僕、タクトは辺境の小さな町クロリアで親から受け継いだ宿屋を経営している。
茶色い髪も翡翠色の目もありふれたもので、そばかすのある顔も美形とは言い難い。まあ、醜くもないから客商売ではマイナスにはならないけど。
そんなごくごく普通の僕だが、数少ない自慢がある。それは、幼馴染が勇者パーティーの一員である事だ。
幼馴染のニーヴァは僕と同い年で、家は隣の雑貨屋なのだ。銀色の髪にルビーのような瞳はとても綺麗で、町でも美人と評判だった。
けれど、ニーヴァが闇魔導というスキルを発現させた時、周りの大人達はニーヴァを「悪魔の生まれ変わり」だとか根も葉もない噂を流し、蔑み侮辱し見下した。
そして、前までは一緒に遊んでいた友達もニーヴァをいじめるようになってしまった。
けど、ニーヴァの両親をはじめ、近所の八百屋のおばさんや鍛冶屋のおじちゃん。もちろん僕たち家族はニーヴァの味方であり続けた。
僕は落ち込んだニーヴァに「僕が一生守ってあげる」と言い、彼女もそれを笑顔で受け入れてくれた。僕とニーヴァは将来を約束したのだ。それなのに……
「……どういう事?」
「だから、約束は無かった事にしてほしいの」
魔王が討伐されたと言う知らせがクロリアまで届いてから数カ月後。ニーヴァは仲間たちと共に凱旋で帰ってきていた。
久しぶりの再開だと、嬉しくなって雑貨屋へニーヴァに会いに行くと、顔を合わせるなり彼女はそんな事を言った。
「ニーヴァ、なんでそんなことを言うんだい?」
「所詮、子供の頃の口約束でしょ?わざわざこうして口にして上げるだけ優しいと思うのだけれど」
僕を無感情のまま見つめるニーヴァは、何処か遠くの存在になったようで、胸が苦しくなる。
巫山戯るなと感情のままに叫びたくなるが、ニーヴァは魔王を倒した英雄の一人。それに比べて僕はただの宿屋。身分が違うのだと、僕の冷静な部分が告げてくる。
「……もしかして、他に好きな人が出来たのかい?」
僕がそう尋ねれば、ニーヴァは頬を赤らめ、可愛らしくコクリと頷く。
僕では無い別の存在を思い、乙女の顔になるニーヴァに、僕は嫉妬で狂いそうになるが、平常心であろうと心を落ち着かせる。
「……そうか。相手はどんな人なんだい?」
ぎゅっと握りしめた掌に爪が深く刺さる。こんな事聞きたくないのに、なぜだか口が止まらない。ニーヴァ、どうか答えないでくれと、自分でも良くわからない支離滅裂な思考が頭を巡る中、ニーヴァが口を開く。
「……その人はね、とても強くて優しいの。私がピンチの時はいつも助けてくれた」
うっとりと愛しい人のことを語るニーヴァ。その姿を見て、僕は敗北感に襲われる。
ああ、もう彼女の中に僕の存在は一欠片もないのだと理解させられる。
「とても素敵な人なんだね、その人は」
ニーヴァ、僕が愛したとてもとても愛しい人よ。僕では君を幸せには出来ないんだね。ならば、潔く身を引こう。
大切なものを亡くした空虚な心で、僕はニーヴァに伝える。そんな僕の思いなどニーヴァは知らず、「そうなの」と僕の言葉に同意する。
「とても素敵な人なのよ、勇者様は」
……ん?チョットマテ?
朗々と勇者様の素晴らしさを語るニーヴァ。しかし、僕の思考は追いつけずに居た。
だって、ニーヴァの言う好きな人の勇者はこの世界では現在一人しか存在しない。
アムラ・エストリカ。
ニーヴァに所属した英雄パーティのリーダーにして、聖剣に選ばれた存在。
邪竜を切り捨て、悪魔の大群を蹴散らし、魔王を討ち滅ぼした人類最強。
そして、神にも匹敵する程と言われる美貌を持ったこの国の
……つまり、僕は幼馴染を女勇者にNTRされたって、こと!?
盛大に……続かない!