技術革新は起こらない。ファンタジーな現象も起こらない。
ただ、バトルスピリッツを遊ぶ人間達の1コマを切り抜いたお話。
獅子は、どんな時でも本気で遊ぶ。今回はそんな話。
『あぁ~っ! また負けちゃった……』
『これで俺の五連勝だな。けど、さっきのターンでリーサルあったぞ』
『えぇっ? でも、あの盤面で決めに行くのはちょっと……』
『こいつから殴り始めてれば、こっちの受けをケアできたからいける』
『うぅ……』
『おいおい泣くなよぉ。俺が泣かせたみたいじゃんか』
『だってぇ……自分が弱いのが、悔しくって……
……エイシさんは、どうしてそんなに色んなデッキを使いこなせるの?』
『あー、それな。それはな──』
──バトルスピリッツは、青春と言う紙束を彩る紙片だ。
──紙束をデッキと呼ばれるものにできるのは、自分だけ。
──やりたいこと、やるべきことが成立するよう、強く回す。
──それが、何年経っても自分の
◆◆◆
一言で言って、
"アニメの世界からやってきたんですか?"などと言う気色の悪い問いが浮かぶが、必死に抑える。それよりもまず、確認を取らなければならないことがあるからだ。
「えっと、その、"ぷらいど"さんで……?」
男は、手元に置いたスマホからTCG+で確認を取りながら自分の席に座る。
平日
「──はい。そうですけれど」
「そ、そうですか。自分は"ヌ"です、確認お願いします」
「はい、ヌさんですね? 確認しました。どうぞ、よろしくお願い致します」
対戦卓の向こうに座る女性は、スマホでTCG+を確認した後、静かに会釈した。その仕草は優雅を極めていた。
腰まで流れる黒髪が、艶やかに揺れる。切れ長の瞳が、静かにヌを捉える。
モデル顔負けのその美貌──その存在感が、ヌの精神を圧倒する。あらゆる意味でカードショップなどにいてはいけないような存在だと。
率直に、端的に言って、彼女は。
(すっ……げぇ美人じゃん……)
ヌは、デッキのシャッフルも忘れてぷらいどに見惚れた。女性プレイヤーは珍しい。ただそれだけのはずなのに、彼の心は激しく揺れていた。
──ヌ。本名を
彼は高校生の頃にバトスピを始め、学生から社会人になると同時にバトスピから距離を置いた。
忙しさが落ち着くまでの一時的な引退と思っていたが、以前まで自分が贔屓にしていたショップがバトスピを取り扱わなくなったのを知って、徐々に触ること自体を躊躇うようになっていった。
だが、SNSで流れてきたバトスピ新作アニメの情報を聞いて、冷めた熱が再燃──バトスピへの復帰を決意した。
思い立ったが吉日。彼はその熱を頼りに見知らぬショップへと足を運び、丁度開いていたショップバトルへ電撃参加──錆び付いた自分の腕とデッキが、今の環境でどこまで通用するかを試したくなった。
ただ、それだけだったのに。
「こちら、準備はできておりますので」
「えっ、あっ、はい、すみません!」
「焦らないで下さいね」
見れば、ぷらいどは既に対戦に必要な道具一式──プレイマット、コア、デッキ等の準備を一通り終えていた。
ヌは慌てて準備を始めた。その様子を見て、ぷらいどは落ち着くように柔らかく促す。
……促す彼女の左手の薬指に目が行く。指輪の輝きがあった。薄紫色の、ごくシンプルなデザインの一品──つまり、結婚指輪だ。
現実を見据え、ようやくヌの高ぶった感情が静まる。
(……慌てるな。美人だからなんだ、俺はバトスピしにきてるんだぞ)
ヌもまた全ての準備を終える。じわり、と手札を握る手に汗が滲む。
久しく忘れていた緊張感が、彼の眠れる戦闘本能を呼び起こす。
(──勝負だ。彼氏の付き合いでやってる程度の腕なら、瞬殺してやるぜ)
これでも、ヌは以前通っていたショップでは無敗を誇るチャンプだった。埃にまみれた"よすが"と言えど、彼の心はそれで十分に奮い立った。
環境など知ったことか。俺と、俺の『機獣』が牙を突き立てて食い破ってやる。そんな、猛獣のような思考回路が走る。
──彼のデッキは、ミラージュ効果を持つ機獣を中心として細かなシナジーを積み重ね、素早く殴り勝つことを目的としたビートダウン。対応力には劣るが、機獣には"装甲"持ちが多い。装甲などの耐性を持つ生き物の場持ちの良さは、現代のバトルスピリッツにおいても変わらない。
相手がその対応にもたついている間に、対処困難な大型を投下して勝つ。明瞭なコンセプトの元に組み上げられたデッキだった。
「では、よろしくお願いします。
──真剣勝負、共に楽しみましょう」
対するぷらいどは、終止穏やかだ。
それは、目の前に迫る危機が理解できずに佇む無害な草食動物のよう。だから、彼女はそのように、ごく静かに笑顔を浮かべる。
笑顔の端からは、鋭い八重歯が覗いていた。
◆◆◆
それは、床に盛大にブチ撒けられたインク溜まりのようだった。
勝負の盤面は、一色に塗り潰されていた。
状況は火を見るより明らかだ。勝敗は完全に決している。後は、それを認める宣言だけだ。
「──では、このアタックはどのように」
「ライフで受けます。ありがとうございました」
ライフ0。敗北が告げられた。
「はい。こちらこそありがとうございました」
敗者に引導を渡したカードの色は、紫。白ではない。
ショップバトル一回戦の結果は、ヌの敗北、ぷらいどの勝利で決着した。
ぷらいどは笑顔の表情を崩さず、ヌは愕然とした表情を隠せない。
(マジかよッ……)
ヌの頬を冷や汗が伝っていた。
序盤こそ、ヌのデッキは"上振れ"と呼べるほど回りに回っていた。思い通りに機獣の展開も順調に進み、後はただ殴るだけ。この時点で、既に彼は勝ちを確信していた。
しかし、そんな勝利確定の状況は、まるで必然の如く、ただ一枚のカード効果によって覆され、事態は一変した。
「やったっ」
ぷらいどは、ごく小さくガッツポーズし、ささやかに喜ぶ。しかし、ゲーム中の彼女にこんな可愛らしい仕草は無かった。まるで別人だ。
事態が一変したとて、無抵抗だった訳ではない。しかし、ヌの応じ手はその尽くを冷徹に潰され、手どころか指一本に至るまで徹底的に狩り尽くされた。
ぷらいどのプレイングは、"僅かな可能性すら許さない"と言う徹底された執念が感じられた。結果、ヌの盤面もライフも容赦なく更地にされた。
(クソッ、装甲が完全に無意味になるとか──
無色化。主に紫のカードが持つ特有の効果。単純明快で、使用した効果の色を"無いもの"として扱う。
別に特別な話ではない。昔からバトスピをやっている人間、特に白のデッキを使う者ならば、その多くが一度は体験するであろう効果だ。
指定された色の効果を無効化する装甲にとって、無色化は天敵と言える効果だからだ。
「呪鬼……めっちゃ強化されたんですね……」
「はい、環境候補になるくらいには。さすがに、激覇には及びませんけれど」
ぷらいどが使うデッキ──契約神ヘラを中心とする『呪鬼』は、その無色化を状況に合わせて柔軟に使い分けられる。
当然、ヌは無色化について理解していたが、それがこれほど容易く切り返されるとは想像もしていなかった。
ただ装甲を纏うだけでは、勝利には届かない。思っていた以上に環境のインフレが進んでいることを痛感する。
……しかし。呪鬼が強さを増したこと以上に、彼が驚いたのはぷらいどのプレイングだ。
「ヘラの基盤は昔から強くはあったんです。契約カードで大きく躍進してくれましたね」
「結構自信あったんスけどね……完敗でした。まさか、こんなに早く」
ちらり、とショップ内に設置された時計を見ると、試合開始からまだ5分弱しか経過していなかった。
ぷらいどは、まるで思考時間を圧縮したかのような即断即決でゲームを進めていた。一瞬、ヌが機獣を使うことがわかった時に、微かな逡巡を見せたが、……それ以降は、てきぱきとしたゲームメイキングに徹した。
決められた手順で、決められたものを出し、勝つ。これは、言うほど簡単な話ではない。
当然ながら、呪鬼には呪鬼のルートがある。それは、少なくとも自分が使う機獣よりも遥かに複雑なようだった。
それを淀みなく、半ば
「……あの。そのデッキ、ずっと愛用してるんですか?」
ヌは、TCG+の画面を立ち上げながらぽつりと零す。
ぷらいどは一瞬きょとんとした表情を浮かべ、すぐにまた笑顔を作る。
「ええと、はい。
「俺はずっと機獣一筋っつーか、白以外は握る気になんなくて。
なんか、ぷらいどさんにも、そういうのがあるのかなと思って……」
「もちろん、思い入れはありますよ。でも、ずっとこればかり使っているわけではありません」
「え、そうなんですか?」
「はい」
ぷらいどは手元のスマホに視線を落とし、TCG+で結果を登録しながら、静かに問いに答える。
「……ヌさん。"この世で一番強いデッキ"が何か、わかりますか?」
「ずいぶん、抽象的っすね。でも、一番強いデッキなんて……」
そんなもの、決められるわけがないとヌは思った。
古今東西、あらゆるカードゲームは時代と環境、ルールや制限改定などによってデッキの強弱を簡単に左右される。現行最強クラスのデッキも、極端な話、明日にでも主要なパーツが制限されてしまえば呆気なく環境落ちする可能性が高いだろう。
そして、次々と新たなカードが刷られる以上、デッキは流動し新たな形に変わりゆく。常に一強のデッキなどありえないのだ。
「──なんて考えていませんか?」
「でも、普通そうじゃないスか」
「あるんですよ。この世で一番強いデッキ」
「そ、それってどんな?」
ヌは固唾を飲んでぷらいどの返答を待った。
ぷらいどは微笑みながら、
「一番強く回せる人が使うデッキ。それが最強です」
「あー……」
思わず拍子抜けして肩を落とす。
……ようするに、強い人間が使うデッキはなんでも強いということだ。
「ふふ、ごめんなさい。からかうような真似して」
少し申し訳なさそうな表情を浮かべながら、ぷらいどはフィールドに散らばったカードを束ね、デッキへと戻していく。それらの動作もまた正確で、一切の迷いがない。
細く、長い指先が、デッキの一番上のカードをつう、と撫でる。使い込まれ、よく手入れされた無地のスリーブに身を包む契約神ヘラだった。
「……けれど、私はこれを真理と思っていて。だから、強いデッキはちゃんとその構造理念の通りに使いこなせるようになりたいんです。遊びがないと思われるかもしれませんけれど」
研ぎ澄まされた刃のように実直な彼女が抱えるその思想は、やはりストイックだった。
そう語りながら、彼女は結婚指輪のはめられた左手でカードを弄ぶ。
「そうして──なぜ、そのデッキが強いと言われているかの本質を理解した瞬間は……推理小説の謎を紐解くような、一つの物語に向き合っているような感覚があって、とても好きなんです」
その指輪が放つ輝きを、カード以上に愛おしそうに見つめる。
ストイックさの中にロマンチシズムを秘める──一見相反する想いが、ぷらいどを形作る骨子だった。
「デッキ以上に、まず自分を強くって考え方なんですね」
「ええ。人は真っ白な紙の束。文字を書き込むほどに、その束は意味と重さを増すもの」
「だから環境デッキだけ握る、みたいな?」
「い、いえ、確かに基本環境デッキを握りますが、フリー用もありますよ? 本当ですよ?」
恥ずかしがりながら弁明する。空気くらいは読める、とアピールしたいのだろうか。
「けれど、真剣勝負をする場においては」
一瞬、周囲の空気が冷えた気がした。
違う。冷えてなどいない。ただヌの血の気が引いただけだ。その声色で。
ぷらいどがヌを正面から捉えて、笑う。
「──得物を選り好みする余裕は、ありませんので」
先ほど見た、鋭い八重歯を覗かせながら。
獣だ。人の形をしていて、人のように喋る獣。先ほどまでの詩的な表現も、人間を真似するために覚えただけで、真に心を満たしているのは本能だけではないかと──そう思ってしまうほどの、剥き出しの獣性。有無を言わさぬ貫禄。まるで獅子のそれだ。
その美しき獰猛さに圧倒されたヌは、呆然としながら勝敗の結果を承認した。
「──えー、一回戦全て終了したようですので二回戦を始めます!
指定された席に移動して準備をお願いします!」
ショップの店員が参加者全員に告げる。間も無く次の対戦が始まるようだ。
「ああ、すみませんっ、長々と話してしまって……ありがとうございました」
「……あ、りがとうございました……」
ぷらいどは静かに頭を下げ、荷物を片付け、次の対戦卓へと向かう。その背中を、ヌは静かに見送った。
──わからない。彼女の本当の姿が何なのか。それを問うことすら躊躇われる迫力だったから。
孤高の獣が遠ざかる。それは、誰も寄せ付けない絶対王者の後ろ姿に似て──
「──あの、言い忘れていました!」
「はい!?」
突然、孤高の獣が慌てて振り返った。
「機獣、最新弾で強化されます! 復帰されるなら本当に丁度良いタイミングですので!」
「え、なんでわかって──」
「実は、私もその型の機獣を握ってた時期がありますので!
それと……一つのこだわりを持ち続ける人のデッキも、また最強になり得るかと!」
「──」
「頑張って下さい!」
ぷらいどは、それだけ告げて本当に去っていった。
ヌはただ立ち尽くす。復帰したことなど、一言も口にしていないのに。それなのに──彼女は、すべてを見通していた。
今からでも十分に戦えると、自分よりも強い人に保証してもらえた気がして、……身体と精神が、奮い立つ。
(やべぇ……なんか、アレだ……
好きとか嫌いとか、そういうんじゃなくて……)
ヌは沸き立つ感情に震える。
(俺、……あの人みてぇに強くなりてェッ……!)
自信を喪失し掛けていた男の心に、微かな炎が灯った。
そして、彼もまた、二回戦の対戦卓へ──次なる戦場へと向かう。
錆び付いた腕で、錆び付いたデッキを確かに握り直す。経年劣化でギザついたスリーブ側面の感触が、手の平に伝わる。
……今はこれでいい。これだけでいい。このデッキが、唯一の得物だから。
(いつか追い付いてやる。それまでは、牙の磨き直しだ)
慌ただしく移動する他のプレイヤー、店内の喧騒、それを気にも留めず歩き出す。
その足取りは決して軽いものではないが、諦観から来るそれではなく、力強かった。
心は鋼で武装した。傷付く覚悟を腹に据え、戦いの席に着く。
「──よろしくお願いしますっ!」
その日。まるで当然のように、ヌは全敗し、ぷらいどは優勝した。
バトスピ専門カードショップ『はぐるま』では、ありふれた光景だ。
この日から、はぐるまに通う常連が一人増えたことも、ごく些細な変化だった。
◆◆◆
「ううぅぅうぅ……またやっちゃったぁ……」
後悔に溢れた声を漏らしながら、居酒屋の席に座りめそめそと涙を拭う女が一人。
本日のショップバトル優勝者、ぷらいどである。
「ぷらさん、ドンマイ、ドンマイですよ……」
「そんな気にすることかー? オレはぷら姉は間違ったことしてねーと思うぜー」
同席する男性二人がぷらいどの話を聞いていた。
丸眼鏡を掛けた落ち着いた青年と、やや不良感のある少年だ。
「きっとヌさん、私を怖がってるでしょうね……もう、はぐるまに来てくれなくなるかも……」
「ストイックだからなぁぷらさんは……でも、僕はそういうとこマジ尊敬してます」
「ありがとう、
眼鏡の青年、Ozは困った顔をしながらぷらいどをなだめる。
しかし、まだまだぷらいどの涙は収まらない。バトルでは迷いなくカードを操った彼女ではあるが、今は慙愧の念に堪えない思いで涙を拭っている。その姿は、真剣勝負の最中にある彼女からは考えられない一面だった。
「ぷら姉はさー、ショップじゃゲロクソ美人なのに反省会すると残念泣き虫になっちまうよなー」
「わ、わかってますぅ……ネズキくんに言われなくても、自分が涙もろいことくらい……」
「でもなんつーか、泣くほど真面目なのって凄ェと思うぜー。オレらそういう感受性ないしなー」
「それは……褒められているのでしょうか?」
「あたぼーよ。まぁ、ちょっと……ほんのちょっと! 怖い時もあるけど!
ぷら姉の遊びって遊びじゃねぇんだよな! ライオンがじゃれついてくるみてーな……」
「やっぱり怖いんだあ……」
「もっと泣かしてどうするバカネズキ!」
「繊細すぎじゃねー!?」
両手で顔を覆ってしまうぷらいどを見て二人は慌てふためく。
……ちなみに、ぷらいどは既に日本酒を何杯か飲んでいる。さらにちなむと、彼女はやや泣き上戸のきらいがあった。
「もう泣くなよ! オレ今日ショップで掘り出し物見つけたんだ。これ、ぷら姉にやるわ!」
不良っぽい少年、ネズキは財布から一枚のカードを取り出す。
ぷらいどは目に溜まった涙を拭い、そのカードを食い入るように見る。
「──デス・ザイアのシークレットですか……!」
「なーんか絶妙に貴重だかなんだかわからん奴持ってきたなお前……」
「呪鬼ならワンチャン入るかもだろ! ……ってことで頼む! これ今日の飲み代にして!」
「おいネズキてめぇ!」
「なんだよォいいじゃねぇかよォ~、オレ高校上がったばっかで金がさぁ」
「お前酒入ってるのか? 未成年だよな? 素面でそれ言ってんなら大した度胸だな?」
「だ、ダメ? ダメ? ぷら姉はどう? ダメ?」
Ozは、眼鏡を掛け直しながら怒気の籠った表情でじりじりとネズキに詰め寄る。
ネズキは涙目でぷらいどに救いの一手を求めるが、
「──いいですよ。今日はネズキくんの分は私が奢ります」
何故だか受けが通ってしまった。
「ぷらさん!?」
「やりぃ! ありがとなぷら姉!」
「カードゲーマーの性ですっ。カードで交渉されてしまっては、応じるのが筋かとっ!」
「うーん丁寧な言葉遣いから滲み出る喜び……現金だな、ぷらさんも……」
ネズキが提示するデス・ザイアを受け取りながら、慣れた仕草で透明なスリーブを取り出し、傷が付かないよう入れていく。
「まぁ、私とOzくんは社会人ですし。少しくらい学生の彼を甘やかしてもよいでしょう」
「……今回だけだぞ! ネズキ」
「わーってるわーってる、そのうちバイトもすっから!
つーことで、オレ唐揚げ食いたいんだけど!」
「やっぱこいつ甘やかしちゃダメな気がしますぷらさん!!」
「ふふ」
バトスピ仲間とのやり取りの中で、既にぷらいどの涙は止まっていた。
泣き顔は消え失せ、代わりに微笑みが浮かんでいた。真剣勝負では見せない、穏やかな表情だった。
……ぷらいどは、先ほどまで涙を拭っていたハンカチをそそくさと懐に仕舞う。
ふと、左手の指輪に視線を落とす。その輝きは、彼女の人生を静かに物語る
ぷらいどは、ごく曖昧な、思いを馳せるような儚い笑みを浮かべながら、指輪を撫でる。
それは、ただ一人に向けて捧げる表情だった。
『……エイシさんは、どうしてそんなに色んなデッキを使いこなせるの?』
『あー、それな。それはな……自分を強くしたいからかな』
『自分を強く……』
『どんなに強いデッキを使ってても、使い手が下手くそじゃダメだ。
自分以上に、デッキのほうが泣きたくなっちまうだろうさ。
だったら自分が泣くほど努力して、強く回せるようにしたほうが絶対に良い』
『泣くほど努力なんて……凄いけど、辛くないの?』
『辛く思ってたら今こうやって紙しばいてないだろうさ!
だから、どんだけ泣いてもいいから、もう噛み付く勢いで練習しよう、マアヤ。
いつか二人で──夫婦揃って、チャンピオンシップに出場するって思いで!』
『でも……もし、決勝戦に私達が残ったら?』
『その時は、……ただ、真剣勝負するだけさ──!』
(──何年経っても、変わりはしませんよ。
あなたの真っすぐな考え方が、今の私の
──ぷらいど。本名を
バトスピを趣味とする、少し泣き虫で凶暴なだけの一般未亡人である。