新たな翼を得てコスモスウィンドと札幌記念を快勝した私は美浦に戻ります。
9月中にはいろいろ出走予定が詰まっています。
短距離戦線に向けたイシノシズクの京成杯オータムハンデ。
エリザベス女王杯に向けたブラディーメアリーの産経賞オールカマー。
新馬戦に勝てなかったミストウィンドの未勝利戦。
他にも騎乗依頼がありますし、ゆっくりはしていられないです。
「ふわ~あ・・・」
朝起きるといつものように厩舎の馬達の様子を見に行きます。
「おはよ~」
(((おはよう)))
コスモスウィンド、ミストウィンド、ホホエミミセテから挨拶が返ってきます。
他の馬達も様子を見て回りますが問題なさそうですね。
来月になれば妖精狂いの季節が始まるから、しばらくみんなの顔を見れなくなります。そう考えると、やっぱり嫌だなあ・・・
(憂鬱そうだな?)
「ちょっとね。三度目とはいえ、またしばらくみんなの顔を見れないと思うと嫌だなって」
(まあ、仕方がないだろう。それに僕は君とこうして直接しゃべれるようになったことの方が嬉しい)
「そういえばそうだね。人間だった頃にはコスモスウィンド達とこうして会話出来るとは思っていなかったし」
(なにかを得て、なにかを失うこともあるってことさ)
「そのとおりだね。ありがとう、愚痴聞いてもらって」
(たまにはいいさ)
「じゃあ、トレーニングに行くからまた後でね」
コスモスウィンド達と別れた私はいつものように自主トレです。
以前よりさらに筋肉がついてきたのか、ようやく500mlのペットボトルが持ち上がるようになりました。
最近じゃ軽めのブラシで毛梳きも手伝っているんですよ。
・・・まあ、たてがみぐらいで力尽きるわけですが。
その後、朝食を食べて私は調教に向かいます。
「おはよう。イシノシズク!」
(おはよう、皐月!)
「さあ、今日から本格的にマイル戦に向けて調教していくよ」
(うん、頑張るよ)
「とりあえず前走の疲れは残していないね?」
(無いと思う)
「おっけ~、それじゃ軽くダートを流してみましょうか」
私はイシノシズクを軽く走らせます。
足取りも軽くスルスルとスピードを上げていくイシノシズク。
まったく前走の疲れは残っていなさそうです。
いったんもどって小野寺先生に脚を見てもらって、今度は芝を合わせ馬をしながら走らせます。
イシノシズクはスウッと伸びる差し足で合わせ馬を追い込んでいきます。
いまは無理させないようにしていますが良い感じですね。
問題は本番に向けてこの調子を維持していくことで、京成杯オータムハンデでいかに無理なく走らせるかというのが重要です。
場合によってはマイルチャンピオンシップに向けて勝たずにおくことも選択しないと。
「よし、今日はこれぐらいで上がろう。クールダウンしながら戻るよ」
(うん)
秋のマイルチャンピオンシップに向けて、良い感じでいけそうです。
なんだかんだ言って、私が乗ってGⅠを制覇しているのはコスモスウィンドだけ。
秋は他の馬でもGⅠに勝ちたいですね。
『皐月と』『成子の』『『今週末の競馬情報のコ~ナ~で~す♪』』
成子ちゃんと週一回やっている競馬情報コーナー。
私の都合で何度か中断も挟んでいますが、相変わらず人気で続いています。
『さて、今週は秋のに向けた注目馬の情報を流していきましょうか』
『そうですね。いろいろありますが、まずはなんと言ってもあの馬の話題からでしょう』
『ということは、あの無敗の3歳馬、アポカリプスの事でしょうか?』
『そうです。皐月賞・ダービーと制覇して、秋には三冠を目指すと思われていたアポカリプス号ですが・・・なんと凱旋門賞への挑戦を表明して、8月から現地入りして調整を続けています』
『来年でも挑戦は遅くないのにっていう感じもありますね』
『アポカリプスの池沢オーナーによると、「一番脂の乗った状態で挑戦したと言える馬は今まで一頭もいなかった。だから一番脂の乗った状態で挑戦させる」そういうことらしいです』
『たしかに、一番良い時期に行ったと言える馬はいないかもしれませんね』
『ええ、だからアポカリプスには頑張って欲しいですね』
もっともこのおかげで、すっかり競馬界の話題はさらわれたまま。
ちょっと寂しい気がします。
『海外挑戦といえば、皐月さんとコスモスウィンドはそういう計画はないんですか?』
むう、答えにくい話を振るなあ・・・・
『知っての通り、妖精である私が海外に挑戦するのはいろいろあって難しいですからね。コスモスウィンドだけでもとか考えたこともありますけど、私以外の騎手乗せるのは嫌だってごねられちゃって』
『そうですか~』
『でも、まったく挑戦する機会がないわけじゃないですよ』
『それは?』
『日本にも国際レースがありますから。特にジャパンカップには世界から一流馬達が集まってきます。そこで迎え撃ちたいと思います』
『なるほど、期待しています』
『さて、ちょっと話がずれましたので元に戻しまして、注目馬の情報の続きに行きましょう。まずは天皇賞春・秋制覇が懸かる、ロードグリーンから』
こんな感じで、いつものように繰り返される私の日常。
いつものように調教をして
JRAのCM撮りやイベントに出て
週末には精一杯馬達を走らせて
イシノシズクの京成杯オータムハンデ4着
ブラディーメアリーのオールカマー2着
ミストウィンドの初勝利
他にも頼まれた馬の騎乗をこなして、そのいくつかは勝利を拾って
休養日にはショッピングに出かけ
やがて自身三度目の妖精狂いの季節がやってきます。
競馬界はもうじきやってくる凱旋門賞の話題で盛り上がっています。
私も凱旋門賞のことは気になるんですけど・・・
「皐月さ~ん♪」
わ、ちょっと待って~!!!
やっぱり落ち着いて考える時間も無い、この季節なんて大嫌いだ~!!!
・
・
・
「皐月さん、おはようございます。」
10月も後半に入ったある日のこと。
私は成子ちゃんの声で、すっきりとした目覚めを迎えます。
あ、この感覚・・・どうやら私にとって3度目の妖精狂いの季節も終わりを迎えたみたいですね。
「ふう、毎度とはいえ、この季節は嫌だなあ」
「前回は私の方が大変でしたけどね」
「それは言わないで・・・」
さて、ずっと読む暇がなかった新聞の切り抜きでも読んでみましょうか。
・
・
・
「凱旋門賞は・・・エムロードが優勝?アポカリプス、負けちゃったのかあ・・・」
「フランス最強馬と下馬評の高かった馬ですねえ」
続きを読んでいきます。
「アポカリプスを3馬身離して勝ったぁ?!」
嘘でしょう???
詳しく読んでいくと、最後の直線で抜け出して他馬を押さえたままゴールしたとのこと。
アポカリプスも得意の差し足で直線を一気に駆け抜けたけど、それ以上の脚でぐんぐん引き離して行ったようです。
すごいな~
「朝食ですよ~あら?お二人とも妖精狂いの季節は終わったんですか?」
「あ、おはようございます、小谷さん。おかげさまで無事終わったみたいです」
私は久しぶりのゆっくりとした食事を食べながら小谷さんに質問します。
「小谷さん、凱旋門賞のビデオってありませんか?どんなレースだったのか見てみたいんですけど」
「ありますよ。そう言うだろうと思って撮ってあります」
「やった!見せてください!」
「はいはい、ちょっと待ってくださいね」
小谷さんがビデオの用意をしてくれている間に、食事を済ませてしまいます。
「成子ちゃんも一緒に見ていく?」
「ええ、ご迷惑でなければ」
「迷惑だなんてことない!一緒に見よう!」
「じゃ、遠慮無く」
そして3人で凱旋門賞のビデオ鑑賞が始まります。
テレビの中で見たエムロードはアポカリプスよりも一回りほど小さな馬です。
馬体的にはコスモスウィンドなみ?
スタートから積極的に前でレースをしていくタイプなのか、3番手ぐらいからだんだん前に出て行っています。
やがて最後のコーナーで先頭に立つと、後ろから一気に抜け出してきたアポカリプスが迫ります。
しかしアポカリプスが迫るのに合わせて加速していくエムロード。
まるでなにかアポカリプスがスローモーションで走っているのではないか?
そんな錯覚を感じるほどのすさまじい強さを見せつけてゴールします。
「すごい・・・なんて馬・・・」
「まるでコスモスウィンドみたいな走り方ですね」
「コスモスウィンドに似てるの?」
「コスモスウィンドも、調子が良いとこんな走り方してますよ」
「そっくりなタイプって事か~」
感想を言っている間に勝利者インタビューの場面に移り変わります。
日本語訳を聞いていますが、非常に淡々としていますね。
まるで勝って当然みたいな感じで、アポカリプスを応援していた私としては面白くないです。
「ジャパンカップに来ないかなあ~」
「来たら面白そうですね」
「それより皐月さん、今日はどうします?今日から出るなら先生に伝えておきますけど」
「そうですね、今日からまた出させてもらいます」
「そう言うと思っていましたよ。
騎乗服はいつもの場所に用意してありますので着替えてきてください。
私は先生に伝えてきますので」
「はい!」
「それじゃ皐月さん、頑張てください!」
「うん、成子ちゃんもありがとうね」
妖精狂いの季節が終わった私は、秋のG1天皇賞に向けたコスモスウィンドの調教を始めます。
期間は10日しかありません。
秋の天皇賞は2000mです。
コスモスウィンドが初めて勝ったGⅠ皐月賞と同じ距離。
春の天皇賞に出られなかったし、ここは負けられません。
「お待たせコスモスウィンド♪」
(待ってたぞ、皐月)
私はコスモスウィンドを走らせながら天皇賞に出てくる馬達のことを考えます。
一番のライバルは当然ながらロードグリーンです。
古馬の中でもコスモスウィンドにもっとも近い力を持った馬でしょう。
グラスシャープも調子を上げてますし、古馬になってから調子を上げている晩成型の馬には気をつけなきゃ。
それに長距離の菊花賞を諦め短・中距離路線に来た3歳馬にも注意です。
(皐月?)
「あ、ごめんね。天皇賞の相手のことを考えていて」
(僕はどんな相手だって、君が乗ってくれれば全力が出せる。だけど君が集中してくれなければ負けるよ)
「うん、そうだね」
コスモスウィンドの力を引き出すのは私の仕事。
よけいなことなんか考えてられないです。
合わせ馬と軽めの調教をしながらレースをシミュレート。
天皇賞は宝塚記念と同じようにスピードで押しきるのが一番かな?
「決めた。天皇賞もスピードで押しきるよ!」
(ああ、目もくらむようなスピードで駆け抜けてやるさ)
方針が決まった以上、あとはやるのみです!
・
・
・
あっという間の10日間が過ぎて天皇賞がやってきます。
前日から調整ルームに入っていた私は、なんとなく競馬場全体に雰囲気がいつもと違う気がしました。
なんでしょうか?妙にピリピリした感じがありますね?
「おう、秋葉。どうした、妙な顔して?」
「おはようございます柘植さん。なにかこう、競馬場の中の空気がいつもと違うような?」
「秋葉は天皇賞秋は初めてやろ?」
「はい」
「府中の2000には魔物が棲むっていうやろ?皆その魔物にのまれたくないんや。秋葉も気をつけることやね」
「私ものまれる気はないですよ」
「そのいきや!レースを楽しみにしてるで」
府中の2000には魔物が棲む、か。
たしかに数々の名馬がこのレースで惨敗したり故障したりしています。
気を引き締めて行かなくっちゃ。
天皇賞までの間にも何レースか騎乗しつつ馬場を確認します。
天気は快晴、馬場も良し、良いレースが出来そうです。
やがてパドックでは天皇賞の出走馬が回り出します。
自分も騎乗準備をして待ち構えます。
『とま~れ~』
いよいよ出番ですね。
「お待たせ、コスモスウィンド」
コスモスウィンドに声をかけ、背中に乗せてもらいます。
座り具合を確かめ、重しがきちんと載せられたのを確認すると、回りの馬をおどろかせないように小さく羽根を出します。
うん、問題ないようですね。
パドックを回りながら回りの馬の様子もチェックします。
う~ん、やっぱりここに出てくるだけあって、すごく調子が良さそうです。
その中でも目に付くのはロードグリーンとグラスシャープ。
この2頭は別格の存在感がありますね。
そしてケイセイミキサーにサプライズハントにも注意です。
やがて始まる馬場入場、軽く返し馬をしながら待機場に向かいます。
待機場にはいると、グラスシャープの鞍上から安永さんが話しかけてきます。
「今日の調子は?」
「いいですよ。馬場状態も良いし思い切って行かせてもらいます」
「お手柔らかに頼むよ。なにせコスモスウィンドには一度も勝ててないんだから」
苦笑しながら安永さんが離れていきます。
コスモスウィンドが今まで勝っているとはいえ、グラスシャープは侮れない力を持った馬ですから油断は出来ません。
やがてゲートインが始まりスタートを迎えます。
【バシャーン!!!】
真っ先に飛び出していくのはグラスシャープ。
コスモスウィンドは12番ゲートスタートなので無理せず前に出しながら付いていきます。
先頭集団はグラスシャープ、ケイセイミキサー、コスモスウィンドの順で、後続はダンゴ状態です。
今日のメンバーだと前に飛び出すのは中川さんのトキエイサクだと思ったんだけど・・・出遅れたみたいです。
これは流れが変わってくるなあ。
「どうしよう、ペースが取りにくいね。思い切って先頭に出て押しきる?」
(前にグラスシャープが出ているんだ、付いていって良いんじゃないか?)
ふむ、それもそうですね。
とりあえずペースを計りながらグラスシャープを追っていきます。
1、2、3、4、5、6・・・
これは・・・ちょっとスローペース気味?このままだと後半4ハロンの勝負になるなあ。
「コスモスウィンド、後半4ハロンで追い込みから逃げる勝負になると思う。そこまでは脚を貯めるよ」
(わかった)
後半のダッシュに備えて前との差が多少付いても焦らないで走らせていきます。
そしてやってくる3コーナー。
コーナー途中で残り4ハロンになりますので、4コーナーは加速しながらいかなければなりません。
私はコスモスウィンドのスピードを僅かに上げていきます。
ケイセイミキサーも馬体を合わせてグラスシャープとの差を詰めていきます。
コスモスウィンドの方が外なので僅かにケイセイミキサーに前へ出て行かれますが、コーナーから飛び出すときのスピードで膨らまないようにするには仕方ないです。
コーナーを出たところで残り3ハロン!
「行くよ!」
私は一気にコスモスウィンドをケイセイミキサーの前に出していきますが、ケイセイミキサーも粘って付いてきます。
でもそれ以上に驚きなのはグラスシャープです。
先頭を走るプレッシャーがあったはずなのに、まだ脚を伸ばしています。
そして後ろから来るサプライズハントとロードグリーン。
いつもより足音が迫るのが早い?
いや、違う、僅かにコスモスウィンドがペースに乗り切れていないんだ!
「だいじょうぶ?コスモスウィンド?!」
(大丈夫だ!)
そうコスモスウィンドは応えるけどどうしても脚が伸びません。
残り1ハロンでなんとか先行するグラスシャープを捉えますが、ロードグリーンとサプライズハントに交わされ3着に終わります。
レースに勝ったのはロードグリーン。
これで天皇賞春・秋制覇です。
3着ではあるけど、いつものコスモスウィンドのレースじゃないです。
内容的には惨敗・・・そう言っていいでしょう。
柘植コールが響く中、私はコスモスウィンドを計量所に向かわせます。
計量所では山根先生と田邊オーナーが待っています。
「すみません、なにかうまく脚が伸ばせませんでした」
「故障したんじゃないだろうな?」
「いえ、そう言う事じゃなくて、いつもだともっと伸びるはずのところで伸びきれなかったような・・・」
「伸びきれなかった?」
「ええ」
「ふむ・・・」
山根先生は首をかしげながら、コスモスウィンドを見ていましたが、馬具が外されると田邊オーナーを連れて奥に行ってしまいました。
なんでしょうね?
その後、計量を済ませレースが確定した後で、他の騎手と一緒にレースのビデオを見ながら分析してみます。
やっぱり、前半でペースが取れなかった分、苦しい走りになっていますね。
あそこは出ておくべきでした。
でもいつものコスモスウィンドなら、それでも脚を伸ばせていたはず。
おかしいなあ???
その夜、美浦に戻って厩舎でコスモスウィンドの毛梳きを手伝って事務所に戻ると、山根先生と田邊オーナーが待っていました。
「どうしたんですか?お二人揃って?」
「秋葉、話がある」
いつになく真剣な表情でです。
今日の騎乗についてのお説教でしょうか?
神妙な顔でソファーの上に正座する私に向かって田邊オーナーが話し始めました。
「コスモスウィンドのことだが、引退させようと思っている。」
時が止まりました。
To be continued
最終話の前編をお送りしました。
同じような日々の繰り返しになってきている中で、わずかに入り込んでくる違和感。それを感じ取っていただけるように書いたつもりですが、どうでしたでしょうか。
この話の中で皐月が外国に行くのが難しいと言っていますが、これは移動の問題だけじゃなく、シェアワールドの設定で外国では妖精の扱いが日本ほど良くないという事があります。
具体的には妖精は宗教上の理由などで人権が認められている国が少なく、そのためパスポートやビザが取れないという事があります。
日本は召還された人数も多く、その妖精達の間で子供もたくさん生まれているため人権が認められていますが、これも日本特有の宗教的チャランポランさが影響しています。
さて、次が最終話になります。
お楽しみに