異世界から持ち帰った相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま) 作:ニキ/バハちゃん
趣味も一芸も特に無く、成績だって平々凡々。自己紹介に困るクセして短所なら幾らでも思い浮かぶ、よく居る一般人だった俺の日本での最後の記憶は、ゴールデンウィークが始まってつい浮かれて外出した場面。
「……本当に、日本だ」
気付いた時には異世界に意識だけ憑依転送されていて、やっとの思いで帰還した俺の目に映ったのは──赤い鳥居。
とうに桜が散っている緑咲く木々を囲いに、背後にはそれなりに立派な
歩きやすいよう慣らされた砂利を運動靴が鳴らすこの場所は、人気の無い寂れた神社の境内。
見覚えは……ギリギリある。最低限のパワースポットを検索した結果
「おっととっ……あれ? あんた見た目変わった!?」
「元々がこれだよ。アラン君の外見の方が借り物だから」
「……どうしよう、雰囲気は同じなのに
「だから自己評価低かったんだよ……本来こんなんなのに人の外見で評価されても受け入れられる訳ないだろ?」
そう言って安堵で思わず座り込む俺に「ふぅん?」と返すのは、傍から見たら何かのコスプレにしか見えない、ちょっと露出の激しい女の子。
虚空から俺と共に現れたその少女は、例えるなら神絵師のイラストからそのまま出てきたかのような美少女だ。
ぱっちりとした碧眼にすべすべの肌、可愛いと美人の中間にある圧倒的顔面偏差値に、デカい赤リボンでワンサイドアップに括った長い銀髪。
細く靱やかなモデル体型を惜しげも無く強調するのは、
「……建築様式的にもしかして目立つかしら?」
「日本にはコスプレっていう文化があるから多少の露出や髪色は見て見ぬふりされると思うよ」
「ねぇ? さも人に露出癖があるかのような言い方やめれる? これ普通に学園の制服なんですけど?」
「向こうの常識じゃ誰一人疑問を呈さなかったから言わなかったけど、この世界基準だとその改造制服は痴女だよエミ」
「は!?」
「魔法の知識が無い人から見たらどれだけ術式編み込んでても"うわぁこの人ファッションやば"にしかならないし、見た目で服選ばないと危ないぞ」
「なんで異世界に来て最初に教えられる知識がコレなの? もっとこう他に……なんというか……ワクワクするやつ無いの???」
天気は快晴、空気も良好。コートを着るにしても適さない気温に嫌そうな顔をしながら、手持ちのバックに手を突っ込んで何かを探し始める少女──エミ。
「──これなら浮かない?」
「目立ちはするけど大丈夫そう」
「そ」
言うが早いか刹那に魔法が構築され、エミの姿が
……なんというか、ゴソゴソと隣から衣擦れの音だけ聞こえるのが妙にエロい。見た目上何も居ないのが無駄に想像力働かせて火力上げてるし……相も変わらず青少年の教育に悪いムーブしかしないね君。
暫くして……
「じゃーん! どう?」
「すげぇ、まるで清楚なお嬢様みたいだ」
「……私から一番程遠い概念ねそれ」
まぁあなた在野に生えてた
虚空から着替え終わったエミがバック片手に現れる。
見慣れた私服に今更心が揺れることは無いが、相変わらず恐ろしいまでに美少女である。
「……急に見つめてきてどったの?」
「んー……ちょっと立ってみて。……違う、シャキッと立て」
薄水色の瞳が頭上からつむじを覗いている。
言われるがままいい加減起き上がれば、唐突に両肩を掴まれて超至近距離で目と目が合う。
鼻腔をくすぐるシトラス。30cmもない距離から耳を撫でるナチュラルボーンな
「……急に何?」
おすまし顔で俺の顔──というか頭──を色んな角度から確認すれば、やがて表情が"にまぁ"と小悪魔のような笑みへと変わる。
何事かとつっこむ寸前。耳元に急に顔を寄せて囁くように、一言。
「──身長、今は私の方が高いわね?」
今ここに絶対にコイツの身長を抜くことを決意した。
「猫背だから……! 猫背のせいでそう見えただけだからな!?」
「そう言えば
「うきうきしよってからにコイツ……」
語尾に音符が着いてそうな喋り方しやがって……クソ、目線がいつもより確かに低い! 背筋も意識しないと伸びないし、異世界から帰還して最初のギャップが
「……てか4月ってこんな暑かったっけ?」
「四季、こっちもあるの?」
「暦上じゃ3月から5月までが春、6月からが夏。これからどんどん気温が上がってくぞ、やったなエミ」
「……聞かなかったことにするわ」
完全にうろ覚えの街並みに反し、手馴れた操作で開いたスマホのマップに従い
液晶が示す日時は4月26日の土曜日。転移した日から(恐らく)ズレは無いが、既に照り付ける日差しが既に暑いのはどういうことか。
春の終わり際に吹く風は異世界に比べて余りにも生温く、じんじんしてきた足から気を逸らそうと見回した視界の端に自販機を見つけた。
……あっ交通IC対応してる。って……っ!?
「うわアク〇リアス
「えっ急に何? 今日一声出るようなことなのこれ?」
「長年水と牛乳と果汁ジュースと紅茶しか飲めなかった現代人の清涼飲料水への飢えを舐めるなよ……? えっ何にしよう全部飲みたい、エミいるし全部買うか」
「飲む? この箱飲み物入ってんの?」
「自動販売機、お金払ってサンプルにある物が買える機械だよ……そして物によっては会計がコレで出来る!」
言いながらスマホを翳してタッチ決済。ガコン! と鳴る音にビクッとしたエミとは対照的に、わくわくしながら取り出し口へ無造作に手を突っ込んだ俺が掴んだ物は……天然水とも違う、少しだけグレーがかった透明色……!
「本当に払えた!?」
「本当に出てきた!」
キャップを刹那に吹き飛ばし呷った液体は……ああ……! なんとも言え無いこの甘さと清涼感は、間違い無くあの懐かしき飲むクエン酸……!
実感がまだイマイチ湧いてなかったけど……けれど! そうだ俺は、本当に俺は日本に帰ってきたんだッ……!
「色微妙だけど、美味しいのそれ……?」
「俺は好き。でも多分エミはこっちの方が好きそう」
「えぇ? 何これ見た目薄めた牛乳じゃんコレ……あっこう開けるのね…………
速報、俺の連れて来た異世界人が最初に美味いと言った地球の物体、カ〇ピス。
……こういうのってもっと他に相応しい食べ物があっただろと思わなくは無いけど、どうせ誰が食べても美味いって言われるハンバーグなりカツ丼なりよか、カ〇ピス飲んで目をキラキラさせてる異世界人の方が見て達成感がある気がする。希少性と意外性という意味で。
「……あー。私、異世界に来たんだなぁ……」
「今?」
「異世界の飲食物実際に体に取り込んで、なんか急速に実感湧いてきた」
「実感するタイミング俺と全く同じじゃん」
「湧くタイミングこれで本当に合ってる?」
「多分違うんじゃないスかね」
「……考えられてるわね、真横にあるわ」
言いながら秒で飲み終えたボトルを自販機横のゴミ箱に放り、それに倣って所在無さげにボトルを握っていたエミも捨てる。視点と感想が異世界人で少し感動。
「ね! それどんな味?」
「ん」
真上から見下ろす太陽から隠れるように、影伸ばす塀に二人で凭れている。
そよ風が運ぶのは俺の記憶の彼方に行ってしまったアスファルトとうだつ夏の生温い
蓋の空いた肌色の乳酸菌飲料を秒で飲み干す親友の表情は喜色満面極まりなく、味についてなぞ聞くまでもない。
「幸せ?」
「幸せ!」
なら頑張ってあなたを持ち帰ってきた甲斐があったよ。
備考:身長差
新君は男子にしては低め
エミは女子にしては高め
現状は少し新君の方が低いです(160前後)