-共和国最高議長 シーヴ・パルパティーン-
-銀河共和国領 コア・ワールド コルスカ宙域 コルサント星系 惑星コルサント 首都警備司令部-
共和国軍首都警備司令部、クローン戦争末期より配備されたインペレーター級スター・デストロイヤー十二隻、ヴェネター級二十四隻からなる主力艦を基幹とした本国防衛艦隊とコルサント・ガードのクローン・ショック・トルーパー兵団、5個の首都警備師団、そして首都機械化兵団によって構成された首都地上軍、首都航空兵団からある防衛部隊である。
22BBYより司令部は設置されクワット戦での派兵やコルサントの戦い、ジェダイの反乱鎮圧などで戦果を上げた。
かつては
そんな首都警備司令部の司令官にあるオルデラニアンの若き中将が就任した。
名はカーリスト・ライカン。
合同参謀本部総長コバーンからの要請で首都警備司令官に就任した。
そして今日は新しい首都警備司令官の就任を祝う記念式典が執り行われていた。
ライカンの眼前にはコルサント・ガード1個中隊、各首都警備師団から1個小隊、首都機械化兵団から1個中隊、本国防衛艦隊の各機動部隊から1個小隊、首都航空兵団から1個小隊が整列している。
各隊の背後にはAT-TEマークⅡが数台、最新鋭の
更には飛行パレード用の1個スターファイター中隊が待機している。
本来なら眼前の戦力は全てライカンの指揮下にあり、少なくとも相手が”
共和国軍が軍組織である以上、そこに派閥はつきものだ。
首都警備司令部の中にも数多くの統一会がいた。
「全隊気をつけ!首都警備司令官に対し、
「
各員が自身のブラスター・ライフルを手前に持ち、ブラスターを持っていない将校や下士官達はライカン新司令官に向けて敬礼した。
首都警備司令部、コルサント・ガード、各師団、首都機械化兵団、防衛艦隊要員、航空兵団の軍旗が下される。
軍楽隊が首都警備司令部歌を演奏し、ライカンも各員に敬礼を返した。
演奏の終了と共にライカンは就任演説を行う。
「首都警備司令部は創設以来、コルサント1兆人の国民を守り抜いてきた。新司令官として私は国民と諸君らに対する責任を全うしたい」
演説を終えるとライカンは合同参謀総長とコルスカ宙域を含んだ領域を担当する第1宙域軍司令官のトレック・モロック*1将軍に宣誓を行った。
ちなみにこのモロックは統一会のメンバーである。
その為内心何を思っていたかは言うまでもないだろう。
「小官は首都警備司令官として任務を忠実に遂行し、首都コルサントの安全と繁栄の為に軍人として国家に忠誠を誓うことをここに宣誓する。共和国地上軍中将、カーリスト・ライカン」
来賓の諸将から一斉に拍手が湧き上がった。
来賓には第1宙域軍特殊作戦司令官のピット・オノラン*2中将や共和国軍憲兵総監のヴァンデン・ハイク・ウィラード中将がいた。
ウィラードはライカンと同じオルデラン出身の人物で祝福として花輪と花束を贈った。
それで言うと来賓にはオーガナも来ていた。
文官の来賓としてライカンの就任を歓迎し、彼に首都警備司令部のバッジをつけたのはオーガナであった。
宣誓を終えるとライカンはランド・スピーダーに乗って閲兵式を行った。
各部隊を見回り、最後には部隊司令官達と握手を交わした。
「CC-1010、フォックスであります!」
ショック・トルーパーの赤い塗装に黒灰色のバイザーをつけたクローン・コマンダーフォックス*3は敬礼し新しい司令官を迎え入れた。
この時ライカンは数日前に首都警備司令部参謀のブレン・タントール大佐と話したことを思い出した。
タントールと合同参謀本部が調べ上げた情報によればこのクローン・コマンダーは統一会のメンバーだ。
元よりパルパティーンの護衛を務めていた為クローンの中では最もパルパティーンに近く、クローン軍も監視しておきたいパルパティーンは彼を統一会に迎え入れた。
一方副司令官兼クローン第108憲兵師団長のコマンダー・ソーン*4はそうではない。
彼は軍人としての職務に忠実でいざとなればフォックスの命令を拒否してでもライカンにつくだろうとタントールは分析した。
「地上軍准将、カシオ・タッグです!」
第30首都警備師団長カシオ・タッグ*5、惑星テパシ生まれで名門タッグ家の人物である。
彼が統一会のメンバーであることは有名な話だ。
慎重派で冷静沈着な師団長だがその長所は統一会の為に使われるだろう。
そして次の師団長、第112首都憲兵師団のジョードー*6准将も統一会である。
「地上軍准将、112憲兵師団長ジョードーであります!」
握手を交わし、再びタントールの言葉を思い出した。
ジョードー准将は悪知恵の働く察しのいい人物だ。
しかも元保安司令部の職員という曰くつきである。
首都警備師団、機械化兵団の司令官達と握手を終え、宇宙艦隊の面々と握手を交わした。
「本国防衛艦隊司令官、ペテル・サリマです!」
ペテル・サリマ少将はコルサント本国防衛艦隊司令官であり、前任の首都警備司令官オナー・サリマの従兄弟である。
少将の実戦経験は二度と少ない方であったがその二度は全てクワット、コルサントという一大艦隊決戦のものばかりだ。
艦隊司令官としては十分な素養を持っていた。
「コルサントの制宙権、あなたに託しました」
「我が身を犠牲にしても敵艦隊をコルサントへ入れさせません!」
いくら統一会が郡の各地に介在しようと共和国軍の全てが敵というわけではない。
ライカンは少なくともサリマのことは信じていた。
問題は彼の配下の指揮官達だ。
「コナン・アントニオ・モッティ*7准将であります!」
眼前の宇宙軍准将は敬礼し、ライカンと握手を交わした。
彼はコルサント本国防衛艦隊を構成する第33機動部隊司令官を務めており、艦隊陣形では常に前衛を任せられていた。
出世欲が強く軍内でも評判が悪い人物で、あのウィルハフ・ターキンとは義理の親類の関係にあった。
言わずもがな、モッティは統一会の一員である。
「力になってくれ、准将」
それ故にライカンはあえて彼に声をかけた。
「もちろんです閣下!」
この言葉がいざという時嘘になることはライカンも分かっていた。
フォックス、タッグ、ジョードー、モッティ、この4人は統一会の中核であり協力は望めないと判断された。
彼ら以外にも佐官級に数多くの統一会メンバーがいる。
部隊司令官がライカンの力になってくれてもその部隊を100%動かせる訳ではないとライカンは確信していた。
統一会は私的かつ秘密組織だ、構成員の正確な数は誰も把握していない。
何せ本来そういった組織の存在を把握して対処する保安司令部が統一会の本拠地であり、組織把握の困難さの一員となっていた。
ライカンはタントールに尋ねた。
いざという時、彼らは自分の命令にした側ない恐れはあるのかと。
最初返答を渋ったタントールだったが彼の答えは単純明快だった。
これ少し対策が立てやすくなった。
一度決断したライカンは次の手を打ち始めた。
-首都惑星コルサント 保安司令部 司令官執務室-
組織とは生物のようなものだ。
構成員が細胞や臓器となり拡大という形で成長していく。
いずれは衰退し徐々に滅びの道を迎えるかある日突然心臓部が急停止して息の根が止まり、死に至る。
かつてのジェダイ・オーダーがそうであったように統一会もいずれはそうなるのであろう。
されど今の統一会は支えるべき主人を失ったのにも関わらず拡大期にあった。
構成員の紹介によって選ばれた将校達が厳正な審査の結果、新しい構成員に選ばれる。
そうしなければ統一会はこの春の息吹に飛ばされてしまうから。
「新たに3名の統一会員が入った。レイ・スローネ*8、ロース・ニーダ*9、ヴァリン・ヘス*10」
3人とも階級は違うが皆佐官、ターキンからしてみれば期待の星だった。
組織は常に若い人材を入れておかねば発展はない。
特に期待出来そうなのがレイ・スローネ中佐だ。
彼女はいずれ将官まで駆け上がり、提督として艦隊や宙域軍司令が出来るようになるだろう。
「良いことではありませんか。影響力が広がれば非勢力の連中に対抗しやすくなります」
執務室で軍改編草案の最終チェックを行っていたラックスは出来上がった資料をターキンに見せた。
タブレットを受け取り、ターキンは中身を見る。
「ドドンナ将軍は外せ、アイロン宙域軍に置いておくのがいい。キリアン提督はもう退役でいいだろう」
改善点を告げ、ラックスはその場で修正した。
こうした人事案は本来国防部の人事室がやる仕事である。
「後は先輩方が参謀総長になってくれれば安泰ですが」
「そのことはムーア国防長官と話をつけてきた。ジャージャロッド提督は合同参謀総長に、モロック、スクリードは地宙軍の参謀総長に置く」
少なくとも3人とも参謀総長として十分な実績と前提条件を満たしている。
後は今居座っている連中をどう追い出すかだ。
「コバーン提督はどうしますか?」
その最大の問題がラックスの口から放たれた。
ターキンが保安司令官と合同捜査本部長の権限によって絶対的な権力を手にしたが、結局のところターキンは一介の軍人に過ぎない。
しかも同列とはいえコバーンはターキンにとっての直属上官である。
はっきり言って目の上のたんこぶ、クローン戦争では頼りになった名将も今では邪魔者だ。
ラックスは「国防長官か兵務庁長に移動するのがよろしいと考えますが」と案を出したがそれも厄介だ。
彼には軍から消えてもらわねば困る。
「”
ターキンは考えた末に提督の処断を決めた。
しかし現職の合同参謀総長兼戒厳司令官を完全に軍部から追い出すのは難しい。
それ故にラックスはもっと簡単な方法を提案した。
「この際コバーン提督も
「彼が頑固者であることを君が忘れたとは思いたくないが」
ターキンは遠回しにラックスの提案を否定した。
上官の言わんとすることが分かるラックスはそれ以降何か言うことはなかった。
「あの副議長が、アミダに張り付いているうちは統一会が軍を握らねばダメだ。オーガナめ、閣下が情けをかけて身内に加えてやったのに」
ベイル・オーガナは一度はパルパティーン派閥のロイヤリスト・コミッティーに属していた。
しかしクローン戦争が勃発し、国家総力戦体制の為に徴兵制度を改革し非常時大権の権限を強化していくと彼はそれに反発した。
戦時下であっても民主主義的な体制を守らねば戦う意義がなくなる、オルデラニアンらしい理想論でパルパティーンを批判した。
やがては反パルパティーン派の2,000人の議員に属し、モン・モスマ*11、パドメ・アミダラと共に反パルパティーン派の急先鋒となった。
つまりはパルパティーンの政敵となったわけだ。
2,000人の議員は所属している元老院議員の幾人かが連合から資金を受け取っていた国家反逆罪で憲兵隊に逮捕などの事件もあった。
それでも大多数はパルパティーン政権が独裁の道に進むのを止めようとした集まりであり、皆民主主義者であった。
だが2,000人の議員は19BBY、ジェダイの反乱によって崩壊する。
ジェダイに襲撃されたパルパティーンが反乱鎮圧の為に実行した非常事態戒厳に対する反応を巡って意見が割れたからだ。
意外なことにオーガナはパルパティーンの非常事態戒厳を支持した。
パルパティーンの非常時大権拡大は抑えるべきと言う意見は変わらなかったが、ジェダイの軍事反乱は民主主義そのものに対する挑戦だったからだ。
実際ジェダイもより独裁的な戒厳状態を作ろうとしていたし彼らの反乱は何の正統性もない民主主義の脅威だった。
ジェダイと仲が良かったオーガナがここまでパルパティーンに組みした理由は様々だが、一番は偶々ジェダイがパダワンまで動員して反乱を強行したところを見たからと言われている。
スピーダーでアパートに帰宅中ジェダイの反乱が発生し、念の為様子を確認する為にジェダイ聖堂へ乗り込んだ。
そこであるパダワンが本人の意思とは関係なく武装させられ、戦いに繰り出される姿を見て反乱の正当性を見失ったと本人は話していた。
実際急進派ジェダイの独断によるクーデターとはいえ、一部の動員兵力は何も知らされていないパダワンもいたことが後の調査で確認されている。
ライトサイドを信奉するジェダイ達が殆どシスの帝国でよく起こった権力簒奪と似たようなことをしたのは皮肉だが、それだけ彼らが戦争で暗黒面に囚われていたということなのかも知れない。
ともあれここでパルパティーンを支持したのがオーガナだったが、反対に戒厳令はやり過ぎだと声を上げた議員もいた。
シャンドリラ出身のモン・モスマだ。
モスマはオーガナ、アミダラよりも苛烈な2,000人の議員の急先鋒であり、極右主戦派からは”
そんなモスマはジェダイの反乱において「反乱の主力は鎮圧されたのだから戒厳令をこれ以上続ける必要はない」と戒厳令の取り下げを要求した。
戒厳令下では外出の自由などが一部制限される。
それでもまだ一部は抵抗を続けており、戒厳令の取り下げは非現実的だった。
立場を明確にした2人に対してどっちつかずの立場に近かったのがあのパドメ・アミダラだった。
ナブー解放の元女王はいつもは立場を明確にするのだが今回ばかりは違った。
戒厳令の早期終了をやんわりと主張したものの、戒厳令の発布自体は仕方ないとしつつ長期化もやむを得ないとも発言した。
何故彼女の立場がここまであやふやになったのか多くの人は今でも疑問に思っている。
どの程度影響があるのかは知らないが少なくともターキンはこう考えていた。
アミダラはアナキンと婚姻関係にあった。
そのアナキンはジェダイの反乱時、たまたまパルパティーンと執務室で談笑していたことがきっかけで急進派ジェダイの襲撃を受けた。
最初は手を貸せと狭まれたアナキンだったが彼は暗黒面に囚われた訳でもなければ、ジェダイとしての誇りもパルパティーンへの恩義も忘れていない。
パルパティーンをせめて安全な501軍団の駐屯地まで退避させようと彼は仲間と刃を交えた。
その過程でアナキンは致し方ないとはいえ同胞達を手にかけた。
多くの先輩ジェダイや後輩のジェダイもいた。
サシー・ティン*12、エージェン・コーラー*13、コールマン・カジ*14、そしてメイス・ウィンドゥ。
アナキンの力を認めず弟子の冤罪事件の禍根があるとはいえ彼らは同じジェダイ評議会のメンバーであった。
同胞を手にかけた意識はアナキンに強い悪影響を与えたようで、アナキンは仕切りに自分が守り抜いたパルパティーンを全肯定するようになった。
そうでなければ一体何の為に同胞を何人も殺めたのか理由にならない。
そんなアナキンの言動に影響されてアミダラはあやふや立場にいたのではないか、ターキンはそう考えた。
何はともあれパルパティーンを一先ず支持するオーガナ派と、戒厳令撤廃のモスマ派と、中立のアミダラ派に分かれて2,000人の議員は三等分に切り分けられた。
そして3人の末路はパルパティーン政権の存続と戦争の停戦によって定められた。
忠誠を示したオーガナはパルパティーンに認められ深く信頼されるようになった。
立場は違えど国を守る同志であると1年くらい前まではよく頼りにされていた。
一方のモスマは
数日前に急進派ジェダイの一団とモスマが会談を開いており、反乱当日もモスマの補佐官が急進派ジェダイと連絡を取っていた。
実際には反乱など関係なく、今後の情勢を話し合うだけの会談だったのだがそれまでの言動も相まって疑いの目は深まった。
結果無罪が証明され逮捕されることはなかったが、モスマは元老院議員を辞職し故郷シャンドリラへと帰った。
最後に事実上の中立を保ったアミダラは特に浮き沈みすることはなかった。
一部からは「どっちつかず」と揶揄されたが戦後の復興事業でアミダラが提出した戦災孤児救済法案が多くの子ども達を救ったことで支持を取り戻した。
今では501軍団名誉司令官のアナキンと共にナブーで生活を送っている。
こうして無力化された2,000人の議員だが内部に入り込んだオーガナがコルサントの春風に唆されて牙を剥いてきた。
「ラックス大佐、君は閣下に拾われた孤児院だったな」
「はい、ジャクーのあの忌々しいコロブから私を解放し拾ってくださったのは閣下でした。今でもあの恩義は忘れません」
ラックスが生まれた惑星ジャクーは殆ど人のいない辺境の砂漠地帯だった。
彼はブレヴ*15、ナラワール*16という孤児らと共にコロブという苦しみこそが生命の原則と信じるライトサイド系カルト信者によって奴隷のように奉仕させられていた。
そこへ偶々南アウター・リムの治安改善計画で法執行部隊の視察に来ていた当時元老院議員のパルパティーンの一団が訪れた。
パルパティーンは数名のセネイト・ガードとジュディシアル・フォース1個歩兵中隊と共にジャクーへ降り立ち、そこで過酷な奉仕を受けていたラックス達を発見した。
未成年の強制労働は共和国憲法では犯罪である。
ジャクーがいくら法が届かない惑星とはいえ法的には共和国の保護領だ。
パルパティーンは孤児院の子ども達を解放し、この事を元老院に報告すると共に孤児達に故郷ナブーで教育の機会を与えた。
ガリアス・ラックスという名前もパルパティーンが名付けてくれた名前だ。
ラックスは本来ガリィという名で呼ばれており、そこから転じてガリアス、そして新シス戦争期の英雄クイエム・ヴァントの名参謀ラックスから苗字を取った。
名前だけでなくパルパティーンは全てのものをラックスに与えた。
自由、戸籍、安心して寛げる住居、教育、食事、娯楽全てだ。
やがて軍事の道に進む事を決意したラックスはパルパティーンの手引きでジュディシアル・アカデミーに入学し、卒業し1年が経つ頃にはクローン戦争が始まった。
若干28歳にして保安司令部大佐に昇進出来たのはパルパティーンと統一会によるところが大きい。
ラックスが全てを与えてくれたパルパティーンに対し恩義を忘れたことは一度もなかった。
「奴らは閣下が作り上げた共和国変革23年の時を巻き戻そうとしている。自由だ民主化だと言っている輩がいるが彼らは所詮恵まれたコアしか見ていない。そういった連中が閣下の後継を自称して共和国の時を巻き戻そうとしている。自力救済が横行し、君のような孤児が見捨てられる時代にだ。野放しにしていいと思うか?」
「いえ、むしろそういった輩は徹底的に排除すべきかと」
ラックスの目の色が変わった。
彼もこれでようやく本気になったようだ。
「その通りだ秘書室長、その為にはまず奴らとつるむ合同参謀総長を外して我々が軍権を握らねば」
「しかしどうやりますか?相手は今や戒厳司令官です」
ラックスの問いに対してパルパティーンは笑みを深めた。
策謀家の邪悪な顔だ。
「コバーン提督が閣下の暗殺事件に無関係という結論はまだ出ていないだろう?」
-共和国領 ディープ・コア ジェレリック星系 惑星ジェレリック-
ディープ・コア、未だ謎の多い銀河最奥部の領域であるが一部は開拓と居住が進み、エンプレス・テタやプラキス、ビィスなどは特任総督という形で行政官が派遣されていた。
この惑星ジェレリックもその1つであり、この地には共和国第45軍隷下の第378機械化兵団と第152航空団、そして第289小艦隊が駐留している。
その他にも100,000BBY以前に滅亡した古代文明の調査隊や有事の避難所建築に携わる労働者達がジェレリックに住んでいる。
ジェレリックはディープ・コアの玄関口とも呼べる惑星であり、有事の際はコルサントからの避難民を受け入れ死守することが求められた。
とはいっても現状連合軍と再び開戦したとしてコア・ワールドまで攻め込まれる可能性はゼロに等しい。
正面宙域軍との接戦の末、インナー・リムまでは進軍する可能性があるもののすぐに動員を完了した南方の宙域軍によって反撃を受け撤退せざるを得なくなるだろうというのが当時の軍事専門家達の分析であった。
その為第45軍を含めた第5宙域軍はクローン戦争中同様実質的な予備戦力であり、惑星の死守よりも素早い増援の展開が求められた。
それでも本来の任務を果たす為年に1回は死守命令の遂行演習が行われる。
大抵の場合は隣接する第1宙域軍司令官と首都防衛の責任を持つ首都警備司令官が視察するもので、ライカンもこのジェレリックに視察できていた。
勿論やるべきことは視察だけじゃない。
軍の演習が終わった後、ライカンはタントールを連れてジェレリックの古代遺跡調査隊キャンプへ訪れた。
調査隊には考古学の専門家や機械類技術師の他に警備ということで歩兵1個中隊がついていた。
「
警備中隊の憲兵大尉が副隊長の憲兵中尉と共にライカンとタントールへ敬礼した。
「中将、何用でこちらに?」
憲兵大尉はライカンに尋ねた。
首都警備司令官がディープ・コアの遺跡調査に視察で訪れるなど普通はない。
理由を説明する為にまずタントールがある証明書を載せたタブレットを憲兵大尉に見せた。
「合同参謀総長の許可と命を受けてイース・コス退役将軍に面会したい。よろしいか?」
憲兵大尉と憲兵中尉は顔を見合わせ、アイコンタクトを取った。
「…すぐにお連れします。ジェーシン兵長!」
「はい!」
近くで警備に当たっていた兵長を呼び出す。
兵長はショック・トルーパー用の赤いラインが入ったTKトルーパー・アーマーにDC-15Aブラスター・ライフルを携帯していた。
前線宙域軍の兵士や特戦司のトルーパーはE-11ブラスター・ライフルという最新モデルが配備されているがディープ・コアの兵はまだだ。
それでもDC-15シリーズは性能が良く、優れたブラスターなのは間違いない。
ジェーシン兵長に連れられ、2人はかつてのジェダイ将軍がいるテントへ案内された。
「イース・コス顧問はこちらで休憩を取られています」
「うん、ご苦労兵長」
「ハッ!」
ライカンはテントの中に入り、カップに入ったコーヒーのようなものを飲みながら資料に目を通すかつてのジェダイ将軍に敬礼した。
「忠誠」
「敬礼はやめてください、私はもう将軍でも軍人でもありません」
イリドニアン・ザブラクの元ジェダイ、イース・コス*17は煩わしそうな顔で敬礼を下させ、椅子から立ち上がり2人分の椅子を用意した。
2人に「どうぞお座りください」と促し、コスは2人分の飲み物を用意した。
「生憎、調査隊長が無類のコーヒー好きでして飲み物もコーヒーくらいしかないのですが」
「お気になさらず」
使い捨てコップに入れたコーヒーを2人に手渡し、自身も椅子に座った。
コーヒー1杯分のもてなしはしたがコスから見ればライカンとタントールは招かれざる客である。
「それで首都警備司令官が遺跡研究員になんの様ですか」
察しはついているしジェダイの能力で相手の心の内を読めるコスであったが、彼らにあえて用件を尋ねた。
「あなたを首都警備司令部の軍事顧問として迎え入れたい。これは合同参謀総長からの要請です」
「お断りします」
コスは既に彼らにかける言葉を決めていた。
もう軍の道にもジェダイの道にも戻る気はない、それがオーダーの消失と停戦から5年経っての答えであった。
無論ライカンもここまで来て引き下がるつもりはなかった。
「将軍…!共和国は今あなたの力を必要としています!追放しておいて今更と思う気持ちは分かりますが…」
「ライカン中将、そうではありません。マスターウィンドゥ達の事件でオーダーがなくなったことに不満を覚えているのではない。私個人の意思として軍に戻りたくないのです」
コスの表情はよく想像されるジェダイの姿同様穏やかなものであった。
フォース感受能力のないライカンでさえ今のコスが怒っていないことは分かる。
「では何故ですか」
相手の心を完全に読む能力までは備わっていないライカンは直接尋ねた。
コスは俯きながら理由を話した。
「私は……いやむしろジェダイ全体が軍人に向いていなかった。平和を尊び感情を制御せよと教えられたジェダイが最も感情を揺さぶり、剥き出しの悪意でぶつかる戦場で戦うのは教義に反していた。しかも至らぬばかりに多くの兵士を無駄に死なせてしまった。私自身もう軍人に戻りたいとは思わないし、この様な人間が軍人に向いていると思えますか?」
イース・コスが自身とジェダイ・オーダーを振り返り、言い表した表現はある意味では正しかった。
感情はなく平和が、熱情はなく平静が、混沌はなく調和がと教えられたジェダイが将軍として教えとは真逆の世界に足を踏み入れ自身も相手の命を刈り取る。
平静と調和を説いてきたジェダイがむしろ感情の濁流と混沌の要因となり、結果的に殆ど暗黒面に囚われる様な形で銀河からは姿を消した。
果たしてそれ以外道はなかったとはいえジェダイが将軍や司令官として戦うことは正しかったのか。
コスはそれを否と結論づけた。
何よりジェダイの下で戦った多くの兵士が戦場で散った。
その点についてはライカンも同意する。
ある1人のジェダイ将軍が行った突撃と一般の惑星防衛軍出の指揮官が行った突撃とでは常にジェダイ将軍の方が大きな損害を出していた。
ジェダイが指揮する兵士は基本的にクローン・トルーパーだ。
隣近所の息子の死すら無頓着なのが共和国の国民である為、クローンの死など反戦派以外では問題にならなかった為揶揄されることはなかったが、それでも毎回戦闘の度に大損害を出されるのは軍としても困る。
彼らの勇猛さは尊敬しても用兵の才に関しては二流、三流であるというのが専らジェダイ将軍に対する評価であった。
「…それに私もこの5年で変わりました。ジェダイとしては悪い方向かもしれませんが」
コスは振り返りデスクに飾ってあった1枚の写真を手に取った。
そこにはコスが0、1歳の幼子を抱え、1人の女性と写っていた。
「もう私の命はオーダーと国家のものではない、家族の為のものです。家族の為だったら何でも出来ますが家族の迷惑になることはしたくない。私だって今の情勢は認識しているつもりです」
ジェダイ・オーダーが解体され、反乱の詳細が明らかになった後コスはジェダイに対する尊敬の念を失った。
コス自身は一切反乱に関わっていなかった為早々に釈放され地方惑星の福祉局長という閑職に回された。
そこでコスはミラというイリドニアン・ザブラクの女性と出会った。
人生をかけて尽くしてきた組織の解体と失望、そして戦争の傷で傷心していたコスを癒し、慰めたのはこのミラであった。
ミラも戦後の苦しい生活を閑職ながらも懸命に働くコスに救われ、2人は結ばれた。
やがて娘が生まれコスはジェダイ・オーダーにではなく家族の為に残りの人生を使うことを決めた。
調査隊にスカウトされ旧ジェダイ関連の遺物鑑定顧問として参加したのも単に家族を養う為であった。
軍隊なぞ戻らなくても今の顧問としての職と一応は支払われる年金で家族と慎ましく暮らすには十分な蓄えがある。
パルパティーンが死に、情勢不安の共和国に戻ったところでそれが返って家族の迷惑になることは少し考えれば分かる事だ。
何せ未だにコスの周りには監視役の人間が多数いる。
あの警備隊長の憲兵大尉と憲兵中尉、露骨な監視要員だったがコスは受け入れていた。
「それに頼るべきはマスターケノービやスカイウォーカー、マスタークーンの方が適切だ。反乱以前に評議会を除名されたジェダイなど論外でしょう」
「ケノービ将軍には断られました。合同参謀総長が直接説得にいたプロ・クーン将軍もです」
プロ・クーンとコバーンはクローン戦争中行動を共にするケースが多かった。
ジェダイ将軍がまだいた頃の共和国軍ではよくあることだ。
スカイウォーカーにユラーレン、メイス・ウィンドゥにキリアンなど。
それでもプロ・クーンは「教え子達がいるから」という理由で”ヴェンセナー”の飛行アカデミー名誉教育顧問であり続けたいと願った。
何度も頼み込んだがケル・ドアのエースは了承しなかったらしい。
一方スカイウォーカーの方はそもそも面会が叶わず、説得どころではなかった。
彼は大恩人の死を相当気に病んでいるようだ。
あの時と同じでパルパティーンの側にいれば防げたのではないか。
そう考えては彼の死を悼む日々が続いた。
「であれば私も、考えは同じです」
そういって断る姿勢を再度露わにしたコスに対し、ライカンは説得を続けた。
自身が何故、首都警備司令官を受け入れたのかも含めて。
「私も最初は断るつもりだった、あなたと同じように」
椅子から立ち上がり、写真をデスクに戻す動きが止まった。
「私も政治的な対立に巻き込まれるのが嫌で一度は断りました、それでもこの職についた。出世欲や野心の為じゃない、この国と人々の為にです…!」
ライカンも立ち上がり、コスに近づいた。
コスはもうジェダイの教義など捨てたと思っていたが良きジェダイが持つ良き心はまだ残っていた。
そして生真面目な義務を果たすという姿勢も。
「将軍のご家族の安全は合同参謀総長と副議長が保証します。だからあなたは軍事顧問として仕事を専念してください。そして、任期中に何事もなければ私は引き止めません」
ライカンはコスが触れている写真を見つめた。
家族の写真の隣にはコスと彼のパダワンであったジェダイ・ナイト、シャラド・ヘット*18との写真があった。
ジェダイは過去への執着を捨てなければならない。
されどもう今のコスはジェダイでなはく思い出を懐かしみ、死したかつての弟子を思い出すことが許されていた。
「ですがもし、もし何かあった時に必要な力がなくては遅いのです。必要な時に必要な力がなくては誰の家族も守れない」
ライカンはコスの手を握り、最後のひと推しとして頼み込んだ。
「あなたの家族を守る為にもあなたの力を貸して欲しいのです。これは軍人としてではなく1個人カーリスト・ライカンとしてあなたに頼みたい」
ライカンの熱意の籠った視線がコスの凍りついた心を動かした。
コスはその日のうちに合同参謀総長の要請書と辞表を提出しジェレリックを後にした。
家族を厄災より遠ざける為、コスは自ら混沌とした厄災の渦へと飛び込んでいった。
-首都惑星コルサント 国軍保安司令部ビル 地下拘留所”プラトー”-
ある夜、罪人は日中の尋問で傷ついた身体を休めるために硬いベッドの上で休んでいた。
罪人の名はドット・ランシット、元共和国軍提督であり元RCIAの長官、パルパティーン暗殺の主犯である。
拘留所の個室は扉が内側から開かない仕組みになっており、扉が開く時は外から誰かが入って来る時だ。
「奴を正気に戻せ」
数人の保安司令部職員がランシットの拘留室に入り、布団を剝ぎ取り水を掛けた。
凍てつくような冷たさがランシットの意識を覚醒させ、彼は苦しみながら目を覚ました。
目を覚ました瞬間、入ってきた職員の1人がランシットの囚人服の袖を捲った。
別の職員が抑えている間にもう1人が彼の腕に注射を刺し、薬物を投与した。
共和国軍が用いていた自白剤だ。
「取り敢えず3発やってから尋問ドロイドを使うか」
「ああ、じゃあ俺がやる」
自白剤を打ち込まれ気分が悪い状態のランシットに職員が3発ほど腹部にこぶしを叩きつけた。
そして尋問台座に拘束し、中に入ってきた尋問ドロイドに後を任せた。
痛みに悶える声がドア越しにも響いた。
その近くでターキンは静かに報告書を読んでいた。
「以上が現状、容疑者から引き出せた情報です」
尋問を担当するエヴァっクス中佐は簡潔に報告書の状態を述べた。
今行われている尋問で引き出された情報はそのうちすぐに記載され、合同捜査本部長を通じて戒厳司令官に提出される。
報告書を最後まで目を通したターキンはタブレットをエヴァックスに軽く叩きつけた。
「つまり、合同参謀総長は事件に関与していないと?」
「容疑者の供述では、そうです。曰く食事に誘っただけだと」
「中佐」
ターキンはエヴァックスの発言を遮った。
ターキンの圧に押されエヴァックスは黙って彼の言葉を聞く他なかった。
「君は弁護士にでもなったつもりかね?彼はRCIAの部長だぞ?ただの尋問で真実をすべて話すと思うかね?」
「…それは」
「第一、彼の発言と照らし合わせるなら閣下の宴会に呼ばれた同じ日に合同参謀総長を食事に誘うなどおかしな話だ、十分に怪しいだろう」
実際ランシットの供述は曖昧かつ不明瞭な点が多く、行き当たりばったりとしか言いようのないものも多かった。
何故RCIAの本部へ向かわなかったのか、何故秘書室長だけ生かしたのか、何故念入りな事前準備もなく暗殺を決行したのか。
ランシットは突然「共和国の民主主義を復活させるため」と理由を供述したが、情報機関のトップとしてそういった人々を処罰してきた人間の発言とは思えない。
こうした要因がターキンと統一会に口実を与えた。
「もう一度よく調べ直せ、テラーやドレイヴンの方もよく締め上げろ。それでも真実が出なかったら……そうだな」
ターキンは明確に秘密にしてきた野望を打ち明けた。
「”
ターキンの発言にエヴァっクスは驚愕した。
彼は唖然とした表情で聞き返す。
「戒厳司令官を逮捕するおつもりですか…!?そんなことしたら反逆罪に…」
「当然合法的にやるとも、近いうちに統一会で宴会をやる。君も来なさい」
ターキンの言わんとすることはつまり統一会を用いたクーデターだ。
失敗すれば統一会はジェダイと同じ末路を辿る。
それでもターキンに失敗する未来は見えていなかった。
-首都惑星コルサント ギャラクティック・シティ 連邦管区 元老院オフィス・ビル 最高議長執務室-
「—以上で首都演習C.R.C7983の説明を終わります。それでは最後にアミダ最高議長どうぞ」
最高議長の執務室で元老院議員や司法部、最高議長警護室の官僚達にコバーンら合同参謀本部の幕僚達は説明を行っていた。
合同首都演習、首都警備司令部と第1宙域軍、第51宙域軍、その他の方面からかき集められた部隊を司令部が一元的に指揮し、首都防衛を行う共和国の大演習。
この演習は19BBYのコルサントの戦いから得た教訓を下に演習シナリオが組まれている。
第一段階では首都警備司令部とコルサント駐留部隊が単独で敵軍を防ぎ、第二段階で各部隊が増援として首都に急行し反転攻勢に打って出るというシナリオだ。
こうした各地から展開される部隊の調整は臨時防衛司令官を兼任する合同参謀本部総長が担う為この作戦の総責任者はコバーンと合同参謀本部である。
合同首都演習は各宙域軍が行う大演習と同じく年に1回は行われる有名な演習であり共和国の防衛能力を向上する為には重要な作戦であった。
「はい、この演習はコルサントに住まう約1兆人の国民の生命を防衛し、有事に備えることを目的としたものです。パルパティーン最高議長が亡くなり国民が不安な今こそ、我々が国民に寄り添い何があっても見捨てぬことを伝えるため、皆さんの誠実な職務遂行に期待したいと思います。以上です」
アミダは端的に訓示を述べた。
この大演習はコルサントに住む住民の避難誘導も含んでいる為コルサント保安部隊やジュディシアル・フォース、そして消防隊を隷下に持つ司法部の協力が不可欠になって来る。
最高議長や元老院議員の安全を確保する為に警護室のセネイト・ガードも同様にこの演習には不可欠になる。
軍人だけでなく警察官、消防士、元老院の衛兵達が国民の為に命を捧げて職務を遂行する姿を国民に見せなければならない。
特に不安定な今の共和国では。
「ありがとうございます、それでは本演習の説明は以上になります。皆さま、ご退席なさって構いません」
説明会が終わり官僚や政治家達はそれぞれ声を出して立ち上がったり、雑談を始めた。
早々に執務室を出る官僚もいれば、いつまでも同僚と雑談している政治家もいる。
うち何人かは最高議長のアミダと副議長のオーガナに挨拶を行っている者もいた。
そのうちの1人はアンバラの女性、国防部の長官である。
名はスライ・ムーア、戦時中は最高議長の上級行政補佐官を務め戦後は国防部長官を任命されたパルパティーンの懐刀というべき人物だ。
彼女が持つ権威はアミダも時には押されてしまう程のもので、アミダの気を弱くする一因でもあった。
2人に挨拶を終えたムーアは部下のコバーンに声を掛けた。
「コバーン提督、私は先に国防部に戻ります。何かあったら執務室へ直接お願いします」
「分かりました、午後に戒厳報告書の今週分が届けられると思うので確認をお願いします」
「はい、それでは」
ムーアは軽く一礼し執務室を出た。
国防部長官を敬礼で見送りながらコバーンは小声で「行ったか」と呟いた。
コバーンはアミダとオーガナの周りから人が少なくなるのを確認してから2人に声を掛けた。
「最高議長、少しよろしいですか?」
「はい、何か相談ですか?」
アミダの問いに対し、コバーンは頷き2人を執務室の窓際へと連れ出した。
この執務室にはまだ所々にライトセーバーで斬り付けられた跡が残っている。
ジェダイの反乱の名残がまだ残っている数少ない場所であり、戦争の傷跡の一つであった。
パルパティーンは執務室の傷をあえて残し、自身の戒めとした。
尤も暗殺された今となっては大した戒めにはなっていなかったのだろうが。
「それで相談というのは?」
オーガナが今度は尋ねた。
「人事の事です、特に保安司令官の。年末の新人事発表の際に保安司令官を席を一新しようかと」
2人は顔を見合わせ、よりコバーンに近づいて小声で話した。
「保安司令官を左遷するつもりですか…?」
「第7宙域軍に移っていただきます」
第7宙域軍は銀河西部に位置する統合軍の1つであり、司令部は惑星ビブリンギに配置されていた。
この宙域軍は最前線を任せられた第8宙域軍からかなり離れており、ディープ・コアの第5宙域軍、未知領域接触部の第6宙域軍と並んで戦時中から予備戦力として扱われていた。
つまるところ地位は同じだが役職的には左遷である。
今や隷下の部隊もかなり縮小しており、保安司令部に比べて権限はないに等しい。
「しかしそんなことをすれば統一会が…!」
アミダは不安げに声を荒げたがコバーンとオーガナは落ち着かせた。
「流石の統一会も政府決定には逆らえないはずです」
「コバーン提督の言う通りです。しかし問題はムーア長官だな……」
コバーンは頷いた。
ムーアはパルパティーンの懐刀、今も彼女の忠誠は亡き閣下にある。
そんなムーアは度々統一会の擁護者として動いており、ターキンの第7宙域軍移動も反対するとコバーンは見ていた。
国防部長官は最高議長によって指名された共和国軍の指揮監督を行う文民のトップであり、武官たるコバーンは逆らえない存在だ。
そこで彼が頼ったのがアミダとオーガナであった。
「長官と言えど副議長と最高議長には逆らえないでしょう。ですので是非お力添えを」
コバーンは頭を上げて2人に頼み込んだ。
上手くいけば誰の血も流さずに統一会の力を削ぐことが出来る。
「議長、ここはやるしか」
「うーん……」
不安げな表情を浮かべるアミダにオーガナは覚悟を決めるよう念押しした。
アミダは確かに共和国の民主化を望んだ、しかし彼はオーガナほどの熱意もない。
彼が民主化を願ったのは再び市民の民主化暴動が起こるのを防ぐためであり、内側からの不安の方が大きければ簡単にそちらへ傾いてしまう。
アミダ自身にターキンほど敵対者を叩き潰す胆力もなければ我を貫き通す意思はなかった。
だからオーガナのような確固たる人物がナンバー2に必要なのだ。
「ターキン提督も軍人です、正式な人事命令なら受け入れてくれるでしょう。すべては穏便に済ませられます」
「……分かりました、ですがこのことは是非とも内密に」
コバーンは「当然です」と頷いた。
しかし彼らはまだ気づいていなかったし、統一会の力も甘く見ていた。
彼らの構成員は既に共和国軍の垣根を越えて最高議長警護室まで手が伸びていることを彼らは知らなかったのだ。
-首都惑星コルサント 国軍保安司令部 司令官執務室-
保安司令官は多忙だが休みがない訳ではない。
時には食事を摂ったり、故郷のエリアドゥ・シガレットを吸う時間もある。
その合間の時間にターキンに会いに来る人物がいた。
共和国宇宙軍第9艦隊司令、ニルス・テナント提督である。
第9艦隊は首都警備司令部隷下ではないが宇宙軍の即応予備艦隊としてコルサントに駐留していた。
ターキンとテナントはジュディシアル・フォースに属していた頃の昔馴染みであり、アナクセス軍事大学では同期の間柄だった。
辺境域保安軍に新しい軍事大学校を建設するというターキンの案を根気強く応援し、一時期同大学の教官を務めたのはテナントである。
こうした関係性も相まってテナントはターキンにとって気を楽にして話せる数少ない友人だ。
テナントの方もターキンにはフランクに接し、2人は周囲からも良き友人と見做されていた。
それにテナントの方はターキンに個人的恩義を感じている。
クローン戦争中、まだ一介のスター・デストロイヤー艦長でしかなかったテナントが僅か8年で宇宙軍最高位の提督の階級を手に出来たのはターキンの口添えがあってこそだ。
合同参謀本部の戦略計画本部次長、第12宙域軍のミタラノア宙域艦隊司令官、そして最精鋭たるナンバー付の第9艦隊司令官。
ターキンの誘いで統一会にも入り、パルパティーンと更に近くなった。
本当に感謝してもしきれないほどの恩義がターキンにはある。
だからこそテナントはターキンに一言言いに来たのだ。
「やあ第9艦隊司令」
「話は聞いたぞ、ターキン。第7宙域軍に飛ばされるんだってな、私はディープ・コアの予備艦隊司令に飛ばされるらしい」
テナントは不安げな表情で軍帽を帽子掛けに置いて、ターキンがいるホロテーブルの方に腰掛けた。
彼は珍しくチェスと同じような盤面の駒を操作するホロゲームをプレイしているようでテナントの忠言など意に介さずといった雰囲気だった。
「ジャージャロッド提督もモロックもロモディもみんな閑職へ飛ばされる。統一会の主要メンバーはみんなだ」
落ち着きがない様子でテナントは呟いた。
それでもターキンは至って冷静なままホロゲームの駒を動かした。
「ライカンが栄転した時から嫌な予感はしてたが……どうする?お前のおかげで私はここまで来れた。今更私もお前も蹴落とされたくない、だがこのままじゃあ私達は終わりだ」
「艦隊司令官ともあろう人間がそう喚き散らすな。見たまえ」
ターキンは咥えていたタバコを放し、ホロテーブルの駒を操作した。
盤面は劣勢、されどターキンの一手で全ては変わる。
「戦況は劣勢だった、だが今の一手で守りの要が崩れ道が開けた。そして次の一手で玉座は抑えられ、私の勝ちとなった。盤面はひっくり返った訳だ」
「”
意味を理解したテナントは彼に尋ねた。
ターキンは何も言わずホロゲームを終了し執務室のデスクからあるものを取り出した。
これは保安司令部が秘密裏に練ったある作戦計画書だ。
何も言わずにターキンはこれをテナントに見せた。
テナントはタブレットに書かれた書類を黙読するといきなり唖然とした表情で声を荒げてターキンに迫った。
「ターキン、提督は戒厳司令官だぞ…!?戒厳司令官を逮捕するなんて前例今まで聞いたことがない…!」
「だが私は合同捜査本部長だ、情報の全てを握っている。君のこともコバーン提督のこともだ」
ターキンは遠くを見ながらまるで何かの確証を持ったように話した。
「提督は閣下が暗殺された日に同じ場所にいた。彼は閣下の心臓にブラスターの弾がめり込む音を確かに聞いたはずだ。だが共謀は否定している、これが本当に正しいと思えるか?」
「だが相手は合同参謀総長だ、下手すればコルサントで内戦になる」
こうは言ってもターキンが一度決めたことをそう簡単には覆さないことはテナントだって知っている。
説得は不可能かもしれないがテナントは更に続けた。
「なあターキン、私達は十分高みに登った。お前だから包み隠さず全部言うが今からでもコバーン提督に土下座でもなんでもして、許しを乞うべきだと思ってる。でもお前は絶対にそれをやらないだろ?」
ターキンは笑みを浮かべわかってるじゃないかと言わんばかりの雰囲気で軽く頷いた。
この豪胆な性格にテナントはため息を吐く他なかった。
逆に今度はターキンによるテナントの説得が始まった。
「テナント、お前はこの計画が不可能だと思っているな?」
「ああ、余計な不名誉を被るだけだ」
それでもテナントは心のどこかでもうこれしか方法はないと感じていた。
それを見抜けないターキンではない。
「ではテナント、思い出してみろ。共和国軍が出来る前、ナブー危機の前の共和国だ。あの時の共和国は正に生ける屍だったと言っていい、アウター・リムだからと言う理由で自国の民すら興味も持たず、コア・ワールドに引き篭り、誰しもが腐敗に気づかず何もしなくても今日と同じ明日は来ると考えていた時代のことだ」
テナントは俯き、苦虫を噛み潰したような表情でいた。
ナブー危機の前、あの時代の共和国は今の政権を担っている人々にとって最悪の時代であった。
特に軍人からすれば屈辱の時代だ。
確かに一部では共和国辺境域の治安改善の為、ジュディシアル・フォースにマンデイター・ラインの導入やカタナ艦隊の設立など今に繋がる安全保障の整備は行われていた。
しかし世間一般や一部の議員の反応は冷たいもので、言われのない中傷に晒された先輩の軍人も数多くいた。
テナントだって暫くはサラストの統合任務部隊で海賊退治を行っていたがその時も共和国中央の杜撰な対応に随分と苦労させられたものだ。
「それが今やどうだ?かつてはなかった共和国軍が生まれて戦争は少なくとも優位な条件で停戦出来た。戦後復興により共和国の経済は戦前よりマシになった、しかもアウター・リムの治安維持もようやく手がつけられるようになってきた」
クローン戦争は一時停戦で幕を閉じ、まだ連合は存続し続けている。
だがかつて銀河系の南にまで版図を広げていた独立星系連合は今や銀河の北部に押し込められている。
かつての共和国なら南銀河はおろか戦争を続けるすら難しかっただろう。
今日まで共和国が崩壊せず生まれ変わって残り続けたこと自体が奇跡に等しいのだ。
ではその奇跡を創り上げたのは誰か。
「全て
答えは否だ。
それでも彼らは少しでも共和国が変わることを信じてパルパティーンに力を貸した。
統一会に選ばれた古参軍人全員がそうだ。
皆軍人であり、皆パルパティーンの友人であった。
「誰しもが信じず、疑っていた中で私やテナント、統一会の先輩達が手を貸して改革の一助となった。変わらない国を我々で変えたんだ」
「だから今回も成功すると…?」
「そうだ」
ターキンは断言した。
この時点でテナントの気持ちは揺らいでいたがなんとか吹き飛ばそうと再び声を荒げた。
「だがそれとこれとは話が違うだろ!?特に今回のことは……」
気を落ち着かせる為にテナントは軍の配給タバコを1本取り出し、火をつけようとした。
しかしライターが付かず、結局タバコは吸えなかった。
苛立ちながら執務室の窓からコルサントの風景を眺める。
一見すると18年前から何も変わっていないように見えるが実際は違う。
軍事基地や各省庁、全てが一変した。
ここからは見えないアンダーワールドの治安も改善し、少なくとも汚い路上で飢えを凌ぎながら今日を必死で生きる姿はもうない。
どれもこれもパルパティーンの理想を信じ、それに期待と自身の能力を全て託した人々がいたからこそだ。
であればここで軍歴が終わらない、栄光は今から始まるとターキンを信じ、ついていけば今の状況も変わるのだろうか。
考え込んでいるテナントの肩をターキンは軽く叩き、声をかけた。
「私はだ、クローン戦争が開戦した時も負けるとは微塵も思っていなかったし、閣下の改革も失敗すると思ったことは微塵もない。だからだ」
ターキンは自身のタバコを差し出した。
先端部分の熱があればテナントのタバコに火をつけるには十分な火力を持っていた。
「お前も私を信じろ」
その真剣な瞳にテナントは自身の良心を完全に砕かれた。
分かった、そこまで言うなら軍事法廷でも地獄の先にでも付き合ってやる。
自身のタバコをターキンのタバコに当てて火をつける。
これはテナントにとってクーデターへの決起趣旨書へのサインも同義であった。
こうしてテナントはターキンと一蓮托生の関係となったのだ。
-首都惑星コルサント 国軍保安司令官邸宅-
合同首都演習は結果から言うと大成功に終わった。
司法省隷下のコルサント保安部隊とジュディシアル・フォースと共和国軍の連携は比較的上手く行き、首都警備司令部も単独で防衛に成功した。
第二段階の増援部隊統率もかなりスムーズに行われ、仮想敵の連合艦隊はコルサントの戦いの時と同様壊滅的な打撃を被った。
現在演習は終了し、一部の諸将は演習成功を祝してコルサントに家を持つ将校のうちで宴会を開いたり、店を予約して食事に行ったりしている。
統一会の面々も同様であり、演習に参加した司令官達は皆ターキンの邸宅に集まっていた。
尤も演習成功の祝宴会というのは建前で実態はターキンが合同参謀総長逮捕の計画を全員に伝える為に呼んだのだ。
宴会には既にテナントを始め、保安司令部のラックス、ギデオン、エヴァックス、参謀長のモラドミン・バスト*19准将、首都警備司令部のタッグ、モッティ、フォックス、ジョードーに加えて第1宙域軍特殊作戦司令部のジェン・スミール*20大佐、ロム・モック*21大佐もいた。
これでもまだ全員が集まった訳ではない。
スピーダーの故障とスカイレーンの渋滞に巻き込まれた特戦司のウルリック・タッグ*22大佐が遅れてくると事前連絡を入れていた。
それに何より統一会の重鎮たるジャージャロッド提督がまた到着していなかった。
それでも先に来たメンバーで既に宴会は盛り上がっていた。
互いに酒を酌み交わし、料理を取り分けて談笑していた。
「しっかしウルリックの奴遅いな、せっかくオーマンの奴がテパシの酒を持ってきてくれたのに」
タッグは酒の入った瓶を手に取りながら不満を述べた。
もう酔いが回っていたモッティの方は「奴がいない間に空にしちまおう」と提案してきた。
「こらこら、ウルリック大佐も故郷の味が恋しいだろうからまだ預けときなさいな」
この中では比較的年長者のハースト・ロモディ*23将軍が酔ってるモッティを宥めた。
モッティは特に反省していない雰囲気で「すんません」と言ってコレリアン・エールを自身とロモディのグラスに注いだ。
第20宙域軍司令官にしてウェスタン・リーチの英雄と呼ばれるロモディに対しては普段高圧的な態度を取るモッティも酒を注ぐ側に回らざるを得ない。
席の配置としては長方形のテーブルに奥の方にロモディやテナント、中将のコリン・プラージ*24や国防部兵站局長のテリナルド・スクリード*25提督や合同参謀本部の広報室長エドモン・ランパート*26中将やターキンが座り、それ以降にモッティやタッグ、バストやラックスなど准将以下の者達が座っていた。
ちなみにロモディはいつもあえてモッティやタッグら後輩の将校達と近い席を選んで座った。
曰く軍の若い将校達にも目をかけておきたいからだそうだ。
「ウルリックもジャージャロッド提督も来ていないが一度乾杯をしておくか!」
左目が義眼の提督、スクリードが提案した。
テナントは「では音頭は私が取ります」と言って一番最初に酒の入ったグラスを片手に立ち上がった。
他の統一会の面々も立ち上がり、グラスを掲げる。
「
テナントに続いて全員が声を上げる。
「
「
「
そうして全員が乾杯していると丁度タイミング良くウルリックが入ってきた。
ウルリックが入ってくると手前の佐官や准将達が全員でウルリックを冷やかしていじった。
特に珍しいのが普段生真面目で冗談なども言わないタッグがウルリックに「これ全部飲んじまうとこだったぞ」と冗談を言っていたところだ。
酒の席というのもあるだろうが一番は親族だからというのもあるだろう。
ウルリックはカシオ・タッグの弟であり、2人はテパシ1有名なタッグ家の人間であった。
兄カシオの後を追って軍隊に入ってきたウルリックは空挺課程をクリアし共和国軍特殊作戦司令部の一員となった。
その為彼は同僚のジェン・スミール、ロム・ホックと同じ空挺徽章付きの特戦司の迷彩服に黒ベレーを被っている。
タッグはカシオの背中を軽く叩き他の面々には「いいから座って座ったままで」と言ってターキンに敬礼した。
「
「まあ君も座りたまえ、カシオは手土産を早く開けたそうにしていたよ」
ターキンにも皮肉を言われ、ウルリックは苦笑を浮かべながら責任を自信が乗るはずだったスピーダーに転嫁した。
「それがあのオンボロスピーダー、エンストしやがて」
そんな話をしながらウルリックが座ろうとするとようやく最後の参加者がやってきた。
入ってきた人物を見た瞬間、佐官の者達は皆立ち上がって彼に敬礼した。
「ジャージャロッド提督…!」
共和国宇宙軍第1艦隊司令官、ジャージャロッドである。
歴戦の猛者でパルパティーンとは直接の友人であり、ターキンより年上の提督だ。
近いうちに元帥に昇進するとも噂されているが真相は定かではない。
「いいから飲め、それとみんな演習ご苦労様」
後輩達を労い、ジャージャロッドはターキンの方へ向かった。
2人は固い握手を交わしジャージャロッドは自身の席についた。
「結構早く着いたな、デポからは遠かったでしょう?」
「ちょいと宇宙軍本部に用があってね、近場にいたんだ」
スクリードはジャージャロッドと軽く雑談し、スクリードはグラスに酒を注いでやった。
全員が揃ったのを確認したターキン達はメンバーにある資料を配り始めた。
諸将はタバコを吸い、或いは酒を飲みながら資料を確認した。
最後に共謀者であるテナントに資料が行き渡り配布は完了した。
この時点で彼らはテナントと同じ共謀者になったと言える。
ここまで来て逮捕を拒絶出来るほど正義の心に溢れ、出世欲がない人物が統一会に入れる訳がないからだ。
「今日みなさんを呼んだのはこの為です、最後まで話を聞いて行ってください」
「概要ですが資料に記載されている通りバートン・コバーン合同参謀総長を内乱幇助の罪で逮捕します」
エヴァックス中佐が説明しているとジャージャロッドが「君は座りなさい」とエヴァックスに諭した。
「ターキン、これは君が説明すべき話だろう」
ジャージャロッドはこの計画の首謀者たるターキンに直接の説明を求めた。
ターキンより幾年も多く歳を重ねた武闘派の老将はそうでなければ協力はしないといった面持ちである。
「ではご質問をどうぞ、提督」
「逮捕の大義名分はよく分かった、しかし失敗する恐れもある。そうなった場合どうするのだ?」
ターキンに合図されラックスとギデオン、そしてエヴァックスの3人が部屋のドアを施錠し防音システムをフル稼働した。
外部から盗聴される可能性を極限まで減らし、ジャージャロッドの質問に答えた。
「提督、これは完全に軍法に則ったものです。失敗する可能性はありません」
「しかし連行までの過程は完全に違法だ…!最悪内戦になる可能性が……」
「提督」
ターキンは相手を凍り付かせるような低い声で呟いた。
「ならばここにいる全員が軍服を脱いで
統一会がコバーン提督らによって要職から左遷されるという噂は全員が耳にしている。
現にターキンの第7宙域軍移動の話は現実味を帯びてきたし、他の将軍や提督達も左遷の話が強まってきていた。
つまりここでコバーンを排除しなければ統一会は衰退し全員がこれ以上の栄光を掴めなくなるのだ。
「しかし合同参謀総長を連行すれば提督の仰る通り武力衝突の恐れが……」
ランパートは焦りながらターキンに進言した。
それに続くようにスクリードも「そうなればこれはクーデターだな、ジェダイの二の舞だ」と呟いた。
するとターキンはスクリードの発言に反論した。
「革命という言葉を使いたまえ、スクリードくん」
「何?」
「最高議長の裁可さえ手に入れば全て合法になります」
テナントは理由を述べてスクリードとランパートを宥めた。
すると今度は第1宙域軍司令官のモロックが尋ねた。
「最高議長の前にまずは国防長官のサインが必要では?」
「ムーア長官は我々の同志だ、それはすぐに手に入る。重要なのは最高議長だ」
ターキンは1人1人の顔を見ながらテーブルの一番奥まで歩いた。
この作戦が上手くいくかどうか皆不安そうな表情をしている。
そこでターキンは彼らを焚き付けた。
「准将以下の者は皆よく聞け、皆はあの戦争を生き延びその上で佐官に残れるほど優秀な人材だ、されど軍隊に入った理由も様々だ。タッグ兄弟のように一族の義務を果たす為、バスト准将やモッティのようにコアにコネがなく仕方なく軍に入った者もいる」
統一会には様々な領域から来た様々な境遇の軍人がいる。
コア・ワールドからアウター・リムまで、中間領域のミッド・リム、エクスパンション・リージョン、インナー・リム、コロニーズ全てから人が集まり各地に散らばっている。
当然アウター・リムから来た仕方なく軍隊に入るしかなかった者もいれば、コア・ワールドやコロニーズの上位層の生まれで特権が故に義務を果たす為に来た者。
生まれや育ちは違えどパルパティーンに忠誠を尽くすという一点では統一会の全員が一致していた。
「バスト、モッティ、ラックス、お前達は能力一本でここまで昇進してきた。そしてそれをしっかり認めてくださったのが閣下だ。だが今やぽっと出の連中が突然司令官職を掻っ攫っていく。君達は優秀なのにこれでは昇進出来ない、報われない時代に逆戻りだ」
3人は報われない境遇の中で成り上がってきた軍人だ。
モッティはエリアドゥのすぐ隣に位置する惑星セスウェナ出身でターキンとは縁戚である。
そしてラックスはパルパティーンに拾われた身である為2人は完全にコネがないという訳ではなかった。
しかしバストは違う。
彼は惑星デュラ=カーンという狩猟民族しかいないような惑星で文字通り成り上がってきた人物だ。
そんな彼らからしてみればコア・ワールドのオルデラン生まれのライカンが突如中将に昇格して首都警備司令官に就任したのは許せなかった。
結局はコア・ワールドの世襲政治かと感じてしまう。
同じ統一会にコア・ワールド出身者がいるのにも関わらずだ。
「カシオ、ウルリック、そしてモック、君達だってそうだ。特にモック、君は戦中にジェダイすら差し置いて共和国の英雄と謳われた。だがそんな英雄がこのままでは大佐止まりで左遷されてしまう。どう思う」
モックは明確に不快感を露わにした。
タッグ兄弟だってタッグ家でありながら最前線の北部線線で小隊長、中隊長から始まり今に至る。
特にカシオの方はこの中では出世欲も比較的薄い為そこまで怒りはなかったが自身の功績が認められないのはどこか納得できない面があった。
「スミール大佐、そして先輩や私の同期もよく聞いてくれ。このままコバーンら今の軍部と新しく副議長になった奴を放置しておけば共和国はタイムスリップしてしまう。スミール大佐と閣下の故郷であるナブーに手すら差し伸べられなかったあの軟弱な時代にだ」
将軍や提督達は俯いてターキンのいう昔を思い出した。
軍人は冷飯を食い、ミッド・リムやアウター・リムで自国の民でありながら見捨てる事しか出来ない暗黒の末期時代。
安全保障の改革を進言したスクリードはタカ派と罵られ、ロモディはラムダ宙域の保安軍で海賊や犯罪組織を征伐するにも一苦労していた。
そして何よりジェン・スミールが生まれ育った惑星ナブーは32BBYの封鎖危機で半ば見捨てられた。
当時のヴァローラム政権が送った使節団は返り討ちに遭い、このような結果を受けたのにも関わらず共和国防衛連合条約による多国籍軍は編成されずナブーに助けは来なかった。
結局当時のナブーを救ったのはグンガンとナブー王室保安軍、ナブーに住むナブーの民の独力である。
独断行動で助けに来たジェダイ2名と後に選ばれし者と呼ばれる少年がいたが結局彼らは共和国の命できた訳ではない。
ジェダイも共和国もあの時ナブーを見捨てたのだ。
もう出来れば二度とは戻りたくない、そんな時代である。
「折角閣下と皆が必死に作り上げてきた全てを目の前で黙って破壊されていいんですか?また後ろ指を指される時代が来てもいいのですか?」
諸将の気持ちは既に纏まりつつあった。
「かつて閣下はこう仰った、”偉人が死すとも成した栄光は後世にまで語り継がれる”と。私は今から成そうとするこの栄光を自分だけのものにするつもりはない」
最後にターキンはこう付け加えた。
「我々で共和国最後の大掃除をしようというのだよ」
全てを言い終えた後、ジャージャロッド提督は再びターキンに1つ質問した。
「君は今の言葉に責任を持てるのか?」
答えは早かった。
「持てます、なんなら血書を書いても構いません」
彼の声音、彼の鋭い眼光に微塵も嘘はなかった。
その姿を見て老将は心を決めた。
「…ではやろうじゃないか、我々で栄光を掴みに行ってみよう」
ジャージャロッドの賛同はまだ決断し切っていない統一会の面々に大きな影響を与えた。
彼に続いてロモディ将軍も「私もやってみる価値はあると思う」と賛成した。
重鎮達が賛同していく姿を見てその下の准将や佐官の若者達も覚悟を決めた。
「提督、実行日はいつになさいますか?」
コリン・プラージ中将がターキンに尋ねた。
既に日程を決めていたターキンは間を置かずに答えた。
「アミダの新内閣が発表される前日」
「
「ライカンと特戦司のオノラン、憲兵総監のウィラードは絶対に我々に従わないだろう」
ロモック将軍はそう断言した。
「どう始末を付けるか、ですね」
彼らは既にライカンの知らぬところで、彼の運命を決めようとしていた。
-首都惑星コルサント レベル5127 共和国軍演習場-
合同首都演習が終わったからといってそれが日々の訓練の終結を意味するものではない。
普段から厳しい訓練を行うことで将兵の優れた練度は維持され、いつでも敵を迎え撃つことが出来るのだ。
耳に入って来る不穏な動きよりもまずは日々の職務を、ライカンのモットーである。
今日ライカンが視察に来た訓練は軌道上の艦隊による軌道爆撃での地上支援だ。
ライカンとタントールは爆撃範囲の監督場に指揮所を設置し、視察の用意を完了した。
「指揮所の設置、完了しました」
「では偏向シールドも起動しろ」
「はい」
ライカンの命令で指揮所を流れ弾から防御する偏向シールドが起動した。
目視では確認出来ない強力なシールドはスター・デストロイヤーの艦砲射撃も防ぐことが出来た。
それでも今から軌道爆撃を行うスター・デストロイヤーはただの主力艦ではない。
「ダーリン少佐」
「はい!」
ライカンは首都警備司令部の作戦参謀、ブレン・ダーリン*27少佐を呼び出した。
ダーリンの父ゲイレン・ダーリン*28は共和国の元老院議員であり、息子同様統一会の事は批判的に見ていた。
「ここの偏向シールドはどのくらい砲を喰らったら破られる」
偏向シールドは基本的にはスター・デストロイヤーの砲撃すら防ぐ鉄壁の防御力を持つ。
しかし長時間砲撃を続ければ偏向シールド発生装置にも限界が生じ膜の様に覆われたシールドは破られてしまう。
勿論演習である為そんな事はないが念の為にライカンは尋ねた。
「一転集中砲撃であれば1分もあれば破れるでしょう。尤も破ったところでコアの部分である発生装置が無事ならあまり意味はありませんが」
「そうか……」
「それでもここで使われてるシールドは警備師団の司令部でも使ってるやつですから信頼性は抜群ですよ」
ダーリンは自信満々に答えた。
「中将!保安司令部のラックス大佐が面会に来ています!」
テントの方から走ってきたタントール大佐はライカンにそう報告した。
ラックスがダーリンが敵視する統一会の中心人物であることは良く知っていた。
その為ダーリンは顔を顰め、ライカンも怪訝な表情を浮かべた。
「一体なんのようだ」
「なんでも中将にお伝えしたいことがあるとか」
ライカンは訝しんだ。
ラックスは表面的にはライカンにも良好な対応をしているが内心どう思っているか分からない。
何せターキン子飼いの将校だ、相当ろくでもない理由で面会に来たのだろう。
「コス顧問!」
ライカンは近くで陣地設営を手伝っていたイース・コスを呼び出した。
彼はライカンの説得に応じ、首都警備司令部特別軍事顧問として雇われていた。
彼の家族は今コルサントの官舎に住んでいる。
「私が彼と話すから可能な限り彼を見てやってください」
「分かりました」
2人はタントールに案内されてラックスが待つテントまで案内された。
ラックスは柔和そうな笑みを浮かべながらライカンを待っていた。
彼は将校ディスクと大佐の階級章をつけた軍帽に軍用ジャンパーを着ている。
「忠誠!」
「何の用で来た?」
ライカンはぶっきらぼうに尋ねた。
ラックスは一瞬だけコスに目をやったが気にせずライカンに話した。
「ターキン提督からの伝言を伝える為にやってきました。数日後にライカン中将や他の方々を交えて懇親会を開きたいと」
「懇親会?申し訳ないがそんな時間はない。提督にはほかの人を誘うように言ってくれ」
そういってライカンはテントから出ようとしたがラックスは引き留めた。
「この懇親会はライカン中将の昇進と首都警備司令官就任祝いも含まれています」
「気持ちだけありがたく受け取るよ」
ライカンの考えは変わらなかった。
その為ラックスは彼を引き留めるためにある一言を呟いた。
「……実はターキン提督は第7宙域軍への移動が決まっておりまして……」
ライカンの足取りがピタリと止まった。
コスはその間にもラックスの心の内を探ろうとフォースを巡らせたが余り上手くいかなかった。
彼の心の中は闇で覆われている、今の発言が本当だということは分かっても何故言ったかの心理までは到達出来なかった。
「ターキン提督はどういう状態だった?」
ライカンは一番ターキンに近いラックスに様子を尋ねた。
ラックスは特に隠すこともなく様子を話した。
「提督は……勿論喜んではいませんでしたがまあああいう性格なので笑い飛ばして元気そうにしていました」
「……そうか」
「ですので戦中に参謀だったライカン中将の昇進を労いたいそうです」
刹那、コスは顔を顰めた。
ラックスを探っていたコスは彼が放った言葉に大きな嘘と悪意を感じたのだ。
彼らは別の意図があってライカンを呼び出そうとしていた、どういう意図かは分からないが間違いなく罠に嵌めようとしていることだけは分かった。
「中将、”アルティメイタム”のカールセン艦長からホロ通信です」
外で待機していたダーリン少佐がライカンに報告に来た。
ライカンは「今行く」と伝え、テントを出た。
「大佐、懇親会の件だがまた後で連絡する。可能な限り前向きな返答をするつもりだ」
「ありがとうございます、提督も喜びますよ」
一礼しラックスもテントを出た。
外に設置された簡易ホロプロジェクターには等身大のある軍人の姿が映し出されていた。
インぺレーター級スター・デストロイヤー”アルティメイタム”の艦長、イェール・カールセン*29大佐だ。
インぺレーター級、ある世界ではインペリアル級と呼称されるこの主力艦はヴェネター級よりも新しく、ヴェネター級よりも強力な火砲と装甲を持つ最新鋭艦である。
19BBYに試験的に導入されクローン戦争後もクワット・ドライブ・ヤードの造船所で建造が続けられていた。
戦後に建造されたうちの一隻がこの”アルティメイタム”であり、所属はコルサント本国防衛艦隊であった。
「艦長、用意は出来たか」
『もちろんです閣下、二連重ターボレーザー砲6門いつでも砲撃出来ます!』
カールセンは自信満々に答えた。
「では主砲6門を指定する座標に照準を合わせ、一転集中砲撃。シールドを貫通して内部の敵戦力を撃滅しろ」
『はい閣下!』
カールセンのホログラムは消失し観測班が座標を”アルティメイタム”に提出した。
その間にタントールはライカン達にエレクトロバイノキュラーを配った。
ラックスもエレクトロバイノキュラーを手にし、砲撃を見守った。
その間に”アルティメイタム”では砲撃座標を入力し、目標に照準を定めた。
「艦長、砲撃準備完了しました」
副長のニビル・カマス*30中佐がカールセンに報告する。
カールセンはコムリンクを持って地上に砲撃開始を告げた。
「”アルティメイタム”から観測班へ、この通信から3秒後に1分間の砲撃支援を開始する。衝撃に備えられたし」
すぐにカールセンのカウントダウンが始まった。
「3、2、1、撃ち方始め!」
”アルティメイタム”の主砲から重ターボレーザーの砲弾が次々と放たれた。
黄緑色の光弾は真っ直ぐ飛び出しコルサントの大気圏を突破した。
その様子は地上にいるライカン達にも見えた。
落雷のような轟音が聞こえ、すぐに砲撃の雨が見えた。
「だんちゃーく、今!!」
観測班が指揮所に報告しほぼ同タイミングで目標に命中した。
最初の数十発は偏向シールドに阻まれたが、15秒経った辺りから偏向シールドの表面が変色しそれから僅か10秒後にシールドは貫通した。
そのまま地表の目標は全てターボレーザーの爆風によって破壊され、全て破壊された。
最後の10秒間はオーバーキルもいいところで、目標は跡形も残らなかった。
「観測班から”アルティメイタム”へ、目標の撃破を確認。効果は大なり!」
『観測班、了解した。これより海兵隊の展開訓練に移行する』
砲撃を終了し”アルティメイタム”は次の訓練に移った。
ライカンはエレクトロバイノキュラーを下ろし、指揮所のテントに戻った。
一連の砲撃を見届けたラックスは保安司令部に戻った。
彼の帰還を見届けつつライカンはあることを尋ねた。
「マスターコス、どうでしたか彼は」
「嘘は吐いています、懇親会には行かないのが賢明かと」
ライカンはこの時既に何か一波乱が起こることを予見していた。
無論その為の備えも考えながら。
-首都惑星コルサント 第30首都警備師団司令部 C.R.C.7983.12.12 クーデター当日-
合同参謀総長逮捕の作戦計画は数日のうちに完成し、コルサントにまだ残っていた諸将に伝達された。
作戦計画にはまずタッグ准将が指揮する第30首都警備師団の司令部に全員が集まることが最初に記載されていた。
この師団は首都警備司令部隷下の地上軍部隊でも第33首都警備師団と並んで常時兵力を維持している師団であり、首都機械化兵団の担当区域からも遠いという利点がある。
万が一合同参謀総長を逮捕した時武力衝突を起こしても、当面の間は抵抗出来る。
司令部には偏向シールドも設置されているので地上からの攻撃も耐えられる。
更にターキンは念には念を入れて数日前から第30首都警備師団近くの演習場でコマンダー・フォックスにショック・トルーパー師団と第1艦隊所属の海兵隊に合同演習を命じた。
これで何か起きてもすぐに演習場から1個兵団を展開出来るようになる。
司令部の駐機場には次々と統一会の諸将が集まりつつあった。
その間に保安司令部の下士官兵や下級将校達が第30首都警備師団司令部に次々と機材を運び込んでいた。
これらの機材は全て通信傍受や通信妨害用の装置であり、このクーデターを成功させるには必要な代物であった。
今このコルサントにおける共和国軍の情報は全て師団司令部の一室に集中していた。
「防諜関係の機材は全てこの一室に集めました。最後の機材運搬と共に人員も全て到着します」
ラックスの報告を受けターキンは元いた保安司令部ビルの方に命令を出した。
「警備隊には作戦開始と同時に警戒体制を発令し防備に当たらせろ」
「はい閣下」
ラックスは指示の為に通信傍受室に戻り、今度は反対側からエヴァックス中佐が姿を現した。
「司令官、ジャージャロッド提督らが到着しました。これで全員集結しました」
「では挨拶に行こう」
ターキンは通信傍受室を抜けて司令部の作戦室に向かった。
その頃作戦室では集まった諸将が先にいたテナントやロモックらと挨拶を交わし、雑談を始めていた。
その中で丁度スクリードが「しかしターキンはどこにいるんだ?」と尋ねた瞬間、奥のカーテンからアウター・リムの蛮人は姿を現した。
「よく来てくれた、どうぞこちらに」
カーテンの奥には作戦説明用のホロテーブルと諸将の椅子が用意してあった。
ゾロゾロと全員がカーテンの内側に入り、タッグは部下に作戦室を戦闘状態へ行こうするよう命令を出した。
「全員揃ったな、ではテナント提督説明を頼む」
ターキンはテナントに作戦説明を任せ、自身は最高議長への逮捕認可の受け取りの準備を始めた。
「作戦を説明します、まず第一段階として最高議長執務室へターキン提督が向かいコバーン提督の逮捕認可を受け取ります。同時並行で保安司令部のギデオン大佐率いる拘束班がコバーン提督を逮捕、この際拘束班は第112憲兵師団の一部部隊を率いて非常時に備えます」
諸将は真剣な面持ちで図式化されたホロテーブルの作戦遂行シミュレートを見つめていた。
これが失敗すれば彼らは全員明日にでもあの世行きが確定することになる。
「また有事に備えて首都警備司令官、憲兵総監、第1宙域軍特殊作戦司令官を懇親会と称し一ヶ所に集めておくのでこの3つの部隊は当分指揮能力がなく、事態に対処出来ません」
逆にこちらは数万人近くの兵士を手元に置いている為敵がいざ鎮圧に動こうとしても当面の間時間は稼げた。
既にこの時点で統一会側はかなり優位な状況を作り出していた。
「合同参謀総長の逮捕と最高議長の認可が成功すればこの作戦は成功です」
テナントの説明は終わり諸将の意識は全てターキンの下に集まった。
ターキンは軍用ジャンパーを着て提督の階級章がついた軍帽を被り、片手には逮捕認可の書類が入ったタブレットを持っていた。
「私が必ず認可を手にして見せましょう」
そういってターキンは作戦室を後にした。
意気揚々と司令部を歩き、今日は気分がいいといった面持ちで自身のスピーダーに乗り込んだ。
運転手はターキンがスピーダーに乗り込むのを確認し自身も運転席に入ろうとした。
だが運転手には司令部の中から大慌てで走ってくるテナントとラックスの姿が見えた為スピーダーを発進させずに待機させた。
「待て!!ターキン大変だ!!」
大声で叫んだテナントの声はスピーダーの中まで響いた。
ターキンはスピーダーの窓を開き「どうした」と慌てた表情のテナントに尋ねた。
「ターキン、お呼びが掛かってる……”
完璧だったはずの作戦に突如暗雲が立ち込めた。
だがターキンは一切表情を崩さず、「では行くとしようか」と合同参謀本部センターへ向かうよう命じた。
暗雲だろうが積乱雲だろうが一度決断したのなら突き進む、彼はその覚悟と度胸で立ち向かうことを決めたのだ。
—首都惑星コルサント 首都警備司令部ビル—
首都警備司令部に入ることの出来る人物は基本的に3種類ある。
1種類目は共和国軍人であること、当然何用かは尋ねられるが基本的には一番司令部へ入りやすい部類だ。
2種類目は首都警備司令部に属する軍人の親族や関係者であること。
この類の人物も身分証と要件だけ言えば短時間に限定されるが比較的簡単に入ることが出来る。
そして3種類目は共和国軍から入室の許可証を与えられたホロネットなどのマスメディア関係者、その他の省庁の官僚達だ。
司令部の活躍の取材や警察機関や消防機関などとの連携を図る為にこうした許可証は屡々発行される。
そして今現在、司令部の玄関前で主人を待っている1人のイリドニアン・ザブラクは分類では2種類目に位置した。
ライカンは丁度タントールと話をしながら司令部の外に出たところで彼女を見つけた。
「ミラ夫人、お久しぶりです!」
ライカンはフランクに挨拶した。
彼女の名はミラ*31、戸籍上ではミラ・コスとされる人物でイース・コスの妻であった。
ミラはコスとの子どもを抱っこしてライカンに挨拶を返した。
「ライカン中将、お久しぶりです。こないだのエメラルド・グレープごちそうさまでした」
「また食べたかったら言ってください。オルデランの家族が食べきれないほど送ってきて少し困ってまして」
ライカンは苦笑を浮かべ同僚の奥方と穏やかな会話を楽しんだ。
「マスターコスを待っているのですか?」
ふとライカンはミラに尋ねた。
ミラは小さく頷き「すぐ来るとは思うのですが」と呟いた。
そこでライカンは気を利かせて「我々で呼んできましょうか?」と言った。
しかしライカンのお節介が働く前にミラの夫が司令部から飛び出してきた。
「すまない!待たせてしまった!」
少しばかり仕事に追われて面会が遅くなったコスは近くにいたライカンとタントールに軽く頭を下げ、すぐに家族の下へ向かった。
ミラが抱えている娘の頬を軽く撫で、柔和な笑みを見せた。
コスの気持ちが穏やかだからだろうか、娘も自然と微笑が溢れていた。
「せっかくだから中に入ればよかったのに」
「中に入ったら迷惑になるんじゃない?ねえライカン中将」
ミラは持ってきた荷物をコスに渡しながらそう呟いた。
「いえいえお構いなく」
「ああ、せっかくだから少し飲み物だけでも飲んでいったらどうだ?」
コスはそう提案したがミラは断った。
「皆さん忙しいでしょ?でも忙しいからって食事は抜いてないよね?」
ちょっと強めの口調で聞かれた為コスは苦笑を浮かべざるを得なかった。
後ろで2人を見ていたライカンとタントールもその仲睦まじさに自然と笑みがこぼれた。
「このライカン中将が兵士を飢えさせるわけないだろう?」
「私?」
「まあ司令官ですし」
ライカンとタントールはどうでもいい会話を後ろで行っていた。
「ああ確かにそうだったわね、じゃあちゃんと下着と靴下は変えた?きちっとしないとこの子も「くさいパパはいやだ」っていうかもよ?」
ミラがコスに娘をゆっくりと優しく渡し、コスは娘の背中をトントンと優しく叩きながら抱き抱えた。
ジェダイを辞めていなければ経験出来ない体験と感動だ。
家族が出来てからコスは誰かに愛を注ぐこともそれほど悪いものではないと感じていた。
「そんなこと言わないよねー?よしよし」
1分ほど娘を抱っこするとコスは妻に娘を返した。
「そういえば司令官、そろそろ参謀会議を始めませんと。一応提督の懇親会に向かうんでしたよね?」
ふと思い出したようにタントールはライカンに尋ねた。
ライカンはあまり喜ばしくない表情で「一応そのつもりだが…」と呟く。
ターキンの懇親会は明らかに何かしらの罠だと確信していたがターキンは提督で階級も年も全て上である。
軍人として先輩の申し出を断るのは難しく、取り敢えず行くだけ行こうという話になった。
勿論非統一会メンバーが指揮する首都警備司令部の戦力はこの1日だけ戦闘態勢のまま待機させ副司令官と艦隊司令官のサリマには何か事態が起きればライカンの指示がなくとも対処の命令を出していいと伝えた。
後ろで2人の話を聞いていたコスは名残惜しそうに別れを告げた。
「それじゃあ私も行かないと、明日はちゃんと家に帰ろうと思うよ」
「その言葉だけでも嬉しいわ。ライカン中将、夫をよろしくお願いしますね」
「勿論です」
ライカンはミラに敬礼し、彼女は司令部を後にした。
コスは若干寂しそうな表情のままライカンとタントールの下へやってきた。
「今日なんともなければきっと家に帰れますよ」
ライカンは軽くコスの肩を叩き、慰めた。
「ええ、そうだといいのですが……」
コスはそう願ったが彼のフォースはそうはならないと告げていた。
コルサントが騒めいている、フォースの流れに変化が生じていた。
統一会のクーデターまでもうそれほど多くの時間は残されていなかった。
-首都惑星コルサント 合同参謀本部センター 合同参謀本部総長執務室-
ターキンは堂々と合同参謀本部の通路を歩いた。
彼を見た人物はまたターキン提督が意気揚々と捜査報告をしに来たのだろうと考えた。
まさかターキンがクーデターを計画していて、もしかしたら計画が露呈したかも知れないと思ってここに来ているとは誰も思っていなかった。
尤も、彼の後に続くエヴァックス中佐は緊張でだいぶ青ざめていたが。
「コバーン提督に呼ばれてきた」
ターキンは執務室前のドアで待機しているコバーン提督の副官に敬礼し、入室の許可を求めた。
ちなみにこの副官、CT-9054-12-44はクローン・トルーパーである。
かの有名なクローン・コマンダーであるレックスやコーディ、ウォルフらよりかなり後に生まれ人間の年齢でいう所の28歳に該当する。
ニックネームはコンテ、階級はクローン・メジャー。
その為彼はよくコンテ少佐と呼ばれた。
副官は衛兵に開錠を求め、ターキンを執務室に案内した。
「閣下、保安司令官をお連れしまし」
執務室に入るとコバーンはタブレットを見て何かの報告書を読んでいるようだった。
「ご苦労少佐、執務室前で待機してくれ」
「はい」
副官は敬礼し執務室を後にした。
この部屋の中に残されたのはコバーンとターキンの2人だけである。
ターキンは神経を張り巡らせ、いつでも自衛出来る体勢を整えていた。
ブラスター・ピストルはないがものによっては合同参謀総長を人質に取ることくらいは出来る。
やはりキャリオン・プラトーで過ごした日々は無駄ではなかった。
「何用でしょうか」
ターキンはコバーンに尋ねた。
コバーンは席を立ち、ゆっくりとターキンに近づいた。
臨戦体勢のターキンとは違い、コバーンは緩やかで戦う気が一切ないといった雰囲気だった。
「ターキン提督のお気持ちは理解出来ます、噂で第7宙域軍司令に移動になると聞き気分を害したでしょう。捜査も半ば途中で諦めることになってしまいますし」
予想外の発言だった。
また叱責されると思っていたターキンの予想とは違いコバーンの口から出たのは労いの言葉だった。
「だがこれも共和国軍を刷新する為、要はこの国の為です。ご理解ください」
「お気になさらずに、軍人は命令であればどこへでも行きます」
少なくともこの時点でコバーンが計画に気づいている訳ではない事が分かった。
ターキンは内心安堵し警戒態勢を解いた。
そしてコバーンはその間に本題に入った。
「あなたを呼んだ理由は他でもない、公判のことについてです。今回の内乱事件で国民の注目がランシット部長に集まり、分離主義者への警戒意識が薄れている」
ライカンはあるデータチップをデスクから取り出してターキンに手渡した。
「ですので今注目を集めているランシット部長の公判の際に、彼の最終陳述で分離主義者への警戒を促すのはどうでしょう」
ターキンは自身の簡易端末でランシットに読ませる原稿の案を確認した。
心の奥底ではもうそんなことはどうでもいいといった感じだったが。
「素晴らしい考えだと思います。直ちに合同捜査本部の面々に伝えましょう、それでは」
「ああ、うまく幕を引いてください」
お互いに敬礼しターキンは執務室を出ようとした。
その途中で彼はあることを思いついた。
よりスムーズに拘束班を突入させるある提案を。
「提督、報告する事があるので
「明日ではダメですか?」
コバーンは尋ねた。
それに対してターキンは如何にもそれらしい理由をつけて今日であることを押し通した。
「すぐに終わりますよ、それに裁判官達が急げとせかしていましてね。アイサード長官に言ってやってください、急がせすぎだと」
「フフっ、分かりました、私の公邸にくるように伝えてください」
コバーンはあっさりとターキンの要望を飲んだ。
まさか公邸にくる一団が自身を拘束するとは微塵も思わずに。
執務室を出たターキンは早歩きで駐機場へ向かった。
その間エヴァックスには一言も喋らずに無言のまま自身のスピーダーへ急いだ。
スピーダーに乗り込み、ドアを閉めるとようやくターキンは凶悪な顰めっ面から邪悪な笑みを浮かべた表情へと変わった。
隣に座ったエヴァックスが「どうでしたか」と尋ねた。
彼としては計画がバレているかバレていないかが一番重要であった。
何せ自身の命に直結することだからだ。
ターキンは座席に深く座り込みながら満足そうに語った。
「私はいい日を選んだようだ」
すぐにテナントら第30首都警備司令部の面々に連絡するよう命じた。
”
彼らの革命はこの瞬間から始まった。
つづく