異世界から持ち帰ってきた相棒をオタク沼に落とそうと思う(いせぬま)   作:ニキ/バハちゃん

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これは新とエミを見る小説だからなぁ!(大声)


1-3-A2:主人公の過去回想なんて短くさっさと消化し ろ

「あの……アラ゛ッ……た君って、お母さんと仲悪いんじゃないの?」

「……うん?」

 

 キッチンからそろ〜っと顔を覗かせ、不思議なことを聞いてくるエミ。咄嗟に俺の呼び方をアラン(・・・)じゃなく(アラタ)に変える辺り、賢い子だよなぁ。

 香ばしい匂いが彼女の後ろからするのは何かしらを作り終えたからなのだろう。手が空いたから様子を伺いに来て、俺と未遥さんのやり取りを隠れて聞いていた感じかな?

 さておき、言われたことについて素直に考えてみるが……仲が悪い? いやまぁ、広義の意味ではそうなのか?

 微妙な立ち位置であるのはそうなんだけど、なんでそんな質問を唐突に?

 

「だって、敢えて話そうとするの避けてたし、今も話し方がよそよそしいし……その、仲が悪いんじゃないかって思ってたんだけど……」

「「あー……」」

 

 ……思い返してみれば、俺はエミに自分の両親について話すのを避けていた。

 帰還当日でさえ煙に巻く姿を見せ、久しぶりに再会してみれば母に対して『未遥さん』と呼び敬語で話す俺は、エミにはさぞかし異様な光景として映ったのだろう。

 彼女の立場になって想像してみるが……ああこりゃびっくりするくらいの地獄だな!? 異世界で唯一頼れる俺(子供)が親と不仲かもしれなくて、その状況で自分一人で俺の親と私服で初エンカだろ? てっきり友達の親の前では緊張するタイプなんだぁとか思ってたけど、エミ視点こんな極限状態だったのかよ!? そら青い顔で震えもするわ。

 

「……あ、そう言えば自己紹介がまだだったわ。改めてどうもはじめまして、上城未遥です。異世界? の方では息子がお世話になりました」

「い、いえいえこちらこそ!? えっと、こっちこそ挨拶が遅れてしまってごめんなさい、あ……蒼音、エミと言います」

「ならエミちゃんって呼ばせて貰うけど……簡単に言うとね? 私、正確には新くんの叔母さんなの」

「……へ?」

「俺の母の双子の姉、両親が他界してからお世話になってる」

「うん、保護者してます」

 

 血で言えば三親等にあたる。ただ双子だったのに加えて俺が母似に成長したからか、人生この方それで困ったことは記憶に無い。

 よそよそしい態度も理由は極めてシンプル、御厄介の身になっといて素直にこの人を母と呼べるメンタルを俺がしてないからだ。

 

「もう少し砕けてもいいと思うんだけどね〜?」

「……後は単に、エミ連れてどんな顔して会えば分かんなかったから見て見ぬふりして逃げてただけ」

「子供らしくて可愛いね〜?」

 

 気恥ずかしさも多分に含む言い捨てを愉快そうにからかってくる未遥さん。その様を目をぱちくりさせて咀嚼していたエミはやがて、へなへなへな〜と肩から足まで全身の力が抜け、とさっとその場に魂が抜けたかのように崩れ落ちる。

 

「良かっ゛、たぁ〜………………死ぬ程仲が悪かったらどうしようとか、私のせいでもっと険悪になったらどうしようとか……こっちでも辛い目に遭ってるアランが居なくて、本当に……」

 

 万感の思いが込められた心情を、うわ言のように吐露するエミ。不安から解放された時特有の気の抜け具合で語っているが、真っ先に出てきた安堵の理由が全て俺についてなの恥ずかしいからやめない? ねぇほら未遥さん凄い顔でにやにやしてこっち見てるからさ?

 

 ……暫くして再起したエミは、母来訪当初に比べればかなりリラックスした状態で俺の隣に腰つけた。緊張がかなり薄れた彼女はいつもの意思の強い瞳でもって、先の会話の中で気になっていたんだろうことを俺達に聞いてきた。

 

「……そういえばサラッと流されたけど、あらた君の両親って、その……」

 

 ……まぁ当然の問いだろう。そしてこれだけ上城家の事情に気を揉んだ彼女は、当然聞く権利はあるのだろう。

 はてさて、本当にどう答えたものか? ちらと対面の顔を伺うが、そこにあるのは"時間はあった筈なのに何で話してないんだテメェ"と言わんばかりの呆れ顔。

 いや仰りたいことは分かりますよ? でも面白くも無い身の上話って態々する程の物じゃないじゃん。特にこの子の場合、話したら絶対面倒臭いことになりそうだったし……

 

「やっぱり説明してなかったの?」

「……エミの両親、モンスターの暴走で亡くなっててね」

「よし、ご飯にしましょう♪ エミちゃん料理は何作ってたの?」

「どんな変わり身の早さ!?」

 

 やぶ蛇だったわとばかりに瞬時に転身する未遥さん。端的な説明で即座に意図を汲んでくれる我が母のなんと心強いことか。

 そう、だから話してなかったんですよ。あなたに雑に会いたくなかった理由の一つでもあるしそれ。

 

「そんなにヤバいこと聞いたの私!? あと私の両親が死んでたらなんなの!?」

「聞いたら後悔はすると思う」

「エミちゃんには多分劇薬じゃないかなぁ……それでも聞きたい?」

「……ここまで勿体ぶられたら流石に聞かないと気が済みません」

「「だよねぇ……」」

 

 特殊かそうでないかと言えば特殊だ。

 ただ、それが日々を絶望に堕とすようなものかと聞かれれば否定するし、酷い目に遭ったとは語れても、自分より酷い人生を送る人なんて幾らでもいるだろう、知る必要の無いそんな過去話。

 

「……まぁ端的に言うと、虐待されてたのよこの子」

 

 溜息を一つついた後、未遥さんはそうやって先に結論を述べてから語り始めた。

 

 

 ****

 

 

 元はと言えば仲は良かったのよ。

 新君の両親はお父さん側の猛烈なアタックで結ばれてね? 私の妹との結婚生活は、それはもう見てる側が胸焼けを起こすくらいにはラブラブだったわ。

 そんな中出来た自分達の子供に対して、二人はあらん限りの愛情を注いで育てたの。

 新君が生まれてから暫くして私も子供を設けたんだけど、同時期に生まれたってことでウチとお互い支え合って子育てしてて……転機が訪れたのは新君が小学校に上がったくらい……あぁごめん、7歳くらいの頃だったかな。

 お母さん()が入院することになったの。

 元々体が弱い方ではあったんだけど、育児と仕事を両立しようと頑張ってね、ある時体調が一気に崩れて……エミちゃんの知らないとある病気になった後に、長い闘病生活を経て……亡くなったわ。

 そこまでは良いのよ。いや全然全くこれっぽっちも良くは無いけど、問題はこの後。お父さんが狂ったの。

 妹に惚れ込んで猛アピールをかますくらい奥さんへの愛が深かった彼は、自分達というか嫁の子供というレンズで新君を愛しててね、入院中も精神が不安定になりがちではあったけど、妹の死で心が壊れた。

 可愛さ余って憎さ百倍。新君(子供)を作らなければ妹は生きていたんじゃないかって考えに支配された彼は愛憎が反転した結果、何もかも忘れたいから酒に溺れて、存在が許せないから暴力を振るって、やるせなさの捌け口として罵詈雑言を浴びせたわ。

 その頃は私もかなり子育てで忙しくて、新君が今どんなことになってるのか、気付くのがかなり遅れたわ。

 知ってからは何度かウチで無理矢理預かったりしたんだけど、その度に新君は大丈夫です、迷惑はかけられませんって笑って家に帰ろうとするの。青あざ付けた死んだ目で。

 流石に私がブチ切れて問答無用で児童相談所に連絡した数日後、見事彼のお父さんは逮捕されたんだけど……その更に数日後に獄中で自殺したって連絡が来てねー。

 遺産相続やら生命保険やら、その他諸々の手続きを私がして……それで私がこの子を正式に引き取ったの。

 

 

 ****

 

 

「触りしか知らない同級生や近所の人に犯罪者の子供だの親殺しだの言われるのも可哀想だし、遺産でまとまったお金はあるし、新君もまだウチに居るのは気まずいみたいだし。誰も彼を知らない高校に進学させたろーって思って、それで今この子は一人暮らしをしてる訳です」

 

 改めて人の口から聞くと酷ぇ過去だけど、ぶっちゃけこの程度の話現代だと普通に聞く範疇だよなぁ……と、冷めた感情で黙ってた俺とは対照的に、横に座って同じく黙って聞いていた少女は然し、熱い体温でもって俺の腹辺りに顔を埋め抱きしめてきた。

 

「……悲しくなるだけだし、聞くだけ無駄だったろ?」

「無駄じゃない!!!……無駄じゃない、わよ……」

 

 強い否定の言葉と同時に、ぐえと声が漏れる程強く両手に背中をホールドされる。すんすんと鼻を鳴らし、決して離さないとばかりに顔を押し付けてくる様は、まるで帰還二日目に俺がしたじゃれ方に見た目だけは酷似している。

 顔を下げればつむじが見えた。久々に見た気がするな、アラン君と違って今身長無いし。

 ……もう大分前の話だし今更思うことは無いのだが、感受性豊かでアラン君の人生(・・・・・・・)を知り、『沢山の愛を注いでくれた』と語る両親を天災(モンスター)に引き裂かれた彼女には、この平凡な悲劇は聞くに絶えない物だったらしい。

 

「随分と好かれてるのねぇ?」

 

 未遥さんが意味深な目でそんなことを言ってくる。否定はしない、てか出来ない。ただ流石にこの絵面は恥ずかしい。

 ぽんぽんと丁度いい位置にあるエミの頭を慰めがてら撫でながら、やんわりと拘束を剥がしにかかる。……が、これがビクともしない!? ちょっ力強っ!? ねぇごめん一回離してくれる!?

 

「エミさんやエミさんや、未遥さんがニマニマしながら見てるから一回離れてくれません?」

「やだ」

「このままだとあなたが俺の事滅茶苦茶好きで好きで堪らない、好きピ(はぁと)の悲しい過去聞かされた感情激重ヒロインちゃんと誤解されますけど?」

「だる」

「そう言うならなんで締め付け強くしてくるんだよ……!」

 

 中々キモイ言い方したってのにそれでも離しやがらねぇ! ああもう分かったからせめて力だけ弱めてくれ体が貧弱過ぎて痛い痛い痛い痛い……!?

 

 "グゥ〜……"

 

「ほら! お腹鳴ってるから! お腹空いたから離してくれない!?」

「むり」

「無理じゃないですけど!? ……ッ! ああもう分かったから! せめて力は緩めてくれ! 背骨が痛いんだよ!」

「ざこ」

「この女……っ!」

 

 クスクスと笑い声が聞こえた。前を向けば未遥さんが微笑ましい物を見るように笑っている。いや助けろよ? 息子が困ってんねんぞ? この子もこの子で羞恥心無いの? なんで俺だけ恥ずかしい思いしてんの今? 理不尽だ!

 

「良い子、異世界で捕まえてきたじゃない?」

「たった今捕まってるのは俺ですけど?」

「それだけ愛されてる証拠です。……心配で見に来たけど、エミちゃんみたいな恋人が新君の傍にいるなら大丈夫かぁ。学生の内からの同棲は少しどうかと思うけど、"ライン"だけは見極めなさいよ?」

「"ライン"……? あー……」

 

 ひっつき虫(エミ)と格闘する俺を置いて立ち上がり、そう言ってキッチンの方へ向かう未遥さん。

 恐らく動けない俺達の代わりにご飯の用意をしてくれるつもりなんだろうが……然し、然しながら、その前に一つ。俺には彼女の言葉に対して、どうしても否定しなければいけないことがある。

 押し殺された含み笑いと、本心から来る憂慮。

 ラインが指す事柄については深く考えたくはないが、それを産んだであろう誤解に対して安心させるために(問題無い杞憂であると)、未だ離れないエミの頭を呆れつつも撫でながら、我が母のために反射的にこう返す。

 

 

 

「そこについては大丈夫です、俺達別に付き合ってないので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は???」

 

 

 

 今日一デカイ声だった。




──第三者、投入
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