『TS薬を開発したいだけの異世界薬理教師』   作:  

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第九交流『真・異文化間交流』

 ◇◆◆◇

 

「さて、どんな用事かな?」

 

 講義後、研究室で今日もTS薬を作ろうとしていた教授は二人の生徒──リーシャとユラリアを迎え入れていた。

 二人の場合。講義に関する質問であれば、講義後すぐに壇上に来て質問をするということは、これまでの講義でわかっていた為、わざわざ研究室に来たということはそれなりの用事があるのだろうと教授は推測していた。

 

「えっと……ちょっと、ティーブレイク……アイスブレイク……そう、お話! 出来たらな、と思いまして!」

 

 リーシャの、あまりに下手な用件付けにユラリアは軽く呆れた様子を見せる。その様子を見て、教授は『何かある』と確信した。

 

 ただ、二人の様子が緊張していることを察知した教授は、リーシャの言う通りにティーブレイクを始めて、緊張を解すことにした。

 

「そういえば、こんな話は知ってる?」

 

 教授は、思い付いたかのように話し始める。

 総合学院薬理学教授という立場を感じさせない、気さくな雰囲気。それこそが、この教授の底知れなさであるとユラリアは感じていた。

 

「昔々、とある魔法使いがいたんだ。その魔法使いはね、自分の持つ莫大な魔素量を活かして、様々な偉業を成し遂げていたんだ。だけど、実はその魔法使いには秘密があってね……」

 

 教授は湯気の立つ茶を三つのカップに注ぎながら、リーシャとユラリアの反応を伺った。

 

「どんな秘密ですか?」

 

 リーシャが思わず身を乗り出す。彼女の目には純粋な好奇心が灯っていた。

 

「その魔法使いはね、実は魔素量のほとんどを魔法陣の効率化に使っていたんだ。つまり、魔法の使い方そのものを変えることで、少ない労力で大きな効果を得ていたというわけ」

 

 教授の言葉に、ユラリアは自分の『空間転移』の魔法を思い出し、目を細めた。

 

「なるほど……効率化ですか」

 

 教授はにっこりと笑いながら、リーシャの前にお茶を差し出した。

 

「そう、効率化。リーシャが開発した『権能返却』や『権能読込』も、実はそういう意味では画期的なんだ。魔法という概念そのものを操作することで、通常ではあり得ないほど少ない魔素量で広範囲に効果を及ぼせる」

 

 リーシャは頬を赤らめた。そして教授は続ける。

 

「ところがだ、その魔法使いは自分の研究に没頭するあまり、周囲の政治的状況に気づかなかった。彼の魔法が持つ可能性に気づいた者たちが、その力を利用しようと様々な画策をしていたんだ」

 

 ユラリアは眉をひそめ、自分のカップを受け取りながら静かに言った。

 

「教会や王宮のような……ですか?」

 

 教授は一瞬だけ表情を引き締め、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。

 

「そうとも言えるね。でもね、その魔法使いには一人の友人がいた。高い地位にいながら、純粋に彼の才能を認め、守ろうとした友人が」

 

 リーシャはユラリアをちらりと見た。

 

「その友人は何をしたんですか?」

 

 教授は自分のお茶をすすりながら答えた。

 

「権力者たちに対して、その魔法使いの価値は学問的探究にこそあると説得したんだ。『彼の才能を政治や権力争いに利用するのは、宝石を石切りの道具にするようなもの』ってね」

 

 ユラリアは静かに微笑んだ。リーシャは二人を交互に見ながら、頭をかしげた。

 

「そのお話、教授の創作ですか?」

 

 教授は軽く笑った。

 

「さあ、どうだろうね。でも古今東西、才能ある人間が権力者に利用されそうになる話はたくさんあるものだから」

 

 リーシャは考え込むような表情をしていたが、途中でふと考え込むように視線を落とした。

 

「時々考えるんです。私の魔法が悪用されたらって。特に『権能返却』は、使い方によっては──世界の変革どころではありません。もしかしたら、私の『ひらめき』が世界を滅ぼすかもしれないって」

 

 教授はにっこりと微笑み、茶葉の香りを深く吸い込んだ。

 

「それを考えられるだけ素晴らしいことだよ、リーシャ。才能というのは両刃の剣なんだ。どんな素晴らしい発明も、使い方次第では諸刃になる」

 

 ユラリアは静かにカップを置き、姿勢を正した。

 

「なので、リーシャの立場は守らなくてはいけません。ですから、王宮管轄の魔法認定協会の特別枠(・・・)……匿名枠でリーシャの『汎路調節盤』の特許を密かに申請しました。これで、多くの人にはリーシャの名前や立場が公開されないまま、限られた人物だけがリーシャのことを認識出来るようにしています」

 

 特別枠、というのは王族に許された特権枠であった。

 王族であるものは、権威が存在していなければならない。従って、王位の上位継承者に限り、一人一枠までの『特別枠』が用意されていた。慣例的にそれは、その特権を持つ王族自身の為に使用されていたが、ユラリアはその慣例を無視して登録した。

 

 同時に、昔に自らが些細な部分を改良して、新規としていた数百の魔法陣を複数の名前から提出することで、協会の動きを複雑にしながら。

 ユラリアにとっては十年以上の魔法陣研究成果と、一つきりの特別枠を消費した形となっているが、それでもユラリアはこれが『自らの成果物』の最も効率的な使い方だということにも気付いていた。

 

 一方、そのような事情を知らないリーシャは目を丸くした。

 

「え? そうだったの?」

 

 教授は軽く笑いながら、テーブルの上に置かれた茶菓子の小皿をリーシャの方へ押しやった。

 

「ユラリアは君のことをよく考えてくれているね。王宮の立場としても、そういった画期的な魔法が管理されていない状態で広まるのは避けたいということだろう」

 

 教授は裏に隠れたユラリアの尋常ではない作業量と政務能力を概算しながら、それらを王宮(・・)という全体の責任とする。あくまで、この場において大事なのはリーシャがその気遣いに気付かないことであったから。

 

「単に……王国の安全を守るための当然の措置です。『汎路調整盤』。他の魔法があまりにも異常で霞んでいますが、あれも十分変革を起こすに相応しい代物です」

 

 ユラリアは、少し表情を崩してから続きの言葉を述べる。

 

「私が、もう少し悪い(・・)王族だったらリーシャを誘拐していたくらいには。あるいは、教会に拐わせてから取り返し、安全確保の為の『保護』にするかもしれません」

 

 あくまで冗談という体裁でユラリアは言うが、実際にそれが発生してもおかしくない状況にはあった。

 世界随一の覇権国家である王国は、それでも周囲の四ヶ国において革命が発生し、王政が崩壊したという事実を無視することが出来ない。それに、外務大臣が言うには──数年後には、周囲の六国家全てで王政が崩壊する可能性が高い、とまで言われている。

 

 そんな状況で。ユラリアなりに言い換えるのであれば、そんな教会有利(・・・・)な状況で何が起きるかは、わからなかった。

 最悪の想定では、周囲の国家全てが教会の傀儡国家になる可能性もあるというのに、自国の革命的魔法開発者を在野で放流しているわけには行かない、ということも考えていた。

 

「そう言いながら、開発料はすべて遠回しに、足がつかないようにリーシャへ入るようにしたんだろう?」

 

 教授が軽やかな口調で言うと、ユラリアは顔を背けた。

 それはユラリアはそのような政治的意図を抜きにしても、リーシャという唯一の対等な存在を守りたいという意思はあったから。

 

 リーシャは驚きの表情を浮かべる。

 

「え、そうなの?」

 

「別に……大したことではありません。それに、今すぐに何か関係あるわけではありませんよ。『未来の話は、運命の主しかわからない』ですからね」

 

 聖典に存在する文言を皮肉げに使う。

 それが高度な教授への(・・・・)嫌がらせであるというのは、リーシャにはわからなかった。

 つまりは、気恥ずかしいからこれ以上つついてくれるなというユラリアからの反抗心であった。

 

 それを受けて、教授は再び話題を変えた。

 

「そういえば、あの魔法使いの話の続きがあるんだ。その魔法使いの才能を認めた友人は、やがて王位を継ぐことになってね」

 

「王位を?」

 

 リーシャは興味深そうに身を乗り出した。

 

「そう。王となった友人は、魔法使いを王室付きの公式魔法顧問に任命したんだ。でもね、それは彼を保護するための名目でもあった。公式の立場を与えることで、他の勢力から干渉されにくくしたんだよ」

 

 ユラリアはその言葉に、静かに頷いた。

 

「賢明な判断です」

 

「そして魔法使いは、自分の研究に没頭できる環境を得て、さらに素晴らしい魔法理論を生み出していった。彼の研究は王国の繁栄にも寄与したけれど、何より彼自身が自分の才能を自由に発揮できたことが重要だったんだ」

 

 教授はリーシャの方をじっと見つめた。

 

「才能というのは、本人の意思に反して使われるべきではない。でも同時に、社会に還元されることで、より輝くこともある」

 

 リーシャは茶菓子をつまむ。

 空になった皿に、教授が追加の茶菓子を追加する。

 

「そのお話、本当にあったことなんですか?」

 

「さあ、どうだろう? ただの寓話かもしれないね」

 

 教授は肩をすくめながら言う。

 

 ユラリアはその言葉に微かに眉を寄せたが、何も言わなかった。彼女はこの教授の言葉には必ず二重、三重の意味があることを知っていた。額面通りにそのまま受け取ることは、しなかった。

 

「でも。魔法使いと友人の関係で最も重要だったのは、互いを信頼していたことだよ。友人は魔法使いの才能を強制的に利用しようとはせず、魔法使いは友人の立場を理解していた」

 

 二人の生徒に視線を移しながら、教授は言葉を選ぶように少し間を置いた。

 

「時に、才能ある者を守るためには、政治的な力が必要になることもある。そして政治的な力を正しく使うためには、才能ある者の知恵が必要になることもある。お互いが支え合うことで、初めて良い世界が作れる──いいや、敢えてこう言おうか」

 

 教授は纏う雰囲気を意図的に変える。

 総合学院薬理学教授としてでも、話術に長けた学問探究者としてでもなく。

 

「──初めて、真実(・・)に辿り着ける」

 

 教授の言葉に、部屋の空気が一瞬凍りついたように感じた。

 その言葉の余韻が残る中、リーシャは静かに茶を置き、まっすぐに教授を見つめた。

 

「教授は、別の世界から来たんですよね?」

 

 ユラリアは思わず息を飲み、リーシャに警告の視線を送った。彼女はこの可能性について考えていたが、こんな直球で尋ねるつもりはなかった。

 教授はあくまで自然に茶をすすり、微笑みを浮かべた。

 

「ずいぶん興味深い質問だね。どうしてそう思ったの?」

 

 リーシャは、ノートを取る時のような真剣な表情で指を折りながら説明し始めた。

 

「まず、虚空魔法と世界構造について調べていて気づいたんです。世界をひとつの生命体と見なすと、虚空魔法はその生命維持機構のようなもの。そして第四級虚空魔法の存在が理論上あり得るということ」

 

 教授は穏やかに頷いたが、その視線には緊張が走っていた。

 

「それと教授について調べても、突然現れたようにしか見えない。薬理学の資料は存在しないし、教授が研究したという論文を遡っても、ある時期から突然現れる。それに、教授の話す物語や例え話には、この世界の常識から少しずれたところがあります」

 

 ユラリアが口を開こうとしたが、リーシャは止まらなかった。

 

「何より決定的なのは、TS薬の研究です。教授はずっとその研究をしている。でも、なぜそれほどまでに執着するのか。普通に考えれば、魔法(・・)が選択肢にあがってきます。なのに、そうしないのは──」

 

 リーシャは一息つき、確信に満ちた声で言った。

 

「教授は元々違う性別だったから。そして、それが可能だと知っているから」

 

 ユラリアは驚き、教授は茶を置き、静かに笑った。

 その表情には、まるでリーシャを褒めているようであった。

 

「リーシャ、その推論は興味深いけれど、少し想像力が豊かすぎるように思うよ」

 

「教授、正直に言って私も疑問に思っていました。教授の持つ知識は、時に奇妙なほど先進的です。そして、歴史的資料を調査すると、薬理学の存在は二十年前から突如として記録され始めています」

 

 ユラリアがようやく口を開く。彼女の声には、いつもの冷静さの奥に緊張が滲んでいた。

 教授はユラリアを見つめ、面白そうに笑った。

 

「君たち二人は本当に優秀だね。だからこそ言うけれど、そんな荒唐無稽な──」

 

「でも教授」

 

 リーシャが静かに遮る。

 

「教授は先ほど『真実に辿り着ける』と言いました。それは、世界の真実についての話でしたよね?」

 

 教授は続きを促す。

 

「私たちは虚空魔法について調べて、世界という概念自体に疑問を持ちました。そして、もし世界が生命体なら、他の世界(細胞)の存在もあり得る。だとすれば、細胞間の信号のやり取りがあってもおかしくない」

 

 教授はため息をつき、二人を見つめた。その表情は今までに見たことのない、深い思慮に満ちたものだった。

 

「君たちは本当に鋭いね。特にリーシャ、君の観察眼と推論能力は素晴らしい」

 

「では、認めるということですか?」

 

 ユラリアが緊張した面持ちで尋ねた。

 教授は立ち上がり、窓辺に歩み寄った。夕暮れの光が彼女の小さな背中を照らしていた。

 

「完全に否定はしないよ。でも、もし仮にそうだとしても、どうして君たちはそれを知りたいのかな?」

 

 リーシャは迷わず答えた。

 

「教授の作るTS薬が完成したら、おそらく革命的なものになります。でも、それ以上に重要なのは、私たちの世界の本質を知ることです。もし世界が生命体なら、私たちはその中で何をするべきなのかです」

 

 ユラリアは静かに付け加えた。

 

「そして、もし教授が別の世界からいらしたのなら、その知識は我が国にとって重要な意味を持つかもしれません。特に、革命の波が周囲の国々で広がる中、私たちの世界の在り方そのものを変える可能性がありますから」

 

 教授は二人をじっと見つめた後、軽く笑った。

 

「実に完璧な模範解答をありがとう。ただ、政治的な思惑はそこまでにしておこう、ユラリア。今は、純粋な探究心の方が大切だから」

 

 教授は再び席に戻り、茶を淹れ直した。

 

「では、仮定の話として聞いてほしい。もし、別の世界から来た者がいるとして、なぜその人は自分の出自を隠すだろう?」

 

 リーシャとユラリアは顔を見合わせた。

 

「迫害されるのを恐れて?」

 

 リーシャが推測した。

 

「あるいは、知識の濫用を避けるためでしょうか」

 

 ユラリアが続けた。

 教授は二人の解答にゆっくりと頷いた。

 

「どちらも正解だね。加えて、その人は自分の故郷の世界に戻る方法を知らないかもしれない。そして、新しい世界で自分の居場所を見つけようとしているのかもしれない」

 

「それは認めたということですか?」

 

 リーシャは目を輝かせ、表情を明るくしながら言い──それを見た教授は微笑んだ。

 

「直接は答えないよ。ただ、君たちに訊ねたい。もしそれが真実だとして、君たちはどうするつもりなのかな?」

 

 ユラリアは姿勢を正し、凛とした声で答えた。

 

「私は、その秘密を守ります。教授がこの国で安全に暮らせるよう、政治的な保護も約束します。第一王国王女として」

 

 リーシャも頷いた。

 

「異世界から来たのかって、そんな重要なことですか? 私にとって大事なのは、異世界の存在そのもの(・・・・)だから!」

 

 教授は二人を見つめ、長い沈黙の後、静かに口を開いた。

 

「この世界には、まだ誰も気づいていない驚くべき真実がある。そして、それを知ったとき、君たちは大きな選択を迫られるだろう」

 

 教授は立ち上がり、研究室の奥にある特別な棚から一冊の本を取り出した。それは見たこともない素材で作られ、奇妙な模様が表紙を飾っていた。

 

「これは私が書き留めてきた記録だ。別の世界の知識と、この世界で発見したことの融合と言ってもいい」

 

 教授はその本をテーブルの上に置いた。

 

「確かに、私は別の世界から来た。そこでは魔法は存在せず、科学と呼ばれる体系しか存在していなかった。そして、前兆なく私はこの世界に転移した」

 

 リーシャとユラリアは息を呑んだ。

 ただ、教授にとってはそんなことは些末なことでしかない。

 

「ただ、転移するだけならば理解出来る。転移前でも研究者ではあったが──創作上の流行として、そのようなものが実在することは知っていたからね」

 

 教授は想起する。狭く物が散らばった研究室を。

 自らが十年以上立てて組み立てたアナログの観測道具を。それらは確かに古典的であり、時代に即したものとは言えないが──それらは、確かに観測をこなすことが出来た。

 

「例えば。講義で話した電位依存性ナトリウムイオン電流は、この世界で用いられるどの雷電魔法と比べても、その一億分の一にすら届かない。この世界よりも遥かに電気が溢れるあの世界で、それをノイズなしで観測することが、どれだけ慣れ(・・)の必要な技術か、想像出来るか?」

 

 無論、教授の専門分野はあくまで薬理学であってイオンチャネルでなかった。それでも、薬剤の作用機序を調べられるに足る施設を組み立て、満足行く結果を出すことがどれだけ難易度の高いことなのか。

 

「実験というのは自動では進まない。更に、薬理学という分野は生体(・・)を扱う以上、想定通りに進まないことが多い。だからこそ、長く続けることで予想外の事故に慣れ(・・)、対処が出来るようになってくる──はずなんだけれどね」

 

 教授は自分が柄にもない行動をしていることに気付いたのか、深呼吸を挟む。

 

「見ての通りの体だ。微細な動きが昔通りじゃない。それに実験器具が存在しない。魔法で一部は誤魔化せても、それでは研究は続行出来ない。だとしたら、まずはどうにかなりそうな体の違和感を解消する為に『TS薬』を望むのは、そんなに不自然なことかな?」

 

 謂わば、と教授は言葉を区切る。

 

「突然、『魔法』のない世界に飛ばされたか。人類が『信念』を持たない世界に飛ばされたようなものだ」

 

 リーシャには『魔法のない世界』は想像出来なかった。

 夢が広がり、世界に色彩が存在し、人生に意味を与えてくれる──疑問(・・)に溢れるものだったから。

 

 未知に溢れ、世界に謎で満たしてくれる魔法を奪われるというのは頭や心臓を奪われるか、或いはそれ以上に理解し難いものだった。

 

 ユラリアには『人類が信念を持たない世界』というのを想像出来なかった。ユラリアは、人類というのは大小の程度や方針の差こそあれど、人類という種族は『信念』を満たす為に行動していると考えているからだった。

 

 それが対立を育て、時に協調を育み、そして人類は動いていくと考えているユラリアからすれば、信じられなかった。

 自らの信念に。自らの思想がなく、盲従的に世界に流されるだけの人類の存在を。

 

「というわけで。改めて、自己紹介をしよう」

 

 教授の言葉に、二人は視線を上げる。

 夜は近付き、人類にとっての未知が──畏敬すべき世界は、やってくる。

 夜空に広がる、不可視が人類を見下ろす。

 

真理不在の惑星(インロゴス・プラネット)。『TS薬を開発したいだけの薬理学教授』だよ」

 

 

 

 

 

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