クローン戦争である。
22BBYから19BBYの3年間、銀河は独立星系連合と銀河共和国の2つに分かれて戦争を繰り返した。
一千年近く続いた平和は容易く打ち砕かれ、共和国は戦争の時代に突入した。
シーヴ・パルパティーン最高議長はこうした背景を理由に非常時大権を発動し総力戦遂行の為に中央集権体制の礎を創り上げた。
無論パルパティーン1人に権力が集中することを不安がり、批判する人々もいた。
だが目の前に迫る戦争という現実はそういった批判に誠実さを失わさせた。
ある平和主義の元老院議員がそうした制度を批判している間に前線では大勢の兵士達が死んでいる。
こうした現実を知っていれば、この一千年何もしてこなかった平和主義の議員と祖国防衛の為に日々邁進するパルパティーンであれば、指示される方はどちらか明白であろう。
いつしかパルパティーンは”
そして彼の人気と政権は19BBYのある一夜によって確固たるものとなった。
ジェダイの軍事反乱である。
ジェダイ・オーダー、共和国を守るライトサイドの騎士は指揮官として戦争に参画する内に戦争へと飲み込まれていった。
いつしかこの戦争に勝利する為にはジェダイが共和国の軍事、政治、経済全てを握らなければならないという急進派が現れた。
急進派は評議会にまで浸透し、いつしか本格的に政権簒奪を考えるようになった。
コルサントの戦いの後、急進派ジェダイはついに行動を起こした。
パルパティーンと共和国軍合同参謀本部総長を拘束し、”
最高議長のオフィスに、参謀本部総長の執務室にジェダイの集団が突入した。
その瞬間にジェダイのクーデターは成功するはずだった。
しかしたまたま議長の執務室に居合わせた”
クーデターは失敗したのだ。
パルパティーンは直ちにカウンターとして戒厳令を発布し、コルサントに展開する軍と警察の力を用いて反乱を起こした急進派ジェダイは全て鎮圧された。
共和国を守るはずのジェダイは共和国の敵となった。
パルパティーンは戒厳令下でジェダイ・オーダーには解体が言い渡され、多くのジェダイが軍権を剥奪された。
それでも急進派以外のジェダイが辛うじて生存を許されたのはパルパティーンを守護したジェダイの存在と、同時期に連合軍最高司令官のグリーヴァス将軍をジェダイが討ち取ったからであろう。
こうした2つの要因がなければジェダイは全員が何かしらの罰を受けていた。
コルサント、ウータパウでの敗北を受けて独立星系連合は戦争の休戦を共和国に申し込んだ。
国内のジェダイ問題を抱える共和国はこのまま戦争を続けても勝利出来る確証がなく、連合側の提案を受け入れた。
それでもこれはあくまで”
双方いつかはトドメを刺そうと心のうちにある闘争心を抑えながらクローン戦争はひとまず終わりを迎えた。
そこからは戦後復興とジェダイらの処遇という国内問題にパルパティーンは対処した。
この2点において、シーヴ・パルパティーンというフォース感受能力も持たない政治家は良くやったと言える。
少なくとも経済は戦前以上のものとなり、アウター・リムの自国領も発展した。
ジェダイに対しては非クーデター参加者には名目上の職を与え、実権を奪いつつ国家の中に抱え込んだ。
こうした戦後復興はパルパティーンの母星、ナブーに流れるソルー川から名を取ってソルー川の奇跡と呼ばれた。
人々は復興発展する共和国の繁栄を享受すると同時にまだ失われているある1つのものを求め始めた。
それは自由である。
パルパティーンは戦後になっても非常時大権を手放さず、共和国の改革と復興を断行した。
権力は1人に集中し、共和国の自由は未だに制限され続けた。
発展の為に厳しい労働を科せられた惑星の労働者もいる。
彼ら彼女らは団結して不平不満と自由を求める運動を始めた。
こうした状況にパルパティーンは
繁栄という光が広がる中、弾圧という地に染まった暗黒も同じように広がっていた。
ある一筋の閃光が闇の中を貫くまでは。
「閣下!こんな虫ケラを抱えて、正しい政治が出来ますか!」
その一言と共に野獣の心で放たれた弾丸は1つの政権と1人の人間の命を終わらせた。
14BBY、後にシーヴ・パルパティーン暗殺事件と呼ばれる一夜の狂乱は自由を失った共和国に春の風を吹かせた。
コルサント、連邦管区で行われた宴会にて
アイソンもパルパティーンも2発の銃弾により即死、共和国は指導者を突如失った。
一体ランシットが何を思ってパルパティーンを撃ったのか、パルパティーンを亡き者にした末に何をしたかったのかは数十年後の未来でも不明瞭な点が多い。
何せランシットはこの暗殺計画をRCIAの中でもほんの一部にしか知らせず、本当に突発的に起こしたからだ。
RCIA直轄部隊が決起をする訳でもなく、偽情報を飛ばすこともなかった。
ただ部長の警護についた一部の職員が宴会場の最高議長警護室のボディガードを殺害しただけである。
浴びるように酒を飲み、足元をフラつかせながら同じ会場に呼んでいた共和国軍合同参謀本部総長のバートン・コバーン提督らの下に駆け寄った。
ランシットはコバーンに突如謎の武装集団に襲撃を受けたことを伝え、避難の為にスピーダーへ急ぐよう急かした。
一行はスピーダーに乗り込み、急いで宴会場を後にする。
スピーダーの中でランシットはパルパティーンの死をコバーンに伝えた。
自分が撃ち殺したとは一切伝えずに。
そこから彼らは行先を決めるよう運転手に迫られた。
ランシットの息が掛かったRCIA本部か、コバーン提督の本拠地である合同参謀本部センターか、それとも国軍の軍政を司る国防部ビルか。
本来ここでランシットはRCIA本部に何としても行くべきであった。
自身の本拠地であれば例え暗殺の犯人がバレたとしても少なからず抵抗は出来る。
しかし殺害後の予定を一切決めていなかったランシットはコバーンに流されるまま、合同参謀本部センターへ向かった。
これが彼にとっての運の尽きであった。
パルパティーン殺害から僅か数時間で彼の経歴と人生は終焉を告げられることになる。
-銀河共和国領 コア・ワールド コルスカ宙域 コルサント星系 惑星コルサント 共和国軍合同参謀本部センター B2地下バンカー-
クローン戦争がひとまず”
銀河共和国の首都惑星、コルサント自体は戦前通りとは行かないまでも平穏と繁栄が続いていた。
変わった点といえば少しばかりアンダーワールドの秩序と生活が改善されたことと、共和国軍という国家の正規軍が堂々とコルサントを歩いていることだ。
人々は街中にいる兵士達に違和感や恐怖を覚えることはもうなくなっていた。
8年も日常的に兵士を目にすれば自ずと慣れていく。
だが今日の夜ばかりは少し違っていた。
コルサントのスカイレーンと地上道路に軍用機が次々と現れてはある宴会場を取り囲むように展開していた。
しかも共和国軍の合同参謀本部センターにはコルサントにいる全ての指揮官や幕僚達が集まっていた。
この施設は共和国軍の軍令機関たる合同参謀本部の施設であり、ターボレーザーや偏向シールドを備えたコルサントを守る城砦でもあった。
元々は共和国軍事作戦センターを改修した施設であり、スターファイターやガンシップも離着陸が出来る。
その為幾人かの指揮官は自身の幕僚を連れてリパブリック・ガンシップやニュー級シャトルでセンターに来ていた。
尤も多くは真夜中であったが故、既に幕僚達や指揮官自身が帰宅しており緊急で副官と共にスピーダーに乗って本部に来ることの方が多かった。
この男、オルデラン出身の共和国地上軍少将のカーリスト・ライカン*3もそうであった。
ライカンの性格は実直そのもの、私心がなく常に部下の将兵を気遣いつつも祖国防衛の為に厳しい訓練を部下と共に行なっていた。
その為野心ある将校からは扱い辛い人物であったが評価は高かった。
現在は少将の地位を手にし地上軍本部の動員参謀部、教育室長を務めている。
実務を終え、官舎に帰宅し家族と食事を取った所に地上軍参謀総長から呼び出しが掛かった。
内容は「直ちに合同参謀本部へ集結せよ」という簡素なものだった。
ライカンは急いで戦闘服兼常勤服に着替え、軍帽を被って合同参謀本部へ向かった。
彼が被る軍帽には将校ディスクと少将を表す2つ星が付けられていた。
「スピーダーの中で待機してろ」
「はい」
運転手の少尉に命令しライカンは他の将校達と共に地下バンカーへ急ぐ。
バンカーに向かう一団の中にはライカンより遥かに偉い人物もいた。
例えばジャン・ドドンナ*4合同参謀本部次長や宇宙軍第1艦隊司令官のジャージャロッド*5提督。
地上軍や宇宙軍のお偉方が皆集まっている。
衛兵のTKトルーパーは集結する諸将達に敬礼を送っていた。
曲がり角を幾度か曲がると地下のバンカーに繋がる階段に差し掛かった。
「どうぞ奥へ、将校ディスクは既にスキャン済みです」
バンカー前の警備隊長は大声で諸将にそう告げた。
隊長の背後にはショック・トルーパーを示す赤い塗装のTKトルーパーが控えていた。
5年前にクローン・トルーパーの生産縮小が決まった為、クローンのショック・トルーパーは珍しくなっている。
他の将校達と共に階段を降りて呼び出されたB2バンカーに入った。
丁度前を歩く2人の中佐が何かを話していた。
「まさか……戦争でも起きたんじゃないだろうな」
「戦闘が起きたって噂はまだ聞いてないぞ…?」
この手の召集で真っ先に思うことは停戦合意が破られたことであった。
5年前、シーヴ・パルパティーン最高議長は独立星系連合の臨時主席アヴィ・シン*6とヌート・ガンレイ*7と共にクローン戦争の一時停戦を結んだ。
この停戦はあくまで一時的なものであり、恒久的な戦争を終結を意図したものではない。
その為独立星系連合との軍事境界線に位置する第8、第9、第10、第11、第12、第13宙域軍は今でも非常警戒態勢が続いている。
もしも連合軍が境界線を跨ぐようなことがあれば各宙域の艦隊が迎撃し、クローン戦争は再びスタートするのだ。
しかしその線は薄いとライカンは見ていた。
戦闘が始まったにしては本部の将校達はやけに静かだし、何より召集時にそういった類の内容が入るはずだ。
緊急警報のデフコンもまだ作動していないことから前線で何か起きた訳ではないらしい。
何より本部へ向かう道中に見た首都警備司令部隷下の部隊の移動がそれを証明していた。
何かが起きたとすればそれは前線ではなく
バンカー内に入ると既に大勢の将校達が控えており、中にはホログラムで参加する他の宙域軍の将校もいた。
皆同僚や部下と何が起きたのかを話し合っていた。
「タントール大佐!」
ライカンはバンカーに先にいた首都警備司令部参謀のブレン・タントール*8大佐に声をかけた。
コルサント勤務ということもあり、コルサントを防衛する首都警備司令部の将校とは何度か顔を合わせたことがある。
「状況は何か分かったか」
ライカンは先にいた作戦参謀に尋ねた。
「いえ、しかし前線に異常はありません。それと先ほど第30首都警備師団に出動命令が……」
やはり異常があるのは首都の方であった。
ライカンが深刻そうな表情を浮かべていると奥の方から文官のお偉方がやってきた。
まず先頭には国防部長官のスライ・ムーア*9、その後ろには地上軍、宇宙軍、航宙空軍の長官達が現れた。
将校達は彼らが通れる道を作り、何人かは長官達に敬礼した。
その後ろには合同参謀本部総長のバートン・コバーン*10提督と地宙空軍の参謀総長が続いた。
コバーンは諸将に向かって「副議長がおいでだ」と呼びかけた。
彼のいう通り、参謀総長達の後ろにシャングリアンの姿が見えた。
元老院副議長のマス・アミダ*11だ。
彼の周りには秘書官だけでなく、他の省庁の長官達まで来ていた。
中にはRCIAのランシット提督もいる。
ランシットの後ろには同郷かつ同階級の軍人がいた。
ヴァンデン・ハイク・ウィラード*12地上軍少将、共和国軍の憲兵総監だ。
ライカンはウィラードに声をかけた。
「何があったんですか」
憲兵総監なら何か知っているだろうと思い、ウィラードに尋ねる。
しかしウィラードは忙しそうに「すいませんがまた後ほどに」と断られた。
結局のところ何も分からず終いだ。
ライカン達が状況を知らされたのは召集された将校達が全員揃ってからだった。
将校達がアミダを取り囲み、彼の報告に目と耳を傾けた。
アミダはいつにも増して顔色が悪く、声は震えて覇気がなかった。
そしてアミダの報告は将校達に動揺を齎した。
「……少し前、パルパティーン最高議長閣下が亡くなられました」
辺りに響めきが走り、皆隣の者の顔を見た。
唖然としてあり得ないといった表情で、まだ死の実感も湧かなければ悲しみもなかった。
茫然とした、その言葉がこの状況を一番表している。
「皆さんで閣下へ黙祷を捧げた後、我々は非常事態会議を開きます。皆さんはもう暫く本部で待機をお願いします」
ライカンは被っていた軍帽を取り、周りの将校と同じく目を瞑って口を閉ざした。
心からの哀悼の意をパルパティーンに送ると同時に新しい時代の夜明けが今だとライカンは強く感じていた。
数時間後、非常事態会議の結論と犯人の逮捕が秘密裏に行われた。
待機中に合同参謀本部センターの敷地内で銃声が聞こえたが、皆冷静に待機の命令を守った。
会議の結果、マス・アミダ副議長が共和国憲法に則り最高議長代理に任命された。
指導者という国家の頭を復活させた共和国は次の憲法を発動させた。
22BBY、戦争が始まった年に非常時大権と共に成立した戒厳法の発動である。
戒厳法が発動し、コルサントに戒厳令が敷かれたのは5年前のジェダイによる軍事反乱以来だ。
待機していた諸将達は再び一ヶ所に集められ、非常戒厳の発布を聞いた。
後ろに議長代理ら複数人の長官達が座る中、コバーンが前に出る。
戒厳法では戒厳司令官を設定し、その司令官は合同参謀本部総長か地宙空軍の参謀総長の3人のうち1人が任命されることになっていた。
各軍参謀総長が戒厳司令官に任命される場合は本部総長が指揮能力を喪失した場合のみであり、会議では順当に本部総長のコバーンに命じられた。
「戒厳司令官に命じられたバートン・コバーン提督です」
ライカン含めた数百の将官達の視線がコバーンに集まった。
そんな中でもコバーンは臆せず、会議で決まった内容を諸将に伝える。
「諸君も存じている通り、戒厳法に基づき今回の一連の事件に対する合同捜査本部を設置します」
戒厳司令官は合同参謀本部総長が命じられるように、戒厳令下の合同捜査本部長も憲法によって任命される人間は定められている。
共和国軍保安司令部、軍内や軍需における情報の流出を防ぎ、犯罪捜査や軍による反乱を防ぐ防諜組織。
この保安司令部の責任者たる保安司令官が合同捜査本部長に任命される規則だ。
そして皆、その保安司令官が誰かよく知っている。
「戒厳法規則に基づき、合同捜査本部長にはウィルハフ・ターキン提督が任命されます」
コバーンの発表と共に最前列に座っていた1人の提督が立ち上がって戒厳司令官へ敬礼をした。
頬骨が出て顔だけ見れば痩せ型に見えるがその体付きは特殊作戦司令部の兵士に勝るとも劣らない恵体である。
髪はオールバックにしつつも加齢かやや後退が見られ、白髪が目立ち始めていた。
一番恐ろしいのは眼光であり、時に放たれる殺気を含んだ鋭い目付きは並の兵士であれば萎縮して動けなくなるだろう。
襟章には提督を示す4つ星が、胸の階級章には赤6つ、青6つのタイルが貼られていた。
彼には様々な呼び名があった。
アウター・リムの統治者、エリアドゥの一番星、クワットの英雄、最高議長の盟友、鉄と血の保安司令官、アンダーワールドの主人。
この男こそがウィルハフ・ターキン*13保安司令官。
この国の新たな支配者である。
-首都惑星コルサント 国軍保安司令部ビル 地下拘留所”
ランシットの野望、そんなものがあったかすら不明だが少なくともランシットがパルパティーンの代わりに最高議長の席に居座ることはなかった。
彼は非常事態会議の場で何度も戒厳令を発布するよう要請した。
結果的に戒厳令は発布されたのだがその際会議の場にランシットはいなかった。
宴会の場を共にしていた最高議長の秘書室長ジェイナス・グリージェイタス*14が犯人をアミダらに話した為、即座に逮捕が決められた。
ウィラードら憲兵隊がランシットを呼び出し、軍用スピーダーに乗せた。
そのままランシットは呆気なく逮捕され保安司令部の地下施設、通称”
この地下施設は元々あった尋問室をターキンが大幅に拡大強化したものだ。
実質的な保安司令部の収容所であり、そこで行われていることは想像に容易い。
拘束されたランシットも数時間経たないうちにRCIA部長に相応しい身なりから頬が青く腫れ、ぐったりと疲れ切った無惨な姿へ変えられていた。
彼は共和国軍の中では一般的な構造の刑務所と同じ尋問室に叩き込まれ、拘束具をつけられて尋問を受けさせられていた。
尋問室は冷たく、硬いベッド兼椅子が1つあるのみでテーブルは壁の一部を倒して設置する仕組みになっていた。
ランシットの周りには数人の保安司令部付の将校が控えていた。
そのうちの1人は今まで尋問を担当していたエヴァックス*15中佐、保安司令部の対分離主義捜査課長でこの手の尋問が得意であった。
エヴァックスはランシットに対し、情け容赦のない暴力と自白剤の投与で犯行の動機を探った。
必要以上に尋問ドロイドと時には自身の拳で元部長に痛みを与え、理由を尋ねた。
おかげで粗方の情報はもう手に入った。
もう1人はガリアス・ラックス*16大佐、役職は保安司令部秘書室長、つまりターキンの副官である。
彼もまた、ターキンと同じようにパルパティーンに認められ1から計画的に育て上げられた子飼いの将校だ。
冷酷な表情でランシットを見下ろしている。
最後の1人はギデオン*17大佐、保安司令部人事所長を務めており一番得体の知れない危険な人物であった。
そして最後の1人は勿論保安司令官、そして合同捜査本部長のターキンである。
彼は手を後ろで組みボロボロになったランシットを見下ろした。
「それで、事件の動機は世界を変えたかった、自由主義者を気取りたかったと」
冷たい声音でランシットに吐き捨てた。
ランシットは首を横に振り、必死に弁明しようとした。
「そうじゃない……動機は全部言った通りだ……」
周りの3人が黙らせようと寄ってくるがターキンが3人を止めた。
3人はそれぞれランシットを罵倒した。
ターキンもそれくらいならばと3人には好き放題言わせた。
適度な罵倒は相手の自尊心をへし折り、尋問がだいぶ楽になる。
「閣下を亡き者にして貴方が次の大統領になるつもりだったんですか?随分と浅はかですね」
「ランシット部長がそこまでの恩知らずだったとは、ついていった部下達が哀れだ」
「今の貴方は5年前のジェダイ達と気が合いそうですよ」
ランシットは彼らの罵倒や嘲りに対して何も言い返せなかった。
ただ全身を生まれたての生物のように震わせ、痛みに悶えていた。
「成功する確信すら怪しいのに結構した、それこそ占い師かジェダイにでも唆されないと理由にならない」
ターキンはランシットに近づき冷ややかな目線で彼に告げた。
「確かに変わったようだな、君の世界は。RCIAの広い執務室からこの尋問室まで堕ちた」
地下の尋問室は完全な密閉空間であり、外の様子は一切見ることが出来ない。
それにこの尋問室に入れられたら次に外に出るのは裁判の時だ。
ターキンは敢えてランシットの前に立った。
ぼんやりとした視野でもその鋭く冷酷な眼光はよく見えた。
「だが共和国は、この世界は微塵も変わっていない」
ターキンはまるで世界を代弁するかのような語り口で裏切り者に向かって言い放った。
「世界はそのままだ」
-首都惑星コルサント ギャラクティック・シティ 連邦管区 元老院オフィス・ビル 最高議長執務室-
幾万年もの間、数多くの最高議長がこのオフィスに座って銀河共和国という巨大な国家の舵を取ってきた。
前任者たるシーヴ・パルパティーンはその中でも特に異彩を放つ完璧な超人であった。
戦前の安全保障改革、戦中の戦争指導、そして戦後の復興、どれもパルパティーンは成功させた。
パルパティーンが閣下と呼ばれ人々から崇められているのは単に警察権力と軍権力が手中にあるからではない。
それだけの業績があり、少なくとも共和国の中にいる人々が全員平等に飯が食えて明日に困らなくなったのはこの閣下のお陰だ。
後任のマス・アミダはそう思っていたしだから今、この席に座る事になった自分が怖かった。
アミダは優秀な官僚兼政治家だ。
されど彼の優秀さはナンバー2という席に収まることで発揮される。
副議長として前前任のヴァローラムを支え、パルパティーンを数日前まで支えてきた。
おべっか使いと呼ばれることも多かったがアミダの能力を評価する政治家や官僚も少なくなかった。
だが最高指導者としての資質はどうか、アミダはその席について見て分かった事がある。
自分にその資質はなかった。
巨大すぎる権力と前任者の偉大な功績がただ重圧となってのしかかってくる。
まるで拷問だ。
それでも次の選挙があるまではこの国を守り、維持しなくてはならない。
その為に必要なサポーターはもう呼んだ。
オフィスのドアが開き、セネイト・ガードと共に1人の政治家がと1人の軍人が入ってきた。
見事な髭を生やし、実直な顔で佇むオルデランの敏腕議員。
政治家の名はベイル・プレスター・オーガナ*18といい、パルパティーンに忠実なロイヤリスト・コミッティーの1人でもあった。
もう1人は合同参謀本部総長兼戒厳司令官のコバーン提督で、制帽を左脇に抱えて今や最高司令官となったアミダに敬礼する。
「オーガナさん、コバーンさん、よく来てくれました…!こちらに座ってください…!」
席を立ち、アミダは客人を出迎えた。
オーガナも「お気遣いありがとうございます」と頭を下げ、手前のソファーに座る。
彼の隣にコバーンも座り、制帽をテーブルに置いた。
給仕にバター・ティーとブルー・マカロンを用意させ、アミダはオーガナをもてなした。
「連日の緊急会議と代理の人事でお疲れでしょう」
「ええ、閣下を失った悲しみも未だ大きいですが……それ以上に仕事の量で圧倒されます」
たわいない仕事の話を挟み、暫くしてから本題に入った。
オーガナには1つ、頼みたい事があった。
「…オーガナさん、今の私には残り1ヶ月少しを耐え抜く支えが必要です。なんとか新人事を立ち上げましたが戒厳令下ということもあり、我が国のバランスは不安定です」
「それは存じております」
「だからあなたに、是非副議長をやっていただきたいのです…!」
予想外の提案にオーガナは驚いた。
何かしらの内角の職に入れられることは覚悟していたがまさか副議長とは。
「なぜ私に?」
オーガナは直球で疑問をぶつけた。
「私に閣下ほどの力はありません……このまま行っても選挙は私が勝つでしょうが閣下のような執政は出来ません。ですからせめて、国民が望んでいることを送ろうかと」
「…民主化、ですね」
アミダは小さく頷いた。
パルパティーン政権は偉大な政権だったがそれが民主的かと言われればそうではない。
勿論政権を手にし、権力を彼の手中に収めてきた手法は全て民主的なプロセスを含んでいる。
しかしその結果は1人が数多の権力を手にし、強権的な独裁政治であった。
最たる例は惑星ゴースとその衛星シンダで起きた暴動だ。
パルパティーンと共に暗殺されたハルス・アイソン警護室長はあの暴動を「連合の工作」と断言したが実際は違う。
当初はゴースの過酷な鉱山労働環境に耐えかねた一般労働者達が待遇改善の為にデモを起こした。
そこに国内の学生や民主化勢力の市民が加わり、デモは膨れ上がった。
このデモを受け、パルパティーンはゴースに非常戒厳を展開し、共和国軍特殊作戦司令部の空挺部隊を展開して鎮圧に当たらせた。
実はこのような強行的なデモ鎮圧を進言したのがアイソンであり、今回の暗殺犯であるランシットは反対する立場にあった。
RCIAの正確な情報分析を受けていたランシットはこの暴動が分離主義者によって引き起こされたものではないと認識していたのだ。
尤も、あの時の当事者達は皆権力の表舞台から姿を消した訳だが。
このような暴動が続けば政権は長く持たない。
事実を重く受け止めたアミダは自らの指針を優柔不断ながらも民主化の方へ舵を切ったのだ。
そこでオーガナの力が必要だった。
隠れ民主化勢力としてロイヤリスト・コミッティーに残り、チャンスを待ち続けていた彼が。
「それに軍としても気掛かりなのが一つ、ターキン提督の派閥です。今やターキン提督自身が保安司令官に合同捜査本部長の権限まで手に入れ、歯止めが効かなくなっている」
コバーンは内部不安をオーガナに打ち明けた。
それに同調するようにアミダは頼み込んだ。
「ターキンと”統一会”は危険です。もしかしたら私も彼らに飲み込まれてしまうかもしれない……彼らを食い止め、国のバランスを保つ為には貴方が必要なのです」
念を押され、遂にオーガナも折れた。
元より覚悟の上だったのでむしろ武者震いが出るくらいだ。
「分かりました、副議長の職務を引き受けましょう」
「ありがとうございます…!」
オーガナはアミダとコバーンと握手を交わし、オフィスを出た。
ようやく長い冬の時代が終わったとオーガナは感じていた。
シーヴ・パルパティーンの死から数日が過ぎた。
コルサントは戒厳令の下に置かれ、数日のうちにパルパティーンを弔う国葬が開かれた。
政治家、官僚、軍人、多くの国民が国葬に参加して最高議長の死を悼み、涙を流した。
尤もそういった人は最初から親パルパティーン派の人間で、多くの国民は衝撃は受けたがどことなく新しい時代が来る気がして僅かに騒めき立っていた。
誰が言ったか、「最高議長がいなくたって飯は食える」という言葉は正に今の状況を的確に表していた。
それでも偉大な国父を失った衝撃は春風と共に共和国を闇夜に突き落とした。
これからどうしたらいいか、多くの者がそのビジョンを持っていなかったのである。
保安司令部にいるある1人を除いて。
「今回の最高議長閣下に対する衝撃的な事件について……国民の皆様は心を深く痛めておいででしょう。また、今回の事件に際し……纏まったか」
1時間後に開かれる合同捜査本部の記者会見の台本を読んでいるターキンの下に報告書を携えたラックスが敬礼と共にやってきた。
ラックスはターキンに報告書を見せると同時に内容を読み上げた。
「RCIAのスパイの報告によれば、連合軍が侵攻部隊を編成している様子はないようです。また分析班によれば向こうも政争の真っ只中でそれどころではないと」
独立星系連合は経済改革の有無を発端に企業組と呼ばれる連合に与した企業のトップ派閥と、元老院組と呼ばれる元老院議員の政治派閥の対立が続いていた。
コルサントでドゥークー伯爵が、ウータパウでグリーヴァス将軍が戦死し確固たる指導者を失ったのが一番の痛手だ。
尤も今の共和国は他人を笑っていられるほど余裕がある訳ではないのだが。
「何処もかしこも対立ばかり、か。RCIAの臨時長官は決まったか」
「第17宙域軍司令のユラーレン提督を臨時の長官に据えると聞いています」
ウルフ・ユラーレン*19ほど数奇な人生を辿った人間はいない。
軍人のスール・ユラーレン*20の子供として生まれ、父の後を継いでクウィマー宙域軍の大佐を務め、退役後は元老院情報部に所属した。
そしてクローン戦争が始まれば艦隊司令官として動員され3年間同じジェダイの下で戦い続けた。
これほどまでにインテリジェンス組織と軍組織を行き来した人間はいないだろう。
「ユラーレン提督は統一会ではなかったが……閣下にも私にも良好な仲、多少無茶を言っても問題ないだろう」
統一会、共和国軍内に存在する私的交流組織。
この組織の始まりは5年前まで遡る。
ジェダイの反乱を鎮圧した後、パルパティーンはジェダイ・オーダーを解体して二度と反乱出来ないように手を尽くした。
だがそれだけでパルパティーンの疑念が収まる訳ではなかった。
次に不安を覚えたのは共和国軍に対してだった。
共和国軍もジェダイのように軍事反乱を企て、自身に歯向かうのではないか。
こうした不安を抑える為に生み出されたのが統一会であった。
ターキンを筆頭に軍内部で信頼のおける幾人かを集め、統一会を用いて軍内の監視と反乱の抑止を行なった。
元々第18宙域軍の司令官だったターキンを保安司令官に据えたのもその為だ。
統一会は軍内で拡大を続け、パルパティーンの支配を支えた。
それが今では主人を失った哀れな軍派閥に成り下がっている。
「それと閣下のご要望でスカイウォーカー将軍とアミダラ議員の様子は確認致しましたが」
「どんな様子だったか」
「スカイウォーカー将軍は呆然としておいででした。アミダラ議員の方は相変わらずといった感じです」
台本に目を通しながらラックスの報告を聞いた。
少なくとも不満げな表情ではなかった。
続け様にもう1人のジェダイのことを尋ねた。
「ケノービ将軍の様子は」
「こちらも変わらずです、少なくとも閣下が心配なされた事は起こり得ないかと」
ターキンは指を軽く動かしてギデオンに鏡を持たせた。
自身の制服と髪型の状態を確認した。
ナルシストという訳ではないがこれから記者会見だ。
身なりには気を使う必要があった。
「だが監視の手を緩めるな、英雄とはいえジェダイだ。厄介者に変わりない」
アナキン・スカイウォーカーとオビ=ワン・ケノービ、この師弟がいなければジェダイはとうの昔に全員処刑か追放されていたであろう。
ジェダイの反乱の際、反乱者側についたジェダイから最高議長の身を守ったのはアナキンであった。
アナキンとパルパティーンの関係は単なる友人ではなく擬似的な父と子でもあり、パルパティーンにとっては唯一信頼出来るジェダイであった。
32BBYのナブー侵攻で通商連合軍に致命的な一撃を与えたのが当時9歳のアナキンであり、その頃からパルパティーンはアナキンに目をつけていた。
ある意味彼もターキンやラックスと同じパルパティーンによって計画的に育て上げられた人物とも言える。
その事に若干の不安を覚えないジェダイではなかったが、ナブーの一件で名の知れたアナキンをぞんざいに扱うことも出来なかった。
尤もぞんざいに扱えないとはいえ、精神面や最高議長の人事介入など理由をつけて実際は戦争中もアナキンを冷遇していたのは事実である。
そもそも共和国の下位組織であるジェダイ・オーダーに対し、共和国の最高指導者が人事権を持っていないことが問題なのだ。
ジェダイ・オーダーとは事実上の
こうした様々な理由の結果、既存のジェダイ達と心の距離が最初から開いていたのはまた別の話。
アナキンだけが唯一明確にパルパティーンに味方したジェダイであり、彼の決死の抵抗がなければ少なくともパルパティーンは5年前に死んでいた。
一方のオビ=ワンは同じ頃、指揮下の第7空挺兵団を率いて惑星ウータパウに強襲を仕掛けていた。
RCIAの配下のクローン情報部がグリーヴァス将軍の所在地を掴み、暗殺作戦を決行したのだ。
結果、グリーヴァス暗殺は成功し独立星系連合は最後の頼みの綱だった最高司令官を失った。
これ以前にはドゥークー伯爵が、軍司令官であればトレンチ提督が戦死している。
有象無象の分離主義者達を束ねて総力戦に邁進出来る指導者が失われたのだ。
捕虜交換で帰ってきたマー・トゥーク*21も優秀な軍事指揮官であったが、ライロスの敗北が響いたのか国内人気もそれほど高くない。
トゥークを最高司令官に置いたところでこのまま戦争継続出来るのかという不安もあり、連合は戦争の一時停戦に踏み込んだ。
オビ=ワンはクローン戦争に於ける一時停戦の根本的な要因を作ったのだ。
この功績はジェダイの軍事反乱鎮圧後も大きく、無視出来ないものであった。
しかもこの2人はコルサントの戦いでもパルパティーンの命を救い、ドゥークー伯爵を討ち取っている。
大き過ぎる功績に保安司令部やRCIAがいくら調べても出てこない怪しい点、この2人を他のジェダイ同様拘束して処罰する事は出来なかった。
更にはこの師弟はパルパティーンに軍事反乱に加担していないジェダイの助命と名誉回復をパルパティーンに頭を下げて願った。
元より親しい仲で命を二度も助けられたパルパティーンはアナキンの頼みを聞き入れ、ジェダイ全体に対する刑を軽くした。
結果的に軍事反乱を起こしたジェダイ派閥との関係がグレーゾーンなキ=アディ=ムンディや、ジェダイの最高指導者であるヨーダもジェダイ将軍を解任された上でディープ・コアの惑星タイソンに軟禁されるという形で落ち着いた。
プロ・クーンやジャロ・タパル*22のようなジェダイは将軍を退役し共和国軍特別顧問という監視付きの閑職に回された。
将軍の地位が許されているのはアナキンとオビ=ワンの2人だけであり、実際のところは名誉職に近い。
ジェダイ・オーダーという組織は解体され、かつてのジェダイ聖堂はRCIA管轄の共和国特別公文書館として利用されている。
こうして組織としてのジェダイは完全に力を失った。
全てのジェダイには必ず保安司令部がRCIAの監視要員が付き、逐次情報はターキンの下に入ってきている。
その為この機に乗じてジェダイが再び軍事反乱を起こす可能性は皆無に近い。
もしそんな事になれば必ずターキンの耳に入ってくるからだ。
「そういえば”
「双子か…」
鏡を遠ざけ指揮棒と軍帽を手に持つ。
ラックスのいう双子とはアナキンとパドメ・アミダラ元老院議員の子どものことだ。
保安司令部の身辺調査で分かったことなのだが実はこの2人、クローン戦争開戦直後に結婚し息子と娘の双子を実は妊っていたのだ。
特別な理由がない限りジェダイは婚姻をしてはいけない。
いくらジェダイ・オーダーが解体されたとはいえ、何かの弾みでアナキンとアミダラ議員のスキャンダルになる可能性がある。
その為パルパティーンはこの情報を伏せ、保安司令部でもターキンと捜査班、各所長と参謀長くらいしか知らなかった。
「ラックス、その話はあまりしてやるな。気密事項だぞ」
「ハッ、失礼しました」
ラックスは軽く頭を下げ、司令部の窓から外の様子を見つめた。
ケノービはともかく、スカイウォーカーに最早政治的野心はない。
隣にいるアミダラも国外逃亡したモスマ同様無力にした。
残るはこちら側に来て怪しい動きをしているオーガナのみ。
思考を巡らせながらターキンは軍靴の音と共に会見場へと向かった。
-首都惑星コルサント 合同参謀本部総長公邸-
合同捜査本部による会見が始まった。
ターキンは表情を一切変えず、調査報告を国民に向けて喋った。
『今回の最高議長閣下に対する衝撃的な事件について、国民の皆様は心を深く痛めておいででしょう。また、今回の事件に際し我々合同捜査本部が捜査した事件報告を国民の皆様にこの場を借りてお伝えします』
ホロネット・ニュースを通じて映し出されたターキンは国民に強烈な印象を与えた。
記憶力が良い人ならターキンをホロネットで見るのは二度目になる。
かつて連合軍が四千隻の艦隊でクワットを進行した際、これを撃退したのはターキンであった。
クワットの英雄として礼服を着て出てきた時とは違い、今のターキンは有無を言わせない冷徹な仕事人という面持ちであった。
一方その裏で、コバーンの邸宅に1人の仕事人が呼び出されていた。
『犯人は「閣下、こんな虫ケラを抱えて、正しい政治が出来ますか」と言ってブラスター・ピストルを持ち…』
彼は道中も音声でターキンの回想を聞いていた。
スピーダーから降り、公邸に入ると家の主人から早速もてなされた。
「ライカン少将、よく来てくれた。それは?」
コバーンはライカンが手に持っている箱を指差した。
「オルデランにいる親族から送られましてね、食用のエメラルド・グレープです。つまらない手土産ですが」
「いただこう、家族も喜ぶ」
コバーンはライカンの手土産を受け取り、近くにいた副官に手渡した。
提督は「来て貰って悪いが、外で話そう」とライカンを外へ連れ出した。
合同本部総長の公邸は軍施設の中にある。
周囲には護衛のTKトルーパーが控えており、軍用車両も控えている。
公邸の外には何本かの木々と植物が植えられた庭があり、大都市コルサントで自然を感じられる数少ない場所であった。
歩きながらコバーンはまず雑談から話を始めた。
「浮かぬ顔だったが保安司令部のターキン提督とはあまり仲がよろしくないそうだね」
コバーンは穏やかな声音でライカンに尋ねる。
白髪頭の提督はライカンより10個以上は年上で経験に関して言えば2倍の差があると言っていいだろう。
ライカンは常に敬意を忘れない人格者である。
軍人として先輩の上官に対する礼儀もよく知っていた。
「ええ、南アウター・リム掃討戦で少し……作戦方針の違いというだけで私は水に流しましたが…提督殿は分かりません」
ライカンは苦笑混じりに答えた。
一度だけライカンはターキンと共に戦った事がある。
20BBYの末期、アウター・リム包囲戦のきっかけを作った南アウター・リム掃討戦でライカンは第18宙域軍の作戦参謀として働いていた。
クワットの戦いで勝利を挙げた英雄ということでこの時まではライカンもターキンを尊敬していたし、ライカン達が作った作戦案もターキンから評価された。
だが実行された作戦はライカンの想像とは全く違うものだった。
ターキンは文字通り南アウター・リムから連合軍を掃討した。
無関係の可能性があった一般住民も巻き込んでだ。
軌道爆撃と通常の空爆を多用し、その後地上部隊による侵攻で徹底的な殲滅戦を行った。
ターキンはライカンらが作った作戦計画通りに事を動かしたが、その手段は必要以上の恐怖と暴力だった。
ライカンは直接ターキンに不用意な軌道爆撃や空爆を止めるように進言した。
されどターキンは面と向かって却下し、作戦を続けた。
その影響か南アウター・リムから分離主義者は完全に掃討されたが、失われた人命と被害も大きかった。
後に共和国軍は巻き込まれた住民は皆分離主義者だったと発表したがライカンはそうとは思い切れなかった。
「そのことよりも、”
「ハハ……あれに関してはだいぶキツく言われました。今では反省しています」
ライカンが教育室に来る前、大佐だった頃に軍事研究室という民間と合同で行う安全保障研究所に属していた。
そこでライカンが発表した論文が軍の一部に波紋を呼んだ。
「保安司令部をJCS直轄の諜報室と統合して権限を減らし、諜報に専念させよ……内容が内容なんでRCIAからも色々言われました」
「申し訳ないと恥じるばかりですよ、各所でえらいお叱りを受けました」
ライカンは恥ずかしそうに苦笑を浮かべた。
コバーンの言った通りライカンの論文は保安司令部と事によってはRCIAにも喧嘩を売る内容だった。
ライカンは遠回しに本来の役割を逸脱し権力を振り翳す保安司令部を批判した。
それが保安司令官とその仲間達の琴線に触れた。
「ハハ、むしろあの論文を書いたからこそ君を呼んだ」
しばらく間を置いてからコバーンは本題に踏み込んだ。
「…統一会についてどう思いますか」
一瞬だけ緊張が走った。
ライカンはあえて言葉を選ばず持論を述べた。
「国家を守る国軍の中で私的組織など以ての外です。皆、自身の職務に専念すべきかと」
ライカンは真面目な男だ。
真面目が故、オルデランという軍隊という言葉から程遠い星に生まれたのにも関わらず軍人を志した人である。
人付き合いが悪い訳ではないがターキンのような私的組織を作り出すことはないし出来る能力もない。
むしろコバーンにとってはそれが良かった。
「君はそういうと思った。だから君に首都警備司令官を任せたい」
「はい?」
突然のコバーンの要請にライカンは困惑した。
首都警備司令部は首都惑星たるコルサントの防衛を行う軍組織である。
基本的には宇宙軍たるコルサント本国防衛艦隊と地上軍たる首都地上軍の2つからなり、司令官には中将ないし提督か将軍が相応しいとされていた。
ライカンは少将、首都警備司令官には足りない。
「カーリスト・ライカン少将を中将に昇進させることが決定した。君はこの階級を持って首都警備司令官に就任してもらいたい。今の情勢下で首都の防衛を任せられるのは君だけだ」
コバーンは至って真面目な表情でライカンに頼み込んだ。
この重職にライカンは様々な理由を付けて断ろうとした。
「首都警備司令官は今オナー・サリマ*23司令官が務めているはずですが」
「彼女はもうすぐ退役する。その後任が君だ」
「では首都軍司令か防衛艦隊司令を昇進させ後任に」
「首都軍司令のシュタンデリス中将は第1宙域軍の参謀長に、艦隊司令のペテル・サリマ少将は君と違って経験が浅い。両軍の統合指揮は無理だ」
ペテル・サリマはオナー・サリマの従兄弟の1人である。
親類同様コルサント本国防衛艦隊に志願し、クワットとコルサントの戦いで連合軍と戦った。
だがあちこちを転戦し経験を積んだライカンとは違いサリマはこの二度の戦いしか経験していない。
様々な状況に適応する経験はまだなく、コバーンの言う通り統合指揮は難しい。
しかもサリマはライカンと違って1年前にようやく少将に昇進したばかりであった。
「もう頼れるのは君だけだ」
ライカンは考えた。
それでも結論は出なかったので回答を遠ざけた。
「…少し、考えさせてください」
-首都惑星コルサント 国防部ビル-
合同捜査本部長の権限はその肩書以上に大きい。
まずパルパティーン暗殺事件捜査の為に軍警だけでなく、一般の警察も動員することが出来る。
更に捜査の為と理由をつければコルサント外の警察組織、情報組織にも時間をかければ命令や支援要請が下せる。
しかも今回の主犯はRCIAのトップ、今までのようにRCIAと保安司令部が対等ではなくなった。
RCIAの予算使用は合同捜査本部と戒厳司令部の許可が必要であり、情報も捜査本部長のターキンに行わなければならない。
警護室も今や指導者を失い、保安司令部を抑える組織は何処にもない。
ターキンは共和国中の警察権力、情報機関、国軍の防諜という3つの強大な力を手にした。
今や最高議長を超える権力者だとターキンは一部から噂されていた。
その噂を叶えるようにターキンは今以上の権力に手を伸ばし始めた。
パルパティーン暗殺事件に関連して発覚した裏金や賄賂、汚職事件の捜査も行い、本来暗殺事件とは関係のない官僚や政治家も逮捕した。
捜査過程では汚職事件の捜査も合わせて各省庁の次官達を呼び出し、定期的に報告会を戒厳司令官の許可なしに開いた。
ありとあらゆる情報と影響力がターキンの下に集まっている。
「各省庁ごとに報告させるから本人すらも、『まるで国務会議だ』と笑いながら言っているようですな。嘆かわしい」
合同参謀本部次長、ジャン・ドドンナ将軍は国防部ビル前に停車したターキンのスピーダーを見ながら吐き捨てた。
実直な本来の職務に忠実な軍人であればある程、今のターキンがやっていることは受け入れ難いものだった。
彼は一介の軍人でありながら政治にまで手を伸ばそうとしている。
軍人政治に口出さずとは軍人に政治的センスが一切なくても良いという訳ではない。
戦争とは他の手段を以てする政治の延長線であり、上に行けば行くほど政治的センスも必要になってくる。
されど軍人は少なくとも制服を着ているうちは政治に口出ししたり、占領統治の軍政以外で政治を行ってはならないのだ。
ターキンは今やこの原則を越えようとしていた。
「早いうちに保安司令官殿の勘違いを解いてやらねば、まずい事になりますぞ」
ドドンナの提言を聞いたコバーンは難しい顔を浮かべながら自身のコーヒーカップに手をつけた。
参謀次長のいうことは至極正しいと言わざるを得ない。
しかし今のコバーンにはターキンを単独で止める力はなかった。
彼と彼の周りにいる統一会の面々が持つ力は計り知れない。
下手な手を打てば共和国は内戦状態に陥る。
「分かっている、だが奴は統一会に南アウター・リムの支持まである」
「下手すりゃ内戦……ん?」
スピーダーからターキンが出てくると一斉に様々なホロネット・ニュースの記者達が取材の為、ターキンに集まった。
新聞やホロネット・ニュースで流す為の写真を撮り、ターキンに取材を行った。
その様子を見ながらドドンナため息をつく。
「おいおい、なんてこった。まるであれじゃあ皇帝そのものだ。早急に奴の増長を止めなければ」
ドドンナの危機感は次第に増していった。
彼にとってあのターキンの姿は明確な共和国の危機に見えた。
勿論、そんなことお構いなしにターキンは取材を受けた。
「今回の悲劇を契機に、中央情報部も国軍も国民と国家の期待を裏切らない組織に生まれ変わればと思っています」
この一言で取材を区切ろうと思っていたターキンだったが特ダネ欲しさに記者達は更に取材を続けた。
そのうちのあるニュース社の記者がこんなことを質問した。
「ターキン提督!今回の事件をきっかけに”
ターキンの表情は変わらなかった。
だが雰囲気だけはガラリと変わった。
まるで戦場にいるかのような殺気が周囲を包み、冷ややかな空気が冬の風と共にすり抜けた。
「どこの記者ですか」
たった一言で発言主の記者は足が凍りついてその場から動けなくなった。
まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。
ターキンは記者全員に向かって言い放った。
「銀河共和国には民主主義がなかったとでも?我が国は常に民主主義を尊ぶ国家ですよ」
ターキンはさも当たり前のようにこの国の建前を語った。
記者団の横を素通りするライカンすらも顔を顰めるほど嫌になる建前を。
全軍指揮官会議、共和国軍の最北の第10宙域軍から最南の第18宙域軍まで、最西の第6宙域軍から最東の第13宙域軍まで、地宙空軍全ての指揮官達が集まる共和国軍最大の会議である。
基本的にこの会議に参加出来る者は准将以上の将官限定で、それ以下の者は待機が命じられていた。
将官限定と言っても共和国軍は銀河のほぼ全域に展開する正規軍だ。
国防部で最も大きい会議室を用いてコルサント外の参加者をホログラム参加にしてもなおギリギリという程の将官一堂に介した。
こうした数千、数万の将官の上に立つコバーンは合同参謀本部総長として、戒厳司令官として諸将に訓示を述べた。
まず、現在の共和国はクローン戦争以来未曾有の国難にあること。
その為、諸将が共和国軍本来の任務である国防に専念することを強く望むとコバーンは述べた。
その上で万が一、諸将の中に政治問題に関心がある者がいたならばその発想自体が危険でありよく考え直せとも付け加えた。
つまりコバーンは明確にターキンと統一会を牽制したのだ。
会議が終わるとターキンは統一会の先輩達に軽く挨拶しつつ、コバーンの下へやってきた。
ターキンとコバーンは同じ同列の階級たる提督である。
年齢も近く、経験においても双方引けを取らない。
しかもターキンは今や警察権力と情報を一手に握っている男だ。
合同参謀本部総長の地位を持ってしてもターキンをそう簡単に抑えられないのにはこうした理由があった。
「コバーン提督」
軽く声をかけ、ターキンは作った笑みと共に会話を繋げた。
「先ほどのスピーチ、素晴らしいですね。感銘を受けましたよ」
ターキンから出たのは意外にもスピーチを褒める言葉だった。
それがお世辞であるとは分かっていてもコバーンは拍子抜けしてしまった。
「それはよかったです、分離主義者もどう出てくるか分からないですし」
「首都警備司令にはライカンを置くと聞きましたが」
造花の花で彩られた和やかな空気感が一瞬にして無に消えた。
平静を装いながらコバーンは縦に頷いた。
「ええ、何か問題でも?」
ライカンは数日のうちに中将に昇進し、首都警備司令官として適切な階級になった。
2人は歩きながら話を続けた。
「ライカンが優秀な人材であることは私も知っています。しかしまだ若い、首都戦力の統合指揮が出来るか不安がっているととも聞きました」
端的に言えば疽列葉人事に対する不満であった。
そこでコバーンは直球で「では誰が適任だと?」と尋ねた。
ターキンも直球で自身の要望を伝えた。
「第9艦隊のニルス・テナント*24提督などはどうでしょう」
近くにいたテナントは顔を背けた。
彼はターキンの友人であり当然統一会であった。
つまりターキンは首都警備司令官のポストも統一会にしろとコバーンに言っていた。
その直球過ぎる要望にコバーンは正面切って立ち向かった。
「提督、軍の人事は合同参謀本部総長の権限では?」
「その通りですが…」
「では人事にあなたの許可が必要ですか?」
ターキンは一瞬黙った。
この場において正しいのはコバーンの方だ。
あくまでターキンは保安司令部の司令官、首都警備司令官の人事に関して同行出来る権限はなかった。
「この話は聞かなかったことにしましょう」
話は打ち切られ、コバーンはその場を後にした。
「ウィルハフ、流石に合同参謀総長にあの態度はまずいぞ…」
会議が終わり、会議室を出たテナントはターキンに態度を注意した。
彼の申し出はありがたがったが今このタイミングであの態度で申し込むことじゃない。
一方のターキンは反省しているんだか反省していないんだか分からない雰囲気だ。
「しかしライカン少将が昇進して首都警備司令とは」
「身の丈にあっていないと言わざるを得ないでしょう」
エヴァックス中佐のぼやきにギデオンはそう付け加えた。
これもテナントが「やめとけ」と注意した。
何せ目の前に件の人物がいるからだ。
ライカンは中将を示す3つ星の階級章を襟につけ、浮かない顔で国防部ビルの廊下を歩いていた。
気がつけば中将の昇進が言い渡され、首都警備司令官の職を断る道が絶たれていた。
どうしたものかとターキンの一行を避けて歩いていると驚くべきことにターキンの方から声をかけてきた。
「ライカン中将」
振り返るとそこには微笑を浮かべたターキンがいた。
「中将に昇進したそうだね、おめでとう。君の実力に相応しい階級だよ」
関係が悪化したとはいえ一応は上官と部下、激戦を共にした仲だ。
祝福を述べるのは最低限必要なことだった。
「首都警備司令官は激務だろうが頑張ってくれたまえ」
偽りの激励を送り、ライカンの肩を軽く叩いた。
無論ターキンの祝福が心からのものではないことくらいライカンも分かっている。
「いえ、まだ決まったわけでは」
「断るのかね?」
ターキンはそう尋ねたがライカンから返答が返ってくることはなかった。
首都警備司令官はライカンにとって栄典である。
コルサント1兆の民を守り、伝統のショック・トルーパーと本国防衛艦隊を率いるのは大いなる責任と栄光が司令官の身に与えられる。
正に職業軍人の花形の席、しかし今の情勢下では単なる花形と喜んではいられない。
コバーンがライカンに首都警備司令官の座を与えようとするのは眼前のターキンら統一会一派の拡大を防ぐ為、政治的な要因によるものが大きい。
確かにターキンと統一会は危険な集団である、彼らの拡大を防がなければならない理由も分かる。
ゴース、シンダで亡き最高議長がやったことを彼らは他の地域でもやるだろう。
軍人ではなく1個人としてそれを見過ごす訳にはいかない。
だが政治的陰謀や派閥争いに自身が与することもライカンとしては避けたかった。
それこそコバーンの訓示を破ることになる。
だからライカンはターキンにもコバーンにも返答を濁した。
「保安司令官と合同捜査本部長の兼任は気苦労が多いと存じますが」
話を変える為にライカンはターキンの職務を労った。
「国に仕えるなら当然のことをしているまでだよ、まあ各省庁に気を遣って随分と白髪が多くなったし”抜け落ちたがね”」
ターキンの自虐に2人は苦笑を浮かべた。
もし彼らの生まれが同じオルデランかエリアドゥだったならばもっとより良い上官と部下になっていただろう。
生まれ育った環境の違いは2人の考え方の違いに強く現れていた。
「捜査は順調ですか」
「ああ、公判までにカタをつけんと。裁判官達が首を長くして待っている」
「最近では保安司令部の捜査命令ですぐに逮捕されるケースが多いと聞きました」
「犯罪に対処するのが我々の職務でもある」
ライカンは穏やかな口調でターキンらの職務を批判し始めた。
言葉で言って止まる人ではないと分かっていても最低限やらねばならない。
「皆、”コルサントの春”だと悲しみを乗り越えて新しい時代を受け入れようとしているのに、古代のシス国家みたいに事件に関係ない者まで逮捕し、粛清するのはどうかと」
ライカンの批判をものともせず、ターキンは平然とした顔で言い返した。
「では中将、ある1つの重大事件を追っている最中に目の前に窃盗を働く輩がいたとしよう。君は重大事件と窃盗を両方対処出来る力を持っている。そうであれば2つの犯罪を両方対処するのが正しい行いだとは思わんかね?我々が今やってるのは正にそれだ」
ターキンら合同捜査本部が逮捕する官僚や政治家は常に汚職を行った者達ばかりだ。
その点でターキンらが捕まえた彼らは盗人だと言える。
尤も賄賂や汚職など、パルパティーンが来る前から共和国の風習であり逮捕など今更過ぎるのだが。
「今の共和国はかつての共和国とは違う。暗殺の捜査も汚職の摘発も我々がやるからそう心配するな」
「ええ、そのことに関して私は心配したことはありません。私が心配しているのは逮捕や捜査過程の尋問が必要以上に恐怖を与え、人々を萎縮させているのではないかという点です。閣下が記者に言った通り、この国は民主主義の国です。必要以上の恐怖は独裁国家と同じになってしまう」
平和と自由を重んじるオルデラニアンらしい発言であった。
しかしアウター・リムという修羅の領域から成り上がったターキンからしてみればそんなもの幻想に過ぎない。
恐怖と力が支配の最低条件だ。
「ライカン中将、この国難を機に我々も君と手を取り合いたい。我々が結束すればこの銀河に敵はない」
ターキンの申し出にライカンはキッパリと言い放った。
「閣下、共和国軍は皆同志では?」
ライカンの正論であった。
ターキンは表情を変えず「それでいい中将」と返した。
「では」
ライカンは一礼しその場を去った。
ターキンも振り返りテナントらの下へ戻る。
これで確信した。
-首都惑星コルサント 合同参謀本部総長公邸-
この日もライカンはコバーンの公邸に呼び出された。
コバーンは再三に渡って頼み込んだが、ライカンは辞退の方に意思が傾き始めていた。
中将に昇進したのはありがたいが若輩の身に務まるものではないと断った。
それでもコバーンは粘ってライカンを引き留めた。
もうかれこれ3時間は話し合いを続けている。
「これだけ言って頭を下げても、君は辞退する気なのだね?」
コバーンは煙草を吸い困ったような表情で俯いていた。
合同参謀総長の副官や公邸のスタッフ達も同様である。
それでもライカンは確固たる意思で辞退を申し込んだ。
「私より立派な人を探してください、例えばジャージャロッド提督やそれこそロモディ将軍とか」
ライカンが挙げた2人の人物、双方クローン戦争で名を馳せた共和国随一の指揮官達だ。
特にロモディ将軍とはウエスタン・リーチ平定作戦で共に戦った仲であり、ターキンとは違い厳しくも冷酷ではない将軍だと感じていた。
現在ロモディ将軍は第20宙域軍司令官を、ジャージャロッド提督は宇宙軍第1艦隊司令官を務めており仮に首都警備司令官に移ったとしてもなんら問題はない。
されどその言葉を聞いてコバーンは溜息をついた。
ライカンが再三の申し出を断ったからではない、彼が挙げた2人の名将が実は統一会のメンバーであることを知っていたからだ。
「総長、申し訳ありません」
立ち上がり、ライカンは帰宅の準備を始めた。
今帰す訳にはいかないとコバーンはたばこの火を消し立ち上がった。
「食事をしていってくれ、実は君も知っている人が客人として訪れることになっている。是非会ってほしい」
合同参謀総長直々のもてなしに対し、ライカンは「お気遣い感謝しますが結構です」とこれも断った。
流石にコバーンも怒りが湧いてきたのか、少し強い声音で言い返した。
「もてなしを断るのは失礼だと思わんか?いいから食べていきなさい」
「閣下のお邪魔になってもいけないので、今日は失礼した方が」
「えっあっちょっと」
一礼しライカンは外に出ようとした。
流石のコバーンもこれには大声を上げた。
「何も政治をやれと言っている訳じゃないんだ!」
ライカンの足が止まった。
振り返るとコバーンが縋るような目線で彼に訴えた。
「ウィルハフ・ターキンが保安司令官と合同捜査本部長を兼任し、ありとあらゆる権力を握って我が物顔で振る舞っている。統一会が軍のあちこちに介在し、第18宙域軍は彼の甥が司令官、奴の配下だ。そんな状況で首都警備司令官まで統一会に抑えられてもいいのか?これでは共和国は共和国でなくなってしまう」
「その通りだ」
反対側から声が聞こえた。
ライカンも聞き覚えのある同郷の元老院議員の声だ。
「オーガナ議員…」
コバーンは眼前の副議長に対し敬礼した。
ライカンも遅れて敬礼し、オーガナは2人に一礼した。
「ウィルハフ・ターキンはこの国を巨大な帝国に作り替えようとしている。最高議長の意志を継いで奴は皇帝になるつもりだ。そうなれば我々が目指す戦前の自由と平等な共和国の姿は戻ってこない。春ではなく厳しい冬の時代が戻ってきてしまう」
コバーンは静かに歩き、ライカンに近づいた。
彼の手を握り、頼み込んだ。
「私1人では彼らに太刀打ち出来ない、副議長の力を借りてもダメだ。それに君はコルサントを守ることだけに専念すればいい。実直な軍人が首都警備司令官の職務を全うしているというだけで意味がある」
「私からもお願いだ、共和国を守る為に君の力を貸して欲しい」
最後にコバーンの口からライカンに命令が与えられた。
「合同参謀本部総長バートン・コバーンから、共和国軍人カーリスト・ライカンヘ命令を与える」
己の義務を果たせ。
つづく