Fate/Next   作:真澄 十

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Act.11 お前は美しい

 叩きつけるような雨の中で、一人の男が這い蹲っていた。全身が濡れるのも構わずその身を雨に晒している。その手にもっていた双眼鏡を顔から離す。ややその顔は苦しげだが、すぐに平静の色を取り戻す。

 

「―――まさか感付くとはね。これは奇襲が難しくなりそうだ」

 

 男は衛宮切嗣だ。いや、今はエミヤキリツグというべきなのかも知れない。衛宮邸を見渡せるビルの屋上に彼の姿はある。オフィスビルらしい無味乾燥なアスファルトの建築物だ。

 

 彼は今、偵察のために衛宮邸を監視していた。自身が呼び出されたのは知らぬ民家の土蔵である。あの民家の住人は間違いなく関係者だと断じることができるだろう。軍用の暗視双眼鏡越しに監視を続けて数時間。雨が強く、これ以上は監視が出来ないだろうと結論付けようとした矢先のことだ。まさしく僥倖だろう。

 

 澪は誤作動と勘違いしたようだが、間違いなく彼女の探索魔術はキリツグを捕らえていた。しかし、キリツグの機転とその宝具の効果によって彼女は看過してしまった。

 

 反英雄・エミヤキリツグの宝具の一つ、『固有時制御(タイム・アルター)』の効果。それは固有結界を自身の内面にのみ展開し、自身の時間を制御する宝具だ。時間を減速した場合その体を流れる魔力の流れも停滞する。実体化していてもその心拍数や体温を低下させ、気配遮断スキルを強いレベルで発動できる宝具だ。澪の探知魔術や、礼装などに付加される自律機構(オートマトン)というものは、ただそこにあるだけの魔力というものを察知するのが難しい。この宝具を使われたらまず察知できない。

 

 あの刹那のキリツグの機転は特筆に価する。澪の反応から自分の存在を感付かれたことを察知し、すぐさま固有時制御を発動し澪の探索の目を欺いた。霊体になるよりもこちらのほうが早い。もしも霊体化していたら澪を欺けなかっただろう。

 

“…どこかへ行くみたいだ。これは尾行する必要がありそうだな”

 

 この暗視双眼鏡はサーモグラフの機能を備えている。雨の影響で精度に難があるが、間違いなくサーヴァント特有の反応があった。まずは一組。サーヴァントの居所をつかんだことになる。

 

 無論のことキリツグは澪の探索魔術のことは知らないが、固有時制御をうまく使用するか、気配遮断スキルに物を言わせれば探知されないのは先ほど確認済みだ。恐らくレーダーかソナーのような魔術を行使しているものだと当たりをつけた。

 音も無く霊体となる。実体を持たない状態ならば気配を殺すことができる。宝具でなくとも、気配遮断スキルだけで事足りるはずだ。

 

 だが安心はできない。気配遮断を行いながらも、細心の注意を払いながら尾行が可能な距離まで再接近する。背後からゆっくりと。先ほどと同じほどの距離まで接近しても感付く様子はない。やはり気配遮断で欺くことができる。視認できる相手の数は4人。サーヴァントは一人しか見えない。

 

今奇襲すれば一組を脱落させられるかも知れない。だが―――却下だ。

 

 キリツグなら当然の選択だろう。あの4人の戦闘能力はいまだ未知数だ。念入りな調査に基づいた策を用意してから仕掛けるべきだ。

それに泳がせたほうが良い場合も存在する。今がそれだ。あの4人はどこかへ向かっている。迷い無く進むその様子は、目的があって何処かへ向かっているとしか考えられない。

 

 これは新都に向かっているのか…?

 

 住宅地を抜けるルートで東へ。この先にあるのは深山と新都を繋ぐ冬木大橋か公園しかない。予想通り大橋を渡り始めた。もしもこの橋で感付かれたら危険だ。身を隠す場所がない。気持ち距離を開けて尾行を続ける。

 

 橋を渡りきったら南の方向へ。この先にあるのは冬木病院と教会だ。病院に用があるのかと思ったら、道を外れて教会の方角へ進み始めた。

 

 ―――教会へ向かっているのか?不可侵の掟がある教会に一体何の用が?

 

 いよいよ教会が近付いてきた。教会へと続く坂に差し掛かったあたりで、教会へと先回りすべく大きく迂回する。

きっと何かが起こる。キリツグの暗殺者としての勘はそう告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 雨のせいか、今日の夜は寒く感じる。実際はそんなことはない筈だけれど、そう思えてしまうのだから仕方がない。緊張しているのだろうか。

 

 冬木教会。私はこんなところに来たことは無い。両親の葬儀だって神式だった。教会に足を運ぶ必要も機会も無かったから、これが始めての来訪だ。

 

「澪。何か感じるか?」

 

「…今のところは何も。だけど油断しないで。向こうがこっちを捕捉できていないだけ、ということも考えられるわ。この魔術は基本的に後出しになるから」

 

 目を閉じて術式に集中する。余分な情報をカットしたほうがこの探索の術式は効果を発する。だが今のところ何も居ない。だが何も居ないという証拠にはならないのだ。

 前提条件として、『脅威』であることが挙げられる。この術は私の第六感覚の及ぶ範囲を限定的に広げる術式だ。基本的にはアーチャー相手に使用したものと変わらない。殺気や強い魔力を探知する魔術。つまり今は脅威として認識できないだけ、ということも有り得る。

 

「いい?士郎。多分ここに居るのはキャスターだと思うけれど、別のサーヴァントの可能性もやっぱり残るわ」

 

「分かっているよ、遠坂。どのサーヴァントが相手でも対応できるようにしておけってことだろ?」

 

 士郎さんは濡れネズミになるのも構わずに傘を遠坂さんに預けた。投影開始(トレース・オン)と呟きあの双剣を握る。前も見たけれどやはり不思議だ。何の魔術だろうか。文献でしか見たことが無いけれど、投影魔術というものだろうか。投影されたものはかなりの得物だ。雰囲気というのだろうか。纏っている気配がただの包丁やナイフとは違う。士郎さんはかなりの投影魔術師だということになるのかな。

 

 セイバーも同じく私に傘を預けて鎧を身に付ける。魔力で編まれた甲冑を一瞬で身に纏う。左手には盾を持ち、腰にはあの片手剣。やっぱり夢でみたものと同じだ。

 

「行こうか。リンやミオは勿論、シロウも私の後ろに居てくれ」

 

 坂道を登り始める。先頭をセイバーが歩き、その背中を守るように士郎さん。さらにその後ろに火力支援担当の遠坂さんと、索敵担当の私がついていく形。

 

 この雨だ。セイバーだって索敵能力は低下するはず。ここは私の『目』が重要になってくる。戦闘においていち早く敵を捕捉できるのは大きなアドバンテージだ。

 

「待て、セイバー」

 

 士郎さんがセイバーを呼び止める。

 

「何だ?」

 

「…その先に結界が張られている」

 

「士郎、それは本当?…だとしたらキャスターで確定かしらね」

 

 結界。それは私の目には映らない。それが攻撃性のあるものならともかく、例えばただの人払いの結界では『脅威』として認識できないからだ。

 

「では、ここからいよいよ敵陣というワケか。」

 

「ええ。気を引き締めていきましょう。」

 

 遠坂さんも傘を畳む。手ごろな茂みにその傘を放置する。…あとで回収するつもりなんだろうか。ヘンなところでケチだな。まあ私もそうするんだけれど。

 

 雨は容赦なく振り続けて私の体を冷やす。否応無く不安な気持ちを掻き立てられる。目には見えないが、この先には結界という城壁が存在する。それが例え敵を拒み、閉じ込める機能が無かったとしても、その内側は敵を殲滅するための要塞だ。ここに踏み込めば、生きては出られないかも知れない。

 

「いい?この結界はただの人払いの結界よ。これ自体に攻撃性はないけど、間違いなくここに陣取っているキャスターに気付かれるわ。」

 

「ならばどうする?結界を剥がすことは出来るのか?」

 

「一晩中かけてもいいなら出来るかも知れないけれど…。」

 

「待てん。仕方あるまい、結界を抜けたら一直線に教会まで走り抜ける。これで良いな?」

 

 今ならまだキャスターに補足されていない筈。だったら一気に近寄って切り伏せる。うん、これしか無いかも知れない。結界内でまごついていると危険だろうし、ここは目的地まで走り抜けるほうが良いのかも知れない。

 

 全員が無言で首肯する。どうやら皆同じ考えのようだ。

 

 しゃらん、と流麗な動作でセイバーが剣を抜く。その片手剣はやはり綺麗だと思う。いつの間にか、いつもとは違う引き締まった顔をしている。ゲームをしているときとは違う空気。剣呑とはまた違う。だが初めて会ったときのような、優しくも真面目な雰囲気。

 

「準備はいいか?…いくぞ!」

 

 見えない壁を切り裂くようにその剣を振るったセイバーを先陣に私達は教会へと駆けていった。

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 神の拠り所は静まり返っていた。もとより姦しい場所では無いのだが、何よりも空気が死んでいる。まるで一切の生物がその場には存在しないかのような空気だ。実際には“まだ”息のあるものも地下に若干名居るのだが、それでも空気に充満した死臭は些かも薄まらない。

 

 中はまるで光を嫌うかのような薄暗さだ。今は夜だということを斟酌しても暗い。電気が通っていないわけではないのだが、蝋燭の明かりだけで灯をとっている。そしてその光を避けるように、うぞりうぞりとあの気配は絶え間なく蠢く。

 

 キャスターと慎二は今夜の生贄を捕らえに行こうとしていたところだった。彼らが昨晩のうちに手を下したのはニュースで取り上げられた人家族では収まらなかった。一晩中かけて集めた生贄のうち、“つい”慎二が誤って殺してしまったものに過ぎない。

 

 彼らが直接手を下した犠牲者は、ニュースで取り上げられたもの達を含む数名に過ぎない。しかし彼らが関与している犠牲者という枠組みまで広げると、それはネズミ講式に増え続けていた。たったの二日ほどだが、すでに犠牲者は100を数えようかという勢いである。

 

 ネズミ講というのはまさに正しい表現だろう。何せ、いまや慎二とキャスターが何かをするまでもなく、勝手に“それ”は増え続けるのだ。慎二が求める生贄とは、ただ純粋に自分の嗜好のための犠牲でしかない。

 

 慎二は礼拝堂の信徒席、その最前列に腰掛けていた。その静謐すぎる空間の中で唯一音を立てている存在だ。苛立たしげにカツカツと指先を背もたれで鳴らす。待ち人は当然キャスターだ。

 

 慎二の不愉快を意に介していないのか、ゆっくりとした足取りでそれは現れる。歩む音は無く、やはり音を立てているのは慎二だけだった。

 

 その姿を見て慎二は喚く。

 

「何やっていたんだよ、このクズ!夜には出かけるって言ったじゃないか!」

 

「申し訳ありません、シンジ。少々研究に熱が入ってしまったようで…シンジが潰したあの少女、上手い具合に仕上げることができましてね。頭部を失った状態でも運用できました。これは大きな進歩です」

 

「ふん。僕はそんなコトに興味はないね。…まあいい、さっさと出かけるぞ。」

 

 慎二はキャスターに背を向けて入り口の扉へと歩き出す。その手が扉に触れた瞬間、キャスターは何かに驚いたかのように慎二から目線を動かした。

 

「お待ちください、慎二。…どうやら襲撃者が居るようです。」

 

「何だって?」

 

 キャスターはローブの中から一つの水晶を取り出す。一言二言なにか呟くと、そこには幾何学的な模様が走り、どこか別の風景を映し出した。

 

 その映像は、一直線に教会へと疾走する一団だった。先陣を切るのはセイバー。それに続いて士郎、凛、澪の布陣だ。

 

「セイバーですか。…魔術師(キャスター)の工房に突貫するとは、中々の気概ですね。…おや。如何なさった、シンジ?」

 

「衛宮ぁぁ…」

 

 慎二の記憶はほぼ完全に無いと言っていい。しかしいかに強力な魔術といえども、強い感情まで完全に消し去ることは難しい。彼には、『かつて衛宮士郎に屈辱的な仕打ちを受けた』という記憶が酷く胡乱に存在する。そして憎悪のような負の感情は、キャスターによって何倍にも増幅されている。

 

 今の彼は、復讐に囚われている。今にも歯を噛み砕きそうだ。そしてその憎悪の勢いをそのままに飛び出そうとしたが、それをキャスターは留めた。

 

「シンジ、主君は城内で腰を重く構えるものですよ。ここはこのキャスターめにお任せを」

 

「キャスター!命令だ、衛宮を殺せェ!」

 

「…ふふふ……仰せのままに、シンジ」

 

 その様子を見て、キャスターは酷く面白そうだった。

 

「さあさ、目覚めなさい。私の下僕共よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイバーはその異様を感じ取っていた。確たるものではないが、彼の直感スキルはこの異常を感じ取っていた。

 

 ―――空気が死んでいる。

 

 セイバーはこの空気を知っている。これは死が充満した空間の肌触りだ。死体が溢れ、血が地を汚したときの空気。今のこの場所の空気はそれだ。

 

 今になって悔やんでも無益だが、セイバーはここに訪れたことを後悔し始めていた。

 

 ここは良くない場所だ。思い出したくない場所を思い出してしまう。

 

「見つけたわ。教会の中に、サーヴァントらしきモノがいる!」

 

 だがもはや遅い。キャスターには確実に進入を察知されている。今になって敵に背を向けるのは自殺行為に他ならない。ゆえに進む。せめて自分が先陣を切ることで後続が危険に晒されないように。

 

 些か拍子抜けだが、今のところ何の障害も無い。もう教会は目の前だ。このまま中に押し入って――――

 

「待って!!」

 

 だがその進軍を止めたのはしんがりを務めていた澪だ。雨音に負けないように声を張り上げて叫んだのは、彼女が感じた危険を伝えるためだ。

 

 彼女の探索魔術は『脅威』となるものを探索するのだが、それは彼女には気配のような形で伝わる。つまり、あの方向に何か嫌なものがいる、という感覚で伝わるのだ。しかし精度が悪いというワケではない。彼女にとっては手に触れるようにそれが感じ取れる。

 

 そしてそれが、今この瞬間に全方位に現れた。まるで、眠っていた何かが目覚めたかのようなものだ。100メートルほどの間隔を開けて自分達を方位する形で現れたそれは、サーヴァントには及ばないものの、生身の人間と比べれば強烈に過ぎる気配。

 

「囲まれている…!」

 

 教会を囲む雑木林の中。そこに、何かが居る。その気配のおぞましさを澪は感じることができた。これはきっと良くないものだ、と。

 

「いつの間に囲んだのやら…ミオ、リン。決して私から離れることの無いように。シロウ、剣の心得があると見た。可能な限り自分の身は守ってくれ。」

 

 先行していたセイバーが凛と澪の元へ駆け寄る。後衛を守るのは前衛の仕事だ。特にセイバーにとって澪はマスターである。命を賭して守るべき存在だ。自然と互いを背中で庇うような円陣を組む。外周にはセイバーと士郎が、内周には凛と澪が。

 

 雨音だけが響く。雨粒が目に入って前方が視認しにくい。しかしそれを拭うこともなく、4人は沈黙のままにじっと構える。

 

 セイバーは盾で身を守りながら。士郎は干渉・莫耶を交差させて。凛は宝石を指に挟んで。澪はさらに詳しく敵を探りながら。

 

「セイバー、来るわ!」

 

 雨で低下した視界でセイバーが敵を認識するよりも、澪の探索のほうが早かった。彼女が感じたのは、自分達を囲む何かの一つがセイバーに向かって飛び出したこと。

 しかも速い。普通の人間では目で追いきれないほどのスピードで向かってくる。もしももっと距離が詰まった状態からの行動だったら、きっと澪の声は間に合わなかったに違いない。

 

「破ァッ!」

 

 だがその速度はサーヴァントにとっては大した脅威にはならない。

 

夜の雨の向こうにソレの姿を認めた瞬間、その稲妻の如き俊足の刃を横薙ぎに振るう。声になっていない低い悲鳴。向かってきたソレをセイバーの剣は容赦なく両断した。

 

 どしゃり。

 

 何か大きいものが泥に倒れ伏す音がした。4人は敵の姿を見ようとそれを見下ろす。最初にそれの正体を見破ったのは目のいい士郎だった。

 

「こ、これは…」

「キャスター…やはり貴様は切り捨てなければならないようだな」

「……反吐が出るわね。士郎、キャスターはここで倒すべきよ」

「…同感。吐きそう」

 

 それは死体だった。セイバーが切り捨てたから死体だと言うのではない。それは、元から死体だった。

 そうと分かるのは、その肉のあちこちが腐り落ちていたからだ。一部は骨まで見える。目は当然のように失われていて、そこには大きな空洞が二つあるだけだ。よくよく見れば蛆がその体を啄ばんでいる。4人はそうしなかったが、鼻を嗅げば腐臭が漂っているに違いない。それが胴体を真っ二つに切り裂かれ、血を流すこともなく沈黙している。

 

 だが忘れてはならないのは、この死体が今しがた動いて襲い掛かってきたことだ。それも人間を凌駕する速度と澪が感知できるほどの魔力を孕んだ状態で。

 

「死者を冒涜するか、キャスター!」

 

 セイバーは天まで届くような大声で叫ぶ。澪は背中を見守ることしか出来なかったが、その怒気と嘆きは痛いほど伝わってきた。何故だかわからないが、セイバーはきっと泣いている。澪はそう感じた。

 

「冒涜とは心外な。これは神聖なものであるというのに。」

 

 そしてキャスターは教会から現れた。そのゆっくりとした足取りは余裕さえも感じられる。そしてそんな様子が余計にセイバーの神経を逆撫でする。

 

 キャスターの顔と声には嘲りの念が込められている。まるで、何も知らない幼子を相手にしているような態度だ。

 

「戯言を、外道め。これのどこが神聖だというのだ」

 

「―――完全な復活(リザレクション)

 

「…何だと?」

 

 突如呟かれた言葉にセイバーは怪訝な様子だ。およそ文脈が欠如したと思われるその言動には眉をしかめる。だが、キャスターはそんな様子を見てますますセイバーを嘲笑うかのような色を強めた。

 

「やれやれ。これだから剣を振るうしか能の無い奴原は…。いいですか、完全なる復活(リザレクション)です。完全なる肉体と魂の蘇生。これが神聖でなくて何だと言うのですか」

 

「戯け。これのどこが『完全なる』蘇生だ。貴様の行いはただ死者を弄んでいるだけであろう」

 

 彼我の距離は50メートル。セイバーはその遠方からキャスターを視線だけで殺そうと睨みつける。そしてその怒りの乗った剣の切っ先をキャスターの首に向ける。それの意味は語らずとも伝わった。

 

「全く…いつの時代も先駆者は理解されないのですかな。いいですか、貴方が切り捨てたそれは未だ完成に至らぬ不完全なもの。完全なる復活(リザレクション)とはかけ離れていると言っても過言ではありません。私は彼らの協力をもとに、いずれその境地へと辿り着く。死者の復活…とても神聖だとは思いませんか?」

 

「ふざけるな!関係の無い人たちを犠牲にして…!キャスター、俺はお前を許せない。早くこの人たちを解放しろ、さもないとココで倒れてもらう!」

 

 怒りを露わにしたのは士郎だ。セイバーと同じく、その烈火の視線をキャスターに注ぐ。

 

 その言葉と視線を受けて、キャスターは心底不思議そうな顔をする。そしてニタリと、あの粘着質な笑みをセイバーに向けた。セイバーだけではなく、その笑みを見た3人は背筋に何かおぞましいモノが這い上がってくる感覚を覚える。

 

「いやいや…倒れるのは貴方のほうですよ。折角良い研究材料が来てくれたのですから」

 

 そしてキャスターの視線は士郎、凛、澪へと注がれる。セイバーは直感した。もしも自分がココで倒れれば、この3人の末路は足元のソレと同じものとなるだろう。それ即ち、死してもその体を弄ばれ、キャスターの奴隷となるということ。

 

 その方法は分からないが、おそらくはキャスターの宝具だろう。死者を呼び覚まし使役するそれは、死者を冒涜しその尊厳を貶める許されざる魔術。

 

「いつまでそこで寝ているのですかな?他の者も早くこの者達を始末しなさい」

 

 その死体に背を向けていたセイバーは反応が遅れたが、円の対極に居た士郎にはその様子を見て取れた。

 

 ―――倒れたはずの死体が、気味悪く蠢いて起き上がろうとしているのを。

 

 気付けば切り裂かれた筈の胴体は繋がっている。若干の痕は見受けられるものの、確たる力を持ってセイバーの背後を襲おうとしている。その乱杭歯は一つ一つが鋭く、いかにサーヴァントといえどもその歯で喉元を食い破られれば致命傷だ。

 

「セイバー、危ない!」

 

 士郎は咄嗟にその双剣でソレの首を刈り取った。ソレは再び力を無くしてその場に倒れ付す。しかし頭部を無くしたにも関わらず、それは腐臭を漂わせながら再び起き上る。落ちた頭部を拾い上げ、切り口を合わせると凄まじい瘴気を発しながら傷口が塞がる。

 

「な、なんだコイツは…!」

 

「一斉に来るわよ、注意して!」

 

 だが士郎達に驚愕の暇は与えられなかった。ぐるりと囲んでいたソレらの輪は急激に半径を狭める。澪にしか分からないことだったが、まさしく逃げ場は無い。

 

「ミオ、数はどれほどだ!」

 

「ひ、100は下らないわ!」

 

 ―――その悲痛の叫びと共に、不死の軍団との闘争は始まった。

 

 声になっていない咆哮と共に、ソレは殺到する。その速度はやはり驚異的。サーヴァントに及ばないが、士郎や凛、もちろん澪には及びもつかない速度だ。

 

 セイバーはその左手の盾でソレらの腕と牙から体を守り、右手の剣で手当たり次第に切り裂く。その肉質は見た目からは予想もできない程に硬質だ。膂力も並大抵ではない。今にもその盾を引き剥がされそうだ。無論、セイバーだけなら難なく囲みを突破するだろう。しかしそれでは澪が危険に晒される。凛と士郎だけでは澪を守りきれない。

 

「ミオ、決して私の背中から離れるな!」

 

 戦闘が行えない澪を守るように、他の3人が背中で庇う。澪を中心とした円の形だ。

 

「くそ!」

 

 士郎はその双剣で敵をなぎ倒す。右で受けて左で叩き斬り、次は両方で受けて蹴り飛ばす。一体を裁けば他の一体が襲ってくる。だが士郎は流れるような動作でそれを捌く。7年前とは比べるまでも無い剣捌きだ。

 

「遠坂、大丈夫か!?」

 

「これが大丈夫に見えるなら眼科に行くことね!」

 

 一方凛はガンドと宝石魔術、さらには中国拳法を駆使して敵を殲滅する。接近を許したソレには拳を叩き込み、隙を見出しては魔術で攻撃する。

 

 宝石魔術やガンドは一工程(シングルアクション)で魔術を発動できるのが強みだ。勿論それを使う度に凛の財政は圧迫されているわけだが、今は命のほうが大事である。凛は手持ちの宝石を惜しみなく使用していく。

 

 だが凛もまた苦しい。宝石は使いきりの消耗品だ。いずれ底を衝く。ガンドも無限に放てるわけではない。凛の体術は見事ではあるが、それだけでコレらを打倒するのは困難だ。

 

 ならばバーサーカーを使えば状況を打開できるか?絶対に否だ。

 

 バーサーカーを運用する際に絶対してはいけないこと。それは持久戦や消耗戦だ。戦いが長引けば長引くほどマスターは死へと急速に近付く。

 まさしくこの状況がそうだろう。バーサーカーがいかに強力でも、この囲いを破る手立てとして有効かは怪しい。マスターである凛であってもその正体が掴めないのだ。この囲いを突破する力があるか、甚だ疑問が残る。

 

 囲いを破るのに梃子摺れば凛は死ぬ。徒に魔力だけを消費し、何も出来ないままに死ぬ。だからバーサーカーは呼べない。呼べるわけがない!

 

 セイバーは臍を噛む思いだ。彼の宝具ならこのような状況を打開できるかも知れない。だが彼の宝具はひどく扱いが難しいのだ。この位置関係では、ほぼ間違いなく3人までも巻き込む。ゆえに発動できない。それを発動できるならセイバーの剣はキャスターまで届くのに―――!

 

 次々にその乱杭歯で噛み千切ろうと殺到する。セイバーが切り裂く、士郎が刈り取る、凛が砕く。しかしソレらは何度も立ち上がる立ち上がる立ち上がる―――!

 

「く、キリが無いわ!」

 

 凛が悲鳴に近い声をあげる。この状況で不利なのは間違いなくセイバーたちだ。状況は時間が経つにつれてキャスターに有利に働く。キャスターの軍はいくら切り捨てても、それを肉塊にしようとも何度も立ち上がる。さすがに凛の魔術で木っ端微塵にすれば再生に時間が掛かってしまうようだが、100の軍勢を退ける前にそれは起き上がる。

 

 最初からこの状況は王手詰み(チェックメイト)。何か破格の力でこの囲いを踏破しない限り、セイバーたちに勝機は訪れない。

 

 澪を除く3人は次々に敵を打ち倒す。だが敵は倒れては起き上がり、一向に勢いは衰えない。当然だ。頭部を破壊されてもなお立ち上がり襲い掛かってくる。炎で攻めても、燃える速度よりも回復する速度のほうが速いのだ。

 

「おおおおおぉぉッ!」

 

 だがセイバーはその剣を振るうのを止めない。それを止めれば背中の澪に危害が及ぶ。それが無駄だとしても剣を振るうのを止められるわけがない。全ては守るために。聖杯が彼の望むものではないと分かった今、彼を動かすのはもう一つの信念のみだ。

 

 殺到するソレらを盾で防ぎながら、目に付いた一体の頭部を両断した。腐った血液が飛沫を上げる。直後に別の一体が牙を剥きだして襲い掛かるが、返す刃で胴を絶つ。盾で強く弾き、ひるんだソレらを払う一撃でまとめて切り裂く。

 

 まさしく暴風。ソレの腐った体液すらも寄せ付けない。しかし敵は海だ。いくら波を切り裂こうとも、新たな波が牙を剥く!

 

 仲間の死骸を踏み越えて新たな敵が襲い掛かる。足元では蘇生が既に始まっており、程なく立ち上がり再び彼らに牙を剥く。

 

 すでにセイバーは何体斬ったか分からない。全員合わせて敵の倍は切り裂いたはずだ。しかし敵は未だ尽きない。辺りに瘴気を撒き散らしながら立ち上がり、何度でも襲い掛かる。

 

「気をつけて凛さん…!」

 

 敵の攻撃にはある程度の波の大小がある。100体が綺麗に三分割で襲ってくるわけもなく、一方が手薄になれば他の誰かに集中する。

 

 澪は探索魔術で敵の動きを読み、次に誰に波が来るのかを伝える。今の彼女にできるのはこれだけだ。

 

「―――Zehn《十番》、Gletscher《凍てつけ》!」

 

 凛の宝石から極大の冷気が放出される。それは地面から針のような巨大な氷柱を次々に発生させる。氷柱は次々に敵を閉じ込め、その先端の針で刺し穿つ。

 

だが時間稼ぎにしかならない。こんなもので閉じ込めただけでは、すぐに氷の檻を砕いて復帰するのだ。現に氷柱はびしりびしりとヒビを入れられて悲鳴を上げている。

 

「ふっふふふ…良いですね、これは良い。これほど活きのいい実験体はそうそういません。そうだ、サーヴァントにも生身の人間と同じ術式が適応されるのでしょうか…これは是非とも実験しなければ」

 

 キャスターは笑みを零す。彼にはセイバー達は敵として写っていない。いや、人格のある人間として写っているかどうかも怪しい。

 

 ―――哀れにも囚われにやって来た実験体(モルモット)

 

 モルモットにかける憐憫の情など持ち合わせるわけもない。ただ必要があるから切り刻む。ただ興味があったから弄り回す。そうして出来上がった哀れな犠牲者があのゾンビのようなモノだ。いや、あるいは死徒というべきかも知れない。

 

 キャスターは彼らをこう呼ぶ。「悪臭(メフィティス)」と。それはブードゥーのゾンビでも死徒でも、もちろん真祖でもない。

 

 だがその力は、死徒であると言われても不思議ではないほど強力だ。四肢にこもる力は士郎よりも強靭であるし、それに内包された魔力普通ではない。魔術師である凛や澪には及ばないが、元一般人が持ちえる魔力ではない。

 

 さらには復元呪詛だとしか思えないほどの再生力。頭部を潰してもなお立ち上がるほどとなると、もはや真祖の領域である。

 

投影開始(トレース・オン)!」

 

 士郎は干渉莫耶を投げ捨て、新たな得物をその手に握る。

 

 不死殺しの『ハルペー』。鎌状のその剣で傷つけられたものは、その傷を決して癒すことは適わず、不死の力を無効化する能力をもった剣だ。

 

「おおぉっ!」

 

 気合と共にその剣を振るう。鋭利な鎌は唸りを上げてメフィティスの首を刈り取った。崩れ落ちるメフィティス。だが―――

 

「―――効かない!?」

 

 些か回復速度が鈍ったように思える。だが不死殺しの剣を以ってしてもその再生を止めることが適わない。

 

 士郎は考える。

 

 ―――強力な宝具の真名開放で蹴散らすか?

 

 …いや、ありえない。とんでもない愚策だ。この不死の軍団、例え『勝利を約束された剣(エクスカリバー)』であっても殺しきれない。囲いの一部を一時的に破ることはできるかも知れないけれど、確実にすぐに復活する。跡形もなく一撃で吹き飛ばしたとしても、これらが蘇生しないという確証にはならない。…いや、確実に蘇生する。復元呪詛に近いものを持っているのなら、確実に蘇る…!

 いや、そもそも一部だけを殲滅したんじゃダメだ。すぐにその穴を塞がれる。俺じゃエクスカリバークラスの宝具を連続で使用するなんて到底できない。

 

「おやおや…面白い得物を持っていますね。しかし私には効きませんよ」

 

 再生力は破格。ハルペーを以ってしても無効化できない。この再生が無ければ4人は難なく囲いを突破しただろう。しかし、本当の意味で不死身としか思えないその力のせいで、正しくキリがない。

 

 ―――いいえ。不死身など在り得ないわ。

 

 凛は考える。

 

 真祖であっても殺そうと思えば決して不可能ではないのよ。まして、吸血鬼でもないこれらが不死であるわけが無いわ。

 

 きっとこれらにはキャスターからの魔力供給がある。この脅威の再生力だって、きっとキャスターの魔術のバックアップがあってこそ。

 

 だったら持久戦に持ち込めばいずれ尽きる?

 

 ―――いいえ。それはできない。キャスターが力尽きるよりも私や士郎が倒れるほうが絶対に早い。

 

 だったらどうする?

 

 拙いのは位置関係。私達を取り囲む形ではなくて、例えば離れた場所で敵が密集してくれれば対処は出来る。

 

 答えは、一つしかない。

 

「士郎!」

 

 凛は背中の士郎に向かって叫ぶ。その意味は語らずとも伝わったようだ。

 

 固有結界、『無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)』。士郎の心象世界を展開して現実の世界を侵食する大魔術。その猛威ならば、きっとこのメフィティスの囲いを殲滅し尽し、キャスターにもその刃を浴びせることができるだろう。

 

 士郎は剣を振るうのを止めずに世界を侵食する呪文を紡ぐ。

 

「―――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)。」

 

 彼の内面にはただ無限の剣だけがある。ゆえに、彼の体は剣で出来ている。

 

「―――Steel is my body(血潮は鉄で), and fire is my blood(心は硝子).」

 

 彼の肉体はただ鉄を打ち、剣を鍛えるためにある。ゆえにその血は鉄。

 

 彼の心はただ鉄を打ち、剣を鍛えることしか無い。ゆえにその心はどこまでも透明で冷たい。それはつまり硝子。

 

「―――I have created over a thousand blades(幾たびの戦場を越えて不敗).」

 

 彼に敗北など無い。何故なら彼にとって戦闘とは己との戦いに他ならないからだ。

 

「何をしようというのですか?下策を弄したところで、私の『悪臭(メフィティス)』を破れるとでも?」

 

 キャスターは怪訝そうな顔をする。だが余裕を崩さないのは、サーヴァントでもない人間が自分に実害を与えるとは露とも思っていないからだろう。

 

「―――Unaware of loss(ただ一度の敗走もなく). Nor aware of gain(ただ一度の勝利もなし)

 

 己との戦いであるがゆえに敗北は無い。しかし、そこには勝利と呼べるものも無い。

 

「シロウ…?一体何を」

 

 セイバーもまた怪訝そうだ。剣を振るうのは止めないが、その顔は士郎の様子を伺っている。

 

「―――With stood pain to create weapons(担い手はここに独り). waiting for one's arrival(鉄の丘で剣を打つ).」

 

「セイバー、澪。これから起こることは他言無用よ。…絶対に」

 

「せ、世界が侵食され始めている…?!まさか、これは―――」

 

 『送受信』の八海山の血がそれを教えたのだろうか。あるいは『脅威』を探索する澪の魔術がそれを感知したのだろうか。

 

 士郎の言葉すべてに言霊が宿り、徐々に世界を塗り替えていくのが澪には感じられた。

 

 澪は思い当たる。この魔術の正体を。魔術師であれば大抵のものは知っている、その大魔術、禁断の術の名を。

 

「――I have no regrets.This is the only path(ならば、我が生涯に意味は不要ず).」

「―――My whole life was (この体は、)unlimited blade works(無限の剣で出来ていた)”」

 

 そして世界は侵食された。

 

 地面に炎が迸り、それは彼ら全員を囲む。そこから発せられる火の粉から目を守ろうと、士郎とメフィティス達以外は腕で目を庇う。

 

「これは―――固有結界…?」

 

 澪が最初に感じたのは、雨ではなく乾いた風がその頬を撫ぜる感触だった。恐る恐る目を開けると、そこに広がっていたのは―――。

 

 剣。剣。剣。剣。剣。

 

 ただひたすらに広大な荒野に、無限の剣が突きたてられている。火の粉舞う丘の上にいるのは、素手で佇む士郎だ。

 

 いつの間にか位置関係も変わっている。ぐるりとメフィティスが囲む形ではなく、距離をあけて士郎たちとキャスターたちが対峙する形。だが士郎だけが前に出ている。他の3人を背中で守る形だ。

 

 ―――アイツ(アーチャー)の背中に似てきた。

 

 凛はそう思った。背も少し伸び、筋肉は発達し、髪と肌の色までもエミヤシロウに近づいてきた。だが見た目の問題ではない。在り方、というべきか。纏う雰囲気が少し似てきたように思える。

 

 もちろん、普段は以前と変わらない士郎だ。だがこのような荒事のときに、ふとその面影が重なることがある。

 

「こ、これが…固有結界…!」

 

 圧倒的。澪にはその言葉しか浮かばなかった。そして悲しい。士郎の心象世界はこんなにも無機的で寂しい場所なのだと思うと。

 

「―――つ!?」

 

 そして叩きつけられるような激痛が澪を襲った。誰よりも背後にいたため、その異変に誰も気づけない。誰も彼も士郎の固有結界に目を奪われている。静かに地面に手をつく。

 

 ―――聖剣、

 ―――――炉に身を投げ、

 ――友を、

 ――――――――竜殺し、

 ――――勝利すべき、

 ――――――射殺す、

 ――――因果の逆転、

 ―――絶世の剣、

 ――――全て遠き、

 ――アイアス、

 ―――――――害為す、

 ―――無限の剣製、

 

 津波のように押し寄せては消える、意味のない情報の羅列。それらは凄まじい勢いで澪の脳内でガンガンと響き、その度に頭が割れそうなほどの激痛が襲う。

 

「なにこれ…。頭が、わ、れる…!」

 

 澪にとっては必死の叫びだったのだが、その声は虫の息使いよりも小さい。だが霊的に繋がっているセイバーは澪の異常を感じとったようだ。

 

「ミオ、どうした…!」

 

「キャスター、テメエが挑むのは無限の剣だ」

 

 士郎が右手を掲げると、突き刺さっていた剣が一斉に抜けて空で留まる。それらは一本一本全てが名剣、宝剣の類。そしてそれらが、ぐるりと向きを変えてメフィティスの群れへと切っ先を合わせた。

 

「な、な…」

 

 キャスターの指先は信じられないものを見たかのようにわなわなと震える。その顔面は蒼白になりつつあり、頬を冷や汗が伝う。

 

「いくぞ、キャスター。―――兵の数は十分か?」

 

「お、おのれェ…!メフィティスども何をやっている、私を守れェ!」

 

 メフィティスが密集してキャスターを守る。さながら肉の城壁だ。それも圧倒的速度で修復される城壁。

 

 剣が飛来する。それは軌跡に閃光だけを引き連れて城壁へと向かう。着弾。穿つ。切り裂く。抉る。爆発。

 

 流星群のごとく飛来する。それが着弾するたびにメフィティスの城壁は腐った血飛沫をあげ、肉片を撒き散らす。そしてすぐに爆発の炎に巻き込まれてそれすらも見えなくなった。

 

 最後の一本が着弾したときには、キャスター達の姿は黒煙で見えない。辺りには肉の焼ける匂いが充満している。

 

 その煙が薄らいだとき、キャスターは未だ立っていた。だが彼を守るものは無い。全て消し飛ばされた。だが、士郎の見立て通りすでに再生が始まっている。キャスターの周囲には瘴気が漂い、それが固まって徐々にメフィティスを再構築しつつある。

 

 だが、今この瞬間のキャスターを守るものは何もない。

 

 士郎が再び剣に号令を発すると、先ほどとは別の剣が宙に漂いその切っ先をキャスターに向けた。先ほどメフィティスに浴びせた剣と変わらない数の剣。貧弱なキャスターを葬るには十分に過ぎる威力の剣たちだ。

 

「これで、止めだ」

 

「―――いやいや、勝ち誇るのは早いのでは?」

 

 だがキャスターは急にその顔を余裕の色で塗り替える。その態度の急変に士郎は不審を抱く。だがその不審を無視して、宝具の軍勢に号令を下す。

 

 号令と同時に、数多の剣がキャスターを刺し穿とうと殺到する。それらは唸りを上げ、必殺の威力と速度を以ってキャスターを殲滅しようと疾走する―――!

 

「私を狙うのを待っていましたよ。我が宝具を以ってすれば、こんなもの無意味なことです」

 

 キャスターが右手を掲げる。そして高らかに宣言した。

 

「『留まれ、お前は美しい(グレートヒェン)』!」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【クラス】キャスター

【マスター】間桐慎二

【真名】???

【性別】男性

【身長・体重】174cm 65kg

【属性】混沌・悪

【筋力】 E  【魔力】 A

【耐久】 D  【幸運】 B

【敏捷】 E  【宝具】 A+

 

【クラス別能力】

 

陣地作成:B

魔術師として有利な陣地を作り上げる。工房の作成が可能。

 

道具作成:A

魔力を帯びた道具を作成できる。いずれは不死を可能にする薬を作ることもできる。

 

 

 

【保有スキル】

 

精神汚染:C

精神がやや錯乱しているため、他の精神干渉系魔術を低確率でシャットアウトできる。

このレベルであれば意思疎通に問題は無い。

 

知識探求:B+

未知に対する欲求。未知のものに出会っても短時間で混乱から立ち直り、それを理解する。

また、自分が扱う魔術体系の魔術であれば、低確率でそれを習得できる。

 

???:?

???

 

【宝具】

留まれ、お前は美しい(グレートヒェン):A+

対界宝具・レンジ1~999

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??・レンジ?

???

 


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