妖精的日常生活「風と共に歩む者」   作:水凪亜炭

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この作品はかつてあった「妖精さんの本だな」というサイトで提唱された「妖精的日常生活」というシェアワールドに基づく作品のリニューアル版です。
サイト消滅後、提唱者のジャージレッド氏と連絡を取りましたところ「シェアワールドの設定は有効であり、それを踏まえてもらえば他サイトへの投稿は構わない」との返事を頂きました。

シェアワールドの設定アーカイブ
https://web.archive.org/web/20070127115940/http://www.keddy.ne.jp/~jersey-r/toukoukitei_tebiki.htm

当時数多くの投稿があった「妖精さんの本だな」の中でも、かなり異色な作品となっていた拙作ですが、楽しんでいただければと思う次第です。

以下、シェアワールドのアウトラインとなる設定文です。

ーーーーーーーーーーー

200X年、突如として人間が妖精と呼ばれる羽を持った小人に変化してしまうという事件が発生する。
その事件は一件では済まず世界各地で観測され、日本でも世界で4例目となる妖精化事件が発生し、その後も続々と被害者が出たことにより社会問題化することになった。そして被害者達からの聞き取りによって、被害者の肉体が異世界にいる妖精と魔法によって交換されている事が判明する。(相互換身用召喚魔法というらしい)
その目的が妖精達を侵略するナニカと戦える存在を呼び出すことで、人間以外ではナニカと戦えなかったこと。わざわざ肉体交換という方法をとっている理由が人間を魂ごと呼び出すことが出来なかったので、魂の器として召喚する妖精自身の体を送り出す必要があったこと。そして鍵となるのが夢の中で会った妖精に自分の名前を教えることで肉体交換に同意した事になってしまうことが判明する。
これらが分かってからは、あらゆるメディアや教育現場にて妖精と夢の中で出会っても名前を教えないよう宣伝が組まれ、世界的には被害者が減ることに。

しかし訪問販売や電話勧誘であってもついつい話を長々聞いてしまう事が多いNOと言えない日本人。
妖精側も巧妙に好奇心や同情を誘う話術を年々身につけた事から、ついついポロッと会話の中で自分の名前を教えてしまう被害者が続出。そんなわけで日本は事件発生から数年後には妖精人口が最も多い国になってしまう。

これは、そんな日本にて妖精の召喚を受けちゃった、とある人物の物語である。


妖精的日常生活「風と共に歩む者」 第3話 ~初夏・インタールード~

 

「・・・いい風だね~」

(ふむ、やはり故郷は良いな)

 

今、私たちは、コスモスウィンドの生まれ故郷である北海道は浦河町、三上牧場にやってきています。

目的はダービーで激走したコスモスウィンドの休養です。

 

そうそう、ダービーの結果はといえば伏兵トキエイサクの逃げ足にペースを崩されたうえに、ロードグリーンの末足にしてやられ3着に終わりました。

おかげで妖精騎手としての初勝利はお預け。

私のために駆け回ってくれたみんなの期待に応えられなかったのがとても悔しかったです。

 

そんなわけで心機一転、秋の菊花賞で雪辱するためにコスモスウィンドを短期放牧に出すことになりました。

 

「コスモスウィンドをよろしくお願いします」

 

「ああ、きっちりリフレッシュさせておくから、シャロンウィンドを頼んだよ皐月ちゃん」

 

そう、私が放牧についてきた訳ですが、夏の函館開催でコスモスウィンドの妹・シャロンウィンド号がデビューすることが決定したんです。

それでちょっと先回りしてコスモスウィンドを見送りに来たっていう訳です。

 

「それじゃ、札幌で会えるのを楽しみにしてるよ♪」

(ああ、こっちもだよ)

 

私とコスモスウィンドの挨拶が終わると、調教助手の中村さんが「それじゃあ、よろしくお願いします。」と三上さんに頼んで牧場を後にしました。

 

「そういえば、ここから函館までってどれくらい掛かります?」

 

「そうだな、途中から高速乗っても7時間ってところかな?」

 

「・・・長旅ですねえ。」

 

相変わらず一人では羽の出せないこの体では、トイレなんかが大問題。

牧瀬さんは美浦に詰めなきゃいけなくって着いてきていないし・・・

むう、どうしましょう?

 

「途中、道の駅によっていくから、妖精用のトイレもあるはずだよ。」

 

私の不安を見抜いたのか、中村さんがそう言います。

 

む、確かに以前は男だったけど今は女の子なんですよ? ちょっとデリカシーにかけていると思います。

・・・まあ、この意識に慣れたのは最近ですけど。

 

ちょっとむくれた私は窓の外に目を向けます。

すると砂浜に黒く長い物をのばしている人達がいました。

 

「あ! あれ、なんなんですか?」

「ああ、昆布干しだよ。獲ってきた昆布を天日に当てて干してるんだよ」

「へえ~! あんなに長いんですか!!!」

 

スーパーで売ってる昆布なんて、折り畳んであっても50センチ程度。

砂浜に見える昆布はどうみても5mはありそうです。

 

「昆布といえば、ウニが美味しいんだよな」

 

中村さんがそうつぶやく。昆布とウニになんの関係があるんです?

 

「昼はウニ丼を食べようか?」

「え!?」

 

あの独特の甘みのある新鮮なウニが乗った海鮮丼。想像するだけでよだれが出ちゃいそうです。

 

「ちょうど今が旬だから、美味しいよ」

「!!! それにします!!!」

「よっしゃ。 それじゃお奨めの店でお昼にしよう」

 

お昼が来るのが待ち遠しいです♪

 

 

「・・・うう、動けません」

「だから止せと言っただろうに」

「いやあ、残すんじゃないかと思ったんだけどよく食べたねえ」

 

ウニ丼を食べすぎて動けなくなっている私を、中村さんと食堂のおばさんが呆れてみています。

 

「だって美味しかったから、残すのはもったいなくって・・・」

 

そう私は事もあろうに、子供用の小盛とはいえウニ丼を完食してしまったのでした。

 

いや、だって本当に美味しかったんですよ?

とろけるようなウニの柔らかい食感と甘み。

トッピングにのせられたワカメ・ツブ・白髪葱・ホッキ貝がそれぞれ違った食感や味で飽きさせません。

そしてそれらをまとめるタレの絶妙な味わい。

これをご飯と一緒に掻き込む美味しさと来たらもう絶妙♪

 

至福のひとときでした♪

 

「ま、残されるよりはよかったけどね。またおいで!」

「はい、ごちそうさまでした♪」

 

食べ過ぎで動けない私は中村さんの手に乗って車に戻りました。

 

「しっかし、その体のどこにあのどんぶり飯が入るんだ?」

 

不思議そうに私を見る中村さん。

 

実際自分でも不思議でなりません。

お腹は動けないぐらい一杯になったけど、別に体型が変わるわけでも無し。

謎です・・・

 

ふあああ、お腹が一杯になったら眠くなってきちゃいました。

 

「眠たいなら、部屋に入って寝てたらどうだ?どうせ着くのは夕方遅くだし」

「・・・そうさせてもらいます」

 

そう言うとのたのたと体を引きずり起こしてお部屋セットに向かいました。

 

美味しい物食べたし良い夢見れるかな・・・

 

 

 

【・・・さあ、黒い馬体のトキエイサクが後続を引き離して4角を立ち上がってきました。

 その後ろから人気のコスモスウィンドが伸びてくる。

 さらに後ろから、ロードグリーンが来た!ロードグリーン、ものすごい足だ!コスモスウィンドはちょっと伸びが止まったか?!

 ロードグリーン追い上げる!トキエイサク粘る!ロードグリーンがトキエイサクを交わした!

 ロードグリーン先頭でゴールイン!2着にトキエイサク。コスモスウィンドは3着に終わりました~!!!】

 

「わあ!!!」

 

がば!っと体を起こすとそこは布団の中でした。

 

「・・・はあ、またあの夢かぁ」

 

ダービーに負けてから、寝るたびに勝てなかったあの日の夢にうなされます。

いつまでもくよくよしていちゃいけないのは分かっているんです。

でも勝てたはずのレースを自分の焦りで落とした悔しさが忘れられません。

 

あの時、トキエイサクが逃げたダービーはスローペースになりました。

スローペースで足を残されたら逃げ切られてしまうと焦った私達はいつもよりも早めに仕掛けます。

結果は本来4角からの立ち上がり勝負に使う足を使いきってしまいました。

トキエイサクにも追いつけず、ロードグリーンの末足に交わされ3着に終わった悔しさ。

忘れられる物じゃないです。

 

このレースで分かったのは人馬一体となって走るということは、必ずしも有利なことばかりじゃないと言うことです。

確かにお互いの意思を合わせられると言うことで折り合いを付けやすいということはあります。

ですが、私が焦ればそれは馬にも伝わります。

コスモスウィンドも私の焦りに引きずられて自滅してしまいました。

 

「・・・次は同じミスはしない」

 

そうつぶやいた私は、運転席に顔を出しました。

 

「お、目が覚めたかい?」

 

「はい、おはようございます。今どこら辺です?」

 

「もうすぐ豊浦だよ。右手に羊蹄山が見えるだろ」

 

窓の外を見ると遠くにちょっと小さな富士山といった感じの山が見えます。

 

「富士山みたいですね~」

「別名は蝦夷富士って言うんだよ。」

「あ、納得です」

 

「あの山の麓から湧き水が出ていてね、それが京極の水さ」

「へえ~、中村さんって物知りですねえ」

「何回も北海道に来ていれば覚えるよ」

 

感心する私に苦笑してみせる中村さん。

 

その後、パーキングによって休憩したり、噴火湾で捕れる海産物の話とかを聞きながら一路函館へ。

函館競馬場に着いたのはだいぶ日が傾いた4時過ぎでした。

 

 

 

「運転お疲れさまです」

「ああ、お疲れ」

 

ずっと運転していた中村さんは疲れているにもかかわらず馬房に向かいます。

私もシャロンウィンドが気になるので着いていくと、馬房の前に厩務員の柳谷さんがいました。

 

「様子はどう?」

 

中村さんが柳谷さんに聞いています。

 

「まずまずですね。長距離輸送した割にカイ食いも良いし落ち着いていますよ」

 

「明日の朝まで様子を見て、問題なければ調教に入るって事でいいかな?」

 

「そうですね。それで良いと思います。もし疲れが取れていないようなら温泉に入れて休養させれば、明後日には調教に入れると思います」

 

「分かった。皐月、明日から調教に入るつもりでいてくれ」

 

「はい、分かりました」

 

私も馬房の柵に乗ってシャロンウィンドに呼び掛けます。

 

「こんばんわ、シャロンウィンド。ご機嫌いかが?」

 

馬房の中でじっとしていたシャロンウインドがこっちを見返します。

 

「明日からデビュー向けた走り込み開始だよ。よろしくね♪」

 

ブルルッっと鼻を振るわせてシャロンウィンドが答えたように見えます。

 

「あは、言ってることが分かるのかな?さて、明日からの調教に備えて準備しなきゃ。また明日ね」

 

そうシャロンウィンドに声をかけた私は厩舎を後にします。

 

次の日から乗り込みが始まりました。

 

 

まず、軽くウッドチップコースを回らせて足の様子を見ます。

問題がなさそうなら軽く走らせてウォームアップ。

ここでも異常が無ければいよいよダートの馬場に出て調教です。

 

デビュー戦は1000~1200の短距離ですが、夏のこの時期デビューの2歳馬なら充分な距離です。

無理な足を使う事は出来ないので、負担が掛からない程度にゆっくりペースを上げていきます。

仕上げにデビュー戦と同じ1000~1200を走らせて馬場調教終了です。

 

馬場調教にだいたい2時間程度使ったら、こんどはゲートに入る訓練です。

尻込みするシャロンウインドに怖くないよと言い聞かせて宥めながらゲートに入らせます。

ゲートに入ってスタートする試験をクリアしないとデビューさせられないから、引き綱を取る柳谷さんも真剣です。

コスモスウインドは最初ゲート試験がなかなかクリアーできなくって苦労させられたことを思い出します。

シャロンウインドはおとなしい子なので簡単かなと思っていましたが、怖がってなかなか入ってくれません・・・

 

「大丈夫だよシャロンウインド。私が付いているから。ほら怖くない」

 

そうシャロンウインドにささやきかけながらゲートに導きます。

やがておずおずとシャロンウインドがゲートに入ります。

 

「良い子ね」

 

そうドキドキしているシャロンウインドを褒めてあげました。

 

 

 

さて、私は今のところ田邊オーナー以外には騎乗依頼してくれる馬主さんがいませんので週末は暇・・・というわけではありません。

 

コスモスウィンドは休養中なので一緒にいれないけど、競馬場に来ているファンのためにイベント参加しています。

 

ポニーの背中に乗って道案内したり、足の速さを活かして子供達とかけっこしたり、妖精アイドルの坂牧深雪ちゃんと一緒にトークショーしたりと結構忙しい。

 

コスモスウィンド以外の馬でも羽が出せるといいんだけどなあ~

 

「さあ、お待ちかねの昼休みイベントタ~イム。

 今日は皐月ちゃんの乗る馬車でコースを一周してみよう。

 よい子のみんなはスタンド前に集まってね」

 

おっと、これからイベントだから集中しなきゃ。

 

イベントに集まってくれた子供達を馬車に順番に乗せてダートコースを一周します。

 

「は~い、みんな座りましたか~?」

「「「「は~い」」」」

 

「さてこれから実際にお馬さんが走っているコースを馬車で一回りします。

 途中スピードが出ますので、よい子のみんなは窓から手を出したりしないように気を付けましょう。」

「「「「は~い」」」」

 

「では、しゅっぱ~つ♪さて、右の方に見えるのが、お馬さんがここに入ってくる通路ですね~」

 

「あ、あれなに~?」

「スタートの時にお馬さんが入っているゲートっていうのよ」

 

「あの棒についている数字はなあに?」

「ゴールまで後どのくらい遠いか教えているんですよ♪」

 

こんな感じで子供達と会話してイベントをこなしていっています。

 

 

 

まあ、そんなわけで平日は主にシャロンウィンドの調教、週末はJRAマスコットとしてイベント参加という日が続いて時は7月最後の週。

 

「今週末の第3レースの新馬戦にシャロンウィンドを出すから」

 

そう中村さんに告げられた私は顔を引き締めました。

 

「皐月にとっては復帰2戦目。シャロンウィンドはデビュー戦。お互いがんばってくれよ」

 

「はい!」

 

「ん、よし。では今日からは実戦想定した調教するよ」

 

「はい!!!」

 

そんなこんなで一週間はあっという間に過ぎ、いよいよシャロンウィンドのデビュー戦です。

 

 

「せ~の、皐月ちゃ~ん、がんばって~!!!」

 

スタンドからそんな声援が飛んできます。

パドックでは【妖精騎手として初勝利をめざせ!ファイトだ秋葉皐月!】

なんて横断幕もあったし、少しは競馬の人気上昇に貢献できてるのかな?

 

このレースで注意するべきは中川さんの乗るミナミノテイオー。

出足の良さは調教中から見ていたから逃げられると苦戦しそう。

ダービーの時みたいに焦らないことが肝心です。

 

「ほらシャロンウインド、ゲートインだよ」

 

そう声をかけるとシャロンウィンドは素直にゲートに入ります。

一月ほど前まではドキドキしていたのが嘘のように落ち着いています。

 

やがて全頭がゲートイン終了、ゲートが開きます。

 

 

【バシャーン!!!】

 

 

横一線になって飛び出す各馬に混じってシャロンウィンドも飛び出します。

まず最初の直線で飛び出したのはやっぱり中川さんのミナミノテイオー

私は焦らず足を貯めるために最後尾に付けます。

 

やがて来る3コーナー。ミナミノテイオーがひたすら先頭を走ります。

でも焦ってはいけません。

この一月あまりの調教で分かったのは、シャロンウィンドは追い込み型の馬だということ。

最終コーナーを立ち上がってからが勝負です。

だからじっと我慢して最終コーナーまで待ちます。

 

やがてスタンドの大声援に迎えられるように、最終コーナーの出口が見えてきました。

 

「いくよ!シャロンウインド!」

 

そう言うとシャロンウインドがまるで射られた矢のように一気に加速します。

先頭まで6馬身、5馬身、4馬身、3馬身、2馬身、1馬身、先頭を行くミナミノテイオーに並びかけます。

ここからは2頭で競り合いです。

 

『シャロンウィンドものすごい足でミナミノテイオーに並んだ!

 ミナミノテイオー粘る!

 シャロンウィンド前に出たか?

 ミナミノテイオーが差しかえした!

 シャロンウインド伸びないか?』

 

「あきらめないで!あなたなら必ず勝てるから!」

 

残り1ハロンでミナミノテイオーを差しきれず、勝つのを諦めそうなシャロンウインドに叫びます。

 

その瞬間、どこまでも吹き抜けていくような強い風が吹くのを感じました。

そして勝つのを諦めかけていたシャロンウインドが最後の足を使いミナミノテイオーに並び、そしてそのまま一気に突き放してゴールします。

 

『勝ったのはシャロンウインド~!!! 秋葉騎手、見事に妖精騎手としての初勝利を上げました!!!!』

 

「・・・勝てた。勝てたんだ。やったよ!シャロンウィンド!!!」

 

そうシャロンウィンドの背をなでながら話しかけます。

 

(・・・貴方のおかげですよ)

 

不意にそんな声が聞こえてきました。

 

「え?」

 

(貴方が乗っていなければ私は勝つのを諦めていました。ありがとう、皐月。貴方に乗ってもらって本当に良かった)

 

そうシャロンウィンドが言うのと共に、ふわっとした感覚が広がります。

 

バサ!

 

その音と共に私たちの背中に栗色に輝く翼が広がりました。

 

「シャロンウインド・・・もしかして、あなたが話しているの?」

 

(ええ、そうです。貴方に会えた事に感謝します)

 

そう言ったシャロンウインドは翼を広げると空に舞い上がりました。

 

風を感じます。

コスモスウインドとは違った力強さを感じさせる風を。

 

「・・・ありがとう、私も貴方に会えて本当に良かった。これからもよろしくね」

 

(ええ、皐月。 今このときより、私は貴方の翼となります)

 

それが二人が交わした約束となりました。

 

 

 

To be continued




どうも水凪亜炭です。

さて、第3話目で新たに翼を出せる馬が増えました。
どういった条件が必要か朧気ながら見えてきていると思います。

第4話ではいよいよ種明かしをしたいと思います。
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