『TS薬を開発したいだけの異世界薬理教師』   作:  

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第一講義『そもそも魔法で良くない?』

 ◇

 

「はい。今年から新設された『薬理学』の授業を担当する偉い人だよ。目標はTS薬の開発。よろしくね」

 

 

 どうして薬理学なんて教えなきゃいけないんだろう、と天を仰ぎたくなる気分を抑えて、壇上から生徒達に向けて声を出す。

 

 ちょっと、異世界転移してきただけなのに。

 ちょっと、薬剤について詳しいだけなのに。

 ついでに。ちょっと……TSしただけなのに。

 それで、戻りたいだけなのに。

 

 はぁ、と漏れ出そうになる溜め息を抑えて──手が上がっていることを視認する。

 

 赤毛の生徒。ええっと、名前は何だったけな。

 生徒名簿をざっと見た時の記憶から、その特徴にあてはまる名前を思い出そうとする。

 

「どうぞ、リディアさん」

 

「リーシャです!」

 

 どうやら違ったらしい。

 本人が気にしていたらハラスメントになるけれど、様子を見ている限りそうは見えない。

 というか、この王国においてハラスメントなんて概念は定着していない。そういうの、地球でも出てきたのは結構最近だったはずだから仕方ないんだけど。

 

「先生の言う……TS薬? って、なんですか!?」

 

 元気がいい子は何においても重宝されるよね。

 元気がいいってことは、体力があるってこと。元気があるってことは、実験やら作業やらを沢山出来るってことだから。

 

「性別転換薬だね。男性が飲めば、女性に。女性が飲めば男性になれる──そんな薬剤。あっても損にはならない。そうは思わない?」

 

 ちなみに私としては、とても欲しい。

 身体上の性別が女性だっていうことに慣れていないし、加えて周囲の視線が鬱陶しい。とても。

 

 今度は銀髪の子が手をあげる。

 また名前を間違えたらよろしくないので、今度は視線と首の動きで質問を許可する。

 

「ユラリア・ウィンターフィアです」

 

 ウィンターフィアというのは、この国における王族の別名。王族が一般貴族として振る舞いたい時に使う名字。

 即ち、目の前にいる銀髪の子は王族というわけで──え、なんでこんな場末の授業に来ているのか。

 

「どうぞ」

 

「性別の可逆的変化が可能になる……ということは、『男女の非平等性』が崩れることになります。先生は大丈夫(・・・)なのですか?」

 

『男女の非平等性』は、この国において前提として定められている明文化されている概念のひとつ。

 何故そんなものが明文化されているのか、という理由は単純。そうじゃないと一夫多妻制の辻褄(・・)が合わなくなってしまうから。

 仮に平等だとしたら、一夫多妻制が成立するのと同時に一妻多夫制も同時に成立しなくてはいけない。あるいは、どちらも消失させるか。

 

 けれど実情として、一夫多妻だけが成立するという状況でないと世嗣ぎの観点などから問題が発生する以上──非平等性は存在しなくてはならない。

 

 まあ、そもそも体の構造が違うから本当の意味で同じということはないんだけれど。

 

「個人の意見としては崩して良いんじゃない? ──と言いたいところだけれど。実は、それ以前の問題もあってね。開発された薬剤が『二回使って元に戻る薬剤』になるかは、わからないから。何とも言えない」

 

 つまりは、濁している。

 そうならないかもしれないからね、と。

 

「でも二回使ったら元に戻るんじゃないの……? 普通(・・)に考えて」

 

「普通に考えて。良い言葉だよね、私も大好き。是非とも人生全部を普通に考えたいところ」

 

 リーシャが独り言を漏らす。

 その独り言を拾いあげて、話を広げていく。

 

「でも、それは普通じゃない。絶対じゃない。その現象が可逆的かは実際に作ってみないとわからない。炎魔法に同一階級の氷魔法をぶつければ、相殺される。じゃあ『何もない』ところから魔素を使わずに炎魔法と氷魔法を発生することが出来るか、というと──」

 

 この世界には魔素がある。魔法がある。

 勿論治療魔法も破壊魔法もある。だからこそ、科学が進歩しない。あまりにも世界が複雑になってしまっているから。

 

「──ほとんど(・・・・)、あり得ない。魔法史に残るような偉人はたまにそういうの、使ってるけどね」

 

「『虚空魔法』、ですね!」

 

 何もないところからエネルギーを始めとした全てを取り出せる──魔法の中では極めて例外的な魔素を消費しない、魔法。それが虚空魔法と呼ばれるもの。

 

 最低階級の虚空魔法ですら、使用可能なら国の監視下行きが確定するくらいの代物でもある。

 なんて言ったって、無から有を作り出す魔法なんだから。物理法則に反しているとかいう次元ではない。物理法則に真っ向から喧嘩を売り付けているようにしか見えないよね。

 

「ともかく。薬を二度使えば元に戻るかはわからない。そうなったら嬉しいね、くらいの感じかな」

 

 これは本当に嬉しいかな、くらいのお気持ち。

 私としてはさっさと戻りたいのであって、可逆的TSで遊びたいわけじゃない。

 

「じゃあ、自己紹介はこれくらいにして……」

 

 閑話休題。

 時間も無限にあるわけじゃない。

 それに、生徒っていうのは基本的に授業が素早く終わってくれたほうが嬉しいだろうから。巻きで行かなきゃね。

 

「『飲めば万病が根治する万能薬』──本当に存在すると思う? ああ、ここでの万病ってのは全ての病気って意味ね」

 

『万能薬は実在する?』と黒板に書く。

 ぐるぐる、と学校の先生がやっていたように強調もしておく。

 

「『下痢が止まらなくて』なんていうあるある病から、『最近、定期的に胸に激痛が走って』や『突然意識喪失を起こして』みたいな見るからにヤバそうな状態まで。どんな状態でも治療出来る万能薬は存在するか──今回は、考えてみたい」

 

 これの答えはわかりきっている。

 そんなものない、以外の解答は存在しない。

 理由なんて幾らでも用意できる。例えば予算だったり、研究人材だったり、時間だったり……でも、そういうことじゃなくて。

 

 ついでに。同時にこれが今日の目標にもなる。

『万能薬』が存在し得るのか。人類はその境地に辿り着く事が可能なのか。

 

「それを考える為には、薬剤とお友達(・・・)にならなきゃいけない。薬ってどうやって効くの? っていうことを知って、作用機序について知識を深めることが肝要になる。じゃあ──ユラリアさん、薬ってどうやって効くと思う?」

 

 生徒に当てる授業形式にしよう、というのはたった今考え付いた方法。これこそ理由なんて後付けでいいよね。

 地球でも……えっと、そう。アクティブラーニング。能動的学習が推進されていたから。一方的な講義ではなく、双方向性の講義。

 

「病気を改善するので……病気の原因、ですか? 細菌やウイルスのような」

 

 この世界は文明尺度の割に、病気の原因として微生物が存在する──どころか、細菌とウイルスが違うものであるということまで、ある程度人口に膾炙している。

 病気感染魔法なんて物騒なものがあるせいでもあるんだけど。

 

「でも、それだけじゃない。例えば体内の状況が悪くなって……例えば、血液がとても固まりやすいなんて状況もありえる。細菌やウイルス性じゃなくてね」

 

 後々、ワルファリンとかワルファリン代謝酵素(CYP2C9あたり)の話をする時用の伏線でもある。

 

 ユラリアは思案する素振りを見せる。

 そんな複雑に考えることはない。というか、病気の元を叩くっていうのは、あながち間違った考え方ではないから。当然ながらね。

 

「リーシャはどう思う?」

 

「え~っと……回路を阻害(・・・・・)すれば良かったり、しますか?」

 

 間違っていない。むしろ、本質的であるとすら言えるね。

 細胞同士での連絡経路であったり、脳から体への信号だったり、そういうものを変化させるっていうのが薬剤っていうもの。

 まあ全部が全部阻害というわけでもないんだけれど、地球で存在した薬剤の多くがそうだったはず。

 少なくとも私程度が知ってるレベルではね。

 

「魔法発動を病に見立てたら、回路を阻害するっていうのはまさしく薬剤になる。その通り、完璧だね」

 

「やったぁ!」

 

 この世界に魔法発動の大半には、魔法陣が必要不可欠なものとなる。だから、イメージしやすかったというのはあるかもしれない。

 

「魔法において回路を阻害する為には、魔路接続点(マギカ・ノード)に何かをくっつけて(・・・・・)あげればいい。そうすれば、魔法陣全体に影響が出て──魔法自体に影響が出る。それの、人間版を考えればいい感じだね」

 

 この世界に魔法陣という概念があってとても助かった。

 細胞には沢山受容体(レセプター)があって、それが色々な働きをしている──なんて概念を、ゼロから理解させるのは至難の技。

 

 追加のお助けられポイントは、魔法によって既に細胞という概念が浸透していること。流石に細かいチャネルとかトランスポーターについては全く知られていないけれど。

 大雑把に『人間を含めた動物は数多の細胞によって構成されていて、思ったより色々頑張っているらしい』くらいの解像度。

 地球で細胞っていう概念が出てきたのは17世紀で、それが生物の最小単位であると言われ始めたのは19世紀。

 そう考えると、この世界は薬剤発展の土壌自体はかなり成熟しているとも言える。

 

 故に、TS薬創造の土壌があるとも言える。

 

「じゃあ残る課題は二つ。『くっついたら変わるっていうけれど、どうして?』と『くっつくためには、薬はどんな形をすればいい?』」

 

 つまり、と区切ってから黒板に文字を書き加える。

 

「人間版魔路接続点(マギカ・ノード)──受容体(レセプター)。薬のくっつく相手とお友達になろう、っていうのが次の目標だね。とはいえ、ここもそんなに難しい話じゃない」

 

 難しい話にすることも出来るけれど、一回目の講義でそんなことをすると受講者が激減してしまう。

 私の生活兼研究資金がこの講義によって作られている以上、増加……は望めなくとも、減少されるのは、ちょっと困ってしまう。

 

「くっつくと受容体の形が変わる。それに対してどうして? というのを考えるには、もうちょっと真面目に考えなきゃいけないんだけれど……それは、機会があればそのうち。私が死んでなければね」

 

 水素結合とか、イオン結合とか、ファンデルワールス力とか、共有結合とか。

 更にもう一歩進むなら、この中で共有結合が力として強いから、共有結合が出来たりするっていうのは不可逆的変化を起こしやすい、みたいなお話もあるんだけど。

 それは別のタイミングで、時間があったら話すことになるかな。

 

 何なら。形が変わるって一言でまとめたけれど、それにすら注釈が入る。

 タンパク質の三次構造が、みたいな。

 

 でも、そういうことは今大事じゃない。

 大事なのは、もっと根幹的な概念。そこを理解して貰わないと……今後、詰まってしまう。

 

 

 地球に根を張っていた人類は、伊達に時を流れさせているわけじゃない。きちんと各々がある程度の願望を、欲望を、固執を持って生き続けてきていた。

 それらの積み重ねを異世界の──異文明の人類が理解するのは、とても難しいだろうから。

 

「じゃあ、形が変わったら何が起こるのか。わかる?」

 

 照らし合わせ先は魔法陣。

 正確には、魔路接続点(マギカ・ノード)への干渉。

 

受容体(レセプター)を流れる……いえ、受容体(レセプター)の通過しやすさが変わる、ですか?」

 

 ユラリアが答える。

 正解ではあるね。それが全部じゃないだけで。

 

「そう、『本来受容体(レセプター)が通過させるモノの通過しやすさが変わる』とさ、『受容体(レセプター)にくっつくことで、何かを通さなくなる』っていうのもある。言うまでもなく、『通すようになる』も」

 

 ちなみに、他のもある。

 本来だったら『動力の供給を出来ないようにする』だったり。

 

「で、それらは全て受容体(レセプター)のカタチが変わることで起こる。じゃあその受容体(レセプター)にくっつく為には──薬剤は、どうあれば良い?」

 

「はい!」

 

 リーシャが勢い良く手をあげる。

 どうぞ、という言葉を首肯で代替する。

 

「これも、魔法陣と同じように考えればいいんです! 本来くっつくものと、とっても似ている形(・・・・・)なら問題ありません!」

 

 例えば、ミグリトールという薬剤はショ糖と形が似ている。

 だからグルコシダーゼという名前の酵素にあるショ糖が本来座れるはずの席を、形が似ているという理由でミグリトールが奪い取ることが可能になって……結果、グルコシダーゼの機能が阻害される。

 そして、ショ糖の分解こそがグルコシダーゼの役割であるということをふまえると、それが阻害され──ショ糖が、グルコースとフルクトースに分解されなくなる。

 これによって、血糖値(血中グルコース濃度)の上昇を抑える、という効果を得ている。

 

 こんな風にね。

 でも、実はカタチだけじゃ不完全。

 

「じゃあ、魔法陣干渉で球状水素子(アクア・スフィア)の代わりに球状炎素子(フラマ・スフィア)を使うっていうのは可能?」

 

 どちらも、魔法陣干渉で使うものの一種で形は同じ。

 魔法陣干渉の初歩の初歩、どちらも初日に習うもの。

 

「えっと、じゃあカタチ以外の……特徴全部……?」

 

「先生は魔法陣干渉学分野における魔種性(スペリール)の類似、その人間版を求めるのではないですか?」

 

 ユラリアがリーシャの言葉に補足する。そしてその補足は、ある意味で完璧でもある。まさしく、正解だから。

 ただ唯一存在する欠点は、魔種性(スペリール)という言葉を誰もが理解出来ているというわけじゃない。

 

 全員がユラリアのように博覧強記ならば、これで謎は解消される。ただ、誰もがそうというわけではないから。

 

魔種性(スペリール)……ウィンターフィア家の子女教育はとっても進んでいるらしいね。ああ、今わからない人も怖がらないで大丈夫。学院に在籍している魔法陣干渉学の先生が、懇切丁寧に教えてくれるはずだから。確か、対象学年は三年生以上とかだったかな」

 

「じゃあ、先生は三年生対象のものの人間版を一年生以上対象の講義で教えているんですか?」

 

 リーシャの指摘は正しい。

 この世界で一番と言っていいほどに親しまれている魔法学においても、『基礎魔法陣学A』『基礎魔法陣学B』『魔法陣干渉学A』『魔法演習A』の履修を前提とした『応用魔法陣A』にならないと教えられない。

 

 それが電気的性質の魔法陣版である魔種性(スペリール)、すなわち魔法陣干渉素子の非形状的性質。

 

 ただ、闇雲に難しくしようって話でもない。

 もちろん、魔法陣干渉学の進度がゆっくりって話でもね。

 

「理由は二つ。一つ目はあっちより簡単だから。魔種性(スペリール)は何種類もある。けど、こっちは強弱に差こそあれど根本は簡単。二つ目は、この先どうしても必要になるから。ああ、名前は仮置きで『電気的性質』とでもしといて。未来にある試験にはそう書いてくれてもいいから」

 

 というわけで。

 電気的にも形状的にも、薬剤は『本来くっつくもの』と類似しなきゃいけない。

 

「さて、それで薬剤がくっついた後にも、ずっとくっついたままかどうか──即ち、可逆的か不可逆的かっていうのは大事になってくる。例えば、血が詰まりやすい人に『血をさらさらにする薬剤』を投与したら、今後一生切り傷だけで大出血するようになりました、だと困るでしょ?」

 

「それは、用量を適切に調整すれば防げるのではないですか?」

 

 ユラリアからの指摘が飛んでくる。

 指摘自体には否定の余地がない。流石王族。

 

 ただ、その用量の調節が難しいパターンっていうのもあるからね。

 例えば、全身麻酔薬の中には心臓機能を抑制するものもある。字面からわかるけれど、これが過剰投与(オーバーにドーズ)されたら、どうみても困る。

 ただ、この薬剤における『治療に必要な濃度』と『困った副作用(心機能抑制)が発生する濃度』というのは、あんまり変わらなかったりする。困ったことに。

 

「例えが悪かった。でも、一時的に血をさらさらにしたい、とか逆に血が流れなくなる──出血を抑える薬剤があったら、便利だと思わない? 少なくとも、作用時間が永遠のものよりは」

 

「知ってます! お祖父ちゃんが昔、戦場や訓練でそういうのが配られていた、と言っていましたから!」

 

「多分、それは薬剤じゃないと思う。何らかの魔法かな」

 

 祖父祖母世代で存在していた、ということから魔法の類いだと推測出来る。

 第二級治癒魔法『創傷軽傷化』とか、第三級治癒魔法『血流抑制』とかだと思う。もしくは、第一級治癒魔法『心機能操作』とか。

 

 この世界の魔法は、バリバリ戦闘用に用いられる──例えば、第一級禁忌魔法『疑似衛星墜落』みたいなものも発達している。

 一方で、ぽつぽつと時代の狭間に出没する治療馬鹿みたいな偉人が、治癒系統の魔法を開発していく。

 そのおかげで、外傷の治療魔法についてはかなり細かく存在してくれている。

 

 一応。病気の治癒魔法や予防用魔法がないわけじゃない。

 例えば、この系統で私が一番偉大だと思っているのは第五級治癒魔法『抗菌区域』。

 

 魔法陣構築が天才過ぎて、本来第三級や第二級並になってもおかしくないようなものを第五級に抑えて、人類が使用する敷居をかなり低くしている。

 勿論、完璧ではないけれど。

 

 それでも、大体の治療施設や教会なんかでは交代交代でこの魔法が使用し続けられているくらいには。

 

 

 

 

「先生。ならば……薬剤を使わずに魔法で良いのではないですか?」

 

 

 

 

 おっと、挑戦的な生徒がいらっしゃるようだ。

 一応は薬剤について教えるよ、と宣言している人に対して『薬剤、要らなくない?』って言うなんてね。

 ほら、ユラリアとか顔がちょっとひきつってるよ。

 

 名前は知らないけど、顔は覚えたよ。

 

「良い質問だね。『薬剤なんて面倒なもの、作らなくても魔法で良いじゃないか』──本当にそうかな? そもそも、君達はどうして今、魔法を使えているのか……魔法陣を構築出来ているのか、考えたことはある? それを成せる臓器がある? 或いは、最近論文が上がっていた『仮説粒子』のおかげ?」

 

 第一級理論魔法『魔法不全化』なんてものもあるけれど、あれは機序がわかっていない。漢方みたいなものだね。

 何か複雑に魔法陣を描いていたらそんな効果を持つものが出来たから、そっくりそのままの魔法陣だけを伝承します、っていう流れでしかない。

 悪いこととは言わないけれど。

 

「魔法にも使用限界があり、『魔法不全化』も現象として存在している状態で、それだけに依存するなんて怖くないの? いつ、世界から魔法が消失するかわからない。いつ、我々人類が魔法を使えなくなるのかもわからない」

 

 怒っているわけじゃないから、安心して欲しい。

 ただ、元々魔法がない世界に住んでいた人として、疑問に思わざるを得ないだけだから。

 

「だって、我々は何故魔法を使えているのかわからないのだから」

 

 こっちに来て真っ先に魔法の起源について漁ったけれど、得られた情報は『虚空魔法が関わっているらしい』ぐらいなもの。

 どう関わっているのかすら見当がついていないのが、現状。

 

「だから、代替手段として薬剤を備えておこうというのはそんなに変な発想かな。失敗した時用の保険があるのは、嬉しいことじゃなくて? ほら、この講義の試験には再試があるのと同じようにさ」

 

 まあ、私はTS薬が創りたいだけなんだけど。

 

「じゃあ、今日の講義はここらへんということで。『万能薬は存在すると思うか』、課題(ミニレポート)として出しておくから……気が向いたら、自由に書いてみてね。別に長かったり堅苦しい必要はないから。次回講義までに提出すると、何か良いことがあるかもよ?」

 

 

 具体的には、私のモチベが上がるとかね。

 

 

「──じゃあ、定刻だから。また来週」

 




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