左端にある「君」とは、あなたの事を指しています。
会話の中の「君」は、そのまま相手の事です。
少し紛らわしいかもしれませんが、ご了承下さい。
それではどうぞ。
君「……よし、まだ来てないな」
君は桜の木の下に座り込み、そう呟いた。
手には紫色の小さな花を数本抱えていた。
その花の名は【シオン】。花言葉は、「君を忘れない」「追憶」。
そう、今君は待ち合わせをしているのだ。
とある美少女と、だ。
心地よい春の風が、君の髪を凪いでいく。
その時、ふわっとした甘く優しい匂いが風と共に流れてきた。
???「あっ、ごめーん!待ったよね?」
立ち上がり振り向く。
幹の反対側から紫咲色の髪をなびかせた美しい女性が、イタズラな笑みを浮かべて顔を覗かせていた。
???「って、ちょっと君!何か言ってよ〜?あっ、シオンちゃんのこと可愛いって思ってたんでしょ?ちゃはははは!」
そう言われた君はハッとして、顔を下に向ける。
図星だった。
何を隠そう、この美少女、紫咲シオンちゃんは、君の最推しなのだから。そして今回待ち合わせていたのもこの子である。
君「そりゃ、シオンちゃん可愛いんだから仕方ないだろ……!もう目の前で見られなくなるんだし」
目の前で見られないーーつまりそれは、卒業。
君にとって、最推しとの別れである。
シオン「ごめんね……でも、シオンを推してくれたこと、絶対に後悔させないからね」
君「うん、ありがとう。俺も、推したこと絶対後悔しないよ。……そうだ、君に渡すものがあって呼んだんだ。これ」
そう言って君は花束を渡す。
予想外の出来事に驚いたのか、シオンちゃんは一瞬目を見開いた。だが、その表情はすぐに満面の笑みへと移り変わった。
シオン「ええ!?シオンにこんなもの用意してくれてたの?めっちゃ嬉しい!ありがとう!!!」
君「喜んでくれて何よりだよ。君にとびきりの愛を伝えるためには、やっぱりこの花しかないと思って」
シオン「君、本当にシオンの事大好きなんだね。ねぇ、もう少し、話してかない?これだけで終わっちゃうの、寂しいからさ」
君「大歓迎だよ!俺まだシオンちゃんと沢山話したいよ。そうだ、俺、あの配信気に入ってるんだよね。確かあれは2年ちょっと前の……」
君は、2期生5人でオフコラボした時の話を始めた。
君「あの時のシオンちゃん、めちゃくちゃ可愛かったんだよなぁ〜。特にさ、みんなに褒められてニヤニヤしてたの見てみたかったくらい、聞いてるだけでめちゃくちゃ可愛かったよ」
シオン「それはっ!もういいでしょ〜!」
君「スカートいじいじしてるってバラされてたのもめちゃくちゃ可愛い、いやもうほんとに可愛い」
シオン「ねぇ!思い出しちゃったじゃん!もう!」
君「怒ってるシオンちゃんも可愛いよ」
腕を上下に振りながら怒るシオンちゃん。
可愛いなぁほんとに。あでもそんなにブンブンしたら花びらが……あっ1枚落ちた……。
そんなシオンちゃんを宥め、話を続ける。
君「後はさ、記念ライブも良かったな。終始シオンちゃんが大好きな曲を歌ってくれて、俺もシオンちゃんの好きな曲が沢山知られて良かったよ。ダンスもだんだん上手になっていくところ見ててさ、嬉しかったよ」
シオン「ちゃんとダンスも歌も、全部見ててくれたんだね、ありがとう」
君「うん、本当に大好きなんだ、本当に……グスッ……あれ、俺なんで……グスッ……覚悟決めてたのに」
君はここに来るまでに、沢山の涙を流していた。
それはもう一生分と言っていいほどだ。
ここで泣かないようにと、覚悟を決めてきていた、はずなのにーー
頬を雫が伝い落ちる。それが握り締めていた手の甲に落ちた時、想いは溢れ出した。
君「俺、やっぱり嫌だよ……。ここでお別れなんて、嫌だよ……!まだ、一緒に居たかった……。楽しくお話して、変なこと言い合って笑って、そんな幸せな配信を見たかったよ……俺、俺……ッ!」
膝から崩れ落ちた君の肩に、暖かな手のひらが優しく触れた。
シオン「シオンもね、本当はみんなと一緒にいたいよ。みんなのこと、本当に、本っ当に、大好きだよ。だからさ……シオンは、君の中に、永遠に生き続けるから。君がシオンのこと忘れない限り、シオンは永遠にシオンだよ。ずっと、ずっと……君の事、大好きだよ」
その言葉に我に返った君は、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
そこにはあったのは、いつものようなイタズラっ子の笑みではなく……。
誰よりも優しい、君の愛した彼女の微笑みだった。
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君「ごめん、もう大丈夫」
シオン「良かった。……じゃあ、今度こそ、最後だね」
涙を拭いた君は、立ち上がり頷く。
君「何があっても、俺は君のことを愛し続けるから」
シオン「うん、ありがとう。……それじゃあ」
君「うん、ばいb……」
シオン「あー!あー!ちょっと待った!」
君がバイバイと手を振ろうとした時、シオンちゃんは空いている手をパタパタと振りその言葉を静止した。
シオン「違うよ、バイバイは別れの言葉だから……今はね…………また、いつか だよ」
そう言って、彼女は人差し指で君の胸をツンと弾く。
君「うん……うん、そうだね。また、いつか」
くるりと背を向け、彼女は去っていく。
俯きかけたその時、シオンちゃんはこちらを振り向く。
ハッと顔を上げた君の瞳に映ったのは、舞い散る桜の中に輝く、彼女の笑顔だった。
そして、ただ甘く、優しい匂いが、君を通り越していくのだった──