サイト消滅後、提唱者のジャージレッド氏と連絡を取りましたところ「シェアワールドの設定は有効であり、それを踏まえてもらえば他サイトへの投稿は構わない」との返事を頂きました。
シェアワールドの設定アーカイブ
https://web.archive.org/web/20070127115940/http://www.keddy.ne.jp/~jersey-r/toukoukitei_tebiki.htm
当時数多くの投稿があった「妖精さんの本だな」の中でも、かなり異色な作品となっていた拙作ですが、楽しんでいただければと思う次第です。
以下、シェアワールドのアウトラインとなる設定文です。
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200X年、突如として人間が妖精と呼ばれる羽を持った小人に変化してしまうという事件が発生する。
その事件は一件では済まず世界各地で観測され、日本でも世界で4例目となる妖精化事件が発生し、その後も続々と被害者が出たことにより社会問題化することになった。そして被害者達からの聞き取りによって、被害者の肉体が異世界にいる妖精と魔法によって交換されている事が判明する。(相互換身用召喚魔法というらしい)
その目的が妖精達を侵略するナニカと戦える存在を呼び出すことで、人間以外ではナニカと戦えなかったこと。わざわざ肉体交換という方法をとっている理由が人間を魂ごと呼び出すことが出来なかったので、魂の器として召喚する妖精自身の体を送り出す必要があったこと。そして鍵となるのが夢の中で会った妖精に自分の名前を教えることで肉体交換に同意した事になってしまうことが判明する。
これらが分かってからは、あらゆるメディアや教育現場にて妖精と夢の中で出会っても名前を教えないよう宣伝が組まれ、世界的には被害者が減ることに。
しかし訪問販売や電話勧誘であってもついつい話を長々聞いてしまう事が多いNOと言えない日本人。
妖精側も巧妙に好奇心や同情を誘う話術を年々身につけた事から、ついついポロッと会話の中で自分の名前を教えてしまう被害者が続出。そんなわけで日本は事件発生から数年後には妖精人口が最も多い国になってしまう。
これは、そんな日本にて妖精の召喚を受けちゃった、とある人物の物語である。
雪のちらつく中山競馬場
今日は中央競馬に関わる人にとっての一年の締めくくり、有馬記念です。
一年が始まった頃には、こうして有馬記念に出れるなんて思ってもみませんでした。
コスモスウィンドに乗って返し馬をして待機場に向かいながらそんな事を考えていますと、声をかけられます。
「なんや秋葉、ボ~として」
「あ、柘植さん。いや、この一年いろいろあったな~と思って」
ロードグリーンに乗った柘植さんに私は苦笑しながら応えます。
「ま、そうやろうね」
皐月賞獲って、妖精に召喚されて騎手をいったん諦めたり、騎手続けられる事になってダービー出走できたり、なかなか騎乗機会がもらえずに初勝利までに時間がかかったり、初勝利後に軌道に乗ったと思ったら菊花賞には参戦できなくなりかけたり、菊花賞獲ったと思えば競争妨害にあったり、まあ普通に競馬騎手やってたら、こんな体験はできなかったでしょうね。
ドタバタしながらも充実した一年だったような気がします。
「それにしてもデビュー2年目の騎手がいる場所じゃない気がする・・・」
「そうか?まぐれでも妖精になってからもGⅠ獲れたんだから、胸を張っても良いんじゃないか?」
「まぐれはひどいです。菊花賞は少なくとも実力で獲ったつもりですよ」
声をかけてきた海老塚さんにむくれて見せます。
「おお、言うねえ。んじゃ、皐月ちゃんにはケイセイミキサーを自力で捕まえに行って欲しいもんだな」
「せいぜい努力しますよ。美味しいところだけさらわせる気はありませんけど」
海老塚さんの乗るサプライズハントはGⅠでの勝ちはないものの、GⅡなどでは有力馬を何度も下している強者です。
名前の通り、人気薄の時に勝って高額配当を出すのが得意なので要注意ですね。
「それにしても、一番人気はやっぱりあっちですか」
「そうやな」
「まあ仕方ないさね」
3人の視線が集まった先には横井さんの乗る現役最強の4歳馬、ケイセイミキサーがいます。
コスモスウィンドとのコンビでは、いままで一番人気を譲らなかったのでちょっと悔しいですね。
「今年も天皇賞春・秋を勝ってるからバリバリの本命やし」
「けたぐりかましてやりたいけどな」
「あ、あははは・・・(汗」
海老塚さ~ん、いくらケイセイミキサーが嫌いだからって・・・
「まあ、お互い頑張ろう」
「は~い、良いレースにしましょうね」
「ケイセイミキサーか・・・強い馬なんだけどね」
一番人気のケイセイミキサーはここまでGⅠ4勝した実力馬。
去年の菊花賞を勝ってから頭角を現し、菊花賞・有馬記念・天皇賞春・秋と勝って絶好調です。
油断できる相手ではないし、掲示板から外れたことがないので馬券人気は一番人気に押されることが多いです。
でも・・・なんとなく勝ち方に華が無いんですよね。
自力で抜きに行くんじゃなくって相手の油断を誘ったり、前が崩れるのを好位置で待ちかまえているような感じで。
(僕もあいつは嫌いだ!)
「コスモスウィンドまで・・・」
(周りを見下したようなあの態度が気にくわない!吠え面かかせてやる~!!!)
「あ、あははははは・・・」
コスモスウィンドもここまでケイセイミキサーを嫌っているとは思いませんでした。
(皐月! 絶対にあいつには負けないぞ!)
「分かったわ。ついでにGⅠ3勝目を獲るつもりで思いっきり行くね」
(おう!!!)
やがてファンファーレが鳴ってゲートイン開始。
コスモスウィンドは2枠4番からスタートです。
【バシャーン!!!】
ゲートが開いてまず飛び出したのは中川さんの乗るメイルシュトローム。
逃げ馬らしく思い切って飛び出していきます。
その後ろには中町さんのコサックダンスがぴったりつけて追走。
3馬身ほど離れてサプライズハントが追いかけて、その後ろにケイセイミキサーがいます。
コスモスウィンドはさらに2馬身ほど離れて5番手に付けています。
1周目のスタンド前を抜けていくときにターフビジョンに中断付近に付けた柘植さんのロードグリーンが見えました。
「ロードグリーンが後ろに付けてないのは珍しいなあ・・・」
(追い込みではなく、最終コーナーからの差しで勝負する気かもな)
「こっちはいつもどおり前を崩しつついこうか」
コスモスウィンドに少しペースを上げさせ、前を走るケイセイミキサーとサプライズハントを追いつめていきます。
1ハロンごとにジワジワとプレッシャーを掛けるように差を詰めていくと、それを嫌う2頭がペースを上げだしました。
それに伴って先頭を走るメイルシュトロームとコサックダンスも差を詰められるのを嫌ってペースが上がり出します。
結果徐々にハイペース気味にレース展開が動いていきます。
「このままペースを崩さずに行くよ」
(分かってる。あせって崩れたらダービーの二の舞だからな)
2コーナーを曲がって直線ではともかく前にプレッシャーをかけるように徐々に差を詰めながら追走。
ただし競り合いには持ち込まず、あくまで楽に単騎でコスモスウィンドを走らせていきます。
やがて3コーナーが見えてきました。
「いくよ!」
コーナー突入と同時に前の2頭を捕らえに行きます。
道中コスモスウィンドにプレッシャーを受けていた2頭は交わした時点で戦意喪失して、ズルズル下がって馬群の中に沈んでいきます。
「このまま先頭に出るよ!」
(ああ!)
最終コーナーを回ったところで後続の馬群が迫ってきて、馬群を直後に控えるようにして進みます。
さすがのコスモスウィンドも海千山千の古馬達相手では勝手が違います。
まず前をいくコサックダンスを交わすと、メイルシュトロームを捕らえて一気に抜き去って先頭に立ちます。
ここからは、すぐ後ろに控えた馬群からいつ誰が飛び出してくるか分からないプレッシャーとの戦いです。
次々と後ろから抜け出てきて前をうかがう馬が現れますが、コスモスウィンドは粘りながらゴールを目指します。
「あと1ハロン!」
(いける!)
そう思ったとき、馬群の最内側からロードグリーンが、大外から沈んだはずのケイセイミキサーが飛び出してきました。
「うそ?!」
信じられない脚で迫ってきたロードグリーンに並ぶようにしてケイセイミキサーも迫ってきます。
2頭はゴール直前でコスモスウィンドに追いつくと並んでゴールインします。
『コスモスウィンド、ロードグリーン、ケイセイミキサーの3頭が並んでゴールイン!
ケイセイミキサー、ロードグリーン、最後1ハロンの追い込みは素晴らしい脚でした~!!!』
「あああ、やられたあ・・・」
(・・・してやられたな。ロードグリーンは中段待機のまま、最内を通ることで脚を貯めていたのか)
「大外からくるのがいつものパターンだから見逃してたね」
(そしてケイセイミキサーは戦意喪失と見せかけて、いったん下がって足を最後に温存したんだな)
「まんまと一杯食わされちゃったなあ・・・」
これは写真判定を待つしかなさそうです。
コスモスウィンドと計量所に戻ると山根先生達が待っていました。
「ごくろうさん、勝ったと思うか?」
「正直分からないです。沈んだと思ったケイセイミキサーに驚いて反応が鈍らなければ勝てたと思うんですが、すみませんでした」
「いや、初の古馬GⅠ挑戦だからよくやったよ。こうした駆け引きもこれから覚えていかないといけないから、良い勉強になったろ?」
「そうですね・・・」
「あとは結果待ちだ」
計量を済ませ、規定違反がないことを確認してもらって騎手室に入ります。
横井さんと柘植さんの横でゴールの瞬間のビデオを何度も見返しますが、何度見ても分かりません。
一秒〃がまるで永遠のような時間に感じられます。
そして5分ほどして判定ビデオが流されます。
その中にはわずかな差で前に出たケイセイミキサー、2着にロードグリーン、さらに鼻差でコスモスウィンドが雪崩れ込むのが映っていました。
掲示板にも着順が示されて競馬場にどよめきが走ります。
・・・負けちゃったかあ。
「横井さん、おめでとうございます」
「ありがとう」
私が手を差し出すと、横井さんも手を伸ばして軽く握手をしてくれました。
そのまま小谷さんに連れられて、着替えにいこうとしたら柘植さんが声を掛けてきました。
「お互い、今回はしてやられたな」
「そうですね・・・」
ケイセイミキサーがこっちの作戦にはまったように勘違いさせられて、最後に警戒を怠ってしてやられてしまいました。
でも・・・
「かなわない相手じゃないですね」
「ああ、そうやね。来年は雪辱しようや」
「ええ、必ず負かして見せます」
悔しくはあるけど、力一杯戦った結果です。
毎回は勝てないから勝ちたいと思うし、勝ったときには嬉しさも増します。
来年の天皇賞で雪辱は果たして見せます!
さて、今日は一年の締めくくりとして最後にイベントがあります。
JRA最年騎手として頑張っていた菊田さんの引退式です。
私はマスコットとして挨拶です。
「菊田さん、いままで本当にお疲れ様でした」
「ありがとう」
首に花輪を掛けられた菊田さんにスリスリして挨拶すると、照れくさそうに笑ってくれます。
「後に続く君たちが、引退する自分の後を引き継いで、名シーンを創っていって欲しい」
「ええ、観る人を引きつけるようなレースをしてみせます」
菊田コールの鳴り響く中、菊田さんが観客席に向かって挨拶をしています。
菊田さんとは短い間しか競えなかったけど、クラシックレースで相棒のグラスシャープと共に良い勝負が出来ました。
大切な思い出として忘れないようにしたいと思います。
やがて式も終わり、長かった一年が終わります。
今年一年のコスモスウィンドの成績は8戦6勝。
負けたレースも3着2回で圧倒的な強さを見せた事から最優秀3歳牡馬に選ばれました。
「おめでとう、コスモスウィンド」
(ありがとう、本当に君が僕のパートナーで良かったよ)
「来年も、もっと頑張って上を目指そうね」
(ああ、来年もよろしくな)
自分も今年は47戦して23勝。
内、妖精になってからが17勝です。
騎乗回数は少ないから勝利数リーディングは無理ですが勝率的にはかなりのもの。
これも良い馬を回してもらってるおかげです。
もっと騎乗回数が増えればリーディングに挑戦できるでしょうか?
来年は今年以上にいい成績を上げられるようになりたいです。
有馬記念が終わっても、馬相手の厩舎に盆正月は関係ありません。
厩舎全体で交代しながら休みは取るぶん残った人数でやり繰りするので普段以上に忙しくなります。
有力馬が放牧に出されたりする手薄な時を狙って出走する馬もいますし、レースそのものがストップするわけではありませんから。
そんなときですが自分は2週間も休暇をもらって実家に里帰りする事になりました。
お出かけ用のセーターとスカートを着て、カツラをしてちょっと化粧をして変装をすると事務所に挨拶に行きます。
「すみません、こんなときにお休みもらって・・・」
私は山根先生に頭を下げました。
「いいって、あれ以来一度も実家に戻っていないんだから。ゆっくり羽を伸ばしてこい」
「ありがとうございます。コスモスウィンド達をよろしくお願いします」
「ああ、気を付けていって来いよ」
厩舎のみんなとJRAの役員さんに見送られ、迎えに来たお母さんに連れられてタクシーで駅に。
そこからJRを乗り継いで博多を目指します。
自分が電子機器の塊である飛行機には乗れないから、移動手段はJRに頼るしかないので実家に帰るのも大変です。
「ゴメンね、飛行機に乗れば早いのに」
「しょうがないわよ、妖精の体質なんだし。それよりも久々に帰ったらビックリする事があるわよ」
「え?なになに?」
「秘密よ。帰ってからのお楽しみ」
いったいなんでしょうね?
「着くまで時間がかかるから、お弁当作ってきたわ。途中で食べながら行きましょう」
「わ♪ 卵焼き入ってる?」
「ええ、あなたが好きな白和えも持ってきてあるわよ」
「やったあ♪」
列車に乗ってる時間は長いけど、普段なかなか逢えないので話のネタは尽きません。
コスモスウィンド達とよくやってる月夜の散歩がとっても綺麗な事を話したり、牧瀬さんとショッピングに行った時の話をしたり、地方遠征で食べた美味しいものの話をしたり、お母さんにご近所の話や町に新しくできたお店の話を聞かせてもらったりして、お互いに近況やこの一年の話をしたり、暇を見て少しずつお弁当をつまんだりしている内に博多が近づいてきました。
博多駅に降り立つとお父さんが迎えに来てくれていました。
「ただいま~、お父さん」
「お帰り、皐月。有馬記念は惜しかったな」
「うん、でも良いレースだったでしょ」
「そうだな。見ていて最後まで目の離せないレースだったよ」
お父さんの運転で駅から1時間半ほどかかる町へと向かいます。
「しかし、この一年ですっかりJRAの花形騎手の一人になれたようだな」
「そう?自分じゃまだまだだと思っているんだけど」
お父さんは褒めてくれますけど、自分以上に上手に馬を走らせる騎手はまだまだたくさんいますし。
柘植さんなんか今年も年間116勝も上げていますし、自分とは比べものになりません。
「単純な勝敗のことを言っている訳じゃない。まわりを引きつける騎手になってきたようだと言っているんだ」
まわりを引きつける???
たしかに妖精になってからは、人間だった時よりもいろいろみんなに手伝ってもらっていますが・・・
「まだ分からないか」
父さんが苦笑しながら頭をなでてくれます。
気持ちいいけど運転中なんだから、オートマとはいえ余所見しないで欲しいなあ・・・
「ま、おいおい分かるさ。とりあえず戻ったらビックリする事があるぞ」
??? 母さんもさっき言っていましたけどなんでしょうね?
やがて故郷が見えて来ます。
町の入り口まで来た時、大きな看板が道の横に立っているのを見えました。
『ようこそ、天馬騎手 秋葉皐月の故郷へ!
資料館 直進1km進んで看板を右にお曲がりください』
「・・・は???」
いったいなんですかあれは?!
「皐月の全レースを資料として展示している。許可はJRAからもらったらしい」
「はあ?」
たかがデビュー2年目、いや妖精になってからは実質半年強しか乗っていない騎手の資料館????
たしかにJRAマスコットとして人気はあるでしょうが・・・
マスコットグッズ屋さんでしょうか???
考え込む私は父さんと母さんが顔を見合わせて苦笑しているのに気が付きませんでした。
町中に進むにつれて、電柱には私とコスモスウィンドを象ったらしい看板が取り付けられていたるのを見つけます。
あちこちの店に応援ポスターが貼られていたり、マスコットグッズが並べられていたり・・・
あげくの果てに【名物 天馬饅頭】なんてものまで売られているの見た日には吹き出しちゃいましたよ?!
なにかとんでもなく大事になっていませんか!!!???
「いや、この町は特に娯楽や観光資源がある町じゃないだろ。おまえさんが皐月賞を獲っただけでも話題に上ったぐらいだからな。
それなのにさらに妖精に召喚されてあの羽根を出して騎手を続けたもんだから話題性は抜群だったようだぞ。
普段野球やサッカーばっかり一面に飾るスポーツ新聞がおまえの話題を1面で取り上げた事もあるし、すっかり町のヒーロー、いやヒロイン扱いになってるな」
うあ~、なんかとんでもない事になってますね・・・
そのまま商店街の方に向かうと【お帰りなさい、○○町の誉れ、天馬騎手 秋葉皐月!!!】という横断幕が掛けられています。
さらに旗を持った人たちが道の両脇にいて【お帰りなさい】と書かれた旗を振ってくれていました。
「・・・お父さん、お母さん、このこと知っていたの?」
「ああ、というか、休暇もらった時点で町にはJRAから連絡が入っていたらしい。そんなわけで、おまえが帰ってくるのにあわせて凱旋式をやりたいと言われてな。
まあ、こういうことは隠しておくのが無理だし、それならかえってオープンにしておいた方がマスコミもおとなしいらしいし」
そうでしょうけど・・・本人だけ蚊帳の外ってのも心構えが出来無くって嫌ですよ~
そんな事を考えて引きつっているうちに商店街の中心にやってきたら、人だかりが出来ています。
「町長さん、町議会議長さん、商工会長さん、資料館館長さんも来てるな。皐月、カツラはとって良いから挨拶に行くぞ」
お父さんに言われたので、変装用のカツラをとってお父さんの肩に乗って車の外に出ると、まわりから歓声があがりました。
「初めまして。君が皐月君だね。私が町長の高橋だ」
「初めまして、中央競馬騎手の秋葉皐月です」
うううう・・・緊張します・・・
「我が町から、こんな活躍をする人物が出るとは思っていなかった。皐月賞を獲ったあと、妖精に召喚されていろいろと大変だったろう」
「はい、最初はいろいろ苦労した事もありました。でもまわりの人たちに支えてもらってここまでやってこれました」
謙遜じゃなくそう思います。
いつもまわりのみんなに支えてもらったから前だけを見て進む事が出来たんだと。
「それは君が諦めなかったからまわりも諦めなかった、そうではないかね?
正直、皐月賞のあと君が妖精に召喚されたと聞いて、町はヒーローを失ったと思って沈み込んだものだよ。
だが君はそのあとも諦めずに騎手への道を模索して、ついにあの天馬の羽根を得る事が出来た。
その夢を追いかける姿に我々がどれだけ励まされた事か・・・
君は町の誇りだよ。ありがとう」
こうして面と向かって言われると照れます。
自分でも顔が真っ赤になっているのが分かるぐらい。
ファン倶楽部のみんなのように、自分の走りがまわりのみんなを元気づけれてるのだとしたら嬉しいです。
「まあ英雄にも休暇は必要だ。町のみんなやマスコミにも興味本位で自宅まで押しかけたりしないように手配しているから、久しぶりの故郷を楽しんでいってくれたまえ」
町長さんの配慮がありがたいです。
思わず感謝にすりすりしてしまうぐらい♪
そのあと、議長さん、商工会長さん、資料館の館長さんからそれぞれ挨拶をもらって凱旋式は終了。
商店街の中を回って帰る事になりました。
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「ただいま~」
「はい、おかえりなさい」
久々の実家です。
前に帰ってきたのは去年の正月ですから一年ぶりです。
「ふえ~ん、つかれたよ~」
そう言うと私はグテ~っとソファーに倒れ込みます。
「こら、皐月! 女の子がなんですか!」
「だって~こんな事になっているとは思わなかったから~」
はっきり言って旅疲れじゃなくってこれは帰ってきてからの気疲れです。
「あ~、せめてスカートぐらいは着替えた方が良いぞ」
お父さんが顔を赤くして横に向けています。
・・・あ、スカートがだいぶめくれていますね・・・お父さんのエッチ。
「着替えてきま~す」
私はそう言って着替えの入ったバックを持つと自分の部屋に向かいます。
家のドアには妖精用のドアが付けられてるので自分の部屋までは一人で行けます。
自分が使っていた部屋にいくと、そこには「こっちで過ごす時のために」と言って、両親が買ってくれたお部屋セットが置かれていました。
バックの中から着替えを取り出して、ジーンズ姿にして化粧を落とすと居間に戻ります。
「ま、驚かせようと秘密にしていたのは悪かったが、挨拶ぐらいしておかないと周りも治まらないしな。ずっと家に閉じこもっている訳にはいかないだろう?」
まあ、それはそうですね・・・
驚かされたけど、みんなが自分の活躍を喜んでくれてるのは嬉しいですし。
それにしても疲れました。
まさかこんな事になっているとは思いもしませんでしたし。
なんだかここまで過大評価されていると居心地が悪いですね・・・
「明日からどうする?」
そうお父さんが聞いてきますけど、この大騒ぎじゃ買い物に出るのも大変そう・・・
「お母さんと一緒にお掃除やお正月の準備でもして過ごすことにする。買い物に出るために変装するのは大変だし」
「あら、それなら少し手伝ってもらえるように工夫してみるわね」
この日はそんなわけで一家団欒をしつつ、久々にお母さんの料理を堪能してゆっくりして過ごしました。
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とたたたたたた・・・
ぱたたたたたたた・・・
ぜいぜいぜいぜい・・・
「・・・よ~し、綺麗になったぞ♪」
今日は年末に向けた大掃除。
自分はタンスや食器棚の上の掃除を担当です。
お母さんが先に掃除機で埃を吸ってくれた後を、私がモップで掃除していきます。
卓上用のハンディモップも私が押すとなると結構大変。
息切れしてしまいますが、綺麗になると気持ちが良いですね。
「皐月、そっち終わった?」
「うん、もう終わったよ」
「じゃあ、こっちの本棚の上お願い」
「は~い」
お母さんの手に乗って次の場所に移動。
再びトタトタとモップを押して歩きます。
お母さんと二人で掃除をしていると、お父さんが帰ってきました。
「ただいま」
「「おかえりなさ~い」」
お父さんも今日で仕事納め。明日からは正月お休みです。
「お父さんも帰ってきて、ちょうど良いし、お昼にしましょう」
「やったあ♪」
お昼ご飯を食べていると、お父さんが私に話しかけてきました。
「皐月、正月に中学の同窓会があるって案内が来ていたが、出るのか?」
ああ、そういえば厩舎にも案内が来ていましたね。
中学卒業以来、競馬学校に入ってしまって顔見せていなかったし、みんなに会いたいなあ。
「いく! せっかくみんなに会えるんだし」
「そう。それじゃせっかくだし・・・」
そう言ったお母さんの目がなんとなく怖いような?
なんとなく、買い物に行った時の牧瀬さんの目に似ているような・・・
「着飾っていきましょうね♪」
「あう! やっぱりぃぃぃぃぃぃ!!!」
お父さんの運転で【妖精郷の雑貨屋さん】があるデパートに来て数時間・・・
私は正月に着る服を着せ替え人形のように着付けさせられます。
パーティードレスやイブニングドレスにチャイナ服から振り袖まで。
今着ているのがいくつ目か、数えるのも嫌になっています。
「う~ん、やっぱり活発な感じだから、どちらかと言えばシックな服よりもカジュアルな感じの方が良いわね」
「うむ、今まで着た中ではこれが一番良いと思うが」
お父さんまで頷いて見てないでください~~~
「いや、こういうとき、男は拒否権が無いものだし・・・」
しみじみと哀愁を漂わせてお父さんが言います。
妙に実感がこもっていますね?
何かあったんでしょうか?
そんな事を考えていた私はお父さんの続く言葉にずっこけます。
「それに目の保養にもなるしな」
お~と~う~さ~ん~~~
結局、今日はお母さんが満足するまで着せ替え人形になっていました。(泣)
明日は大晦日、年越しをしたら振り袖着て初詣は決定みたいです。
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「あけましておめでとうございま~す」
「おめでとう」
「あけましておめでとう」
私と両親の挨拶で一年が始まりました。
大晦日は紅白歌合戦を見て、行く年来る年を見て過ごしていたので今は年が替わったばっかり。
これから初詣です。
振り袖を着せられて、両親に連れられて近くの神社にお参りに行きます。
去年もこうしてここにきて願掛けをしてきましたが、そのせいか去年はGⅠを2勝も出来ましたし、御利益は確かかも。
御神籤に「今年は転機の年。思い切って進みましょう」とあったのも当たっていたのかな?
今年の御神籤はなんて出るのか楽しみです。
それほど大きな町じゃないけど、神社は1カ所しかないので初詣で混み合っていますね。
自分の他に妖精さんの姿は見えません・・・って、ちょっと待って!
「あ~皐月ちゃんだ~!!!」
「「「「「え(なに)!!! どこ(だ)!!!」」」」」
うひゃあ! 見つかっちゃった!
召喚率考えたら、人口8000ぐらいのこの町じゃ他の妖精なんか殆どいないわけで、しかも自力で飛んでなければ見つかるのが当然です。
一緒に写真を撮って欲しいとお願いされたり、サインをせがまれたり、あげくの果てに神主さんに巫女さんになってほしいと頼まれたりと大騒ぎ。
お母さんもなんで巫女服なんか持ってきているんですか~~~(泣)
そうこうして祓え串を神社に来る人たちに振る羽目になった私でしたが、程なくしてそれも中断する事になります。
「・・・もしかして秋葉か?なにしてんだこんなところで・・・」
そう呆れかえった口調で話しかけてきたのは中学校の同級生、桐山君でした。
「なんとなく状況に流されて・・・気が付けばこんな事になったんだよね。それより久しぶりだね、桐山君」
私は苦笑して応えます。
「何となく想像は付かないでもないが・・・そういえば同窓会には出れるのか?」
「うん、中学卒業以来、みんなとは会う機会がなかったから出るつもりだよ。もっともこんな姿になっちゃったけどね」
「よりによって妖精に召喚されて、しかも女の子になっちまうとはね」
桐山君も苦笑しています。
「そうそう、この町にはもう一人妖精に召喚されたのがいるんだけど、それがよりによって畑中なんだぜ」
「うそ?!畑中君が???」
「ああ、あいつは11月末に召喚されたんだけど、役者として修行中だったから、かなり凹んでるよ。妖精に召喚された先輩として同窓会では元気づけてやって欲しいな」
畑中君は演劇部の部長をしていたぐらいの演劇好きで、「プロの役者になる!」が口癖だったのでそれはショックでしょうね。
「わかった、私に出来る限り元気づけてみるね」
「ああ、よろしく頼むよ」
その後、桐山君と同級生の話などを聞きながらしばらく話をして、また巫女さんのボランティアに戻って・・・
結局初詣から帰ってきたのは、お空が白くなりかけた頃でした。
「眠いよ~・・・」
「・・・流石に眠いな」
「あなた、皐月、お帰りなさい」
・・・ってなんでお母さん、先に帰ってるんですか?
そういえば眠くて気が付きませんでしたが、途中で姿が見えなくなっていたような・・・
「お雑煮出来てるわよ。食べたら一眠りしてきなさい」
「は~い・・・」
お餅を山菜の吸い物風の澄まし汁に浮かべて食べるのが家のお雑煮。
私には山菜を細かく刻んで、お鍋用の板餅を軽くあぶって小さく切って入れてもらいました。
小さい時から食べ慣れた味にホッとします。
遠征先でいろいろ美味しいものを食べていますが、やっぱりお母さんの料理が一番美味しいなあ。
ふああああ、おなか一杯になったら眠くなっちゃった。
「皐月、寝るなら着替えてから寝なさいよ」
「は~い」
ほけ~っとしたまま部屋に戻って、もぞもぞと服を脱ぐとパジャマを着てベットに寝ころびます。
そのまま目を瞑るとそのまま睡魔に誘われて、夢の世界へお散歩に出てしまいました。
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「さ~つき~、いつまで寝てるの~」
お母さんの声で目が覚めました。
壁に掛かっている時計を見るとすでに午後3時です。
「ふあ~い~」
私はそう返事をするとごそごそと起き出しました。
パジャマをスウェットに着替えると居間にいきます。
「おはよう、おねぼうさん。よく眠れた?」
「うんぐっすりと・・・っていうかお母さんが巫女服なんか取り出さなきゃ、こんな事にはならなかったじゃない」
私はジト目でお母さんを見ます。
「あははは、それよりいつもの準備できてるわよ」
冷や汗を流しつつ、お母さんが言います。
「む。それではやりますか」
テーブルの上に登ると半紙と硯と筆が置かれています。
筆にたっぷりと墨を付けてもらって・・・筆をしっかりとかかえると、半紙の上を走り回ります。
正月恒例の書き初め。
去年は「勝利」でしたが、今年は「夢」にしました。
自分の走りがみんなに励ましを与えられるように願って。
明日は同窓会。
みんなにあったら何を話そうかな?
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「皐月~、桐山君が迎えに来てくれたわよ」
「は~い」
私は鏡をのぞき込んで服装におかしな所がないかチェックをすると、玄関に向かいます。
今日の服装は若草色のブラウスとスカートにカーディガンという組み合わせ。
お母さんが「これにしなさい」ていうから着てみたんだけど・・・
ショートカットにしていて男の子みたいだから、あんまりこういった格好に合わないと思うんだけどなあ?
「お~す、あき・・・」
ほら桐山君も呆れて黙っちゃった。
「お待たせ、桐山君。会場までよろしくね」
「あ、ああ・・・」
両親に見送られて、桐山君の車に乗って会場まで向かいます。
「あ~、秋葉、その服だけど・・・」
「やっぱし変?自分じゃ選べないからお母さんに選んでもらったんだけど」
「・・・いや、よく似合ってるよ」
その微妙な間はいったいなんですか?
似合っていないなら素直にそう言ってもらった方が傷つかないんですが。
私がそんな事を思っていると、表情を読んだのか桐山君が頭をなでてくれます。
「似合っているのは嘘じゃないよ。
ただな、そういった格好見てると本当に女の子になっちまったんだな~と思ってさ。中学の時は一緒に陸上部で走り回っていたのになあ」
「まあ、召喚されて八ヶ月にもなるし、いいかげん女の子するのにも慣れてきちゃったもの。普段着だけは騎手だから殆ど男の子みたいな格好ばっかりしているけどね」
さすがにスカート姿で騎乗するのは無理ですし、着飾っても汚したら洗うの自分でしなきゃいけないから大変。だから普段着にはスカートは一着も無くって、お出かけ時の変装用にしか持っていないんですよね。
こうして女の子らしい格好するのには未だに慣れていないので、自分じゃ似合っているのかよく分からないです。
そんなことを話しているうちに、同窓会場になっている料理屋さんに着きました。
「お~す、みんな久しぶり。秋葉も連れてきたぞ~」
そう挨拶しながら桐山君が貸し切りの座敷に入ると、待ちかまえていたクラスメート達が一斉に寄ってきます。
「わ~、その妖精が秋葉君?」
「かわいい~」
「これが翔か? 嘘だろ~」
「おお~、テレビでしか見ていない皐月ちゃんが目の前に~!」
「うああ? マジで秋葉か?」
「あらまあ、可愛くなっちゃって」
口々に感想を口にしてくれますが・・・なんか変なのが混じっていましたね(汗
「みんなどうもお久しぶりです。こんなんなっちゃいましたけど、私が秋葉翔改め、秋葉皐月です」
みんなが少し落ち着いたところで改めて挨拶をします。
「普段は羽根は出せないの?」
「うん、馬に乗っていないと、それも相手が自分を信頼してくれていないと駄目」
「その体で競馬するのって怖くないのか?」
「人間だって馬相手じゃ事故起きるから、体の大きさは関係ないよ?もっとも馬の世話がほとんど出来ないのは悔しいけど」
「普段はどんなことしてるんだ?」
「調教ばっかし。私の場合、自分が乗る馬は自分で調教つけないといけないから」
そんな話をしながらみんなが揃うのを待ちます。
「おまたせ~、畑中君連れてきたよ~」
「おお~これが畑中?」
「かっわい~♪」
「畑中は男のままなんだな」
「うわ~可愛い~羽根出してみて~」
などもてあそばれていますね。
私も近寄っていって見ると、そこには妖精少年がいます。
「畑中君?」
「秋葉か?」
どうやら彼が畑中君で間違いないようです。
同じ妖精同士ということで、テーブルの上に並んで座ります。
「それでは○○中学●●期生の同窓会を始めたいと思います。乾杯の音頭は津田先生にお願いします」
元学級委員長の司会で同窓会が始まりました。
「あ~、久々にみんなが集まっての同窓会だ。大いに楽しんで交流してくれ。では乾杯!!!」
「「「「「かんぱ~い」」」」」」
津田先生の音頭で一気に宴会突入です。
みんなはお酒飲んでいるけど、私はお酒で失敗して妖精になっちゃったのでジュースで乾杯します。
「それにしても二人とも大変だったな」
「まさか同級生から2人も召喚されちゃうなんて、思ってもみなかった」
「本当に、しかも秋葉君は女の子になっちゃうし」
「でも天馬の羽根のおかげで騎手を止めないで済んだのはラッキーだったかな?」
「ね~畑中君、羽根見せて~」
「皐月ちゃんの羽根も見たかったなあ。」etc・・・
機関銃のように飛んでくる話をさばきつつ、隙を見て私は畑中君と話をしています。
「大変だったね、畑中君」
「・・・まあね」
「召喚されちゃった時はどうだったの?」
「・・・思い出したくない」
「召喚されてからはどうしてたの?」
「・・・ずっと家」
「アルバイトとかする気はないの?」
「・・・無理」
・・・く・暗いです。明るくハキハキとしていた畑中君らしさが全くありません。
「もう、召喚されちゃったからには仕方ないじゃない!いつまでもそのことでウジウジしていたら男らしくないよ!!!」
そう私が叫ぶと、畑中君も言い返してきます。
「秋葉には分からないよ!妖精になっても自分の夢を追いかけられている秋葉になんか、俺の気持ちが分かるもんか!!!」
そのまま二人でにらみ合いになります。
「畑中、ちょっと言いすぎだぞ。妖精に召喚された先輩として、秋葉がせっかく話をしようとしてくれているのに」
桐山君が割って入ってくれます。
「みんなにも分かるはずがない!!! 俺の苦しみなんて!!!」
畑中君はそう言うと、羽根を出します。
・・・えっとその羽根って・・・蠅?
さっきから羽根を出さなかったのは、その羽根を見せるのが嫌だったから?
シーンと静まりかえった私たちに向けて畑中君が話し出します。
「中卒で劇団に入ってからずっと先輩達の付き人なんかをしながら役者としての修業をしていた。
そして最近は台詞はないけど通行人や群衆の役で舞台に立てるようになってきていた。
そしてこの冬公演予定の舞台で、初めてちょい役ではあるけど台詞のある役をもらえたんだ」
畑中君がそのときの嬉しさを思い出したのか笑顔で言います。
ですが、その顔が次の瞬間には崩れるように泣き顔に替わります。
「だけど、いよいよ個人練習から舞台練習に移ろうとしていた時だったよ、妖精に召喚を受けてしまったのは」
畑中君はそのまま顔を伏せてしばらく黙り込みますが、私たちは次の言葉を待ち続けました。
「・・・舞台俳優としてやっていくには妖精のサイズじゃまともに観客席から見る事なんかできやしない。
それだけで役者としてやって行くには致命的だったよ。
それでも召喚された直後は子供向けの小さな舞台でマスコット的な役者としてやっていけるかも知れないと思っていた。
でもこの羽根が出た時に、はっきり自分の夢を諦めないといけない事が分かったんだ。
誰がこんな羽根を持った妖精の役者を使いたがるって言うんだよ・・・」
「畑中君・・・」
たしかに私は偶然にも自分のやりたい事が出来る羽根を得る事が出来ましたが、畑中君の羽根じゃ・・・
畑中君が絶望した気持ちがヒシヒシと伝わってきます。
「劇団から暇をもらって実家に戻ってきた後で、これからどうしたいか考えてみた。だけど蠅みたいな害虫の羽根を持った妖精の働き口なんかほとんど無いんだぜ。虫の羽根でもトンボ羽根や蝶の羽根ならサービス業で人気があるのに」
「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」
みんなして畑中君の言葉に黙り込みます。
妖精は出せる羽根によって働ける環境に差がある事は知っていましたが、確かにあの羽根じゃ今までの夢はおろか普通に働くのも苦労しそうです。
そういった羽根を持った妖精に召喚されてしまった事には同情せざるを得ません。
でも・・・続く畑中君の言葉に私はムッとさせられました。
「秋葉はいいよな。自分の夢を続けられるような羽根が出せて有名な騎手になれて。ただ馬に乗ってお茶の間を賑わしていればお金になるんだから」
ムカッ!!!!!!
な・ん・で・す・っ・て~
思わずムッとした私はコップに入っていたジュースを飲み干すと畑中君に言い返しました。
「畑中君、いつまでも自分だけが不幸になってると思っていないでよね!!!」
「・・・おまえがどんな苦労したって言うんだよ」
そっぽを向いたまま畑中君が言います。
「勘違いしないで。私は確かに羽根のおかげで夢を諦めずに進む事が出来ている。でもそれは自分のまわりにいる人たちの助けがあってこそ。私一人じゃ何もできやしないわ!」
「羽根に恵まれた奴が何を言ってる?その羽根があるから周りの人も気遣ってくれてるんだろうが?俺みたいな羽根の持ち主を誰が気にかけてくれるって言うんだよ!」
「少なくともまずご両親。それに私とここにいるみんなも」
「・・・」
黙り込んだ畑中君をみながら一息つきます。
「妖精になったからにはみんなの手助けがなきゃ生活できないのは分かり切った事だよ。妖精になった事での苦労は私も同じようにしているんだよ。
それに私の場合は、馬に乗っていないと羽根が出せないから、はっきりいって日常生活じゃただの小人でしかないんだから!」
「・・・」
「もっとまわりのみんなを頼ろうよ。三人寄れば文殊の知恵て言うじゃない。一人でウジウジしていても仕方がないんだよ?」
「・・・」
俯いていた畑中君お顔が上がってきます。
「それにね、畑中君は私が楽していて羨ましいっていったけど、私はただ脳天気に騎手を続けている訳じゃないんだよ」
そう言うと、私はブラウスを脱いで見せました。
「ちょっとまて秋葉!何する気・・・」
「こら!皐月ちゃん!女の子がそんな・・・」
「皐月ちゃ・・・?!」
口々に制止しようとしたクラスメート達が固まります。
「・・・なんだよ・・・その、痣は・・・」
畑中君が恐る恐る近寄ってきます。
「レース中に付いた傷。妖精の体で競馬騎手をするって言う事はこういう事なのよ」
ブラウスを脱いでランニングシャツ姿になった私の二の腕や肩口には無数の痣が見えています。
「先行する馬の後ろについて走っていると、剥がれた芝や舞い上がった砂が飛んでくるんだよね」
そう、人間だった時にはそれほど影響なかったけれど、妖精の体にとっては飛んできた芝や砂は充分な凶器になります。
とくに雨の日のダートコースを走っていると、跳ね上がった泥がぶつかってきて石をぶつけられているようです。
「本来なら騎手を止めて、JRAのマスコットだけやっていればこんな目に遭わないで済む。それこそ畑中君が言ったような生活も出来ると思う」
「じゃあ・・・なんでそうしないんだよ・・・」
「支えてくれるみんなの笑顔が見たいからかな」
最初は自分の夢をつながった事が嬉しくってそのためだけに走っていた。
だけど手助けしてくれるみんながいて、初めて私は競争に集中する事が出来る。
とくに復帰戦のダービーで負けた時は私もかなり凹んだものです。
でもまわりのみんなはそんな私を励まして、初勝利に向けて一生懸命に応援してくれた。
だからその人達の期待に応えたいという気持ちがふくらんでいった。
そして自分が走り続ける事が支えになるファンの人たちがいる。
そうしたことの積み重ねが、騎手としてのやる気を保つことにつながっています。
「人間だった時より馬に乗るのは大変だし、時には大けが寸前の事故も起こる。レース中には普通に走っているだけでもこうして体を張らないといけない。
だけど、それでも支えてくれる、応援してくれるみんなの笑顔が見たいから。だから私は騎手を続けてるの。」
「・・・」
「自分の運が良かった事は認める。だけど決して楽をしたくて騎手を続けているんじゃない事は分かって欲しいの」
「悪かったよ。自分の言い過ぎだった」
畑中君がそう言って謝ってくれます。
「畑中君はこれからどうしたい?たしかに羽根の事があるから大変かも知れないけど、このまま何もせずにいじけてるつもり?」
「・・・この羽根で雇ってくれるところはなかなか無いかも知れないけど、努力もせずに諦めるには早いよな」
「うん、妖精に召喚されたせいで夢をあきらめなきゃいけなかった人はたくさんいる。私のファン倶楽部の妖精さん達も、今までとは違った生き方を探さないといけなかった人が沢山いる。だけど、それぞれに自分の新しい道を探して一生懸命に生きている。きっと畑中君も新しい道を見つけて進む事が出来るよ」
「・・・おまえって、昔から思っていたけど、本当に前向きに物事考える奴だな」
「起きた事はいつまでもくよくよ考えずに、前向きに進む。それがモットーですから。まあ、妖精になってからは感情の起伏が激しくなっちゃった感じで、時々落ち込む事もあるけどね」
私が笑って見せると、畑中君の顔が赤くなりました。
「分かったよ。俺は俺に出来る事を探してみる。だから秋葉、おまえは夢を追い続ける事を止めるなよ」
「うん、約束する。きっと日本を代表できるような歴史に残る騎手になってみせるから」
ガッチリと握手を交わす私たちに向かって、クラスメート達の拍手が暖かく降り注ぎました。
自分に出来る事は馬を走らせる事だけ。
だけどそれを通じて多くの人たちを勇気づける事が出来るのなら・・・
それこそが私にとってはなによりの力になります。
ゴールの向こうに見えるみんなの笑顔。
それを見る事が私にとって最高の宝物です。
今年は故郷のみんなの夢も乗せて走り抜けたいと思います。
To be continued
第7話をお送りしました。
今回の主テーマは一年が終わっての故郷への凱旋。
基本的に、皐月は自分に向けられている視線や感情には無関心というよりもかなり鈍感です。
今回の騒ぎについても過大評価を受けてると思っていますので、ちょっと天然がかった行動をとってしまいます。
馬にたいしてはハキハキとした行動がとれる皐月の別な一面を書いてみましたが、楽しめましたでしょうか?
後半では中学のクラスメート達を登場させて妖精の体で騎手を続ける大変さを書いてみました。
妖精になっても羽根のおかげで人間だった時の夢を追いかける幸せな主人公として書いていたので意外だったかも知れません。
ちなみに飛べる大きさまで羽根を出せばオーラに守ってもらえますし、そもそも地上を走る必要が無くなります。
ですがレースでそれをやると競馬になりません。
だから皐月はあえて羽根を小さくしてオーラーを出さないようにしているんですよね。
ちなみに皐月が福岡県出身という事にしてしまいましたが、それなら所属は栗東では?という質問が飛びそうな気がします。
ですが、実際には東京や北海道出身で栗東所属の騎手もいれば、兵庫や岡山出身で美浦所属の騎手もいます。
ここらへんはどういう割り振りになってるのかよく分かりません。
まあそれなら福岡県出身で美浦所属がいてもおかしくないかと割り切りました。
3話目で北海道が初めてとしてなければ、北海道出身でも良かったんですけど。
ここらへんは一気に話を書き上げられず、少しずつ話を進めていくタイプの書き手としては苦しいところですね~
さて、次回は・・・競馬騎手として最大の試練ともいえる出来事がテーマになります。