異世界から持ち帰ってきた相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま)   作:ニキ/バハちゃん

16 / 16
ある方が珍しいんスよね


1-2-B2:ファッションセンスのある男主人公は数少ないと言われており

く──翌日。

 日課にすると決めた早朝ウォーキングを終えてから暫く経ち、そろそろ昼時の我が家にて、俺は顔を両手で(うずくま)って蹲っていた。

 

「……あれだけ特待服は痛いだろとか言っといて、見事に黒い服しか持ってないわねあんた」

「頼むからもう殺してくれよ……!」

 

 ──帰還前の異世界で俺達が通っていたリベルグラム魔法学園には制服が二種類存在した。

 一つはメイン配色以外なら自由に改造可能な一般生徒用の白いファンタジーなブレザーで、もう一つは成績が極めて優秀な生徒のみ袖を通すことを許される、完全に自由改造可能な白とは真逆の真っ黒なブレザーだ。

 特別待遇生徒と呼ばれる学園のエース達に因んで特待服(・・・)と呼ばれるそれは……絵に描いたように厨二病チックな()()()()()()()()()()()()()がデフォルトとなっている。

 

 当時それを渡された俺は(えぇ……これ画面で見る物とかじゃなく実際に着て学園毎日行くの……?)と戦慄し、毎年異世界の美的感覚でより厨二チックに勝手に改造されるのも相まって、"黒"を着ることへの羞恥心が年々増していったものなのだが……

 

 

 自室の衣装タンスを開けて出てきたのは、着る物に無頓着な高校生特有の無難(無地)たる黒い服の山だ。

 

 

 ……ダブスタである。あまりにもあんまりなダブスタである。刃渡り二億センチの過去(ナイフ)が心臓を貫き申している。

 

「……何故だろう、胸がとても痛い」

「ふむ。──恋、ね」

「だまりなー?」

 

 目の前が真っ暗になるとはこのことか。物理でも比喩でも真っ暗なんすけど、なんなんスかこれ?

 したり顔でボケてくる特待服肯定者さんは、今日も今日とて健康的な薄着で俺の肩越しからタンスの中を覗いている。

 ……この子もファッションに無頓着な方ではあるが、素材が世界レベルで良い上に服装という概念から逃げてはいない。

 シンプルなデザインのワンピースから、果ては改造しまくって原型の無い制服まで。レパートリーは様々かつ色が何かに偏ることも無い。

 考えることから逃げていた結果のコレ(・・)と対比して、なんと自分の虚しいことか。

 

「ラインナップこれならいっそ向こうの制服着て行けば?」

「……自己紹介がてら悪くない案だけど、生憎俺の荷物はほぼ持ってきて無いんだよね」

「制服ならあんたの予備は持ってきてるわよ?」

「なんで???」

「……無人島遭難時に自分の異次元バッグに女子用の制服入れてたあんたが聞く?」

「どうしよう何も言えねぇ」

 

 不測の事態を考慮し(過ぎ)て、向こう(・・・)の俺の異次元バッグには大抵の物が入っていた。

 この場合における大抵とは『漫画、ラノベ、アニメ、ゲームで起きうる典型的な(テンプレ)イベント(ハプニング)に対して回答となりうるもの』のことを指し、その中には当然、『緊急事態で着る物が無い女子生徒に渡すor何処かに忍び込む必要が出た時に着れる女装用の女子制服』も存在した。

 自分でやっててキモイと思うだろう? でもこれが気持ち悪いくらい当たるんだよあの世界(原作が存在する異世界)って。

 

 唐突に無人島に漂着したり、唐突に記憶を消し飛ばされた上で覇天祭(・・・)に放り込まれたり、当然の如くご都合展開で奇跡を起こされたり、当然の権利のようにセーブ&ロード(死に戻り)してる主人公君が居たり……予め対策しとかないと対処不能な、普通有り得ない出来事までケアしなきゃ、無事にこっちに帰れて無いんだよねあの世界。

 我ながらよく生きてるよな、俺。

 

「……まぁだとしても体格的に今は着れないか?」

「そうね。あんた今は……あー……その……ね?」

「身長低めでモヤシ体型ですねそうですね、更に言うなら猫背だよ」

 

 投げやりに返答しながら最低限マシだと思える服装をなんとか見繕う。

 上下同色は違うよなとか色々考えた結果、最終候補が現代の学校で着てる白シャツに収まるのはどうかと思うが、黒の下に黒の上合わせるよかマシなのが悲しい。今度服も買いに行こ……

 

「……ねぇアラン」

「うん?」

「私に色々言っときながら自分は当然のようにその場(目の前)で着替え始めるのってどうかと思わない?」

「野郎の裸に需要ある?」

「無い」

「だろ?」

 

 流石に身内の前でしかしないよ。

 

 

 ****

 

 

 結論から言うと秘匿回線は特段怪しいもの(詐欺)では無かった。

 Mppストアから試しにDLしたYouTube亜種は元々あったアプリにアップデート(ウイルスのような挙動)を行う形でスマホに入り、アプリ内で(現代)版と(魔法界)版のフィルターの切り替えを実装した。どんな技術???

 裏版にあった動画・配信には正直面食らった。現代なら『魔法で〇〇してみた!』なんて感じで釣り文句で扱われる魔法(・・)という題材に対し、魔法界版では動画タイトルに態々魔法なんて文字を入れていない。

ただ『料理を何処まで時短出来るか検証した』や『何でもありで山奥でガチ鬼ごっこ』みたいな感じで、()()()使()()そのもの(・・・・)()()()()()()()()()()の常識として(・・・・・・)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ……といったエンタメが展開されている。

 

 知らない世界だなぁと感心しながら、それらを無視して俺が調べたのは、家庭教師をする際に気を付けるべき注意点と常識について。

 

「……まさか即日で依頼が来るとは」

 

 早速ネット登録してみた魔法界用の家庭教師センター。やらないよりやってた方が良いだろとプロフィールと行ける日を設定したところ、寝る前には既にマッチングしていた。何故に? 魔能二級持ってるとは言え、俺、体は高校生なんですけど。

 こんな早く依頼されるくらい基本的に需要があるのか、はたまたゴールデンウィーク特有の例外なのかは、まだ知識が足りず分からないが。

 

記録術式(コクバン)使えて助かった)

 

 エミの「行ってらっしゃい」の声に押されて家を出た俺の持ち物にスマホは無い。俺にしか見えない無数のホワイトボード(オリジナル魔法)の一つにメモした地図に従い、鬱陶しい日差しの下自転車を走らせること数分。

 ほぼ見覚えの無い街並みを新鮮な気持ちで眺めながら辿り着いた先は、駐車場を含めてコンビニ程の大きさの一軒家だった。

 何故態々この例えにしたかと言えば単純に、備え付けの庭がかなりデカイ。魔力量的に見た目以上の広さは無いだろうけど、簡単な認識阻害が掛けられているのが分かる。練習場に使っているということだろうか?

 近辺に住居はそれなりにあった。街中で普通に暮らしてるんだなぁ、現代の魔法使いって。

 

(……少し緊張するなぁ)

 

 いつも通り、感情を捩じ伏せてインターホンを押す。戦闘とは別種だからこそ跳ねてしまう心臓は、されど待つ(進まない)理由にはならない。

 早めに着いてた方が印象がいい+コミュニケーションを取るため指定時間の30分前に来たのだが、流石に早かったのだろうか? と、インターホンからの返事を待つ間自己問答をしていたのだが──

 

 ドタドタドタドタ──ガチャリ!

 

「──っあなたが異世界帰りの上城さんですか!?」

 

「えっ、あっ、はい」

 

 ──玄関のドアを勢いよく開け放った依頼者本人さんを見て、自分の行動は間違ってなかったんだなと一安心した。

 

 

 ****

 

 

 家庭教師と検索すると、サジェストの上位には決まって『初訪問』という単語があった。

 それだけ『初回』という物はこの仕事をする上で大事になってくることなのだと認識していたのだが……俺が訪れた生徒に限って言えば、それはもう不思議なくらい俺への好感度が最初から高かった。

 

「えっと、瑞希(みずき)さんで良かったかな?」

「あっ、と……妹が! 居るので、紛らわしくないよう、学校じゃざくろちゃんって名前で呼ばれてます!」

「じゃあざくろさんで」

「ちゃんで!」

「……ざくろ、ちゃんで。あ、()の方は好きに呼んでもらっていいので……親御さんは?」

「物理的にいないです。世界に」

「はい了解です。……あのサイト本当に大丈夫か?」

 

 ──"瑞希ざくろ"15歳。中央魔法学園高等部魔法科所属の、れっきとした女子高生。

 後ろが肩甲骨まで伸びる黒髪のツーサイドアップに、明らかに日本人なのに人目を引くマリンブルーの虹彩。背丈は俺よりそれなりに低く、目算150と少しくらい。

声に既視感(・・・・・)は無く、小柄で小動物然とした可愛い寄りの……この体(上城新)と同年代の女の子が、今回教えることになった生徒さんだった。

 

 ……色々と"何で?"と言いたい。余りにもツッコミどころが多過ぎる。

 

(保護者不在で高校生が他の異性の高校生相手に密室で二人きりで家庭教師するとか現代日本じゃ死罪では? なんでこんな異常事態がまかり通ってんだこの世界(魔法界)、同人誌のネタ過ぎる)

 

 最初のテンションのままどこかぎこちなく案内された先は、ノートPCと──うわ、なんだあの『痛い格好は馬()鹿にするけど()内心こういう()のかっこいい()と思ってつい()つい集めてし()まうタイプ()』の、スマホ程度の大きさの──小さな黒いメモ帳がテーブルに置かれた広めのリビングだ。

 清潔に保たれているが、若干の違和感が部屋にはあった。生活感は存在するし、元より綺麗であったのは見て取れるのだが、置き慣れていないかのような使用感の差をどこかに感じてしまう。……あぁパソコンかな? 多分部屋からここへ持ってきたのだろう。

 

 軽い自己紹介を済ませた後、ちらと記録術式(コクバン)で改めて依頼内容を確認する。

 授業時間は90分、主な指導内容は生徒からの指示に従うようにと。

 動画は一通り見てきたが初回なのもあってこれが長いのか短いのかは分からない。物差しを無理矢理置くなら小学校の一コマ45分×2といった具合だろうか? それか休憩時間込みで実際は40分×2で考えた方が良いのだろうか。

……何にせよ経験が無さ過ぎる、ごめんね頼りない先生で。

 

「あ、女の子と二人きりで緊張してますぅ?」

「言い方はアレですけど、異世界で割と慣れてます」

「……わぁー、モテ自慢だー」

 

 捉え方が捻くれてない?

 ただ発言に嘘は無い。同年代の女子と密室で二人きりというのはエミ他異世界の──というか、創作世界特有の美少女バーゲンセール物語で腐るほど味わってきた。だからこうして今も冷静に思考出来ているのだから、感謝のひとつでもするべきなのだろう。サンキュー異世界。

 

(……さて?)

 

 今も若干興奮気味のざくろちゃんさんは、少し空回りしながらも積極的に俺とコミュニケーションをしようとしてくれている。

 性格が良い……とただ纏めるには、明らかにこちらを探るような様子が見え隠れしていて、距離感の模索と単純に解釈するには、どこか不適切な気がしてならない。

 思い返して引っかかったのは最初のコンタクト。彼女が俺を認識する上で一番大きいのは『異世界からの帰還者』という一点だった。

 それをプロフィールに明記したのは俺だ。何故高校生の俺に即日で依頼が来たんだと思っちゃいたが、初対面時の挨拶(・・)から考えれば、他の家庭教師を押しのけて俺が選ばれたのはその特異性によるものだと推察出来る。

 年齢よりも、実績よりも、性別よりも。『異世界からの帰還者』という一点がその全てを理由として上回るのならば……

 

(……何を教えることになるんだろう)

 

「つい最近帰ってきたばかりだから知らないんだけど、魔法学の家庭教師ってそんなに一般的なものなのかな?」

「あー、結構付けてる人は多いですよ。塾が近場に無いのと、有名な人だと明確に実力が伸びるとかで。ただそういう人は競争率がそもそも高いし、そうじゃなくても家庭教師出来るまともな人の絶対数が足りてないみたいです」

「へー! やっぱり魔法が日常に存在しないからこその需要なのかなぁ? 向こう(・・・)だと家庭教師って言えば貴族専門の職種みたいな感じだったし」

「やっぱり!?」

 

 うわぁお凄い食い付き、目ぇキラッキラさせちゃってからにまぁ。

 

「あ、ちょっと待って……それで、他にはどんな違いがあったりしますか!?」

「え? そうだなぁ──」

 

 いそいそと黒いミニメモ帳に何事かを書き始めた少女であるが……この子、もう隠す気ないよな?

 捉えた違和感に従い、ある特定の法則を表す名詞が違う話や、学習進度の違いの話等、当たり障りのないこと(本命以外の差異)だけを述べて反応を確かめるが……うん、実に反応がいいですねぇ? まるでそれが聞きたかったんだよと言わんばかりに、話の続きを促してくるしで。

 

「──ところでざくろちゃんさ、」

「はい?」

 

 そろそろ予約されていた時刻になる。思ったよりも時の流れが早いものだと談笑しながら、まるで打ち解けたかのように上機嫌な目の前の彼女に向けて、一言。

 

 

「君、魔法の勉強のために僕呼んでないよね?」

 

 

 少女の顔が笑顔のまま固まった。




用語:特待服
本文の説明通りで、付け加えるなら『黒い特別制服は基本色と校章さえ守れば好きに改造可能、なんならブレザーですらなくていい』というルールがある
異世界の学園物って各キャラの制服かなり違うこと多いよね

用語:覇天祭
ちょくちょく出てくるこの単語ですが、1-3本文で触れるので解説省略

用語:ご都合展開で奇跡を起こされた
例えばカードゲームアニメとかであるような絆の力だとか修行だとかで、ゲーム中にカードが進化(ジャッジキル不可避)してひっくり返したれやぁぁぁぁぁをよくされてきた側(・・・・・・)による感想
尚、アラン君はその"全ての奇跡"を力で捩じ伏せて無敗を貫き通した模様。頭黒木玄斎か?

用語:スマホ程度の大きさの黒く小さなメモ帳
買ったことの無い人間だけ私に石を投げなさい
修学旅行で木刀買うより身近なネタですよね?作者の実話なんすよこれ(定期的に買ってた)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→(作者:ぱちぱち)(オリジナル現代/冒険・バトル)

タイトル変更しました▼【旧題:最安10円レンタルチート ブラック労働で過労死数歩前だった俺の心の癒しだった動画アプリがマジモンの神アプリだった 】▼山里一也は金がない。時間も無ければ彼女もない。健康診断結果も20代とは思えない。▼唯一の娯楽は通勤退勤時にスマホのアニメ視聴。このまま会社の社畜として緩やかに死に向かって進んでいくだけだった一也の人生は主人公をレ…


総合評価:4416/評価:8.56/連載:142話/更新日時:2026年09月16日(水) 07:10 小説情報

ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている(作者:ない因習村:年一で因習が改正される)(オリジナル現代/コメディ)

 ホラー系の世界に転生しました。夜道を歩くと大概出会いますが、妙に冷めていたり、カラっとしています。どうすればいいでしょう?


総合評価:7872/評価:8.7/連載:35話/更新日時:2026年09月16日(水) 18:00 小説情報

【どうしたら】魔法少女に変身させられたけど放置された【いいと思う?】(作者:名無しの魔法少女)(オリジナルファンタジー/コメディ)

転生者たちが脳内掲示板でわちゃわちゃするn番煎じのよくあるやつ。▼日夜、悪の組織と魔法少女たちが戦うある意味平和なニチアサ的世界に転生したイッチ。▼マスコット的サムシングの押し売りに負けて変身するも、いろいろな要素が悪い方向に作用して、マスコットは絶叫して逃走。▼おいてけぼりを喰らったイッチはしゃあなしに、転生者たちが集う脳内掲示板に助けを求めるのだった。▼…


総合評価:2264/評価:8.61/連載:5話/更新日時:2026年09月13日(日) 12:00 小説情報

ウチの戦隊ブルーが悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う?(作者:新月)(オリジナル現代/日常)

見なかったことにしたいんだけどダメ? ダメかー。▼この小説はカクヨムとネオページにも投稿しています。


総合評価:19414/評価:8.72/連載:68話/更新日時:2026年09月14日(月) 20:00 小説情報

魔法少女専用掲示板「魔チャンネル」 運営:掲示板の魔法少女(作者:名無しのユーザー)(オリジナル現代/コメディ)

1:名無しの魔法少女▼ ここは「名無しの魔法少女」専用のネット掲示板です▼ いっぱい魔獣を倒してポイントを貯めて願いを叶えましょう▼スレ民全員魔法少女()な掲示板ものです▼こんなんでもわりと平和(?)です


総合評価:11467/評価:8.83/短編:7話/更新日時:2026年09月10日(木) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>