サイト消滅後、提唱者のジャージレッド氏と連絡を取りましたところ「シェアワールドの設定は有効であり、それを踏まえてもらえば他サイトへの投稿は構わない」との返事を頂きました。
シェアワールドの設定アーカイブ
https://web.archive.org/web/20070127115940/http://www.keddy.ne.jp/~jersey-r/toukoukitei_tebiki.htm
当時数多くの投稿があった「妖精さんの本だな」の中でも、かなり異色な作品となっていた拙作ですが、楽しんでいただければと思う次第です。
以下、シェアワールドのアウトラインとなる設定文です。
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200X年、突如として人間が妖精と呼ばれる羽を持った小人に変化してしまうという事件が発生する。
その事件は一件では済まず世界各地で観測され、日本でも世界で4例目となる妖精化事件が発生し、その後も続々と被害者が出たことにより社会問題化することになった。そして被害者達からの聞き取りによって、被害者の肉体が異世界にいる妖精と魔法によって交換されている事が判明する。(相互換身用召喚魔法というらしい)
その目的が妖精達を侵略するナニカと戦える存在を呼び出すことで、人間以外ではナニカと戦えなかったこと。わざわざ肉体交換という方法をとっている理由が人間を魂ごと呼び出すことが出来なかったので、魂の器として召喚する妖精自身の体を送り出す必要があったこと。そして鍵となるのが夢の中で会った妖精に自分の名前を教えることで肉体交換に同意した事になってしまうことが判明する。
これらが分かってからは、あらゆるメディアや教育現場にて妖精と夢の中で出会っても名前を教えないよう宣伝が組まれ、世界的には被害者が減ることに。
しかし訪問販売や電話勧誘であってもついつい話を長々聞いてしまう事が多いNOと言えない日本人。
妖精側も巧妙に好奇心や同情を誘う話術を年々身につけた事から、ついついポロッと会話の中で自分の名前を教えてしまう被害者が続出。そんなわけで日本は事件発生から数年後には妖精人口が最も多い国になってしまう。
これは、そんな日本にて妖精の召喚を受けちゃった、とある人物の物語である。
『さあ、各馬最終コーナーを一丸となって回ってくる。
先頭はハギノヴィクター、2番手にミズノルクス、3番手は団子状態。
大外から人気のイシノシズクが上がってきた。
イシノシズク一気に先頭を伺う!ハギノヴィクター粘る!
あ~っとイシノシズクの足が止まった!ズルズルと下がっていきます!
1着は4番ハギノヴィクター!2番手にミズノルクス!3番手にはカズラヨウセイオーが入りました~』
「またか・・・いったいどうしちゃったんだろう・・・」
ゴールした私は大きく頭を振るとため息をつきます。
コスモスウィンドと菊花賞に勝って以来、再び騎乗依頼が増え始め忙しい日々を送っています。
ですが、ここのところ体調がおかしいのか、ゴール間際になって不意に意識が抜けるというかぼんやりとしてしまうことがあります。
その結果として追い切る事が出来ず思うように勝つ事が出来ません。
確勝といわれたレースをここしばらく落とし続けているのが悔しいです。
(皐月、大丈夫?)
「大丈夫よ。それよりも、勝てそうなレースだったのに私のせいで落としてごめんね・・・」
(なんだか最後になって意識が抜けたような感じだったよ?本当に大丈夫かなあ・・・)
「心配かけてごめんね。でも本当に大丈夫だから」
自分のせいで負けたのにイシノシズクに心配かけちゃったなあ・・・
計量所に戻るとすっかりお冠の石井オーナーと小野寺先生が待ちかまえています。
「いったいどうしたんだ!?今日の調子なら勝ち負けになったはずだぞ?」
「すみません、自分の責任です。なんだか直線に入って油断してしまったのか、ぼんやりしてしまって・・・」
本当の事ですから言い訳は出来ません。
「あまりこういう事が続くようだとこっちとしても納得できないのだがね」
憮然として石井オーナーが言います。
「はっきり言って専属騎手でなければ降りてもらっているところだ」
「申し訳ありません」
私はひたすら頭を下げる事しかできません。
石井オーナーと小野寺先生の怒りももっともです。
今日2勝目を上げれば朝日杯に間に合ったはずなのに、結果は6着。
それほど登録馬が多くないから1勝馬でも出る事は可能ですが、勝って勢いを持って行きたいところを出鼻をくじかれたような格好です。
これでは登録そのものを見送りたくなりますよね・・・
「朝日杯への登録はもう少し考えさせてもらう。君の体調が悪いなら早めに直す事だな」
「はい、すみません・・・」
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「はあ~~~・・・」
山根厩舎に戻った私は大きくため息をつきました。
ほんとうにどうしちゃったんでしょう?
コスモスウィンドと菊花賞を獲れた事で気が抜けてしまったんでしょうか?
あまりにも不甲斐ないレースぶりに嘆いてしまいます・・・
「調子が悪いようだな? いったいどうしたんだ?」
山根先生が心配して声をかけてきています。
「なんだかレースに集中できないのか、最後の直線で気が抜けたような感じでボンヤリしてしまうんですよ」
「しっかりしてくれよ。来週はシャロンウィンドのGⅠ初挑戦があるのにそんな事じゃ困るぞ」
「はい・・・」
自分でも何が起きているのか分かりません。
別に変わった事をしている訳じゃないんですが。
体調不良にならないように気をつけていますから、朝も早く起きれますし・・・
やっぱりこれはGⅠに勝った事でどこか気が抜けてしまったんでしょうか?
でも勝っているレースでも負けたレースでも、特に気構えでは代わったところは無いと思っているんですけど。
こんな調子ではコスモスウィンド達に乗っていてもまともに勝てるかどうか心配です。
本当なら今週行われるジャパンカップにコスモスウィンドも出るはずだったんですが・・・
菊花賞の疲れがあって回避していたのが幸いだったかもしれません。
「さて説教はこれぐらいにしておこう。来週は気合いを入れてがんばれよ」
「はい!!!」
翌日から今週末乗る馬の調教が始まりました。
シャロンウィンドには瞬発力を活かすべく、残り2ハロンまでの足使いをみっちり調教します。
坂路を中心に道中でじっくり足を貯めつつ遅れすぎずに着いていけるように。
(皐月、体は大丈夫ですか?)
「う~ん、たぶん大丈夫だと思うんだけど・・・心配かけてゴメンね」
シャロンウィンドと挑んだファンタジーステークスでは、圧倒的1番人気にも関わらず例の症状が出て4着に終わってしまいました。
思えばこの時からなんですよね、調子がおかしくなったのは。
「ともかく、気合いを入れて頑張ってるから、今度はあんな事にはならないと思うよ」
(それならいいけど、本当に体には気を付けてくださいよ?)
さすがに3週連続で確勝レースを落としていると不安がられてしまいますね。
(あんた本当に大丈夫なの?ここのところ体調不良らしいけど)
そう切り出したのはブラディーメアリー
「大丈夫。こうして乗ってる分には何も問題がないんだから。本番でも気合いを抜かないように頑張るから」
(あんた以外に乗ってもらう気はないんだから、頑張ってよね)
「はいはい」
ブラディーメアリーは直線一気の追い込み型ではなく、最終コーナから足を伸ばす差し馬です。
出会った時は500万条件でもたついていましたが、私が騎乗して2勝目を上げた時に信頼を得て羽根を出す事が出来ました。
その後11月初めに800万条件も勝って、今週末の1600万条件を勝てばオープン入りが決まります。
ずっと勝利に恵まれなかったのが嘘のような展開です。
(さ、今週も勝って3連勝するからね!)
「そうだね。勝ってオープン入りして、来年はいい年にしたいね。さあ、そのためにも走り込もうね」
(アタシは軽めに済ましたいんだけどなあ・・・)
「だ~め、まだこの前勝った時より2キロオーバーじゃない。丈夫なのは良いけど、このままじゃレースにならないよ?」
(はいはい、分かってますって)
軽口を交わしあったせいか少し気が楽になってきました。
他にも2頭ほど、美浦から阪神遠征を行う条件馬の騎乗を頼まれているのでそちらも調教を付けてと大忙し。
週末は良いレースがしたいです。
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そして一週間はあっという間に経って、明後日はいよいよ阪神ジュベナイズフィリーズ。
明日もブラディーメアリーの騎乗がありますから今日から阪神入りして調整ルームで待機です。
「皐月さん、荷物ここに置きますよ」
「はい、お願いします」
「食事は7時に用意して貰いますから」
「は~い」
小谷さんとそんな話をしていると、後ろから声をかけられました。
「お?秋葉は明日も走るんか?」
振り返ると柘植さんがいます。
「柘植さん、お久しぶりです♪」
「ああ、ほんまやね。菊花賞で一緒に走って以来か?」
「そうですね。明日は6R・8R・最終レースに乗るんですよ。それまでの間はイベント参加ですね~」
「ほ~、したら明日も明後日も対戦やね」
「え?柘植さんも乗るんですか?」
「6と8は乗らんけど、最終にな」
うわあ、これは強敵が来たなあ・・・
これだから出来ればこっちまで足伸ばしたくなかったんだけど、自分がこっちで乗るもんだから仕方がなかったんですよね。
「ま、菊花賞の雪辱戦というにはちと舞台が小さいかもしれんけど、明後日の前哨戦には丁度ええんやないかな」
「負けませんよ。勝って明後日に向けて勢い付けるんですから」
お互い笑みを交わしましたが、柘植さんが真剣な顔に替わりました。
「そういや、菊花賞のあと体調不良やて聞いたんやけど、大丈夫か?」
あ、こっちにもその話は伝わっていたんですね。
「心配してもらうほどの事じゃないです。何事もなくレースが出来ていることの方が多いですから」
「それならええけど、レース中に落馬したら命に関わるから気をつけなあかんで?」
「そうですね。気を付けます」
その日はそんな話をして、それぞれ割り当てられた部屋に入っていきました。
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『さあ、先頭はバラクーダが大逃げ!他の馬は届きそうにない!
団子になった集団からスターダンサーが抜け出てきたが、これは届きそうにない。
バラクーダ独走でゴールイン、2着にはスターダンサー、3着は写真判定になりそうです。』
「よし、良くやったね。」
私はスターダンサーの背を軽く叩いて労います。
スターダンサーはまだ成長途上の2歳馬で、むしろ来年春から体が成長し出すような感じです。
早熟な馬が多い中で2着に来たんだから上等です。
「おつかれさん。よく2着までもってこれたな?」
計量所まで戻ると田所先生が待っていました。
「あれだけバラクーダーが大逃げ討たなければ無理でしたよ。
回りが焦ってドタバタしたせいで2着をねらえました。
勝てるものなら勝ちたかったですけどちょっと相手が強すぎましたね。
でもまだ底がある感じだし来年が楽しみな馬です」
「そうか、また騎乗を頼むかも知れないからよろしくな」
「はい!」
今日は2レース乗っていますが、今のところ例の症状は出ていないです。
4着・2着と着順も上げてきて良い感じです。
最終レースが楽しみになってきました。
『とま~れ~』
「さあ、今日のメインイベントですよ。頑張ってきてくださいね」
小谷さんが私をブラディーメアリーの背中に乗せてくれます。
(あんた体調は大丈夫なの?)
「今日2レースして絶好調よ」
(んじゃおもいっきし行くわよ)
「よろしくね」
馬場入場が終わり返し馬をして待機場に向かうと、柘植さんがよってきました。
「レース見ていたけど体調に不安は無さそうやね」
「全然平気です♪圧倒的一番人気だし勝ちを貰いに行きますからね~♪」
軽口で返しましたが油断は出来ません。
圧倒的一番人気といっても、どちらかといえば実力人気と言うよりファン人気のおかげです。
しかも柘植さんの乗るラッキーロールは春までオープンクラスにいた馬です。
秋に入って負けが込んで1600万クラスに落ちてきたとはいえ、実力的には上です。
オープンクラスに返り咲きを狙っているだけあって、気合いも入っていますし強敵です。
やがてゲートインが始まり、レースの時間を迎えました。
【バシャーン!!!】
各馬一斉に飛び出します。
今回のレースは1400mと短めです。
直線を走ってコーナーを曲がってまた直線で終わり。
短いだけに展開を読むのにも忙しいです。
柘植さんの乗るラッキーロールは追い馬なので私のさらに後。
コーナーまでのペースは少し遅め。
早めに仕掛けますか。
「いくよ、ブラディーメアリー」
(OK、振り落とされないでよ)
コーナーにさしかかったところで早めに前に出して先行する馬群をとらえてラッキーロールに差を付けます。
そしてコーナーを立ち上がって・・・
「うく!」
いきなり頭が霞がかかったようにボンヤリとしてしまいます。
頭を振ってはっきりさせようとしますが体も言う事を聞いてくれません。
(皐月?!)
ブラディーメアリーの叫びが聞こえますが、意識が保っていられません。
背中から羽根が消えるのを感じながら、私は意識を失いました。
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「・・・・・ば、・きば、秋葉! しっかりしろ!」
ボンヤリと目を開けると山根先生が心配そうにのぞき込んでいました。
どうやら私はベットに寝かされていたようです。
「・・・私、どうしちゃったんですか?」
「おまえは競争中に意識を失ったんだ。後ろから来た柘植が受け止めてくれなかったら死んでいたぞおまえ・・・」
青い顔をしながら山根先生が状況を話してくれました。
話を聞いている内に私も青くなります。
なんでも最終コーナーを抜けたところでいきなりブラディーメアリーの進路が外側によれ、私が頭を2~3度振ったかと思ったら翼が消え、そのまま馬群が迫ってきていたところに振り落とされるように落馬しかけたのを、柘植さんが受け止めてくれたそうです。
もし落ちて馬に踏まれたら絶対に助かりませんから、柘植さんが受け止めてくれなければ死んでいたかも知れません。
いまは事故が起きてから15分ぐらい。
競争は今回の事態について審議に入っていて結果はまだ出ていないとのこと。
「・・・九死に一生を得たわけですね」
「まったくだ。体調には気を付けろと言ったろうに」
「でも、本当に何ともなかったんですよ?少なくとも8Rまでは・・・」
そう、別に体調的には問題があったとは思えません。
いったい何が起きたんでしょう?
そんな事を考えているとJRAの役員さん達と柘植さんが入ってきました。
「秋葉、何ともないか?」
「はい、ご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」
「いや、無事で良かった。受け止め損ねるんやないかと思ってハラハラしたけどな」
そういえばレースの結果は出たんでしょうか?
「レースはとりあえず審議の結果、秋葉君と柘植君の失格だけで着順通りにすることで決着している。落馬後は外ラチ側に移動して、レースそのものにはほとんど影響なかったからな」
「そうですか」
「それより気絶した時の事を覚えていますか?出来れば今までに症状を起こした事のあるレースも含めて教えて欲しい」
役員さんに聞かれた私は意識を失った時の状況を詳しく話します。
「・・・やっぱりか」
「これはやはり・・・」
柘植さんと役員さんが頷きあっていますけど、いったいなんでしょう?
「秋葉君、君の最近の体調不良の原因だが、電磁波を浴びた妖精が起こす症状に似ているんだよ」
「「え?」」
役員さんの説明に私と山根先生の声が重なります。
「携帯電話やパソコンが発する電磁波が妖精にとって命に関わるほど有害なのは知っているね」
「はい」
それは前に詳しく説明を聞かされたので知っています。
「だがその他にも、命には関わらないが気絶させたり行動を変にさせたりする電磁波が見つかっている」
「・・・」
「そして君が症状を起こしたレースは、どれも乗った馬が圧倒的一番人気な時だ。ここまで言えば何を言いたいか分かるだろう?」
「・・・競争妨害ですか」
圧倒的一番人気の馬が崩れることが分かっていれば、2~3番人気の馬から総流しで馬券を買ったとしてもかなりの配当が付きます。
電磁波を浴びせる事で意識を混濁させて、レースを妨害して高配当を得る。
そんな事を考える人が出てこないとは限りません。
「このままだと君の命にも関わるから、放っておく事は出来ない。明日は阪神ジュベナイズフィリーズもあるし、早急に対策を考えよう」
「はい・・・すみません、助かります」
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「はあ~・・・」
その夜、私は小谷さんとお茶を飲みながらため息をつきました。
今日の、いえ今までの不調の原因が競争妨害らしい事を知ると、悔しくってため息しか出ません。
どうしてそこまでして勝ちたいんだろう・・・
確かに競馬は賭け事ではあるけれど、それは一側面にすぎません。
生産者はより強い血統を生み出そうと必死に馬を育てます。
馬主さんや調教師はより優れた血統を残して行くべく切磋琢磨してレースに送り出します。
騎手は少しでも速く走らせようと努力をします。
そうした人々に囲まれ生まれてくる宝石のような馬たちに魅せられて人々は集まります。
その馬を育てたから。
その馬を鍛えたから。
その馬に乗っているから。
その馬が好きだから。
そうした人々の思いを受けて走る馬達は時として奇跡を生みます。
ダービー馬からダービー馬をという夢を果たしたトウカイテイオー
古馬GⅠ総なめという偉業を達成したテイエムオペラオー
天皇賞3代制覇を成し遂げたメジロマックイーン
世界でもっとも難しいと言われるクラシック三冠を成し遂げたナリタブライアン
牝馬には厳しすぎると言われた牝馬三冠を成し遂げたスティルインラブ
数々の名馬の見せてくれた感動に魅せられて自分は競馬騎手になりました。
だけど・・・
「あんまし難しい事は考えない方がええで」
顔を上げると柘植さんが立っていました。
「たしかに自分らは馬に乗るのが好きやし、それに人生をかけている。だけど、それだけで済まんやつもいるんやろうな」
思っていた事が顔に出ていたんでしょうか?
「秋葉の表情は読みやすいからな。
たしかに今回の事は許せる事やないな。
だけどそういった奴らさえ秋葉なら魅せる事が出来ると思うぞ?
明日は余計な事は考えずにおもいっきし勝負や」
また読まれていますし・・・
でも役員さんの方でも対策考えてくれていますし、私は私が出来る事を精一杯するしかないでしょうね。
「そうですね。自分に出来る事は馬を少しでも早く走らせてあげる事だけですから」
「そうそう、その意気や。それにしぼんでいたら、可愛い顔が台無しやで」
ボン!
そんな音がしそうな勢いで顔が赤くなったのが分かります。
「ま、今日はよく寝ておくことやね。夜更かしはお肌の大敵やし」
手をヒラヒラさせながら柘植さんが自分の部屋に去っていきました。
まったく人をからかうのが好きですね・・・
「とま~れ~」
いよいよ阪神ジュベナイズフィリーズの始まりです。
私はいつもどおり小谷さんに連れられてシャロンウィンドに乗せてもらいます。
役員さん達は「対策の事は気にせずに、レースに専念するように」って言ってたけど。
どんな対策を取ったのか気になりますね。
パドックを回っていると、横断幕の中にシャロンウィンドと私を応援するメッセージが結構書き込まれています。
最近勝てていないにもかかわらず人気があるのは嬉しいですね。
真剣に馬券を検討する人もいれば、応援のために小さな旗を振ってくれたり、写真を撮ったりする人がいたり。
でもなにかいつもと違って違和感があるなあ?
「・・・あれ?」
(どうしたの?)
私が上げた声に、シャロンウィンドが問いかけてきます。
「・・・ファン倶楽部の妖精さん達がいない・・・」
(本当ですね。珍しい事もありますね)
ファン倶楽部のみんなは、8月頃から競馬場に現れるようになって、いつもサインボードなんかで応援してくれているんですが・・・
今日は一人として顔を出していません。
何かあったんでしょうか?
やがて馬場入場が始まりコースに入って返し馬をし待機場に向かいます。
外ラチと、観客席の間にバードテーブルみたいな台が出来ていますね?
なんでしょうかあれは???
『お知らせします』
待機場に入ったところで場内放送が入りました。
『最近妖精騎手である、秋葉皐月騎手がレース中に体調不良を起こし、先日は落馬までする羽目になりました。
この事態に対し、不審な点があったため協議した結果、これを電磁波による競争妨害と我々は判断しました。
このような不正を我々は許す事は出来ません。
そのため、急遽警備隊を立ち上げる事にしました』
まさか!!!????
その言葉と共にいっせいに妖精さん達が空を飛んで台の上に立って羽根をしまいます。
その妖精さん達の顔には見覚えがあります。
『それでは警備隊長からのあいさつがあります』
『警備隊長を務める南野隆雄です』
うあ!?ファン倶楽部の会長さんだ~!!!???
『私たちは今回の事態を聞き警備に協力させてもらう事になりました。
自分たちは体を張って電磁波の放射を食い止めさせて頂きます。
もし使おうとしたら近くにいる私たちの仲間も影響を受けますので位置がばれると思ってください』
「危険すぎる!止めなきゃ!」
「まあ、待ち。彼らも何も考えんほどアホやなかろう?」
思わず待機場から飛び出そうとした私を柘植さんが止めます。
「でも!!!」
「いいから聞いとき」
『自分たちは競馬が好きです。そしてそこで一生懸命に騎手を務める皐月騎手が好きです。だからこそこんな不正を許す事は出来ない!』
競馬場全体が静まりかえりました。
『自分たちは妖精になった事でいろんな夢を諦めなければいけませんでした。
デザイナー、医者、看護婦、プログラマー、保母さん、レースドライバーを目指していた人だっている。
そんな中、妖精になったとはいえ自分の夢を追いかける事が出来る皐月騎手には正直最初は嫉妬したものです。
だからダービーに負けた時にはいい気味だと思ったのも事実です。
だけど・・・ダービーで負けても皐月騎手はくじけなかった。
より一生懸命になって騎手としての夢をつなごうと努力する姿を見ているうちに、自分たちは惹かれました。
そして、ついに妖精騎手として初勝利を手にしたのを見た時に魅せられたんです!』
南野さんの本音の話に競馬場全体がのまれています。
『だからこそ、夢を追い続ける皐月騎手にはこんなくだらない事で挫折して欲しくない!
いやそれ以上にその夢である競馬そのものを汚して欲しくない!!!
みんなは競馬が好きですか!!!』
『『『『『『『おおおおおおおお!!!!!!!!!!!!』』』』』』
競馬場全体が揺れるほどの歓声が帰ってきました。
『不正を許さないという気持ちはありますか!!!』
『『『『『『『おおおおおおおお!!!!!!!!!!!!』』』』』』
『ありがとう!
みんなのその気持ちがあれば、きっと犯人も不正を仕掛ける事が出来ないでしょう。
あと競争妨害になるような電磁波を出さないために、携帯電話などの電源を切ってくれるようお願いします』
みんないっせいに携帯電話を取り出すと電源を切っています。
「ま、これだけやられて不正を仕掛ける度胸のあるもんはおらんやろ」
「柘植さん、知っていたんですか?」
「アイデア出したの自分もやし」
それを聞いた私は吃驚して固まってしまいました。
なんでそこまで気を遣ってくれるんですか?
「敵に塩を送る訳やないけど、手応えのない秋葉と走ってもつまらんしな」
「柘植さん・・・ありがとうございます」
「ええって、自分らはおもいっきし馬を走らせる事しかできん。受けた恩は夢を魅せる事で返せばええ」
「・・・そうですね」
「もっともあっさり勝たせてやるほどお人好しや無いけどな」
「当然です。真剣勝負じゃなきゃ失礼ですし」
私と柘植さんはお互いに不敵な笑みを交わします。
昨日の一件以来、萎えていたやる気が沸々と沸き上がってきます。
たしかに向けられた悪意は残念です。
だけどそれ以上に私たちに向けられているみんなの期待を知った以上は落ち込んでなんかいられません!
ファンファーレが鳴りゲートインが始まります。
私はシャロンウィンドを立ち止まらせると観客席の方に向かって一礼させました。
観客席からは応援の言葉と拍手が返ってきます。
「シャロンウィンド、思いっきり行くよ」
(わかっている、全力をつくしますよ)
いよいよスタートです。そして・・・
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『一着は柘植の駆るコノハナサクヤ!2着にアクアリウム!3着にはシャロンウィンドが入りました。
コノハナサクヤ!見事な逃げ切り!期待のシャロンウィンドは最終すばらしい追い上げを見せましたが届きませんでした』
シャロンウィンドのGⅠ初挑戦は3着に終わりました。
さすがに今回の負けはいつも以上に悔しいです・・・
「完璧に力負けしちゃったね」
(そうですね、今回は私の力不足です。もっと鍛えないと駄目ですね)
「いや、私のペース配分も悪かったみたい。もう少し早めに上がっておくべきだったね」
レースは終始、逃げでペースをコントロールした柘植さんのコノハナサクヤに持って行かれてしまいました。
ちょうど菊花賞の仕返しをされたようなレース内容です。
柘植コールが起きる中、馬場をあとにして計量所にシャロンウィンドを向かわせます。
「この次は負けない!」
そう誓いを残して。
私たちは多くの期待に後押しされて走ります。
だから負けられないし、負けたくありません。
でも今回のように勝負事である以上、期待に応える事が出来ないこともあるかもしれない。
それでも私たちが夢を追い続け、走り続ける事はやめません。
それが彼らへの恩返しになる事だから・・・
To be continued
ど~も、今回は電波な話です。
妖精的日常生活の妖精達はパソコンや携帯電話が発する電磁波などに弱いという設定があります。そこから今回の話のプロットは決まりました。
物が賭け事なだけに、こうした悪意を向けられる事もあるだろうなということからこの話は決まりました。
そうなると皐月がお願いする形ではちと収まらないだろうと思い、より説得力を出したいと展開を考えました。
妖精さんたちが皐月ちゃんファン倶楽部を作ってしまった理由も絡めてお願いしてみましたが、納得できたでしょうか?
さて次回はコスモスウィンドの有馬記念でお会いしましょう~