異世界から持ち帰ってきた相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま) 作:ニキ/バハちゃん
「…………」
「…………」
「そのメモ帳見せてくれる?」
「
空気を手の形に固めて無理矢理強奪。少女に触れずに入手した
「ねぇちょっと!? 何勝手に乙女の秘密覗いてんの!? ていうかこれ何!? 私何されてるの!?」
「空間を希釈して俺までの到達距離を伸ばしてる。
「地味に凄っ!?」
スローモーションで掴み掛かってくるざくろたそにメモ帳を返して魔法を解除。たたらを踏んで尻もちをつく少女は、恥ずかしそうに赤面しながらメモ帳を腕の中に大事に抱え、上目遣いで俺を睨んでいる。
実際悪いことはしたし、人様の秘密を無理矢理覗いた訳だから恨まれるのは分かるんだけど……一応俺、ここに家庭教師に来てるんスよね? 君が用意してた物、明らかに勉強で使う用途でここに置かれてないですよね?
「……変態」
「無理矢理見たのは謝る、それはごめん。それはそれとして説明は要求していい?」
「
「帰っていい?」
「あぁ待って待って待って!?」
踵を返すフリをすれば、焦りながら俺の服の袖を両手で掴んで止めてくる。そこまで力は込められていない、振りほどこうとすれば出来る程度のおずおずとした懇願。
俺の肩より少し低い位置から上目遣いで、暫しの間を置いてから不安げにざくろはこう聞いてきた。
「……馬鹿にしない?」
「理由や関係値も無しには」
渋面。そっと裾から手を離し、祈りの仕草のように胸の前で両手を組んで、「うぅ〜……」と小さな声で少女は唸りながら思考する。
別に俺とて意地悪で聞いてる訳じゃない。ただ、遅かれ早かれバレることならさっさと聞いといた方が良いだろうという、お互いの関係値のための強行だ。
話せることなら聞いた方が力になれるし、話せない理由ならそうだと言ってくれればそれでいい。そんな面持ちで答えを待っていれば、やがて……
「…………あの、これ」
長い沈黙を経て、感情に折り合いが付いたざくろが恥ずかしげに見せてきたのは、スマホの画面。
……見覚えは、ある。そこに映っていたのはとても懐かしい、実に7年振りとなる
「……ネット、小説?」
「うん。……私、小説を書いてるの」
「へー! ……お、結構話数あるじゃん。どんな話なの?」
「……(無言の詳細タップ)」
良くある長文で内容を説明するタイプでは無い、一昔前のラノベにありがちな
えー何何? 『異世界転生』『メタネタ』『パロディ』『魔法』『SF』『主人公最強…………
「──ッスゥー……」
はぁなるほど? この要素を持つ作品をこの子は書いてて? 俺が呼ばれて? 俺の話についてメモしたのがネタ帳ね? あーなるほどはいはいそういうことね? ──完全に理解した。
「……お前、さては実際の異世界体験談をインタビューするためだけにサイト悪用して僕呼んだな!?」
「しゅ、取材料出してはいるし!」
「焦ってる時点で悪いことしてる自覚はあるよね君?」
「うぐっ……まぁ、それは、はい……」
素直に認められて偉い。その自覚無かったら流石に叱るとこだったぞお前。
ばつが悪そうな顔の少女はやがて、ポツポツとこんなことをした経緯について語り始めた。
「……私、昔から筋金入りのオタクだったんです。アニメや漫画、ラノベが好きで、行動力だけは無駄にあったから、その時その時にハマってる物を中途半端に齧りながら生きてきたんですけど……中学生くらいのある時に、『あぁ、なんか将来働きたくないなぁ』って思い始めまして」
「……うん?」
なんだろう、今変な発言が聞こえたような? 聞き間違いかな?
「その時丁度ハマってたのが小説で、『あ! これ書籍化させて小説家になれば肉体労働せずに済むじゃん!』と気付いてからここ数年書き続けてるんですが、これまた鳴かず飛ばずの毎日で……それで最近学園に異世界の子が転校してたのを見て『あ、実際に異世界帰りの人に話聞けば作品のクオリティ上がるかな』って思い付いて」
「…………」
「知り合いでも無い学園の子にいきなり聞きに行く度胸は無いし、てかぶっちゃけクラスメイトに自分が小説書いてるのとか死んでもバレたくないし、学園の外かつ自分が優位な立場で帰還者に取材出来る手段を模索した結果、もうこれ家庭教師サイトで帰還者探すしかなくね? で、たまたまあなたを見つけて呼びました」
「そっかぁ、たまたま見つけちゃったかぁ」
一通り話を聞き終える頃、気付けば俺の顔は天井を向き両手は顔を覆っていた。今日の俺の顔は上向いたり下向いたり忙しいな全くよォ……
色々言いたい事はあるけども、取り敢えず動機がダメな人間過ぎるだろこの
「……一応聞くけど、魔法についての家庭教師に呼んだんだよね?」
「め、名目上は」
「そっちはいいの?」
「フッ……家庭教師付けたくらいで本当に成績跳ねてたら世話ないですよ」
何故だろう、自然と深い溜息が出た。心拍数も謎に高い。蒼音エミさん曰くこれが恋か。
……一応、時間が無いなりに教材や教え方なんかを調べてきたのに、求められてるのがまさか異世界の話
『指導内容は生徒からの指示に従うように』とは指示にあったが、流石に予想なんてしてねぇよこんな事態。クソ、異世界じゃないから油断してた、向こうだったらフラグ折れてねぇぞこんなんじゃ。
「……やっぱ、迷惑ですか?」
おずおずとそう聞いてくる頭痛の原因。まだ15歳の少女のその問いに対して、心が返したのは歪みの無いNOだった。
迷惑か否かで言えばそこは別に。準備の取り越し苦労だったり肩透かしだったりはあるけども……まぁ別に
時計で時間を確認させて貰う。早めに着きはしたけれど、既に授業の予定時間に突入していた。……ここでもし仮に帰ると言った場合、知らない子の家にただ雑談しに来ただけの人になるんすよね、自分。右も左も知らないエミを家に置いてきて。
……まあ、それは、駄目でしょ。
「……バイト代が出るなら、まぁ」
「──本当に!?」
だからこそそう答えて、用意されていたモノクロの座布団に座った。
これまでの表情から一変して、キラキラとした笑顔で顔をずいと近付けてくるざくろたそ。ガチ恋距離になって理解した、この子の青目ってカラコンじゃん。……異世界に毒され過ぎてんな、瞳の色をそんなものかと普通に受け入れてたの俺怖っ。
思わず虹彩を至近距離で凝視していると、この長いまつ毛もつけまつ毛なのだろうかとか、女の子だから化粧くらいするよなぁとか、取り留めの無いことを考えている。
自然と少女を観察していた。だからだろう、視界の端に見えた頬が次第に紅潮していくのを捉えられたのは。
やがてバッと勢いよく体を引いたざくろは、焦ったようにこう言い残してぱたぱたと冷蔵庫へ駆けていく。
「……あ! 飲み物、取ってくるね!」
「あ、うん」
……人の顔、不躾にじろじろと見過ぎたな。
****
「え!? じゃあ例えばCVくぎゅうのロリキャラとか居たの!?」
「ロリボのくぎゅうはいないけど、ショタボのくぎゅうならいたよ」
「は? 殺す」
管理局で職員さんに話してウケた話を取り敢えずしてみたところ、自己申告オタクなだけあってざくろの食いつきがかなり良い。
先の会話は俺の居た世界が原作ありきのゲーム或いはアニメの舞台で、声帯が凄く聞き覚えのあるものばかりという話から発展した物だ。
殺害予告までされちゃったよオイ、まぁ昨今レアだよねその配役。
「えぇ〜羨まし過ぎる……! 日常生活で声優の声帯の美男美女と会話出来る世界やばぁ……! あ!
「ごめん、僕そっち方面詳しくない」
「つっかえ!!!」
もうこれほぼほぼ雑談なんだけど。取材という
終始興奮しながら様々なことを聞いてくるざくろのネタ帳は、既に五分前から記載が止まっていた。話に熱くなりすぎて本来の目的忘れてません? 楽しそうで良かったね。
本心からキレてるざくろであるが、俺の声優さんへの認知は
アラン君は確かなイケボではあったけど……自分の声として常に聞いてるから脳がバグって比較対象も思い浮かべらんないんだよね。
「あと面白いネタだと……向こうって髪色に魔法の特性が反映されて、まぁ例えば名家の生まれとかめちゃ強い人とかは髪色がより鮮やかになるんだけどさ」
「それで?」
「髪に魔力が常に通ってるようなものだから、感情に合わせてアホ毛が動く」
「草」
「常に
「キャラ造形が余りにも行き届いている」
今でもあの日の記憶は鮮明だ。ワックスやらで固めたのとは明らかに質が違う、
……そういや久しく見てないな動くアホ毛。直近でカユラと関わってないし、エミには生えてないし。
「……あ、ねぇねぇ上城せんせ、せんせって向こうで彼女とか居なかったの? あ、ごめん、彼氏でも可」
「彼氏も彼女もいないけど、一応許嫁は居たよ。昔から破棄予定なのは伝えてたし、日本に帰る前に手続きは済ませてきたけど」
「え? 異世界転生って言ったら普通美少女ハーレム作るものなんじゃないの?」
「人様の体無理矢理乗っ取って恋愛とかまともな神経で出来るか。アラン君が穢れるだろ」
「よく分かんないけど思想強くない? え、でもじゃあ性欲とかどうしてたの?」
「凄いこと聞いてくるね君……向こうってガチもんのサキュバスが居てさ」
「あー、よくある異種族〇俗的なのでなんとかかんとか?」
「言い方。いや、あの子ら精力とかいう知らない謎エネルギーを魔力に変換して生きてる生命体だからさ、術式の構成研究して
「言ってること化け物なんだけど」
生活する上で邪魔なんだよ、性欲。
特にあの世界基本的に美少女か美人しかいねぇし、この魔法開発出来てなきゃエミと四六時中共同生活とかしてられるか。
当初は
「因みに汎用術式にして学会に提出したら、数ヶ月後くらいに夜を彩るための逆式が他の人の手で開発されたんだけど、そっちの方だけ一大ムーブになった挙句に何故か開発者が僕ってことにされて身内から干されたりもしたよ」
「………………ぐふっ」
「おい、笑うならちゃんと笑え。堪えようとした上で耐え切れず吹き出される方がダメージ食らうわ」
「ふふっ、あははははははっ! ひ、酷過ぎる……w 大変だったねぇ上城せんせ……w」
笑い過ぎて噎せ始めた少女に飲み物を勧め、俺も俺でくすりと笑う。
エミに話してもちんぷんかんぷんな日本人から見た異世界のツッコミどころを、こうして共有出来る人に話せるのは自分でも思った以上に楽しくて。過ぎる時の流れはあまりに早く、そしてそれに気付いているのは俺だけじゃ無い。
切り上げ時だなーと判断し、なんて事は無いようにその言葉を口にした。
「そろそろ時間だけど、参考になった?」
「うん! サイト暇があったら眺めてて本当に良かった!」
そういう割にはメモ取ってませんけど。後でちゃんと思い出して書けるのかなこの子……?
ともあれ、彼女の要求には可能な限り答えたつもりだ。大分打ち解けたと思うざくろへと、そう言えば気になっていたことをふと尋ねてみる、と……
「やっぱり珍しいの? お……僕みたいな帰還者って」
「ん? めっっっちゃ珍しいよ。絶対数が少ないっていうのは勿論だけど、大体の帰還組ってチートなりなんなりでゴリ押してきた人達だから、そもそも
「え、マジで?」
「オマケに変に自信家だったり距離感がバグってたり若過ぎたりするから、家庭教師を頼むにはぶっちゃけかなりハズレ寄り。正直私もインタビュー目的じゃなかったら上城せんせ選んでないし」
「マジで!?」
これには本心から驚いた。じゃああの即日マッチングって相当珍しいことだったんだなぁって………………待てよ?
(ん? じゃあこの子逃したら俺って家庭教師のバイト先見つからないのでは?)
……ざくろの語ったことを事実とした場合、俺の需要を考える。
魔能二級持ちではあるがこれといった指導実績は無く、異世界からの帰還組というのに加えて、肉体年齢はあまりにも若い15歳だ。この子みたいな
刹那、ざくろの過去の発言を思い出す。『フッ……家庭教師付けたくらいで本当に成績跳ねてたら世話ないですよ』等と吐き捨てていたが……なら俺がこの子の成績を簡単に爆盛りさせれば、少なくともざくろから切られることは無くなるんじゃね?
即座に思考がスタートを切った。
あまり面倒臭いのはダメだ。簡単に実演訴求出来てかつ効果が高い……要は
「……ざくろちゃん、ここの庭って認識阻害の結界張ってあるよね?」
「え? あ、うん、安めのやつだけど……なんで?」
安めとかあるんだ結界に。
大体自前で作ってたから考えたこともなかったが、そんな商売あるんだなぁ……じゃない、そんな雑考は後にしろ。
「いやなに、折角来たんだし、帰る前に一つ魔法のコツを教えていこうかなと」
──無責任にも言い放ったこの発言を後々死ぬ程後悔することになるなど、この時の俺は予想だにもしなかった。
「──はい先生! 理屈は分かりましたがやり方が分かりません! あと怖くてぶっちゃけやりたくないです!」
「でもこれ覚えれば簡単に成績跳ねるよ?」
「…………せんせ♡」
「今日はもう時間だから、知りたいなら次回も呼んでくれたら教えるね」
「唐突に魔法教えようとしたのそれが目的かよ! ……まぁいいけどさぁ!?」
授業自体は一瞬だった。
理屈を話して、実演して、危険度を伝えるために俺の腕を切り刻んで、治す。以上。
効果はまぁ覿面。ぷんすこ怒られながらも、俺は継続的な働き口を手に入れた! チョロくて助かる。
さて帰るかぁ……あ、宿題とか出した方がいいんだろうか? いや、何言ったとて一人でやらせるには危ないか?
「……ちょっとやり方強引過ぎない?」
「俺に家庭教師としての価値は低いって脅してきたの君だからね?」
「理由それ!? 別にこれからも定期的に呼ぶつもりだったけど!?」
「マジで? じゃあやっぱ簡単に魔法が上手くなる方法教えなくていい?」
「ごめんそれは教えて、本当にあるならちょっと話が違う……次いつ空いてる? てかDiscord入れてる?」
そこはLINEじゃないのかよ。まぁチョイスがこの子らしくて可愛いけども。
「入れてるけど今この場にスマホが無い」
「え? あなた現代人?」
「同居人に貸してるんだよ。異世界から持って帰ってきt──」
「生の異世界人!? え!? お
「ここまで嬉しくない女の子の家行きたい宣言初めて見た……」
「え!? どんな人!? 男の子? 女の子? 向こうでどんな関係だったの!? てかじゃあ今何させてるの!?」
好奇心全開な少女をどうどうと宥めようとするが、勢いに押されて塀まで追い詰められる。この子興奮すると距離感バグるよなぁ、さてはカプ厨だな貴様?
「あー……」
背に石肌の硬い感触。
視線を少し下げれば、そこにはマリンブルーの
なんか今日一の興味関心に見えるのがお兄さん悲しいよ、あと流石にちょっと離れてね? 今俺あんま魔法使えないから触れるの躊躇われるんですけれど。
「……女の子、向こうでの関係は幼馴染みたいな感じの相棒、今は初めて見せるアニメが決めきれてないから繋ぎに俺のプレイリスト聞いて貰ってる」
「は? つまり同棲じゃんえ゛っっっろ」
「いの一番に出る感想それでいいの君?」
可能な限り優しく肩を押し返しつつ簡潔に答えたところ、ざくろから返ってきたのはあまりにも性欲に塗れた感想。この子よくもまぁ異性に対して平気でえっっっろとか言えるよな? 次の授業はまず性魔変換魔法の式を教えよう。恥じらいを知れ。
「やばい、俄然わくわくが止まらなくなってきた。ねぇこれ一生のお願いなんだけど、アニメ初布教のタイミングが来たら私もその場に呼んでくれない? 最悪録画データの取り引きでも可!」
「初見の反応に飢え過ぎでしょオタクちゃん……気持ちは分からんでもないけどさ」
「だって異世界人が初めてアニメ見た反応なんて超絶希少コンテンツ面白いに決まってるじゃん!? え!? じゃあ逆にあっ……上城せんせ、は! 好きなアニメの同時視聴反応集とか見たこと無いの!?」
「いやあるけども」
寧ろ無いオタクの方が少ないだろそれ。……でもそうか、録画という手は盲点だった。あの子顔面最強だしアニメの同時視聴動画とか出したらワンチャン一山稼げたりするんだろうか? ……一旦要検討だな。
「でもそれで今スマホ持ってないのね……上城せんせのプレイリストかぁ──」
ざくろの呟きを耳が捉えて意識が現実に引き戻された。
授業が終わってから気付けば大分話し込んでいたようで、ちらと見えた彼女のスマホは、終了予定からもう10分を回っていた。
振り返ってみれば楽しい時間だったと断言出来る彼女との会話は、されど一先ず今日のところは終わりである。
生暖かい乾いた風が庭に吹き、風鈴のようにざくろの括られた黒髪が揺れる。
綺麗だなあとか、気の抜けた頭で呑気に思っていた俺は、続く彼女の言葉を聞いて……
「──偏見だけどプレイリストにラブソング無さそう」
「ごはっ……(吐血)」
死んだ。
備考:瑞希ざくろ①
実はこれまでに一つ、結構大きめの嘘をついている(まだバレてない)
備考:声帯
愛称で敢えて明言は避けてます
用語:プレイリストにラブソング無さそう
好きだったアニメやゲームの主題歌、キャラソン、推しのボカロPが挙げた新作を取り敢えずプレイリストにぶち込んだ以外で、プレイリストにラブソングが無いやつはニキ先生と握手しよう!